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2016年5月11日水曜日

サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名

 今回は、2016年4月4日、南太平洋のサモアの首都アピアにあるサモア政府所有の石油貯蔵施設においてタンク1基で爆発があり、死者1名を含む負傷者の出た事故を紹介します。
 (写真はRadionz.co.nz から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、南太平洋のサモア(Samoa)の首都アピア(Apia)のマタウトゥ埠頭にあるサモア政府所有の石油貯蔵施設である。石油貯蔵施設の操業管理はペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社(Petroleum Products Supplies: PPS)が請け負っている。

■ 発災のあったタンクは、2015年に建設された貯蔵容量2,000KLのコーンルーフ式タンク3基のうちの1基である。タンクの建設はパシフィック・エンジニアリング・プロジェクツ社によって行われた。
             発災前のアピア湾付近(矢印が発災場所)   (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年4月4日(金)午前10時頃、アピアのマタウトゥ埠頭石油貯蔵施設のタンク1基で爆発があり、その後、火災となった。タンクから空に向けて大きな黒煙が立ち昇った。

■ 隣接する2基のタンクへの延焼の懸念から、発災場所の近くにある会社・学校や居住区にいた人たちが避難した。この地区には、レストランやクラブ、4つの居住区のほか船舶や税関関係の事務所があり、日頃から人の多いところで、避難した人の数は千人を超えるとみられている。

■ 現場では、爆発によってペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社の従業員1名(31歳)の死亡が確認された。別な1名が病院で手当を受けたが、その後退院している。死亡したのはメンテナンス作業を行っていた作業員の一人で、タンク上で手摺りの溶接を実施していたときに爆発があり、タンクから落下して亡くなったものとみられる。

■ タンク屋根は爆発時に側板から外れるよう意図的に溶接部を弱くしているが、今回の爆発では設計どおりタンク屋根が噴き飛び、地上へ落下した。

■ 発災のあったタンク内には、当時、約1,000トンのディーゼル燃料油が入っていた。(タンクの1/3だったという情報もある)

■ 発災に伴い、アピア消防署が出動してタンク冷却などの消防活動を行った。その後、特殊泡薬剤を有した消防車によって消火活動が行われた。サモア災害対応管理局は、火災は4日(金)午後3時15分に鎮火したと発表した。

■ 消防活動などの対応を行っているときに、消防士を含めて数人が煙吸入によって病院で治療を受けた。 

被 害
■ 貯蔵施設の燃料油タンク1基が火災によって被災した。このほかの被災した範囲や程度は分かっていない。タンク内の燃料油が5時間にわたって焼失した。

■ 爆発時にタンクで作業していた1名が死亡、1名が軽傷を負った。このほか、消防活動などの対応時に数人が煙吸引で治療を受けた。また、千人以上の地域住民が一時避難した。
                  ドローンによる映像  (写真はYouTubeの動画から引用)
 ドローンによる映像  (写真はYouTubeの動画から引用)
            ドローンによる映像  (写真はYouTubeの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 原因調査中であるが、溶接作業の火花がタンク内の可燃性ガスに引火したものとみられている。

■ 5月2日(月)、原因調査について、つぎのように報じられている。
 ● サモア消防・緊急対応庁による調査は終了し、サモア災害対応管理局が最終報告の手続きに入っている。(現時点で報告書の内容は発表できない)
 ● 発災タンクはディーゼル燃料用だった。
 ● タンク内液がディーゼル燃料だけだったら、爆発に至ることはなかった。
 ● タンク内はディーゼル燃料とガソリンの混合油だった。
 ● ディーゼル燃料とガソリンの混合油は溶接の火花で爆発する可能性がある。
 ● 溶接作業は3基のタンクで行われていた。最初の2基では何も起こらなかったが、3基目のタンクで爆発が起った。
 ● 最終報告書の内容を確認し、必要ならば、ディーゼル燃料とガソリンの混合油がどのような経緯で生じたか評価する。(当該貯蔵施設で生じたのか、フィジーから持ち込まれたものか)

