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2016年3月26日土曜日

アフリカのガボンで石油タンクが爆発して死傷者7名

 今回は、2016年3月12日、中央アフリカのガボンにあるアダックス・ペトロリアム・オイル社の石油施設にあった原油貯蔵タンクが爆発して、7名の死傷者を出した事故と紹介します。
 写真Gabonreview.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中央アフリカのガボン(Gabon)のオバンク(Obanque)にあるアダックス・ペトロリアム・オイル社(Addax Petroleum Oil)の石油施設である。
 アダックス・ペトロリアム・オイル社は、中国の巨大エネルギー会社である中国石油化工集団公司(China Petrochemical Corporation、略称:Sinopec;シノペック)の子会社で、原油を生産している。

■ オバンクはイロンド-ディノンガ(Irondou-Dinonga)油田にあり、ガボンの沿岸都市ポール・ジャンティル(Port-Gentil)から南東約100kmに位置している。オバンクでは、ガボン政府とアダックス・ペトロリアム・オイル社との間で税金や環境義務などの問題で確執が長年続き、2012年12月にアダックス・ペトロリアム・オイル社は締め出された。このため、オバンクでの生産は、一時、国営のガボン・オイル・カンパニー(Gabon Oil Company)だけの操業になっていたが、2014年にアダックス・ペトロリアム・オイル社の操業再開が認められていた。
ガボン西部の沿岸都市ポール・ジャンティル付近
(ディアベタの近くに発災場所のオバンク石油施設がある) 
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年3月12日(土)午後5時50分頃、石油施設にあった原油貯蔵タンクが爆発して、大きな炎が上がって火災となった。

■ 爆発は輸出用のNo.1タンクで起きた。このタンクは供用中ではなかったが、内部に2,000バレル(320KL)ほど油が入っていた。このタンクの近くにNo.2タンクがあり、このタンクは内部検査のため縁切りされ、予備清掃工事中だった。

■ 爆発時、現場にはメンテナンス請負会社であるORTEC社の作業員が10名いた。3名は無傷で逃げることができた。2名が軽い火傷を負い、4名はⅡ度からⅢ度の重度の火傷によって病院に搬送された。 1名は行方不明だったが、翌3月13日(日)朝にレスキュー隊によって発見され、死亡が確認された。

■ タンクの火災は、その後、制圧下に入った。

被 害
■ 爆発・火災によって石油施設の貯蔵タンクなどが損壊した。被害の範囲は分かっていない。

■ 爆発によって工事中の作業員に死傷者が出た。被害者は死者1名、負傷者6名の計7名だった。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は分かっていない。原因調査中である。

< 対 応 >
■ ガボン政府は、3月14日(月)、被災者とその家族に対して哀悼の念を表するとともに、事故原因の追究を約束した。
写真Gabonactu.com から引用)
(写真はYoutube.com - aLibrevilleTVから引用)
(写真はYoutube.com - aLibrevilleTVから引用)
(写真はYoutube.com - aLibrevilleTVから引用)
(写真はYoutube.com - aLibrevilleTVから引用)
補 足
■ 「ガボン」(Gabon)は、正式にはガボン共和国で、中央アフリカに位置する共和制国家である。西は大西洋のギニア湾に面し、北西に赤道ギニア、北にカメルーン、南と東にコンゴ共和国と国境を接している。人口は約160万人で、首都はリーブルヴィルである。フランス領から1960年に独立しており、公用語はフランス語である。
 ガボンはアフリカの産油国として、当該地域の他の国に比べ高い経済成長と政治的な安定を保ってきた。1975 年に石油輸出国機構(OPEC)に加盟したが、1995年に脱退している。石油生産量は、1997年のピーク以降、大型油田の成熟化によって減少している。現在、ガボンにおける原油生産量は23万バレル/日であり、国家収益の約60%を占める。
                      中央アフリカのガボン周辺  (写真はグーグルマップから引用)   
■ 「中国石油化工集団公司」(China Petrochemical Corporation、略称:Sinopec;シノペック)は、中国石油天然気集団公司(CNPC)、中国海洋石油総公司(CNOOC)と並んで中国の三大石油会社のひとつである。中国石油化工はもともと石油精製・石油化学を中心とする石油会社だったが、石油事業の川上(石油採掘)から川下(石油化学工業)までを一貫して行う大企業への集約が図られた。石油採掘への進出として、2009年、アフリカやイラクの石油権益をもつスイスのアダックス・ペトロリアム・オイル社(Addax Petroleum Oil)を買収した。

