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2017年3月11日土曜日

太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故(2006年)

 今回は、2006年1月17日、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所で開放工事中の容量10万KL原油タンクで火災が発生し、死傷者の出た事例を紹介します。
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所である。四国事業所の製油所の精製能力は118,000バレル/日で、貯蔵施設は約118万KLの貯蔵能力を有する。

■ 発災があったのは、製油所の貯蔵タンク地区にある原油タンク(T-023)である。原油タンクは浮き屋根式で直径75.5m×高さ24.3m、容量100,000KLだった。発災当時、タンクは開放工事のため、浮き屋根は着底(底板から高さ約1.9m)し、底部には原油スラッジが残っていた。貯蔵時の原油は超軽質のアラビアン・スーパーライトだった。
太陽石油四国事業所と発災タンクの場所
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2006年1月17日(火)、午後2時20分頃、四国事業所で開放工事中の容量10万KL原油タンクで火災が発生した。火災はタンク内部で発生し、さらにタンク外のマンホール付近や仮設足場に延焼した。

■ 当日、午前8時30分頃からタンク清掃工事の下請け会社(福崎組)の作業員7名がタンク内に入槽し、タンク底部に溜まった約20~30cm深さの原油スラッジ約1,000KLを仮設ポンプで抜き出す作業を行っていた。 

■ 発災に伴い、太陽石油の自衛防災隊のほか、今治市消防本部の消防隊27名と救急車を含む消防車両10台が現場に出動した。タンク外部で起った火災は約10分後の午後2時32分に消され、タンク内部の火災は発災から約1時間後の午後3時29分に消火された。

■ この事故によってタンク内にいた下請け会社の作業員5名が死亡、自力で脱出した2名が負傷した。

■ 当日は、太陽石油の従業員がタンク内の可燃性ガス濃度と酸素濃度を測定し、入槽許可基準値の範囲内であることを確認し、タンク清掃工事の請負会社に入槽作業の許可を出した。その後、下請け会社の作業員がエアラインマスクを装着してタンク内へ入槽し、清掃工事に着手した。タンク内に残った原油スラッジを希釈用の軽油で溶かしながら、仮設ポンプで外部に排出する作業が行われた。

■ タンク清掃工事の期間中、太陽石油はタンク内の安全な環境を保持する必要があり、朝の入槽前の可燃性ガス濃度と酸素濃度を測定するほか、随時、立会することになっていた。当日、朝の入槽前の確認は行われていたが、事故が起こるまで立会は行われなかった。 
(写真はEhime-np.co.jp から引用)
(写真はKhk-syoubou.or.jpから引用)
被 害
■ タンク内の火災による人的被害は死亡者5名、負傷者2名である。

■ 物的被害は、タンクマンホール部保温外板の焼損、入槽用仮設足場の焼損、キャブタイヤケーブルの焼損である。

■ 臭気等大気への影響はほとんど無かった。また、水域への影響もほとんど無かった。

< 事故の原因 >
■ 原油スラッジ中の軽質油分の気化ガスがタンクマンホールの開放に伴う通気によって爆発混合気を形成し、清掃工事用の機工具類などによる何らかの着火源によって引火して火災になったものとみられる。

■ 燃焼の三要素の観点から推定された要因はつぎのとおりである。
 ● 可燃性物質: 原油スラッジ中の軽質油分の気化ガス
 ● 酸素の供給: 自然通風および換気用ブロワーの運転による強制通風
 ● 着 火 源 : 特定できないが、つぎのような着火原因が考えられる。  
      ① 人体および工具に帯電して起こる静電気スパーク
      ② 投光器および配線の漏電やショートなどによる電気スパーク
      ③ 鋼製工具、機材接触による火花
     作業員の一人が「スタンド式の投光器が倒れ、しばらくして火が出た」と証言している。
     投光器は防爆型のスタンド式照明装置で、3台設置され、約1.4mの高さに位置に調整されていた
     が、固定されていなかった。このうちの1台が転倒していることが確認され、着火源は投光器による
     可能性が高いとみられ、実証テストが行われたが、断定できる結果は得られなかった。   

 < 対 応 >
■ 太陽石油は事故の再発防止策としてつぎのような対応をとると発表した。
 (1) タンク内部清掃工法の見直し 
     ① タンク内部清掃工法の改善(原油洗浄+温水洗浄の併用)
        原油タンクの清掃は「原油洗浄」(COW: Crude Oil Cleaning)と「温水洗浄」を併用する
        工法を採用し、人がタンク内に入らない状態で、タンク内の油分と原油スラッジを
        できるだけ回収する。この工法を実施した後、安全性を十分に確認して人が入槽
        することとした。
     ② タンク入槽作業時における安全管理の強化
        ● タンク内への入槽許可基準の安全性を強化する。
           (可燃性ガス濃度 1,400 vol.ppm以下 → 500 vol.ppm以下)
        ● 作業前にタンク内部全体の安全性を把握する。
           (可燃性ガス濃度および酸素濃度の測定ポイントを増やす)
        ● タンク内の作業場所でのガス濃度変化を常時把握する。
           (作業場所近傍への可燃性ガス検知器および酸素濃度計を常時設置するとともに、
            作業員のひとり以上は携帯式可燃性ガス検知器および酸素濃度計を常時携帯する)
        ● 工事用電気機器のタンク内への持込みを制限し、安全性を強化する。
        ● 太陽石油の従業員と請負会社のコミュニケーションを強化する。
 
