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2022年1月12日水曜日

米国における貯蔵タンクの保守とリムシール火災後の対応

 今回は、20211221日付けのインターネット情報誌のIndustrial Fire Worldにあった“Fire Protection for Floating Roof Tanks (浮き屋根式タンクの火災防護)の内容を紹介します。

背 景

■ 米国全体でAPI規格(米国石油協会)の貯蔵タンクは数十万基が使用されている。その中で、比較的少ないが、火災が発生したり、あるいは壊滅的な事態を引き起こしている。 しかし、異常事態を常に準備しておくのが最善の策である。

屋外貯蔵タンクの仕様

■ タンク所有者は、緊急事態の時だけでなく、日常の保全や検査に活用できるタンク仕様のリストを保持しておくべきである。タンクの直径や高さ、貯蔵容量、タンク内に入っている製品の種類、タンクの断熱材の有無、断熱材の種類、計装機器の種類、屋根の種類などが分かるようにしておくことが大切である。

■ タンク所有者は、現貯蔵量、貯蔵できる容量、製品の温度、気体か液体か、製品の引火点と爆発限界などタンク貯蔵製品にも精通しておくべきである。

■ API Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction)は、API Std 650Welded Tanks for Oil Storage)とAPI Std 12CSpecification for Welded Oil Storage Tanks)の規格のもとで策定された地上式貯蔵タンクのための規格である。初版は1991年に発行され、その後5回改訂され、最新版は2014年に更新された。環境保護庁の文書局によると、1980年代後半にあった一連の壊滅的なタンク損壊事例により、米国石油協会(API)は3つの新しい規格、すなわち API Std 650API Std 651Cathodic Protection of Aboveground Petroleum Storage Tanks)、API Std 653を策定した。

■ ある事例では、地上式貯蔵タンクで漏洩があり、サウスダコタ州の学校が閉鎖に至った。別の事例では、タンクの損壊に続いて、10万ガロン(379KL)のディーゼル燃料がカリフォルニアの水路に流出した。 1988年には、タンク損壊後、ペンシルベニア州のモノンガヒラ川に約100万ガロン(3,790KL)が流出した。

■ 貯蔵タンクは、数千ガロン(数十KL)から数百万ガロン(数万KL)までの間でどのようなサイズでも設計ができ、建設することができる。技術が進歩するにつれて、より大きな貯蔵タンクをつくることができるようになった。タンクのサイズが極めて大きくなると、火災になった大型タンクは消火することが困難になる。また、大型タンクの製造コストが高くなると、損傷すれば物的損害額も大きくなる。

■ 貯蔵タンクは引火性や燃焼性の内容物を幅広く貯蔵できる。これらのタンクは、メキシコ湾岸沿いのタンク基地に集中している場合もあれば、製造施設、空港、発電所など全国のさまざまな場所で見られる場合もある。

浮き屋根式タンクのリムシール火災

■ 原油などの引火性の高い液体は、通常、浮き屋根式の貯蔵タンクに入れられる。タンク内の液面が変化する際、浮き屋根は蒸発損失を最小限に抑えるのに役立つ。さらに、火災を防ぐのに役立つ。浮き屋根をもつ貯蔵タンクにおける火災のほとんどは落雷によるものである。外部式浮き屋根型タンク火災のほとんどは落雷によって引き起こされるリムシール火災である。落雷によってベーパーに引火し、それから火災に至る。通常、タンク内の圧力を下げるか、ドライケミカルの消火器を使用すると、炎は消える。 

■ 屋外貯蔵タンクの火災は、実際には過去40年間減少傾向にある。 2014年のNFPA(全米防火協会:National Fire Protection Association) の報告によると、貯蔵タンクの火災は年間平均1,142件で、火災による負傷者発生は28件であった。2011年の時点では、火災の数は76%減の275件で、負傷者はひとりだった。過去10年間で火災は少なかったものの、NFPAの報告書によれば、屋外貯蔵タンクにおける火災が依然として約300万ドル(330百万円)の直接的な物的損害を引き起こしている。

■ 米国では、屋外貯蔵タンク火災の多い時期は5月から8月の間である。全火災の約三分の一が落雷による引火源であり、嵐の多い期間と重なっている。晩春から夏の気象条件は、通常、雷雨が発生しやすく、雷雨は、もちろん、稲妻を発生させる。

■ 貯蔵タンク火災のほぼ半分は正午から午後8時の間に発生している。米国海洋大気庁の国立暴風雨研究所(National Severe Storms Laboratory)によると、雷雨は正午から夕方の時間帯に最も多く発生する。落雷は引火源の三分の一強の原因となっている。暴風雨が貯蔵タンク火災の約三分の一の引火源になっていると考えられている。

■ ひとの迅速な行動は小さな火災が拡大するのを防ぐのに役立つ。ニュース報道によると、テキサスの油田労働者がすばやく動いて消火器で炎を消火し、おそらく落雷によって引き起こされた火災を消すことができた。油田労働者の行動が油の漏洩や流出を防ぐのに役立った。 

■ ひどい嵐に続いて明らかに火災になった後には、損傷具合を評価するため貯蔵タンクについてすべての検査を行うべきである。検査は、タンクの屋根、側板、底板、基礎について徹底的に評価すべきである。浮き屋根が損傷した場合、修復は元の構造図面と一致するようにすべきである。タンクへの機械的損傷は、損傷の軽重程度と損傷した部品に応じて、修復するか完全に取替えるか直ちに対処すべきである。

