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2025年6月13日金曜日

中国山東省の化学工場で爆発、連続フロープロセスか? 死傷者24名

 今回は、2025527日(火)、中国の山東省高密市にある農薬や医薬品などを製造する山東友道化学有限公司の化学工場で大規模な爆発が起き、施設は壊滅的に損壊し、死傷者24名とさらに行方不明者6名が出た事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、中国の山東省(シャントン‐シュン/ さんとうしょう)濰坊市(ウェイファン‐シ /いほうし)高密市(ガオミー/こうみつし)にある山東友道化学有限公司の化学工場である。山東友道化学社は農薬や医薬品などを製造する会社で、工場は山東省高密市の東部沿岸に近い地域に位置し、従業員は300人以上だという。

■ 事故があったのは、山東友道化学社の化学工場内の施設である。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025527日(火)正午前、化学工場で大規模な爆発が起きた。

■ 工場から爆発で灰色とオレンジ色の大きな煙が高く立ち昇り、周辺の建物では天井が落下したり、窓枠が壊れるなどの被害が出た。爆発の威力は3km離れた倉庫の窓ガラスを吹き飛ばすほどだった。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。200人以上の消防士が消防車とともに現場で対応にあたった。

■ 工場近くの住民は避難した。近くの学校では校舎のガラスが割れ、生徒は一時休校となった。割れたガラスでケガした生徒もいた。

■ 爆発現場から3kmほど離れた宿泊施設で勤務する人は、正午ごろ爆発音を聞いたといい、「爆発音はドスンとかなり大きく、ほんの一瞬でした」と語った。爆発現場から約6km離れた工場で働く別の人は、爆発音と揺れがあり、それから突風を感じたといい、「突然に吹いた強い風にとても怖くて、事務所から出る勇気がありませんでした」と語った。

■ 爆発後、現場は封鎖された。電力線が断線したため、付近は停電した。 

■ 事故現場は、工場の建物が完全に破壊され、鉄骨構造の屋根がねじれ、バーストで発生した瓦礫が1.5km離れた場所まで飛散するなど爆発による産業災害の様相を呈していた。

■ 爆発の影響で自宅に被害の出た住民のひとりは「正直にいって、本来この化学工場はこんなに近くにあるべきではない。近すぎるでしょう? 特に夜間に操業しているときなどは、工場からの臭いがとてもきつい」と話していた。 また別の女性は「役所からはホテルに泊まるように言われたが、12日ならまだしも、今の私たちを見てほしい。土地も何もなく、私たちには他に暮らす場所がない」と語った。

■ 濰坊市生態環境局は爆発現場の調査に職員を派遣したが、まだ結果は出ていないと述べた。同局は周辺住民に対し、当面の間マスクを着用するよう勧告した。

■ ベンゼン類の濃度は風下2kmで基準値の3倍を超える値が検出され、雨水によって周辺の河川の生態学的安全性が心配されている。

■ 爆発事故は、工場の作業員の仕事が終わって10分後に起きたという。

■ 事故にともない、5名が死亡、19名が負傷した。また、6名の行方が分かっていない。現場では、救助活動と医療活動が行われた。

■ これらの報道に対して爆発規模から死傷者はもっと多いのではないかという意見と、昼の休憩時間にかかったため、死傷者が少なかったのではないかという意見に分かれている。

■ ユーチューブやインスタグラムなどでは、爆発事故に関する動画が投稿されている。

 InstagramDaily Mail/Chemical plant explosion leaves five dead2025/05/28

 ●YoutubeChina News: Massive Explosion at China Chemical Plant, Toxic Gas Fears in Shandong Province2025/05/28

 ●Youtube「中国山东化工厂爆炸 至少5人死亡6人失联2025.05.28 八度空间】」2025/05/28


被 害

■ 山東友道化学社の化学工場の施設の大部分が損壊した。

■ 5名が死亡、19名が負傷した。また、6名が行方不明である。

■ 周辺の住民が避難した。近くの学校が休校になった。

■ 化学工場の周辺の建物や窓ガラスが壊れるなどの被害が出た。

■ 化学工場内にあった化学物質が大気へ放出され、環境汚染を起こした。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。 化学工場で採用した連続フロープロセスの本質安全が問われている。

< 対 応 >

■ 当局によると、火災は鎮圧されたという。しかし、爆発翌日も施設のがれきから依然として煙が立ち上っていた。

■ 今回の爆発事故の調査が始まったが、「連続フロープロセス」について本質安全の神話を揺るがしたと指摘されている。一見偶然のように見える今回の事故は、技術的な傲慢さと安全管理の欠如がもたらした苦い結果だとみられている。

■ 2024年、山東友道化学社の化学工場は少なくとも2回の安全リスクを指摘されている。一方、20249月には濰坊市応急管理局から、職場のリスク管理を従業員に頼っているとして称賛されている。具体的には、山東友道化学社の従業員は2024年の最初の8か月間で800件以上の安全上の危険を特定し、すべて是正したという。中国では、職場の安全性は長年にわたり向上してきたものの、依然として根深い問題がある。

 調査が深まるにつれ、山東友道化学社の安全管理における暗部が徐々に明らかになってきた。データによると、登録資本金10億元のこの会社が安全上のレッドラインに触れたのは初めてではない。2021年には、規定に従って安全生産管理組織を確立していないとして行政処分を受け、2023年には重大事故の危険性の是正が完了していないとして、省レベルの潜在危険リストに掲載された。2024年に濰坊市応急管理局が審査した際も、潜在危険の是正は依然として基準を満たしていなかった。

 周辺住民がずっと苦情を訴えていた刺激臭は、爆発後のベンゼンと窒素酸化物の過剰排出によるものであることが確認された。

■ 山東友道化学社の第二期1万トンクロラントラニリプロール技術プロジェクトは、親会社の昊麦集団有限公司が自主開発した全連続フロープロセスと設備を採用した。この装置は全工程自動化制御とし、本質安全の実現を前提として、労働力を50%以上削減し、エネルギー消費を30%以上節約し、収率を10%以上向上させ、化学業界のグリーンで安全な産業潮流を牽引しているといわれていた。 