 (2) タンク内部清掃作業に関わる規程・基準類の見直し・整備
     タンク内部の清掃工法の見直しと安全管理強化策に伴い、関連する規程・基準書を改訂した。

 (3) 安全衛生管理強化活動の取組みの充実
      従来、実施してきた安全衛生管理強化活動について、つぎの項目を重点に加えて推進していく
      こととした。
        ● 「労働者方式安全衛生教育指導者」研修の受講により指導者を増やしていく。
        ● 構内に入構している常駐の請負会社を含めた安全推進体制を強化する。
           (注記:「労働省方式安全衛生教育指導者」は通称“RST”といわれる研修講座で、
                中央労働災害防止協会が主催し、多くの会社が受講している)

補 足
■ 「愛媛県」は四国地方の北西部に位置し、人口約137万人の県で、県庁所在地は松山市である。
 「菊間町」(きくま町)は、愛媛県の東予地方にあり、古くから菊間瓦で有名な町である。現在は広域合併によって今治市菊間町となっており、人口約7,100人の町である。菊間町には、太陽石油のほか、備蓄容量150万KLの日本地下備蓄菊間事業所(現在は菊間国家石油備蓄基地)がある。

■ 太陽石油は、1941年(昭和16年)に設立し、東京に本社を持つ民族系石油元売で、愛媛県を地盤に主として西日本で展開し、従業員約650名の石油会社である。ガソリンスタンドのブランド名は「SOLATO」(ソラト)である。
 製油所は愛媛県菊間町の四国事業所のみで、精製能力は118,000バレル/日である。貯蔵施設はタンク99基で約118万KLの貯蔵能力を有する。原油タンクは9基で約64万KLの貯蔵能力である。

■ 「原油洗浄工法」(COW: Crude Oil Cleaning)は、原油タンク内に堆積したスラッジをタンク浮き屋根上に設置した洗浄機ノズルから原油を噴射して破砕・溶解させる洗浄工法である。原油洗浄工法では、堆積した原油スラッジの97~99vol%を回収することができ、人がタンク内に入って回収・洗浄することを大幅に少なくすることができる。
 原油洗浄のあとは、通常、「温水洗浄工法」がとられる。この工法は、タンク浮き屋根に設置した洗浄機ノズルから50~60℃の温水を噴射して、タンク内に付着した油分を洗い飛ばして油を回収するものである。排水処理の制限によって「温水洗浄工法」がとれない場合、温水の変わりに軽油またはA重油を使用しているところもある。温水洗浄などの工法を実施することによって、最後に入槽して行う仕上げ清掃をより安全に行うことができる。 
              原油洗浄工法の例   (図はNissink.co.jp から引用)
                  温水洗浄工法の例    (図はNissink.co.jp から引用
■ 今回の事故では、「従来型の原油タンクの残油処理方法」がとられた。この方法は、抜出し可能な限界まで原油を別タンクへ移送した後、マンホールを開放して内部の可燃性ガスを拡散させ、可燃性ガスの濃度が下がった段階で人が入槽し、原油スラッジを軽油で希釈して仮設ポンプによって回収する方法だった。
 この「従来型の原油タンクの残油処理方法」に内在する危険性は過去から指摘されていた。例えば、当該事故の前年(2005年)の「危険物事故防止対策論文」(危険物保安技術協会主催)の消防庁長官賞をとった「屋外タンク貯蔵所の開放時おける火災の原因解析」でも指摘されていた。この論文では、タンクのマンホール開放によって可燃性ガスの拡散する時間の例を示しており、「ガス濃度(爆発下限界:LEL)は、残油抜取り直後;100% → 約18時間後;25% → 約42時間後;0%と想像以上に早く消失する」と述べているが、「逆に条件が整えば、思いのほか早く移動し、滞留する危険性がある」と指摘している。 

所 感
■ 原油タンクにおける残油処理作業は、密室的なタンク内に原油スラッジが堆積し、灯軽油を希釈剤として使用し、人が作業するという危険性の最も高い作業のひとつである。一方、タンク群の開放は、毎年、日常的に繰り返し行われており、マンネリ(惰性)や油断が生まれやすい作業でもある。
 残油処理作業は、失敗を防ぐ3つの基本事項、すなわち①ルールを正しく守る、②危険予知活動を活発に行う、③報連相により情報を共有化する、という3つを完璧に実行しなければならない。今回の事故では、原因は分かったが、爆発混合気の形成過程や着火源を断定できなかった。可燃性ガスの排出(拡散)という点において抜けがあり、潜在していた盲点が現れてしまったことを感じる事例である。 

備 考
 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
  ・Ehime-np.co.jp,  タンク火災5人死亡、太陽石油で作業中,  January 18, 2006  
    ・Fdma.go.jp,  太陽石油株式会社四国事業所火災の被害情報等について,  January 17, 2006 
    ・Ehime-np.co.jp,  コード火元の疑い浮上,  February 18, 2006
    ・Taiyooil.net, 太陽石油四国事業所の原油タンク火災事故について,   July 14, 2006
  ・Khk-syoubou.or.jp ,  屋外タンク貯蔵所清掃中の火災事例,  February  03, 2006    
    ・Khk-syoubou.or.jp ,  屋外タンク貯蔵所の開放時おける火災の原因解析,  July, 2005 


後 記: 東日本大震災から6年が経ち、復興が進む中で、教訓が風化しつつあると言われています。津波に襲われた市役所の建替場所が津波で浸水されたところになるかも知れないということです。理由は町の活性化のためだそうです。昔の大津波の到達した場所に、これより下に家を建てるなという碑のその下にたくさんの家が建っている写真が話題になりました。教訓は数年で風化するものだということがいえます。
 なぜ、このような話をするかというと、今回の事故を紹介しようと、当時に入手した資料の他に新たな情報がないかとインターネットで調べたところ、事故の原因調査結果を伝える情報は皆無に等しい状況でした。事故の記録は埋没して風化していくのでしょう。日本人は失敗を無かったことにしてあげる優しい(?)ところがありますが、教訓さえも亡くしてしまってよいものでしょうかね。

