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2020年10月11日日曜日

米国ワシントン州でポンプ故障でタンクからガソリン流出

  今回は、2020101日(木)、米国ワシントン州シアトルのハーバー島にあるシェル・オイル社のタンク・ターミナルで、ポンプが故障して貯蔵タンクからガソリンが流出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国ワシントン州(Washington)シアトル(Seattle)のハーバー島(Harbor Island)にあるシェル・オイル社の関係会社であるシェル・パイプライン社のタンク・ターミナルである。なお、ハーバー島はデュワーミッシュ川がエリオット湾に注ぐ場所にある人工島である。

■ 発災があったのは、タンク・ターミナルのガソリン用貯蔵タンクと移送用のポンプである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020101日(木)午前5時頃、シェル社のハーバー島の石油ターミナルでポンプが故障したため、タンクから油の流出が生じた。

■ 発災に伴い、シアトル消防署が出動した。消防署は、この地域の大気質の測定値のために、半径1,000フィート(300m)の安全境界線を設定した。

■ 大量のガソリンが流出し、防油堤内に溜り水といっしょになって留まっているという。タンクは、ポンプが閉止され、午前6時までに安全が確保されたという。

■ 深夜、タンクには160,749 ガロン(609KL)のガソリンがあり、うち13,825ガロン(52KL)は事故が起こる前に移送されていた。 流出した量は6,800ガロン(25KL)と推測される。しかし、近くのデュワーミッシュ川には達していないとみられる。

■ 沿岸警備隊は、45フィート対応ボート中型を使用して周辺海域の監視を行っている。

■ 一方、ターミナルが閉鎖されたので、数十台のタンクローリーやトラックが荷物の配達を待機して立ち往生した。特に主要なウェスト・シアトル・ブリッジが閉鎖されたため、この地域に大きな交通への影響が出た。

■ シェル社は、流出した油の対応のため、クリーンアップの専門チームに出動を要請した。

■ 油流出事故を知った人は、SNSで、「ガソリンが流出したと聞いて心配です。すぐに水路に入らなくても、土壌を通じて浸み出したり、大雨の後に水路に入ったりすることもあります。環境汚染や災害について聞くのはうんざりします」と述べている。また、別な人は、「封じ込め設備を越えれば対応が大変です。オイルフェンスや吸着マットなどのほか、ボートやトラックが必要です。現在、10,000ガロンのガソリンが壁に封じ込められているかもしれませんが、そこは安全な環境にしておかなければなりません」と述べている。

■ 102日(金)、シアトル消防署は安全境界線の設定を解消し、周辺道路の閉鎖を解除した。

被 害

■ ガソリン用貯蔵タンクからガソリンが約6,800ガロン(25KL)流出した。

■ 移送用ポンプに流出に至るような損傷が生じた。

■ 負傷者はなく、人的被害は無かった。

< 事故の原因 >

■ ポンプが故障して内液のガソリンが大量に漏洩したものとみられる。 ポンプの故障部位や原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 当該事故で対応に従事した関係機関・企業は、ワシントン州エコロジー局、シアトル消防署、シアトル警察、米国沿岸警備隊、マリン・スピル・レスポンス社、ナショナル・レスポンス社環境サービス、シェル・パイプライン社である。

■ 米国沿岸警備隊によると、ワシントン州エコロジー局とシェル・オイル社は危険を軽減するため、迅速に対応、シアトルの水路や地元住民への影響は出なかったという。緊急対応段階から現地の本格的なクリーンアップ段階に移ったのは、101日(木)午後4時だった。

補 足

■「ワシントン州」(Washington)は、米国の北西端に位置する州で、人口約672万人である。

「キング郡」(King)は、ワシントン州の西部に位置し、人口約204万人の郡である。

「シアトル」(Seattle)は、キング郡の西に位置する人口約63万人の都市で、郡庁所在地である。

 なお、ワシントン州では、つぎのような今回と類似事例が起こっている。

 ●20123月、「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」

■「シェル・オイル社」(Shell Oil Company)は、世界最大の石油メジャーの1つである、アングロオランダ起源の多国籍企業であるロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell)の米国を拠点とする完全子会社である。米国の従業員は約80,000人である。米国本社はテキサス州ヒューストンにある。近年、シェル・オイル社の下流部門は、石油および化学製品に限定されるようになった。これは、ロイヤル・ダッチ・シェルが天然ガスおよび電力事業をインテグレーテッド・ガス(Integrated Gas)という新しい部門に分割したためである。

■ 発災に関連するタンクの大きさなどの仕様は分かっていない。

■「ワシントン州エコロジー局」(Washington Department of Ecology)は、1970年に設立されたワシントン州の環境行政機関で、レーシーに本部があり、職員数約1,600人の組織である。水質、水源、大気、海岸線管理、有害物質のクリーンアップ、核廃棄物、有害廃棄物などの環境保全を担当しており、流出事故の対応も所管する。他の州と異なり、環境保全という名称でなく、エコロジー(生態学)という名称を使っている。

 ワシントン州エコロジー局は環境に関わる事故時の対応について細かく検討していた。例えば、流出事故は発災の規模によって6つのタイプ(種類)にレベル分けして、対応方針を明示していたが、現在は、事故事業所からの報告をベースにするようになっている。流出事故の6つのタイプ(種類)については「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」の補足を参照。 

所 感

■ 今回の事故はポンプの故障によってガソリンが流出したという。原因はポンプ循環ラインの異常に関連しているのかも知れない。いずれにしても、ガソリンタンクが漏洩する状況下でガソリンに引火しなかったのは幸運だったといえる。もしも堤内火災になれば、ひとつの防油堤内に複数のタンクが密集して設置されているので、大きな火災事故になっていただろう。タンク事故の中には、配管系の異常から漏洩して火災になったつぎのような事例がある。

 ●20193月、「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」

   ●20186月、「米国ペンシルバニア州のタンク・ターミナルで配管火災」

■ 今回の流出事故では、クリーンアップ作業が迅速だったらしい。シェル社は、クリーンアップの専門チームに出動を要請しているが、対応に従事した企業名として挙がっているナショナル・レスポンス社とみられる。同社は、ワシントン州エコロジー局が流出油対応可能な請負会社のひとつにリストアップされている。ワシントン州エコロジー局は、20123月に起きた 「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」の対応を行っている。今回の事例では、対応策が明確でないが、つぎのような対策が有効である。

