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2013年10月1日火曜日

米国コロラド州で洪水によって被災したタンクから油流出

 今回は、2013年9月に米国コロラド州で記録的な集中豪雨があり、大規模な洪水が起こって多くの死傷者や家屋の倒壊などの被害がでていますが、このような中、918日にコロラド州ウェルド郡ミリケンの南にあるアナダルコ・ペトロリウム社の被災した貯蔵タンクからサウス・プラット川へ原油が流出した事故を紹介します。
サウス・プラット川の洪水で倒壊した原油タンク 
 (写真および解説はnationalgeographic.comから引用)
 <事故の状況> 
■  米国コロラド州は2013年9月9日(月)から記録的な集中豪雨に見舞われ、大規模な洪水が起こっている。米国当局によると、この洪水によって少なくとも10人の死者が出ているほか、140人が行方不明になっているという。特に、深刻な被害が出ているのは、ラリマー郡とボールダー郡で1,800棟以上の家屋が損壊しており、損害額は州全体で20億ドル近くにのぼるとみられている。
(写真はDemberpost.comから引用) 
■ 9月18日(水)、コロラド州石油・天然ガス規制当局は、ウェルド郡ミリケンの南にある被災した貯蔵タンクからサウス・プラット川へ原油が流出していると発表した。コロラド州石油・天然ガス資源保全委員会によれば、貯蔵タンクはアナダルコ・ペトロリウム社の所有するタンクで、流出した量は推定5,250ガロン(20KL)だという。貯蔵タンクのあるミリケンは、ロングモントとラブランドとの中間付近でハイウェイ25号線の東に当たり、流出はミリケン郊外に広がっている。

■ コロラド州天然資源部のトッド・ハートマン氏によれば、アナダルコ・ペトロリウム社は、9月18日(水)の午後、州当局へ流出があったことを報告したという。報告には、油が川へ漏れ始めてからの時間が書かれていなかった。サウス・プラット川は、ミリケンの北をグリースリーの方向へ流れ、プードル川・プラット川へ合流し、州の北東を流れてネブラスカ州に至る。油流出によって市民生活や産業にどのくらい影響が出るか不明である。

■ コロラド州天然資源部ハートマン氏の発表によれば、「アナダルコ・ペトロリウム社は、水上に吸収性のオイルフェンスを張って対応している。コロラド州石油・天然ガス資源保全委員会は18日午後に対応し始めており、コロラド州公衆衛生・環境部とともに、クリーンアップ作業の状況を監視している」という。

■ アナダルコ・ペトロリウム社は声明を出し、「これまでに、私どもは洪水に被災したタンク施設が2箇所であることを確認しています。そして被災に伴い軽質油が流出しています。流出のあった場所は、サウス・プラット川の支流セント・ブレイン川が氾濫した洪水区域です。私どもはそのことを関係機関に報告しています。私どもは、関係機関の監督のもとに、可能な限り、囲い込み、クリーンアップするよう全力を尽くして作業を行っています」と発表した。アナダルコ・ペトロリウム社は同地区で操業している250タンク施設・670油井のうち、約10%の施設を停止した。

■ コロラド州石油・天然ガス協会によれば、被災した油井現場に約600名を派遣し、検査や補修を行っているという。しかし、検査員の何人かは油井現場まで行けない状態にあるという。コロラド州の調査官であるジョン・ フェルッジア氏は、洪水による濁流が石油・天然ガス施設へ流れ込んでいる状態でたどり着くことは期待できないといい、「水の力をご存知でしょう。二次災害になってしまいます」と語った。

■ 流出に関するメディアの報道や市民から寄せられる情報は、州だけでなく国内全土に流され、毒性への影響が懸念される被災した油井施設について写真で紹介されたり、水面を上下している施設のビデオ映像が放映されている。洪水による影響範囲は5,000平方キロメートルで、ロッキー山脈の麓から広い平野に及んでいる。

■ 先週からの記録的な豪雨によって洪水に襲われたウェルド郡は天然ガスの生産地で、地方や都市には数多くの油井があるが、規制当局や関係機関は見守るだけで、対応が遅々として進まない状況に住民の心配は増すばかりである。実際、9月16日(月)の記者会見では、州の18の関係機関の担当者が集まったが、危機感に乏しく、公共の安全に対する懸念については原油および天然ガス業界の代表に頼っている状況だった。

■ コロラド州石油・天然ガス協会の貿易グループ会長のタイシャ・シュラーさんは、被災した設備の報告について軽視している。市民からたくさんの写真がオンラインで寄せられ、その多くは浸水してしまった家屋や、家の近くに倒れて浮かんでいる油井用タンクを撮ったものである。このような疑問に対して、写真は偽造されたか、信頼できるものでないとシュラーさんは一蹴し、「ソーシャルメディアが“水の中にある”石油・天然ガス施設の写真に狂乱し過ぎていると私たちは見ています。写真は突拍子もない異常なものに見えますし、だいたい出処や情報源がはっきりしていません」と語っている。

