2014年2月17日月曜日

貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測

 今回は、イランのカシャーン大学のMojtaba Mirdrikvand氏ほかが貯蔵タンクのボイルオーバーについてまとめた「Boilover in Storage Tanks: Occurrence, Consequences and Predictions」を紹介します。
(写真はHazmat-mike.squrespace.com から引用)
要 旨
■  製油所や石油化学の会社にとって、原油や石油ケミカルを貯蔵する大型タンクは常に大きな憂慮要因になっている。大量の保有能力を有し、大火災の危険性をもっているため、世界各国の科学者によって広く研究されている。ボイルオーバー現象は水の層で起こり、影響が広範囲に及ぶため、最も重大視されている火災事故のひとつである。ボイルオーバーの発生を予測したり、ボイルオーバー火災への進展を回避したり、広範囲に及ぶ火災の被害をできる限り小さくしたりするため、効果的で経済的な方法を見出すことは科学者にとって意義あることである。この論文では、ボイルオーバーに関してこれまで実施されてきた研究についてレビューする。その中で、ボイルオーバーの危険性と発生原理を明らかにし、ボイルオーバーの有効な予測方法と事故が起こった際に影響を少なくする最良の方法を示し、今後の参考にしてもらいたい。

1.はじめに
■ 火災の防災分野では、石油貯蔵施設に関する火災の危険性は常に大きな関心事である。ボイルオーバーは石油工業分野の火災のひとつで、燃焼している油のタンク底部にある水の層で起こる。ボイルオーバー現象は、炭化水素混合物が燃焼し、ヒート・ウェーブが下降して伝播していくことによって起こる。この現象は原油を保有する開放型タンクにおいて起こるが、ときには重油の火災時に起こることもある。ボイルオーバーが生じると、大量の油が防油堤をも越えて猛烈な勢いで放出される。ボイルオーバーは、複数タンク火災や防油堤火災に至る可能性があり、消防士にとって極めてリスクの高い事故になる。ボイルオーバーの危険性は大げさに言っているわけではない。ボイルオーバーはタンク全面火災になってからわずか2・3時間で起こることがある。火災が長時間にわたって燃え続けていれば、ボイルオーバーは起こらないと見なすべきでないし、タンク内には底部だけに水が存在していると見なすべきでない。実際、もし大型タンク内の原油が燃え続けていれば、ボイリング現象が生じるだろう。

■ ボイルオーバーの発生条件、まわりの環境への脅威、発生した際の影響については、古積、バーゴインおよびカータン、ブリノフおよびハダコフ、長谷川、ホールの各氏によって調査・研究されている。これらの研究内容についてはこの論文でレビューする。これらの研究によると、ボイルオーバーに必要な条件は燃焼している液体内の等温層の形成であるとしている。
この等温層の厚さは、引火後、時間の経過とともに増加し、ボイルオーバーが起こる前には数メートルの深さまで成長することもあるという。等温層の下境界がタンク底の水の層に達すると、水が急激な蒸発を起こすものと考えられている。しかし、等温層が形成されて成長するプロセスは現在もよくわかっていない。最近、フェレーロは、炭化水素混合物の燃焼プロセスにおける対流の初速度を推定する相関式を提案した。提案された相関式によると、燃料層の最初の厚さおよび平均温度が重要なファクターとなる。この相関式は、ボイルオーバーの種類や確率を予測するための今後の研究に有用だと思われる。

■ ここでは、ボイルオーバーの研究に関連する最近の論文をレビューしていく。そうすることによって、ボイルオーバーの基本的な危険性、発生のプロセス、被害の影響を小さくする方法などについて理解を深める。

2.貯蔵タンクの火災の分類
■ タンクの分類は屋根の形式によることが多く、固定屋根型、内部浮き屋根型、外部浮き屋根型、ドーム式外部浮き屋根型に分けられる。可燃性液体あるいは燃焼性液体が貯蔵要件として重要な場合、タンク内に保有する製品の物理的性質やタンクの設置方式で分類されることもある。燃焼性液体を保有する場合、大型コーンルーフ式タンク、小型低圧の立型タンクまたは横型タンク、あるいは地下タンクといった方式が標準的に採用される。一方、可燃焼液体の場合、外部(開放型)浮き屋根タンクまたは内部浮き屋根タンク、小型低圧の立型タンクまたは横型タンク、あるいは地下タンクといった方式が通常用いられる。