■ 中国化学安全協会の専門家のひとりは、事故について3つの可能性があると指摘している。第一に、プロセスまたは原材料の一時的な変化により反応が制御不能になったかどうか、第二に、SISDCSなどの安全対策の失敗により引き起こされたかどうか、そして第三に、異常な操作条件に対する不適切な処理方法により引き起こされたかどうかである。 

注; SISSafety Instrumented Systemの略で、産業用システムにおいて安全装置や緊急停止などの機能を制御するシステムで、安全計装システムと呼ばれている。 DCSDistributed Control Systemの略で、分散型制御システムといい、プラントなどの生産現場で、計測器や制御装置を分散配置し、ネットワークで接続して制御を行うシステムである。

■ 連続フロープロセスは化学安全分野における革命的なイノベーションである。マイクロリアクターの低い液体保持容量は、理論上はエネルギー放出のリスクを低減できる。しかし、山東友道化学社では、この先進的なシステムが“エネルギー濃縮物放出装置” と化したとみられる。シールの破損や緊急遮断装置の故障により、ニトロ化、塩素化、水素化など国家規制で定められた15の重要な危険プロセスが、閉鎖空間内で致命的な連鎖反応を引き起こしたとみられる。事故当日の気温は32℃に達し、高温の天候によって化学物質の揮発が加速された。さらに、会社は規定通りに高温生産制限計画を発動しなかったため、この技術要塞が火薬庫と化したといわれている。

補 足

■「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約139,000万人で、首都は北京である。

「山東省」(シャントン‐シュン / さんとうしょう)は、中国の省のひとつで、北には渤海、東には黄海があり、黄河の下流に位置し、人口約9,579万人で、省都は済南市である。

「濰坊市(ウェイファン‐シ / いほうし)は、山東省中部に位置し、東は青島市、煙台市と隣接し、西は淄博市、東営市、南は臨沂市、日照市と接し、北は渤海の萊州湾に面する人口約251万人の地級市である。

「高密市(ガオミー‐シ / こうみつし)は、山東省濰坊市に位置する県級市で、 膠東半島(山東半島)と山東省内陸部の中間に位置し 人口約83万人の市である。

■「山東友道化学有限公司」は20198月に設立され、山東省濰坊市高密人和化学工業園区に位置し、敷地面積は46ヘクタールを超え、登録資本金は10億元で、従業員数は300名を超えている。山東有道化学社は昊麦集団有限公司の完全子会社である。

 主な製品は、クロルフェナピル原薬と中間体、メトキシフェノピル中間体2-メチル-3-メトキシ安息香酸/塩化物などであるが、ここ数年、殺虫剤の製造に特化して事業を展開している。特に「クロラントラニリプロール(Chlorantraniliprole)」という有効成分の原薬を年間1万トン生産する能力を有し、総投資額は10億元、年間売上高は50億元を超えるといわれている。20254月には、同社のクロラントラニリプロール原薬が米国環境保護庁(EPA)から登録承認を受け、中国企業としては初めてこの製品で米国における自主登録を達成した。これにより、国際市場における同社の存在感が一気に高まり、業界内でも注目を集めていた。

■「発災場所」はグーグルマップで調べたが、特定できなかった。グーグルマップでは、高密市の工業団地はフィルターがかかって見ることができなかった。

■ 「連続フロープロセス」は、化学合成技術のひとつであるフロー法で、環境負荷の低減、効率、安全性の面で様々な利点を持ちながら、医薬品などの複雑な化合物の合成は困難とされてきたものを連続フローシステムを構築することで、フロー法のメリットをそのままに、構造的に複雑な化合物(医薬品)を合成することができる。原料を流すだけで医薬品を合成するクリーンな新技術は、フロー精密合成技術といわれ、医薬品、香料、農薬、機能性材料などさまざまな精密化学品の合成ができる。

 従来、化成品や精密化学品などの化学製品は、99%以上が全ての原料等を反応釜に投入し、物質の反応がすべて終了した後に生成物を取り出すバッチ法を繰り返し行うことで合成されている。この手法では、複雑な構造をもつ化合物の合成が可能である反面、各段階で中間体の単離・精製操作を繰り返すため、余分なエネルギーや労力を必要とし、さらには廃棄物が多量に排出されるという望ましくない点がある。

所 感

■ 今回の事故は発災事業者や関係機関から原因に関わる情報はほとんど報じられていない。しかし、インターネットでは、連続フロープロセスに関わる安全管理の欠如という指摘が出されている。確かに被害写真を見ると、これまでの化学工場の事故にないような壊滅的な被害である。

 連続フロープロセスは新しい技術であり、安全対策や安全管理に関する新しい対策や管理方法を見直す必要があるのだろう。本来ならば、発災事業者や関係機関から事故原因と対策について公表され、社会に貢献するべきである。

■ 消防活動の詳細は発表されていない。 200人以上の消防士が消防車とともに現場で対応にあたったと報じられているだけである。どのような消防活動が行われたか分からないが、施設は爆発とそのあとの衝撃波で損壊しており、消防隊が消火活動を行うという状況ではなかっただろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Nhk.or.jp,  中国 山東省の化学工場で大規模爆発 5人死亡 19人けが,  May  28,  2025

     Yahoo.co.jp,  中国山東省の化学工場で爆発、5人死亡・6人不明 住民「他に暮らす場所ない」,  May  29,  2025

     Jiji.com,  化学工場で爆発、24人死傷 中国山東省,  May  27,  2025

     Aljazeera.com,  At least five reported killed in large explosion at China chemical plant,  May  27,  2025

     Nbcnews.com,  5 dead and 6 missing after explosion at Chinese chemical plant,  May  28,  2025

     Liveindia.tv, Video: Huge Explosion at China Chemical Plant Sends Mushroom Cloud Over Town ,  May  28,  2025

     Ahmedabadmirror.com, Explosion at chemical plant in China kills five,  May  28,  2025 

