■ 発災施設は、米国カリフォルニア州ロサンジェルス郡(Los
Angeles County)カーソン(Carson)にあるテソロ社(Tesoro
Inc.)のロサンジェルス製油所である。
■ テソロ社ロサンジェルス製油所は38万バレル/日の精製能力を有する大型製油所である。発災のあったのは、製油所のプラント内にある硫黄タンクである。
ロサンジェルス郡カーソン付近 (写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年8月26日(金)午後1時頃、ロサンジェルス製油所にある硫黄タンクで爆発が起った。
■ 発災に伴い、製油所の自衛消防隊が対応に出動した。ロサンジェルス郡消防署に製油所からの緊急連絡が入ったのは、8月26日(金)午後1時20分頃で、消防隊とハズマット隊(HazMat)がただちに出動した。
■ 爆発によってタンク屋根に裂け目ができ、そこから大気へ硫黄ベーパー(二酸化硫黄と硫化水素)が放出された。タンクの保温材の箇所から火災も発生したが、すぐに火は消された。製油所では、タンクから立ち昇る“水蒸気プリューム”を止めるための作業に努めた。
■ 事故に伴う死傷者は出なかった。
■ ロサンジェルス郡保安官事務所は、施設から1/4マイル(400m)以内に住む市民に避難勧告を出した。
製油所前を通るアラメダ通りの一部区間が数時間にわたって閉鎖された。避難勧告によって4つの会社が操業への影響を受けた。
■ プラント近くに住む市民からは懸念の声が聞かれた。近所に住む主婦のひとりは、「小さな子供がいるので、ぜんそくや大気汚染などの問題は非常に心配しています」と語っている。
■ 8月26日(金)午後6時に避難勧告は解除された。交通遮断されていたアラメダ通りの閉鎖も午後7時に解除された。
■ 製油所は大気質のモニタリングを行い、大気へ放出された化学物質のレベルは住民への重大な毒性を有するものでないと、テソロ製油所は発表した。また、避難勧告は予防措置として出されたものだと、郡当局は発表した。
■ 空撮によるビデオ映像を見ると、タンクまわりの地面上には破片が散乱しており、事故の激しさを示している。
被害
■ 硫黄タンク1基が爆発によって屋根の一部と保温材を損傷した。このほかに被災した設備はないとみられる。
■ 事故に伴う死傷者は出なかった。地元の住民に避難勧告が出されたほか、製油所構外の公道が、一時、交通遮断で閉鎖された。
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 発災に伴い、製油所の自衛消防隊が対応に出動したほか、ロサンジェルス郡消防署の消防隊とハズマット隊(HazMat)が出動して対応した。爆発後にタンクの保温材の箇所から火災も発生したが、すぐに消された。
■ サウス・コースト大気質管理部は発災場所まわりの空気質のモニタリングを実施した。有毒化学物質の有害レベルは確認されていないと、当局は語った。
■ テソロ社ロサンジェルス製油所は、発災のあったタンクを除いて通常どおり操業している。
発災プラント(白煙箇所) (写真はKTLA.comから引用)
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発災タンク(白煙箇所) (写真はKTLA.comから引用)
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消防活動 (写真はABC7.com の動画から引用)
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消防活動 (写真はFoxla.com の動画から引用)
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交通遮断 (写真はDalybreeze.com から引用)
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補 足
■ 「カリフォルニア州」は、米国西部の太平洋岸に位置する州で、人口約3,880万人である。州都はサクラメントである。
「ロサンゼルス郡」(Los
Angeles County)は、カリフォルニア州の南部に位置し、郡都であるロサンゼルス市があり、人口約990万人の郡である。
「カーソン」(Carson)は、ロサンゼルス郡の南に位置し、ロサンゼルス市街地から南へ21㎞のところにある人口約92,000人の都市である。
■ 「テソロ社」(Tesoro
Inc.)は、1968年に設立され、当初は原油掘削と生産を行ってきたが、1990年代から主に米国西部において石油精製・販売事業にも進出してきた石油会社である。テキサス州サンアントニオを本部にして、現在は7つの製油所(精製能力89.5万バレル/日)と約600の販売店を所有し、約6,000名の従業員を擁している。
テソロ社は、2013年にBP社からカーソン製油所とARCOブランドを買収した。現在、カーソンとウィルミントンにある2つの製油所を統合したロサンジェルス製油所36万バレル/日の精製能力を有するほか、1920年代に創業されたプラントの近代化への改造投資を行っている。
■ 発災のあったプラント名は明示されていないが、硫黄回収装置と思われ、発災タンクは溶融硫黄の貯蔵タンクとみられる。(硫黄回収プロセスの例は下図を参照)
グーグルマップによると、発災タンクの直径は約16mであり、高さを8mとすれば、容量1,500KL級のコーンルーフ式タンクと思われる。隣接タンクも同じ大きさと見られるが、発災タンクでは屋根に補強用のリブ材が設けられている。事故前のグーグルマップでは、この補強用リブ材は無く、なんらかの理由(例えば、屋根の減肉の仮補修など)で追加設置されたものである。この屋根構造によって爆発時に屋根の一部に裂け目ができただけにとどまったと思われる。しかし、屋根の強度が高すぎると、タンクのアップリフトで底板と側板の接続部が破断して、内部溶融硫黄の大量流出につながる可能性がある。(リブ材は屋根と側板の溶接部を避けているので、一応、放爆は考慮されていると思われるが、応力解析までしたかはわからない)
