2014年8月30日土曜日

メキシコのペメックス社でタンク火災、負傷者も発生

 今回は、2014年7月22日、メキシコのタマウリパス州シウダード・マデロにあるペメックス社の製油所においてガソリン貯蔵タンクで火災が起こった事故を紹介します。
(写真はRegeneracion.mx から引用
 <事故の状況> 
■  2014年7月22日(火)23時半頃、メキシコの製油所でタンク火災が起こった。事故があったのは、タマウリパス州(Tamalipas)シウダード・マデロ(Ciudad Madero)にあるペメックス社(Petroleos Mexicanos: Pemex)のシウダード・マデロ製油所のガソリン貯蔵タンクで火災が起こったものである。
マウリパス州シウダード・マデロにあるペメックス社の製油所のタンク地区付近
(写真はグーグルマップから引用)
■ 国営石油会社によると、ペメックス社のシウダード・マデロ製油所(精製能力19万バレル/日)において火災が起こった。23日に発信されたペメックス社のツイッターによると、火災が起こったのはガソリン貯蔵タンクで、この火災に伴ってペメックス社従業員に9名の負傷者が出たという。貯蔵タンクには90,000バレル(14,000KL)の油が入っていた。

■ 火災発生に伴い、ペメックス社社内の非常事態対処基準が発動されて対応している。シウダード・マデロ緊急対応部署の部隊が消火活動の支援で出動している。

■ 地元テレビは、制御できずに一晩中煌々と輝く火炎の映像を流している。炎は最大50mの高さにまで達したという。

■ 軍は製油所まわりに警戒線を設定し、当局は周辺地域の住民約200人を避難させた。しかし、ペメックス社によると、地元住民は火災による危険性がまったく無かったと語っている。

■ 7月24日(木)、ペメックス社はガソリン貯蔵タンクMJN-T-510で起こった火災について消火したと発表した。同社の声明によると、22日夜中に発生した火災は、およそ29時間後の24日(木)午前5時50分に完全に制圧し、消火したという。予防的処置として、貯蔵タンクの側壁には、引き続き冷却水を放射しているとペメックス社は述べている。
 なお、“重傷者はいなかった”と付け加えられたが、実際には、火炎との戦いの中で23名の負傷者が発生し、うち2名が軽度の火傷で、その他の21名は脱水症状と極度疲労だという。ペメックス社は、23名のうち21名は医師の診療を受けたのち、帰宅していると述べている。

■ 火災の原因については判明していないという。
(写真は左:Adntamaulipas.comから引用、右:620.com.mx から引用)
(写真は両方ともElmercurio.com.mx から引用)
(写真は左:24-horas.mxから引用、右:Diariodelatarde.mx から引用)
(写真はElunversal.com.mx から引用)
(写真はThemalaysianinsider.comから引用)
(写真は左:Conexiontotal.mxから引用、右:Metronoticias.com.mx から引用)
■ ペメックス社シウダード・マデロ製油所における今回の火災は、今年になって3回目の事故である。4月には、圧力異常上昇によるボイラの爆発事故があり、5月には、コーカー装置で火災事故が起こっている。このほか、ペメックス社の施設では、最近、事故が多発している。2013年1月には、メキシコシティの本社ビルで爆発があり、37名の死者が出ている。2012年9月には、タマウリパス州のプラントでガス爆発があり、30名の作業員が死亡する事故があった。

■ 2014年8月11日(月)、ペメックス社シウダード・マデロ製油所では、前の事故からひと月も経たないうちに、コーカー装置で事故が起こった。事故はメンテナンス中に漏れたガスに引火して火災となり、ひとりが即死、11名が病院に搬送された。その後、3名が死亡し、死者は4名となった。

補 足                                                        
■ 「メキシコ」は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家である。人口約12,200万人で、首都はメキシコシティである。
 「タマウリパス州」(Tamaulipas) は、メキシコ北東部で、メキシコ湾に面する州である。人口は約320万人で、州都はシウダービクトリアである。
 「シウダード・マデロ」(Ciudad Madero)は、タマウリパス州南東部に位置し、人口約20万人の都市である。メキシコ湾に注ぐパヌコ川の河口近くの北岸に位置し、周辺はメキシコ有数の油田地帯である。