     News.cn,  山东高密化工厂爆炸事故致5人死亡6人失联,  May  27,  2025

     Mem.gov.cn,急管理部度指高密  一化工厂爆炸事故应  派出工作组专业救援力量赴现场,  May  27,  2025

     News.cctv.com,  山东高密化工厂爆炸事故致5人死亡6人失联,  May  27,  2025

     Epochtimes.com, 山东高密化工厂爆炸 至少519 6人失联,  May  27,  2025

     Q.stock.sohu.com, 山东高密化工厂爆炸:一被技掩盖的安全悲,  May  28,  2025

     Nfnews.com,  山东高密化工厂爆炸:十公里外仍听到爆炸声,三大原因待,  May  28,  2025

     Wuu.wikipedia.org, 2025年山东高密友道化学有限公司爆炸事故,  May  30,  2025 


後 記:タンク事故では無いのですが、爆発時の写真(標題の写真)を見て異常な状況であることを感じましたので、調べることとしました。しかし、日本に流れている記事では大爆発だと報じられていますが、何が起こったかについてははっきりしません。ところが、中国のインターネット情報では、事故後、すぐに連続フロープロセスの本質安全の神話を揺るがしたと指摘されていました。おそらく、中国国内では、連続フロープロセスに関して話題になっていたのだろうと感じました。中国では、新しい技術の導入については敢然として(「決然と」、「果敢に」、「思い切って」、「覚悟の上で」)突き進むのでしょう。

 一方で、被災写真を見れば、死傷者の数に疑問がありますが、中国では“直接的” な被害者だけのデータで、工場外の間接的な被害者は別にすることが基本です。それから今回の発災場所(地図)についてはグーグルマップによる検索を早々にあきらめました。これらはこれまでブログをやってきた経験でわかっていましたので・・・

 

2025年6月7日土曜日

エクアドルの製油所において燃料タンクまわりで爆発・火災、負傷者3名

 今回は、2025526日(月)、エクアドルのエスメラルダス県にある国営石油会社ペトロエクアドル社エスメラルダス製油所の用役エリアにある燃料タンクまわりで火災が発生し、その直後、爆発が起こり、負傷者3名が出た事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、エクアドル(Ecuador)エスメラルダス県(Esmeraldas)にある国営石油会社ペトロエクアドル社(Petroecuador)のエスメラルダス製油所である。製油所の精製能力は11万バレル/日である。

■ 事故があったのは、エスメラルダス製油所の用役エリアにある燃料タンク2基である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025526日(月)午前1030分頃、エスメラルダス製油所内の用役エリアにある燃料タンクまわりで火災が発生し、その直後、爆発が起こった。

■ 製油所からは大きな黒煙と炎が立ち上った。火災による煙は、海岸沿いのエメラルダス市の上空を覆った。製油所従業員のひとりは「大きな音が聞こえ、みんな走り出した」と語っている。

■ 発災にともない、エスメラルダス消防署は消火資機材とともに消防隊を出動させた。

■ 事故にともない、現場から従業員が避難した。住民は施設から大量の煙が上がり、続いて爆発が起こるのを目撃し、警戒を強めた。エクアドル警察は、近隣住民を避難させた。しかし、避難者の人数は明らかでない。 

■ エクアドルのエネルギー大臣は、状況は制御下にあると述べたが、この声明は住民の懸念を和らげるのにほとんど役立たなかった。

■ 火災による負傷者はなく、5人が煙を吸い込んだことによる軽度の症状で医療処置を受けたと発表されたが、消防署によると、3人が被害を受け、 病院に搬送されたという。

■ 警察と軍の兵士らは、安全を確保し、緊急車両の通行を可能にするため、製油所への道路を封鎖した。

■ ペトロエクアドル社は、製油所の操業を施設と従業員の安全を守るために停止したと発表した。 

■ エスメラルダス製油所付近の学校は休校になった。

■ 火災の原因は不明である。ペトロエクアドル社は、火災発生時にタンク内にあった燃料の量を明らかにしなかった。一方、メディアの中には、貯蔵タンクの故障が起因と報じているところもある。

■ ペトロエクアドル社は、燃料タンク2基と変電所に損傷が確認され、操業能力に影響が出ていると発表した。同社は声明で「発災により主要装置と補助蒸気・電力システムが緊急停止した」と述べた。その後の調査で被害の内容はつぎのとおりだという。

 ●燃料タンクの損傷(タンク番号;Y-T2501および Y-T2502

 ●火災により社内消費用の燃料油システム(配管、計器、ポンプ、その他の関連機器を含む)の損傷

 ●火災の直接的な結果として、変圧器、電気パネル、モーター制御センター、フィーダー、コントローラー、周波数インバーター、配線、計器、その他の関連機器に影響を及ぼし、変電所が全面的な損害が発生

 ●火災現場付近のタンク、機器、ケーブル、配管などを含む機器への熱放射による損傷は検査中である

■ 必要な調査や工事のため、製油所は6月まで稼働停止となる。

■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

 YoutubeIncendio en la Refinería de Esmeraldas2025/05/27

 ●YoutubeUn incendio de gran magnitud se registró en la Refinería de Esmeraldas2025/05/27  

 ●Facebook #refineriadeesmeraldas #incendio Refinería de Esmeraldas sale de operación, tras explosión en un tanque de combustible aproximadamente a las 10:00 de este lunes 26 de mayo se registro la detonación2025/05/27

  ●YoutubePetroecuador declaró a la Refinería de Esmeraldas en emergencia2025/05/31


被 害

■ 被害の概要はつぎのとおりである。

 ●燃料タンクの損傷(タンク番号;Y-T2501および Y-T2502

 ●火災により社内消費用の燃料油システム(配管、計器、ポンプ、その他の関連機器を含む)の損傷

 ●火災の直接的な結果として、変圧器、電気パネル、モーター制御センター、フィーダー、コントローラー、周波数インバーター、配線、計器、およびその他の関連機器に影響を及ぼし、変電所が全面的な損害が発生

■ 負傷者は3名発生した。

■ 事故により、製油所従業員が避難したほか、近隣の住民が避難した。製油所の近くの学校が休校になった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は不明で調査中である。

< 対 応 >

■ ペトロエクアドル社は、事故発生後、直ちに緊急時対応計画を発動し、対応した。

■ ペトロエクアドル社は、火災は午前1130分頃に鎮火したと発表した。

■ エスメラルダス製油所で発生した火災を受け、エクアドル空軍(FAE)の航空機部隊が派遣され、支援および緊急制御活動を実施した。第21戦闘航空団のアルピア・ヘリコプターは、被災地上空を飛行し、上空からの監視と調整作業を支援した。

