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2021年9月6日月曜日

事故対応では科学技術を使いこなし、危険予知を活発に行う

 今回は、2021414日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「Why Dynamic Risk Assessments Matter」(動的リスク評価が重要である理由)の内容を紹介します。

< 背 景 >

■ 火災を消すための設備を配置したり、ベーパー抑制に供する機器を配備するための訓練は大切である。一方、タンク火災との戦いで勝利するための本当のカギは、事故が発生したときには、すでにダイナミックなリスク評価を完了しておくことである。  

■「あらゆる状況での変化を理解することと、その対応の影響や事故拡大の可能性について認識しておくことが肝要です」と産業緊急事態対応の専門家で市の消防副署長であるシェーン・スタンツ氏はいう。 

■ 「状況の変化への疑問に答えるため、未来を見通せる水晶玉を持っておこうという心構えが大事です。たとえ、あなたが疑問さえ浮かばなかったとしてもです」とスタンツ氏はいい、 「未来を見通せる水晶玉が無ければ、最初から適任の人たち、特にタンク基地で働く人たちを巻き込んでおくことが重要です。この人たちは、あなたが疑問に思ってもいなかったことについて知識・経験を提供してくれるでしょう」と語っている。  

< 現場での対応 >

■ タンク火災が発生したり、タンク火災へ至るおそれのある事故の現場に到着したとき、現場指揮所長はつぎのような要因を迅速に評価しなければならないとスタンツ氏はいう。  

 ● 現場地区に人が残っていないか、そしてすべての人たちが退避したかをほかの作業者といっしょになって確認することによって人員を把握する。

 ● 事故が拡大する恐れはないか、火災に曝露される恐れはないか、追加の支援を頼む必要はないかをただちに判断する。この目的は、事故が複数の事象に拡散しないことや、ほかの設備に広がらないであろうことを確認することにある。

 ● どうしたら問題を軽減できるかをすぐに判断する。たとえば、バルブをコンピューター画面から遠隔で閉止することはできるか?

 ● 事故の影響や広がりを監視するためのデータを提供できる固定式の空気モニタリング装置を探す。

■「現場に固定システムが設置されているか確認することは難しいことではないと思います。しかし、機器を動かしている人たちと話し合って、それが重要な情報であることを共有化することは都合の悪いことではありません」とスタンツ氏はいう。

■「タンク火災と戦うとき、つぎのような考慮すべき事項があるとスタンツ氏はいう。

 ● タンクの設計や建設状況は把握できているか?

 ● タンクの運転状態は把握できているか?

 ● タンク内に貯蔵されている物質の種類。可燃性、爆発性、腐食性、または毒性があるか?

 ● タンク内に入っている液体は重質か、軽質か? 液体はガソリンか、原油か?

 ● タンク内の液体の量はどのくらいか?

 ● タンクは火災になっているか、あるいはベーパー抑制を要する状況か?

 ● 落雷の危険性のある気象条件ではないか? 危険性のあるベーパー類を広がる恐れのある強風の気象条件ではないか?

 ● メンバーが火災を抑えるために展開できる既存の泡消火システムはタンクにあるか? 半固定式泡消火システムの展開は誰が決めるか?

 ● 状況が拡大していく可能性はないか?

 ● 大気モニタリングを実施する必要はないか? モニタリングの結果は消火戦術を変える必要はないか? あるいは泡モニターの台数を増やさなくてもよいか? たとえば、空気質が悪化したり、封じ込めができない場合、特定の道路を閉鎖したり、近隣住民を避難させる必要はないか?

■「タンクの専門家らはタンクに関連する情報を知見としてもっており、解決につながる要因をすばやく識別できるので、その道の専門家に相談すれば、大抵の変化に対処できる」スタント氏はいう。たとえば、タンク関連で働いている人は、タンクが内部型浮き屋根式タンクであるか、固定式のコーンルーフを備えたタンクであるか、外部型浮き屋根式タンクはすぐに分かる。

■「タンクの専門家らはタンクに関連する情報を知見としてもっており、解決につながる要因をすばやく識別できるので、その道の専門家に相談すれば、大抵の変化に対処できる」とスタント氏はいう。たとえば、タンク関連で働いている人は、タンクが内部型浮き屋根式タンクであるか、固定式のコーンルーフを備えたタンクであるか、外部型浮き屋根式タンクはすぐに分かる。

科学技術の進歩

■ 「科学技術は過去10年間で信じられないほどの進歩を遂げました。熱画像カメラを使用すれば、タンクの液位を知ることができます。ドローンを使用していろいろな情報を集めることができますし、ドローンに熱画像カメラを取り付けることもできます」 とスタンツ氏はいい、「以前は、人が歩き回って、地域をいろいろな角度で評価する必要がありました。いまではドローンを使用すれば、その地域の静止画像やビデオ映像を取得できます」と付け加えた。 