2017年3月2日木曜日

米軍・相模補給基地の保管倉庫の爆発・火災(2015年)の原因調査結果

 今回は、貯蔵タンクではありませんが、過去に二度取り上げた米軍・相模補給基地(相模総合補給廠)の倉庫爆発事故に関する原因調査結果を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、神奈川県相模原市中央区にある在日アメリカ陸軍の相模総合補給廠(U.S. Army Sagami General Depot)である。相模総合補給廠は工場用地として補給関連の保管倉庫や修理工場などが設置されている。
■ 発災があったのは、相模総合補給廠内の倉庫で、鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)平屋建である。
 米軍によると、保管物は酸素ボンベ、消火器等であり、管理状況としては換気扇、スプリンクラー設備、自動火災報知設備(煙感知器)が設置されていたという。

< 事故の状況 >
事故の発生
■ 2015年8月24日(月)午前0時45分頃、米軍相模総合補給廠の平屋の倉庫が突然、爆発を起こした。爆発が複数回起こり、火災は夜の空を照らした。発生した火災は、6時間以上くすぶり続けたのち、次第に消えていった。8月24日午前7時9分に鎮火した。
相模原市の米軍・相模総合補給廠の発災場所
(写真は防衛省・外務省発表資料から引用)
< 事故の原因 >
■ 2015年12月に発表された原因調査状況は「米軍・相模補給基地の保管倉庫の爆発・火災(2015年)の原因調査」を参照。相模原市はこの報告について納得せず、国に対して引き続き原因究明に努め、その結果を報告するよう要請していた。
 
■  2016年11月1日、日本の防衛省・外務省は米側から提供された情報をもとに相模原市につぎのように報告した。
 ● 米陸軍は原因究明のためWHAインターナショナル社(WHA International Inc.)に調査依頼(契約)し、
  2015年11月9日~12日の間に調査が行われた。
 ● WHA社の調査結果を踏まえ、米側において検討を行ったが、 火災原因を特定できなかった。
 ● 米陸軍による事故原因の推定はつぎのとおりである。
     「酸素ボンベの1つにガスケットの欠陥又はバルブの機能不全があり、そこから漏れ出した酸素が
    バルブを振動させ、何らかの拍子に発生した火花が蓄積さ れていた塵等の可燃物に引火し、燃え
    広がったものと思われる。さらに発生した火災による熱で付近の酸素ボンベが加熱され、次々に
    破裂した」
酸素ボンベの例
(写真は防衛省・外務省発表資料から引用) 

< 原因調査結果への反応 >
■ 相模原市は、11月1日に防衛省・外務省から報告を受けた後、在日米陸軍立会いのもと、本市消防局ほか職員が相模総合補給廠に立ち入り、米軍の再発防止策について確認を行った。この結果を受け、相模原市長は、つぎのような声明を発表した。
 「昨年8月の事故発生以来、市としては原因究明を求めてきたところであるが、結果として昨年12月の中間報告に引き続き、今回の報告 においても火災の原因が特定されなかったこと、また、本日まで1年以上という長い期間を要したことは、遺憾である。 一方、本市の要請に基づく立入確認が、米軍立会いのもと本日実現 したことについては一定の評価をしたい。 今回のような事故が二度と起きないよう、米軍においては、基地内の安全対策について万全の対策を講じてもらいたい。 今後とも、市民の安全・安心の確保の観点から、万一、事故や事件 が発生した場合には、速やかに必要な措置がとられるよう、米軍や国 に対して、引き続き強く要請してまいりたい」

■ 神奈川県知事は、11月1日の定例記者会見で、「原因を特定できなかったことは残念だが、従来よりも踏み込んだ再発防止策が打ち出され、自治体に報告があったことは評価したい」と述べた上、「根本の問題は日米地位協定にある。調査は米軍自らが実施し、日本政府や地方自治体など第三者のチェック機能も働かない」と問題点を指摘し、「改めて渉外知事会などを通じて協定の改定や、米軍の事故防止策に自治体の意見が反映される仕組みを設けるよう働きかけていきたい」と語っている。

■ 毎日新聞(地方版)では、11月2日付け「補給廠爆発火災、出火原因特定されず 米軍、市に再発防止策」という見出しで、つぎのように報じている。
 「米軍からの最終的な報告では、原因を不特定としながら推定される可能性として、“保管していた酸素ボンベの一つにガスケットの欠陥かバルブの機能不全があり、漏れた酸素でバルブが振動。発生した火花が倉庫内の可燃物に引火し、火災の熱で付近の酸素ボンベが過熱され、つぎつぎと破裂したと考えられる”」

■ 東京新聞は、11月1日付け「相模補給廠事故、爆発原因は特定できず 米の調査結果報告」という見出しで、つぎのように報じている。
 「爆発した倉庫には、酸素ボンベ約千本が保管されていた。報告書では、推定される原因として、ボンベの一つからバルブなどの不具合で酸素が漏れ出し、ボンベが倒れるなどして火花が発生。蓄積したちりなどの可燃物に引火して燃え広がった可能性が最も高いとした。
 爆発した際、米軍の夜勤担当者が倉庫に何が入っているか把握しておらず、鎮火に協力しようとした市消防局が爆発などを懸念して6時間、放水できなかった。報告書では再発防止策として、保管している物品の管理リストの共有を米軍内で徹底したことなどを挙げた」