■ 「アダックス・ペトロリアム・オイル社」(Addax Petroleum Oil)は、ガボンで4箇所の油田権益を保有している。うち陸上のイロンド-ディノンガ(Irondou-Dinonga)油田の権益は88.75%保有し、実際の採掘操業行っている。
 オバンクの石油施設の設備仕様のほか、発災に関係した2基のタンク仕様は分からない。被災写真では比較の対象がないので、はっきりしないが、直径10~15m×高さ5~8mだと仮定すれば、容量500~1,000KLクラスの円筒タンクとみられる。爆発したタンクには320KLの油が入っていたとされるので、タンクの半分程度であったと思われる。
 被災写真からすると、爆発したタンクは原形をとどめない状態で損壊したのではないかと思われる。半壊して火災になったタンクは予備清掃工事中のものではないかと思われる。
アダックス・ペトロリアム・オイル社の権益油田(左)とオバンクの石油施設(右)
(図はAddaxpetroleum.comから引用)(写真はPetroglobalnews.comから引用)
所 感
■ 今回の事故は、隣接した2基のタンクのうち、原油の入ったタンクから放出された可燃性ガスに、もう1基の予備清掃工事中の火気作業によって引火・爆発したものと思われる。このような類似事故としては、2003年の「エクソンモービル名古屋油槽所における工事中タンクの火災事故」などがある。
 タンク内外での火気工事は最も危険な作業のひとつであり、米国では「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」としてまとめられている。7つの教訓の項目はつぎのとおりである。(詳細は同ブログを参照)
   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行
   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練
   ③作業環境のモニタリング    ⑦請負者への監督
   ④作業エリアのテスト 

■ 被災写真を見ると、タンクが損壊するほど激しい爆発だったとみられ、単に外部へ放出した可燃性ガスの爆発でなく、タンク内部の爆発混合気による爆発が伴ったのではないかと推測する。爆発は午後5時過ぎであり、工事着工時(おそらく午前中)の環境と変わるような要因が発生していたのではないだろうか。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Menafin.com, One Dead, Six Wounded in Gabon Oil Site Explosion: Govt,  March  14,  2016 
  ・Upstreamonline.com,  ‘One Killed’ in Sinopec Gabon Oil Site Blast,  March  14,  2016
  ・News24.com, 1 Dead, 6 Wounded in Gabon Oil Site Explosion,  March  14,  2016  
  ・Petroglobalnews.com,   Missing  Worker Found Dead after  Gabon  Tank  Explosion at  Sinopec Subsidiary,  March  14,  2016
    ・Ghanapresident.com, 1 Dead, 6 Wounded in Gabon Oil Site Explosion,  March  14,  2016
    ・Sabreakingnews.co.za,  Gabon Oil Site Explosion Kills 1, Injures 6,  March  14,  2016
    ・Hazardexonthenet.net,  Explosion at Sinopec Oil Storage Site in Gabon Kills One, Injured Six,  March  15,  2016
    ・Hydrocarbons-technology.com,  Sinopec Reports Explosion at Oil Site in Southwest Gabon,  March  15,  2016
    ・Chinabusinessnews.com,  One Killed, Six Injured in Sinopec Gabon Oil Site Blast,  March  15,  2016
    ・Gabonreview.com,  Hydrocarbures: Explosion sur un bac de stockage d’Addax Petroleum,  March  14,  2016