 ● 防油堤内へ水を(2日間)張り込む。水は油より重く、漏洩した油が浮き上がり、油が土壌へ浸透することを回避できる。油漏洩による地下浸透対策としては、発災後、1時間以内のできる限り早い段階で水を張り込むのがよい。

 ● 表層の油を回収する。ガソリンベーパーによる着火の危険性が高ければ、泡を張り込む。できれば、高発泡の泡がよいが、機材がなければ、通常の泡放射ノズルによる中発泡の泡とする。

 ● 油回収が終われば、土壌を入れ替える。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Komonews.com, Nearly 7,000 gallons of gasoline spill from terminal at Harbor Island, October 01, 2020

    King5.com, Hazmat crews respond to report of a ‘large gasoline spill’ on Harbor Island, October 01, 2020

    Kiro7.com, Thousands of gallons of gas spill on Harbor Island, October 01, 2020

    Industrialfireworld.com, Thousands of Gallons of Gasoline Spill in Washington, October 01, 2020

    Westseattleblog.com, 13,000-gallon gasoline spill on Harbor Island, October 01, 2020

    Apnews.com, Large gasoline spill on Harbor Island prompts evacuations, October 02, 2020

    Thenewstribune.com, Large gasoline spill on Harbor Island prompts evacuations, October 01, 2020

    Usnews.com, Large Gasoline Spill on Harbor Island Prompts Evacuations, October 01, 2020

    Coastguardnews.com, Coast Guard, state, locals responds to gasoline spill on Harbor Island, WA, October 01, 2020

    Twitter.com, Seattle Fire Dept. 2500 Block of 13th Ave SW: The scene is secure and has turned over to the Shell company. All our units are returning to service. No injuries reported, October 02, 2020

    Content.govdelivery.com, Coast Guard, state, locals responding to gasoline spill on Harbor Island, WA, October 01, 2020


後 記: 今回の事故を調べていて感じたのは、情報量が少ないということと、内容が希薄だということです。これは、メディアが新型コロナ対応でテレワークを主体とする取材になっているためでしょう。発災に関連するタンクの大きささえ報じられていないのは、いかがなものでしょうかね。また、前回(「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」)の事故では、情報発信していたワシントン州エコロジー局がまったく情報を出していません。テレワークを基本とした業務にしているとウェブサイトに表明していますが、事故があったことぐらい掲載してもよいのではないでしょうか。

 ところで、本ブログの投稿方式が変わり、以前の方式に比べ、やりにくくなりました。いろいろな方法を試していますが、なかなか思うような形になりません。意見を出していますが、改善されませんね。


2020年10月4日日曜日

FRP (繊維強化プラスチック)製タンクの落雷保護と接地系統の評価

  今回は、米国の落雷保護、接地システム、サージ保護設備(SPD)の設計・エンジニアリングの専門技術会社であるアルテック社が2014年に同社ウェブサイトに掲載した「FRP (繊維強化プラスチック)製タンクの落雷保護と接地系統の評価」の資料について紹介します。

 <  はじめに  >                                                                                             

■ 近年、石油産業、水処理・廃水処理産業、化学産業では、FRP(繊維強化プラスチック)製貯蔵タンクを利用する傾向が多くなっている。FRP製貯蔵タンクは、標準的な金属製貯蔵タンクと比較して耐腐食性に優れており、これらの産業では一般的になっている。 FRP製貯蔵タンクは、金属製ではないが、落雷条件にさらされており、火災の危険性がある。非導電性であるため、高速の雷電流インパルスに対して強い抵抗性を有し、落雷箇所において高い熱を生成する。また、1基のFRP製タンクで発生した火災は、施設全体に及ぶ可能性がある。

■ 間接的な落雷であっても、絶縁されたFRP製タンクと近くにある接地された金属製構造物との間の不均一なイオン放電率によって電位差が生じ、このため火花を発生してタンクの爆発・火災につながることも考えられる。

 ■ タンク施設の落雷データは数多くあるわけでなく、多くは写真に示す事例などのようにメディア向けの報道によるものである。20146月~7月、ノースダコタ州の3箇所で塩水処理施設が落雷によって火災になった。このような塩水処理施設はノースダコタ州だけでも440箇所以上存在する。 油井施設における生産用タンクとしては主に油回収と塩水処理に使用される。報告書によると、米国には、油井が144,000箇所ある。落雷事故による休止期間は長く、復旧費用は非常に高く、人員面、主要なインフラ面、貯蔵タンクの余裕面に対して問題点を生じる可能性がある。

米国テキサス州マーティン郡ミッドランドの落雷火災(2013916
米国テキサス州グラッドフォードの落雷火災(2014625日)
米国ノースダコタ州ワットフォードの落雷火災(2014931日)
 ■ 落雷保護の方法を理解して使用することによって、取替え費用、運転停止による損失、安全性の問題を最小限に抑えることができる。 避雷針、等電位ボンディング、接地を組み合わせて設計することで、FRP製貯蔵タンクを保護できる。 この資料では、直撃雷に襲われるようなFRP製貯蔵タンクのリスクについて説明し、直撃雷や二次的な落雷の影響から施設を保護するための手引きを提供する。

 落雷のリスク分析・・・ 電気幾何学モデル >                                                                    

■ 地球上では、どこかで約1,800件の雷雨が起こっている。 そして、毎秒約100個の雷が地面に落ちている。過去の雷データは、世界のあらゆる地域の年間平均雷雨日数を示すイソケラウニック・マップ(Isokeraunic Map)を作成するために編集されている。標準的なFRP製貯蔵タンク用の三次元モデルが開発されている。施設を三次元で表し、電気幾何学モデルを適用して、雷の落雷点を計算し、視覚的に表示する。

 ■ FRP製貯蔵タンク施設に対して効果的な落雷保護の設計や設備を検討する際、単に直撃雷だけが考慮すべき事項ではない。というのは、間接的な落雷も、施設内に貯蔵されている内容液のベーパーに対して火花やフラッシュオーバーを引き起こす可能性がある。

