このブログを検索

2021年6月30日水曜日

インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災

 今回は、2021611日(金)、インドネシア中部ジャワ州にあるプルタミナ社チラチャップ製油所のベンゼン・タンクで火災が発生した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)中部ジャワ州(Central Java)にあるインドネシア国営石油会社;プルタミナ社(Pertamina)のチラチャップ製油所(Cilacap refinery)である。チラチャップ製油所の精製能力は348,000バレル/日で、貯蔵タンクは約200基ある。

■ 事故があったのは、製油所の貯蔵地区39にあるタンク番号39T-205の容量3,000バレル(477KL)のベンゼン・タンクである。発災タンクは小容量でデイタンク(Day Tank)と呼ばれ、事故当時、容量の約三分の一の1,100バレル(175KL)のベンゼンが入っていた。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021611日(金) 午後745分頃、貯蔵地区39にあるタンク番号39T-205のベンゼン・タンクで火災が発生した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。現場に派遣された消防士は約50名である。

■ 消防隊は、消火泡を使用してベンゼン・タンクの火災に対応するとともに、周囲のタンクを冷却した。

■ プルタミナ社は、火災場所が住宅地や道路から遠く離れた製油所施設の奥だったため、地元住民に影響を与えなかったと語った。製油所の操業や燃料供給に影響していないという。テレビの映像では、製油所から大きな炎と煙が上がっているのが映し出されていた。(YouTube、「Kilang Pertamina Cilacap Terbakar, Pasokan BBM dan LPG Aman(プルタミナチラチャプ製油所の火災、燃料およびLPG供給安全:2021.6.12)を参照)

■ 火災タンク39T-2051時間ほどで制御されたが、タンク冷却中に隣接する39T-203タンクの出口配管で火災が発生した。

■ 火災は612日(土)も続き、火災による煙や灰が雨水に混じり、近郊の村民の井戸に懸念が出た。このため、プルタミナ社は住民に清水を配給するために人員を配置した。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

被 害

■ ベンゼン貯蔵タンク1基が火災で損傷し、内部のベンゼンが焼失した。また、隣接タンクの出口配管から火災が発生し、関連設備が被災した。設備の被災状況や焼失量は不明である。

■ 人的被害は無かった。

■ 火災による煙や灰が雨水に混じり、近郊の村民の井戸に懸念が出たため、住民に清水を配給された。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中で、プルタミナは事故原因の追及するため、内部調査を開始した。

■ 事故当時、落雷を伴う大雨が現場を襲ったが、落雷が原因であることは確認されていない。

< 対 応 >

■ 消火活動は、火災のホットスポットに向けて泡の噴霧が実施された。消防隊は、タンク火災をなんとか制御することができたが、防油堤内で起こった火災を引き続き、消そうと試みた。また、火災が再燃しないように冷却作業も続けた。

■ 火災は2021613日(日)午前1050分に消された。

■ この事故は、最近、プルタミナにとって2番目のタンク火災である。2021329日、西ジャワ島にある125,000バレル/日のバロンガン製油所のタンク地区で大規模な火災が発生し、消火されるまでに2日間燃え続けた。

補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国といい、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

 「中部ジャワ州」(Central Java) は、ジャワ島の中央にあり、人口約3,650万人の州である。

 「チラチャップ」(Cilacap)は、中部ジャワ州の西に位置し、人口約194万人である。

■ 「プルタミナ社」(Pertamina)は、1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

「チラチャップ製油所」(Cilacap refinery)は、プルタミナ社の保有する6つの製油所のひとつで、1974年に建設を開始し、1976年から操業を開始した。製油所内には、約200基のタンクがある。

 プルタミナ社の事故例は、つぎのとおりである。

 ● 201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

 ● 20213月、「インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災」

■「デイタンク」(Day Tank)は小容量のタンクの総称で、一般的にはメインの貯蔵タンクから小容量のデイタンクを通じて送液される。今回のデイタンクは400500KLであり、他のプロセス装置などに送液されているかどうかは分からないが、直径約8m×高さ約8mクラスのタンクであり、単に大型タンクに比べて小型タンクのことを指しているのではないか。発災タンクは固定屋根式タンクまたは内部浮き屋根式タンクとみられる。発災タンクを被災写真をもとにグーグルマップで探したが、該当しそうなタンクは判別できなかった。

■「ベンゼン」(Benzene) は、分子式 C6H6、分子量 78.11 の最も単純な芳香族炭化水素である。 原油に含まれており、石油化学における基礎的化合物のひとつである。一般に、石油化学工業ではナフサの接触分解、リフォーミングによりベンゼンのみならずトルエン、キシレンを含む炭化水素油をつくり、これから分留してベンゼンを製造する。外観は無色透明の液体で、引火点は -11℃と低く、有毒性で呼吸器系への危険性が高い。

所 感

■ 火災の状況が今ひとつはっきりしないので、引火原因を推測することができない。当時、激しい雷雨だったといわれ、最初の火災原因は落雷によることも考えられる。一方、第2の火災がタンク出口配管から発生しており、これは配管漏洩を起点にした防油堤内火災に拡大したものだと思われる。推測になるが、単に自然災害(落雷)でなく、保守や運転に伴う人間によるミスも考えられる。

■ タンク火災の消火活動はかなり苦労している印象である。火災時間は約39時間であり、タンクの規模(400500KLクラス)にしては長い。隣接タンクの出口配管から漏れ、堤内火災になったとみられる。このような火災の対応は、奇しくも最近のつぎのブログで紹介した。

 ●「防油堤内の配管フランジ漏れ火災に対処する方法」2021524日)

 今回の事故では、どのような消火戦略・戦術がとられたか分からないが、被災写真によると、無駄な冷却と思われる状況があるようで、つぎの指摘は当たっているとみられる。

 「直接火炎に触れているか、塗装が焦げるほどの輻射熱を受けていない限り、隣接するタンクの冷却は一般的に不要である。過剰に冷却水を使うことを警告しており、われわれの経験と一致している。防油堤内に放出された冷却水は溜まっていき、その表面で燃えている燃料が他のタンクや配管に広がっていく可能性がある」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Pertamina.com,  Pertamina Manages to Control a Fire in One of Cilacap Refinery Tank Area,  June  11,  2021   

    Jp.reuters.com, Indonesia Pertamina says fire at refinery extinguished,  June  13,  2021

    Tankstoragemag.com,  Pertamina extinguishes Cilacap refinery tank fire,  June  15,  2021

    Argusmedia.com, Fire hits benzene tank at Indonesia’s Cilacap refinery,  June  14,  2021

    Newswep.com, 50 People Deployed To Put Out The Fire At The Pertamina RU IV Cilacap Oil Factory,  June  11,  2021