後 記: 今回のタンク事故情報は内容が乏しい割に時間を費やしました。まず、ガボンという国について予備知識がなく、オバンクという土地もグーグルマップではっきりしません。また、悩まされたのは発災写真で、事故を報じたインターネット情報源でいろいろな写真が添付されていました。調べていくと、どうも当該事故の写真ではないものが多いように思えてきました。画像検索を手がかりにやっと確かな発災写真を得ることができました。結局、分かったことは、ガボンの公用語がフランス語であり、英文による情報は限られているということです。
 一方、感心したのは、このような国に進出していく中国(シノペック)の開拓心(?)です。シノペックは原油備蓄を含めた石油精製・石油化学プラントの操業を主にしていると理解していましたが、このような形で原油掘削事業に参画しているとは知りませんでした。現地では、ガボン政府といろいろ確執があるようで、問題は多そうです。タンク事故情報から国情の一端を知る事例でした。
ガボンの石油施設事故報道で掲載された写真


2016年3月21日月曜日

フィリピンの液化石油ガス貯蔵施設で火災

 今回は、2016年2月20日、フィリピンのバタンガス州カラカの工業団地内にあるサウス・パシフィック社の液化石油ガス貯蔵施設で起ったタンク火災について紹介します。
 写真Scoopnest.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、フィリピンのバタンガス州(Batangas)カラカ(Calaca)の工業団地内に4ヘクタール(40,000㎡)の敷地面積を有するサウス・パシフィック社(South Pacific Inc.)の液化石油ガス貯蔵施設である。サウス・パシフィック社は、フィリピン国内で液化石油ガス(LPG)を供給するエネルギー会社として2014年に創業している。

■ 発災のあった場所はフェニックス・ペトロリアム社(Phoenix Petroleum Inc.)が所有するフェニックス・インダストリアル・パーク内で、サウス・パシフィック社はこの工業団地内で液化石油ガス貯蔵施設を操業している。当初、発災事業所はフェニックス・ペトロリアム社と報じられたが、のちに訂正された。サウス・パシフィック社は、フェニックス・ペトロリアム社とは関係のない独立した液化石油ガスの輸入会社である。

■ 発災があったのは、6,000トンの貯蔵能力を有する施設にある液化石油ガス(LPG)タンクである。
フィリピンのバタンガス州カラカにあるフェニックス・インダストリアル・パーク(工業団地)付近
(矢印が建設前のサウス・パシフィック社LPG貯蔵基地の予定地) 
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年2月20日(土)午後4時頃、サウス・パシフィック社の液化石油ガスタンクで火災が発生した。

■ 火災発生に伴い、近隣の消防署から消防隊が16台の消防車で現場に出動した

■ 発災に伴って負傷者が2名発生し、治療のためカラカ中央病院へ搬送された。被災者はサウス・パシフィック社の従業員で、火災の初期対応をしていて負傷した。      
 写真Scoopnest.com から引用)
(写真はTempo.com.ph から引用)
被 害
■ 火災によって複数の貯蔵タンクが損傷を受け、内部の液化石油ガスが焼失した。

■ 初期対応時に従業員2名が負傷した。また、地域住民1,126人が避難をした。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は分かっていない。バタンガス州とエネルギー省が原因調査中である。

■ サウス・パシフィック社によると、タンクは米国のエンジニアリングおよび安全基準にもとづいて建設され、タンクまわりにはコンクリート製の防液堤が設置されているという。タンクは壊れておらず、タンク本体は燃えていないとみられる。一部の報道では、液化石油ガス施設が貯蔵能力7,000~10,000トンの試運転中だったと報じている。

< 対 応 >
■ 発災から半日が経った2月21日(日)朝時点でタンク火災は続いており、消防当局は発災タンクと周辺設備の冷却のため放水する一方、タンクに残った液化石油ガスは燃え尽きさせる判断を行った。燃え尽きるには2~3日かかるとみられていた。

