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2012年12月10日月曜日

安全警告;水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱い

 今回は、「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)の安全警告の第3弾として「水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱い」の事例を紹介します。
 本情報は「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)が提供した「安全警告」についてつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・UKPIA.com, Process Safety Alert 005, Storage and Handling of Self-Reactive, Energetic Substances, April 5, 2011

 <概 要>
■ この安全警告は、貯蔵タンクにおいて起こった事故から、水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱いに関するリスクについて提起したものである。

 <事故の状況と原因> 
■  2-エチルヘキシル-ニトラートの入ったタンクの床が損傷していた。
 タンク損傷はタンク床と内壁下部に内部腐食が発生して起こったもので、約10mmの穴が開いていた。
■ タンクの床部と側板部はコーティング無しの炭素鋼製で、検査は10年前に実施されていた。この検査の実施項目の中には、pHチェックは入っていなかった。検査結果では、タンクは良好な状態だとされていた。
■ タンクの構造は、排水溜めが無かったが、吸込みノズル側へ傾斜がついていた。
■ 損傷がわかった後の検査で、通常時におけるタンクの息つぎによって、わずかな湿分がタンク床上に蓄積されていたことが明らかになった。水分が存在すると、製品が加水分解して硝酸になる可能性があり、これが腐食の原因となった。

 <教 訓>
■ 水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱いに配慮すべき事項は、つぎのとおりである。
 ● HAZOP分析(危険源特定・安全性評価手法)を実施する場合、水は存在(ごくわずかな量でも)すると仮定すべきである。ただし、水分を除去するための特別な方法がとられている場合は除く。
 ● 場合によっては、検査周期を見直すべきであり、 水分の浸入痕跡を検査する項目を追加すべきである。

補 足
■ 「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association UKPIA)は、英国の石油産業の下流部門に携わっている9社の会員会社による団体で、石油製品の精製、流通、販売に関して非競争領域における一般的な問題について共有化するために設立された。UKPIAでは、安全警告(Process Safety Alert)など英国の石油産業の下流部門に貴重な情報を提供している。

■ 「2-エチルヘキシル-ニトラート」は、化学式C8H17NO3で表され、引火点72℃の可燃性で、密度は0.963である。融点は75℃と常温では固体であり、ディーゼル燃料のセタン価向上剤などで用いられる。
(訳者注; 「安全警告」( Process Safety Alert)の原文では、「自己反応性で活性の高い物質」(Self-Reactive, Energetic Substance)とあるが、自己反応性に関わる原子団を含まないので、必ずしも注意喚起すべき自己反応性とはいえない。水の存在により、加水分解によって硝酸を生成するため前記のような表現になっているものと思われる。しかし、なじみのない表現であるので、本資料では、趣旨から「水分の存在で腐食性が高くなる物質」とした)

■ 「硝酸」は、化学式HNO3で表され、無色で刺激臭があり、腐食性の液体である。肥料、染料、爆発物などの製造に用いられる。

■ 「HAZOP分析」(Hazardous Operations Analysis;危険源特定・安全性評価手法)は、 「Hazard and Operability」ともいわれ、略してHAZOP(ハゾップ)と呼ばれている。1970年代から化学プロセス産業では、安全性および運転性評価手法として用いられており、化学プロセス産業におけるプロセス危険解析手法の標準となっている。HAZOPの特徴は、系統的で仕組みが簡単な解析手法で、さまざまな運転モード(連続運転、スタートアップ・シャットダウン、再生運転、バッチ運転等)に適用できる定性的解析手法である。検討は、異なる視点を重要視するため、プロセス・運転等の異なる専門知識を持ったメンバーで構成されるチームで実施する。
 しかし、今回の事例のように、水の存在無しを前提とすれば、どんなにHAZOPの検討を進めても、腐食性に関するリスクは出てこない。 従って、「HAZOP分析を実施する場合、水は存在(ごくわずかな量でも)すると仮定すべきである。ただし、水分を除去するための特別な方法がとられている場合は除く」という教訓が提起されている。

所 感
■ 今回の事例は、 2-エチルヘキシル-ニトラートという特殊な物質を貯蔵していたタンクの息つぎだけで、内部に湿分が混入し、腐食性の高い物質を生成するリスクについて安全警告したものである。英国石油産業協会(UKPIA) の安全警告「Process Safety Alert 002」では、重質燃料油タンクの水による突沸現象の事例を紹介している。この場合はかなり多量な水分の存在に関する危険性であり、今回の事例は、微量な湿分が長期にわたって徐々に腐食していくリスクについて警告したものである。試験室によるラボテストでは安定的な物質も、現実のプラント(タンク)では、いろいろな要因で思わぬリスクが生じ得るという事例で、UKPIAは、共通的な問題として、水のリスクについて警告すべきと判断したと思われる。


後記; パソコンのフリーソフトで最近、便利な機能を知りました。漢字の読み方がわからなかったり、特殊な漢字に変換するときに使う「手書き入力パッド」を出しているBandoIMEの機能の中に「スクリーンショット」があることを知りました。動画の画像やダウンロードできない画像をブログで挿入する場合、以前はカメラでパソコン画面を写真にとってトリミングなどの編集をし、縮小を行って使えるようにしていましたが、「スクリーンショット」だと簡単にパソコン画面から画像をコピーできます。
 当ブログでは、できるだけ絵(写真)を入れ、地球の裏側の出来事でも身近に感じるように編集したいと思っていますので、この機能は本当に便利だと感じています。







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