今回は、2021年6月10日(木)、沖縄県うるま市にある米軍の陸軍貯油施設の金武湾第3タンクファーム内にある消火用貯水槽から有害な有機フッ素化合物を含む泡消火剤の汚水が基地外へ流出した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、沖縄県うるま市にある米軍の陸軍貯油施設である。陸軍貯油施設はうるま市のほか沖縄市、嘉手納町、北谷町、宜野湾市に分散している。
■ 発災があったのは、陸軍貯油施設の金武湾第3タンクファーム内にある消火用貯水槽である。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年6月10日(木)午後4時過ぎ、米軍の陸軍貯油施設の消火用貯水槽から泡消火剤を含む汚水が溢れ、排水路を通って基地外へ流出した。
■ 米側が日本政府に伝えたのは翌11日(金)の夕方だった。沖縄県が防衛省沖縄防衛局を通じて米軍から連絡を受けたのは、流出から24時間以上経った11日午後6時30分頃だった。
■ 米軍は日本側に、大雨の影響で消火用貯水槽があふれ、有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)を含む汚水が、排水路に流れたと説明した。貯水槽内に雨水が入り込んだのは、施設の老朽化が原因との説明だったという。
■ 米軍は流出量を最大2,460リットルと推計しているが、実際の量や汚染の濃度は把握できていない。沖縄防衛局によると、米軍はPFOSの流出量を「ごく微量」で、「普天間飛行場で昨年流出した濃度に比べれば、ごくわずか」と説明した。
■ 今回、汚水が流出した貯水槽は敷地境界フェンスのそばにあり、道路を挟んで集落が広がっているほか、貯水槽から続く排水溝は集落内の水路へ合流し、天願川へつながっている。
■ 流出が判明したのは6月10日(木)の定期点検時で、実際の流出発生はそれ以前だったとみられる。米軍は6月12日(土)にフェイスブックで「6月9日(水)の降雨の影響」と発表した。現場に近い観測地点(沖縄市胡屋)の6月7日(月)の合計雨量は0.5mmで、6月8日(火)には49.5mmの強い雨が降っている。
被 害
■ 泡消火剤を含む汚水が排水路を通って基地外へ最大2,460リットル流出した。
■ 泡消火剤がうるま市の河川(および海)に流出し、環境汚染を起こした。
うるま市や沖縄県では、泡消火剤を含む汚水を回収できなかった。
■ 事故に伴う負傷者の発生はない。
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、米軍によると、貯水槽のふたの接続部分が劣化し、雨水が入り込んで汚水があふれたとみている。沖縄県によると、貯水槽のマンホールのふたが大雨でズレたことによって雨水が入り込んで汚水があふれたとしている。
< 対 応 >
■ 6月11日(金)夕、沖縄防衛局は沖縄県やうるま市、金武町、関係漁協に報告し、米側に安全管理の徹底と再発防止に加え、速やかな通報を申し入れた。外務省は6月11日(金)、米側に遺憾の意を伝えた。
■ 沖縄県は6月12日(土)に天願川につながる基地周辺の水路や川の計5地点で調査のための採水をしたが、基地内の水や土のサンプル採取は行っていない。米軍が進める水の分析結果も踏まえ、今後の調査対応を判断する。
■ 6月12日(土)、沖縄県、沖縄防衛局、うるま市などは日米地位協定の環境補足協定に基づき基地内に立ち入った。午後3時から約1時間、流出があった施設を確認し、米軍から状況の説明を受けた。沖縄県によると、貯水槽のマンホール(の蓋)が大雨でズレたことによって汚水が排水路にあふれ出たことや、周辺の安全に問題はないといった説明があったという。