■ 隣接するフェニックス・ペトロリアム社では、一時操業を停止するとともに、輻射熱の影響を防ぐためフェニックス社の貯蔵設備への放水を行った。

■ カラカ地方政府は非常事態を宣言し、発災場所近くの住民を安全な場所へ避難させた。当初は65家族だったが、最終的には296家族1,126人が4か所の避難所に移動した。

■ 発災から2日後の2月22日(月)、火災はコントロール下に入ったと宣言された。サウス・パシフィック社は、発災タンクから安全設備であるフレアーヘッダーに入ったガスのみが燃えていると発表した。しかし、消防隊は10台の消防車とともに現地におり、住民の避難も続いている。

■ 発災から3日経った2月23日(火)、カラカ地方政府は非常事態を解除した。しかし、2月24日(水)の時点でも、サウス・パシフィック社はタンクに残っている最後のガスが燃え尽きるのを待っていると発表した。

■ 2月26日(金)朝の時点でも、まだ完全に火は消えていないが、地方政府は避難していた人たちの帰宅を認めた。
                        ドローンによる事故現場の空撮   (写真はScoopnest.com から引用)
(写真はYoutube.com - AKSYONから引用)
(写真はYoutube.com - GMANewsから引用)
(写真はYoutube.com - GMANewsから引用)
(写真はNorthboundasia.com から引用)
補 足
■ 「フィリピン」(Philippines)は、正式にはフィリピン共和国で、東南アジアに位置する共和制国家である。東にフィリピン海、西に南シナ海、南にはセレベス海に囲まれた島国で、人口約9,400万人、首都はルソン島にあるマニラである。
 「バタンガス州」(Batangas)は、フィリピン北方に位置するルソン島の南部にあり、人口約1,905万人の州で、州都はバタンガスシティである。
 「カラカ」(Calaca)は、バタンガス州の中央部でバラヤン湾に面しており、人口約7万人の町である。
                    フィリピンとバタンガス州の位置    (写真はグーグルマップから引用)  
■ 「サウス・パシフィック社」(South Pacific Inc.)は2014年創業の新しい会社で、フェニックス・インダストリアル・パーク内でも後発の事業所である。カラカにある施設の詳細は分からない。写真によると、横型円筒式タンクのほかに、台形状の築山があり、この施設がなにか分からないが、最初に火が出たものと思われる。
     建設前のサウス・パシフィック社の貯蔵施設予定地付近   (写真はグーグルマップから引用)
         建設時のサウス・パシフィック社の貯蔵施設付近   (写真はFacebook.com から引用)
所 感
■ 今回の液化石油ガス貯蔵施設の火災事故は状況がよくわからない。台形状の築山の施設から最初に火が出たものとみられ、その後、火災が拡大し、横型円筒式タンクにも延焼したと思われる。試運転中という情報もあり、新規設備に問題があった可能性がある。
■ 液化石油ガスの火災は消火することが危険であり、燃え尽きさせる消火戦略をとったことは妥当である。発災写真によると、火災はタンクの上部や配管から炎が出ており、タンクが下からあぶられる状況では無かったようであるが、消防活動(冷却が主)としては必ずしも基本に沿ったものではなかったようにみえる。圧力式液化石油ガスタンクの消火戦略は「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」に記載されており、圧力タンク火災に対処するための戦略的思考はつぎのとおりである。
 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。
 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。
 ● 液レベルより上部を冷却する。
 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。
 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。