■ 図1にタンク火災の分類と拡大のステップを示す。図は大型の外部浮き屋根タンクにおいてよく起こる火災の例を示す。最初に小さな火災から始まり、徐々に全面火災へ至ったり、あるいは間接的に全面火災まで拡大することがある。屋根と側壁間のシール部から漏れるベーパーに引火し、制圧できなければ、ボイルオーバーへ至ることがある。原油は引火点が低く、高揮発性で流動性があるため、火炎はただちに油の全面に広がり、熱気流が全面火災上を乱舞し、最終的にボイルオーバーへ至る。図2は貯蔵タンクにおけるタンク火災のシナリオ例を示す。
図1 火災の分類および拡大のステップ
図2 タンク火災のシナリオ例
3.ボイルオーバー発生原理
■ 開放容器に入れられた油や石油ケミカルを燃料源にした火災を水で消火しようとした場合、ボイルオーバー型の火災における危険性が非常に高いということを理解することができる。この状態の最も大きい要因は油/石油ケミカルと水の相対的な比重差にある。水よりも軽い油は、常に表層にいようとするからである。これは、家庭の台所で天ぷら油を入れた鍋で起こる火災を考えればわかる。

■ 油面上に水を投入しても、水はすぐに油の下に沈み、容器の底部に集積してしまい、消火に寄与するのはほんのわずかである。火災による温度が徐々に蓄積されていき、燃料源の油を通じて下降していく。そして、最終的に容器の底に集積した水に達することになる。下降していったヒート・ウェーブが十分な温度をもっていれば、水は蒸発して水蒸気になる。水蒸気は水の状態に比べ、容積が1,700倍に膨張する。この急速に膨張した(おそらくスーパーヒートの)水蒸気は油を上方へ押し上げ、水蒸気と油が容器外に放出されて、さらに着火し、広範囲で制御不能な状況が引き起こされる。規模の大きい場合、タンクが火災となって、燃焼面の熱い残渣物が水の層に移行したときにボイルオーバーという用語を使う。要するに、ボイルオーバーが起こるために必要な要素は、タンク底部の水の層、油全面のタンク火災、油が燃えたときのホット・ゾーン(すなわちヒート・ウェーブ)の形成である。

 3.1 フロスオーバー、スロップオーバーおよびボイルオーバー
■ ボイルオーバーの現象は、原油あるいは重油相当の油の入った開放型タンクにおいて起こった火災が、ある程度長い時間燃え続けたときに起こる。ボイルオーバーが生じると、大量の油が防油堤をも越えて猛烈な勢いで放出される。ボイルオーバーは複数タンク火災や防油堤火災に至る可能性があり、消防士にとって極めてリスクの高い事故になる。重大な火災事故についてレビューした“LASTFIRE”では、ボイルオーバーを起こしうる油を保有したタンク(固定屋根型タンクを含む)について16件の火災事故を取り上げているが、そのうち7件がボイルオーバー、2件がスロップオーバーを起こしている。ボイルオーバーは起こらなかったが、タンクが損壊して防油堤内に油の流出した事故が7件ある。この7件のうち、タンク側壁が損壊しなかった場合、何件がボイルオーバーに至ったかは分からない。

■ 最も激しい形で起こったボイルオーバーにみられる共通的な必要条件は、つぎの3つの要素である。
   ● 上部が開放されたタンク火災
   ● タンク内に水の層が存在すること
   ● 高温で、相対密度の高いホットゾーンの形成;これは貯蔵されている製品の性質で決まる。
 原油や重油相当の油を保有したタンクで全面火災が起こると、ボイルオーバーの発生する可能性は高い。油のホットゾーンが油中で下降していき、タンクの底部あるいは別な場所に存在する水に到達すると、ボイルオーバーが起こる。

■ 水が沸騰して水蒸気へ変わると、タンク内の油は上方へ押し上げられる。この結果、タンク内の液が大量に四方へ放出され、タンク直径の何倍もの距離の範囲に及ぶ。ボイルオーバーを起こしうる油は“トップ”と呼ばれる中間精製物を含んでいる。すなわち、原油留出油、残渣油、重油留分など沸点の異なるいろいろな留分を混在している油である。燃料油やヘキサデカンのような狭い沸点範囲のもので沸点の高い油が高温になり、ホットゾーンを形成され、ホットゾーンが水の層に接触するような状況になったときにボイルオーバー型の事象が起こる。