< 対 応 >
■ 発災に伴い、アピア市の警察と消防署が現場へ出動した。警察は発災場所近くの道路を封鎖した。消防隊はほかのタンク2基への延焼防止に努めた。

■ 火災拡大を懸念して、隣接する2基のタンクから燃料を移送させようという試みがとられた。

■ アピア消防署はタンク冷却などの消防活動を行うとともに、アピアから約40kmの距離にあるファレオロ国際空港の消防隊の保有する特殊泡薬剤を放射できる大型化学消防車の出動を要請し、火災の消火活動が行われた。発災から約5時間後の午後3時15分に火災は鎮火した。

■ アピア消防署の消防車の放水はタンク高さまで届かなかったのが実情であった。このため、消防隊はタンクの冷却に変更せざるを得なかった。また、消火のための泡薬剤も不足していた。
■ アピア市内のソギにある石油貯蔵施設はタンク爆発の一報を受け、念のため運転を停止したが、その後、運転を再開して通常の操業に戻った。

■ サモア政府のトゥイラエパ・ルペソリアイ・サイレレ・マリエレガオイ首相(Tuilaepa Lupesoliai Sailele Malielegaoi)は、豪州、ニュージーランド、米国に対して、このような事故が再発しないようにするための支援を要請した。
                タンク下に落下したタンク屋根  (写真はSamoaobserver.wsから引用)
               初期の消防活動 (写真は左:Samoaobserver.ws,  右:Spasifikmag.comから引用)
(写真はSamoaobserver.wsから引用)
補 足
■ 「サモア」(Samoa)は、正式にはサモア独立国といい、南太平洋にある島国で、イギリス連邦加盟国である。人口約19万人で、首都はアピアである。サモア諸島は、西経171度線を境として西側に位置するのがサモア独立国で、東側に位置するのがアメリカ領東サモアである。「アピア」(Apia)は、ウポル島北部にあり、人口約36,000人である。
 サモアは、経済的に生産されるものの80%以上が自給用である。農業と沿岸漁業中心で、タロイモなどを生産している。一方、ニュージーランドや米国(ハワイ、カリフォルニア)に国内人口を上回るサモア人が居住しており、この人たちからの送金が経常収支の赤字を埋めているといわれている。
          サモア独立国  (図はIsland.geocities.j pから引用)
■ 「ペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社」(Petroleum Products Supplies: PPS)は、2002年に設立された会社で、2003年にサモア政府所有の石油貯蔵施設の操業管理の契約を入札で取得し、その後、再契約で業務を継続している。業務内容は石油貯蔵施設の運転のほか、石油製品の供給、設備(タンク、ポンプ)のメンテナンスを行っている。従って、亡くなった溶接士もペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社の従業員である。

■ 「発災タンク」は容量2,000KLであるが、グーグルマップによると、直径は約14mなので、高さは約13mとなる。なお、タンクを建設したパシフィック・エンジニアリング・プロジェクツ社のウェブサイトには、建設時のタンク写真が掲載されており、タンク上部は写真のとおりである。タンク周囲の手摺りは設けられている。
建設時のタンク上部  (写真Pacificprojects.co.nzから引用)

所 感
■ タンク内液がディーゼル燃料にガソリンを混合され、気相部に爆発性混合気の形成されていた状態で、火気工事を行ったという過去に多くの類似例のある事故だといえよう。おそらく、ガソリンスタンドのタンク清掃などから出る廃棄ガソリンを利用したものと思われる。漁業の盛んなサモアであり、舶用のディーゼル機関には使用に支障ないと考えたのだろう。また、比較的新しいタンクにおいて、早くもタンク上で溶接作業を行うという要因が重なっている。
 2016年3月に起った「アフリカのガボンで石油タンクが爆発して死傷者7名」の事故と同様、米国でまとめられた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」がまたしても活かされない事故が起きたと感じる事例である。7つの教訓の項目はつぎのとおりである。(詳細は同ブログを参照)
   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行
   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練
   ③作業環境のモニタリング    ⑦請負者への監督
   ④作業エリアのテスト

