東燃ゼネラル石油和歌山工場潤滑油製造プラントの火災
(写真はSankei.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、和歌山県有田市にある東燃ゼネラル石油の和歌山工場である。和歌山工場は敷地面積約248万平方メートルで、製油所精製能力は132,000バレル/日である。
■ 発災があったのは、和歌山工場の潤滑油製造プラントの第2プロパン脱ろう装置の前処理装置である第2潤滑油抽出水添精製装置である。第2潤滑油抽出水添精製装置は、第2溶剤抽出装置と水素化精製装置の2つから構成され、脱歴油から抽出油を抜き出し、水添精製を行った後、第2プロパン脱ろう装置へ原料を供給する。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラント付近(火災前)
(写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年1月22日(日)午後3時40分頃、潤滑油製造プラントの第2潤滑油抽出水添精製装置で火災が起った。プラントからは激しく炎が上がり、周囲に黒煙が立ち込めた。火災の勢いが収まらず、爆発の可能性があるとして、1月22日(日)午後5時20分、火災現場に近い初島地区の住民に対して避難指示が出された。
■ 事故直後には、第2プロパン脱ろう装置で発災し、第2潤滑油抽出水添精製装置付近へ延焼したと報じられた。しかし、2月28日(火)、東燃ゼネラル石油は、第2溶剤抽出装置と水素化精製装置の2つから構成される第2潤滑油抽出水添精製装置においてガスが漏洩して着火したと発表した。
■ 火災は発災から約40時間余を経過した1月24日(火)午前8時27分に鎮火した。事故の状況については「東燃ゼネラル和歌山工場の潤滑油製造プラントの火災」を参照。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造工程と着火エリア
(図はTonengeneral.co.jpから引用)
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被 害
■ 第2潤滑油抽出水添精製装置(第2溶剤抽出装置と水素化精製装置)の内液が焼失し、関連設備が焼損した。被災面積は850平方メートルを超えた。
■ 事故に伴う負傷者はいなかった。地元住民約2,986人を対象に避難指示が出された。(報道によると、避難所に避難した人数は約570人だったという)
< 事故の原因 >
■ 東燃ゼネラル石油は、2月28日(火)、プラント火災の原因について中間報告を発表した。
それによると、第2潤滑油抽出水添精製装置の高圧パージガス系配管からガスが漏洩して着火したとみられる。事故の調査では、配管に12箇所の開口部とフランジ不具合1箇所があり、これらのいずれかの箇所からガスが漏洩したとみられる。
■ 中間報告では、直接原因・間接要因についてつぎのように述べられている。
直接原因
● 現場検証や運転記録
(運転データ、アラーム履歴、関係者証言等) を調査した結果、第2潤滑油抽出水添精製装置の高圧パージガス系から最初にガスが漏洩して着火した可能性がある。
● 放射線透過検査による肉厚確認、配管の切り出しによる切断面検査、配管内堆積物の成分分析等から判明した事実から、見つかった12
箇所の開口部と1箇所のフランジ不具合部が、最初のガス漏洩箇所の可能性がある。
間接要因
● 発災の起点となったガス漏洩箇所を特定した上で、運転管理、設備管理、設計管理の観点から間接要因を絞り込む。
● 発災エリア内で想定される設備不具合要因を網羅的に洗い出し、事故への寄与の有無の検証を行う。
< 対 応 >
■ 東燃ゼネラル石油は、2月28日の中間報告で今後の対応(予定)について、つぎのように述べている。
● 今後、発災の起点となったガス漏洩箇所の特定のアプローチとして、冶金学的、化学的な痕跡調査を実施し、最初の発災箇所と二次的な被災箇所の区別を行い、開口に至った原因と着火メカニズムを特定する。
● 発災の起点となったガス漏洩箇所を特定した上で、運転管理、設備管理、設計管理の観点から間接要因を絞り込み、再発防止対策を立案するとともに安全管理体制について確認し、最終報告書でまとめる。
● 情報公開体制および住民避難のあり方についての再点検を行う。
■ 毎日新聞(地方版)では、3月1日付け「配管に穴や接続不良 東燃、中間報告」という見出しで、つぎのように報じている。
「火元とみられる潤滑油を精製する装置で、鉄製配管に穴12箇所と継ぎ目の接続不良1箇所が見つかり、このどれかから高圧ガスが漏れて発火した可能性があるという。穴や接続不良が見つかったのは、当初火元とみられていたガスから水分を分離する部分ではなく、重油から潤滑油を抽出したり、硫黄を分離したりする部分の配管(直径約10cm)だった。老朽化の可能性が考えられるが、2014年秋の定期点検時には異常はなかったという。発火当時、周囲には従業員はいなかった」
■ 和歌山放送ニュースでは、2月28日付け「東燃ゼネラル火災、配管に亀裂みつかる」という見出しで、つぎのように報じている。
「不具合が見つかったのは、火災が起きたプラント内にあり、潤滑油を精製する際に生じるガスを通すための配管である。亀裂などが12箇所あったほか、配管の接続部分1箇所にも不具合があったという。事故当日の巡回では確認できなかったという」