■ スロップオーバーは、消火水または消火泡を熱油に投入したときに起こる。水が沸騰することによって、熱油がフロスアップし(泡立ち)、タンク上部を越えてこぼれるような現象である。このため、当初のタンク火災に加え、堤内火災に至ることがある。

■ 注意すべきことは、ボイルオーバーがスロップオーバーやフロスオーバーとはまったく異なる現象だということである。スロップオーバーの範ちゅうには、燃焼している熱い油面に水を噴霧したときに起こる小さなフロス(泡立ち)現象を含んでいる。フロスオーバーは、火災と直接的に関係しておらず、高温の粘性油を保有するタンクに水が存在していたとき、あるいは水が入ったときに起こる現象である。ミキシングを行うと、水から水蒸気への転移が突然起こり、タンク内液の一部がオーバーフローすることがある。スロップオーバーは、タンク火災で燃え続けている燃焼面に対する水の存在との関係で起こる現象である。水はタンク液面において重質油中にしみ込み、そして蒸発する。このため、油が同調して動き、タンクから油があふれ出す現象となる。これは家庭で料理用油の入った鍋に水を注いだときに起こる火災と類似している。

 3.2 ボイルオーバーの影響
■ ボイルオーバーが起こると、燃えている油がタンク直径の何倍もの距離のエリアに飛び散ることになる。確証された研究結果があるわけではないが、“経験則”としては、ボイルオーバーによる飛散影響はタンク直径の5~10倍の距離の全範囲に及ぶといわれている。実際の距離は、油の保有量、蒸発する水蒸気の量および風向によって決まると思われる。

■ ボイルオーバーは壊滅的な結果をもたらすので、タンク周辺にいる人は非常に大きなリスクに曝せれることになる。従って、消火活動による鎮火ができそうもなく、油がボイルオーバーを起こす油種であれば、すべての人を安全域まで撤退させることが重要である。

■ ボイルオーバーが切迫しているという兆候に関する見解はいくつか見られるが、残念なことに、ボイルオーバーが起こる時が分かるような確証的な方法は今のところ見つかっていない。油の中を熱生成物が下降していく状態は、タンクの全表面において必ずしも一定でないということを認識しておかなければならない。従って、熱画像カメラや示温塗料を用いてタンク側板の高温ゾーンの下降状況を測定することは、必ずしも信頼性があるわけではない。一般的に認められている“経験則”によれば、ホットゾーンの下降速さは約 1~2 m/hである。この値はラフな見込み値としてだけに用いるべきで、実際の速さは油の種類や組成によって異なると思われる。また、ホットゾーンがタンク底部に達しなくても、ボイルオーバーは起こりうる。水のポケットや油の組成によっては、タンク内の異なったレベルでボイル現象が起こる。特に、原油ではこの傾向がある。

■ ボイルオーバーで飛散する油の量を最小にするための方法として、できる限り早くから、水を移送することが推奨されている。配慮しておくことは、この移送は消防活動中も行うことができることである。移送に伴うタンク内の乱れや熱生成物の動きへの影響は小さく、投入された消火泡の有効性は十分保たれる。

 3.3 ボイルオーバー現象の実験
■ 古積によって行われたボイルオーバーの実験において、風上から観測された火炎の赤外線画像を図3に示す。この画像によると、風上から観測された火炎の高さは、定常状態の燃焼に比べ、3倍の高さに増加していることがわかる。そして、熱電対によって計測された最高温度は、ボイルオーバーが起こったとき、約900~1,100℃に上昇した。この実験は3回実施されたが、この観察結果、油の厚さとボイルオーバーの時間に相関があることがわかった。
図3 ボイルオーバーの実験で風上から撮られた火炎の赤外線画像
(a)定常燃焼 (b)ボイルオーバー時
■ ボイルオーバーが生じる可能性のある事故の状況にあって、いつボイルオーバーが起こるかわかれば役に立つ。実際、ボイルオーバーが起こったあとの火災は極めて危険な状況(火炎の高さが増加し、輻射熱が増加)になるので、ボイルオーバーの発生前に消火を達成しておかなければならない。しかし、火災の最後の時間における音のスペクトルは非常に不規則な状態で発するので、正確な最後の瞬時を判断することが難しい。確かに、ボイルオーバーは、一般にクラックリング・サウンド(ぱちぱち音)と呼ばれる荒いノイズを発生することが知られている。これは、水のベーパーが泡立ち、一斉に動き、火炎へ油を放出させるからである。このように、ボイルオーバー現象の開始は、火災の騒音レベルから判断することができる。