■ サモアでタンク火災の消火活動は初めてであっただろう。発災写真を見ると、タンク火災に対する初期の消防活動は手の打ちようのない状況である。サモアでは、今回の事例がタンク火災のための消火資機材を整備するきっかけになったようだ。
 一方、最新のドローンによる発災現場の映像が撮られている。タンク火災の状況把握に極めて有効だということが分かる。しかし、撮影者がタンク火災の怖さを認識していないので、タンクの真上を飛んでいる。ドローンが墜落して2次災害の可能性があった。日本でも、このような危険飛行への対策をとる必要があろう。(罰則規定だけでなく、このような事故があれば、実際の現場に飛んでくるドローンへの対策) 
 (ドローンによる映像はYouTube:「OilTank on Fire on Apia Wharf」を参照)

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
  ・Samoanews.com, AIP Fuel Tank Fire,  April  04,  2016 
  ・Radionz.co.nz,  Explosion at Samoa Fuel Tank Kills One,  April  04,  2016
  ・Stuff.co.nz, Fuel Tank Explodes in Apia, Samoa,  April  04,  2016  
  ・Abc.net.au,  Samoa Fuel Tanker Blaze at Matautu Wharf in Apia Claims One Life, Local Media Reports,  April  05,  2016
    ・M.nzherald.co.nz,  One Dead after Fuel Tank Fire in Apia,  April  05,  2016
    ・Spasifikmag.co,  An Investigation to Determine The Cause of An Explosion, Which Clamed The Life of a Maintenaunce Worker, at Apia in Samoa Has Begun,  April  05,  2016
    ・Talmua.com,  Fuel Tank Fire Exposes Urgent Needs for The Fire & Emergency Services,  April  06,  2016
    ・Radionnz.co.nz,  Overseas Experts Lead Inquiry into Fatal Samoa Tank Fire,  April  07,  2016
  ・Firedirect.net,  Samoa – One Dead after Fuel Tank Fire,  April  21,  2016
    ・Sobserver.ws,  Tank Fire Report Completed, F.E.S.A.,  May  02,  2016


後 記: 今回の事例を知ったのは4月の二十日過ぎで、発災から2週間近く経っていました。この頃、シンガポールや中国でタンク火災事故があり、ブログ投稿はそちらを優先してサモアの事故は後回しにしました。そのお陰で、5月初めに報じられた事故原因に関する情報を得ることができました。事故調査報告書はまとまっているのに公表できないという硬い話は、19万人の国でも、1億人の国でも同じですね。同じといえば、タンク火災という一報で近くの石油貯蔵施設の運転を一時停止していますが、テロ攻撃を想起させたのでしょう。南太平洋にあるのんびりしたような国でも、テロに敏感になっているのですね。


2016年5月5日木曜日

中国の石油・ケミカル貯蔵所で爆発・火災、消防士1名が死亡

 今回は、2016年4月22日、中国の江蘇省靖江市にある江蘇徳橋倉庫の燃料油とケミカル類を貯蔵する施設で爆発・火災があり、消防活動中に消防士1名が死亡した事故を紹介します。
(写真はRT.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国の江蘇省(チャンスー/こうそ省)靖江市(ジンジャン/せいこう市)にある燃料油などの貯蔵が専門の江蘇徳橋倉庫(江苏德桥仓储有限公司:Jiangsu Deqiao Storage Co.)の施設である。

■ 江蘇徳橋倉庫は、恒陽石化物流(恒阳石化物流有限公司:Hengyang Petrochemical Logistics Co.)グループの子会社で、施設は長江の靖江港にあり、各種タイプのタンク139基で総貯蔵能力58.3万KLを有して2010年7月から操業を始めた。同社のウェブサイトによると、取扱い品目は原油、燃料油、精製油、灯油、ナフサのほか、炭化水素、カルボン酸、芳香族炭化水素、アルコール、エステル、ケトン、フェノール、その他の化学物質とある。
     発災前の江蘇徳橋倉庫の工場付近(矢印が発災場所)   (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年4月22日(金)午前9時40分頃(8時あるいは9時という情報もある)、江蘇徳橋倉庫の燃料油とケミカル類を貯蔵していた施設で爆発が起こり、火災となった。貯蔵タンク地区の一画から火炎が上がり、黒煙が立ち昇った。炎は数十メートルの高さになった。