■ 今回の火災は7日間を超え、火勢が収まってからも長く燃え続けている。タンク内の液の気化が徐々に遅くなっていったためであろう。2011年3月11日の東日本大震災時のコスモ石油千葉製油所の球形タンク火災事故では、燃え尽きさせる戦略の中で、つぎのような対応をとっている。
 ● タンクの残液の気化速度をさらに上げ、すべて燃焼させるため、海水散水から温水散水に切り替え。
 ● タンクの残液が少量となったため、燃焼を管理することが難しくなり、消火してのガス拡散へ戦術の変更を決断。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・GMAnetwork.com, Fire Strikes Phoenix Petroleum Plant in Calaca, Batangas,  February  20,  2016 
  ・MB.com,  SPI’s LPG Storage Facility Hits Fire, not Phoenix’s Depot,  February  22,  2016
  ・Interaskyon.com, LPG Storage Plant in Batangas on Fire for more than 18 Hours, General Alarm Declared,  February  22,  2016  
  ・GMAnetwork.com,  Fire at Calaca LPG Plant under Control; Residents Still at Evacuation Centers,  February  22,  2016
    ・Tenmpo.com,  Fire Hits Batangas LPG Storage Facility,  February  22,  2016
    ・GMAnetwork.com,  Operator of Burning Calaca LPG Plant Apologizes to Residents,  February  22,  2016
    ・Pageone.ph,  LPG Facility Fire in Calaca, Batangas under Investigation - DOE,  February  22,  2016
    ・TheStandard.com.ph,  ‘Fire out’ at Calaca LPG Plant,  February  23,  2016
    ・GMAnetwork.com,  State of Emergency Lifted after Containment of Calaca LPG Fire,  February  25,  2016
    ・CNNphilippines.com,  Calaca Fire Continues, State of Emergency Lifted,  February  26,  2016



後 記: 今回のタンク事故情報はすっきりしないものでした。住民が避難するという事態になり、その数もどんどん増えていったので、報道は避難に関することが多く、事故自体の情報はわからないことの多いままでした。グーグルマップでも液化石油ガス設備が写っていないほど新しい施設で、設備仕様がまったくつかめず、発災個所がどこかもはっきりしませんでした。ただ、現代の事故らしく、動画を含めて発災写真は多くありましたし、ドローンによる空撮の動画(残念ながらやや遠い)もありました。情報は多いのですが、事故原因や消防活動を推測できるようなものが少なく、すっきりしないまま、まとめました。

2016年3月15日火曜日

米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み

 今回は、石油貯蔵タンク基地などで起った火災事故の消防対応の業務などを行う会社として有名なウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が公開しているCode Red Archivesの中から、ルイジアナ州で消防活動の相互応援を牽引している“ハイアード・ガン・ギャング” の活動について焦点を当てた資料を紹介します。
19971029日、 “ハイアード・ガン・ギャング”会員の調整努力によって、大型ポンプ、放水砲、消火ホースを使用して29,567gpm111,000L/分)という産業界で最大の大容量放水を記録した。(写真・解説はWilliamsfire.comから引用)
< 貯蔵タンクの大型化による影響 >
■ 消防活動の相互応援は、1944年以降、メキシコ湾岸沿いの地域で実施されてきた。しかし、1980年代になってシャルメット事故、ロサンゼルス製油所事故、バトンルージュ事故、バルディーズ号原油流出事故などの大きな火災や流出事故が続き、緊急対応と消防活動に関する産業界の考え方が劇的に変化した。特にメキシコ湾岸沿いでの変化が著しかった。

■ 歴史的にいうと、貯蔵タンクの大型化に対して、産業界にはつぎのような3つの主要な局面が現れた。
  ● タンクを大きくする方が環境にとって、より安全になると考えられた。というのは、汚染、流出、放散のリスクにつながる破滅的な事故の可能性が減るからである。
  ● タンクを大きくする方が経済的にみて、より現実的な策だと考えられた。というのは、小型タンクを数多く作って管理・保全するより、1基の大型タンクを作った方が全費用としては効率的だからである。
  ● 一方、タンクの大型化は消防士にとって新しい挑戦を強いることになった。1980年代後半までは、小型タンクの大きさや配置が定められていた。しかし、大型タンクでは、事故に伴う火災の規模が大きくなるため、消火戦術や消防資機材を変えなければならなかった。