 ■ もちろん、モデル化された施設のタンク基数は、検討対象のFRP製貯蔵タンクの施設よりも多い場合も少ない場合もあるだろう。落雷確率とタンク基数の関係は極めて直線的であり、おおむねタンク基数が倍になればリスクの確率も倍になる。このことは、条件によって有用な計算ができることを意味している。たとえば、タンク施設の所有者(運営者)がテキサスにおいて表に示す14倍のタンク基数を保有している場合、毎年、直撃雷を受けるタンクの推定値は1基となる。しかし、どのタンクに落雷を受けるかは事前に分からないため、すべてのタンクに落雷保護を行うべきである。

 ■ 直撃雷の確率だけが、効果的な落雷保護の設計や設備を検討する際の唯一の考慮事項ではない。間接的な落雷も、施設内に貯蔵されている内容液のベーパーに対して火花やフラッシュオーバーを引き起こす可能性があることは前にも述べた。

 ■ 貯蔵タンク施設への直撃雷の確率は、相対的な場所を考慮して決まる。 次表は、ふたつの異なるイソケラウニック値をもつモデル化された施設の年間予想落雷の総数を示す。

三次元モデルの貯蔵タンク施設の例

15kA帰流電流における落雷分析
落雷保護および接地システムの考え方 >  
■ アルテック社(ALLTEC)では、FRP製貯蔵タンク施設の多くが静電荷の放散に十分なボンディングと接地を実施していることを確認している。静電気の蓄積した貯蔵タンクまたは電圧差のある帯電物体から地面に放電した場合、そこに可燃性物質や爆発混合気が存在すると、火災や爆発を引き起こす可能性がある。アルテック社としては、FRP製タンクを使用した油井やタンク施設において既設のボンディングや接地を検査し、NFPA77“Recommended Practice on Static Electricity” (静電気対策の推奨基準)に対して順守していない事項を明らかにして改善方法を提案している。 ボンディングの方法は推奨基準に従って実施すべくである。

 注記: 静電荷の放散に効果のあるボンディングや接地設備は、落雷保護の接地系統には適切ではないことに注意することが重要である。静電気の接地には、1MΩの接地抵抗でも十分である。(IEEE142Recommended Practice for Grounding of Industrial and Commercial Power Systems3.2.6.2項を参照)

 ■ FRP製貯蔵施設のボンディングと接地系統は、落雷保護のボンディングと接地方法の基準に準拠して実施すべきである。金属製はしご、オーバーヘッド配管、ベント(通気口)は、すべて、適切なボンディングと接地を行うべきである。屋根のある金属製タンクはベント(通気口)付近において可燃性雰囲気にあり、そしてFRP製タンクは直撃雷を受ければ激しく破裂する可能性があるため、落雷保護について適切な設計と装備を行うことが不可欠である。 FRP製タンク施設に必要な高度な落雷保護を得るためには、技術とともに世界的に認められた基準を取り入れる必要がある。

 ■ たとえば、API RP 2003 “Protection Against Ignitions Arising out of Static, Lightning, and Stray Current: Appendix C,” (静電気、落雷、迷走電流から発生する発火に対する保護:付録C)では、落雷の入ってくる経路を軽減するため、落雷保護技術のひとつとして電荷放散端子(Charge Dissipation Terminals CDT)について説明している。また、落雷保護規格のNFPA 780IEC 62305などには、落雷保護システムの設計と装備ついて最低限の必要事項が記載されている。電荷放散端子(CDT)を用いる設計はこれらの規格を満足しているほか、CDT技術によってさらに強化された性能を有する。

 ■ FRP製貯蔵タンクのエリアでは、すべて、抵抗値が10Ω未満の低インピーダンス接地システムにすることが推奨される。 落雷保護に関する米国ミリタリー・ハンドブック(MIL-HDBK-1004 /6)とIEC 62305規格では、効果的な落雷保護システム(LPS)を得るため、接地システムについて最低10Ωの抵抗値とするよう推奨している。 金属製部品、特に可燃性雰囲気にある部品は、ひとつにまとめて接地すべきで、一点接地Single Point Ground)方式を用いる適切な接地を行うべきである。

 ■ アルテック社では、大地抵抗率のテスト値を用いて土壌モデルを作成することによって、既設や新規施設の接地系統のモデル化を行っている。得られたデータは、いろいろな深さにおける大地抵抗率を正確に計算できるように作成された接地ソフトウェアに入力する。アルテック社は、接地系統を設置するため、TerraDyne®Electrolytic Ground Electrodes(電解質接地電極)、TerraFill®Ground Enhancing Backfill(接地強制埋め戻し)、TerraWeld® Exothermic Welding  System(発熱性溶接システム)を含む一連の接地製品を提供している。落雷エネルギーを効果的に放散する標準的な10Ω接地システムの設計の例を次図に示す。この例では、約950フィートの導体と4つのElectrolytic Ground Electrodes(電解質接地電極)をモデル化している。

2AWGジャケット付きワイヤボンディングは静電気の放散には十分であるが、
落雷保護には適していない。内部の
カーボンベールへの接地取付けに注意。
FRP製タンクのCDT落雷保護の設計
 サージ保護
■ 適切な接地とボンディングに加えて、タンク地域のAC配電システム全体のキーポイントにサージ保護設備(Surge Protective Devices; SPD) を設置することが重要である。効果的なサージ保護設備(SPD)を組み込んだネットワークは、重要な機器を落雷などによるサージやノイズ異常から保護できる。

 ■ 相互に連携して作動するように設計したサージ保護設備(SPD) のカスケード・ネットワークは、外部要因で発生するサージによる悪影響から保護するために、480 V主配電盤とモーター・コントロール・センター(MCC)に設置すべきである。また、それらは重要機器の負荷に電力を供給する120/208 V UPSパネルやその他のサブパネルに設置し、タンク地域内から発生するサージから保護すべきである。 

 ■ また、配電内の保護ポイントから電気的に50フィート(15m)以上離れたところに設置されている機器の負荷を個別に保護することが推奨される。このサージ保護設備(SPD) には、配電盤の接地回路に誘導雷サージ電流を回避するためのコモンモード抑圧素子を組み込むべきである。また、内部で生成されたサージ電流は、通常モード抑制回路を用いてAC電力系の電力相の間および中性線の間に流すべきである。また、一次ノイズフィルタを設置し、大きな乱れをもたらすノイズ電圧を安全なレベルまで減衰させるべきである。さらに、操業の乱れによって中断や作業低下が発生するような場合、機器制御とデータ・インターフェイスの保護に関して慎重な検討を行うべきである。少なくとも、構造物に出たり入ったりする制御ラインとデータラインには、すべて、サージ保護設備(SPD) を組み込むべきである。