■ 「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos: Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。
 メキシコには国内に6製油所があり、いずれもペメックス社が保有し、合計の精製能力は154万バレル/日である。
 ・南東部内陸のミナティトラン(Minatitlan)製油所 (18.5万バレル/日)
 ・北部内陸のカデレイタ(Cadereyta)製油所 (27.5万バレル/日)
 ・中東部内陸のトーラ(Tula)製油所 (31.5万バレル/日)
 ・中南部内陸のサラマンカ(Salamanca)製油所 (24.5万バレル/日)
 ・東部メキシコ湾岸のシウダード・マデロ製油所 (19.0万バレル/日)
 ・南部太平洋岸のサリナクルース(Salina Cruz)製油所 (33.0万バレル/日)
 シウダード・マデロ製油所は、ペメックス社の中で最も小さい製油所(13万バレル/日クラス)であったが、最近、能力を増やし、規模が大きくなった。 
ペメックス社シウダード・マデロ製油所
構外から見たペメックス社シウダード・マデロ製油所のタンク風景
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
■ 発災タンクは、未確認であるが、容量150,000バレル(24,000KL)という情報がある。発災タンクには、14,000KLのガソリンが入っていたというので、直径40~45mクラスのタンクとみられる。グーグルマップによると、シウダード・マデロ製油所のタンク地区にはアルミニウム製ドーム型屋根とみられるタンクがいくつかある。おそらく、火災はアルミニウム製ドーム型浮き屋根式タンクで起きたものではないかと思われる。発災写真の中にもタンク上部にドーム部材の残骸らしいものが見える。
 火災は約29時間継続している。仮に全面火災でガソリンの燃焼速度を33cm/hとおけば、約10mの深さの油が燃えたことになる。これはほぼ燃え尽きる量となる。しかし、鎮火後のタンクをみると、側板の座屈はあまり大きくないので、全面火災ではなく、リムシール火災+屋根火災だったと思われる。
 当該タンク火災に必要な大容量泡放射砲の大きさは、日本の法令でみれば、10,000L/min(直径34m以上45m未満)となる。これは大型化学消防車の一般的な放水能力3,000L/minの3~4台分に相当する。このクラスのタンクであれば、大容量泡放射砲が無くても消火可能といわれているが、今回のタンク火災では早期の消火ができなかった。

所 感
■ 今回のタンク火災は、情報が少なく、状況がはっきりせず、いろいろな疑問が生じる。
① タンク火災の要因は何だったのか?
  天候(雨や雷)の影響は無いようであるので、何らかの運転異常があったものと思われる。アルミニウム製ドーム型浮き屋根式タンクで起こったものと推測されるが、この種のタンク型式にこれまで知らなかった弱点があるのかどうかという疑問がある。

② いつ、どのようにして防油堤内の火災が発生したのか?
  発災の写真を見ると、明らかに堤内火災を伴っている。かなり激しく燃え上がっているので、相当な量の油が漏れ出たものと思われる。消火水によるスロップオーバーやフロスオーバーなのか、浮き屋根の排水系統から出たものなのか、そしていつ起こったものかの疑問がある。

③ 軽傷とはいえ、なぜ23名の負傷者が出てしまったのか?
  負傷者がどのようにして発生したのか分からないが、おそらく消防隊の消防活動中によるものであろう。困難な消火活動だったと思われるが、消防士が脱水症状や極度疲労を起こす事態になるまで対策本部は何をしていたのかという疑問がある。

④ 大容量泡放射砲はなぜ使われなかったのか?
  リムシール火災+屋根火災+堤内火災という難しい消火活動だったが、発災写真からは、大容量泡放射砲は使用されていないとみられる。世界屈指の石油会社であるペメックス社では、大容量泡放射砲システムを保有していなかったと思われる。隣国の米国では、多くのタンク火災を経験し、大容量泡放射砲を開発してきたのに、なぜメキシコは導入してこなかったのかという疑問がある。

■ ペメックス社は社内の非常事態対処基準を発動しているが、的確な対応ができていたかは分からない。しかし、広報や情報公開に関していえば、問題を矮小化しようという意識が出ており、良好とはいえない。事故に関する事実(いつ、どこで、誰が、何を、どのようにして)の基本情報がほとんど出されていない。発災状況の写真が報じられていなければ、事故状況はほとんどわからなかった。

備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Reuters.com, Mexico’s Pemex Says Work Halted at Ciudad Madero Refinery Due to Blaze, July 23, 2014
    ・Reuters.com, Update2-Mexico’s Pemex Says Halts Most at Madero Refinery , July 23, 2014   
  ・PetroGlobalNews.com, Blaze at Pemex Refinery Injures Nine, Halts Production, July 23, 2014
    ・OGJ.com, Fire Hits at Pemex’s Ciudad Madero Refinery , July 23, 2014
    ・Hawkesfire.co.uk, Mexico-Pemex, 9 Injured in Refinery Tank Fire, July 24, 2014
    ・OGJ.com, Pemex Restarting Ciudad Madero Refinery , July 24, 2014
    ・Efe.com, Pemex Extinguishes Refinery Fire in Northeast Mexico, July 24, 2014
    ・Bloomberg.com, Pemex Fire at Ciudad Madero Refinery Tank Causes Minor Injuries, July 24, 2014
    ・GlobalPost.com, 9 Injured in Refinery Fire in Mexico, July 24, 2014
    ・Dialogo-americas.com, Mexico Oil Refinery Fire Leaves 23 Injured, July 25, 2014
    ・OGJ.com, Second Fire Hits Pemex’s Ciudad Madero Refinery, August 11, 2014 
 

後記: 今回の事故情報は、当初、製油所の事故として理解し、あまり注目していませんでした。ところが、どうやらタンクに関わる事故らしいということで、調べ直しました。しかし、ほとんどの記事はペメックス社から出されたものに基づいているため、内容の乏しいものでした。いろいろな情報を総合的に整理しても曖昧な点が多い状況でした。そこで、ペメックス社が出している声明文(スペイン語)からスペイン語による検索をしてみると、火災の画像を伴ったメキシコ国内の報道記事が出てきました。この火災写真によってかなりひどいタンク火災だということが理解できました。ただし、所感で述べたように火災状況については多くの疑問が残りました。ペメックス社は事故を教訓として活かす意識が薄いということはいえそうです。




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