■ 科学技術の製品を導入することはひとつの選択肢である。しかし、火災現場の精神的なプレッシャーがかかる中で、技術を適切かつ効率的に使いこなせるかどうかは別の問題である。 

■ 効果的に科学技術を使いこなすために、消防部門は資機材に知るだけでなく、機器を操作する能力を確かなものとする知識と技能を訓練する必要がある。

■「進んでいる訓練計画を実施している消防隊などの緊急事態対応部署では、メンバー各個人の適格性を測っています。彼らは教室に座って解答欄にマークを記載しても証明書や資格を取得することはできません。緊急事態対応部署では、実際の緊急事態時に住民を安全且つ効果的で期待されることを実行できるか対応者全員を対象にして毎年確認しています」 とスタンツ氏はいう。

■ メンバー各個人の適格性を確認するには、技能を習得修了している人たちに観察してもらい、訓練についてテストしなければならない。たとえば、固定モニターの操作方法の適格性は、テストを受ける消防士を観察することになる。

■「メンバーを訓練して適格性があることを確認し、配置する人員に適正なバランスをとり、24時間年中無休で対応できるようにすることです。緊急対応組織にボランティア型消防士の人あるいは生産部門や保全部門から一時的に引き抜いてきた人たちを配置している場合、別な挑戦的課題があります。それらの人たちにとって、消防はフルタイムの仕事ではありません」 とスタンツ氏は説明する。

■ それでも、各メンバーが認定された対応分野について毎年十分な再教育訓練を受けることが重要だとスタンツ氏は述べている。

■「この分野には、事故対応指揮、トレンチレスキュー、ドローン使用の救出のほか、救急医療、危険物質の戦いや消火活動の訓練を受けた人たちが当てはまります」とスタンツ氏はいう。

■ 業界によっては、訓練プログラムが非常に複雑になる可能性があるといい、教える訓練内容を月ごとに細かく分けるのがよいと、スタンツ氏は説明する。ただし、適格性を改善し、維持させていくには、訓練は少なくとも四半期ごとに行う必要がある。

■ 労働安全衛生局(OSHA)では、特定の分野で訓練を受けた人々は、毎年、指定時間数の再教育課程を終えなければならないとしている。

リスクの軽減

■ 「企業やコミュニティは、火災との戦いをしている第一線に立った対応者のリスクや輻射熱などの曝露の状況を減らすために科学技術を使用することは望ましい。しかし、消防士などは必要なときに科学技術の機材を効果的に使用できなければなりません」とスタンツ氏はいう。 

■「私たちが防爆性のある建物の中に座って、操縦桿(そうじゅうかん)やジョイスティックのついたコンピューターを備えた設備を使って作業できるのであれば、それが火災と戦うにはもっとも好ましい方法でしょう。ロボット工学が進歩し、火災抑制に関する科学技術を取り入れた設備と組み合わせることは推進を加速しているようです」スタンツ氏は付け加える。

■ 効果的な訓練プログラムによって、いかなる種類の事故時でも重大なミスを起こすことはなくなる。

■「火災の抑制や漏洩の封じ込めの戦術を展開するときになって事故の想定や疑問点を尋ねるのでは遅く、その前のリスク評価とデータの検証にすべて帰結します」とスタンツ氏はいう。

■ たとえば、静電気放電がリスクだと理解していない人がいれば、そのときはベーパーを抑制しようということが、結局、火災を制御する取り組みに変ってしまうかも知れない。 というのは、ベーパーの抑制を展開する戦術が、燃料を着火させる静電気を形成してしまうからである。

■「だれもができるだけ早く火を消したいと思っています。しかし、最初に冷却作業、疑問点やデータを確認するといった防御的な方法を取ることによって、全員がエリアから確実に抜け出すための時間を稼ぐことができます。また、隣接エリアからの移動や孤立などの問題を悪化させるような状況にならないように追加の対策を講じることもできます」とスタンツ氏はいう。 

■ 火災事故には多くの潜在的なリスクがある。そのため、消防部門は潜在的な事故に対処するための計画を立て、その対応を日常的に実践していくべきだとスタンツ氏は説明した。 

■ たとえば、原油が火災になった場合、ボイルオーバーの発生する危険性が高くなるかもしれない。一般的、タンクには全体を通じて水が存在しており、特にタンク底部には原油の下側に水が存在する。火災時、タンク内には水の沸点よりかなり高温の層が形成され、その層が下降するにつれて極めて危険な状態をもたらすとスタンツ氏はいう。

■「燃えている油の高温の層が下降して水が存在しているところに達すると、いわゆるフロスオーバー(泡立ち)と呼ばれる現象が発生し、場合によってはボイルオーバーの状態になります。そのとき、存在していた水は水蒸気に変わり、燃えている熱い油をタンク上部から噴き出させます」とスタンツ氏は説明した。