 ■ 同様に、思いがけなく絶縁破壊を受けたり、またはこの種の損傷に対して脆弱だとみられるような中電圧変圧器または回転機械の負荷は、サージ保護設備(SPD)を強化した独立の避雷設備よって個別に保護すべきである。この場合、すでにノーマルまたはヘビー・デューティのサージ防止装置を装備されていてもである。

 ■ これらの推奨事項を実際に装備すると、タンク地域の機器のサージやノイズ耐性レベルが最大限に強化されるので、動作寿命が延び、効率レベルが向上し、保守・修理・取替費用が削減できる。

FRP製タンクのCDT落雷保護の設計
D接地系統のモデル

< 参考;過渡的な要因源とその影響 > 

■ 一般的に、電力線ノイズは周波数パターンによって区別された低い振幅(<50 V)の外乱として定義される。一方、一時的なサージは、持続時間がミリ秒単位の瞬間的なエネルギーのバースト(破裂)である。典型的なサージ波形は、電圧と電流が急上昇してマイクロ秒の短い時間でピーク値に達し、ミリ秒未満でそのレベルの半分に減衰することを特徴としている。

 ■ ノイズの乱れは周波数パターンによって区別される。高周波ノイズのスペクトルは無線周波数干渉(Radio Frequency Interference ; RFI)として分類され、低周波ノイズパターンは電磁干渉(Electromagnetic Interference EMI)として分類される。サージ異常は機器の作動を中断させて、電子ハードウェアが損傷するおそれが高くなる一方、瞬間的な誘導ノイズ干渉も繊細な機器の作動を乱すおそれがある。

 ■ 過渡サージは、雷によって誘発した電気エネルギーのバーストのような外的に形成されたインパルスか、あるいは内的または人工的に形成された一時的な不規則性のいずれかに分類される。力率補正に関連する減衰振動リンギング・トランジェント(ノイズ)は、後者の異常の例である。最も激しいサージ現象は落雷時に形成する。しかし、他の場所で形成したサージが高電圧レベルになる可能性はある。

 ● 直撃雷によって発生する誘導雷サージは、落雷地点で最大75kVの瞬間的な電圧を形成する可能性がある。

 ● 一方、近くに落ちた雷から発生したサージ・インパルスは、最大25kVの電圧バーストを形成する。

 ● 力率補正コンデンサや負荷制限作動によって起こる電源サージでは、最大15kVのサージ電圧を形成することがある。

 ● 瞬間的に内部で起こった負荷変動、接地の電位差、パワー・サイクリングによる負荷変動は、それぞれ10kVの高いサージ電圧を形成する可能性がある。

 ■ 従って、上記のようなサージの脅威から機器の負荷を保護するためには、タンク地域全体のキーポイントにサージ保護設備(SPD) を設置することが重要である。

 補 足                                                                                                                                        

■「アルテック社」(Alltec LLC)は、1991年に設立され、米国ノースカロライナ州に本社を置く電気・電子分野の会社である。落雷保護、接地システム、サージ保護設備(SPD)の技術分野で設計およびエンジニアリング・ソリューションを専門とし、現在、社員は38名である。


所 感
■ 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その3)」によると、場所(施設)別にみた事故の割合は、「製油所」(23%)、「タンクターミナル」(32%)に次いで「油田」(19%)となっている。油田の事故件数は51件であった。さらに詳細にみていくと、油田の事故の大半が米国の49件で、このうち原因が落雷の場合が24件だった。

 日本から見れば、油田の事故の割合が多いと感じるが、これは米国における小規模の陸上油田のタンク事故が多く、かつNASAによる雷マップ」によると、テキサス州などメキシコ湾岸では、落雷の多いところである。今回の資料で、「米国には、油井が144,000箇所ある」(2014年時点)と具体的な油井数が述べられており、確率的に言って米国での油田の落雷事故が多いのはうなずける。

 ■ 最近の油田落雷事故では、FRP製タンクの火災事故が目に付く。金属製タンクの場合の落雷対策は「石油貯蔵タンクの落雷リスクと雷保護」で紹介したが、FRP製タンクの落雷対策についても米国では検討されていることがうかがえる。油井の数から、 FRP製タンクの落雷対策のニーズが高いからだろう。


備 考                                      

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 

  ・Alltecglobal.com, Lightning Protection and Grounding System Evaluation For Fiberglass Reinforced Plastic (FRP) Storage,   October  03,  2014

   一般的な落雷対策について掲載しているウェブサイトは、つぎのようなものがある。

  Jlpa.jp,  雷保護対策とは・・・(日本雷保護システム工業会)

  ・Sdn.co.jp, 雷害対策(昭和電工)

  ・Chademo.com,  落雷のメカニズムと最新の雷保護 (雷保護テック・タケタニ)

  ・Janu-s.co.jp, 落雷のメカニズムと被害軽減対策(三井住友海上火災)

  ・Enaa.or.jp,  雷保護対策の技術動向について(株式会社サンコー),  20155

 

後 記: 油井におけるタンクの落雷事故が多いことは分かっていました。最近になっても塩水処理用などのFRP製タンクが爆発・火災を起こしています。 FRP製タンクの雷に対する保護はなく、タンク所有者は落雷がないように祈るだけだと思っていました。しかし、今回、FRP製タンクの落雷対策に関する資料を知り、興味をひかれましたので、ブログへ紹介しようとまとめました。まとめてみて感じたのは、ひとつ分かると、分からないことが広がっていくということです。雷サージなどはFRP製にかかわらず起きる恐れのある問題ですが、果たして今回の推奨事項を行えば、 FRP製タンクの落雷による爆発・火災は無くなるのかという新たな疑問が生じてきました。



2020年9月23日水曜日

ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)

  今回は、 2020529日(金) 、ロシアのシベリアのノリリスク郊外にあるノリリスク・タイミル・エナジー社が運営する火力発電所で、ディーゼル燃料油タンクから大量の油が流出した事故について、20209月、原因に関する情報が報じられたので紹介します。