■ 529日(木)、エスメラルダス製油所は60日間の非常事態を宣言した。今回発生した火災で燃料タンクの一部が損傷したことを受け、1か月で2度目の非常事態宣言となった。

■ 今年4月末、ペトロエクアドル社は、同地域を襲ったマグニチュード6.3の地震による被害を受け、製油所に対し60日間の緊急事態を宣言していた。首都から北西に182km、コロンビアとの国境に位置するエスメラルダス市にあるエスメラルダス製油所では、マグニチュード6.3の地震が発生し、一部の設備が損傷していた。

■ ペトロエクアドル社は、526日に発生した燃料油タンクの火災による被害を受けたエスメラルダス製油所の操業について72日(水)に再開する予定だという。しかし、FCC装置などは7月中に操業を再開することはできないと明言しており、代替変電所への電気接続の計画的な移行に依存しているという。

■ エクアドルは南米有数の石油生産国であり、収入は石油輸出に大きく依存している。2024年には、同国は約475,000バレル/日の原油を生産し、そのうち約4分の3を販売して、86億ドルの石油輸出収入を得ている。

 しかし、昨年は過去60年間で最悪の干ばつに関連した度重なる停電により生産が中断され、水力発電用貯水池の水位が史上最低にまで低下した。今年3月には、大規模な燃料パイプラインの漏れにより、25,000バレル以上の原油が3つの河川に流出し、原油輸出も停止を余儀なくされた。

補 足                                                                          

■「エクアドル」(Ecuador)は、正式にはエクアドル共和国といい、南アメリカ大陸北西部に位置する共和制国家で、人口約1,813万人である。北にコロンビア、東と南にペルーと国境を接し、西は太平洋に面する。本土から西に1,000kmほど離れたところにガラパゴス諸島を領有する。

「エスメラルダス県」(Esmeraldas)は、エクアドルの北部に位置し、人口約53万人の県である。

「エスメラルダス市」は、エスメラルダス県の西に位置する県都で、人口約15万人の都市である。

■「ペトロエクアドル社」(Petroecuador)は、1989年に創設されたエクアドルの国営石油会社である。

ペトロエクアドル社は、精製能力11万バレル/日のエスメラルダス製油所のほかに2つの製油所を保有し、それぞれ45,000バレル/日と20,000バレル/日の生産能力がある。

■「エスメラルダス製油所」は1970年代後半に建設され、エクアドルの主要パイプラインで輸送される同国のアマゾン地域産の原油を原料としている。その生産は国内消費と輸出の両方を目的としており、ガソリン、ディーゼル燃料、国内ガスなどの派生製品が生産されている。

 エスメラルダス製油所はエクアドル最大の約11万バレル/日の原油を処理する能力があるが、通常はフル稼働を下回る稼働率で操業している。製油所の操業を維持し強化するために、技術的検討が行われ、 2019年に新たな改造工事が実施され、昨年9月に新フェーズが完了した。 1年前にも火災があったが、深刻な影響はなかったといわれている。

■「発災タンク」は燃料タンク2基と報じられているが、詳細仕様はわからない。グーグルマップで調べると、被災地区に直径約10mの固定屋根式円筒タンク2基がある。高さを10mと仮定すれば、容量は約780KLである。メディアの中に容量2,544㎥と報じているところもあるが、直径10mのタンクでは高さが30mを超え、高すぎる。被災写真を見ると、タンク側板に保温材が取り付けられているので、油種は重油相当だとみられる。

所 感

■ 今回の爆発事故を撮影した動画を見ると、①最初に白い湯気のような煙が立ち昇ったあと、大きな災が湧き上がっている。②その直後、爆発が起き、炎と黒煙が立ち昇っている。③火災はタンクの屋根部からというより、タンク防油堤のような広い個所から上がっている。④被災写真を見るとタンク屋根は噴き飛んではいない。

 このように見てくると、爆発・火災は燃料タンクの防油堤内または堤外に流出していた油によるものではないだろうか。燃料タンクの油種は重油相当だとみられるので、この油が流出していたとしても爆発に至るとは考えにくい。防油堤外の別な軽質油が流出したのではないかと思われる。しかし、最初に白い湯気のような煙は説明がつかない。

 事故は偶発的に起きたのではなく、日常点検や設備管理の抜けによって発災したように思う。

■ 火災は消火活動約1時間で鎮火したと報じられている。最盛期の火災の写真を見ると、かなり激しい。一方、エクアドル空軍が派遣され、ヘリコプターで上空を飛行し、監視と調整作業を支援したとあり、実際の消火活動はもっと時間がかかったと思われる。しかし、タンク火災というよりプロセス装置の火災に似ており、火災に関与した油量が限定され、この油が燃え尽き、消火活動時間が比較的短かったと思われる。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

    Reuters.com, Petroecuador declares emergency at Ecuador's biggest refinery after fire damages,  May  30,  2025

    France24.com, Fire halts production at Ecuador's biggest oil refinery,  May  27,  2025

    Jen.jiji.com, Fire halts production at Ecuador's biggest oil refinery,  May  27,  2025

    Gulfnews.com, Ecuador declares emergency at fire-hit oil refinery,  May  30,  2025

    Hydrocarbonprocessing.com, Petroecuador declares emergency at Ecuador's biggest refinery after fire damages,  May  30,  2025

    Apnews.com, Ecuador declara en emergencia su refinería más importante tras un incendio reciente,  May  30,  2025

    Eluniverso.com, Petroecuador advierte ‘déficit en la oferta de derivados’ como consecuencia del incendio en la Refinería de Esmeraldas, según un informe,  May  31,  2025

    Dw.com, Ecuador: incendio consume parte de mayor refinería petrolera,  May  26,  2025

    Primicias.ec, Refinería Esmeraldas estará fuera de operación más de un mes tras daños por incendio en tanques de combustible,  June 01,  2025

    Jornada.com.mx, Petroecuador declara emergencia en Refinería Esmeraldas,  May  29,  2025

    Gk.city, El incendio en la Refinería Esmeraldas, explicado,  May  30,  2025

    Elcomercio.com, Un incendio se registró en la Refinería Esmeraldas este 26 de mayo de 2025 ,  May  27,  2025