■ ボイルオーバーの発生までに大量の油が燃焼するということ(ボイルオーバーまでに燃える質量比)は、ボイルオーバーの特性を考える上で、極めて重要なことである。このことは、ボイリング過程にある間、あと、どの位の油量が燃えるかという情報を与えられることになる。実験を通じて質量比を正確に分析し、ボイルオーバーを予測する方法を見出そうとしている。

■ ボイルオーバー時にどのくらいの水が蒸発しているか精度よく分析されていないが、ボイリング過程における実際の燃焼率(燃焼速度)を測定することは有用である。水量と火炎の表面積には関連があるのかもしれない。

4.ボイルオーバーの予測
■ ボイルオーバー現象では、油の直下に水が存在するため、単純な油燃焼のほかに、油から水に熱が伝わり、多様な影響を及ぼすことになる。その影響のひとつが、ボイルオーバーとして知られる油の破壊的な燃焼である。すなわち、水が沸騰して飛び散り、油の爆発的な燃焼に至る。ボイルオーバーに関する諸問題のうち、重要な関心事項はボイルオーバーの開始点と強さ(激しさ)の二つだと思われる。

■ ボイルオーバーに至る前の擬似定常期は、最も効果的で攻撃的な消火方法をとりうる期間であり、成功すれば、極めて有害で衝撃的な影響を防ぐことができる。しかし、常に成功を保証する有効な方法は無い。一旦、消火活動に失敗してボイルオーバーが生じれば、火災は制御不能で、火災による被害は大きくなる。ボイルオーバーが起こる前に、消防士と消火資機材を危険ゾーンからただちに撤退させ、周辺の油タンクを適切に防護できれば、火災による被害を少なくすることができる。J.P.ガロは、ボイルオーバー直前の燃料の質量比をベースに、ボイルオーバーの強さを推定している。この層が厚いほど、ボイルオーバーの強さは大きくなる。一方、H.S.ホアのグループによる研究では、環境騒音からマイクロエクスプロージョン(微細爆発)ノイズを識別することによってボイルオーバーの発生を予測できるとしている。この研究では、ボイルオーバーのメカニズムを調べるために小規模の油タンクのモデルを用いている。直径600mmの油タンクのモデルを用いて、ボイルオーバーのハザード火災挙動および予兆現象を観察した。さらに、実験室で小さな油タンクのモデルを用いて詳細な計測を行い、安定した結果を得た。火炎構造、油/水の層の温度経過、燃焼速度、ボイルオーバーの密度、ノイズ・レベルなど一連の物理的データが、全ボイルオーバー過程において記録された。

 4.1 マイクロエクスプロージョン・ノイズ・エミッション法
■ マイクロエクスプロージョン・ノイズ・エミッションのメカニズムおよびノイズ・エミッションとボイルオーバー発生の関係を解明するため、 H.S.ホアのグループは三方の壁を石英ガラスにした特別な四角形の油タンクのモデルを作り、油/水の境界面における水のボイリング過程の観察を行い、カメラで記録した。さらに、音響記録システムを使用して、油燃焼の全過程中のマイクロエクスプロージョン・ノイズを磁気テープに記録した。これによって、マイクロエクスプロージョン・ノイズを繰り返し再生することができ、たくさんの音響パラメーターの中からノイズ識別に最も適した方法を得た。

■ 油/水の境界面における水のシーシング(煮沸)が、結局はボイルオーバーを引き起こすことがわかった。従って、水のシーシング過程を注意深く観察したり、試験を行うことによって、ボイルオーバーのメカニズムを解明し、マイクロエクスプロージョン・ノイズなどのエミッションの事前兆候現象の解明に役立つものと思われる。 H.S.ホアによる実験観察の結果、油/水の境界面における水のシーシング状態は、2つの基本的な状態、すなわち弱いシーシング状態と強いシーシング状態のあることが明らかになった。弱いシーシング状態はマイクロエクスプロージョン・ノイズを発する代表的な現象であることを示し、一方、強いシーシング状態はボイルオーバー発生に直結する現象であることがわかった。

