今回は、2021年11月09日付けのインターネット情報誌のIndustrial Fire Worldにあった“Security or Pseudo Security?”(セキュリティあるいは疑似セキュリティ?)の内容を紹介します。
< 背 景 >
■ 産業施設の警備建屋で鳴り出している点滅するライトやけたたましいアラームは、本物のセキュリティ事象なのか、あるいはテスト用の疑似セキュリティを表しているのか? 2012年にテネシー州オークリッジの核兵器施設で起こったセキュリティ違反事例は、監視している人間が自分たちの仕事についてあきあきしたようになった場合、世界中のどんなハイテクのセキュリティ機器であっても役に立たないことを示した。
■ テネシー州オークリッジの核兵器施設はY-12と呼ばれ、 正式には「Y-12国家安全保障複合施設」(Y-12 National Security Complex)で、最初の原子爆弾のウラン濃縮を目的として建設された。第二次世界大戦後の数年間、核兵器部品や防衛目的の製造施設として運営されていたが、冷戦終結以来のY-12の主な使命は、核兵器備蓄管理に変わり、ウラン部品の保守と生産を行っている施設である。
■ リスクマネージメントの専門家であるデイビット・ホワイト氏が、オークリッジの核兵器施設のセキュリティ違反を事例にしてセキュリティの本質について解説する。
< 核兵器施設への侵入事件
>
■ 2012年7月28日の夜明け前、Y-12国家安全保障複合施設ではっきりと表示されている高度セキュリティの境界線を3人の核兵器抗議者たちが越えていった。そこには兵器用ウランを貯蔵している非常に要塞化された構造物があった。その建物へ行こうと、抗議者たちはボルトカッターを使用して三か所のフェンスを通過していった。
■ 二番目のフェンスを切断した後、抗議者たちは複数のアラームのマイクロ波センサーを作動させた。あいにく、その地域を監視するために用いられていた(閉回路)テレビカメラは作動しなかった。
■ テレビカメラが使用できないとき、施設の実施要綱では、直ちに現場に担当者を派遣し、何が起こっているか確認する必要があった。しかし、そのような対応がとられることは無かった。
■ 抗議者たちが制限区域の奥深くに侵入すると、人感センサー(モーション・ディテクター)が作動した。このときには2種類のアラームが鳴っているので、セキュリティ担当者は侵入者が存在する可能性が高いと推測すべきだった。しかし、繰り返しになるが、対応はとられなかった。
■ 妨げられることなく、抗議者たちは、光ファイバーセンサーが設置されていた三番目のフェンスを切断した。しかし、このアラーム・システムはいつもよく鳴ることで悪名高かった。この理由のため、コントロール・センター(中央管理室、管制センター)によって半ば当然のように無視された。
■ その間、人感センサーが感知しているにもかかわらず、抗議者たちは先へ先へと進んだ。一番奥のフェンスを切断し、抗議者たちはカラースプレーで「戦争ではなく平和のために活動せよ」と書き、建物に人の血をまき散らした。抗議者たちがハンマーで建物を叩いたときは、その音は建設作業の騒音だと間違えられた。
■ 最終的に警備員(セキュリティ担当者)が駆け付けた。しかし、監督者が数分後に到着するまで、抗議者たちは拘束されなかった。最初のフェンスが切断されてから約2時間後、ようやく防護区域の封鎖が命じられ、抗議者たちは拘束された。
■ 悪賢く、ステルスのような侵入者はどんな人物だったのか ? 敵のスパイ ? テロリスト ? 世界支配に傾倒していた人物 ? これらのどれでもなかった。侵入者は82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だった。彼らはオークリッジにある政府施設への侵入と物損に関連した重罪の罪に問われた。
■ 1988年以来、オークリッジ環境平和同盟は、兵器工場を閉鎖するために、Y-12国家安全保障複合施設で非暴力の直接行動抗議を組織してきた。カトリックの修道女たちもオークリッジ施設で抗議活動を行ってきている。
■ 抗議者たち三人が貯蔵所の建物内に入ることに成功しなかったにもかかわらず、現場のセキュリティを管理している会社はすぐに契約を失った。下院エネルギー・商業委員会の監視と調査に関する小委員会は、セキュリティ違反に関して国家核安全保障局における問題について3月に公聴会を開催した。
< セキュリティは疑似セキュリティと異なる >
■ 米国にあるプラントや製油所と比較すると、Y-12の核兵器施設はまったく安全だといわれていた。
なぜなら、あなたの工場に人感センサーが設置されているか? 光ファイバーセンサーはどうか? マイクロ波センサーは? いたるところに懐中電灯をもったガードマンがいる。にもかかわらず、施設内を通っていっただけでなく、中に入って混乱させたことは明らかである。
■ 高度なアラーム・システムを効果的に運用するためには、行動を起こすような人にアラーム・システムの高度さを知っておくようにするのもひとつである。逆に言えば、防護施設の四方に効果的な対応策が施されているため、行動を起こすような人には思い通りに使えるツールが必要となる。
■ それでも、私たちは勤務時間中のガードマンに武装させることすらしていない。なぜか? それは高価すぎると施設所有者はいう。しかし、それは真実ではない。不正な人が現代産業の核燃料に近づこうとする場合、高すぎるということはない。D・ウィリアムズ氏はそのことを最もよく言い表し、「私たちはそこでケーキ生地を作っているわけではない」と語っている。
■ これを読んでいる多くは反射的に「なぜデイビットさんはそこまで言うのだろうか」と考えるだろう。そのような人は、セキュリティの問題に直接対処するよりも、むしろ疑似セキュリティの領域を好むだろう。そのような人は「デイビットさん、誰もそこまで知る必要はない」という。そのような考え方をすることは悪者を過小評価するだけである。敵とみられる人が得意とすることは、ソフトターゲット(テロ攻撃に対して脆弱とみられる人や物)を見つけることだということは歴史が証明している。
所 感
■ 今回の事例では、侵入者がテロリストでなく、 82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だったということで、心情的には侵入者に対する同情心が沸くが、セキュリティでは感傷的になることを否定する。このあたりは資料の筆者の巧みさを感じる。
■ 一方、核兵器施設で起こったセキュリティ違反事例は、監視している人間が自分たちの仕事についてあきあきしたようになった場合、世界中のどんなハイテクのセキュリティ機器であっても役に立たないことを示した事例でもある。 Y-12の核兵器施設には、人感センサー、光ファイバーセンサー、マイクロ波センサーが設置されているが、筆者はさらにガードマンに武装させるべきだと指摘する。しかし、2013年1月に起こった「アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況」(「アルジェリア人質事件 スタトイル社の調査報告」;2013年10月も参照)では、 警備として配備されていた軍隊へ過度に信頼を置いてしまっていたという。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Industrialfireworld.com,
Security or Pseudo Security? (セキュリティあるいは疑似セキュリティ?), by David White,
November 09, 2021
後 記: 2012年に核兵器施設で起こったセキュリティをいとも簡単に破った事例が 82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だったという面白い話だったので、ブログに紹介しようと思いました。(面白がる事例ではないが) その後、2014年2月に修道女は84歳で禁固2年11月、男性2人は禁錮5年2月が言い渡され、刑務所に収容されたとのことですが、修道女は、「70年前にこれをしなかったことを後悔している」、 「余生を刑務所で過ごすのが最大の名誉だ」と語っています。
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