< 日米地位協定における反応 >
■ 当該事故に関連して日米地位協定(Japan-U.S. Status of Forces Agreement)が問題視され、国会(衆議院)で議論されている。質問および政府の答弁はつぎのとおりである。
質問の主意(2015年9月18日)
 2015年8月24日、米陸軍相模総合補給廠において爆発火災が発生した。相模原市によれば、倉庫内の保管物の種類が不明であるため、米軍関係者の判断により現場へは接近せず、放水活動を行わずに警戒を実施し、火勢が弱まってから放水を行っている。
 周辺は住宅地であり、多くの住民が不安を感じており、相模原市長も「一歩間違えば大災害になるような事態」と遺憾の意を表明している。
 再発防止には、保管物の危険性について米軍からの情報提供が必要である。また、経緯や原因の情報提供においても、より積極的な姿勢がなければ、周辺住民の不安を払拭することは困難である。しかし、現状では、日米地位協定ゆえに情報を入手しにくいという指摘がある。

質問(Q)および政府の答弁(A)
 Q1 日米地位協定の改定は未だ行われたことがないが、理論上は改定できるのか?
 米軍基地がある14都道県の知事でつくる渉外知事会からも、2015年7月に地位協定改定を求める要望書が提出されている。要望書では、「米軍基地に起因する環境問題、事件・事故等を抜本的に解決するためには、日米地位協定の改定は避けて通れない」とし、国内法適用の拡充を求めている。これら渉外知事会の要望について、取り組む意欲はあるのか?
 A1 日米地位協定の改正に関する規定を有する。しかし、政府は、協定(第25条)に基づいて設置される日米合同委員会を通じた取組みにより、改善を図ってきている。 
 
 Q2. 他国において、日米地位協定に類する協定の改定を行った事例はあるのか?  様々な指摘がありながら、日本において改定を行ってこなかったのはなぜか?
 A2. 質問の「日米地位協定に類する協定」の意味が明らかでないため、回答は困難である。日米地位協定の改正に関する政府の考え方は前項で述べたとおり。

補 足
■ 「WHAインターナショナル社」(WHA International Inc.)は、2015年創業で、酸素や水素などの物質に関連したセフティ・エンジニアリング、安全テスト、安全トレーニングを専門分野として業務を行っている非上場会社である。もともと、この分野の専門家が1987年に設立したもので、本社は米国ニューメキシコ州ラスクルーセスにあり、社員数11~50名以内という会社規模である。
 当該事故の調査を請け負ったのは2015年11月9日~12日の間であり、すでに現場には何もない状態なので、現場調査から始めたのではなく、酸素ボンベの火災リスクに関するコンサルティングだと思われる。

 なお、酸素ボンベの「使用上の注意」について、前回ブログの補足でつぎのように記した。
 「酸素ボンベのバルブは、十分注意しながら静かに開閉しなければならない。これは、酸素ボンベの充填圧力約14.7MPaのガスが調整器内に一気に進入すると、調整器内でガスが圧縮され、断熱圧縮熱によって20℃だっ た調整器内部が約900℃以上に上昇する。この時、調整器内部に塵、アルミニウム粉、油分などが存在すると、発火源・可燃物となり、調整器の爆発・発火につながる恐れがあるためである。実際に、急速にバルブを開けて発火した事例がある。
 この酸素ボンベのバルブ急速開による発火事故は米国でも同様にあり、ASTMなどが注意喚起している。酸素高濃度雰囲気での固体の摩擦による発火実験例はあるようであるが、酸素ボンベのガスケットやバルブに開いた孔からの発火実験例は見い出せなかった」

所 感
■ 今回の調査結果は、「前回(2015年12月)の中間報告と同様の内容で、新たなことは明らかにならず、原因についても確定されず、推定のままとなっている」という意見があるが、文章の修飾語を省いてよく吟味すると、新たな見解がみえる。
 ● 発火源は「何らかの拍子に発生した火花」である。
    前回の見解では、「酸素ボンベから漏れ出す酸素から発火したのが、初期の炎の原因である」として
   いた。「何らかの拍子に」という事象について報告書にはないが、東京新聞によると、「ボンベが倒れ
   るなどして火花が発生」とある。すなわち、 「酸素ボンベ」が直接の発火源ではないという見解に
   変わっている。
 ● 燃焼源は倉庫内にあった「可燃物」である。
    前回の見解では、「初期の炎が原因となって、火災および酸素ボンベの爆発につながった」として
   おり、酸素ボンベが燃焼・爆発源という言い方だった。今回は、「酸素ボンベは発生した火災による
   熱で破裂した」という見解に変わっている。
    「可燃物」については「蓄積さ れていた塵等」という表現であり、明らかにしていない。
   一方、「可燃物 に引火し、燃え広がった」と述べており、相当量の可燃物があった
   ことを示唆している。
 ● 酸素ボンベの倉庫保管が火災・爆発の直接要因になることはない。倉庫内で火災があると、
   酸素ボンベは(爆発ではなく)「破裂」しうる。
    前回の見解では、酸素ボンベを倉庫に保管していると、火災・爆発の可能性があるという言い方
   だった。しかし、今回の見解では、酸素ボンベは「ガスケットの欠陥やバルブの機能不全があって
   酸素が漏れ出すと、バルブを振動させる」ような要因としか見ていない。酸素ボンベは火災による
   熱で破裂するだけという見解に変わっている。