    Teleamazonas.com, Incendio en la Refinería de Esmeraldas está bajo control,  May  27,  2025

    Fae.mil.ec, Helicópteros de la Fuerza Aérea brindan apoyo en incendio registrado en la Petroquímica de Esmeraldas,  May  28,  2025


後 記: 今回の事例は「タンク爆発」という標題を考えていました。しかし、調べていくと、どうも違うようだと思い始めました。結局、タンク爆発・火災を否定するメディアはいませんでした。これは、タンクを含む大きな炎の被災写真に引きずられたためで、発災事業者も状況を把握できず、事故内容は深まりませんでした。

 なお、エクアドルの事故をブログで紹介するのは初めてです。報道の自由化ランキング2024年を調べてみました。エクアドルは世界で110位でした。ちなみに日本は70位です。報道の自由度ランキングは、政治的内容、経済的内容、法的枠組み、社会文化、安全性の5指標を評価してランキング化しています。2024年の大きな変化としては、5つの指標のなかで「政治的内容」が世界的に大きく下落しているといいます。その理由は、政治的圧力により世界中で報道の自由が脅かされ、ジャーナリスト保護の原則が欠如し始めているといいます。

2025年5月28日水曜日

米国オクラホマ州の塩水処理施設で落雷によるタンク火災

 今回は、2025424日(木)、米国オクラホマ州パーセルにある石油生産関連の塩水処理施設で落雷によるタンク火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国オクラホマ州(Oklahoma)オクラホマ郡パーセル(Purcell)にある石油生産関連の塩水処理施設である。

■ 事故があったのは、パーセル170番通り26536番地付近にある塩水処理施設のタンク設備である。施設内には塩水タンクなど8基のタンクがあった。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025424日(木)午前6時頃、オクラホマ郡パーセルにある塩水処理施設でタンク火災が起こった。パーセル地域では早朝から雷雲が通過していた。

  午前610分頃、 170番通り付近にある塩水処理施設で塩水タンクが火災になっているという通報が警察に寄せられた。

■ 通報を受け、パーセル消防隊が出動して現場に10分かからず到着した。現場は激しい炎に包まれていた。消防隊は、塩水処理施設で炎上している複数のタンクを目にした。

■ 火災現場ではタンク2基が火災になっていた。

■ 当初、消防隊は火がついていないタンクの冷却を行った。泡消火剤の放射準備ができたあと、消防車による泡消火活動を行った。

■ 火災は落雷によるものとみられる。

■ ユーチューブやフェースブックには、塩水処理施設の火災を伝える動画が投稿されている。

  Youtube.comLarge tank battery fire at oil well site in Purcell sparked by lightning, fire chief says2025/04/24

  ●Youtube.comSky 5 shows aftermath of tank battery fire sparked by lightning in Purcell2025/04/24

  ●Facebook.comEarlier this morning, firefighters responded to a tank battery in Purcell that caught fire after being struck by lightning2025/04/24

被 害

■ 塩水処理施設にあった塩水タンク2基が焼損した。 タンク内にあった油が焼失した。 

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は落雷とみられる。

< 対 応 >

■ 火災は午前720分までに鎮火した。

■ 消防隊は火災を鎮火させたのち、午前750分頃に現場を離れた。

補 足

■「オクラホマ州」(Oklahoma)は、米国の中部にあり、州の南隣はテキサス州で、人口約409万人の州である。

「マクレーン郡」(Mclain)は、はオクラホマ州中部に位置し、人口約41,600人の郡である。

「パーセル(Purcell)は、マクレーン郡の南部に位置し、人口約6,600人の都市であり、同郡の郡庁所在地である。

■ 「塩水処理施設」は、天然ガス井の生産で付随してきた塩水をタンクローリー車などで集積して、油水分離し、水(塩水)はポンプで地下に戻すプロセスである。事故のあった「塩水処理施設」のプロセスの詳細はわからないが、一般的な塩水処理施設のプロセスフローの例は図のとおりである。

■「発災タンク」は塩水処理施設内の円筒タンクである。一般的に塩水タンクはFRP製が使用されるが、熱に弱い。被災写真を見ると、タンクの半分以上が溶けて無くなっている2基のタンクがFRP製とみられる。発災タンク2基を除けば、そのほかのタンクは自立しており、鋼製とみられる。これらのタンクの中にFRP製の塩水タンクがあれば、消防活動による冷却放水が効いたのかもしれない。

 グーグルマップで発災タンクを調べると、直径は約3.5mで、高さを5.07.0mと仮定すれば、容量は4867KLとなる。なお、被災写真では円筒タンク(固定式屋根タンク)が8基あるが、グーグルマップではタンクが9基ある。グーグルマップの撮影以降に1基が取り外されている。新しい設備が建設されているが、その設備に1基が転用されているのではないだろうか。

所 感

■ 塩水処理施設といっても油や天然ガスが含まれており、落雷によるタンク火災は起こり得る。ただ、今回の事例は、発災以前にタンクの1基が取り外されて、タンク内の可燃性ガス条件が変化しており、引火しやすくなっていたのではないかという疑問がある。

 石油生産関連の中で塩水処理施設のタンク火災を紹介した主なブログはつぎのとおりである。今は従来より異常気象が多く、落雷の頻度が増えていると思われ、石油生産関連の施設では認識しておく必要があろう。

 ●「米国テキサス州カーンズ郡の石油生産関連施設で落雷によるタンク火災」 20155月)

 ●「米国ノースダコタ州で塩水処理施設のタンクが爆発・火災」20192月)

 ●「米国テキサス州ノットの塩水処理施設でタンク爆発、死傷者4名」 202411月)

■ 消防隊は現場に10分足らずで到着し、消火活動を始めている。このため、最初は隣接タンクへの冷却を行い、泡消火の準備ができたあと、泡消火活動を行っている。この種の施設では、燃え尽きさせる方法をとることも少なくないが、積極的消火戦略が成功している稀な事例である。消防隊は1時間ほどで鎮火させ、1時間半後には現場を後にしている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Koco.com,  Large Tank battery  fire at oil well site in Purcell sparked by lightning, fire chief says,  April  24,  2025

