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2023年9月4日月曜日

ルーマニアのLPガスステーションで消火活動中に大爆発、死傷者58名

  今回は、 2023826日(土)、ルーマニアの首都ブカレスト近郊のクレベディアにあるフラガスSRL社のLPガスステーションにおいてLPガスタンクが爆発・火災が発生し、死傷者58名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ルーマニア(Romania)の首都ブカレスト(Bucharest)近郊のクレベディア(Crevedia)にあるフラガスSRLFlagas SRLLPガスステーションである。

 ルーマニアでは、液化石油ガス(LPガス)は家電製品の燃料として使用されるほか、ガソリンや軽油よりも価格が比較的安いため、一部の自動車では燃料として使用されている。

■ 事故があったのは、DN1A道路沿いにあるLPガススステーション内にあるLPガス用タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023826日(土)午後650分頃、 LPガスステーションで爆発事故があり、火災になった。発災によって犠牲者が発生した。

■ 事故に伴い、消防署の消防隊が出動した。出動はブカレストなど近隣の消防と医療の両方の部隊が動員された。

■ この事故によって7名の負傷者が発生した。当初、ひとりが死亡と発表されたが、後に火災と関係なく、パニックによる心停止だった。7名の負傷者は、火傷を負った3名がブカレスト臨床救急病院に搬送され、4名はバグダサール・アルセニ病院に搬送された。

■ 駆けつけた消防隊の目の前で、LPガスステーションのLPガスタンクがロケットのように炎を噴き出していた。

■ 826日(土)午後730分頃、 LPガスステーションの火災現場で爆発が発生し、LPガスタンクの一部が噴き飛んだ。火災はなおも続いた。消火のために現場に来た消防士たちは、 LPガスステーションの構内にLPガスを満載したタンクローリーがまだあるかどうかよく分からなかったとみられる。

■ 火災がLPガス設備であるので、政府緊急対応ユニット(IGSU)の消防隊は半径800m以内の住民を避難させて、消火活動を行うこととした。約3,000人の住民が避難し、現場の道路は閉鎖された。

■ 火災はタンク2基と近くの家を焼き尽くした。

■ 現場には25台の消防車が配備され、消防隊が炎を噴き出すLPガスステーションに向かって放水した。

■ 826日(土)午後9時頃、突然、LPガスタンクが爆発音とともに周囲が見えなくなるほどの閃光が走り、大爆発が起こった。現場にいた消防士らは全速力で逃げ出した。


■ 爆発は非常に強力で、近くにいた消防士のヘルメットが溶けるほどだった。

■ この爆発によって1名が死亡、50名が負傷した。このうち3名が火傷と外傷を負ってUPUトゥルゴヴィシュテに搬送され、47名がブカレスト市の保健ユニットに搬送された。犠牲者総数のうち、内務省職員は43名(消防士39名、警察官2名、憲兵2名)だった。

■ 現場付近の家屋数軒と車両が火災で被害を受けた。再び爆発が起こる危険性があるため、すべての公共施設が停止され、地域の地元住民には水も電気も供給されなかった。

■ この地域は依然として危険であった。高温にさらされて変形したタンク3基がLPガスステーションの構内にあった。そのうちの少なくとも1基はひびが入っており、周囲への安全が確保されていないため、住民家に戻ることができない状況だった。

■ 郊外では大気汚染の増加がすでに確認されており、住民は窓を閉めるよう勧告された。ルーマニア環境省は、爆発が起きた地域の大気質評価を発表した。同省によると、基準からの逸脱はわずかであり、大気の質には影響しないという。

■ 827日(日)には火災は消えた。

■ ユーチューブには、火災や爆発時の状況が複数投稿されている。その例を紹介する。

 Youtube「ガススタンドに閃光爆発の瞬間 タンクローリーにも火の手迫る ルーマニア」(2023/8/28

 ●Youtube危険】ガソリンスタンドで2度の爆発…少なくとも1人死亡・消防士26人けが ルーマニア2023/8/28 

 ●YoutubeHUGE Gas Explosions in Crevedia, Romania - Aug. 26, 2023 explozii în Crevedia2023/08/27)(ルーマニアのクレベディアで大規模なガス爆発 )

 ●YoutubeImagini IGSU de la incendiul ce a urmat exploziei din Crevedia2023/08/27)(クレベディアの爆発後の火災のIGSU画像)

被 害

■ LPガスステーション内にあるLPガスタンク群が少なくとも5基が火災で焼損した。内部のLPガスが焼失した。

■ 2回の爆発・火災によって死傷者58名が出た。内訳は死者1名、負傷者58名である。(1回目の爆発・火災で7名が負傷し、2回目の爆発・火災で1名が死亡し、50名が負傷した)

■ 近くの住民約3,000人が避難した。発災現場の近くの住宅では電気と水道が止められ、道路が閉鎖された。

■ 爆発・火災によって、近くの住宅、車両、畑が焼損したほか大気汚染が発生した。


< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 最初の爆発は、LPガスタンクに積込むホースの取扱い中に、従業員がタバコに火をつけたことによるという話が出ている。要因は、土曜日中にLPガスをあるタンクから別のタンクに移そうとしたらしいという話がある。 

< 対 応 >

■ 最初の爆発後、隊員の危険を軽減するため、ロボットを使って消火活動を行うことにした。

■ 827日(日)、爆発現場から約1,000m離れたひまわり畑でタンクの破断した片割れが見つかった。畑の持ち主によると、タンクの片割れは土曜日まで畑には無かったという。破断したタンクの大きさは全タンクの約4分の3に相当した。もう片割れの部分は住民の家の庭の近くにあった。

■ LPガスステーションはもともとガス倉庫として使用されていたが、官庁による検査後に閉鎖(廃止)された。それにも関わらず、設備を受継いだフラガスSRL社は活動を続けていたとみられる。LPガスステーションには10,000リットルのタンクが6基あり、そのうち2基は満タンだった。

■ EU加盟国では、安全対策に対する当局の監督の欠如に対して繰り返し怒りが噴出しているという。

■ ルーマニアのインターネット情報誌のオブザベーターニューズ(Observatornews)では、アニメーションによるタンク破裂の動画が投稿されている。(下図を参照)