■ 前回ブログの所感で、「確かに酸素ボンベを急速に開けると、圧縮熱によって調整器内が高温になり、発火する可能性があるが、倉庫に保管していた酸素ボンベのガスケットまたはバルブの小さな穴から漏れ出す酸素が発火し、さらに爆発に至るという理屈はあまりにも合理性に欠ける」と指摘したが、今回の報告では酸素ボンベについては常識的な見解になっている。しかし、報告書全体は、酸素ボンベを過剰に危険視した印象にし、倉庫内にあった可燃物の存在を曖昧にしている。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・City.sagamihara.kanagawa.jp, 相模総合補給廠における火災に係る調査報告について,  November  02, 2016
  ・Townnews.co.jp, 補給廠爆発火災 事故原因、特定に至らず 外務省などが市に報告,  November  10,  2016
    ・Mainichi.jp,   補給廠爆発火災 出火原因特定されず 米軍、市に再発防止策,  November  02,  2016   
    ・Tokyo-np.co.jp,   相模補給廠事故 爆発原因は特定されず 米の調査結果報告,  November  01,  2016   
    ・Blog.goo.ne.jp, 相模総合補給廠爆発火災の原因、最終報告でも「推定」のまま,  November  01,  2016
    ・Shugiin.go.jp,  日米地位協定に関する質問主意書,  September 18,  2016



後 記: 貯蔵タンクでない米軍・相模補給基地の事故情報を過去二度取り上げたので、続報として紹介しました。原因調査結果は昨年11月に出ていますが、実は今回の情報は最近になって知ったものです。爆発事故は全国的に大きく報道されましたし、世界中に発信されていますが、今回はローカルニュース扱いです。確かに今回の内容は、本来の「事故調査報告書」というべきものでなく、議会の答弁書風の文書です。よく「言語明瞭なれど、意味不明」と言われますが、今回の文書はその典型で、うそは言っていない、しかし真実も言っていないというべきものでしょう。なぜ、日本の官僚が米軍に代わってこのような文章を作るのでしょうかね。「日米地位協定」と日本語でいえば、条約のひとつのようですが、地位協定って「Status of Forces Agreement」で、端的にいえば“強さの地位付けの同意書” でしょう。今回の文書を作成した人はどのような思いをもって書いていたのだろうと、考えさせられながらブログをまとめました。

2017年2月25日土曜日

インド・ジャイプールのインディアン石油でタンク火災(2009年)

 今回は、2009年10月29日、インドのジャイプールのシータプル工業地区にあったインディアン石油のタンク施設で起ったタンク火災事故を紹介します。
 (写真はDailymail.co.uk から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インド(India)ジャイプール(Jaipur)のシータプル工業地区にあるインディアン石油(Indian Oil Corp.)のタンク施設である。施設はインディアン石油のグジャラート製油所(Gujarat Refinery)で精製したガソリン、ケロシン(灯油)、ディーゼル燃料の石油製品をパイプラインで受入れ、他の石油施設へ出荷するターミナル機能を有していた。また、ドラム缶で輸送されてきた潤滑油を地元へ供給していた。

■ 発災したタンク施設には貯蔵能力5,000~20,000KL級の石油貯蔵タンクが11基あり、総貯蔵能力は約113,500KLだった。発災時の貯蔵量は約60,000KLだった。発災のきっかけになったタンク(No.401)はガソリン用で、直径約24m×高さ約15m、貯蔵能力約6,100KLの浮き屋根式タンクだった。
                                           タンク施設の配置図  (写真はSlideplayer.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2009年10月29日(木)午後7時半過ぎ、ジャイプールにあるインディアン石油のタンク施設で爆発があり、火災となった。タンク火災で立ち昇る黒煙によって周辺は真っ暗になった。火災規模が大きく、現場から10km離れたところからも火災を確認できた。

■ インド気象庁では、最初の爆発が起こった午後7時36分頃、マグニチュード2.3の地震動を記録していた。爆発によって施設内と周囲の建物が激しく壊され、爆発の影響は2km離れたところでも家の窓が壊れるほどであった。 

■ 爆発火災によって11名の死者と150名以上の負傷者が出ており、ジャイプール市内の病院へ搬送された。

■ インディアン石油の近くの工場で働いていた人は、「私たちは爆発の起こる前にインディアン石油でサイレンが鳴るのを聞きました。まわり中に油の臭いがしていました。なぜ、その時、予防策がとられなかったのでしょう」と語っており、工場は火災に遭い、彼自身も負傷して病院に入院した。

■ 市当局は、火災拡大の恐れがあるため周辺住民を避難させたほか、この地域の電力供給を停止した。市当局は大規模な火災を制御するためインド軍の派遣を要請し、ムンバイから軍の特別チームが現地へ入った。

■ 火災は、その日のうちに、施設内の全タンク11基に延焼した。この火災被害を拡大させた要因のひとつは、消火設備の機能が喪失したことである。爆発の影響で消火ポンプ室が破壊され、消火用水配管の大半が破損した。このため、消火系統が使用不能となり、固定消火システムが使えないまま輻射熱に曝され、次々とすべてのタンクに延焼していった。