5.ボイルオーバーの影響低減策
■ 油貯蔵タンクでボイルオーバーが起こると、大量の燃えた油が飛び散り、急速に炎が大きくなり、火炎による周囲への輻射熱は激しく増加する。さらに、ボイルオーバーは、時として、擬似定常燃焼が長く続いた後、突然起こることがある。このような燃焼特性は、制御不能な油火災になるだけでなく、消防資機材を破壊し、油タンク近くで活動していた消防士を焼け焦がす。従って、急なボイルオーバーは火災による被害を拡大させることになる。ボイルオーバー現象に関する研究は、火災挙動とメカニズムの二つについて世界で広く行われてきた。

■ しかし、ボイルオーバー現象は、燃焼、伝熱、物質移動、相変化、ボイリング、ベーパー・エクスプロージョンなど多様な物理的特性を含んでいるという複雑さから、ボイルオーバーのメカニズムはなかなか解明できていない。このような中で、ボイルオーバー現象に関する注意深い実験観察の結果、典型的なボイリング過程は三つの基本状態、すなわち擬似定常期間、事前兆候期間およびボイルオーバー期間に分けられることが経験的にわかった。これまでの研究の大多数は、擬似定常期間や全過程に焦点が向けられていた。

■ ボイルオーバーの影響低減策は必ずしも好結果を得ていない。小型タンクでは、SSI((Sub Surface Injection:液面下放射)方式による泡投入や高加速水流によってホットゾーンの破壊や形成防止が可能だった。(この戦術を用いることは、一般には推奨されていない) ホットゾーンがかなりの深さまで達している場合、SSI方式は、スロップオーバーの可能性があるため、実施が難しい。 SSI方式において間欠的に泡を投入する(タンクの液面に水蒸気が見えたら、投入を停止)ことによって、スロップオーバーを回避できた例はある。しかし、この例は事故時の経験であり、本題に対して信頼性のあるアドバイスとしては、データーが不十分である。

■ 底部に水の層が形成しないようにと、タンク・ミキサーを使用することは行うべきでない。ミキサーを運転することによって、局所的な水のポケットが形成する可能性がある。ミキサーへの電源が無くなる事態になれば、水はさらに集積する可能性がある。

■ 消火活動が不可能あるいは実質的にできないと判断した場合、油の抜き出し(移送)を推奨する消防士は多い。この理由は、たとえボイルオーバーが目前に迫っていても、ボイルオーバーに巻き込まれる油の量を減らすことができるという考えである。いくつかの会社では、貯蔵タンクを作るとき、底部に勾配をつけ非常水抜出し点に集まるようにしているところがある。これによって、ホットゾーンがタンク底部から3mに達した時、非常水抜出し系を開け、タンク底部からできる限りの水を抜くようになっている。

結 論
■ 製油所や石油化学の会社において、原油や石油ケミカルの大量貯蔵は大きな危険性を内在している。この論文では、貯蔵タンク火災に関する各分類とその事象について説明し、つぎに火災事故の中で最も重大な事項のひとつであるボイルオーバー現象について、タンク底部の水の層や温度境界のような影響因子について論じてきた。ボイルオーバーが起こると、取り返しがつかない損害を被ることになるかもしれない。火災はタンク直径の10倍以上の範囲に拡大することもある。このことは製油所の貯蔵タンクのレイアウトに関する設計の重要性を表している。

■ ボイルオーバーの影響を小さくするための提案として、日常の水抜出し系統について特別な設計を行うという考え方がある。これは、調査によると、ボイルオーバーの現象発生時点で石油ケミカルを安全な場所に移送することはかなり危険だということからである。この提案は、ボイルオーバーの主要因が水の層の存在にあるということに基づいている。さらに触れたことは、火炎構造の分析、貯蔵タンクの局部温度、油の厚さと水の層の比、火災進展速さ、燃焼時のエクスプロージョン音の研究が、ボイルオーバーを予測するために役立ち、場合によってはボイルオーバー発生を回避する手立てにつながるということである。

補 足                                                        
■ 「カシャーン大学」(University of Kashan)はイランのテヘランから約230km南にあるカシャーンにある大学で、1974年に設立され、工学、物理学、数学、化学、芸術、人文科学などの分野に約6,000人の学生が在籍している。