補 足

■「ルーマニア」(Romania)のは、東ヨーロッパのバルカン半島東部に位置する共和制国家で、人口約1,900万人である。首都は人口約216万人のブカレスト(Bucharest)である。1989年、ニコラエ・チャウシェスクの独裁政権が打倒され(ルーマニア革命)、民主化された。2007年に欧州連合(EU)に加盟した。

「クレベディア」(Crevedia)は、ルーマニアのダンボヴィシャ郡にある人口約6,600人の町である。

■「フラガスSRL社」(Flagas SRL)は、ルーマニアで1997年に設立されたその他雑貨小売業で事業を展開している。ルーマニア国家環境保護庁によると、クレベディアにある旧LPG基地は2021年まで自動車用燃料の販売に関して環境認可を受けていた。旧ステーションは2020年に営業を終了する予定だったという。

クレベディアで爆発したLPガスステーションはフラガスSRL社に属しており、カラカル市長の息子が所有しているものだった。国家安全対策の不遵守に関連した不正行為で緊急事態監察局から数回の罰金を科せられ、2020930日、同社は職場を閉鎖すると当局に通知していた。

■ 発災施設は、報道によってガソリンスタンドやLPガススタンドと言っているところが多いが、もともとLPガスの倉庫業だったところで、正式な燃料販売を行うスタンドではないので、ブログでは「LPガスステーション」と称した。日本では、 LPガススタンドと言ってもガソリンスタンドと同様の屋根のついた燃料販売所を思い浮かべるが、ルーマニアでは必ずしも屋根付きのスタンドではなく、LPガスタンクと計量器だけのLPガススタンドがあるようだ。写真を参照。発災のあったLPガスステーションは、販売の認可をとっていたらしいので、LPガスタンクと計量器を付け、LPガスを販売していたのかもしれない。しかし、発災のLPガスステーションには10,000リットルのタンクが6基あったという。正規のLPガスのタンクではなく、タンクローリーのガスタンクを転用していたのかもしれない。

■ LPガス設備の事故としては、つぎのような事例がある。

 ●「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故(2011年)の原因」20123月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その2) 」201411月)

 ●「中国 山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」20157月)

 ●「ナイジェリアのマトリックス社のLPG施設で爆発・火災、死傷者17名」20227月)

所 感

■ 今回の事故は実際のところ事実がはっきりしない。爆発は2回起こったという報道や3回または4回発生したというメディアがあるし、死傷者の人数も報道によって異なっていた。このブログでは、いろいろな記事や発災写真から爆発経緯をつぎのように推測した。

■ 今回の事故を「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)の「圧力タンク火災への対応」に沿ってみていく。固定屋根や浮き屋根式の常圧タンク火災とは少し異なり、LPガスのような圧力タンク火災に対処するための戦略的思考は、つぎのとおりである。

 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。

 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。

 ● 液レベルより上部を冷却する。

 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。

 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。


 
さらに、消防隊の配慮事項についてみていくと、つぎのような感想をもつ。

 ● 危険区域の判断; ホットゾーン、ウォームゾーン、コールドゾーンをどのように設定したか。住民への安全を考慮して、半径800m以内の住民を避難させて消火活動を行うこととしたので、危険区域の考えはあったと思われるが、ハザード個所に近いホットゾーンなどの設定に課題があった。

 ● 前線チームの消火戦術; 隊員の危険を軽減するため、ロボットを使って消火活動を行うことにしたのは適正だった。消火活動を撮った写真では、放水ノズルの遠隔操作装置を隊員1名で監視しているので、最小人数の配置であったようだ。しかし、圧力タンクの冷却は両サイドから、液レベルより上部に行うのが基本であることからすると、複数のロボットを使い、両側から行うべきだっただろう。この後、3回目の爆発があり、消防隊の配置を変えてしまったと思われる。

 ● 防御チームと冷却チーム;  3回目の爆発によって前線チームの支援を行う防御チームと冷却チームが前線に出てきてしまったのではないだろうか。当初、LPガスステーションの構成や配置を知らなかったようだが、この時点で複数のLPガスタンクが存在していることを把握し始め、冷却の必要性を認識したと思われる。このとき、冷却を隊員が保持する放水ノズルでやるため、LPガスタンクに近づいたのではないだろうか。スクアート車があれば、遠くから冷却できたと思う。

 ● 対応本部; 少なくとも消防隊は各署から出動してきており、指揮系統が十分できていたか疑問がある。最初に前線チームに派遣した隊員は通常の防火服だと思われる。前線チームに派遣する隊員には耐熱耐火服を着用すべきだっただろう。 また、LPガスタンクでは、BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する必要があるが、報道にあるようにLPガスタンクは高温にさらされて変形し、タンクにひびが入っていたという。大爆発はBLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)によるものだと思う。最悪のケースを想定しておくのが対応本部の役割であるが、この対応が適切でなかったと思う。この背景には、3回目の爆発が負傷者の出るような状況でなかったのが、大丈夫だという安易な判断を生んでしまったのではないか。また、今回のような発災場所の状況が分からないときには、ドローンを活用することが必要であろう。【 「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」 20213月)を参照】


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     News.yahoo.co.jp,  ルーマニアのLPガススタンドで爆発 1人死亡、50人以上けが 負傷者の多くは消防士,  August  28,  2023

     Voi.id,  ルーマニアのガソリンスタンドが2回爆発し、146負傷,  August  27,  2023

     Fnn.jp, LPガススタンドが突然の爆発 周囲が光に包まれ逃げ惑う人々 1人死亡、消防士など57人ケガ ルーマニア,  August  30,  2023

     Bbc.com, Romania gas station blasts kill two and injure many,  August  30,  2023

     Reuters.com, One person dead, 57 injured after explosions at Romanian gas station,  August  28,  2023

     Esp.md, O serie de explozii în benzinării de lângă București: O persoană a murit, 57 au fost rănite,  August  27,  2023

     Obiectivtulcea.ro, Incendiul unei benzinării din România a provocat 2 explozii, cel puțin 1 mort și zeci de răniți,  August  26,  2023