事故の発生経緯
■ 事故は10月29日(木)夜のシフト勤務中に起った。当時、インディアン石油はタンクを管理する操油課とパイプラインを管理するパイプライン課に分かれており、隣接するバーラト石油(Bharat Petroleum Co.)の貯蔵所にガソリンと灯油(ケロシン)を移送する予定だった。通常、操油課は4名の直で定常業務を行っていたが、午後5時30分頃、業務についていたのは3名のみだった。一人は私的な用事で不在だった。
■  午後5時50分頃、容量5,000KLのガソリンタンクNo.401Aが移送のためラインアップされた。タンクの出口配管には、標準通り、直列に3台のバルブが設置されていた。タンク元のバルブは電動弁、次のバルブがハンマーブラインド・バルブ(Hammer Blind Valve) 、最後のバルブが手動弁であった。
                        配管図  (図はSlideplayer.comから引用)
ハンマーブラインド・バルブの例
(図はCampomexicano.gov.mxから引用) 
■ ハンマーブラインド・バルブは、移送運転を行うときに石油製品のコンタミ(混合汚染)を防ぐため、縁切り用として当該個所に使用されていた。 タンクは共通マニホールドを通じてポンプと接続されているので、ハンマーブラインドはバルブを通じての漏れによる石油製品のコンタミ(混合汚染)を防ぐため、標準的な基準として設置されていた。
 一方、ハンマーブラインド・バルブは、構造上、タンク元のバルブが確実に閉止されていなければ、ブラインド位置からハンマーブラインド・バルブを開方向に回すに従ってバルブ上部から石油製品が漏れ出てくる可能性のあるリスクを内在していた。

■ 午後6時10分頃、オペレータのひとりがタンクNo.401Aのバルブを操作し始めた。操作したのはハンマーブラインド・バルブで、開方向に回すに従って、バルブ上部からガソリンが外へ噴出してきた。タンクに接続されている上流側の電動弁は閉まっていなかった。操作していたオペレータは、噴出するガソリンから蒸発するベーパーに耐えきれず、気を失ったとみられる。この状況を見て、別なオペレータが現場へ駆けつけたが、同じように倒れた。結局、二人ともガソリンベーパーのために亡くなっている。

■ 午後6時20分過ぎから、他の部門のオペレータたちがつぎつぎに現場へ急行したが、猛烈に噴出するガスに阻まれ、他社から借りてきた自給式呼吸器や防火服が役に立つ状態ではなく、ただ傍観するだけだった。この状況から午後6時24分、施設構外への最初の通報が出された。午後6時30分過ぎ、施設内のサイレンが鳴らされた。

■ 10~12m径の噴泉からガソリンベーパーが広がるように流出し、75分のちにはガソリンの蒸気雲は半径250mに達した。

■ 午後7時30分頃、蒸気雲に着火して大爆発が起った。爆発の引き金になった着火源は特定されなかったが、1台の自動二輪車あるいはベーパーが広がった半径内のキッチンの火などによるものとみられる。

■ 蒸気雲の爆発と同時に、タンク施設にあった9基の石油タンクが爆発して火災となった。少し離れた場所にあった2基の石油タンクにも数時間後に延焼し、その日のうちに施設内のタンク11基がすべて火災になった。

■ 発災時、タンク施設にはインディアン石油の従業員は約40名ほどいた。しかし、操油課の直内にスタッフは置いておらず、上級管理者は現場に到着していなかった。爆発が起こるまでに漏洩は75分間続き、ガソリンの漏洩量はおよそ1,000トンと推測された。これはTNT火薬20トン分に相当する。また、当時、タンク周辺の防油堤は開放系の出口とつうつうだったので、漏れを封じ込めることができなかった。
(写真はSlideplayer.com から引用)
(写真はNewshopper.Sulekha.Com から引用)
                               全タンク11基の火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
被 害
■ 爆発によって11名(インディアン石油の従業員6名、外部5名)の人が死亡したほか、150名を超す負傷者が出た。

■ 10月29日から始まった火災事故は11日間続き、全タンク11基が損壊したほか、施設にあった建物や設備が損壊した。インディアン石油が被った被害総額はおよそ280クロールルピー(56億円)にのぼり、石油製品の焼失量は約60,000KLであった。

■ このほかに構外の2km先の建物の窓枠が壊れるほどの損傷が出たが、被害の詳細は不詳である。

< 事故の原因 >
■ 事故発生の直接原因は、現場にあるハンマーブラインド・バルブの操作ミスにより、バルブからガソリンが噴出し、蒸気雲を形成した後、爆発したものである。
 (ハンマーブラインド・バルブが開方向にされたとき、タンク本体とハンマーブラインドの間に設置されていた電動弁が確実に閉まっていなかった。さらに、オペレータが噴出するガソリンベーパーに耐えきれず、ガソリンの流出を阻止できなかった)

■ 大爆発に至った間接的な要因はつぎのとおりである。
 ● 現場用の基準となる操作手順書が不備だった。
 ● 遠隔から配管を遮断する設備が不備だった。
     石油産業安全局は、2003年の監査においてジャイプールタンク施設の遠隔遮断装置が機能
    しなかったことを発見した。しかし、調査によると、監査の指摘にもかかわらず、遠隔遮断装置
    を過去6年間作動試験をしていなかったことがわかった。
 ● 災害やリスクとその結果に関する理解が不十分だった。
     漏洩が始まったあとでも、安全対策が計器室からとれていれば、事故は制御できた。計器室に
    上級管理者が不在で、かつ75分間緊急事態時の対応ができなかったため、制御不可能な爆発に
    つながった。
                               発災箇所の被災後の状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
< 対 応 >
■ 事故発生後、少なくとも20台の消防車と30台の救急車が現場へ出動した。

■ インディアン石油は、消火設備が機能しないこともあり、早い段階で燃え尽きさせる消火戦略をとらざるを得なかった。 

■ 石油・天然ガス省は事故原因の究明のため、専門家による調査委員会(7人委員会)を発足させた。2010年2月、 7人委員会は事故調査報告書を石油相に提出した。委員会は事故原因とともにつぎのような対応策を要請した。
   ● 安全のバックアップシステムを確認すること。
 ● 人為ミスを起こさないようにするための改善を行うこと。
 ● 遠隔場所から緊急時の対応がとれるようにすること。
 ● 有効性のある現場用の基準となる操作手順書の整備と遵守させること。
 さらに、運転訓練を改善すること、通信手段を改善すること、保護具の使用に関して教育を徹底することが付け加えられた。