    Hydrocarbonprocessing.com, Indonesia's Pertamina contains fire at Cilacap refinery,  June  11,  2021

    Uktimenews.com, Indonesia Pertamina says refinery fire has been extinguished,  June  13,  2021

    Cnnindonesia.com, Pertamina: Masih Ada 1 Titik Api Menyala di Kilang Cilacap,  June  12,  2021

    Liputan6.com, 40 Jam Menjinakkan Kebakaran di Kilang Pertamina Cilacap,  June  14,  2021

    Antaranews.com,  Pertamina masih berupaya padamkan satu titik api di Kilang Cilacap,  June  12,  2021   


後 記: また、インドネシアのプルタミナ社でタンク火災が起こりました。しかし、この情報をいち早く知ることができませんでした。というのは、パソコンの調子がおかしくなり(検索ができない)、設定をやり直したり、電源を入切したり、ケーブルをきれいにして差し込み直したり、いろいろ試しましたが、よく成らず、パソコンの初期化までやりました。ところが、それでも直りませんでした。結論からいうと、WiFiのモデム(ルーター)が悪くなって本体のパソコンに影響を及ぼしていました。WiFiの環境設定をしている人も多いと思いますが、パソコンの調子が悪くなった場合、 WiFiのモデムが悪さをしている可能性があることを知っておくことは肝要です。WiFiのモデムを新しくしたら、良くなりました。そういうわけで、パソコンの検索ができずにブログの更新が遅れました。この間、頭の疲れる日々を過ごしました。

2021年6月16日水曜日

沖縄県うるま市の米軍貯油施設で消火用貯水槽から泡消火剤が流出

  今回は、2021610日(木)、沖縄県うるま市にある米軍の陸軍貯油施設の金武湾第3タンクファーム内にある消火用貯水槽から有害な有機フッ素化合物を含む泡消火剤の汚水が基地外へ流出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、沖縄県うるま市にある米軍の陸軍貯油施設である。陸軍貯油施設はうるま市のほか沖縄市、嘉手納町、北谷町、宜野湾市に分散している。

■ 発災があったのは、陸軍貯油施設の金武湾第3タンクファーム内にある消火用貯水槽である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021610日(木)午後4時過ぎ、米軍の陸軍貯油施設の消火用貯水槽から泡消火剤を含む汚水が溢れ、排水路を通って基地外へ流出した。

■ 米側が日本政府に伝えたのは翌11日(金)の夕方だった。沖縄県が防衛省沖縄防衛局を通じて米軍から連絡を受けたのは、流出から24時間以上経った11日午後630分頃だった。

■ 米軍は日本側に、大雨の影響で消火用貯水槽があふれ、有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーフォス)PFOA(ピーフォア)を含む汚水が、排水路に流れたと説明した。貯水槽内に雨水が入り込んだのは、施設の老朽化が原因との説明だったという。  

■ 米軍は流出量を最大2,460リットルと推計しているが、実際の量や汚染の濃度は把握できていない。沖縄防衛局によると、米軍はPFOSの流出量を「ごく微量」で、「普天間飛行場で昨年流出した濃度に比べれば、ごくわずか」と説明した。

■ 今回、汚水が流出した貯水槽は敷地境界フェンスのそばにあり、道路を挟んで集落が広がっているほか、貯水槽から続く排水溝は集落内の水路へ合流し、天願川へつながっている。

■ 流出が判明したのは610日(木)の定期点検時で、実際の流出発生はそれ以前だったとみられる。米軍は612日(土)にフェイスブックで「69日(水)の降雨の影響」と発表した。現場に近い観測地点(沖縄市胡屋)の67日(月)の合計雨量は0.5mmで、68日(火)には49.5mmの強い雨が降っている。

被 害

■ 泡消火剤を含む汚水が排水路を通って基地外へ最大2,460リットル流出した。

■ 泡消火剤がうるま市の河川(および海)に流出し、環境汚染を起こした。

 うるま市や沖縄県では、泡消火剤を含む汚水を回収できなかった。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、米軍によると、貯水槽のふたの接続部分が劣化し、雨水が入り込んで汚水があふれたとみている。沖縄県によると、貯水槽のマンホールのふたが大雨でズレたことによって雨水が入り込んで汚水があふれたとしている。

< 対 応 >

■  611日(金)夕、沖縄防衛局は沖縄県やうるま市、金武町、関係漁協に報告し、米側に安全管理の徹底と再発防止に加え、速やかな通報を申し入れた。外務省は611日(金)、米側に遺憾の意を伝えた。

■ 沖縄県は612日(土)に天願川につながる基地周辺の水路や川の計5地点で調査のための採水をしたが、基地内の水や土のサンプル採取は行っていない。米軍が進める水の分析結果も踏まえ、今後の調査対応を判断する。

■ 612日(土)、沖縄県、沖縄防衛局、うるま市などは日米地位協定の環境補足協定に基づき基地内に立ち入った。午後3時から約1時間、流出があった施設を確認し、米軍から状況の説明を受けた。沖縄県によると、貯水槽のマンホール(の蓋)が大雨でズレたことによって汚水が排水路にあふれ出たことや、周辺の安全に問題はないといった説明があったという。  

 ■ 沖縄タイムスは、613日(日)の社説で「ずさんな管理 許されぬ」と題して、つぎのような記事を掲載した。

 「うるま市の米陸軍貯油施設から、有害性が指摘されているPFOS(ピーフォス)などを含む汚水が施設外に流出した。米軍によると、貯水槽とふたとの接続部分が劣化し、雨水が入り込んで汚水があふれたという。貯水槽はPFOSなどを含む消火剤と混ぜる水をためるためのもので、現在は使っていなかった。あふれた汚水は付近の排水路から米軍施設外に流れたとみられる。管理のずさんさにあぜんとする。同じうるま市の畑に米軍ヘリが不時着してから10日もたたずに、今度は汚水流出だ。基地集中がもたらす事故が住民を不安に陥れている。

 沖縄県やうるま市への報告にも時間がかかり過ぎる。施設外に流れ出たとみられるのは610日(木)午後4時過ぎだったというが、日本側への連絡は翌611(金)の夕方だった。結果、日米間の環境補足協定に基づく日本側の立ち入り調査は、流出の2日後となった。しかも、国や県、市の担当者は現場を確認し、米軍の説明を聞くだけにとどまった。米軍からの報告の遅れはこれまで何度も問題になっている。政府は米軍に強く抗議し改善を申し入れるべきだ。