■ 「マイクロエクスプロージョン」(Micro-explosion;微細爆発)は、ボイルオーバー前に起こる微小な水蒸気爆発をいう。ボイルオーバーに至る前の現象で良いイメージではないが、金属の組織微細化や医療品製造など工業分野ではマイクロエクスプロージョンの活用技術が展開され始めている。
 ボイルオーバーの予測方法としてH.S.ホアのグループが研究した内容は、 J. S. Hua, W. C. Fan & G. X. Liao; Study and Prediction of Boilover in Liquid Pool Fires with a Water Sublayer using Micro-explosion Noise Phenomena; Fire Safety Journal 30 (1998) 269-291に掲載されているという。

■ 本論文で燃料の「質量比」(Mass ratio)に関して言及しているが、つぎのような論文が参照されている。
① Fabio Ferrero, Miguel Munoz, Bulent Kozanoglu, Joaquim Casal, Josep Arnaldos, 「Experimental study of thinlayer boilover in large-scale pool fires」, Journal of Hazardous Materials A137 (2006) 1293–1302
② J.P. Garo, J.P. Vantelon, S. Gandhi, J.L. Torero, 「Determination of the thermal efficiency of pre-boilover burning of a slick of oil on water」, Spill Science & Technology Bulletin, Volume 5, Issue 2, May 1999, Pages 141-151
③ J. P. Garo, J. P.Vantelon, H. Koseki, 「Thin-layer Boilover: Prediction of its Onset and Intensity」, Combustion Science and Technology, Volume 178, Number 7, July 2006 , pp. 1217-1235(19)

所 感
■ ボイルオーバーに関する世界の研究について、このように整理してまとめた論文は非常に有用である。

■ 実際の貯蔵タンクの操業部門や消防部門の観点から、参考になる事項はつぎのとおりである。
 ① タンク・ミキサーによるミキシングは行なうべきでない。
 ② タンク底部に溜まった水は、できる限り、抜き出すべきである。消火活動中であっても、水の抜出しを行っても良い。
 ③ 予測のためタンク側板を熱画像カメラで撮っても、信頼性は低いとみておく。
 ④ ヒートウェーブの下降速さは約1~2m/hである。ラフな見込み値としてだけに用いる。
 ⑤ ボイルオーバーによる飛散影響はタンク直径の5~10倍の距離の全範囲に及ぶ。
 ⑥ マイクロエクスプロージョン・ノイズの観測はボイルオーバー予測に役立つ。

■ 消火戦略の観点からいえば、つぎのような考え方ができると思う。
 「原油タンクの全面火災時には、まず攻撃的な消火戦略として大容量泡放射砲などを使用して消火活動を行う。制圧が可能であれば、泡放射を開始してノックダウン時間(20~30分)を経過すれば、火勢が衰えるはずである。しかし、火勢が衰えず、保有する消火資機材では鎮火が困難で、ヒートウェーブの下降速さからボイルオーバーの発生が迫っていると判断すれば、消火戦略を変更する。すなわち、泡放射(水の投入)を停止し、燃え尽きさせる戦略をとる。この際、タンクからできる限り、水を抜き続ける。タンクおよび水排出管の構造から完全に水を抜き出すことができない場合もあり、消防隊などは安全域(タンク直径の5~10倍)に撤退する」

備考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Petrotex.us,  Boilover in Storage Tanks: Occurrence, Consequences and Predictions, (American Journal of
  Oil & Chemical Technologies ISSN Print: 2326- 6570 ; Online: 2326- 6589 Page: 13-21)
           Mojtaba Mirdrikvand, Ali Cheshmeh Roshan, Masoud Mahmoudi
               Research Center; Researcher; Petroleum University of Technology; North Bowarde, Abadan, Iran
               Department of Chemical Engineering‚ University of Kashan ‚ Kashan Iran


後記: スポーツに国境はないと言われます。(ソチ・オリンピックの開会式には主要な欧米首脳が参加拒否しましたが) 今回の論文は、イランのカシャーン大学の人が執筆し、米国の雑誌に掲載されたものです。このような形で国境がないのも好ましいと思いますね。ところで、今回、標題にボイルオーバーの写真を入れようと思って探していたところ、見つけました。かなり昔のものと思われ、セピア色になっていました。そのままでもよいのですが、試しに画像補正のソフトを使って修正してみました。これが本当の色彩かはわかりませんが、素人でも簡単に修正できるようになり、便利ですね。
左;修正前 右;修正後
                                              


 


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