■  委員会は、タンク施設におけるエンジニアリング関連、運転関連、防火対策関連、経営管理関連など広範囲に合計113項目の推奨事項を提起しており、主な事項はつぎのとおりである。
エンジニアリング関連
 ● 縁切りシステムは採用すべきであるが、ハンマーブラインド・バルブはやめて、圧力バランス型のプラグ弁やボール弁に変えるべきである。
 ● タンク直近の第1バルブは遠隔操作方式とし、計器室から操作できるようにするとともに、防油堤外から開閉の操作ができるようにすべきである。第1バルブはファイア・セーフ型でフェイル・セーフにすべきである。
 ● 現場の作業場所は適切な照明を確保すべきである。最小照度は、タンク地区・道路:20ルクス、主要な作業場所・パイプラック:60ルクス、ポンプ室・スイッチ操作場所:100ルクス
 ● 防油堤内の配管設計は、作業時のアクセス性を容易にするよう配慮すべきである。
 ● 防油堤内にあるバルブの開閉位置は計器室で確認できるようにするため、必要なハードウェアや計装を設けるべきである。
 ● パイプライン輸送系統では、システムインテグレータを備えた流量計器を設置すべきである。タンク基地管理システムは常に最新なものにするよう努めるべきである。
 ● タンク液面管理では、レーダー式液面計器による高液位警報を備えるとともに、別な取出しによる高液位警報を設けるべきである。
 ● 食堂を含めタンク基地の運転に関連しない建物は、プラント区域外に配置すべきである。
 ● 建物や構造物は、できる限り、卓越風向の風上になるようにする。計器室、消火用水タンク、消火ポンプ室はタンク区域からできる限り遠い位置に配置すべきである。
 ● 非常口の門は正門から離れた場所とし、 緊急事態時に人が避難することができるようにしておく。

運転関連
 ● 運転基準書は、作業時だけでなく、オペレータが必要と思ったときにすぐ見ることができるように配備しておくべきである。 
 ● 重要な運転時には、作業手順を計器室の見えやすいところに表示しておくべきである。
 ● 手順を変更すべき状況になった場合、変更管理の手続きをただちにとるべきである。これには、ただちにシャットダウンする対応を含むべきである。
 ● 緊急事態対応手順には、主な事故時にとるべき対応方法を記載し、すべての従業員が認識しておくようにしなければならない。
 ● タンク基地で働く全従業員に研修所で火災訓練を受けさせておくべきである。
 ● 直の人員配置は常に維持され、不足がないようにしておかねばならない。

防火対策関連
 ● タンク火災に備えて遠隔操作型で流量可変の長距離泡モニター(3,700 L/min以上)を配備しておくべきである。
 ● タンク基地でガソリンのような危険物を貯蔵する浮き屋根式タンクには、リムシール火災の検知器および消火設備を設置する方がよい。
 ● 揮発性の高い液体が漏洩した場合に蒸気雲の形成を回避するため、中発泡の泡発生器を配備しておく方がよい。
 ● タンク基地の消火用水の必要量は、製油所の場合と同様、同時に2つの火災が起こることを考慮して設定するのがよい。
 ● 緊急事態時の対応のための安全資機材として防火服、漏洩箇所の閉塞器具、油分散剤・油吸着剤、リフティング・ジャッキ(挟まれた作業者の救出用)、危険地区で使用できる強力照明灯などは、タンク基地内ですぐに使用できるようにしておくべきである。
 ● 近くに別な会社のタンク基地がある場合、緊急時対応センターを設置し、消火資機材や人員の訓練について協力して行うことによって費用節減を図るべきである。
   ● タンク区域や主要な場所には、監視カメラを設置すべきである。監視カメラの機能には、通常の状況と異なるような場合に警報や警告を表示できるものを導入すべきである。
 ● ガソリンのような危険物が漏洩する可能性のある場所(例えば、タンク防油堤内、タンクのマニホールド部など)には、ガス検知器を設置しておくべきである。
 ● オペレータには、全員、無線設備を携帯させるべきである。

経営管理関連
 ● 会社組織としての安全機能を強化するため、幹部の質を改善するとともに、上司へ直接報告するようにすべきである。
 ● 内部監査機能の強化のため、クロスチェックすることやプロの安全監査トレーニングを行うようにすべきである。

< 教 訓 >
■  この事故は、大量の可燃性液体を貯蔵して取扱うプラントの安全を考えるとき、運転の安全ルールを固く守ることと、緊急事態時の適切な対応と訓練がいかに重要であるかということを教えてくれる。

■ もし、タンクNo.401Aに設置されていた電動弁に防油堤の外から遠隔で操作できるスイッチが付いていたならば、あるいは漏れ出たガソリンのプールをタイムリーに蒸発抑制のための防護発泡剤(中・高発泡の泡)で覆うことができたならば、このように悲惨な事故は避けることができたかもしれない。