 米軍の基地にどれだけの量の危険物が貯蔵されているのか県民には知らされていない。基地周辺で環境汚染が起きても、米軍は原因が基地にあると認めないこともある。今回、汚水が流出した貯水槽はフェンスのそばにあり、道路を挟んで集落が広がる。貯水槽から続く排水溝は集落内の水路へ合流し、天願川へつながっている。住民の不安は募るばかりだ。日本側は今からでも施設内でサンプル採取し、客観的な調査をすべきだ。

 米情報自由法により沖縄タイムスが入手した2016年の米軍内部の電子メールの中には、空軍の環境技術者が汚染問題について“PFOSというたわ言と言及したものもあった。環境汚染を軽んじるこのような認識が米軍全体で広がっているとすれば、今後も同様の事故が起きかねない。環境問題にフェンスはない。基地で事故が起きれば周辺の住民に影響が及ぶ。政府は消火剤の保管や漏出防止策について国内法の適用を米軍に求めるべきだ」

■ 614日(月)、沖縄県知事は、米側の情報共有について「危機管理の観点からも(即時の情報共有は)必要だと思うが、徹底されていないのは遺憾と言わざるを得ない」との見解を示した。知事は「米軍が、本来ならば、自治体や県に対してすぐ報告し、かかる対応についての状況をお互いに情報共有する必要がある」との認識を示し、米側の通報体制を疑問視した。

補 足

■「沖縄県」は、九州地方に位置し、日本で最も西にあり、沖縄本島、宮古島、石垣島など多くの島々から構成される人口約145万人の県である。

「うるま市」は、沖縄本島中部に位置し、人口約122,000人の沖縄県第3の都市である。

■ 米軍の「陸軍貯油施設」(Army POL Depot)は、194541日に沖縄島に上陸した米軍は早急にパイプラインとタンク敷設にとりかかり、米国陸軍が設立した貯油関連施設である。19451952年につぎつぎとタンクファームを建設し、現在、うるま市、沖縄市、嘉手納町、北谷町、宜野湾市の広範囲にまたがっており、タンク施設は金武湾側と北谷町桑江地域の2箇所に分かれている。

 今回、発災のあった「金武湾第3タンクファーム」はうるま市にあり、FAC6076 Army POL Depotsと呼ばれる陸軍貯油施設のひとつである。管理部隊は米国陸軍第10地域支援群司令部である。燃料タンク、消火施設、火災モニター施設などがあるが、燃料タンクの基数や大きさは公表されていない。消火配管の配置から覆土式地下タンクが2基あることは分かるが、エリア内にはその他の地下工作物が存在している。

■「消火用貯水槽」は金武湾第3タンクファームのフェンスに近くにあると報じられており、メディアでも写真が掲載されている。この写真をもとにグーグルマップで調べると、貯水槽の大きさは幅約7.1m×長さ約12.4mである。貯水槽の深さ(高さ)は分からないが、仮に地下部はなく、高さを2mとすれば、容量は176である。

 現場に近くでは、68日~9日の2日間で合計50mmの雨量を観測されている。貯水槽のマンホールのふたから雨水が漏れ込んだというので、仮にマンホールのふたの面積を1㎡とし、この面積を通じて貯水槽に入ったとすれば、0.05㎥=50リットルである。また、貯水槽の上部に降った雨が、全部、貯水槽に入ったとすれば、4.4㎥=4,400リットルとなる。米軍の推算根拠が分からないが、このような仮説をしているのではないだろうか。この仮説をもとにすれば、貯水槽に増えた水の高さは50mmで、たった50mmで溢流したとすれば、貯水槽はもともと満杯の状態であったことになる。


■ 最近、沖縄県の米軍基地における泡消火剤の流出などの問題は、つぎのとおりである。

 ● 2015523日(木)、米軍嘉手納基地の航空機格納庫で、酒に酔った海兵隊員が悪ふざけして泡消火剤を放出するスイッチを入れ、消火剤が基地外の民間地まで流出した。米軍が、当初、無害としていた消火剤は、その後、発がん性物質を含むことが分かったが、日本側に通告していなかった。流出した消火剤は“JET-X 2-3/4という高発泡用で、1,500リットル以上だった。米政府の基準で有害とされ、がんや神経・生殖障害を引き起こす物質を含む。しかし、在日米軍基地に適用される「日米環境管理基準(JEGS)」で有毒な化学物質に含まれておらず、米側は有毒だと判明した後も地元に通報しなかった。

 ● 201854日(金)、米軍嘉手納基地内から約200m内側で、消火剤とみられる高さ5mに達する白い泡が大量に目撃された。米軍は、「驚かせたなら大変申し訳ない。整備用格納庫の消火設備から予定外に泡消火剤が噴出し、ドアが開いていたため、外部に大量に流出してしまった」と述べた。

 ● 20197月、在沖米海兵隊が普天間飛行場から出た泡消火剤142トンを沖縄市の産業廃棄物処理会社に搬入していた。日本の防衛相は72日(火)の記者会見で「米側が普天間飛行場から回収したとされる泡消火薬剤に有機フッ素化合物のPFOS(ピーフォス)が含まれているかなど、事実関係を確認している」と述べた。

 ● 2019125日(木)、米軍普天間飛行場において格納庫の消火システムが誤作動を起こし、PFOS(ピーフォス)を含んだ泡消火剤が漏れた。防衛局によると米軍は、「漏出したほぼ全ての消火剤は除去され、基地外へ流れたことは確認されていない」と説明した。

 ● 2020410日(金)、米軍普天間飛行場内にある格納庫で消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ大量流出した。泡消火剤流出の発端は、米兵ら47人が参加したバーベキューで、器材に火を付けたところ、消火装置が熱に反応した。その場にいた米兵や駆けつけた初動対応チームは一時停止の方法がわからず、消火装置は30分近く作動し続けた。さらに、泡消火剤が漏れ出ても地下タンクにたまる仕組みになっていたが、整備不良で外部に流出した。(下記ブログを参照)

 ●「沖縄の米軍普天間飛行場から泡消火剤が市内に大量流出」2020417日)

 ●「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故で立入り調査」2020429日)

 ●「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)」202098日)

所 感

■ 事故原因は、貯水槽のふたの接続部分が劣化、またはふたがズレたことによって貯水槽に雨水が入り込んで泡消火剤を含む汚水があふれたものだという。梅雨に入り、大雨で道路が冠水したり、排水管のマンホールのふたが噴き上がるのを目にすることもあり、この原因論は、一見、ありそうであるが、貯水槽の上部面積が限定されており、雨水の大量流入はありえない。

■ 根本的に貯水槽に関して、つぎのような疑問がある。

 ● 貯水槽の役割はなにか? 消火用水ではないのか?

 ● 貯水槽になぜ泡消火剤が入っていたのか? どのくらい入っていたのか?