■ より大きなタンクを建設する傾向は、緊急事態時の対応のやり方を時代遅れにしていった。すなわち、直径60フィート(18m)のタンク火災時の対応と同じ方法では、直径250フィート(77m)のタンク火災に対応することができない。人材、消火機材(設計や有効性)、泡薬剤を増やす必要性があったし、ある分野では徹底的な見直しが必要だった。

■ 1980年代の10年が終わろうというとき、この問題があからさまになる事故が起った。1989年、バルディーズ号原油流出事故とルイジアナ州バトンルージュの製油所大火災は、人員・資機材や消火戦術への負担が限界を越える事故だった。

■ ルイジアナ州バトンルージュの製油所事故では、15基の貯蔵タンク、4つのAPIセパレーター、2箇所の配管ラックが被災し、火災面積は25万平方フィート(23,000㎡)に及んだ。15基のうち2基の貯蔵タンクは直径134フィート(40m)で、火災が拡大し、防油堤内を完全に含む火災になった。火災が鎮火するまでに14時間29分の時間と多糖類添加耐アルコール泡薬剤(AR-AFFF=3M社ライトウォーターATC)48,000ガロン(181KL)を費やした。

■ 一連の事故は過去に経験したことのない状況に直面し、新しい方法と新しい設備を要する段階に入ったことを示した。ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社(Williams Fire & Hazard Control)は、大規模火災を制圧して消火するための大容量放水砲と独自の泡放射方法(特許:フットプリント法)による消火戦略を作り上げた。

< ルイジアナ州での動き >
■ ルイジアナ州南部の火災と安全に関して責任のある人たちが、相互応援コミュニティーをいかに強化するかについて総合的に検討しようと、自分たちの標準作業手順を詳細に見直し始めた。

■ ルイジアナ州南部の消防専門家たちは、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社とともに、産業界の防災に関するつぎのようなニーズについて検討していった。
  ● 特殊設備の標準化
  ● 消火薬剤の標準化
  ● 消防専門家のフォーラム: 現場で感じている問題と解決のための認識を共有化
  ● 専門消防士の会社化: 消防専門家のニーズに沿った消防設備の設計と製作を担う

■ ルイジアナ州バトンルージュ製油所事故のあと、規制当局、市民、会社内部から出た疑問に対して、産業界の情勢、すなわち歴史、成長、安全性、問題点が徹底して調べられた。

■ 消防関連分野からは強力で重みのある声が出された。消防関連分野では、緊急時対応者のための特別な訓練について早急なニーズが高まっていたし、産業界の成長に伴うリスクに合ったより多くの資機材へのニーズがあった。また、地理的領域を越えた緊急事態やいろいろな分野の緊急事態を扱う部署からは効果的な対応に関するニーズがあった。

< “ハイアード・ガン・ギャング”の結成と活動 >
■ この要望の声から、ひとつの信条が消防関連分野の人たちの心をとらえ、深く影響を与えることになった。その信条とは、「あなたが必要とする前に多くの支援者をつくれ」ということだった。この精神から“ハイアード・ガン・ギャング”(Hired Gun Gang)というグループが1987年に生まれた。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”は、ランディ・マスター氏が彼の長年の友人のほか、消防士ドワイト・ウィリアムズ氏やジェリー・クラフト氏などと話し合って結成したものである。 “ハイアード・ガン・ギャング”はルイジアナ州を本拠にして根付いていった。会員のメンバーはメキシコ湾岸沿いにある石油精製・石油貯蔵分野で直面している防災資機材の調整、訓練、緊急時対応に焦点を絞った。