     Gandul.ro, FOTOGRAFIE ȘOCANTĂ. Exploziile de la Crevedia au fost atât de puternice încât au topit căștile pompierilor, August 26, 2023

     Observatornews.ro, VIDEO ANIMAŢIE. Imaginea care arată amploarea exploziei din Crevedia: cum a fost aruncată o bucată de câteva tone din cisternă la 1 km distanţă, August 30, 2023

     D igi24.ro, Doi morți după exploziile de la stația GPL din Crevedia. 12 pacienți au fost transferați în străinătate
,  August 28, 2023


後 記: 今回の事故情報でもっとも悩んで時間がかかったのが、LPガスステーションの場所でした。ガソリンスタンドのような構造を考えていましたので、グーグルマップではなかなか特定できませんでした。分かってからも、このLPガスステーションの役割・機能がはっきりしません。LPガスの販売業や倉庫業にしては、発災時のステーション内の機器配置がグーグルアース撮影時の配置とは違っていますので、なにを目的にした設備なのでしょうか。

つぎつぎと爆発があり、変化する発災現場に報道(広報する人と取材者)が追いついていない状況で、いつ(時間)の話かこんがらがっていました。報道では、さらにLPガスステーションの所有者がカラカル市長の息子だということが分かり、だんだん政治向きの問題になっていきました。ここでは、LPガスタンク火災という稀な事例で多くの人が死傷していますので、情報が少ない中ですが、消防隊員の配置に関して所感をまとめました。

2023年8月29日火曜日

ENEOS水島製油所でタンク地区にあるポンプ設備で火災、落雷か?

 今回は、 2023823日(火)、岡山県倉敷市にあるENEOS㈱(エネオス)水島製油所B工場のタンク地区にあるポンプ設備が落雷と思われる火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、岡山県倉敷市潮通の水島コンビナートにあるENEOS㈱(エネオス)水島製油所である。水島製油所の精製能力は300,200バレル/日で、水島港を挟んだ西側にA工場、東側にB工場がある。

■ 事故のあった設備は、水島製油所のB工場のタンク地区(オフサイトポンプヤード群)である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023823日(水)午後020分頃、B工場のタンク地区のポンプ設備付近で火災が発生した。

■ 製油所から「雷がタンク周辺に落ちて火災が起きた」という119番通報あった。

■ 発災の通報を受け、消防署の消防隊が消防車13台とともに出動した。

■ 現場に出動した消防隊によると、タンク付近から炎と黒煙が上がっていたが、火災はタンク本体でなく、タンクにつながるポンプ設備付近が燃えていたという。ポンプ設備はタンクから重油や軽油を送り出す装置である。

■ 事故にともない、製油所の自衛消防隊の50歳代の男性が、消火活動中、顔にホースの放水が当たり、病院で受診した。けがは無いということである。

■ 公設消防と自衛消防隊の消火活動によって火災は午後240分頃に制圧され、発災から約3時間半後の午後344分に鎮火した。

■ 製油所によると、重油や軽油を貯蔵しているタンク周辺のポンプや配管が焼けたという。ポンプ設備に最も近いタンクは点検中で空だった。

■ 岡山地方気象台によると、倉敷市には大雨洪水警報や雷注意報が発表され、倉敷市付近には昼前から昼すぎにかけて発達した雨雲が流れ込んでいた。

■ 現場は市南部の水島コンビナートの一角で、工場東側に住む男性は「大きな被害がなく良かった」とほっとした様子だった。現場から2kmほど離れた店の女性は「爆発するのではと怖かった」と話した。

■ プロセス装置は動いているものの、製品の出荷を一部停止していて、ENEOS㈱は、A工場などと補完をしながら供給不足にならないよう対処するという。

■ ユーチューブには、火災の状況を伝える動画が多数投稿されている。その中の3例を紹介する。

 YouTube「タンク付近に雷が落ちて」製油所で火災落雷が原因か 岡山・倉敷」2023/08/23

 ●YouTube 「【製油所で火災】落雷が原因か「タンクに雷が落ちた」と通報 岡山・倉敷市」2023/08/23

 ●YouTube「製油所で火災 落雷が原因か 岡山・倉敷市」(2023/8/23)

犠牲になった

■ 物的被害はポンプ設備と配管類が焼損した。

■ 消火活動中に自衛消防隊の消防士が顔にホースの放水が当たり、病院で受診した。けがは無かった。

■ 火災によって大気汚染が生じた。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 警察署と消防署は現場で実況見分を行い、当時の状況や出火原因を調べることにしている。  

< 対 応 >

ENEOS㈱ は、事故のあった823日(水)、同社のウェブサイトに火災があったことと、地域や関係者へのおわびの声明を出した。

■ 警察署と消防署は、翌日の824日に現場で実況見分を行い、当時の状況や出火原因を調べることにしている。

■ 824日(木)、予定されていた実況見分は、現場に消火の際に使用した泡状の消火剤が多く残っているため、行うことができなかった。

■ 824日(木)、 ENEOS㈱は、火災について重油を保管しているタンクから数十m離れた場所にあるポンプから火が出たと発表した。 ENEOS㈱によると、ポンプは高さが1m、幅と奥行きがそれぞれ2mほどで、タンクに保管する重油を別のタンクに移し替えるためのものだという。


補 足

■「ENEOS株式会社」(エネオス)は、 石油製品の精製・販売等を行うエネルギー会社で、日本の石油元売の最大手で、世界では第6位の規模を持つ。持株会社ENEOSホールディングスの傘下である。

「水島製油所」は水島臨海工業地帯の中心部に位置し、350,200バレル/日(約55,682KL/日)と国内最大の原油処理能力を有する。多くの2次装置を装備し、燃料油、潤滑油、石油化学製品、石油コークス等を供給している。

 水島製油所は、日本鉱業(株)水島製油所(1961年操業開始)、共同石油(株)との合併により日鉱共石に社名変更(1992年)、ジャパンエナジーに社名変更(1993年)、JX日鉱日石エネルギー設立し、新日本石油精製水島製油所とジャパンエナジー水島製油所の一体運営を開始(2010年)、JXエネルギーに社名変更(2016年)、ENEOSへ社名変更(2020年)した経緯をもつ。 B工場は旧ジャパンエナジーの製油所である。水島製油所の紹介ビデオがユーチューブに投稿されている。Youtube.comENEOS水島製油所紹介動画」を参照)