(前回のブログロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出」を参照)

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のシベリア連邦管区(Siberia)クラスノヤルスク地方(Krasnojarsk)のノリリスク(Norilsk)郊外にあるノリリスク・タイミル・エナジー社(Norilsk-Taymyr Energy Company; NTEK)が運営する火力発電所である。NTEKは、ニッケル生産で知られるノリリスク・ニッケル(Norilsk Nickel)の子会社である。

■ 事故があったのは、TPP-3と呼ばれる火力発電所のディーゼル燃料油(軽油)タンクである。TPP-3は天然ガスの火力発電所で、ディーゼル燃料油はバックアップ用の燃料である。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020529日(金)、発電所にある燃料油タンクが損壊し、ディーゼル燃料油21,000トン超が流出した。流出した油は、15,000トンが水路を通じてアンバルナヤ川に、6,000トンが土壌を汚染した。

■ 油は現場から7マイル(11km)以上離れたところの川や湖の汚染が確認されており、川はあかね色に変わっている。

■ 地元当局は発生の2日後の531日(日)にSNS(社会交流サービス)の情報を受けて全容を把握したという。

■ 事故による負傷者やエネルギー供給への影響は出ていない。

■ 油が流れ込んだアンバルナヤ川には、応急処置としてオイルフェンスが展張されている。しかし、アンバルナヤ川は水深が浅く、バージ船のオイルフェンスで油膜を囲い込むことがむずかしい上、発電所が辺地にあることから、事故処理に必要な機材などの搬入が難しく、対応が遅れている。

被 害

■ 貯蔵タンクが損傷し、内部の燃料油が流出した。

■ タンク内にあったディーゼル燃料油が21,000トン流出した。6,000トンが土壌を汚染し、15,000トンは川を汚染した。

■ 負傷者は出なかった。

 < 事故の原因 >

■ タンクの底板部が損壊し、内部の油が漏洩したものとみられる。

■ 事故当初、ノリリスク・タイミル・エナジー社は、発電所が永久凍土の上に建設されており、近年の温暖化の影響で地盤が沈下していることが懸念されており、最近の異常な気温上昇の中で永久凍土が溶けたため、タンクを支えていた構造物(支柱)が崩壊したとみていた。

■ 20209月、ノリリスク・タイミル・エナジー社は、事故原因についてつぎのように記者発表した。

 ● タンク建設時の不適切な施工が事故の原因である。

 ● 本来、タンク基礎の杭は岩盤に800mm打ち込まれるはずだったが、実際には岩盤から約1m上で止まっていた。このため、杭は砂と粘土の層にとどまっていた。(この事実はタンクを撤去するときに判明した)

 ● タンクが1981年に建設されたとき、土壌は固く凍っていたため、杭はあるべき深さになっていなかったと思われる。

 ● 永久凍土の融解は、タンク流出の要因のひとつではあるが、タンク破損の寄与要因だった。

 ● タンクは2018年に修理されたが、州の検査で安全として合格していた。

 < 対 応 >

■ ロシア大統領は、63日(水)、非常事態を宣言し、国主導の除染作業に乗り出した。ロシア大統領は、発電所を運営するノリリスク・タイミル・エナジー社(NTEK)が事故報告を怠ったと異例の厳しい叱責を行い、非常事態省でクリーンアップ作業を行うこととした。

 火力発電所は自分たちで漏洩を封じ込めようとし、非常事態省に事故を2日間報告しなかったという。クラスノヤルスク地方の知事は、事故の情報がソーシャルメディアに掲載された日曜日(531日)になって油流出を知ったという。

■  重大犯罪の捜査を担当する連邦捜査委員会は、環境法令違反の疑いで捜査を開始した。連邦捜査委員会が公開した現場のものとされる動画には、燃料油タンクから流れ出す油やフェンスの下を流れる油が映っていた。(Youtube 「ТЭЦ-3. Норильск. разлив саляры !!!」は動画再生ができなくなっている)

■ 環境保護団体グリーンピースは、63日(水)、環境被害が60億ルーブル(約95億円)超にのぼる恐れがあると指摘した。

■ アンバルナヤ川にはオイルフェンスが展張され、油がノリリスクから20km離れたピャシーノ湖(Lake Pyasino)、そして更に800km先にある北極海(Arctic Ocean)の一部であるカラ海(Kara Sea)に入らないように図られた。

■ 非常事態宣言を受け、ロシア非常事態省は、燃料の回収と汚染された土壌の入替えを行っている。ノリリスク・タイミル・エナジー社は、ロシア緊急事態省とともに五百人の職員を派遣して早期に混乱を収拾しようとしている。しかし、油の回収は約340トンにとどまっている。 529日の事故からすでに5日が経過しており、自然界への影響が心配されている。63日(水)時点で、浄化には少なくとも2週間かかると推定しているという。

■ ノリリスク・タイミル・エナジー社(NTEK) は、事故のあったタンクと同じ構造の他のタンクについて、事故原因とタンク支柱の健全性が明らかになるまで、内液の燃料油を移送して空にすると発表した。

 なお、同社によると、事故のあったタンクは2018年に修理が実施され、その後に水圧試験が行われたという。

■ 20209月時点、ノリリスク・タイミル・エナジー社は、汚染された水を川から汲み上げ、鉱滓(こうさい)でつくったダムに溜め、油を分離するまで貯蔵しているという。河岸や周辺地域のクリーンアップ作業は継続している。

補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

 「シベリア連邦管区」(Siberia)は、ロシア連邦の地域管轄区分である連邦管区のひとつで、人口約1,900万人である。

 「クラスノヤルスク地方」(Krasnojarsk)は、ロシア連邦の連邦構成主体の一つで、人口は285万人で、中心都市はクラスノヤルスク市である。

 「ノリリスク」(Norilsk)はクラスノヤルスク地方の北部に位置し、中央シベリア高原にある人口約135,000人の市である。ノリリスクは、ニッケル鉱山のほか、銅やコバルトなど種々の金属を産し、冶金業を中心にロシア有数の工業都市である。一方、ノリリスクの気候は人間が住むには過酷な環境で、 1年のうち250日ほどは雪に覆われている。冬の寒さは厳しく、2月の平均気温は-35℃に達し、年間平均気温は-9.8℃である。