■ たとえば、浮き屋根の損傷したシール部は修理ではなく、取替えるべきである。API Std 6537.13.2項に従って、リムに取り付けられたシール部やシューに取りつけられた2次シール部は、タンクの供用中に簡単に修理や取替えができるかも知れない。 API Std 6537.13.1項によると、蒸発による損失を最小限に抑え、作業者への潜在的な危険を減らすために、供用中のタンクの工事では、一度に屋根シール系の四分の一を超えないようにすべきである。 

補 足

■ 筆者のエリン・シュミットさん(Erin Schmitt)は、 2019年に100周年を迎えたピッツバーグ・タンク&タワー・グループ(Pittsburg Tank & Tower Group)でメディア・ディレクター/テクニカル・ライターを務めている。彼女はケンタッキー大学でジャーナリズム学を専攻していた。

■ 貯蔵タンク火災の原因は落雷が全体の三分の一であるという。これは、「貯蔵タンク事故の研究」 20118月)の中でも指摘されている。この要因について解説されていないが、米国の陸上油田におけるタンク施設が大きく寄与していると思われる。この種の施設は小型タンクであり、多くは落雷に弱点のある固定屋根式タンクのためである。このブログの「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報についてーその3 20209月)では、 原因不明を除いた事故件数を分類してみると、落雷による事故件数が多く、全体の三分の一に近い。一方、原因推定別の事故件数では、 落雷を抜いて「保全/火気工事」がトップとなった。

■ 筆者は、「米国では、屋外貯蔵タンク火災の多い時期は5月から8月の間である。全火災の約三分の一が落雷による引火源であり、嵐の多い期間と重なっている。晩春から夏の気象条件は、通常、雷雨が発生しやすい」と指摘している。確かに米国では春から夏にかけてメキシコ湾岸における陸上油田のタンク施設の火災が多く、指摘は当たっていると思う。ただし、最近は落雷によるタンク火災は春から秋に移行しているように感じる。

 筆者はタンク火災が5月から8月の嵐の多い気象条件だと指摘している。一方、 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報についてーその3では、四半期ごとに分けてみると、第1四半期(13月)と第4四半期(1012月)に比べ、第2四半期(46月)と第3四半期(79月)が多い。見方を変えれば、4月~9月にタンク事故が多く、人の活動期と関係があるように見えるとした。この根拠として、曜日ごとの事故件数では火曜~金曜が多く、土曜・日曜が少なく、1週間における人の社会・経済活動と関係があるとみている。  

■ 筆者は、浮き屋根式タンクのリムシール火災に注目し、浮き屋根の損傷したシール部は修理ではなく、取替えるべきと指摘している。また、API Std 6537.13.1項を引き合いに出して、蒸発による損失を最小限に抑え、作業者への潜在的な危険を減らすために、供用中のタンクの工事では、一度に屋根シール系の四分の一を超えないようにすべきであると解説している。 内部浮き屋根式タンクであるが、供用中の検査方法はAPI会議で発表になっている。(「内部浮き屋根シールの供用中検査の方法」 20118月を参照)

 一方、「リムに取り付けられたシール部やシューに取りつけられた2次シール部は、タンクの供用中に簡単に修理や取替えができるかも知れない」と解説している。 これは、リムシールの構造の違いである。米国では、長期使用が可能なメカニカルシール方式が多く、日本のフォーム・ログ・シール方式と異なる。メカニカルシール方式では、主シールのメタリック・シューのほか、2次シールがあり、接地用のシャンツ設備が付いている。シャンツについてはAPIでリムシール火災の要因になっていると議論になった。(「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」20115月を参照)

所 感

■ 米国における貯蔵タンクの保守に関する基本的な考え方が分かる資料である。米国では、タンク側板、底板、浮き屋根、リムシールなどタンクに使用されている部品はすべて長期使用を前提にしている。リムシールはメカニカルシール方式で、たとえリムシール火災があっても、その後の対応では供用中にシール部を取替えるという考え方である。日本では、シール部にエンベローブ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式であり、供用中(運転中)に交換を行うことはない。日本のように十年周期をひとつの前提として開放検査の義務化をしている国とは考え方が異なってくる。長期使用可能といってもメンテナンス・フリーではない。このために制定されたのが、API Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction)である。これらのことを理解して資料を読む必要があろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Fire Protection for Floating Roof Tanks(浮き屋根式タンクの火災防護), by Erin Schmitt,  December 21, 2021        


後 記: 年末には、新型コロナは収まっているなと思っていたら、年明けて一週間も立たずに、ここ山口県ではまん延防止等重点措置が初めて適用される事態に急変化です。山口県では岩国市と和木町に限定されていますが、私が住んでいる周南市近辺でも結構な感染者が出ています。隣県の広島県でもまん延防止等重点措置が適用されており、安芸の宮島も正月は初詣でにぎわっていたのが、先日のニュースでは閑散としていました。うんざりですが、しばらくはマスクを手放せない生活です。

 このブログで20203月に「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)に備えて知っておくべきこと」と「新型コロナウイルスの伝染性は高い? 低い?」を出してから2年ほどになりますが、ウイルスはワクチンの効かない新しい株の開発(?)などの戦略で人間の対応戦術を上回っていますね。2020年では、ダイヤモンド・プリンセス号の水際作戦が失敗し、今回も日本の米軍基地が水際作戦の抜けになっています。もしかしたら、英国で当初にとった対策のように、米軍は兵士の集団免疫の戦略をとったのではないかとうがった見方をしてしまいますね。

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