■「発災したポンプ」の場所をタンクNo.29(発災写真から)の位置からグーグルアースで調べたが、はっきりせず、特定できなかった。

所 感

■ 状況からみて落雷による火災だろう。これまで日本では、落雷によるタンク設備の火災はほとんど無かったが、近年の異常気象が多くなり、雷の頻度が増え、規模も大きくなったことから、いよいよ来たかという感想である。落雷リスクを最小限に抑えるという点で最近のブログで参考になるのは「欧州における雷検知ネットワークによる落雷リスクの回避」20225月)である。

 しかし、今回の事例では、ポンプ内液が重油ということであり、ガソリンなどと比べて引火しずらいことに疑問が残る。重油タンクにおいて落雷によるタンク火災の起こる可能性は低いが、これまでもアスファルトタンクやディーゼル燃料タンクにおいて軽質分が混入したことによるタンク爆発・火災の起った例がある。今回の場合、例えば、タンク開放点検のため、軽質分でタンクを洗浄していたなど単なる重油ということではないように感じる。

■ 火災からの炎や黒煙を見ると、かなり激しい燃え方で、この点、ポンプから漏れたというより、大量に流出したという印象である。消火活動は大型化学消防車(スクワート車)による泡消火を行うとともに、周辺タンクへの冷却放水が行われたとみられる。タンクが内液に満たされていれば、必ずしも冷却放水は必要ない。例えば、「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」201612月)では、火災タンクの隣接タンクへの冷却に関する必要性の判断と水量について、冷却水の最小使用のため、タンク壁面からの水蒸気の有無で判断し、水量は1,8933,785L/minだとしている。

「米国テキサス州ディアパークのタンク大火災の原因(2019年)」20238月)では、タンクに隣接したポンプから出火して同じ防油堤内にある13基のタンクが焼損するという事故を紹介したばかりである。設置場所や遠隔操作の緊急遮断弁の設置について確認が必要である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Eneos.co.jp,  水島製油所における火災の発生について,  August  23,  2023

    エネオス.co.jp、  水島製油所における火災の発生について(ご報告),  August  24,  2023

    Webtsc.com、  落雷か、倉敷市・水島コンビナートのエネオス水島製油所で火災,   August  23,  2023

    Sanyonews.jp,  倉敷・水島の製油所で火災 落雷か 3時間半後に鎮火、1人けが,   August  23,  2023

    Nhk.or.jp,  岡山 倉敷 製油所タンクの火災は鎮火 けが人なし 落雷で出火か,   August  23,  2023

    News.yahoo.co.jp、  水島製油所の火事 ENEOS「製品の出荷を一部停止、供給不足にならないよう対処,   August  23,  2023

    Nikkei.com,  岡山・倉敷のENEOS製油所で火災、落雷か けが人なし,   August  23,  2023

    Newsdig.tbs.co.jp,  石油精製所の重油タンク周辺のポンプに落雷か 製油所で火災 消防車17台が駆けつけ3時間半後に鎮火 消火作業中に男性1人がけが,   August  23,  2023

    Sankei.com,  岡山・倉敷の製油所で火災、落雷か けが人なし,   August  23,  2023

    News.tv-asahi.co.jp,  製油所で火災 落雷が原因か 岡山・倉敷市,   August  23,  2023

    Headtopics.com,  落雷か エネオス製油所で火災 黒煙立ち込め...消防車16台出動,   August  23,  2023

    News.goo.ne.jp, 【水島製油所の火災】消火に使用した泡状の消火剤が残っているため実況見分は持ち越し,   August  24,  2023

    Nhk.or.jp, 水島コンビナートの製油所火災ポンプが焼損会社発表,   August  24,  2023


後 記: 今回の報道はだいぶ混乱していました。タンクが火災になったと報じているところがありましたし、軽傷1名と報じているところもありました。消火活動中にホースの放水が当たり、病院で受診したが、けがは無かったということですが、普通、病院で診察を受けた人は軽傷者ということになります。タンクの近くにあったポンプから出火したという情報を聞き、つい先日紹介した 「米国テキサス州ディアパークのタンク大火災の原因(2019年)」 20238月)の事故を想起しました。どうもはっきりしないことがありますが、原因が公表されるまでに時間がかかりそうですので、現状でまとめ、紹介することとしました。 

2023年8月25日金曜日

米国ハワイ州マウイ島の山火事で市街地に延焼、115名死亡

  今回は、 202384日(金)から始まった米国ハワイ州のマウイ島の山火事の状況を紹介します。特に88日(火)から始まったラハイナの山火事では市街地に広がり、死亡者が115名発生する大きな災害となりました。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、米国ハワイ州(Hawaii)マウイ郡(Maui)にあるマウイ島である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202384日(金)午前6時頃、マウイ島で小規模の山火事が発生した。マウイ島の中部にあるカフルイ空港(Kahului)に隣接する畑で30エーカーの山火事が報告された。午後4時過ぎまでに、火災は90%鎮圧された。

■ 86日(日)夜にマウイ島南部にあるワイレア(Wailea)で発生した山火事は急速に進行し、 200エーカー以上が真っ黒になり、高級ホテルの宿泊者を含む約100人が避難を余儀なくされた。88日(火)時点では、活発な炎は発生していなかったが、消防士が監視し、ホットスポットに注意を払った。約40人の消防士が出動し、消防車7台や給水車2台などで消火活動を行った。当局によると、時速1520マイル(風速6.78.8m/s)の風が吹くなど、状況は非常に厳しいものだった。しかし、ワイレアの山火事は88日(火)午後に100%封じ込められた。

■ 88日(火)午前0時頃、マウイ島内陸部のマカワオ(Makawao)付近での山火事が発生した。続いて午前11時までに、約40km離れた西岸の町ラハイナ(Lahaina)で山火事が発生した。正午には、再び内陸部のクラ(Kula)で山火事が発生した。さらに中部のキヘイ(Kihei)でも火災が発生した。消防当局によると、この日、島内4か所でつぎつぎと大規模な火災が発生したという。