 ● 定期点検時に発見したというが、なにを見たのか? (貯水槽のふたの劣化やふたがズレたことぐらいで、司令部上官に報告するようなことではない) 汚水があふれているところは見ることができない?

 ● 貯水槽は現在は使っていないとはどういうことか? 使っていない貯水槽を定期点検する理由は?

 ● 流出量は最大2,460リットルと推計されているが、これは泡消火薬剤原液ベースの値か、泡消火薬剤と水の混合した総量か?

■ 貯水槽の疑問点を無くすようなシナリオを推測してみると、つぎのとおりである。

 ● 貯水槽は当初、消火用水の貯槽に使用していたが、消火用水を公共の水源(工業用水または上水)に変更し、貯水槽は予備的な設備となった。

 ● 有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーフォス)などを含む泡消火液を何らかの理由(泡消火の総合試験など)で保管する必要が出て、貯水槽をカラ(または一部)にして泡消火液を入れた。

 ● この時点で貯水槽は泡消火液の廃液タンクとして使用し始めた。そのため、貯水槽の液位管理を始めた。

 ● 定期点検時に液位をチェックすると、満杯の表示になっており、流出した可能性があった。(司令部上官に報告すべき事項)

 ● 満杯になった訳は、貯水槽に水を間違って張り込んだか、水供給のバルブが漏れていて貯水槽に入ったかの理由が考えられる。

 ●  20204月の米軍普天間飛行場内にある格納庫から泡消火剤が流出した事故では、あとからでも排水路で泡が気泡になって飛ぶなどして全国紙を含むメディアによって報道された影響で、公表することとしたのではないか。ただし、大雨だけの理由とした。(貯水槽のマンホールふたのすきまから雨水が浸入し、泡消火剤の汚水が流れ出たという事象だけをとらえれば、嘘ではないが)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Ryukyushimpo.jp,   PFOS汚染水流出か うるま市昆布 米陸軍貯油施設から,  June  12  2021

     Ryukyushimpo.jp,  米軍「貯水槽あふれた」うるまPFOS流出 国、沖縄県、市が立ち入り,  June  12  2021

     Asahi.com,沖縄の米軍基地で有害物質流出 24時間以上経って通報,  June  12  2021

     Okinawatimes.co.jp, 有害性が指摘されるPFOS含む汚水、基地の外へ流出か 最大ドラム缶12本分 沖縄県やうるま市に連絡,  June 11  2021

     Okinawatimes.co.jp, 社説[PFOS汚水流出] ずさんな管理 許されぬ,  June 13  2021

     Nhk.or.jp, 米軍施設からPFOSなど流出で県などが施設に立ち入り,  June 12  2021

     Parstoday.com, 沖縄・うるま市でのPFOS汚水流出ー許されぬずさんな管理,  June 13  2021

     Mainichi.jp, 玉城知事「米軍の情報共有されず遺憾」 うるまPFOS流出,  June 14  2021


後 記: 今回の事故は20204月の米軍普天間飛行場から泡消火剤の流出した事故報道が効いています。垂れ流し事故があっても住民は気が付かなかった訳ですから、公表しなければ分からなかったでしょう。しかし、排水路で泡立ちが発生したら、もっと大きな騒ぎになったと思います。

 今回の報道では、地元沖縄のローカルメディアの歯ぎしりが聞こえてくるようです。沖縄県やうるま市などは日米地位協定の環境補足協定に基づき基地内に立ち入りしましたが、ローカルメディアはフェンス越しに見るだけです。沖縄県は新型コロナウイルスの非常事態宣言中で感染者が少なくなったとはいえ、全国で突出しているためからか、沖縄県やうるま市の冷めた事務的な対応(に見える)と比べ、取材ができなかったローカルメディアは米軍(および日本政府)への不信感がますます強くなっていくのが分かります。


2021年6月7日月曜日

消防活動時の水供給に関する問題の解決

  今回は、“Industrial Fire World” 2021512日に掲載されたUSファイア・ポンプ社のジョニー・キャロル氏による「水供給問題の克服」(Overcoming Water Supply Issues)について紹介します。


 
< 背 景 >

■ 偉大な米国の人類学者ローレン・アイズリー(Loren Eiseley)は、「この惑星に魔法があるとすれば、それは水である」と言ったことがある。原油の脱塩から FCC装置、コーカー、蒸気発生器、反応塔のジャケット、冷却塔に至るまで多くの工業プロセスにおいて水を使用することが求められている。そして、忘れてはならないのは、水は消火システムや防火システムにとって最も重要な要素である。プロセス装置、貯蔵タンク、荷役設備、制御室などにおいて消火用水を十分に確保することは、操業を継続していくために重要である。

< 給水の重要性 >

■ 多くの石油精製や石油化学の工場は、航行可能な水路や海港の近くに沿って配置されている。自然の水源が近くにない場合、自治体の供給水や井戸水からの供給の信頼性が、工場立地を決定する重要な要素であった。

■ しかし、井戸が枯れてしまったら、われわれは何をするか? 計画停止や不測の事態によって十分な水の供給ができなくなったとき、対処方法はあるか 停電によってモーター駆動消火用水ポンプが運転不可になり、プラントの保護が損なわれたとき、どうするか? われわれが目撃したのは、最近起こった米国メキシコ湾岸の大寒波では、天候が大荒れで、プラント操業のために重要な水の供給に大混乱を起したことである。

< 消火用水が確保できないときの対応 >

■ 最近、ある製油所の消防署長が興味深い実例を語ってくれたことがある。

 ● 直径270 フィート(82m)の原油タンク火災と戦っているとき、消防隊員は、3 台のモーター駆動消火用水 ポンプのうち 2台が始動時に作動せず、3 台目のポンプが運転開始から 30 分以内に故障したことを知った。

 ● さらに、 2台の予備用のディーゼル駆動ポンプを配備したが、予防保全が行われていなかったためにポンプは数分以内に故障した。

 ● 消防署長は、遠く離れた別の会社に支援を求めなければならなかった。

 このような最悪の事態は、“サンドイッチにスープをはさむような異状なこと”に見えるかも知れないが、そうではない。緊急対応チームはこれらの緊急事態に備える必要があり、幹部はどこで機材を入手できるか知っておかなければならない。

(注;サンドイッチにスープをはさむような異状なことの原文は “crazy as a soup sandwich” で、スープはサンドイッチの詰め物としては賢明ではない、すなわち完全に無意味で正気でないことを指す)

