今回は、2024年4月20日(土)、茨城県取手市にあるキリンビール㈱取手工場においてビールの副原料となるコーンスターチを貯蔵するタンクが詰まったため、タンク内に入槽して棒で突つくなどの作業をしていたメンテナンス会社の社員が倒れており、消防隊が救助で出動したが、作業していた社員が死亡していたという人身事故を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、茨城県取手市(とりで)桑原にあるキリンビール㈱の取手工場である。
■ 事故があったのは、工場内にあるビールの副原料となるコーンスターチを貯蔵するタンク(サイロ)である。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2024年4月20日(土)正午前、ビール工場のコーンスターチと呼ばれる粉を貯蔵するタンクの中で作業をしていたメンテナンス会社の社員(29歳)の姿が見えなくなった。
■ 現場にいた同工場関係者がタンク内をのぞきこむと、メンテナンス会社の社員が副原料に埋もれた状態だったため、119番通報した。通報にもとづき、消防隊が出動した。
■ 消防隊員がタンクを捜索したところ、メンテナンス会社の社員がコーンスターチの白い粉の中で倒れているのが見つかった。メンテナンス会社の社員は約1時間半後に意識不明の状態で救助されたが、午後3時頃、搬送先の病院で死亡した。
■ メンテナンス会社の社員は、当時ひとりで、直径約4m×高さ約10mのタンクの中で、タンクの底の部分でコーンスターチの粉が詰まったのを解消するため、棒で突く作業などをしていたという。キリンビール㈱は、タンクで詰まりが発生したため、メンテナンス会社に依頼していたという。
■ ユーチューブでは、人身事故を伝えるメディアのニュースが投稿されている。
●Youtube、「キリンビール工場で男性作業員が「コーンスターチ」に埋もれているのが見つかり、その後死亡 茨城・取手市」(2024/04/20)
被 害
■ タンク内で詰まり解消作業をしていたメンテナンス会社の社員が死亡した。
■ 操業への影響は不明である。
< 事故の原因
>
■ 事故原因は、タンク内に貯蔵されていた副原料のコーンスターチに埋もれたためとみられる。詳細は警察で作業方法や手順などに問題がなかったか調査中である。
< 対 応
>
■ 警察は詳しい状況を調べている。 ひとりで命綱を付けてサイロ内に入って作業をしていたというので、警察は作業方法や手順などに問題がなかったか、ほかの作業員から事情を聞くなどして、事故原因を詳しく調べている。メディアによっては、落下を防ぐロープが外れたと報じているところがある。
■ キリンビール取手工場では、2023年10月にも倉庫の屋根で作業をしていた男性が転落して死亡する事故が起きている。10月5日(木)、メンテナンスの男性会社員(62)が倉庫の屋根板を踏み抜き、高さ約8.8mからアスファルトの地面に転落して死亡した。死亡した男性は委託を受け、商品を保管する倉庫の屋根に設置された太陽光パネルの定期点検をしていた。屋根には採光用に半透明になっている箇所があり、そこを誤って踏み抜いたとみられている。安全帯は着用していたが、別の場所とつないでいなかったという。
補 足
■「茨城県」は、日本の関東地方に位置し、人口約281万人で、県庁所在地は水戸市である。
■「取手市」は、茨城県の県南地域に位置し、人口約103,000人の市である。取手市には、キリンビール取手工場のほか、日清食品関東工場、伊藤ハム取手工場、キヤノン取手事業所などがある。
■「ビールの製造工程」の例を図に示す。ビールの主原料はモルト、ホップ、酵母、水である。これに副原料を入れてビールの味や香りを調整し、まろやかさやスッキリさを引き出すといわれている。この副原料にはコーンスターチや米などが使用される。
■「コーンスターチ」(Corn starch)はとうもろこしのデンプンで、ビールの副原料として使われるほか、料理やお菓子のとろみをつけることに使用される。和食や中華料理では片栗粉が使用されるが、西洋料理ではコーンスターチが用いられることが多い。コーンスターチはとうもろこしの殻粒からとったもので、白色でわずかに穀物の匂いのあるさらさらとした粒子の細かい粉である。片栗粉はじゃがいものデンプンであり、風味は異なるが、見かけに大きな差はない。自家製のコーンスターチを製造する映像をみると、特別に固化しやすいように見えないが、湿気の条件によっては部分的に固まるのかも知れない。 (Youtube,「HOMEMADE CORNSTARCH RECIPE | How To Make CORNSTARCH | Easy Homemade Cornstarch」を参照)