■「ノリリスク・タイミル・エナジー社」(Norilsk-Taymyr Energy Company; NTEK)は、ニッケル生産で知られるノリリスク・ニッケル社(Norilsk Nickel)の子会社で、 5つの発電所を運用する。発電所は、3つの火力発電所(ノリリスク火力発電所1、ノリリスク火力発電所2、ノリリスク火力発電所3)と2つの水力発電所で、合計の発電量は2,246 MWである。

 事故のあったノリリスクTPP-3と呼ばれる発電所は1978年に建設され、燃料は天然ガスでバックアップ燃料がディーゼル燃料油である。発電の主目的はナジエジュダの冶金工場の電力を供給するものであるが、冶金生産で利用された蒸気を受取り、効率化を図っている。

■ 油の流出量は報じられているが、「発災タンク」の大きさは報道されていない。グーグルマップで見ると、ノリリスク郊外に発電所施設があり、近くに貯蔵タンクが
4基ある。平面で見ると、この4基は同じ直径である。グーグルマップによると、タンク直径は約46mである。タンク写真から高さと直径の比率を調べると、約0.40なので、高さは約18mとなる。従って、容量は30,000KLとなる。ディーゼル燃料油の比重を0.82とすれば、容量30,000KL24,600トンとなる。これらから、発災タンクは直径約46m×高さ約18m、容量30,000KLクラス級のコーンルーフ式タンクとみられる。タンク内には、バックアップ用のディーゼル燃料油がほぼ満杯に近い状況で貯蔵されており、全量が流出したものだと思われる。

 一方、疑問があるのは、4基のタンクのうち発災タンクの側板だけが高くなっている。しかも、側板の下部に保温止めのような円環が付いており、理由は判然としない。また、ほかの3基は屋根の形からドームルーフ式タンクのように見える。発災タンクは支柱があると報じられているので、コーンルーフ式タンクとしたが、タンク型式や構造は断定できない。

■「鉱滓ダム」(こうさいダム、Tailings damとは、鉱山の選鉱・製錬工程で発生するスラグ(鉱滓)を水分と固形分とに分離し、その固形分を堆積させる施設である。今回、鉱滓をつかったダムを使用しているというが、油と水の分離に対して効果があるのか不詳である。

所 感

■ 前回の所感では、事故原因について「異常な気温上昇で永久凍土が溶けたという理由ではなく、底板の腐食とタンク基礎の不良が要因で、タンク底板が裂け、油が一気に流出したものだと考える。油が一挙に流出したため、タンクが減圧になり、タンク支柱を含め、屋根部が損壊したのではないかと思う。当該タンクは、2018年に修理をしたということなので、今回の事故に関連していることも考えられる」と書いた。

 今回の発表で、タンク基礎の杭が岩盤に達しておらず、「タンク基礎の不良」だったことが分かった。 2018年の修理ではどのような補修を行ったか分からないが、側板の下部に保温止めのような円環が付いており、タンクをジャッキアップして補修したのかも知れない。底板の腐食はなかったと思われるが、ゆるゆるのタンク基礎で、再びタンク底板部が変形して損壊に至ったのだろう。

■ タンク事故の経緯の詳細は報じられていないが、底板が裂けて油が流出したつぎのような事故の類似例である。

 ● 200510月、「ベルギーで原油タンク底部が裂けて油流出」

 ● 20071月、「フランスで原油タンク底部が突然破れて油流出」

■ 油流出対応について緊急事態省は油の拡大を阻止し、これ以上広がることはないといっているが、油の回収作業は難航している。前回の所感で「流域は湿地と沼地が多く、15,000トン(18,000KL)の回収には時間がかかりそうである」と書いたが、発災から3か月を経過した9月初めでもまだ、クリーンアップ作業が続いていることが分かった。油流出事故の影響が大きいことを示している。

 

備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Afpbb.com,  ロシアで軽油15,000トンが川に流出、プーチン氏が非常事態宣言,  June  05,  2020

    Nikkei.com,  ロシア北極圏で燃料流出事故、非常事態宣言を発令,  June  04,  2020

    Headlines.yahoo.co.jp,  ロシア 発電所で大量軽油漏れ…河川を汚染,  June  04,  2020

    Yahoo.co.jp,  ディーゼル油2万トンが流出 シベリア地方火力発電所から,  June  04,  2020

    Aljazeera.com, Russia's 20,000-tonne diesel spill pollutes waterways in Siberia,  June  04,  2020

    Nytimes.com, Russia Declares Emergency After Arctic Oil Spill,  June  04,  2020

    News.infoseek.co.jp,  ロシア・シベリア軽油流出事故、拡大阻止と当局,  June  05,  2020

    Bbc.com,  Arctic Circle oil spill prompts Putin to declare state of emergency,  June  04,  2020

    Themoscowtimes.com, Massive Thermal Plant Fuel Leak Pollutes Siberian River,  June  03,  2020

    Cbc.ca,  Russia declares state of emergency in Siberia after 18,000 tonnes of diesel fuel spilled Social Sharing,  June  04,  2020

    Tass.ru , Режим ЧС ввели в Норильске и на Таймыре после разлива нефти на ТЭЦ,  June  01,  2020

    Rbc.ru , «Норникель» уберет топливо из хранилищ типа аварийного резервуара,  June  05,  2020

    Tankstoragemag.com ,  Collapsed Nornickel diesel tank was wrongly built,  September  15,  2020

 

後 記: 前回、ロシアの事故としては報道記事や写真が比較的多く、事故の要因を考えるだけの情報があったと後記で書きましたが、続報で原因に関する情報が出るとは思いませんでした。この事故のあとの725日(土)にモーリシャス沖で、日本の長鋪汽船(ながしき汽船)の子会社が所有し、商船三井が傭船していた貨物船“わかしお号”が座礁して重油約1,000トンが流出して環境汚染を起こす事故があり、世界中で報じられました。船舶の流出事故は責任体制があいまいで、いまも原因や対応で引きずられ、918日(金)に日本から調査団が派遣されるという話です。一方、シベリアで起こった事故の流出量は21,000トンで、モーリシャス沖で流出した量よりはるかに大量です。シベリアという遠くて、いまは人がいけないところなため、日本ではニュースになりませんが、対応はシベリアの方が大変だと思います。