■ 報告によると、この地区にあるパイプラインの少なくとも1本が壊れたという。その他のパイプラインも垂れ下がっているという。油に加えて、いわゆる生産水が被災したタンクから漏れ出ている。生産水は、採掘するため地中に注入した破砕用水とケミカルの副産物として天然ガス中に含まれて地上に出てきた液体である。ウェルド郡には20,000箇所を超える油井があり、各油井には大量の破砕用水が注入される。破砕用水は注入される前にベンゼンのような毒性のケミカルが混合される。そして、地上に戻ってくるときには厄介なミネラル分や放射性物質を含んでくる。生産水は他に活用することができないので、タンクやピットに一時保管し、再び地下深くに戻される。
 洪水によってめちゃめちゃになった家屋や幹線道路を見たコロラド州の住民は、同じように被災した破砕用水の施設に懸念を示し、自分たちが住む土地が汚染されてしまっているのではないかと心配している。
(写真はcoloradoindependent.com から引用) 
(写真はthedenverchannel.com から引用)          (写真はthedenverchannel.com から引用) 
(写真はnytimes.com から引用) 

■ 9月23日(月)、コロラドの大洪水に伴い被害を受けた石油パイプラインと石油タンクの調査に派遣された検査官は被災の大きさに完全に圧倒されていると、コロラド州選出のジャレッド・ポリス議員は警告を発している。ポリス議員によると、州の規制当局は、洪水範囲で漏れた可能性のある50,000箇所の油井について全容を把握するため、現場へ行くのさえ苦労しているという。調査官は、洪水に被災した油井にたどり着いたのはやっと3分の1だという。先週、洪水地域を空から調査したところ、倒れている貯蔵タンクが数多く確認された。ポリス議員は、全部の現場を確認するには、調査官の数が不足していると語った。

■  23日の午後、コロラド州の石油・天然ガス規制当局は、広大な石油・天然ガスの生産エリアの中で著しい流出が確認されたところは8箇所あり、流出量は27,000ガロン(102KL)とみられると発表した。コロラド州石油・天然ガス資源保全委員会の発表では、今も水位の高い状態やぬかるんだ状態が続いていて、近づくのに時間がかかったり、近づくことが困難なところもあるという。コロラド州天然ガス資源部の広報担当のトッド・ハートマン氏は、調査官が未だに油井現場を見ていないところがあるのは、現場へ通じる道路が洗掘されたり、崩落したりしているためだという。

■ コロラド州規制当局によると、漏れが確認された8箇所に加えて、調査官は油膜の光沢が確認された10箇所について監視を行っているという。しかし、被害を受けた施設は他に少なくとも33箇所あるという。当局は、「これらの施設で、油などがどのくらい漏れ出たのか推測しようがない」と付け加えた。

■ 石油・天然ガス業界は、圧力センサーによって油井内の状態を監視しているほか、空とボートから油井を監視していると言っている。瓦礫を伴って押し寄せた洪水によってパイプラインやタンクの多くが損傷した。しかし、石油業界は、洪水の最悪の影響を受けたエリアにあった1,500箇所の油井を洪水に襲われる前に運転を停止したと話している。
 たとえそうであっても、社会運動家は、この洪水によってわかったこととして、畜産施設から逃げるようなこともあり、石油、ケミカル、その他の汚染物質の流出した際のリスクが存在することだという。
100年に1度の洪水はコロラド州に大きな環境災害の要因となった。 
 (写真および解説はTheGuardian.comから引用)
サウス・プラット川の洪水によって被災した天然ガスの油井はデンバー側の下流域に毒性問題の要因となった。                 (写真および解説はTheGuardian.comから引用)
コロラド州ウェルド郡は州の中で破砕用水を使う油井の最も多いところの一つである。
 (写真および解説はTheGuardian.comから引用)
補 足
■ コロラド州は、米国西部に位置し、州の南北にロッキー山脈があり、州全体の平均標高が全米で一番高い山岳地帯の州である。州の西部はコロラド高原、東部はグレートブレーンズ(大平原)である。人口は約500万人で、州都および最大都市はデンバーである。「コロラド」という言葉は「赤みをおびた」を意味するスペイン語で、コロラド川が山岳部から運ぶ赤い泥を表している。コロラド州は石油・天然ガス資源に恵まれており、米国天然ガス田100傑のうち7か所、油田100傑のうち2か所がある。天然ガスの生産量は国内生産量の5%を超えている。オイルシェールの埋蔵量は石油換算で1兆バーレル とされているほか、石炭(瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭)もかなりの埋蔵量が見つかっている。
 「ウェルド郡」は、コロラド州北東部に位置し、比較的平坦な地域にあり、人口約25万人である。ウェルド郡はコロラド州の中でも牛・穀物・テンサイの生産量が多く、ロッキー山脈の東側では最も裕福な農業郡でもある。郡庁所在地はグルーリー市である。「ラリマー郡」と「ボールダー郡」はウェルド郡の西に隣接する郡である。
 「ミリケン」はウェルド郡の西部に位置し、人口約2,800人の町である。

