今回は、米国バージニア州ヨーク郡にある石油物流会社;プレインズ社のタンク基地で浮き屋根式タンクのリムシール火災が起こった事例を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、米国バージニア州(Commonwealth of
Virginia)ヨーク郡(York County)のグッドウィン・ネック通り(Goodwin Neck Road)沿いにある石油物流会社;プレインズ社(Plains)のタンク施設である。
■ 事故があったのは、グッドウィン・ネック通り沿いにあるプレインズ・マーケティング燃料タンク基地(Plains Marketing Fuel Tank Farm)のガソリン用の貯蔵タンクである。貯蔵タンクの貯蔵能力は80,000バレル(12,700KL)であるが、発災当時は3,000バレル(480KL)しか入っていなかった。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2023年12月16日(火)正午頃、プレインズ・マーケティング燃料タンク基地のガソリン用貯蔵タンクで火災があった。
■ 火災が発生したという通報を受け、ヨーク郡消防署の消防隊が出動した。
■ 貯蔵タンクには3,000バレル(480KL)のガソリンが入っており、火災は貯蔵タンクのリムシール部で起こっていた。火災は貯蔵タンクのベーパーシール領域で燃えていた。
■ 発災による負傷者は報告されていない。
被 害
■ タンクのリムシール部が損傷した。内部のガソリンが焼失した。
■ 負傷者はいなかった。
< 事故の原因
>
■ 火災の原因は火災の原因は調査中で、分かっていない。
< 対 応
>
■ 消防隊は午後4時までには消火したとみられる。しかし、消防隊の消防士は現場にとどまり、引き続き事故の監視を続けた。
補 足
■「バージニア州」(Commonwealth of Virginia)は、米国東部にあり、大西洋岸の南部に位置する州(コモンウェルス)で、人口は約863万人である。
「ヨーク郡」(York County)は、バージニア州の南部に位置し、人口約65,000人の郡である。
■「発災タンク」は、ガソリン用で貯蔵能力が80,000バレル(12,700KL)と報じられている。グーグルマップでグッドウィン・ネック・ロード沿いにあるプレインズ・マーケティング燃料タンク基地の浮き屋根式タンクを見てみると、西側エリアに直径約46mのタンクが複数基ある。高さを10mと仮定すれば。容量は16,600KLとなる。このほか東側エリアに直径約36mの浮き屋根式タンクが多数ある。このタンクの高さを10mと仮定すれば、容量は10,200KLとなる。正確な高さは分からないが、発災タンクは直径約46mまたは36mの浮き屋根式タンクのいずれかである。
■「プレインズ社」(Plains) は、1981年設立にし、原油、液体天然ガス (NGL)、天然ガスなどの物流サービスを行っている石油物流会社である。北米の米国とカナダを主要市場とし、タンク貯蔵、パイプライン輸送、タンクローリ輸送などを行っており、日量 600万バレル以上の原油や NGLを取り扱っている。プレインズ社はテキサス州ヒューストンに本社を置き、カナダでの事業拠点はアルバータ州カルガリーにある。保有している貯蔵タンク能力は1億4,000バレル、車両は6,000輌、パイプラインは18,300マイルなどの資産があり、子会社が運用している。
プレインズ社の事故としては、子会社のプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社によるつぎのような事例がある。
● 2015年5月、「米国カリフォルニア州で原油パイプライン漏洩による海上流出」
● 2018年8月、「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」
■「リムシール火災」は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、「リング火災」とも呼ばれる。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。一方、米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を採用した浮き屋根式タンクがある。このタンクのシャンツやメカニカルシールに関する問題は2010年のAPIタンク会議で発表されており、本ブログでは2011年5月に「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」として紹介している。
また、日本では、タンクには固定式泡消火設備を設けることになっており、リムシール火災への別な対応方法は考えられていない。海外では、固定式泡消火設備のないものがあり、リムシール火災への対応方法が考えられている。「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」(2018年9月)の“補足” を参照。
所 感
■ リムシール火災は浮き屋根式タンク特有な火災であるが、今回の事例は発生状況が報じられていないし、被災写真が無く、詳細は分からない。リムシール火災の原因としては、落雷またはメカニカルシールの金属接触の火花によるものが多い。ある分析によると、リムシールを保有する全タンクの0.16%は使用期間中にリムシール火災に遭うといわれている。
■ 今回の事例では消火活動の状況もわからない。しかし、タンクに固定泡消火設備が設置されていないようなので、消防士がタンク側板の階段頂部に昇り、泡モニターによってリムシール部に消火泡を投入して消火させたものだろう。
日本では、固定泡消火設備が設置されているので、リムシール火災については対策はとれている。一方、固定泡消火設備が壊れた場合、大型化学消防車や大型高所放水車などによって、手前でタンク側板裏の死角になる部分にうまく泡放射できるだろうかという疑問は残る。また、フォーム・ログ・シール方式の屋根シールでは、シール(ウレタン)がすぐに燃えてしまい、かなり大きな全周のリムシール火災になる可能性がある。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・13newsnow.com, Firefighters battle blaze at York County fuel tank
far, December 19,
2023
・Wavy.com, Fuel tank catches fire in York County, December
19, 2023
・News.yahoo.com, Fuel tank catches fire in York County, December
20, 2023
後 記: プレインズ社はウエブサイトを保有し、ニュースルームを設けていますが、投資家向けの良いニュースを発信しているだけです。バージニア州ヨーク郡などの公的機関の情報もごく限られたもので、メディアによる取材も深堀していません。新型コロナウイルス感染が収まりましたが、メディアの関心はタンクの事故のような事象には向いていないようです。この事故だけではなく、米国の最近の傾向は同じようなものです。タンク事故のような一部の分野からしか見ていませんが、米国がおかしくなってきているのは感じます。
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