2020年9月17日木曜日

横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落

 今回は、2020年8月25日(火)、神奈川県横浜市の小柴貯油施設跡地で、現在は使用されていない覆土式地下タンクの工事中の男性が重機ごと転落して死亡した事故を紹介します。


<発災施設の概要>

■ 発災があったのは、神奈川県横浜市金沢区の旧米軍施設の「小柴貯油施設跡地」である。現在、跡地は日本に返還され、横浜市が公園整備を進めている。


■「小柴貯油施設跡地」は、旧日本軍が燃料貯蔵基地として建設し、戦後は米軍が航空機燃料の備蓄基地として使用しており、敷地内には地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。事故があったのは、直径約45m×深さ約30mの地下タンクの一基である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2020年8月25日(火)夕方、小柴貯油施設跡地の現場で、ダンプカーから降ろした土を重機(バックホー)でならす作業をしていた男性の行方が操縦していた重機ごと分からなくなった。ダンプカーの運転手は午後1時頃に重機を確認していたが、およそ2時間後に重機がいなくなっているのに気付いたという。

■ 工事施工者は、重機とともに男性の姿が見えなくなっていることを消防へ通報した。工事は横浜市が発注し、飛鳥・奈良・センチュリー建設共同企業体が施工する西部水再生センターの下水道工事であり、工事で出た建設発生土を小柴貯油施設跡地の公園整備事業の盛り土用の土として搬入していた。

■ 男性は下水道工事で現場付近に仮置きした土を、重機で整地する作業をしていたが、近くに地下タンクがあり、上部の天蓋(屋根部)の一部が崩落したいた。このため、男性は地下タンクに転落したとみられている。周囲に柵はなく、男性が操縦していた重機は20トンほどあり、重機が進入したタンク天蓋(屋根部)に乗った際に壊れた可能性がある。地下タンクには、深さ約9mの雨水などが溜まっているとみられる。

■ 県警と消防が捜索にあたったが、二次災害の危険があるとして25日(火)午後7時頃に中断した。救助活動を行うには、タンク内の水を抜く必要があり、翌26日(水)午後から排水ポンプを5台投入するための土台の設置や周辺の整地作業を進めた。

■ 近くに住む主婦は、転落したとみられることについて「仕事をしているときにこういうことになって気の毒です。早く見つかってほしい」と話していた。女性によると、公園の造成工事が始まる前から、小柴貯油施設跡地は敷地内を通り抜けることができたということで、「7年近く住んでいて、地上部分にタンクが残っているのは知っていましたが、地下にもあるとは知らずびっくりしました」と話している。また、近くに住む男性は「昔、燃料の備蓄基地だったというのは聞いていましたが、今は施設は撤去されていると思っていたので、まだ地下のタンクが残っているとは知りませんでした。ほとんどの人は知らないんじゃないかと思います」と驚いた様子だった。

■ 8月26日(水)、県警と消防は、男性の捜索活動を再開したが、同日午後9時までに見つからなかった。地下タンクは水が溜まっており、県警などは、残った天蓋(屋根部)や新たな土砂の落下などの二次災害の懸念がなくなった段階で救助を始めるという。

被 害

■ 地下タンク近くで作業をしていた男性1名が、深さ約30mの地下タンクに重機(バックホー)ごと転落し、死亡(内部に溜まっていた水による溺死)した。

■ 戦前に建設された覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)が一部崩落した。

<事故の原因>

■ 事故原因は、覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)に進入し、屋根部が重機の重み(約20トン)で崩落し、天蓋部(屋根部)に居た作業者が重機ごと地下タンクに転落したとみられる。

<対 応>

■ 排水作業を行いながら捜索していたが、8月28日(金)、警察と消防は地下タンク内で行方不明となっていた男性を発見したが、すでに死亡していたことが確認された。市消防局によると、同日午前10時45分頃、地下タンク内で重機の一部が見つかり、救助隊員が潜水して捜索するなどして午後5時35分頃、水の中にあった重機の操縦室内で男性を発見した。発見時、重機は横倒しになった状態で、窓ガラスは割れていたという。

 9月1日(火)、神奈川県警は、横浜市の公園造成現場で重機ごと深さ約30mの地下タンクに転落し、遺体で見つかった男性を死亡解剖した結果、死因は溺死と発表した。

■ 9月2日(水)、横浜市によると、男性は地下タンクの近くでダンプカーが運んできた土砂を重機でならす作業を担当しており、作業場所は当初、覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)より5mほど低かったものの、土砂をならすうちに高低差がなくなっていたとみられるという。この事故に関連して、横浜市長は、記者会見で、工事の指示書では土砂を置く場所は、地下タンクの縁から10m以上離れた地点を指定していたと明らかにし、現場にどのような指示が伝わっていたか、調べる考えを示した。

 横浜市によると、今年5月、土砂の搬入が始まる前に、市の担当者や工事施工者が立ち会って現場で土砂を置く場所を検討したという。この時、地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所を置き場に指定したという。しかし、横浜市によると、事故のあと、指定された場所の外側にも土砂があることが分かったということで、横浜市では、当時、現場にどのような指示が伝わっていたのか調べることにしている。

■ 事故に伴い、いろいろなメディアから報じられているが、上空から撮った映像がユーチューブにも投稿されている。

 「横浜地下タンク重機落下事故 水抜き作業始め救出再開へ」(2020.8.26)

 ●「タンク内で重機発見 転落作業員の捜索急ぐ」(2020.8.27)

(写真はTokyo-np.co.jpから引用)
補 足




■「神奈川県」は、日本の関東地方に位置し、人口約920万人の県である。

「横浜市」は、神奈川県東部に位置し、県庁所在地で人口約375万人の政令指定都市である。

金沢区」は、神奈川県南端部に位置し、三浦半島の東側にあり、人口約197,000人の行政区である。

■「小柴貯油施設跡地」は、戦前(1937年頃)に旧日本海軍が燃料基地として建設されたものである。第2次世界大戦後に進駐した連合国軍が、市内中心部や港湾施設などを広範囲に接収し、接収された土地は市全体で最大1,200ヘクタールあり、小柴貯油施設は米軍が航空機燃料の備蓄基地に使っていた。敷地内には、地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。