■ 202388日(火)は、強風によって多数の電柱が倒れ、マウイ島では約30本の電柱が倒れたと報告され、少なくとも15の個別の停電が12,400人以上の人々に影響を与えた。その時点で、マウイ西部のいくつかの地域では、午後1150分以来、電力が供給されていなかった。切れた電線がビデオに撮影されており、火災の発火要因として調査されている。

■ 88日(火)の真夜中過ぎに、クラで山火事が発生したが、住民によると、その朝、約5時間後、ラハイナでは停電が発生した。マウイ郡は、同日朝、クラ火災は数百エーカーの牧草地を焼き尽くしたが、ラハイナで発生した小規模な3エーカー(1.2ヘクタール)の山火事は収まったと発表した。

■ しかし、88日(火)の午後に状況は悪化した。午後330分頃、ラハイナの火災は突然燃え上がり、広がった。一部の住民は避難を始め、ホテル宿泊客を含むラハイナの西側の人々に避難指示が出された。その後数時間、町中に火が燃え広がる中、マウイ郡はフェイスブックに何度も避難指示を出した。

■ ハワイ王国の首都だった歴史ある町のラハイナでは、 88日(火)に郊外の茂みから火災が始まり、急速に進行し、山火事は草原火災となって、ラハイナの観光リゾート地の方へなだらかに傾斜している火山の麓を駆け下りた。目撃者の何人かは、事前にほとんど何も知らされていなかったと語り、炎がわずかな時間のうちにラハイナを焼き尽くしたときの恐怖を語った。住宅街は大量の黒い煙に覆われ、道路の先には、真っ赤に燃えさかる炎が見え、爆発したような音も響く。炎から逃げた人は「嵐のような炎が自分に向かってきて、すべてを包み込みました。全力で走って炎から逃げました」と語った。命を守るために太平洋の海に飛び込むことを余儀なくされた人もいる。

■ ラハイナの町は海岸沿いに丘が隣接しているため、今回の山火事では避難経路がふたつしかなかったと指摘する専門家もいる。

■ ラハイナの火災では、数時間で町の5平方マイル(13平方キロ)のエリアを焦がし、少なくとも110人が死亡し、約2,200の建物を焼失させた。

■ 住民のひとりは、ラハイナに山火事が市街地に到達したとき、ガソリンスタンドが爆発し、アパートの建物が全焼したという。

■ 89日(水)、当局者は、ハワイから南西数百マイルの遠くにいたハリケーン・ドーラ(Hurricane Dora)の強風が州全体に炎をあおったと述べた。国立気象局がハワイ全島に対する火災警報を表す「赤旗警告」(Red Flag Warning)と「強風注意報」が出されていた。

■ マウイ島の山火事は広い範囲に延焼を続け、沿岸部にまで到達し、煙と炎から逃れるために海に逃げた人もいた。非常事態が宣言され、11,000人以上が避難を余儀なくされた。

■ 811日(金)、ラハイナ火災は依然として燃え続けているが、85%は鎮火したと発表された。島内の他のふたつの山火事のうちひとつは 80%、もうひとつは 50%鎮火した。災害から三日が経過したが、火災が家を飲み込む前に警告を受けた住民がいたかどうかは不明のままだ。

 ハワイには世界最大級のサイレン警報システムがあるが、マウイ島の80台の警報は鳴らなかった。マウイ島緊急事態管理庁は、「たとえサイレンを鳴らしたとしても、山腹にいる人々は救われなかったでしょう」と語り、「山にはサイレンはなく、ほとんどは海岸線にある」と付け加えた。

■ 814日(月)、ハワイ州知事は、臨時の通信回線を確保したことによって連絡がつかない人が2,000人台から1,300人に減ったと述べた。

■ 815日(火)で、山火事が発生から1週間余となり、死亡が確認された人は106人に上っているが、捜索を終えたのは被害を受けた地域全体の32%にとどまっている。焼け跡が広いうえに足場が悪いことなどから捜索活動は難航している。

■ 被害を調査しているPDC(太平洋災害センター)によると、 815日(火)時点で、2,200棟余りの建物が損壊し、そのうちの86%は住宅で、避難する必要がある人は4,500人に上るという。

■ 816日(水)、マウイ島当局者によると、88日に発生した4件の山火事により、これまでに推定5.7平方マイルが焼失したという。4件の火災のうち3件は817日(木)時点でも燃え続けており、数十人の消防士が地上と空から封じ込めラインを構築し、ホットスポットや再燃がないか監視している。

 88日(火)に発生したマウイ島の火災のうち2件の火災は、当初、単一の火災で“ アップカントリー/クラ火災と呼ばれていた。しかし、マウイ郡当局は、817日(木)、これらの火災は起源が異なる2件の火災であると判断し、今後は、オリンダ火災とクラ火災として別々に扱うとした。

■ ラハイナ火災は焼失面積3.39平方マイルでマウイ島の火災の中で最大であるが、85%鎮火した。オリンダ火災とクラ火災の焼失面積は1平方マイル強であるが、65%が鎮火した。クラでは19軒の家が焼失した。オリンダ火災とクラ火災は、アップカントリー地域の地形のせいで消火が難航し、これら2件の火災と闘う消防士らは依然として渓谷や森林、その他の到達困難な場所のホットスポットの対応を続けている。

■ オリンダ火災は1.69平方マイルを焼き、817日(木)時点で85%鎮火した一方、クラ火災は約0.33平方マイルが燃え、80%鎮火した。ラハイナ火災は、817日(木)時点で89%鎮火し、当局は「現時点で積極的な脅威はない」と発表した。

■ 817日(木)、火災によって多くの人が家を失い、マウイ郡が運営する避難所、友人や親戚の家、あるいは寄付されたホテルの部屋や貸別荘に避難している。元消防署の隊長は、「マウイ島では、私たちは皆、一つの大家族です。私たちはそれをオハナOhana)と呼んでおり、家族と考えるのに血のつながった親戚である必要はありません。それがハワイのやり方です。私たちはお互いに助け合います」 と語った。