「うるま市の米陸軍貯油施設から、有害性が指摘されているPFOS(ピーフォス)などを含む汚水が施設外に流出した。米軍によると、貯水槽とふたとの接続部分が劣化し、雨水が入り込んで汚水があふれたという。貯水槽はPFOSなどを含む消火剤と混ぜる水をためるためのもので、現在は使っていなかった。あふれた汚水は付近の排水路から米軍施設外に流れたとみられる。管理のずさんさにあぜんとする。同じうるま市の畑に米軍ヘリが不時着してから10日もたたずに、今度は汚水流出だ。基地集中がもたらす事故が住民を不安に陥れている。
沖縄県やうるま市への報告にも時間がかかり過ぎる。施設外に流れ出たとみられるのは6月10日(木)午後4時過ぎだったというが、日本側への連絡は翌6月11日(金)の夕方だった。結果、日米間の環境補足協定に基づく日本側の立ち入り調査は、流出の2日後となった。しかも、国や県、市の担当者は現場を確認し、米軍の説明を聞くだけにとどまった。米軍からの報告の遅れはこれまで何度も問題になっている。政府は米軍に強く抗議し改善を申し入れるべきだ。
米軍の基地にどれだけの量の危険物が貯蔵されているのか県民には知らされていない。基地周辺で環境汚染が起きても、米軍は原因が基地にあると認めないこともある。今回、汚水が流出した貯水槽はフェンスのそばにあり、道路を挟んで集落が広がる。貯水槽から続く排水溝は集落内の水路へ合流し、天願川へつながっている。住民の不安は募るばかりだ。日本側は今からでも施設内でサンプル採取し、客観的な調査をすべきだ。
米情報自由法により沖縄タイムスが入手した2016年の米軍内部の電子メールの中には、空軍の環境技術者が汚染問題について“PFOSというたわ言”と言及したものもあった。環境汚染を軽んじるこのような認識が米軍全体で広がっているとすれば、今後も同様の事故が起きかねない。環境問題にフェンスはない。基地で事故が起きれば周辺の住民に影響が及ぶ。政府は消火剤の保管や漏出防止策について国内法の適用を米軍に求めるべきだ」
■ 6月14日(月)、沖縄県知事は、米側の情報共有について「危機管理の観点からも(即時の情報共有は)必要だと思うが、徹底されていないのは遺憾と言わざるを得ない」との見解を示した。知事は「米軍が、本来ならば、自治体や県に対してすぐ報告し、かかる対応についての状況をお互いに情報共有する必要がある」との認識を示し、米側の通報体制を疑問視した。
補 足
■「沖縄県」は、九州地方に位置し、日本で最も西にあり、沖縄本島、宮古島、石垣島など多くの島々から構成される人口約145万人の県である。
「うるま市」は、沖縄本島中部に位置し、人口約122,000人の沖縄県第3の都市である。
■ 米軍の「陸軍貯油施設」(Army POL Depot)は、1945年4月1日に沖縄島に上陸した米軍は早急にパイプラインとタンク敷設にとりかかり、米国陸軍が設立した貯油関連施設である。1945~1952年につぎつぎとタンクファームを建設し、現在、うるま市、沖縄市、嘉手納町、北谷町、宜野湾市の広範囲にまたがっており、タンク施設は金武湾側と北谷町桑江地域の2箇所に分かれている。
今回、発災のあった「金武湾第3タンクファーム」はうるま市にあり、FAC6076 Army POL Depotsと呼ばれる陸軍貯油施設のひとつである。管理部隊は米国陸軍第10地域支援群司令部である。燃料タンク、消火施設、火災モニター施設などがあるが、燃料タンクの基数や大きさは公表されていない。消火配管の配置から覆土式地下タンクが2基あることは分かるが、エリア内にはその他の地下工作物が存在している。
■「消火用貯水槽」は金武湾第3タンクファームのフェンスに近くにあると報じられており、メディアでも写真が掲載されている。この写真をもとにグーグルマップで調べると、貯水槽の大きさは幅約7.1m×長さ約12.4mである。貯水槽の深さ(高さ)は分からないが、仮に地下部はなく、高さを2mとすれば、容量は176㎥である。