     Okenergytoday.com, Tank battery struck by lightning near Purcell,  April  24,  2025

     Purcellregister.com,  Lightning causes oil tank blaze,  May  01,  2025


後 記: 今回の事例は、テキサス州でなくオクラホマ州で起こったタンク火災ということでまとめることとしました。最近、テキサス州のこの種のタンク火災のメディア情報は味も素っ気もない報道が多くなってきました。しかし、オクラホマ州での情報でも事故内容に迷わされました。最初は石油生産施設という風に理解していましたが、その後、石油生産関連の塩水処理施設だとわかりました。つぎに発災場所ですが、グーグルマップでなかなか特定できませんでした。被災写真とグーグルマップの写真では施設に違いがあります。結局、設備配置が変化しているのが正解だと認識しました。(こんな小さい?ところを気にするのは、狭い日本に住んでいるからだと言われそうですが) 

2025年5月15日木曜日

イランの港湾施設で化学物質コンテナが爆発、死者57人、負傷者1,566 人

  今回は、2025426日(土)、イランのホルモズガーン州バンダル・アッバースにあるシャヒド・ラジャイ港のコンテナヤードで火災が発生した直後、爆発が起こり、コンテナ群に燃え移って大火災になり、多くの死傷者の出た事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イラン(Iran)ホルモズガーン州(Hormozgan province)のバンダル・アッバース(Bandar Abbas)近郊にあるシャヒド・ラジャイ港(Shahid Rajaee)の港湾施設である。

■ 事故があったのは、港湾施設内にある保管用のコンテナヤードである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025426日(土)朝、港湾施設でオレンジ色の炎を伴った火災が発生し、その直後、火災は大爆発に進展した。

■ 爆発で発生した火災がコンテナ群に燃え移り、被災個所は広範に及んだ。爆発により近隣の建物の窓や屋根が吹き飛ばされ、車も破壊された。

■ 爆発の衝撃はすさまじく、爆心地の周囲数kmの範囲でガラスが割れるなどの被害が出た。港で起きた爆発は、数十km離れた場所でも音が聞こえるほどだった。

■ 港湾施設の近くにいた人は、「コンテナ群全体が煙と埃と灰であふれかえりました。わたし自身が爆発で投げ出されたのか、テーブルの下に潜ったのかよく覚えていません」と語っている。また、別な人は、「全身が震えていました。本当にひどかったです。戦争が始まったと思いました」と語った。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。最初の爆発が起きてから数時間後、消火活動はヘリコプターが出動して火災に上空から水を投下した。

■ 国営テレビは、複数のコンテナが発火し、爆発したと報じた。この爆発により、港湾業務はすべて停止され、緊急対応チームが派遣されたと報じられている。

■ すぐに矛盾する報道が飛び交った。当初、爆発は港内の管理棟で発生したと報じたが、後に燃料タンクの爆発によるものと報じられた。憶測を鎮めるため、イラン国営石油精製配給会社(NIORDC)は、「爆発は、当該地域にある製油所、燃料貯蔵タンク、石油パイプラインとは一切関係がない」と発表した。

■ 発災にともない、少なくとも5人が死亡、700人が負傷したと報じられた。

 428日(月)時点では40人が死亡したと報じられ、52日(金)時点で70人が死亡、1,000人以上が負傷したと報じられた。イランでは、土曜日は仕事の週の始まりで、港は忙しく、被災者が多かったとみられる。 54日(日)には、爆発による最終的な死者数は57人に修正された。

 これまで報告されていた70人の死亡者数は別々の遺体袋に保管されていた体の一部が実際には同一人物のものだったことが明らかになり、死者数の修正が行われた。また、爆発後に医療機関を受診した人は計1,566人だった。

■ バンダル・アッバースなどでは市内の学校や公共施設が休業となった。

■ 爆発は、コンテナヤードにある化学物質の火災が発端と見られ、その後大規模な爆発へと発展した。イラン税関当局によると、爆発は危険物や化学物質の保管庫が発生源とみられるといい、可燃性物質の取扱いを誤り、港湾施設に保管されていたコンテナが爆発した可能性があるという。

■ シャヒド・ラジャイ港はイランの輸入品の約80%を扱っており、12万~14万個のコンテナが保管されているという。428日(月)になっても、被害の全容は明らかになっておらず、数千個のコンテナが全焼したと報じられている。 

■ ソーシャル・ネットワーク・システム(SNS)では、爆発現場を撮影したとみられる動画や画像が拡散しており、巨大な黒煙が上がっている様子が確認できる。

■ 火災は426日(土)中に鎮火せず、427日(日)も消火活動が続いた。当局は火災が鎮圧されていると発表し、消防隊は日曜日遅くには完全に鎮火することを期待していると述べた。夜通し、ヘリコプターと大型貨物機が燃え盛る港の上空を繰り返し飛行し、現場に海水を投下した。429日(火)までに消防隊は鎮火したというが、依然として鎮圧作業が続いている。

■ 海外メディアのBBCが検証したビデオでは、大爆発の前に火の勢いが増し、その後人々が爆発から逃げ、煙を上げる残骸に囲まれた道路に負傷者が横たわる様子が映っている。また、依然として煙がくすぶる港の終末的な光景が映し出された。深さが数メートルと思われる爆発によるクレーターは、燃え盛る煙に包まれていた。コンテナはまるで捨てられた玩具のように壊されたり、投げ出されたりしており、トラックや車の焼けた残骸が現場のあちこちに放置されていた。

■ ユーチューブでは、事故に関する映像が投稿されており、主なものはつぎのとおりである。

 Youtube、「 Iran Blast | Videos Show The Moment Blast Occurred At Iran‘s Shahid Rajaee Port」(2025/4/27

  ●Youtube、「 Iran Explosion UNSEEN Video: Over 70 Dead, 1200 Injured | Watch Explosion Tear Through Iranian Port」(2025/4/29

  ●Youtube、「 Drone footage shows aftermath of deadly Iran port blast」(2025/4/29

  ●Youtube、「 Moment of explosion at Shahid Rajaei port in Iran’s Bandar Abbas city」(2025/4/26