■ 和歌山県は、3月7日(火)、東燃ゼネラル石油和歌山工場に立ち入り調査を行った。火災現場の調査はこれまで警察や消防などが行っていた。今回、和歌山県は、火災が発生した潤滑油製造装置とそれ以外のすべての高圧ガス施設について、保安検査記録や運転記録などの管理状況を書面で調べるほか、残った施設でガス漏れが発生していないかなどを確認する予定で、1週間程度かけて行うという。
補 足
■ 「和歌山県」は、近畿地方にあり、紀伊半島の西側に位置し、人口約95万人の県である。「有田市」(ありだ市)は、和歌山県中部に位置し、人口約30,000人の市である。
■ 「東燃ゼネラル石油」は、2000年に東燃とゼネラル石油が合併してできた石油精製・石油化学の会社である。川崎、和歌山、堺、千葉(市原)に工場がある。
「和歌山工場」は、軍用航空揮発油・潤滑油を製造する国策会社(東亜燃料)として1941年に操業を開始した歴史のある製油所である。1945年の空襲で壊滅したが、1950年に操業を再開した。精製能力は170,000バレル/日だったが、現在は132,000バレル/日である。
■ 東燃ゼネラル石油のウェブサイトによると、和歌山工場の潤滑油製造プラントは「潤滑油接触脱ろう装置」(1,500バーレル/日)×1基、「潤滑油水添改質装置」(2,200バーレル/日)×1基となっている。
一方、2月28日に東燃ゼネラル石油から発表された潤滑油製造プラントの製造工程図をみると、実際にはもっと複雑な装置構成になっている。一般に、潤滑油(ベースオイル)は、減圧蒸留装置の減圧軽油を原料として脱ろう装置にかけて製造される。さらに、東燃ゼネラル石油和歌山工場では、減圧残渣も潤滑油の原料としている。減圧残渣を「プロパン脱歴装置」にかけて出てきた脱歴油を原料にしている。「プロパン脱歴装置」は、減圧残油を加圧下で溶剤として液体プロパンを用いて処理し,残油中のアスファルト質や樹脂状物質を除去して、潤滑油原料を生産する装置である。
今回、発災したのは、この脱歴油を「第2プロパン脱ろう装置」にかける前に、前処理を行う「第2潤滑油抽出水添精製装置」(第2溶剤抽出装置と水素化精製装置)で起こっている。漏洩のあった呼び径4インチとみられる「高圧パージガス系配管」の流体名や役割は分からない。
■ 減圧残渣の「溶剤脱歴装置」は、元来、重油を削減する目的が主で、脱歴油は潤滑油製造に活用されており、国内の製油所には6箇所ある。潤滑油を製造している各製油所の溶剤脱歴装置、溶剤脱ろう装置、溶剤抽出装置、水素化精製装置、接触脱ろう装置の能力は「製油所装置能力・装置別潤滑油精製設備一覧」を参照。東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラントは国内で最も充実した製造装置群を有している。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラントの能力
(図はTonengeneral.co.jpから引用し、能力を付記)
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所 感
■ 火災の原因は配管からのガス漏洩が最初のきっかけとみられ、配管管理の問題だと思われる。この種の事故では、つぎのような事項が焦点になるだろう。
● 配管の肉厚測定の定点が妥当だったか。
(例えば、異種流体の合流箇所付近や配管分岐の偏流などによる特異な腐食・侵食の状況を的確に定点として定めていたか)
● 当初の運転条件と異なる厳しい運転条件に変更した際の変更管理は妥当だったか。
(例えば、油(脱歴油)の収率を上げるため、条件を変更し、腐食・侵食の環境条件が厳しくなることへの対応策がとられたか)
● 配管管理の組織体制は、熟練した経験者が引退していく中で、うまく引き継ぎが行われたか。
火災の直接原因・間接要因には、配管管理に関する普遍的な「失敗」あるいは「盲点」があるように思う。原因調査結果が公表されることを期待したい。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Tonengeneral.co.jp, 和歌山工場での火災に関する事故調査委員会の中間報告について, February 28, 2017
・Mainichi.jp, 配管に穴や接続不良 東燃、中間報告, March 01,
2017
・Wbs.co.jp, 東燃ゼネラル火災、配管に亀裂みつかる, February 28, 2017,
・Wbs.co.jp, 東燃ゼネラル和歌山工場火災で和県が立ち入り調査, March 07,
2017
後 記: 前回の後記でも述べましたが、潤滑油製造プラントのドラムが発災元という情報があり、広義にいえばタンクの範ちゅうなので、事故情報を集めて紹介しました。発災事業所は原因を公開すると語っていましたが、少し不安もありました。しかし、早くも中間報告が公表されました。結局、発災元は配管のようですが、続報としてまとめました。ただ、消防活動状況も知りたいと思っていましたが、この点の情報公開は期待できそうにないようですね。
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