■「ボイルオーバーが起こると、燃えている油がタンク外に数百ヤード(数百メール)噴き飛ばされる可能性があります」とスタンツ氏はいう。「そのため、タンク内にどのような種類の液体が入っているかを知ることは非常に重要です。タンク内の液体が原油ならば、それはゲーム・チェンジャーのように大きな影響を与えるものだからです。高温の層が水の層に達して悪夢を引き起こす前に何かをしなければならないため、時間に余裕はありません」

■ 変化の兆候を知ることは、安全な避難経路や距離を判断するのに役立つ。風向きが変わり、汚染物質が人口密集地域に流れそうな場合、別な地域からその地域に人々を避難させることは有益ではないとスタンツ氏は説明した。タンク内の液体が原油の場合、避難はより広範囲で距離をとる必要があり、避難は短時間で実施する必要がある。

■ 輻射熱が他のタンクや可燃性物質の点火源になる可能性があるため、風向きも注意が必要であるとスタンツ氏はいう。

■「このため、空気のモニタリングが大事になります。それは、避難の場所や経路への影響、あるいは近くの物質への曝露に影響を与える可能性があるためです」とスタンツ氏は付け加えた。

■ 日頃からさまざまな対応を行うことで、メンバーが潜在する事象を管理し、大きな問題がさらに大きくなるのを防ぐことができる。

補 足

■「トレンチレスキュー」は、溝状の地形(トレンチ)で周囲が崩れないよう処置を行い、二次災害を防止しながら救助活動を行うことである。工業界の消防部門の人にはなじみはないが、日本の公的消防機関では、トレンチ(溝)レスキューという名称で実際に訓練が行われている。たとえば、「県下4市合同トレンチ(溝)レスキュー(平成27120日・21日)」(小田原市消防本部)や「トレンチ(溝)レスキュー訓練を実施しました」(松戸市消防局)を参照。


■「ボイルオーバー」については、このブログでもたびたび紹介してきたが、主なものはつぎのとおりである。

 ●「貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測」20142月)

 ●「浮き屋根式貯蔵タンクのボイルオーバー」20144月)

 ●「原油タンク火災の消火活動中にボイルオーバー発生事例」20139月)

 ●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー(1974年)」20142月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その1) 」201410月)

 ●「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故(19838月)」201412月)

 ●「原油貯蔵施設におけるリスクベース手法による火災防護戦略」20163月)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」20168月)

 ●「原油貯蔵タンク火災時のボイルオーバー現象」20169月)

 ●「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」20192月)

 ●1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー(泡消火剤の搬送)」 20218月)

所 感

■ 今回の資料はトレンチレスキューの訓練が出てきたり、どちらかというと公的消防機関の人を対象にしている。しかし、心構えとして「あらゆる状況での変化を理解することと、その対応の影響や事故拡大の可能性について認識しておくことが肝要」という言葉は工業界の消防隊などの緊急事態対応部署の人にも当てはまる。

■「動的リスク評価が重要である理由」というやや硬い表現であるが、書かれている内容は、科学技術(テクノロジー)を使いこなし、日本でいう“危険予知”を活発に行うということのように思う。

 たとえば、ある原油タンクでリムシール火災が起きたとき、現場指揮所や消防隊のメンバーがどのような対応をとるかである。リムシール火災ならば、既存の固定泡消火システムで対応ができると疑念を抱かず、ほかの対応を取らなかったらどうなるか。固定泡消火システムが途中で停止してしまい、さらに浮き屋根が不調(沈降)になったらどうなるか。テクノロジーの粋を集めた大容量泡放射砲システムの搬送に時間がかかってしまったらどうなるか。そうなれば、資料に書かれているようなボイルオーバーに至る危険性が出る。「火災を消すための設備を配置するための訓練は大切である。一方、タンク火災との戦いで勝利するための本当のカギは、事故が発生したときには、すでにダイナミックなリスク評価を完了しておくことである」という指摘は重い。事前のリスク評価の段階で“危険予知”を働かせ、あらゆる事態を想定しておき、対応の事前計画を完了させておくことだと思う。  

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Why Dynamic Risk Assessments Matter(動的リスク評価が重要である理由), by Ronnie Wendt, April 14, 2021 


後 記: 本資料は事故対応の心構えについて具体例を交えて書かれたものですが、最後に「ボイルオーバー」の事例が出てきます。前回のブログでは、1964年の新潟地震時に起きたボイルオーバー事故を取り上げましたが、やはり、原油のボイルオーバー事例は消防隊など緊急事態対応に携わる人たちにとって不気味な怖さのある事象だという気がします。このブログでは、補足で記載したようにできるだけボイルオーバーに関することを取り上げてきました。ときには、読み返すことも良いのではないでしょうか。

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