  ●Youtube、「 اویری جدید از لحظه انفجار بندر شهید رجایی」(2025/5/08

被 害

■ 数千個のコンテナが全焼し、内部の貨物が焼失した。

■ 死傷者が出ており、57人が死亡、 1,566人が負傷した。

■ 爆発により近隣の建物の窓や屋根が吹き飛ばされ、車が破壊された。

■ バンダル・アッバースなどの市内の学校や公共施設が休業となった。

■ 火災によって環境汚染が発生したが、さらにバンダレ・アッバース市における大気汚染が爆発を受けて悪化しているという。

■ 損害は30億〜50億ドル(4,200億~7,000億円)とみられる。

< 事故の原因 >

■ イラン政府は、港における安全対策と予防措置が順守されなかった過失によるもので、港内に保管されていた危険な化学物質が引き金になった可能性があるという。具体的な物質名は明かしていないが、米国のメディアは過塩素酸ナトリウムの可能性があるという。

< 対 応 >

■ 427日(日)時点で、消防隊は、飛行機やヘリコプターなどを使って海水を現場に投下したりして消火作業を進め、現場の火勢の80%が制御されたという。しかし、火災は427日(日)夜になっても収まらず、複数個所から黒煙が立ち上った。火災はほぼ鎮圧されたというが、風やコンテナ内の可燃性貨物の影響で散発的に火災が発生し、一部では周辺地域に有毒ガスが放出されたとの情報も報じられた。 

■ 428日(月)、ロシア大使館は、同国政府が消火活動を支援するために「専門家を乗せた複数の航空機を派遣した」と発表した。

■ 428日(月)、イラン当局は、港での安全対策などが順守されなかったことによる「過失」が原因だと発表した。「港における安全対策と予防措置が順守されなかったために不幸な事態が起きた」とし、爆発の原因が「過失」だったという。また、コンテナで火災が起きた際は、被害が広がらないように対処する必要があったと指摘した。

■ 429日(火)、イラン当局は、火災について消防隊によって鎮圧されたと発表した。

■ 爆発の当初、現場ではオレンジ色がかった濃い煙が上がっており、専門家はロケット燃料が関与している可能性を指摘しているが、イラン当局は事故原因について口を閉ざしていた。

■ 427日(日)、米紙ニューヨーク・タイムズは、爆発したのは過塩素酸ナトリウム(Sodium Perchlorate)が関与している可能性があると報じた。この化学物質はミサイルの固形燃料の材料などに使用される。

■ 米紙ワシントン・ポストによって確認された監視カメラの映像には、フォークリフトがコンテナに乗り入れ、そこから出ていく様子が映っている。数瞬のうちにコンテナ内で炎が上がり、煙が渦巻く中、急速に燃え広がった。 90秒後、大規模な爆発が発生し、バンダル・アッバース港全体に炎と瓦礫が広がった。

 事故のビデオを検証した爆発物専門家は、この事故は激しい化学反応によって火災が発生し、爆発に至った可能性が高いと述べた。炎の色は、爆発現場に硝酸塩を含む化合物、すなわち過塩素酸塩が存在していたことを示しているという。専門家によると、過塩素酸塩と一部の硝酸塩はロケット燃料として使用できるだけでなく、肥料として大量に家庭でも使用されている。どちらも、輸送コンテナ内のような乾燥した、密度が高く、高温の環境では急速に燃焼するという。

■ 米国メディアの CNNは、今年2月、イランのミサイル計画に関連する数百トンの化学物質がこの港に搬入されたと報じており、3月にも同様の化学物質の輸入記録があったという。情報筋によれば、これらの過塩素酸ナトリウムは、イランのケイバル・シェカン(Kheibar Shekan)弾道ミサイル約260発、あるいはハッジ・カセム(Haj Qassem)弾道ミサイル約200発の推進装置の製造に十分な量だという。

■ イラン関税総局は、港内に保管されていた危険な化学物質が引き金になった可能性があると述べたが、具体的な物質名は明かしていない。

 イランでは、多くの人が当局の無能さを非難し、「これほど多くの可燃物が、なぜ十分な注意もなしに港に放置されていたのか」と疑問を投げかけている。

■ 化学物質を輸入していた会社は、フォークリフトに積まれていた化学物質を低危険物質であると誤って申告したと語った。

■ イランの報道によると、同港は安全管理上の欠陥が数多く発生しており、2021年から2024年の間に少なくとも3件の死亡事故が発生しているとのことだ。ある海上安全専門家は、この記録は懸念すべきものだと指摘している。

■  爆発が大きかったことについて、標準サイズの輸送コンテナは、通常、最大約63,000ポンド(約2,800kg)の積載が可能で、大規模な爆発に十分な燃料である。2025429日(火)の衛星画像と防犯カメラの映像から、最初の爆発が二次爆発、三次爆発を引き起こした可能性が示唆されている。危険物はしばしばまとめて保管されるため、最初の爆発現場付近の複数のコンテナに爆発性物質が含まれていた可能性があるという。

■ 53日(土)、ワシントン・ポスト紙は、爆発物専門家がクレーターの大きさや衝撃波を分析したところによると、爆発の威力はTNT火薬約50トン相当だったという。  

■ 54日(日)、テヘラン消防署長は爆発現場の温度が1400に達し、水はすぐに蒸発してコンテナ火災の消火には効果がなかったと述べている。今回の火災は食品や自動車部品などさまざまな物資が入っていた密閉容器内で発生したが、消防隊が炎を鎮圧するためにはコンテナを開けなければならなかったといい、水をかけるのは難しかった。

■ 54日(日)、ホルモズガーン医科大学学長は、港湾都市バンダレ・アッバースにおける大気汚染が、最近の爆発を受けて悪化していると述べた。予備調査で有毒ガスと粒子が検出され、公衆衛生への懸念が高まっている。学長によると、保健省はこの問題を調査し、汚染が危険レベルを超えていないと結論付けた。「汚染は継続している」と述べ、保健機関および救急サービスと連携して監視活動を継続していると付け加えた。

■ 55日(月)、イラン政府は港での爆発は30億〜50億ドルの損害を引き起こした可能性があると述べ、この事件は国内のインフラの脆弱性と情報透明性の欠如の一例であるという。


補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約9,156万人のイスラム共和制国家である。公用語はペルシア語である。