 米軍の接収地は、解除を求める運動の機運が高まり、1952年には大桟橋や今の横浜スタジアムなどの土地が返還されている。その後、断続的に返還され、今回、事故が起きた53ヘクタールの金沢区の旧「小柴貯油施設」は、戦後60年の2005年に返還され、国が横浜市に現況のまま全面積を無償貸し付けし、現在、横浜市が公園整備を進めている。なお、現在も返還されていないのは、広さが合わせて150ヘクタールに上る米軍施設4箇所と、米軍の船の停泊などのための水域2箇所である。

■ 横浜市が策定した「小柴貯油施設跡地公園の基本計画」では、地上および地下の貯油タンクの処理について、つぎのようになっている。

 ● 大型地下タンクは、躯体(くたい)を撤去せず、ほかの公園緑地工事で発生した土で埋め戻して、広場等の利用を基本とし、一部を歴史的遺構として保全活用する。

 ● 小型地下タンクは躯体を撤去せず、太陽光発電の設置や敷地内の発生土の処理等に活用する。

 ● 地上タンクは、一部をモニュメントや壁面緑化等の見本園、拠点施設として活用し、残りは撤去する。

■「覆土式地下タンク」は、直径約45m×深さ約30mで、屋根部は鉄製の桁(けた)の上にコンクリート製の蓋が載せられ、その上に土がかぶされていると報じられている。しかし、横浜市作成の「小柴貯油施設跡地利用基本計画」(2020年3月、横浜市返還施設跡地利用プレゼント)では、貯油タンクの概要について、つぎのようになっており、事故のあった地下タンクは、5号タンクと称し、直径38m×深さ28m、内空体積34,006㎥となっている。「直径約45m×深さ約30m」のデータも横浜市が提示しており、コンクリートの厚さを含めたものと思われる。

■ 小柴貯油施設における地下タンクの事故は、今回が初めてでなく、返還前の1981年10月13日午後12時07分頃、6号タンクで爆発が起こっている。6号タンクは大音響とともに爆発炎上し、黒煙は約1,000mに達し、炎は50m以上まで上がった。容量は32,500KLで、当時24,000KLのジェット燃料の入った地下タンクは、天蓋(屋根部)が噴き飛び、全面タンク火災となり、鎮火までに約4時間かかった。現場に隣接していた団地などでは、爆風で飛ばされた破片や石などによって延べ474戸の家が被害を受けた。横浜市消防局は住民約900人に避難命令を出した。負傷者は、消火活動にあたった基地内自衛消防隊員2名のほか、住民3名がけがをした。

 原因は、隣接タンク(3号タンク)の工事火花(溶接機など)が6号タンクの通気管から生じていたベーパーに引火し、通気管を経由してタンク火災になったものとみられている。発災当時は返還前で、施設の使用者が米軍、工事管理は防衛施設庁、作業は民間企業であり、安全管理が不徹底であったとみられる。施設は国内法が適用されないため、米軍の安全管理規定のみ適用されていた。しかし、この事故については、事故発生当時時に米海軍による調査が行われ、爆発原因を特定することはできなかったとの調査結果が1983年7月に国から報告されている。なお、6号タンクは、現在、天蓋(屋根部)がなく、今回、事故のあった5号タンク近くにある

■「バックホー」は、油圧ショベルの中でも、ショベルを操縦者側向きに取り付けたものである。操縦者側向きのショベルで操縦者は自分に引き寄せる方向に操作するので、地表面より低い場所の掘削に適している。なお、最近のバックホーには、ブルドーザーのように排土板を付けたものもある。

<所 感>

■ 今回の事故の直接要因の真実は、重機操縦者が亡くなっているので分からないだろう。

 間接要因は、盛り土の形成状況から重機操縦者の“善意の行動”だと感じる。事前の打ち合わせでは、建設発生土(残土)の置き場は「地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所」に指定されたとある。2,300㎡は、たとえば20m×100m以上に相当するかなり広い空地である。このような空地に残土が置かれ、盛り土を形成することはむずかしくない。まして、重機操縦者は下水道工事を請け負った工事施工者の作業員である。ところが、盛り土は傾斜地で地下タンクの縁まで積み上げられている。推測だが、重機操縦者はどこに使う残土だろという疑問をもち、地下タンクの埋め立てに使うらしいということを知ったのではないだろうか。重機操縦者は自分の技量を発揮して、地下タンクの縁の方へ残土を運んだのではないだろうか。“善意の行動”の発意ではあったが、残念なことに地下タンクの正確な位置を知らなかったので、覆土式地下タンクの天蓋部(屋根部)にまで進入してしまった。

■ 事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つが重要である。重機操縦者には、これらのいずれかが欠けていたために事故になったと思われる。 一方、今回の事故では、盛り土の形成状況を見ると、相当な時間が経過していると思われ、工事施工者および発注者の各階層(所長、マネージャー、担当者など)ごとの「ルール」の観点、「危険予知活動」の観点、「報連相」の観点の失敗要因について分析・対応を考える必要があると思う。 (各階層ごとの失敗要因と対策の解析例は、「太陽石油の球形タンク工事中火災(2012年)の原因」および「三井化学岩国大竹工場の爆発事故(2012年)の原因」を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。








後 記:今回の事故は首都圏で起こった特異なできごとだったので、いろいろなメディアやSNSで報じられていました。地下タンクは現在使われておらず、このブログの対象にすることに躊躇(ちょうちょ)しました。しかし、昔、在日米軍の地下タンクで火災があったということを思い出し、調べてみることにしました。最初は、被災写真を見ても埋め戻し中の人身事故かと思っていましたが、どうもそのような単純な話ではないことが分かりました。昔の在地米軍で起こった地下タンク火災の隣接タンクだということも分かりました。40年ほど前のタンク火災ですが、地元の人の中には、タンク火災はもちろん、地下タンクが残されていることを知らない人もいます。風化してしまうのですね。

 ところで、私が住んでいる周南市(旧徳山市)にも、旧日本海軍が建設した覆土式地下タンク(最大は内径88m×深さ10m×容量50,000KL)が大迫田地区にありました。いまは緑地公園になっていますが、円形の広場が地下タンクの跡地だと聞いています。