■ 事故発生に伴う死傷者は無かったが、近くの工場の労働者が避難した。当局は施設のポンプ場付近から発災したと発表した。当局によると、火災となった原料には、メタノールおよび芳香族混合物を含んでいるという。

■ この爆発・火災は、2015年8月に天津市の港地区で死者165名を出したケミカル貯蔵所の爆発事故を想起させるものだった。

■ 発災に伴い、公設の消防隊が出動した。靖江市当局は火災を制圧したと発表しているが、新華社などのメディアは22日正午の時点でなお燃焼中であると報じていた。

■ 火災の燃焼はガソリンタンクから配管を通じて油が供給される状況であった。火災はポンプ場から近くの貯蔵タンクを巻き込むように広がった。タンクは容量5,000KLと報じられている。火災はときどき爆発的な燃焼を繰り返した。火災面積は2,000㎡に達した。

■ 消防活動中に消防士1名が死亡するという被災者が出た。亡くなったのは靖江市消防署の26歳の消防士で、この消防士は、ほかの消防士を支援するため、火炎に噴霧水を放射していたが、火炎が急に大きくなって逃げ遅れ、炎に巻き込まれたものである。

■ 火災は発災から約16時間を経過した4月23日(土)午前1時50分に鎮火した。  
             発災前のポンプ場付近   (写真はグーグルマップから引用)
(写真はBotanwang.comから引用)
(写真はChinadaily.com から引用)
(写真はChinadaily.com から引用)
被 害
■ 貯蔵施設のポンプ場、配管、タンクなどが被災した。被災した範囲や程度は分かっていない。

■ 消火活動中に消防士1名が死亡した。また、消防隊の消防車2台が被災して壊れた。 

< 事故の原因 >
■ 原因調査中である。ポンプ場付近で発災し、ガソリンタンクから配管を通じて油が流出し続けたため、消火が難航したとみられる。

< 対 応 >
■ 発災に伴い、公安省下の消防署の消防隊が出動した。出動した消防士は消火活動に努めたが、火災はガソリンタンクから油が供給され、燃え広がり、消防隊は一時近づくことができないような状況で、消火活動は難航した。

■ 消火活動には、上海、南京、南通、蘇州、無錫の各市から応援部隊が駆け付け、当初400名といわれていた対応は最終的に600名を超す消防隊によって行われた。

■ 火災は4月23日(土)午前1時50分に鎮火した。それとともに、油配管のバルブを閉止し、燃料源の流出を止めた。消防隊は、再点火しないように現場の冷却を続けるとともに監視している。

■ 江蘇省環境監視センターは周辺環境のモニタリングを行った。避難は近くの住民に対しても行われ、7万人といわれている。鎮火後、住民は帰宅した。
(写真はHinews.cn から引用)
(写真はNews.sohu.comから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はWeibo.comから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はNews.sohu.com から引用)
(写真はNews.sohu.com から引用)
(写真はNews.sohu.com から引用)
(写真はNews.sina.com から引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はNews.sina.com から引用)
補 足
■ 「江蘇省」 (チャンスー/こうそ省)は、中国(中華人民共和国)東部にある行政区で、長江の河口域にあり、人口約7,900万人で、省都は南京市である。
 「靖江市」 (ジンジャン/せいこう市)は、江蘇省泰州市に位置する県級市で、人口約65万人である。上海から約150kmのところにある。
 江蘇省では、最近、つぎのような事故が起きている。
        中国の江蘇省周辺  (図はEdition.CNN.comから引用)
江蘇省靖江市にある江蘇徳橋倉庫
(写真はHyplc.comから引用)
■ 恒陽石化物流のウェブサイトには子会社である江蘇徳橋倉庫の施設内容が掲載されている。これによると、貯蔵タンクは3期に分けて建設されており、容量700KLから20,000KLの間で、多いのは直径14~16mの2,000~3,000KLのタンクである。グーグルマップで見ると、発災点に最も近いタンク2基は直径約16mであり、容量は2,500KL(または3,000KL)と思われる。 記事中に出てくる容量5,000KLタンクは発災点から最も離れたところにあるので、信頼性に疑問がある。発災近くに並んでいるタンクは内部浮き屋根式で気封されている。また、多くのタンクに内部浮き屋根式を使用しているのが特徴である。