「ホルモズガーン州」(Hormozgan province)は、イラン南部に位置し、ペルシア湾をはさんでオマーンと相対する。ペルシア湾上に14の島を有し、海岸線は1,000kmに及ぶ人口約177万人の州である。

「バンダル・アッバース」(Bandar Abbas)は、ホルムズ海峡北岸に位置し、ホルモズガーン州の州都で、人口は約53万人の港湾都市である。

■「シャヒド・ラジャイ港」(Shahid Rajaee)は、2005年に建設され、2,400ヘクタール(約5,900エーカー)の広大なコンテナヤードで、石油輸送や一般貨物輸送を含め、年間7,000万トンの貨物を取り扱っている。シャヒド・ラジャイ港はイラン全港におけるコンテナの積み下ろし全体の最大85%を処理しており、近年、同港の重要性は高まっている。巨大な規模に加え、世界の石油生産量の5分の1が通過するホルムズ海峡に近いという立地が、その戦略的重要性を高めている。

■「過塩素酸ナトリウム」(Sodium Perchlorate)は、化学式 NaClO4 で表される無機化合物で、酸化性物質のため熱や火花、可燃性物質との接触により、火災や爆発の危険性がある。また、吸入や皮膚、眼への接触によって健康被害を引き起こす可能性がある。過塩素酸ナトリウムは、酸化剤、助燃剤、その他様々な用途に用いられ、特にミサイルやロケットの推進剤、火薬、花火など酸化力の高い物質の製造など様々な工業分野でも利用されている。火災時には、刺激性、毒性、腐食性のガスを発生するおそれがあり、消火方法としては火災区域に適度の距離をとって大量の水を散水する。

所 感

■ 事故原因は、港湾施設のコンテナに関する安全対策と事故防止措置が行われていなかったもので、管理ミスと作業ミスによるものだろう。一方、フォークリフトでコンテナ内の化学物質を運び出そうとしていたにしても、引火に至った要因や引火源ははっきりしない。しかし、爆発で深さが数メートルのクレーターを形成するほどの化学物質(米国のメディアの推測する過塩素酸ナトリウム)の怖さを認識する事例である。

■ 202312月に起こった「イランの簡易製油所で15基のコンデンセートタンク等が火災・爆発、48時間燃焼」 202312月)では、コンデンセートタンクの火災による爆発の危険があるため、消防隊は500mの距離をおく必要があるとして一時的に現場から撤退している。今回の事例でも、初期の消火戦略は積極的戦略でなく、不介入戦略をとったものと思われる。実際、現場にいても、別なコンテナに同様の化学物質などが存在するかも知れないと思えば、近寄って消火活動をとるという判断はできない。

 消防隊の消火活動について、最初の爆発が起きてから数時間後、ヘリコプターによる上空からの水投下が報じられているが、おそらく積極的消火戦略をとった最初の戦術であろう。コンテナ群の火災に関しても貴重な事例であろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Afpbb.com,  イラン主要港での大爆発火災、制御下に,  April  29, 2025

    Mainichi.jp,  イラン南部の港で大規模爆発 少なくとも5人死亡、700人が負傷,  April  26, 2025

    Japan.storm.mg,  イラン・シャヒードラジャイ港で大爆発、40人死亡 原因はミサイル燃料か テヘランは沈黙,  April  28, 2025

    Yomiuri.co.jp,  イラン南部の大規模爆発、死者27人・負傷者900国営テレビ報道,  April  27, 2025

    Newspicks.com,  イランの港爆発、死者40人に ハメネイ師「徹底調査」指示,  April  28, 2025

    News.goo.ne.jp, 「過失」が原因とイラン内務相が発表 大規模爆発の死者65人に,  April  28, 2025

    Kagonma-info.com,  イラン商業港爆発、死者40人に、1200人負傷=国営メディア,  April  28, 2025

    Bbc.com,  Huge blast at key Iranian port kills 28 and injures 800,  April  28, 2025

    Washingtonpost.com,  Iran port explosion caused by chemicals catching fire, videos show,  May  02, 2025

    Aljazeera.com,  Iran’s President Pezeshkian visits injured, site of deadly port explosion,  April  27, 2025

    Apnews.com,  Iran says fire extinguished at a port rocked by explosion as the death toll rises to at least 70,  April  29, 2025

    Csis.org, Iran’s Port Explosion, May  05, 2025

    Edition.cnn.com, Massive explosion at Iranian port kills 28 and injures hundreds,  April  27, 2025

    Lemonde.fr, In Iran, questions arise over explosion at the Shahid Rajaee port,  April  28, 2025

    Newarab.com, Everything we know about the massive blast at Iran's Bandar Abbas port,  April  27, 2025

    France24.com, Death toll rises to 70 in Iran port explosion as interior minister blames 'negligence‘,  April  28, 2025

    Abc7.com,  At least 40 killed, about 1,000 others injured in massive explosion at Iranian port,  April  28, 2025

    Iranintl.com, Final death toll from Rajaei port blast revised to 57,  May  02, 2025

    Arabnews.com, Fire blazes day after Iran port blast killed 28, injured 1,000,  April  26, 2025

    Caliber.az, Media: Explosion at Iran’s Shahid Rajaee port triggers conflicting reports, emergency response,  April  26, 2025


後 記: タンク火災ではありませんが、港湾の爆発・火災として世界に報じられた事故でしたので、調べてみることにしました。案の定、矛盾する報道が飛び交い、燃料タンクの爆発によるものと報じられ、憶測を鎮めるため、「爆発は、当該地域にある製油所、燃料貯蔵タンク、石油パイプラインとは一切関係がない」と発表されました。メディアでは、「シャヒド・ラジャイ港で起きた大爆発から数時間、イランは沈黙、否認、そして抑圧というおなじみのパターンをとった」といい、「当局がイランの経済動脈と呼ぶ場所で、家族が瓦礫の中から行方不明の愛する人を捜している間、政府は国民を支援したり、情報を提供したりすることよりも、言論の統制と目撃者の口封じに注力していた」と語っています。

 このように初期の事故情報がはっきりしない状況だったので、インターネット情報も後先が混じった読みにくいものでした。ということで、できるだけ時系列に直して「言い切る」ことでまとめました。