■ 821日(月)ハワイ州教育省によると、ラハイナを火災が襲った88日(火)は、生徒たちが初めて学校に戻った日だった。しかし、ラハイナルナ高校は強風による停電のためその日は休校となった。地元の中学校と小学校は 89日(水)に生徒を戻す予定だった。

 88日(火)のラハイナ火災の急速な進行を知った住民は家にこどもを残しており、すぐに帰宅しようとしたが、渋滞にはまってしまう。車から降りると、警察のバリケードに直面し、帰宅ができなかった。2日後、ようやく自宅に行くことが許されたとき、家族が飼っていた死んだ犬を抱きかかえた14歳の息子の遺体を発見した。

■ 824日(木)時点で、マウイ島ラハイナの山火事による死亡者は115人となった。また、行方不明者は1,0001,100人という。

被 害

■ ハワイ州マウイ島の4か所で山火事によって草原や畑が焼失した。特に、ラハイナでは市街地に延焼した。

■ ラハイナの市街地火災では、死傷者や行方不明者が出た。824日(木)時点で死者は115名となった。行方不明者は1,0001,100人という。

■ 火災によって大気汚染が発生した。

< 火災の原因 >

■ 火災の原因は特定されていない。

 捜査当局は、送電線のダウンやハワイ州の主要電力会社であるハワイアン・エレクトリック社の判断が影響したかどうかを調べている。マウイ島中部のマカワオにあるマウイ鳥類保護センターで撮影されたビデオには、87日(月)午後11時直前に電柱が故障している様子が映っている。その直後、炎のようなものが見られた。これは電力網の障害によって引き起こされた可能性が非常に高いということを示す一例だという。マカワオ火災はラハイナ火災の数時間前に発生したが、火災の前にもセンサーが送電網の故障を検知していたという。この件については集団訴訟が起こされ、山火事の原因はハワイアン・エレクトリック社の通電していた電線が原因だとし、「電柱や電線が倒れ、草木や地面と接触していることを知っていたにもかかわらず、通電を停止することを選択しなかった」と指摘している。

山火事の拡大要因

■ 811日(金)、マウイ島の山火事が発生した88日(火)に警報サイレンが鳴った記録がないとハワイ州緊急事態管理庁は明らかにした。住民や観光客らが火事の危険を察知するのが遅れた可能性がある。、ハワイ州は世界最大の屋外の公共安全警報システムがあり、約400のサイレンが設置され、さまざまな自然災害を警告する仕組みになっている。しかし、壊滅的な被害を受けたマウイ島ラハイナの被災者の多くは、近くで炎を見たり爆発音を聞いたりして初めて危険に気づいたと話した。ハワイ州緊急事態管理庁は、サイレンの代わりに携帯電話やテレビ、ラジオの警報を使ったと説明した。ただ、こうした通信機能が途絶える前にこれらの警報が届いたかは明らかではない。このサイレンシステムはビッグアイランドで150人以上が死亡した1946年の津波後に作られ、そのウェブサイトには火災の警報に使用される可能性があると記載されている。

■ 812日(土)、米紙WSJは、ハワイの南を通過していたハリケーン・ドーラの影響で、マウイ島上空に突風が吹いていたと指摘した。当局は、強風への備えはしていたものの、火災は想定していなかったという。 気候科学者は、吹き下ろしの強い風に加えて、干ばつが続く中、耕作放棄地に草が茂っていたため、火が広がったと分析している。火災の炎は、ハリケーン・ドーラがハワイの南約700マイル(1,100キロ)を通過した際に、島々を襲った最大時速65マイル(風速28m/s)の突風によってあおられた。

■ 813日(日)、米国消防局はラハイナを視察した所見として「火災は極めて速く広がった。雑草が火種になって地面に近いところで水平方向に広がり、どのような初期消火も追いつかない速さで建物から建物へと燃え広がった」と分析した。

■  816日(水)、山火事の被害が拡大した要因のひとつと考えられているのが、マウイ島をはじめハワイ州の島々で生息面積が広がっているギニアキビなど外来種の植物という。こうした外来種の雑草の危険性について今回の山火事が起きる前から指摘されていた。ハワイ大学の専門家は「この5年ほど、現場の消防士たちの経験では、火事の炎がより高温で速く燃え広がり、大きくなっているという話を聞くようになった」といい、「ハワイで起きる火災に変化が起きている背景には外来種の草の生育面積が拡大していることがある。これらの草は簡単に着火し、驚くほど速く高温で燃える」と指摘している。こうした外来種の草は、元々は牧草として島に持ち込まれ、近年、草の生育面積が広がった理由として2016年にマウイ島でサトウキビ栽培が終わるなどハワイ州の島々で農地面積が減ったことを挙げ、「これらの草は耕作をやめた場所を埋めるように広がっていく」という。

■ 被害が拡大した背景のひとつは、マウイ島で乾燥した日が20235月末頃から続き、急激なスピードで乾燥が進むフラッシュ干ばつに見舞われ、燃え広がりやすい状態になっていたのではないかという。マウイ島を含むハワイ州の大部分が干ばつや異常乾燥状態であった。米国干ばつ監視モニターによると、ハワイ州の約14%が深刻または中程度の干ばつに見舞われており、ハワイ州の80%は異常乾燥状態だった。810日(木)時点の米国干ばつ監視モニターの程度は図のとおりである。

< 対 応 >

■ 88日に山火事が島全体に急速に広がり、マウイ島の山火事に対応するために多くの機関が要請されたが、ハリケーン・ドーラに関連した気象条件によりそれらの取り組みの一部が妨げられた。山火事に対する州の緊急対応の一環として出動した州兵のヘリコプターは、その夜、突風が強まったため運航を停止した。89日(木)ハワイ州非常事態 宣言により 州兵の派遣が許可され、非常事態が延長された。

■ 810日(木)、米国大統領は、今回の山火事について大規模災害にあたると宣言した。連邦職員や軍を派遣され、行方不明者の捜索や自宅を失った人たちへの避難場所の提供など支援にあたっている。