所 感
■ 今回の事故情報の数は少なくないが、総合的に見ると信頼性に欠ける記事があり、まとめとしては多くない内容になった。それでも、つぎのような疑問が残る。
 ● 発災後、割と早い段階で出た火災燃料源に、メタノールおよび芳香族混合物とあるが、その後はガソリンに変わっている。
 ● 火災の燃料源として油を供給しているタンクの容量が5,000KLと言われているが、発災点に最も近いタンク2基は容量2,500KL(または3,000KL)とみられる。
 あえて想像でいえば、2,500KLのタンク2基はガソリン混合用のメタノールおよび芳香族混合物の貯蔵タンクではなかろうか。ポンプ場から発災していることからみれば、ポンプのメカニカルシールが破損して、内部液が噴き出して地上火災になったとも考えられる。

■ 発災写真を見ると、消防活動は大変だったことがわかる。大型化学消防車、スクアート車、大型泡モニター、高発泡放出装置、大容量用のホースなどが見られ、資機材は整備されていると思われる。しかし、600名の消防士が出動したとはいえ、発災最前線で活動している消防士が多すぎるように思う。これは、過去の中国における消火活動と同様、2次災害の危険性の高い作業を行っている。今回の火災にメタノールが本当に存在していたかわからないが、メタノールは注水で薄められて火災が広がる可能性があるし、泡消火は泡がメタノールに吸収されてしまうので、耐アルコール性の泡消火薬剤を用いる必要がある。

■ 被災後の写真を見ると、ポンプ場は跡形がなく、パイプラックを一部崩壊するほど火災の勢いが激しい割に、延焼したタンクがなく、損傷が意外と大きくないと感じた。タンクは内部浮き屋根式が多く、中には気封されたものがあるので、この型式が好影響している可能性があり、この点は不幸中の幸いだっとといえよう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Chinadaily.com, Warehouse Storing Chemicals and Fuel Catches Fire in Jiangsu,  April  22,  2016 
  ・Reaters.com,  China Local Government Says Chemical Fire under Control, No Casualities,  April  22,  2016
  ・News.rthk.nk, Jiangsu Chemical Storage Facility Hit by Fire,  April  22,  2016  
  ・Edition.CNN.com,  Warehouse Storing Chemical Products Explodes in China,  April  22,  2016
    ・RT.com,  Huge Explosion & Fire at Chemical Facility in Eastern China,  April  22,  2016
    ・Indianexpress.com,  China:  Blaze  put out in jiangsu’s chemical factory,  April  23,  2016
    ・China.org.cn,  Firefighters Killed in Jiangsu Chemical Blaze,  April  24,  2016
    ・CNN.co.jp,  中国・江蘇省の化学製品倉庫で爆発,  April  22,  2016
  ・Crisismanagement.com.cn,  江苏靖江一危化品仓库发生火灾 燃烧14小时未灭,  April  23,  2016
    ・Baike.baidu.com,  4·22靖江仓储点爆炸事故, April  23,  2016
  ・M.v4.cc,  靖江危化品仓储大火 :16小时生死扑救如何进行?,  April  26,  2016



後 記: 今回の事例は日本のテレビ(JNN)で放送されましたが、一般にはほとんど知られていないというか、報じられなかった事故です。しかし、相変わらず、中国の当局から出される情報は内容が不明瞭で、結論は「問題ない」(今回の場合、火災は制圧された)というものが多いですね。これには、さすがに中国メディアもびっくりした様子がうかがえます。一方、発災状況の写真は豊富です。中国語で検索して得られた写真は、事故の状況を伝える文章をはるかに越えていますね。