■ USファイア・ポンプ社(US  Fire Pump)では、仮設の水システムを構築するための産業用ポンプと機器の設計・製造している。 USファイア・ポンプ社のブースト ポンプは、既設の水用 ポンプが故障したとき代替のポンプ能力を提供できる。計画的な断水や不測の事態で給水を中断した場合、緊急対応チームは 3,00020,000 ガロン/分(11,00075,600 リットル/分)の能力の水中ポンプを近くの水源に配備し、既存のポンプまたは補助用ポンプとして供給することができる。このシステムは、 USファイア・ポンプ社が設計した“スマート” (Smart)技術を使用して、水が必要なときはいつでも手動または自動で運転することができる。

■ 保全作業による停止時や水配管の埋設部の交換時に、われわれは大口径ホースを使用して給水栓から別な給水栓へつないだり、特注品のマニホールドを使用して既存の給水栓や給水管に簡単に接続することができる。

■ US ファイア・ポンプ社は、計画のありなしに関わらず、仮設の消火用水システムの設計を支援するために、社内のエンジニアリング・ チームを配置している。給水が困難な場合には、6 マイル(9.6km)超の工業用大口径ホースを展張したり、緊急時に世界クラスの予備機を配置して100,000 ガロン/分(378,000リットル/分=22,700 /時)以上の水を流すことができる。 US ファイア・ポンプ社では、エンジニアと消防活動スペシャリストからなる 24 時間年中無休の緊急対応チームが配置されており、各所からの要請に応える準備ができている。

補 足

■ 本文では、“最近起こったビッグ・フリーズ(Big Freezeとあるが、20212月中旬から米国全土を襲った大寒波のことを指していると思われる。とくに被害が深刻なのはメキシコとの国境に位置するテキサス州で、気温が過去30年間で最も低い-18℃まで低下し、450万世帯で停電、1,400万人以上が断水の被害に遭っている。このニュースについては、ユーチューブに簡潔に投稿されている。

YouTube「アメリカ広範囲で記録的寒波 テキサスで停電、ルイジアナも零下」を参照)

■ 本文中に「ある製油所の消防署長が直径270 フィート(82m)の原油タンク火災と戦っているときの実例」の話が出てくるが、原油タンクではなく、つぎのようなガソリンタンク火災ではなかろうか。

 ●「米国オリオン製油所のタンク火災ー2001

 ●「米国における最近のタンク火災消火方法 一オリオン製油所ガソリンタンク火災事例の考察一」

■「USファイア・ポンプ社」(US  Fire Pump)は、ルイジアナ州ホールデンを本拠地にした消防機材の製作会社である。同社の創設者であるクリス・フェラーラは40年以上消防業界に携わり、1979年にフェラーラ・ファイア・アパラタス社(Ferrara Fire Apparatus)を設立した後、 2017年にバス、消防車、救急車、RV 車などの特殊車両の米国メーカーであるREV Group (以前のAllied Specialty Vehicles ) に買収され、傘下の関係会社になった。

 一方、2014年に当時の業界に欠けていた大容量の消防ポンプを作るという目的から「USファイア・ポンプ社」を設立した。 USファイア・ポンプ社は、地方自治体や産業用消防の専門家が効果的に作業を行うために必要な補助消防設備を完備し、陸上火災、船舶火災、救助活動、ベーパー抑制作業、製油所・ターミナルの火災、その他のさまざまな緊急事態に対応している。USファイア・ポンプ社の製品については同社のウェブサイトに動画による紹介をしているので、米国における大型の消防機器の現状がわかる。

 「http://www.usfirepump.com/video」を参照)

 USファイア・ポンプ社は、 20193月に起きた最悪のタンク火災である「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」( および「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」を参照)において、タンク火災の経験豊富な消防士15名を派遣し、大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送し、消火活動を支援した。


所 感

■ これまでのブログで消火水について紹介したのは、つぎのようなものがある。

 ● 「タンク火災への備え」20129月); 工場火災では、消火用、冷却用、蒸発防止用に大量の水を必要とし、水は火災時に最も重要なものであるとし、水の供給の観点から言及したものである。

 ● 「タンク火災時の冷却水の使い方」20136月); 過去の体験をもとに、タンク火災時において、いつ、どこに冷却水を使用するかについて言及したものである。

 今回は、プラントにおける水の重要性を説き、「消防活動時の水供給に関する問題の解決」の方法を言及したもので、興味深い。

■ 日本では、2008年の大容量泡放射砲システムの配備で消火戦術の考え方は変わった。一方で、「大容量泡放射システムの運用に関する調査報告書」20133月、消防庁特殊災害室)によると、人員参集の課題、システム輸送に必要な車両や燃料の確保の課題、輸送道路の課題、大規模部隊運用の実効性の課題などがあげられている。しかし、今回の資料のような事例にもとづく消防活動時の水供給に関する問題はあがっていない。

 20212月の米国テキサス州の寒波を引き合いに出すまでもなく、最近の異常気象や自然災害では、これまでの想定とは異なる事象が起こっている。たとえば、日本でも「北海道電力・苫東厚真発電所の胆振東部地震による損傷」20189月)によって北海道全土がブラックアウト(停電)になっている。水供給の問題は米国で起こっても、日本では起こらないと断言できない。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Overcoming Water Supply Issues,  May 12, 2021 


後 記: 今回の資料は消防機材会社のPR記事のようにも映りますが、最近のメキシコ湾岸の大寒波などの話題を入れた味わい深い資料です。 ところで、USファイア・ポンプ社は「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」 で消火活動に支援した会社ということは知っていました。今回、改めて会社を調べてみましたが、よく分かりません。創業者の設立したフェラーラ・ファイア・アパラタス社はREV Groupに買収されていますが、現在も存続しています。 これらの会社とUSファイア・ポンプ社の関係ははっきりしません。米国でよくある買収劇で、資金が動くだけで会社自体は変わっていないようです。金余りの状況で資金が動くので、国内総生産には寄与(?)しているのでしょうが、実態は変わらず、資金を動かす人だけが儲けている仕組みのような気がします。調べるのに時間がかかっただけに本文とは関係ない脇道にそれつつ、まとめました。

2021年5月31日月曜日

米国マサチューセッツ州ボストンの糖蜜タンク崩壊(1919年)

 今回は、1919115日(水)、米国マサチューセッツ州ボストンにあった米国工業用アルコール社の施設内にあった糖蜜用の貯蔵タンクが崩壊し、21名の死者を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国マサチューセッツ州(Massachusetts)ボストン(Boston)のノースエンド(North End)にあった米国工業用アルコール社(United States Industrial Alcohol  USIA)の施設で、操業はピュリティ・ディスティリング社(Purity Distilling Company)が行っていた。

■ 事故があったのは、施設内にあった糖蜜用の貯蔵タンクである。タンクは、1915年にボストンのウォーターフロントに沿いに建設されたリベット接合式タンクで、直径90フィート(27m×高さ50フィート(15メートル)、容量250万ガロン(9,500KL)で、発災時は200万ガロン(8,000KL)の糖蜜が入っていた。