(写真はグーグルマップから引用)
■ 「アナダルコ・ペトロリウム社」(Anadarko Petroleum Corp.)は、1985年に設立された米国の独立系エネルギー会社で、テキサス州ウッドランドに本拠を置く。同社はメキシコ湾の深海での天然ガス生産者としては最大であり、ロッキー山脈など米国内のほか、アルジェリアなど世界的に石油や天然ガスの生産と探査を展開している。アナダルコ・ペトロリアムはかつてパンハンドル・イースタン社の子会社であったが、米国アナダルコ盆地で大規模な天然ガス田を発見した後、1985年に独立した。

所 感
■  2010年8月パキスタンのインダス川の氾濫によって油流出による環境汚染が問題視されたが、当時は特別な事例だと思っていた。しかし、その後、2011年にはタイで大規模な洪水があり、日本企業が進出した工業団地が浸水するという被害が出た。そして、今年は日本各地で猛烈な豪雨による被害が出たほか、2013年7月には、中国陝西省延安市で豪雨をきっかけに起きた地すべりによって、地下に敷設されていたパイプラインに亀裂が生じ、油が流出する事故が起こり、今回、米国コロラド州で記録的な豪雨によってタンクから油流出する事故が起こった。異常気象による集中豪雨や洪水が特別な出来事ではないように思えてしまう。
  2010年パキスタンのインダス川流域の洪水        2011年タイの洪水(水没したローヂャナ工業団地) 
■ 今回の事故を見ていると、自然災害に伴い貯蔵タンクから流出事故が起こった場合の危機管理と緊急事態対応の難しさである。通常は地方自治体の緊急事態対応部署や環境保全部署が対応の前面に出てくるが、自然災害の対応で追われ、今回の情報の中でもこれらの部署はほとんど出てこない。おそらく、日本でも同様で、たとえば、氾濫した河川からの洪水に伴って流出している油に対応する地方自治体の主管部署はすぐには決まらず、混乱するだろう。これは地方自治体だけでなく、施設を保有する企業や民間組織も同様であろう。洪水の中で的確(安全で効率的)にオイルフェンスを展張できるところがあるだろうか。
 今回の事例からいえることは、石油コンビナート地区の巨大タンクは別として、小型タンクや地上配管(パイプライン)は洪水によって被災する可能性は高い。津波の来ないような内陸地でも河川の氾濫はありうる。このような想定にもとづく危機管理と緊急事態対応について考えておく必要のあることを認識させる事例である。

<備 考>  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・ColoradoIndependent.com, Flood-damaged Anadarko Tank Spilling thousands of Gallons of Oil into South Platte River,  September 18, 2013
      ・DenberPost.com, 5,250 Gallons of Oil Spills into South Platte River,  September 18, 2013 
  ・TheDenberChannel.com,  Crude Oil into South Platte from Damaged Oil Tank,  September 19, 2013
      ・News.NationalGeographic.com,  Colorado Flooding Imperils Oil and Gas Sites, Cause Spill,  September 19, 2013
      ・TheGuadian.com,  Colorado Flood ‘Completely Overwhelm’ Search for Oil and Gas Leaks,  September 23, 2013
      ・jp.Reuters.com,   米コロラド州洪水で10人死亡、140人が安否不明,  September 20, 2013  



 後 記:今回の油流出量は102KLと発表されています。この種のデータは少なめに報告されがちですので、実態はわかりません。ところで、2010年3月11日の東日本大震災では、総務省消防庁の調査によると、津波によって4事業所の10基の屋外タンク貯蔵所から流出した油量は11,521KLだったと、以前、紹介しましたが、 このほかに、気仙沼市で津波によって重油が流出し、火災が起こった事故について調査した報告がありました。これによると、気仙沼湾沿岸の石油タンク23基のうち21基が倒壊、12,810KLの重油が海に流出しています。 これらを合計すると、約24,000KLの油が流出したことになります。余りにも、その他の被害が甚大だったので、環境汚染の問題としてはほとんど取り上げられませんでした。1997年1月、島根県沖で座礁して日本海沿岸に油汚染をもたらしたタンカー「ナホトカ号」事故の油流出量 は6,240KLですから、 東日本大震災に伴って起きた油流出はそれよりも大きな環境汚染事故だったことがわかります。 
 気仙沼の報告書は「気仙沼港の石油タンク倒壊による油流出の調査報告油による海洋・土壌汚染の問題が懸念される」(RISTEX CT ジャーナル 2011年第11号 2011年4月25日)を参照してください。
2011311日の津波で倒壊した気仙沼市の石油タンク 

   




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