2016年4月30日土曜日

シンガポールの石油化学工場でナフサタンク火災

 今回は、2016年4月20日、シンガポールのジュロン島にあるジュロン・アロマティクス社の石油化学工場のナフサタンクが火災になった事故を紹介します。
 (写真はFacebook.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、シンガポールのジュロン(Jurong)島にある石油化学会社ジュロン・アロマティクス社(Jurong Aromatics Corp)の石油貯蔵施設である。

■ ジュロン・アロマティクス社は、58ヘクタールの敷地を有し、パラキシレン、ベンゼン、キシレンの芳香族化合物を年間150万トンの生産能力で2014年9月に操業開始した。原料は液化天然ガス(コンデンセート)で、芳香族製品のほかジェット燃料、超低硫黄軽油、軽質ナフサ、LPGなど年間250万トンの石油製品の生産能力がある。貯蔵施設は地上式のタンクのほか地下岩盤貯蔵タンクを有しており、コンデンセートを貯蔵している。ジュロン・アロマティクス社の主要株主は韓国財閥のSKグループで30%を保有している。しかし、最近の原油や天然ガス価格の下落の影響を受けて、生産施設は2014年12月から休止していた。

■ 事故のあったのは、芳香族化合物生産プラントへ供給するための原料ナフサの貯蔵用タンクである。タンクの大きさは直径約40m×高さ約20mで、発災時、貯蔵容量(25,000KL)の約10%に相当する2,500KLほどのナフサが入っていた。 タンクまわりは、高さ2mで幅100m×長さ150mの防油堤が設置されている。
      ジュロン・アロマティクス社の工場付近(矢印が発災タンク)  (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年4月20日(水)午後3時前、石油貯蔵施設にあったナフサタンク1基が火災を起こした。タンクから立ち上げる炎は対岸から視認できた。

■ ジュロン島で作業していた目撃者の話によると、火災は午後2時45分頃に起ったといい、「当時、激しい雨が降っており、雷も鳴っていました。建物が揺れるのを感じました」と語っている。別な目撃者は、「ちょうど落雷があったときに、数百メートル先から黒煙と炎が上がりました。石油タンクのひとつから火の手が上がったのです」と語っている。爆発的な様相を呈した火災だったとみられ、火炎の高さは60mに達していたという。

■ 発災に伴い、シンガポール市民防衛庁(Singapore Civil Defence Force: SCDF)が現場へ出動した。SCDFの消防隊が現場に到着したときには、 CERT(Company Emergency Response Teams: シンガポール企業緊急対応チーム)の一員であるジュロン・アロマティクス社の自衛消防隊が地上式の水モニターで対応を始めていた。

■ 火炎の勢いが激しく、タンクの側板半分が座屈して折りたたまれた状態になった。発災から約1時間後に、周辺にある事務所の人たちへジュロン島から避難するよう連絡がまわった。

■ 消防活動の結果、発災から約5時間後の午後7時45分に火災は制圧された。この消防活動中、 SCDFの消防士1名が熱疲労で病院へ搬送された。

被 害
■ ナフサ貯蔵タンクが火災によって損壊し、タンク内(約2,500KL)に入っていたナフサが焼失した。このほかの被害の程度は分かっていない。

■ 消火活動中、消防士1名が熱疲労で病院に搬送された。
(写真はYoutube.com から引用)
< 事故の原因 >
■ 原因調査中である。事故は落雷による可燃性ガスへの引火による可能性が高い。

< 対 応 >
■  SCDF(シンガポール市民防衛庁)は、午後3時にジュロン島テンブス通り沿いにあるタンクが火災になっているという通報を受け、7つの消防署の消防隊150名が38台の消防車両で現場へ出動した。現場に到着した消防隊はすさまじい熱を感じた。消防隊長によると、タンク近くの温度は700℃ほどだったという。