現場に近くでは、6月8日~9日の2日間で合計50mmの雨量を観測されている。貯水槽のマンホールのふたから雨水が漏れ込んだというので、仮にマンホールのふたの面積を1㎡とし、この面積を通じて貯水槽に入ったとすれば、0.05㎥=50リットルである。また、貯水槽の上部に降った雨が、全部、貯水槽に入ったとすれば、4.4㎥=4,400リットルとなる。米軍の推算根拠が分からないが、このような仮説をしているのではないだろうか。この仮説をもとにすれば、貯水槽に増えた水の高さは50mmで、たった50mmで溢流したとすれば、貯水槽はもともと満杯の状態であったことになる。
■ 最近、沖縄県の米軍基地における泡消火剤の流出などの問題は、つぎのとおりである。
● 2015年5月23日(木)、米軍嘉手納基地の航空機格納庫で、酒に酔った海兵隊員が悪ふざけして泡消火剤を放出するスイッチを入れ、消火剤が基地外の民間地まで流出した。米軍が、当初、無害としていた消火剤は、その後、発がん性物質を含むことが分かったが、日本側に通告していなかった。流出した消火剤は“JET-X 2-3/4%” という高発泡用で、1,500リットル以上だった。米政府の基準で有害とされ、がんや神経・生殖障害を引き起こす物質を含む。しかし、在日米軍基地に適用される「日米環境管理基準(JEGS)」で有毒な化学物質に含まれておらず、米側は有毒だと判明した後も地元に通報しなかった。
● 2018年5月4日(金)、米軍嘉手納基地内から約200m内側で、消火剤とみられる高さ5mに達する白い泡が大量に目撃された。米軍は、「驚かせたなら大変申し訳ない。整備用格納庫の消火設備から予定外に泡消火剤が噴出し、ドアが開いていたため、外部に大量に流出してしまった」と述べた。
● 2019年7月、在沖米海兵隊が普天間飛行場から出た泡消火剤142トンを沖縄市の産業廃棄物処理会社に搬入していた。日本の防衛相は7月2日(火)の記者会見で「米側が普天間飛行場から回収したとされる泡消火薬剤に有機フッ素化合物のPFOS(ピーフォス)が含まれているかなど、事実関係を確認している」と述べた。
● 2019年12月5日(木)、米軍普天間飛行場において格納庫の消火システムが誤作動を起こし、PFOS(ピーフォス)を含んだ泡消火剤が漏れた。防衛局によると米軍は、「漏出したほぼ全ての消火剤は除去され、基地外へ流れたことは確認されていない」と説明した。
● 2020年4月10日(金)、米軍普天間飛行場内にある格納庫で消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ大量流出した。泡消火剤流出の発端は、米兵ら47人が参加したバーベキューで、器材に火を付けたところ、消火装置が熱に反応した。その場にいた米兵や駆けつけた初動対応チームは一時停止の方法がわからず、消火装置は30分近く作動し続けた。さらに、泡消火剤が漏れ出ても地下タンクにたまる仕組みになっていたが、整備不良で外部に流出した。(下記ブログを参照)
●「沖縄の米軍普天間飛行場から泡消火剤が市内に大量流出」(2020年4月17日)
●「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故で立入り調査」(2020年4月29日)
●「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)」(2020年9月8日)
所 感
■ 事故原因は、貯水槽のふたの接続部分が劣化、またはふたがズレたことによって貯水槽に雨水が入り込んで泡消火剤を含む汚水があふれたものだという。梅雨に入り、大雨で道路が冠水したり、排水管のマンホールのふたが噴き上がるのを目にすることもあり、この原因論は、一見、ありそうであるが、貯水槽の上部面積が限定されており、雨水の大量流入はありえない。
■ 根本的に貯水槽に関して、つぎのような疑問がある。
● 貯水槽の役割はなにか? 消火用水ではないのか?