■ 当時、工業用アルコールは糖蜜を発酵させて作られており、用途として第一次世界大戦(19141918年)の軍需品や兵器を製造するのに使用され、非常に利益をもたらしていた。糖蜜はキューバ、プエルトリコ、西インド諸島から運ばれ、タンクに貯蔵され、イースト・ケンブリッジの蒸留所で工業用アルコールに変えられた。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 1919115日(水)午後1230分頃、貯蔵タンクが、突然、崩壊し、200万ガロン(8,000KL)の糖蜜が一気に周囲に流出し、甘い香りで粘りのある糖蜜が大洪水を起こした。

■ 報告によると、高さ1540フィート(512m)、幅約160フィート(49m)の波が時速約35マイル(56 km/h)で移動し、ふたつの街区を襲い、建屋を破壊し、ボストン高架鉄道の鋼桁を壊して鉄道車両に損傷を与えた。

■ 目撃者によると、タンクが崩壊したとき、地面の揺れを感じ、轟音を聞いたという。また、タンクから接合部のリベットが飛び出し、機関銃の弾丸のように近所を襲ったという。

■ 事故に伴う糖蜜の流出によって死傷者が発生した。救助隊はすぐに到着したが、糖蜜が硬化し始め、救助活動は困難を極めた。結局、21人が死亡し、その多くは糖蜜による窒息死で、そのほか約150人が負傷した。さらに、数頭の馬が粘着性のハエ取り紙に捕まったハエのように死んだ。

被 害

■ 容量250万ガロン(9,500KL)の貯蔵タンクが崩壊し、周辺の施設や建物を破壊した。タンク内に入っていた200万ガロン(8,000KL)の糖蜜が流出した。

■ 事故に伴って、10歳から78歳までの21人が死亡し、約150人が負傷した。

■ 亡くなった男性、女性、子どもたちは、粘り気があって茶色の糖液のシロップの津波によって窒息死し、サフォーク郡の医療検査官は「重油の皮で覆われているように見え、目や耳、口や鼻が詰まっていた」と証言している。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因はいろいろ調査され、断定には至らないが、つぎのような複数の要因が関与していたとみられる。

 ● タンクは急いで建設され、十分に試験されていなかった。建設時、タンクは満水による水張検査をせず、6インチ(15cm)の水を入れただけだった。タンクに糖蜜を入れるたびに異音がしていたという危険な兆候を無視していた。

 ● 事故の7日前、50万ガロン(1,900KL)以上の糖蜜がタンクに荷揚げされた。船からの温かい糖蜜がタンク内の冷たい糖蜜と混ざり合い、発酵プロセスが起きた。タンク内で起こった発酵により二酸化炭素が発生し、タンクの内圧が上昇した。この時期の通常の気温は-17℃であるが、事故前日には5℃に上昇しており、気温の上昇が内圧の増加を助長した。

 ● タンク基礎の近くのマンホールの蓋のところから破損が発生しており、材料の劣化による亀裂が致命的な段階にまで成長した。リベットの設計に欠陥があったことも問題で、亀裂が最初に形成されたリベット孔に大きな応力がかかっていた。

 ● 2014年に現代の工学技術による調査が行われ、側板の板厚は下部の0.67インチ(17mm)から上部の0.31インチ(7.8mm)までの範囲で、タンクの大きさに対して決められた厚さの半分しかなく、満杯の糖蜜を保持するには薄すぎたかったことが判明した。また、当時は認識されていなかったが、鋼材にマンガンが含まれておらず、それによって余計に脆くなっていたとみられる。

< 対 応 >

■ 被害地域の清掃には、消防艇から汲み取った海水で糖蜜を押し流し、砂を使って糖蜜を吸着させた。直接的に被害を受けた地域の清掃には数百名もの人々が参加したが、2週間を要した。このほかの浄化作業は数週間続き、ボストンはその後何年も糖蜜のような匂いがし続けたと伝えられている。糖蜜を洗い流すために汲み取った海水は数百万ガロン(19,000KL)といわれている。

■ 災害をきっかけに多くの訴訟が提起された。犠牲者は疑惑タンクが安全ではなかったと申し立てたが、米国工業用アルコール社(USIA)は、悪意をもった人間による破壊行為であると主張していた。しかし、1925年にタンクは健全では無かったと判断され、米国工業用アルコール社(USIA) は損害賠償を支払うように命じられた。(賠償金は今日の金額で約1,500万ドル=約16億円)

■ この災害事例によって全国の州において、より厳しい建設規則が採用された。  

■ 長年、糖蜜のような一見穏やかな物質がどうしてこれほど多くの死者を引き起こしたのかという疑問が投げかけられていた。2016年に、ハーバード大学の研究者たちは糖蜜の温度変化が関係しているという

研究結果を発表した。事故の起こる2日前、運搬しやすいように外気温よりも高い温度状態で糖蜜がタンクに貯蔵され、糖蜜の粘度は低い状態だった。タンクが崩壊したとき、糖蜜は街を広がっていくほどに温度が下がり、当時のボストンの冬の夕方の気温と同じくらいになるまで冷やされていくことで糖蜜の粘度は劇的に増加していった。これにより救助隊が被害者の窒息する前に救助しようという試みを妨げることになった。

■ 密度のある糖蜜を非常に高く積み上げられたタンクは、大量の位置エネルギーを蓄えていた。保持していたタンクが崩壊すると、その位置エネルギーはすべて運動エネルギーになった。糖蜜が非常に粘性であっても、慣性は粘性によって移動できる力よりもはるかに強力である。

 ハーバート大学では、タンクの縮尺模型を作成し、コーンシロップによる実験を行い、高速度カメラで撮影した。その結果、事故と同じようにコーンシロップが津波のように小さな置物を飲み込んだ。密度が水の1.5倍ある糖蜜はゆっくりしか注ぐことができない。しかい、非ニュートン流体である糖蜜が洪水のような状態では、土砂崩れ、雪崩、溶岩流のように重力流として移動し、推算結果、事故時の証言にあるように時速35マイル(56 km/h)の速さで移動した可能性があることが確認された。

■ 糖蜜流出のコンピュータによるシミュレーションがユーチューブに投稿されている。

YouTubeBoston Molasses Flood.mov2017/01/14)を参照。2分半過ぎから始まる)

補 足

■「マサチューセッツ州」(Massachusetts)は、1788年に米国で6番目の州となった。現在、人口約654万人で、事故のあった1919年には人口約378万人だった。州都および州内最大都市はボストン(Boston)である。