■ 812日(土)、警察は、ラハイナの住民を対象に一時的な立入りを認めると発表したが、ラハイナに向かう道路は車が数kmにわたって渋滞し、警察は混乱が生じたとしてその日のうちに住民の通行を禁止した。814日(月)には、規制区域への立ち入りを円滑に進めるためとして通行証の発行を始めた。このため、受取り所では住民が朝から車で長い列を作った。しかし、警察は発行開始から1時間で、対象ではない人が大勢訪れているとして通行証を使う方法自体を取りやめた。マウイ島の被災した人たちからは、行政の対応が二転三転する中、自宅に思うように戻れないとして、行政当局を批判する声も上がっている。

■ 812日(土)、火災が発生していたキヘイ火災は消火された。

■ 813日(日)、 ラハイナの町では、消防隊員たちは依然として再燃と闘い、捜査犬が犠牲者を探して町の黒焦げになった廃墟を歩き回っていた。 一方、消防士などの話として、火災で水道管が破損して消火栓から水が出なくなったため役に立たなかったと伝えていて、複数の要因が重なって被害の拡大につながったという見方も出ている。

■ 813日(日)、当局は、ちょっとした明るいニュースとして、電話や電気が通っていないために孤立した民家に60人が避難しているのを発見したという。この60人のうち多くが行方不明者としてリストに載っていた。しかし、821日(月)時点で、行方不明者リストには850人の名前が残っており、緊急対応部隊は今も捜索活動を行っている。

■ 814日(月)、 火災境界内のホットスポットを攻撃するために航空支援が展開された。

■ 814日(月)、ハワイ州知事は、マウイ島が火災から復興するまでの間、州外の買い手によるマウイ島の土地購入を制限とすると述べた。

■ 815日(火)、米国大統領は、「過去100年で最悪の山火事だ。街を破壊し、長く続いてきたハワイ先住民の歴史を荒廃させた」と述べ、支援を続けていくと強調した。

■ 815日(月)、 格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス社は、マウイ島で発生した山火事による保険金の支払額が少なくとも10億ドル(1,400億円)に上るとの見方を示した。太平洋災害センターと米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の推計を引用して、2,000棟以上の建物が損傷または破壊されたほか、内部が露出した状態の建物が2,700棟以上あると指摘した。

■ 815日(火)、ハワイ州知事は、すでに400人以上の米国連邦緊急事態管理庁(FEMA) の職員が島に配備されており、さらに273人の州兵が配備されていると述べた。 

■ 816日(水)、ハワイ州知事は、ラハイナの山火事について最高時速80マイル(時速128キロ)の突風にあおられて、華氏1,000度(摂氏538度)に達する高温で燃え盛り、歴史あるリゾート地ラハイナの街並みを一変させたと語っている。捜査と担当している警察は、819日(土)の週末までに被災地の8590%を捜索が済むことを期待していると語った。当初、1匹の捜査犬から始まった捜索チームは 20 匹になった。

■ 816日(水)時点で、マウイ・メディカル・センターは多数の火傷患者のために満員だという。

■ 816日(水)、消防団は依然として再燃と闘っていた。マウイ島ラハイナ最大の火災は水曜早朝の時点で85%鎮火し、2,170エーカー(880ヘクタール)が焼失したと発表され、積極的な脅威は無くなったと付け加えられた。内陸部のクラで起きた火災は75%鎮火し、678エーカーが焼失。他の場所で発生した小規模な火災は 100% 消火された。

■ 816日(水)、サイレンを使用しないという決定以外にも、州と地方の当局者は、消火に利用できる水の不足や、炎が押し寄せる中で渋滞した道路で多くの人が車の中に閉じ込められるという混乱した避難状況などで住民の批判に直面している。住民らによると、消火栓の水がなくなり、消防士による火災の鎮火が困難になったという。米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の当局者は、消火栓の給水に影響を与える問題があったことを認めた。

■ ハワイ州はマウイ島西部から観光客を避難させていて、これまでに少なくとも46,000人が島外に出たという。 816日(水)、ハワイ州知事は、マウイ島西部以外のハワイ諸島への旅行は安全であることを再確認したと発表した。「パンデミックの時と同じように、私たちが下す決断はハワイ全島に影響を及ぼします。私たちが今述べているのは、マウイ島西部への渡航は控えるべきだということですが、それと同時に、マウイ島西部以外の地域や州の他の島についての旅行は安全だということです。災害復興を支援する人々の懸命な活動に影響を与えない範囲でハワイ州(マウイ島西部以外の地域)に旅行してもらいたい」と知事は述べた。

■ 816日(水)、被害の大きかったラハイナとアッパークラ(Upper Kula)地域の一部では、住民に「水を飲んだり、沸騰させたりしてはならない」という勧告が出されている。

■ 816日(水)、マウイ島消防当局は 88日に発表した警報の中で、「不安定な風、困難な地形、急な斜面、湿度の低下、火災の方向と位置により、山火事の進路と速度を予測することが困難になっている」と警告していた。 火災は、風によって燃えカス(残り火)が上方に押し上げられ、風下で火花が引火することによって、「火災は発生源から遠く離れた場所でも発生する可能性がある」と指摘した。

■  816日(水)、消防団は依然として再燃と闘っていた。マウイ郡は、ラハイナ最大の火災は水曜早朝の時点で85%鎮火し、2,170エーカー(880ヘクタール)が焼失したと発表し、積極的な脅威はなかったと付け加えた。内陸部のクラで起きた別の火災は75%鎮火し、678エーカーが焦げた。他の場所で発生した小規模な火災は 100%消火された。

■ 816日(水)、マウイ郡緊急事態管理庁の長官は記者会見で、発生した山火事でサイレンを鳴らさなかった当局の決定を擁護した。そうすることで命が救われたかどうか疑問であるという意見がある。ハワイでは人々に津波を警告するためにサイレンが使用されている。火災の最中にそれを使用したことで人々が危険な方向に避難した可能性があると語った。長官は「国民はサイレンが鳴った場合に高台を探すよう訓練されている」と述べたが、火災時の州政府の対応に記者らが質問し、時折緊張感が高まった。「もしあの夜にサイレンを鳴らしていたら、人々はマウカ(山腹に)行っていただろうし、もしそうだったら火の中に飛び込んでいただろう」と長官は語った。長官によると、マウイ島は代わりに、携帯電話にテキストメッセージを送信するシステムと、テレビやラジオで緊急メッセージを放送するシステムのふたつの警報システムに依存していたという。サイレンは主に水辺に設置されているため、高台にいる人々には役に立たなかったであろう、と長官は述べた。