■ ハンマーブラインド・バルブの代わりに高差圧プラグ弁を使用すれば、油が外に漏れる恐れがなく、ハンマーブラインド・バルブと同じ機能を果たせるので、事故を防ぎ得ただろう。一方、過去のいくつかの事例を見ると、大きな損害を与えた事故は機械の故障より、むしろ人為ミスで起こっている。
                ケロシン(灯油)およびガソリンタンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                ガソリンタンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                   座屈したガソリンタンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                         ケロシン(灯油)タンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                              ディーゼル燃料タンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
潤滑油ドラム缶の被害状況 (噴破した缶が多数見られる) 
 (写真はSlideplayer.comから引用)
                                        配管の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                       消火ポンプ室の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                             計器室の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                     本館事務所の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                 構内の車両の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                            走る地元住民  (写真はSlideplayer.comから引用)
補 足
インドのジャイプールの位置
(図はHashim.travel.coocan.jp から引用)
■ 「インド」(India)は、正式にはインド共和国(Republic of India)で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約13億1,000万人で世界第2位である。
 ジャイプールは、インドの北西部に位置するラジャスタン州の州都であり、人口は約305万人の都市である。
 
■ 「インディアン石油」(Indian Oil Corporation ; IOC)は、1964年に設立された国営の石油会社で、ニューデリーに本社を置き、従業員は約34,000人である。インドの大統領が会社の78%の株を有しており、国家統制されている。インディアン石油グループは、国内に11箇所の製油所を持ち、年間8,000万トンの精製能力を有し、139箇所の石油貯蔵ターミナルを有している。 ジャイプールには、燃料供給基地としてのタンク施設を保有していた。発災したタンク施設には、石油貯蔵タンクが11基あり、総貯蔵能力は約113,500KLだった。当時のタンク設備はつぎのとおりである。現在は、タンクが撤去され、遊休地になっている。なお、現在は新しいジャイプール・ターミナルが別な場所に設置されている。
ジャイプールのタンク設備一覧  (表はJstage.jst.go.jp から引用)
                          現在のジャイプールのタンク施設跡 (写真はGoogleMapから引用)
■ ハンマーブラインド・バルブ(Hammer Blind Valve)は、縁切り用の仕切り板の機能を持たせた特殊バルブである。日本国内での使用例は聞かないが、インドの製油所ではかなり使われていると思われる。ハンマーブラインド・バルブの使い方についてはメーカーの一つである「Shreepad Engineering Co.」のウェブサイトに掲載されている。使いこなせれば、ハンマーブラインド・バルブは省力化でコンタミ(混合汚染)を防止できる設備ではあるが、当該事故の調査委員会や損害保険会社はリスクの高い設備という指摘をしている。
(図はShreepad.comから引用)
(図はShreepad.comから引用)
所 感
■ 当該事故は、通称「ジャイプール火災」(またはシータプル火災)としてよく知られたタンク火災事故である。例えば、このブログで紹介した「最近の石油貯蔵タンク火災からの教訓」(2012年5月)では、英国バンスフィールド火災(2005年)、プエルトリコ火災(2009年)、インドのシータプル火災(2009年) の蒸気雲爆発の3つの事例にひとつとして分析の対象とされている。
 (火災の状況は、YouTube「Massive fire erupts at Indian Oil depot in Jaipur」(2015年9月公開)を参照)

■ この事例は、原因がハンマーブラインド・バルブという特殊な縁切り用バルブの操作ミスということで、日本では「対岸の火事」という意識があるが、 人為ミスによる事故を無くすという観点から見たり、タンク施設のあるべき姿(エンジニアリング関連、運転関連、防火対策関連、経営管理関連)という観点から見れば、「他山の石」としての事例になりうると思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
       ・Thetimeofindia.com, 12 Killed in Jaipur IOC Depot Fire, Army Called,  October 30,  2009  
  ・Thetimesofindia.com, Jaipur Fire:Rs500 Crore Goes up in Flame,  October 31,  2009  
  ・Thaindian News.com, Massive Fire at Indian Oil Depot in Jaipur,  October 29,  2009   
    ・Businessline.com, None-Observance of Safety Norms Caused Jaipur Oil Depot Fire,  February 02,  2010
  ・Thehindu.com,  Poor Safety Norms Caused Fire in Jaipur IOC Depot,  February 03,  2010
  ・Smetimestradeinindia.com, Human Error Caused Jaipur IOC Terminal Fire,  February 03,  2010   
    ・Gicrenews.com,  Vapour Cloud Explosion at Indian Oil Corporation Distribution Terminal Jaipur,  General Insurance Corporation of India,  December 05,  2009  
      ・Jstage.jst.go.jp,  インドJaipurでの石油タンクの大規模火災事故,  圧力技術,  Vol.51, No.2,  2013
    ・Slideplayer.com,  Presentation on Jaipur Terminal Fire of 29.10.2009, By SK Roy, Indian Oil Corp.
      ・Slideshare.net, Case study: Fire in IOC terminal Jaipur & IOC terminal Hazira,  March 20,  2014
      ・Oisd.nic.in, IOC Fire Accident Investigation Report, Executive Summary,  April  28,  2016     



後 記: 今回の事故は、当時、大きなタンク火災として世界的に報道されました。その後、原因が判明し、日本でもまとめられ、「インドJaipurでの石油タンクの大規模火災事故」としてインターネットで見ることができます。今回、このブログでも、発災直後の情報をもとに紹介することとしました。このため、再度、インタネットで検索して情報を調査してみました。その結果、インディアン石油の人が発表している資料(パワーポイント)が出てきました。発災時の写真は多くのメディアが発信していましたが、発表資料では、タンク火災の油種が説明されていたり、これまで見たことのなかった構内の被災状況を撮した写真がありました。予想をはるかに越える壊滅的な爆発だったことがわかりました。
 それから、当時、大きな間違いをしていたことが分かりました。インドのメディアから分かりやすいタンクの配置図が出されており、すっかり信じていましたが、これが発災施設でなく、隣接していた別な石油貯蔵所のタンク配置だったことが分かりました。(図を参照) よく似ている配置でしたので、勘違いしたのでしょう。事故について「人為ミス」と非難できないですね。