■ 事故のあった「コーンスターチ用タンク(サイロ)」の大きさは直径約4m×高さ約10mと報じられており、円筒タンクであれば容量は125㎥である。仕込み釜への投入調整用タンクであれば、底部が円すい状のホッパー形タンクで、食品を取扱うため材質はステンレス鋼または亜鉛メッキであろう。固体や粉状用のタンクであれば、ブリッジによる詰まり防止のためにバイブレーターやノッカーが付けられているものがあるが、今回のタンクは詰まり解消のため人が入槽しているので、そのような付属設備はなかったものとみられる。
所 感
■ 警察の報道発表による事故状況であるが、メディアによって受け取り方が少しづつ違っており、妥当と思われる状況内容にした。消防による救出時の状況により酸欠という要因では無いようとみられる。タンク内のコーンスターチのレベルが分からず、また、肝心の安全帯の装着状況もはっきりしないが、何かの切っ掛けでコーンスターチの固化が崩れ、粉に埋もれてしまったものと思う。
■ タンク内にひとりで入槽して棒で突く作業をしていたというが、監視も置かずに作業を行ったということは過去にも同様の作業をした経緯があるのではないだろうか。事業所やメンテナンス会社の安易な考え方で人身事故を引き起こした可能性があるように思う。
過去に、石油系以外のタンクにおいて発生した人身災害で紹介した事例は、つぎのとおりである。
●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」(2018年6月)
●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」(2019年2月)
●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」( 2020年10月)
●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」( 2021年12月)
●「群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名(原因)」( 2022年11月)
●「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」(2022年6月)
これらの事例では、硫化水素や酸素欠乏に関わる事故だったことに比べると、今回は違った人身事故ではあるが、タンク内に入槽するという危険性のある作業では、つぎの3つの要素が重要である。
① ルールを正しく守る
② 危険予知活動を活発に行う
③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Fnn.jp, 【速報】サイロに埋もれ29歳男性作業員死亡 茨城・取手市のキリンビール工場, April 20,
2024
・Msn.com, 29歳男性作業員「コーンスターチ」に埋もれ死亡
茨城のキリンビール工場で…,
April 20, 2024
・News.infoseek.co.jp, キリンビール工場で男性作業員が「コーンスターチ」に埋もれているのが見つかり、その後死亡 茨城・取手市, April 20,
2024
・Article.auone.jp, キリンビール工場で男性作業員が「コーンスターチ」に埋もれているのが見つかり、その後死亡 茨城・取手市, April 20,
2024
・Yahoo.co.jp, ビール原料「コーンスターチ」に埋もれ作業員死亡, April 20,
2024
後 記: 関東で起こった死亡事故であるため、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)ではいろいろな意見が出ていました。初期情報による早い対応ではありますが、酸欠や安全帯不装着が原因ではないかというもので、拙速感は免れません。先日、「消滅可能性」自治体という話題がニュースになりましたが、一方、東京一極集中が本当に良いことでしょうか。政府は地方創生の対応として文部科学省の文化庁を2023年3月から京都府に移転しましたが、それっきりです。メディアの記事も東京圏では速い報道ですが、速報レベルといった内容が薄いもので、かえって地方のメディアの方が追っかけて報道していると感じます。
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