■ 長年にわたり、この“ハイアード・ガン・ギャング”によるルイジアナ防災資機材供給ネットワークは、ルイジアナ州の工業地帯で起った十数回の重大事故に対応してきた。

■ 創設時からの企業には、エクソン・リファイナリ&ケミカル社(エクソンモービル)のバトンルージュ製油所、マラソン・オイル社のガリービル製油所、エクソンモービル・オイル社のシャルメット製油所、ループ社、シェル・オイル社(モティバ)、ノーコー社、アメリカン・シアナミド社、ウェストウェゴー社、ダウ社、プラケメン社、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社などである。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”のミーティングは年に2回開催され、会員各社固有の特徴やリスクについて討論を行った。集まったメンバーは潜在する最悪ケースの対応について話し合った。例えば、海上や桟橋での緊急事態、有毒物質を放出するプロセス装置の火災、タンク火災と周囲への影響などである。

■ また、“ハイアード・ガン・ギャング”のメンバーは、明確になった問題について事前対応計画をまとめたり、具体的な緊急事態に備えた訓練イベントを実施した。このような訓練イベントのひとつが、1997年10月29日、ルイジアナ州で実施された。“ビッグ・ガン・フロー”(Big Gun Flow)と呼ばれたイベントは“ハイアード・ガン・ギャング”による調整努力を物語るもので、大型ポンプ、放水砲、消火ホースを使用した大容量放水の威力を示した。このイベントでは、29,567gpm(111,000L/分) の流量に達し、産業界で最大の放水量を記録した。

■ ルイジアナ州南部とミシシッピ州西部では、 17社の会社が“ハイアード・ガン・ギャング”に入っている。会員の条件は簡単ではっきりしている。会社はATC/ウィリアムズ社との一括契約をしなければならない。そして、ほかの会員の緊急事態時の支援をするため、少なくとも放射能力2,000gpm(7,560L/分)の放射砲または消防車を保有することである。資機材情報はメンバー会社間で共有し、他の設備ベンダーの参加を禁じている。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”には役員というものを置かなかった。決定が必要なときは会員の投票にもとづいた。なにかニーズが生じて行動を起こす必要が出たときには、会員会社のロジスティクス・コーディネーターとしてウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が選ばれた。各会員会社は防災資機材のリストを提供し、自分たちの守りを維持できる限り、利用可能な資機材を事故時に活用できるようにした。この防災資機材には大容量放水設備を含んでいる。たとえば、ウィリアムズ社の大容量放水砲、容量4,000gpm(15,000L/分)と6,000gpm(22,000L/分)の移動式ポンプ、互換性のある泡薬剤(多糖類添加耐アルコール泡:AR-AFFF= 3M社ライトウォーターATC、ウィリアムズ社のサンダーストーム)などである。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”の考え方はウィリアムズ社によって米国中で履行された。ウィリアムズ緊急時泡薬剤ネットワークは、“ハイアード・ガン・ギャング”のミーティングの中で議論して得られた結果であったが、今や世界中の戦略的泡薬剤配備機能として成長した。

■ この泡薬剤ネットワークが役立った事例がある。1989年、ルイジアナ州でその年の最悪の氷点下の日に起ったバトンルージュ製油所の火災事故において、テキサス州のメキシコ湾岸地域沿いにある“ハイアード・ガン・ギャング”の会員会社は72,000ガロン(272KL)のATCを14時間で届けた。さらに、2004年7月、泡薬剤ネットワークは、マラソン・オイル社からの緊急要請でサンダーストーム30トートバックを24時間以内で再供給を果たした。

< 近年の動向 >
■ 産業界の流れによって消防士の仕事は挑戦させられ続けているが、この傾向は世界的な事件によっても大きく影響されている。最近の世界中でのテロ活動によって、施設管理者は近隣施設で緊急事態が起ったときの支援として不可欠な資機材を送ることに躊躇(ちゅうちょ)し始めている。自分たちの施設がつぎのターゲットであるかもしれないということから、現場にある消防資機材を保持しておこうという警戒心が生まれている。また、残念なことに多くは過剰に懸念しすぎているところがあり、他所への緊急事態に対応することが法的な問題に立たされるリスクがあるのではないかということから、ほかの施設に人員や機材を支援に出すという責務について不本意な方向に悪化させている。