■ 818日(金)、山火事のマウイ島での対応を巡って地元住民やメディアから批判を受けたマウイ郡緊急事態管理庁の長官が健康上の理由に辞任したと当局者が発表した。

■ 821日(月)、米国大統領は、大統領夫人を同行し、マウイ島を訪れた。米国大統領は、 生存者、初期対応要員や救急隊員、州・地方当局者らと面会した。






(火災前後の写真はBbc.comから引用)

補 足                                                                          

■「ハワイ州」は、太平洋に位置するハワイ諸島にある米国の州で、人口約145万人である。州都はオアフ島のホノルル市である。

「マウイ郡」はハワイ州の郡で、郡域はマウイ島、カホオラウェ島、ラナイ島、モロカイ島、モロキニ島で構成され、人口約165,000人の郡である。

「ラハイナ」は、ハワイ州マウイ郡のマウイ島の北西部にあり、人口約12,700 人である。この町はかつて捕鯨の中心地であり、ハワイ王国の首都だったが、現在では年間 200 万人の観光客が訪れる観光地である。

所 感

■ 今回の山火事は、過去に紹介した 「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」2013年7月)「ブラジルのアマゾン熱帯雨林で森林火災が多発」 20199月)「豪州における山火事の被害(20192020年)」 20203月)と異なり、市街地を巻き込む新たな山火事の分野である。今回指摘されている火災拡大の要因を見てみると、送電線の火花による可能性、ハリケーン(台風)の影響による強風、外来種の雑草が火種、異常乾燥状態、警報サイレンや携帯電話への過度な依存である。これらはマウイ島の山火事の特殊な例でなく、今年の異常な暑さを引き合いに出さずとも、日本でもありうる要因だと感じる。

■ 山火事の消火活動についてラハイナ火災の前までは、出動人員や消火資機材は報道されていたが、ラハイナ火災が起こってからの状況ははっきりしなくなった。写真によると、消火ホースやヘリコプターによる放水が主と思われる。マウイ郡の郡域はマウイ島など5島から成り、人口約15万人で、さらにひどい火災だったラハイナは人口約13,000人である。このような状況では、消火栓の水が出なかったときもあるようだが、島で発生した4つの山火事に対応できなかったのが実情ではないだろうか。米国のようなホットショットのような専門職を置くことは無理だとしても、ブラジルでは森林火災の予防と戦闘で訓練された部隊がいる。マウイ島にも原野消防隊員がいるようだが、到底すべての山火事に対応できなかっただろう。

 日本の林野庁によると、直近5年間の平均でみても山火事は1年間に約1,300件発生し、1日あたりにすると、全国で毎日約4件の山火事が発生している。林野庁では、「林野火災発生危険度予測システム 構築」に取組んでいるようだし、規模の大きい山火事で自衛隊の応援を求めたこともあるという。 しかし、今回のような市街地への山火事への対応も想定しておかなければならないことを示す事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

    News.ntv.co.jp,  ハワイ・マウイ島に非常事態宣言 山火事が広範囲に延焼中、36人死亡 渡航中止を呼びかけ,  August  10,  2023 

    Asahi.com, ハワイの山火事、警報サイレン鳴らなかった? 「炎見て、気づいた」,  August  11,  2023

    News.yahoo.co.jp,  ハワイ山火事、死者80人 安否不明1000人の報道も 強風・干ばつで被害拡大か,  August  12,  2023

    Nhk.or.jp,  ハワイ マウイ島 山火事1週間 死者は106人に 被害拡大の背景は,  August  16,  2023

    News.yahoo.co.jp,  マウイ島山火事、死者110人に 消火活動続く,  August  17,  2023

    Allhawaii.jp,  マウイ島西部の山火事に関する重要なお知らせ,  August  17,  2023

    Reuters.com,  Maui fires: Hawaii death toll hits 55, recovery to take years,  August  11,  2023

    Reuters.com,  Maui officials defend decision not to sound sirens during wildfire,  August  17,  2023

    Reuters.com,  Maui fires raise questions over warnings, death toll hits 80,  August  13,  2023

    Edition.cnn.com, Maui wildfires death toll rises to 110 as official says using the warning sirens wouldn’t have saved lives,  August  16,  2023

    Apnews.com, Schools reopening, traffic moving again in signs of recovery from Maui fires that killed 110,  August  17,  2023

    Bbc.com,  Hawaii fire: Maps and before and after images reveal Maui devastation,  August  14,  2023

    Nbsnews.com,  Maui wildfires death toll tops 100 as painstaking search for victims continues,  August  16,  2023

    Cbsnews.com,  Maui wildfires death toll tops 100 as painstaking search for victims continues,  August  16,  2023

    Hawaiinewsnow.com, Maui firefighters achieve 100 percent containment in massive Wailea brush fire,  August  09,  2023


後 記: ハワイで山火事があったというニュースがテレビや新聞などで流されましたが、当ブログの範ちゅうではないので、取り上げるのを躊躇しました。しかし、多くの人が亡くなった山火事とはどのような火災だったのか気になり、取り上げることとしました。山火事を取り上げるのは、これで4件目です。

 日本のメディアの記事を見た後、海外メディアの報道を調べました。今回の報道の特徴は、ラハイナの火災が急速に進展したので、これまでの山火事でも感じていた以上に火災時の報道記事が少なかったことです。特に火災時の写真は少なく、あってもいつ・どこの写真かわからないものでした。ただ、日を追って山火事に関する記事や投稿が増えてきています。山火事の状況は、日本の報道を見聞きして想像していたものとは、随分違っており、所感に書いたように日本でも起こりうる山火事だと思いました。