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2018年4月15日日曜日

チェコの製油所で貯蔵タンクの清掃作業中に爆発、死傷者8名

 今回は、2018年3月22日(木)、チェコ共和国のクラルピ・ナト・ヴルタヴォウにあるユニペトロール社クラルピ製油所の配送用タンク・ターミナルにある貯蔵タンクで清掃作業中に爆発が発生し、死傷者8名が出た事例を紹介します。
(写真はContinentainewsshow.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、チェコ共和国(Czech Republic)の首都プラハ(Prague)から北へ約20km離れたクラルピ・ナト・ヴルタヴォウ(Kralupy nad Vltavou にあるユニペトロール社(Unipetrol)のクラルピ製油所(Kralupy Refinery)である。製油所の精製能力は80,000バレル/日である。

■ 発災があったのは、製油所のプラントから離れた場所に設置された配送用タンク・ターミナルにある燃料用貯蔵タンクである。
ユニペトロール社クラルピー製油所のタンク・ターミナル付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018322日(木)午前10時頃、配送用タンク・ターミナルにある貯蔵タンクで爆発が発生した。固定屋根式タンクの屋根部が噴き飛び、鉄骨がねじ曲げられ、煙が立ち昇った。しかし、爆発後に火災が引き続いて起こることは無かった。

■ 爆発のあったタンクは空で、清掃作業中に起った。製油所は、327日(火)~59日(水)の間、定期保全と改造工事のため、準備作業を行っていたが、当該タンクとは直接の関係はない。

■ この事故に伴い、請負会社の作業員6名が死亡し、2名が負傷して病院へ搬送された。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。現場は制圧下にあり、危険性物質の漏れは無く、危険性は無いという。爆発は製油所プラントや配送タンク・ターミナル全体に大きな被害を与えるものでなかったが、爆発したタンクは完全に損壊していた。

■ 発災現場には、警察の捜査官が立入り、原因の調査を開始した。

被 害
■ 燃料用貯蔵タンク1基が損壊した。被害の範囲や程度は分かっていない。

■ 爆発によって死傷者が8名発生した。うち6名が死亡した。
(写真はFiredirect.netから引用)

< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中で分かっていない。

■ 一部のメディアは、タンクの清掃作業が新しい会社で実施されており、この会社は作業方法の適切な手続きについて遵守していなかったと報じている。また、ガスが電気的短絡(ショート)によって引火したと報じている。

< 対 応 >
■ やけどの負傷者が発生したことを受けて、中央ボヘミア・レスキュー・サービスが隊員とヘリコプターを出動させた。

■ ユニペトロール社は、3月23日(金)、社内に原因調査チームを発足させたと発表した。調査は警察に全面的に協力するという。 

■ 事故で操業を停止していた配送用タンク・ターミナルは、3月27日(火に運転を再開した。
(写真はAbcnews.go.comから引用)
(写真はZpravy.e15.czから引用)
補 足 
チェコ共和国と周辺国
■ 「チェコ共和国」(Czech Republic)は、通称チェコで、中央ヨーロッパに位置し、人口約1,050万人の共和制国家である。1995年にチェコスロバキアがチェコとスロバキアに分離して独立した。
 「クラルピ・ナト・ヴルタヴォウ」(Kralupy nad Vltavou)は、中央ボヘミアにあり、首都プラハから北へ約20km離れた人口約18,000人の市である。
チェコ共和国のクラルピ・ナト・ヴルタヴォウ付近
(写真はGoogleMapから引用)

■ 「ユニペトロール社」(Unipetrol)は、チェコの石油化学工業の民営化に伴い1995年に設立された石油会社である。株の大半はポーランドの石油会社PKNオーレン(PKN Orlen)が保有している。チェコにある3つの製油所のうちふたつを所有し、うちひとつが発災場所の「クラルピ製油所」(精製能力8万バレル/日)である。

■ 「発災タンク」は配送用タンク・ターミナルの燃料用貯蔵タンクであるが、タンク仕様については報じられていない。発災場所におけるグーグルマップを調べてみると、発災タンクは固定屋根式で、直径は約6.3mとみられる。高さを9.0mとすれば、容量は約280KLとなる。 
事故のあったタンク・ターミナル (矢印が発災タンク)
(写真はAsiaone.cpmから引用)
所 感
■ この事故は、過去にたびたび出てくるタンク清掃作業という非定常運転時のタンク内外の火気作業における人身事故であろう。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気作業における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例である。改めて7つの教訓の項目は列記すると、つぎのとおりである。
   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行
   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練
   ③作業環境のモニタリング   ⑦請負者への監督
   ④作業エリアのテスト 

■ タンク清掃作業で死傷者が8名も発生し、うち6名が亡くなるという過去最悪の事例である。今回、感じたのは、タンク清掃作業を請負ったのが新しく入構した会社だったということである。変わった背景にどのようなことがあるか分からないが、タンク清掃作業の危険性を熟知していなかったとみられる。日本では、近年、働き手が団塊の世代から次世代へ移っていく。若い世代や新しい会社になっていくことは良いことではあるが、過去の失敗から得られた貴重な教訓は活かされていくことを期待する。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Unipetrol.cz , Extraordinary Event at Kralupy nad Vltavou Road Terminal,  March  22,  2018
    Unipetrol.cz , Unipetrol Cooperates with the Police and Has Initiated its own Investigation,  March  23,  2018
    Reuters.com,  Six Dead after Blast at Czech Refinery,  March  22,  2018
    Abcnews.go.com , 6 Dead in Chemical Factory Explosion in Czech Republic ,  March  22,  2018
    Continentalnewsshow.com, 6 Dead, 2 Injured as Explosion Rips through Chemical Plant in Czech Republic,  March  22,  2018
    Euronews.com , 6 People Killed in Czech Refinery Explosion,  March  22,  2018
    Hazmatnation.com, Six Dead after Blast at Czech Refinery,  March  23,  2018
    Thestar.com, Czech Republic Chemical Factory Explosion Leaves 6 Dead,  March  22,  2018
    Thechemicalengineer.com, Explosion at Unipetrol Chemical Plant in Czech Republic,  March  23,  2018
    Firedirect.net,  Czech Republic – Tank Explosion, Six Fatalities During Cleaning Operation,  March  26,   2018
    Shropshirestar.com , Explosion at Chemical Factory in Czech Republic Kills Six,  March  21,  2018
    Riscad.aist-riss.jp,  チェコの化学工場で貯蔵タンクの爆発(リレーション化学災害データベース),  March  22,  2018


後 記: チェコの事故を取り上げるのは初めてです。各国の報道機関が報じており、情報はたくさんあるのですが、消化不良気味の調査結果でした。初期段階で、ポーランドと提携している石油化学プラント内で起こった事故という情報ということから混乱があったようです。訂正記事を出しているところもありますが、そのままのところも多く、何が事実なのかはっきりしない点の多い事例です。事業者のユニペトロール社からプレス発表が3回出されていますが、曖昧で情緒的な表現が多く、このブログで扱う事故報告の情報としてあまり参考になりませんでした。また、事故対応に直接関わった消防や警察による発表やコメントもほとんどなく、信頼できる情報を選択するのに悩みました。

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