■ 火災を制圧するため、放射能力6,000ガロン/分(22,700L/分)の大容量泡放射砲(泡モニター)を配置し、このほか、隣接タンク2基を冷却するためドレンチャーシステムなどを配備した。 消防隊によると、大容量泡放射砲は高い水圧を必要とするので、ときどき他の放水を停止して、大容量泡放射砲の水圧を保持したという。

■ 午後5時30分時点でジュロン島の西部にいた報道カメラマンによると、炎と煙の勢いは弱くなっていたという。

■ 発災から約5時間後の午後7時45分に火災は鎮火した。 SCDFの関係者は、「タンクが座屈し、まわりに広がるのを防ぐ必要があり、消火活動は時間との戦いだった」と語っている。
               座屈が急激に進行する瞬間    写真はSingapore.coconuts.co から引用)
(写真はStraitsatimes.com から引用)
 (写真はFacebook.com から引用)
(写真はFacebook.com から引用)
 (写真はFacebook.com から引用)
 (写真はFacebook.com から引用)
(図はTNP.sp から引用)
補 足
■ 「シンガポール」(Singapore)は、正式にはシンガポール共和国で、東南アジアの主権都市国家かつ島国で、人口は約540万人である。マレー半島南端に位置し、同国の領土は菱型の本島であるシンガポール島および60以上の島から構成される。
 「ジュロン」(Jurong)は、シンガポール西部にある地区で、1960年代に職住近接型の工業団地・ニュータウンとして開発され、人口は約35万人である。南の沖合に石油化学工業地区として造成されたジュロン島がある。
 シンガポールでは、最近、つぎのような火災事故が起こっている。
 ● 2011年9月28日、プラウ・ブコム島にあるロイヤル・ダッチ・シェル系列のシェル・イン・シンガポール製油所において貯蔵タンク地区のパイプラインから火災が起こり、鎮火までに32時間かかった。火災原因はナフサタンクへの接続配管のメンテナンス作業のミスによるものであった。100名を超す消防隊が出動して消火活動を行った。この事故に伴う死者は出ていない。「シンガポールのシェル製油所のタンク地区で火災」(2011年10月)、「シンガポールのシェル製油所火災-2011   その後の情報」(2012年9月)を参照。
 ● 2007年5月3日、ジュロン島の工業地区で2件の火災が起った。ひとつはジュロン島にあるエクソンモービル社のシンガポール製油所で起ったもので、死者2名と負傷者2名が出た。もう1件は、ジュロン・オイル&ケミカル・プラントで起った火災事故で、火傷によって1名の死者が出た。
                    シンガポールのジュロン島周辺  (写真はグーグルマップから引用)
■ 「SCDF」(Singapore Civil Defence Force:シンガポール市民防衛庁)は、シンガポール政府の内務省に属する機関で、火災や災害時の消防、救援・救助、緊急搬送などの業務を行なうほか、火災予防、市民保護に関する規制を策定し、実施する任務を担っており、職員数は約6,000人である。

■ CERT(Company Emergency Response Team企業緊急対応チーム)は、シンガポールの企業で異常事態が発生した際に適切な対応が行なうことができるように設立されたもので、 これをまとめる団体がA-CERT(Association of Company Emergency Response Teams (Singapore):シンガポール企業緊急対応チーム協会である。A-CERTには企業会員のほか、個人会員も参画できるようになっている。2005年、石油および可燃性物質の防火に関する法律が制定されたことから設立されたものであるが、この背景には公設消防が来る前の企業による緊急対応能力を促進させようとするもので、SCDFが強力に推進し、CERTの訓練や教育を支援している。 A-CERTは、つぎのような教育(資料)を公表している。