● 貯水槽になぜ泡消火剤が入っていたのか? どのくらい入っていたのか?
● 定期点検時に発見したというが、なにを見たのか? (貯水槽のふたの劣化やふたがズレたことぐらいで、司令部上官に報告するようなことではない) 汚水があふれているところは見ることができない?
● 貯水槽は現在は使っていないとはどういうことか? 使っていない貯水槽を定期点検する理由は?
● 流出量は最大2,460リットルと推計されているが、これは泡消火薬剤原液ベースの値か、泡消火薬剤と水の混合した総量か?
■ 貯水槽の疑問点を無くすようなシナリオを推測してみると、つぎのとおりである。
● 貯水槽は当初、消火用水の貯槽に使用していたが、消火用水を公共の水源(工業用水または上水)に変更し、貯水槽は予備的な設備となった。
● 有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーフォス)などを含む泡消火液を何らかの理由(泡消火の総合試験など)で保管する必要が出て、貯水槽をカラ(または一部)にして泡消火液を入れた。
● この時点で貯水槽は泡消火液の廃液タンクとして使用し始めた。そのため、貯水槽の液位管理を始めた。
● 定期点検時に液位をチェックすると、満杯の表示になっており、流出した可能性があった。(司令部上官に報告すべき事項)
● 満杯になった訳は、貯水槽に水を間違って張り込んだか、水供給のバルブが漏れていて貯水槽に入ったかの理由が考えられる。
● 2020年4月の米軍普天間飛行場内にある格納庫から泡消火剤が流出した事故では、あとからでも排水路で泡が気泡になって飛ぶなどして全国紙を含むメディアによって報道された影響で、公表することとしたのではないか。ただし、大雨だけの理由とした。(貯水槽のマンホールふたのすきまから雨水が浸入し、泡消火剤の汚水が流れ出たという事象だけをとらえれば、嘘ではないが)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Ryukyushimpo.jp, PFOS汚染水流出か うるま市昆布 米陸軍貯油施設から, June 12
2021
・Ryukyushimpo.jp, 米軍「貯水槽あふれた」うるまPFOS流出 国、沖縄県、市が立ち入り, June
12 2021
・Asahi.com,沖縄の米軍基地で有害物質流出 24時間以上経って通報, June 12
2021
・Okinawatimes.co.jp, 有害性が指摘されるPFOS含む汚水、基地の外へ流出か 最大ドラム缶12本分 沖縄県やうるま市に連絡, June 11
2021
・Okinawatimes.co.jp, 社説[PFOS汚水流出] ずさんな管理 許されぬ, June 13
2021
・Nhk.or.jp, 米軍施設からPFOSなど流出で県などが施設に立ち入り, June 12
2021
・Parstoday.com, 沖縄・うるま市でのPFOS汚水流出ー許されぬずさんな管理, June 13
2021
・Mainichi.jp, 玉城知事「米軍の情報共有されず遺憾」 うるまPFOS流出, June 14 2021
後 記: 今回の事故は2020年4月の米軍普天間飛行場から泡消火剤の流出した事故報道が効いています。垂れ流し事故があっても住民は気が付かなかった訳ですから、公表しなければ分からなかったでしょう。しかし、排水路で泡立ちが発生したら、もっと大きな騒ぎになったと思います。
今回の報道では、地元沖縄のローカルメディアの歯ぎしりが聞こえてくるようです。沖縄県やうるま市などは日米地位協定の環境補足協定に基づき基地内に立ち入りしましたが、ローカルメディアはフェンス越しに見るだけです。沖縄県は新型コロナウイルスの非常事態宣言中で感染者が少なくなったとはいえ、全国で突出しているためからか、沖縄県やうるま市の冷めた事務的な対応(に見える)と比べ、取材ができなかったローカルメディアは米軍(および日本政府)への不信感がますます強くなっていくのが分かります。
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