 マサチューセッツ州は、農業分野の発展は無かったものの、経済は1900年から1919年まで繁栄を極めた。ボストンは1900年時点で米国で2番目に重要な港であり、漁獲取扱量では一番の港であった。しかし、1908年までに市場競争によってその価値は急速に下がっていった。一つの工場が1つか2つの製品を作ることに頼っていた大規模産業に基づく経済に陰りが見え始め、外国の低賃金労働による競争の激化や、後年の世界大恐慌などの要因もからみ、マサチューセッツの製靴と繊維の2つの主要産業が衰退した。

所 感

■ 本事故は失敗学会の「失敗知識データベース」の失敗事例に掲載され、事例の知識化(教訓)について「仕事に対するあせり、詳細部分の無視など一件小さな要因が集まって、大きな予想外の事故を招くことがある」としている。当時のマサチューセッツ州の経済・社会状況を反映した事例ともいえる。

■ 米国は記録や覚書を残すことの好きな国であるが、今回の事例を調べても驚くほどいろいろな情報が残っている。不可思議な事故という印象の強い理由や背景はあろうが、100年前の事故について容易に調べることができる。この点は米国を見習うべきことだと感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Britannica.com, Great Molasses Flood, April  29, 2021

     Bostonglobe.com,  The Great Molasses Flood of 1919 was Boston’s strangest disaster,  January  09, 2019

     Ja.wikipedia.org,  ボストン糖蜜災害,  May  08, 2021

     En.wikipedia.org , Great Molasses Flood,  May  18, 2021

     Historytoday.com, A Sticky Tragedy: The Boston Molasses Disaster,  January 01, 2009

     Nbcnews.com, The Great Boston Molasses Flood of 1919 killed 21 after 2 million gallon tank erupted,  January 15, 2009

     Time.com, How the Great Molasses Flood of 1919 Made the World a Little Bit Safer,  January 14, 2019

     Boston.com, ‘Masses of wreckage’: The painstaking cleanup and tragic aftermath of Boston’s Great Molasses Flood,  January 14, 2019

     Youtube.com, The Great Boston Molasses Flood,  January 15, 2019

     Shippai.org ,  糖蜜貯蔵タンク破裂事故


後 記: 今回は、202152日に紹介した「貯蔵タンクが崩壊する原因はなにか?」の中で、「貯蔵タンクの破損で最も不名誉な事例のひとつは、100年前に米国のボストンで起こった」という記述をきっかけに調べたものです。調べてみると、100年前とは思えないほど、インターネットではいろいろな情報がありました。中には、当時の白黒写真に色付けを施したものもありました。一方、一番難儀したのが、リベット接合式タンクの写真です。グーグルで検索しても、日本はおろか米国でもリベット接合式タンクの写真や図が出てこないのです。「タンクから接合部のリベットが飛び出し、機関銃の弾丸のように近所を襲った」という記事に対してリベット接合式タンクを見たことのない人は分からないでしょう。時代が変わっていることを実感しました。 

2021年5月24日月曜日

防油堤内の配管フランジ漏れ火災に対処する方法

  今回は、“Industrial Fire World”2021414日に掲載された「制御できない圧力火災に対処する方法」(How to Deal with Uncontrolled Pressure Fires)について紹介します。

< 背 景 >

■ 「パーフェクト・ストーム」(Perfect Storm)とは、複数の悪い事が同時に起き、最悪の壊滅的な事態になることを指す言葉である。タンク火災の緊急事態において複数の悪い事象の中には、冷却水を使いすぎたり、ボルト締付け型フランジからの漏れによって生じる制御できない圧力火災が起こったりする。 この複数の悪い事象から、防油堤内の区域にあるタンクがすべて被災する結果になるかもしれない。

< タンク火災時の現場における問題 >

■ タンク火災といっても、他のいかなる火災時における緊急事態と変わりはない。最初の消火戦略は防御的戦略をとる。すなわち火災を制御し、延焼を回避することである。そのような状況を維持できれば、それから積極的戦略をとって火災を消火することができる。

■ ほとんどの消防士は、火災になったタンクやそのまわりの状況についてトンネル視、すなわち視野や思考が狭くなりやすい。 よくある衝動的行動は、火災になったタンクや隣接するタンクに対して水による冷却を始めることである。これは一見、つぎのような大きな脅威をもたらしかねないという合理的な反応であるようにみえる。

 ● 内部浮き屋根式タンクの場合、通気口から吹き出す炎の輻射熱によって別のタンクに火災が広がらないだろうか。 

 ● 防油堤内で漏れている配管フランジから噴出する圧力をもった炎が他の配管やタンクに直接衝突するかもしれない。

■ 産業消防分野の活動に携わってから40年経っているが、輻射熱だけで発火した内部浮き屋根式タンクや固定屋根式タンクは知らない。火災がタンクからタンクに広がるには、火炎が直接、タンクに衝突する必要がある。強風時でさえ、炎が直接的に衝突するには、もっとも近い隣接タンクでも十分な距離があるといえる。

■ API RP 2021Management of Atmospheric Storage Tank Fires;常圧貯蔵タンク火災の管理 )には、「直接火炎に触れているか、塗装が焦げるほどの輻射熱を受けていない限り、隣接するタンクの冷却は一般的に不要である」とし、過剰に冷却水を使うことを警告しており、われわれの経験と一致している。防油堤内に放出された冷却水は溜まっていき、その表面で燃えている燃料が他のタンクや配管に広がっていく可能性がある。

■ 従って、まず第一に重要なことは冷却放水を制限することである。 これは、他の配管を損傷させて油を供給して堤内火災に至ったり、あるいは別のタンクに火がつく原因になる直接衝突する火炎を作らないようにするためである。

■ もしも火炎衝突に冷却放水を適用した後には、圧力のかかったフランジの漏洩火災を制御し、他のタンクとおたがいに接続された他の配管を危険にさらすことがないようにしなければならない。火災が別なフランジ部やシール部に広がると、さらに多くの燃え得る油が防油堤内に流出することになる。防油堤内で火災が増えると、貯蔵タンクへの直接的な炎の衝突が増え、火災はさらに拡大していく。

■ 実際にボルト締付型フランジが漏れて、噴出し、燃えている状況の火災にどのように対応するか。通常、圧力配管の火災に対応するためのトレーニングには、テキサスAMにおける規模の大きいプロセス装置による火災訓練がある。漏洩箇所の上方で衝突しているすべての炎は、火災が広がらないことをインストラクターが確信するまで冷却される。

■ 次に、チームリーダーは漏れを遮断するためのバルブを閉止するように振る舞うが、このとき同時に訓練の燃料担当者が燃料を閉止して火が消える。これは訓練で簡単にできるかもしれないが、タンク防油堤内のボルト締付型フランジが漏れているという現実の世界では簡単にいかない。多くのタンク火災では、漏洩しているフランジ火災を制御するバルブは燃焼している中央部にあるのが一般的である。

< フランジの漏れ制御 >

■ 実際のバルブを閉止したり、漏れを止めたりしたりして、フランジ火災をできるだけ無くすめにできる有効な方策や操作はあるか?