■  「消火泡および冷却水」 の基本について、A-CERTの「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」ではつぎのように述べている。
  ● 消火泡は、NFPA11によれば、火災面積当たり4.1 L/min/㎡、フォームダムでは12.2 L/min/㎡を基本とする。
  ● 移動型泡モニターでは、泡の自然消滅、火炎の上昇気流、風によって供給量の25%がロスするとみておく。
  ● 泡放射はフットプリント法による。
  ● 冷却水は、NFPAによれば6.5 L/min/㎡を基本とする。
 これによれば、直径40mのタンクでは放射能力5,200L/min以上の泡モニターを要することになる。日本の法令では、直径40mのタンクの場合、放射能力10,000L/minの大容量泡放射砲を必要とする。実際には、放射能力22,700L/minの大容量泡放射砲が使用されているので、泡モニターの能力としては問題ない。(泡放射能力18L/min/㎡ に相当)
 一方、ナフサの燃焼は激しく、原油やガソリンと比べて燃焼速度が速い。日本の実験では、ガソリンの0.33m/h、原油(アラビアライト相当)の0.29m/hに対して、軽質ナフサは0.62~0.87m/hというデータがある。今回のナフサタンク(高さ20m)には貯蔵容量(約25,000KL)の約10%のナフサが入っており、油の深さは約2.0mとなる。ナフサの燃焼速度を0.62m/hと仮定すれば、約3.2時間で燃え尽きることになる。

所 感
■ 今回の事故原因は調査中となっているが、落雷によるものと思われる。プラントは操業されておらず、タンク内のナフサも運転停止時の液位で動いていないと思われる。気温の上下でタンク内の気相部に空気が入り、爆発混合気になっていたのではないだろうか。このため、ドーム式屋根の一部を破壊するような爆発的な燃焼が起こり、全面火災に近い状況になったものと思う。また、火災によりタンク側板が座屈しているが、燃焼の途中で急速に進行する座屈現象があったようで、ナフサ燃焼のすさまじさを示すものであろう。

■ シンガポール市民防衛庁(SCDF)は情報の公開に開放的な組織である。今回も、どのような消火戦術をとったか、写真や状況図を含めて事故後の早い段階で公表している。(状況図の解説は不鮮明で残念ながら判読できないが)
 石油貯蔵タンク火災の消火戦略を確立させているだけに、対応は基本どおり行われている。しかし、タンク屋根が内部に落下して「障害物あり全面火災」になったとみられることと、ナフサの燃焼力が激しく、早期の消火には至っていないと思われる。幸いなことに液位が2mほどで、燃焼が弱まって燃え尽きる状況になったのが約5時間ほどで消火できたものと思われる。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・In.Reuters.com, Oil Tank at Singapore’s Jurong Island Catches Fire,  April  20,  2016 
  ・Icis.com,  Fire Hits JAC Naphtha Storage Tank in Singapore,  April  20,  2016
  ・Channelnewsasia.com, Oil Tank Catches Fire on Jurong Island,  April  20,  2016  
  ・Todayonline.com,  Oil Tank Blaze at Jurong Island,  April  20,  2016
    ・Tnp.sg,  Jurong Island Fire Was at Light Crude Oil Tank,  April  21,  2016
    ・Hawkesfirefire.co.uk,  Singapore – Crude Oil Tank Fire, Jurong Island,  April  22,  2016
    ・TNp.sg,  Firefighters Recount Tackling Jurong Island Oil Tank Fire,  April  23,  2016
    ・Businesskorea.co.k,  SK Stops Operation of Chemical Plant in Singapore to Cope with Oil Price Drop,  January  22 


後 記: 今回の事例は事故情報の連絡を受けて知りました。最近、タンク事故が無いと思っていたら、この事例のほかに矢継ぎ早に世界でタンク事故が起こっています。日本でも、昭和40年代(1970年代)に石油コンビナート事故が続発しました。熊本地震のように大分の方まで影響して地震が起きているというのは、地質学的に理解できますが、何ら関係のない国や企業で事故が続いて起こるのは、なぜでしょうか。
 ところで、熊本地震は一向に収まる様子ではありません。私も九州生まれで心が痛みます。しかし、地震前の4月3日に放映されたNHKの「巨大災害 MEGA DISASTER Ⅱ 日本に迫る脅威  地震列島 見えてきた新たなリスク」を観ていましたので、変に納得していました。GPSによる日本列島の動きを分析すると、2011年3月の東日本大震災以降、どこでも巨大地震が起こっても不思議でないという指摘がまさに当たっています。