■ しかし、“ハイアード・ガン・ギャング”の組織は18年目に入り、結束は強いままである。それは、メンバーが大きな火災事故を目の前で見たり、非常事態の対応に際して共に作業を行うという成功体験があるからである。

■ 150件を超す消火成功実績のもと、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は相互応援コミュニティーの強化を図るとともに、支援活動のほか陸上・海上施設関連の火災対応のフルサービスに携わっている。

補 足
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana )は、米国南部のメキシコ湾岸にあり、人口約465万人の州である。 州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオーリンズである。
                                                              ルイジアナ州の周辺   (図はグーグルマップから引用)
■  「ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社は、 米国テネコ火災(1983年)、カナダのコノコ火災(1996年)、米国ルイジアナ州のオリオン火災(2001年)などのタンク火災消火の実績を有している。当ブログにおいてウィリアムズ社関連の情報はつぎのとおりである。

■ ウィリアムズ社はウェブサイトを有しており、各種の情報を提供している。この中で「Code Red Archives」というサブサイトを設け、同社の経験した技術的な概要を情報として公開している。今回の資料はそのひとつである。

所 感
■ 今回は、米国の消防活動や相互応援の状況を知るという点で興味深い内容である。ルイジアナ州周辺地区において貯蔵タンクの大型化に伴い、消防活動に関する課題解決のため有志による“ハイアード・ガン・ギャング”を結成したという自由な発想はいかにも米国らしい。そして、単なる情報共有化でなく、実務的な面に踏み込む合理性に感心する。消防機材や泡薬剤の統一化などは実際の相互応援活動で経験した中から出てきた意見だろう。日本でも、石油コンビナート地区毎に相互応援協定が結ばれており、公設消防と各社の消防機材の型式の違い(例えば、消火ホースや接続口など)による不都合がわかっているが、なかなか改善しきれていないのが現状であろう。

■ 日本では、大容量泡放射砲システムを全国12地区に区分して導入された。しかし、機種や泡薬剤は各地区によって選定され、統一されなかった。現在、各地区は他地区と相互応援協定を締結しているが、ここまで相互応援を拡大するならば、本来は英国のように機種や泡薬剤を統一して操作性の一元化を図るべきだっただろう。バラバラだと資料で述べられているように相互の訓練などが難しく、「消防士にとって新しい挑戦を強いる」ことになる。
 また、「最近の世界中でのテロ活動によって、施設管理者は近隣施設で緊急事態が起ったときの支援として不可欠な資機材を送ることに躊躇し始めている」という指摘は日本でも当てはまり、おそらく米国より日本の方がこの傾向が強いだろう。米国では、ウィリアムズ社のように自由に活動できる専門消火会社があるので、まだ対応ができる。日本では、このような専門消火会社がない状況であり、公設消防が大容量泡放射砲システムを保有していないといういびつな状態を改善すべきではないだろうか。今回の資料を読んで、そのような感想をもった。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Williamsfire.com,  「BEYOND Mutual Aid 」, FEATURE , Edited by Jerry Craft ,   CODE RED ARCHIVES, Williams Fire & Hazard Control. Inc.


後 記: 当資料の原題は、「相互応援を越えて」(BEYOND Mutual Aid)という深みのある良い題名でしたが、もっと内容が分かるようにした方がよいという思いから、ブログの標題は「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」としました。ルイジアナ州の相互応援の背景を知るとともに、ウィリアムズ社がなぜ米国南部で基盤を固めていくことができたかという点についても理解できる資料でした。一方、有志によって結成されたグループの名称である “ハイアード・ガン・ギャング”(Hired Gun Gang)とは、「雇われガンマンの一団」というような意味で、さすがに銃規制に緩い、というよりほとんどに無いに等しいルイジアナ州だと感じますね。