■ 最も成功する可能性のある方法は、漏れているフランジのある配管内に膨張させた泡溶液をポンプで圧送することである。十分に膨張した泡溶液の流れがあれば、漏れている燃料を大幅に減らしたり、完全に無くすことができる。泡と水がフランジから漏れている間に、有効な防護を施した消防士またはメンテナンス・スペシャリストが漏れを止めることができる。漏れを止めるには、フランジのボルトを増締めするだけで止まることもあるし、あるいは古いボルトを1本づつ新しいボルトと交換し、取り付けられていたようにボルトを締めればよい。フランジがまだ漏れている場合は、標準的なフランジ補修用クランプを用いるのがよく、地元の製油所、発電所、石油化学プラントに問い合わせれば見つかる可能性がある。

■ ボルト締めフランジの漏れを制御する方法は、可燃性液体に関する特別な火災訓練のひとつとして実施すべきである。

■ 圧力のある配管内で泡溶液を膨張(通気)させるには、高背圧発泡器( High Back Pressure Foam Maker)が必要である。この機器は泡溶液に空気(またはエアレーション)を追加する際に必要なもので、従来、貯蔵タンクの底にポンプで送り込み、 SSI方式(液面下泡放射方式)という名で知られているタンク火災を消すための重要な機器だった。 SSI方式(液面下泡放射方式)のシステムは、古い貯蔵タンクではいまでもよく見られる。このことは、エアレーションされた泡を漏れている配管に入れるために必要な機器は、いまでも活用できることを意味している。不足しているのは、フランジ漏洩火災において高背圧発泡器を使用する方法を消防士に訓練することだけである。

■  SSI方式(液面下泡放射方式)という芸術的ともいえる方法はほとんどがお役御免になった。なぜか? タンク火災に対するSSI方式(液面下泡放射方式)の適用は水成膜泡薬剤の導入とともに1970年代にさかのぼり、これは液面下放射に耐え得る最初の消火泡薬剤だった。

< タンク火災への対応 >

■ 防油堤内の火災を制御下に置ければ、消火戦略は積極的戦略に進むことができ、タンク火災または複数タンク火災の消火活動を行うことになる。屋根が噴き飛ばされているタンクや、屋根と側板の溶接部が破断して大きな開口部があるタンクでは、泡の流量を計算し、安全率をさらに多くとり、赤い炎の上を白い泡で覆いつくすときである。

■ しかし、内部浮き屋根式タンクで外側の屋根が開口していない場合、タンク内に泡を入れる別の方法を見つける必要がある。防油堤内火災が制御されていても、内部浮き屋根式タンクが6日間もベント部で燃え続けたのを見たことがある。このとき、タンク内に泡やドライケミカルを入れる方法を試みる時間は十分にあった。

■ 最も有効だった方法のひとつは、消火に必要な泡の流量を計算し、泡をタンク内の液面下にポンプで送り、泡のホースと接続した自作のパイプをクレーンで吊り上げ、パイプの開放端を屋根上部の開口部に挿入することである。あるいはタンク径の周りにある通気口のいくつかに泡を強制的に放射するストレート・チップ型の地上用モニターを配置したことである。場合によっては、これらの方法を同時に使ってタンクを消火したこともあった。

■ 原油が燃えるタンク火災については明らかに注意しなければならない。ボイルオーバーに至った内部浮き屋根式タンク火災のケースが2件あった。 1件はベント部で7日間燃えていたが、突然、噴出した事例である。もう1件は、 SSI方式(液面下泡放射方式)で泡を注入する前に何時間も燃えていた原油タンクでボイルオーバーが発生した事例である。

■ 熱を克服するのに十分な水分をとるのは簡単であるが、貯蔵タンクの消火活動ははるかに複雑である。地上で生じた圧力のある火災をすばやく解決することで、1つの小さな事象によって大きな防油堤内火災となり、複数のタンク火災に変わるのを防ぐことができる。これが教え始める必要のある教訓である。

所 感

■「フランジの漏れを制御する方法は、漏れているフランジのある配管内に膨張させた泡溶液をポンプで圧送することである。膨張した泡溶液の流れがあれば、漏れている燃料を大幅に減らしたり、完全に無くすことができる」という対応策は初めて聞いた。 このため、SSI方式(液面下泡放射方式)の高背圧発泡器を活用するという経験からの話は興味深い。

■ 一方、「泡と水がフランジから漏れている間に、有効な防護を施した消防士またはメンテナンス・スペシャリストが漏れを止めることができる」という対応は、日米の消火戦術の違いを感じる。米国では、発災があっている防油堤内に人が入っていくが、日本では、通常、堤内に人が入ることを嫌う。嫌う理由は定かでないが、事故事例の体験やテキサスAMなどでの火災訓練による違いだと思う。

■「多くのタンク火災では、漏洩しているフランジ火災を制御するバルブは燃焼している中央部にあるのが一般的である」と話されているが、日本では防油堤内にポンプや孤立用手動バルブを設置しないという考え方があり、昔からの設備を除けば、通常では考えられないことであろう。しかし、タンク内の自動水切り装置や配管などを考えれば、まったく無いとはいえない。

■「原油が燃えるタンク火災については明らかに注意しなければならない。ボイルオーバーに至った内部浮き屋根式タンク火災のケースが2件あった」といい、これまで聞いたことのない事例であり、詳しい経緯を聞きたいと思うような資料である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, How to Deal with Uncontrolled Pressure Fires,  April 14, 2021 


後 記: 今年にはいってから貯蔵タンクの事故情報を紹介したのは2件だけです。新型コロナウイルスによる影響だと感じます。それで、今回も「Industrial Fire World」からの情報を紹介することとしました。しかし、この英文資料は最初に「パーフェクト・ストーム」(Perfect Storm)という言葉が出てきて難儀しました。調べると「パーフェクト・ストーム」とは2000年に製作された映画の題名でした。いまでは、複数の悪い事が同時に起き、最悪の壊滅的な事態になることを意味するそうです。このように技術資料では見ない言葉や表現が使われており、その典型は「put the white stuff on the red stuff」という文がありました。「stuff」は物質や材料を言いますが、直訳すれば、「赤いものの上に白いものを置く」で何を意味するのか見当がつきませんでした。いろいろ考えて「赤い炎の上を白い泡で覆いつくす」としましたが、文意からまるっきり違っていることはないでしょう。