硫黄回収プロセスの例 (図はChemeng.in.coocan.jp から引用)
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発災時(左)と発災前(右)のタンク屋根の比較
(写真は左:
KTLA.com 、右:GoogleMapから引用)
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■ 硫黄タンクの事故はつぎのような事例がある。
● 1991年3月、「溶融硫黄貯蔵タンクの液面計補修準備中、硫化水素爆発火災」
(本事例についてはPEC SAFER 事故事例WEBラーニング「溶融硫黄タンク爆発事例」を参照。
また、失敗知識データーベース「溶融硫黄屋外タンクの開放時の硫化鉄の着火による火災」も参照)
なお、2014年6月に硫黄回収装置が爆発して、近くの貯蔵タンクに延焼した事例「中国南京市の製油所装置の爆発によって貯蔵タンクへ延焼」がある。
■ 「ハズマット隊」(HazMat: Hazardous
Materials Response Team)は、消防署の中で危険性物質(
Hazardous Materials)を取扱うために編成された特別なチームで、化学、生物、放射能および爆発混合物の事故の対応を行う。最近は、日本でもハズマット隊を編成する消防署が出ている。
なお、このブログで紹介したハズマット隊の対応事故はつぎのような事例がある。
● 2012年11月、「米国カリフォルニア州ロサンジェルス市街地で原油漏洩」
● 2013年1月、「米国ルイジアナ州でクリスマスに落雷によるタンク火災」
所 感
■ 今回の爆発事故は、硫黄タンクで最も注意しなければならない硫化鉄および硫化水素が関係しているのは間違いないであろう。
原因は調査中であるが、気になる点は発災タンクの屋根に補強用リブ材を施されていることである。これが、事故の原因を誘引したことも考えられる。例えば、屋根の減肉を補完するためのものであれば、屋根板が相当腐食して開口や隙間ができていただろう。この隙間から空気が流入して、内部で生成していた硫化鉄が発熱し、硫化水素に引火した可能性もある。
■ 一歩間違えれば、硫黄の大量漏洩になった可能性もあるように思う。負傷者がなく、住民への健康被害もなく、設備への被災も最小だったのは、幸いだった。このため、原因調査の結果は埋もれてしまうのではないかと危惧する。長期運転で経年劣化した設備に関する懸念事項は他社でも共通の悩みである。失敗を繰り返さないよう知見を公表されることを期待したい。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・KTLA.com,
Rupture in Sulfur Tank Prompts
Shelter-in-Place Order around Tesoro Refinery,
August 26, 2016
・ABC7.com,
Sulfur-Tank Breach at Carson Refinery Triggers Shelter-in-Place
Order, August
26, 2016
・Foxla.com, Explosion at Tesoro Refinery in Carson, No
Injuries, August
26, 2016
・Latimes.com, Tank
at Tesoro Refinery in Carson Blows Lid and Catches Fire, August 26, 2016
・Dailybreeze.com, Tesoro Refinery Explosion, Fire Prompt
Order to Shelter in Place in Wilmington, August 26, 2016
・Losangeles.cbclocal.com,
Authorities Investigating Cause of Carson Refinery Explosion, August 26, 2016
・Jp.sputniknews.com,
米国最大級の石油精製所で爆発, August 26, 2016
・SCPR.org, Tesoro
Refinery Tank in Wilmington Explodes; None Injured, August 27, 2016
・Hydrocarbonprocessing.com, Sulfur Tank Explosion and Fire at Tesoro Carson
Refinery, August
29, 2016
後 記: 今回の事故を見ていて、米国も変わったと感じました。メジャーといわれていた石油会社が製油所操業から撤退し、後発で出てきた会社に代わってきていることです。テソロという会社名は初めて聞きました。会社は変わっても、働いているひとは大方変わっていないでしょうが、技術の伝承が心配ですね。米国石油協会(API)のAPI規格は技術標準として世界に知られていますが、これはメジャーの石油会社が引っ張ってきたものです。今回の事故も米国の製油所らしくない原因のような気がします。
今回の事故で発災タンクの屋根に補強用リブ材が設置されていますが、グーグルマップで見ると後から追加されたものだということに気がつきました。クイズで間違い探しというのがありますが、両方を何回も見ていたのに気づきませんでした。グーグルマップでこのようなことを地球の裏側の一般人が知ることのできる技術にしたのも米国なのですよね。
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