このブログを検索

2019年10月24日木曜日

2019年台風19号で被災のあったタンク・貯蔵関連施設

 今回は、2019年10月12日(土)~13日(日)にかけて日本に来襲した台風19号についてタンク・貯蔵施設関連の被災に関する事故情報を紹介します。
                 台風19号の衛星写真  写真はScienceportal.jst.go.jpから引用)
< 被害施設の概要 >
■ 事故があったのは、つぎの会社・事業所である。
 ● 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)横浜製造所 
 ● 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)根岸製油所
 ● 神奈川県横浜市の(株)トヨタユーゼック社TAA横浜会場
 ● 宮城県大河原町の(株)アストモスガスセンター仙南営業所
 ● 長野県東後市の国際石油開発帝石(株)の東京ライン
 ● 福島県いわき市の東部ガスの下タ田橋の橋梁添架管
 ● 福島県郡山市富久山町の(株)エム・ティ・アイ郡山工場
 ● 福島県郡山市のアイ・テック・サービス(株)郡山ガスセンター
 ● 埼玉県桶川市の中野酸工(株)桶川工場
 ● 静岡県静岡市清水区のJーオイルミルズ静岡工場
 ● 各地の消費者宅のLPガス容器

< 事故の状況および影響 >
(1) 台風19号の発生
■ 2019年10月初めに南鳥島近海でアジア名でハギビスと命名された台風19号は、中心気圧915 hPaとなり、猛烈な勢力に発達し、日本に接近し、10月12日(土)19時前に静岡県伊豆半島に上陸した。その後関東地方と福島県を縦断し、13日(日)12時に三陸沖東部で温帯低気圧に変わった。この間、強風域が本州の半分以上を覆うほどの大型で、勢力も強く、静岡県を始めとし、半日で13都県に特別大雨警報が発表され、大雨に加えて暴風、高潮などを伴う広範囲の被害に繋がった。

(2) 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)横浜製造所
■ 神奈川県横浜市神奈川区にある潤滑油製造工場のJXTGエネルギー(株)横浜製造所(潤滑油、グリース、エンジンテスト用の特殊燃料油など500種類の各種石油製品を生産)では、工場内の浮き屋根式タンクの浮き屋根上とタンク周辺側溝に、油混じりの雨水が10リットル程度漏洩した。
■ 施設外への漏洩は無し。浮き屋根上とタンク周辺側溝の漏洩は吸着マットにて同日に回収済。
              横浜市JXTG横浜製造所付近  (写真はGoogleMapから引用)
          JXTG横浜製造所の浮き屋根式タンクの例 (写真はGoogleMapから引用)
(3) 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)根岸製油所 
■ 神奈川県横浜市磯子区のJXTGエネルギー(株)根岸製油所(石油精製能力27万バーレル/日)では、構内の護岸の損壊が認められた。土嚢による応急措置を実施した。危険物等の漏洩はなし。
■ また、敷地内の冠水により、出荷関連設備に不具合が生じ、一時、出荷を停止した。なお、近隣の他の製油所・油槽所は、特に問題はなく、石油製品の安定供給には影響はなかった。
             横浜市JXTG根岸製油所  (写真はGoogleMapから引用)
(4) 神奈川県横浜市の(株)トヨタユーゼックのTAA横浜会場
■ 神奈川県横浜市中区にあるU-Car(中古車)取扱会社の(株)トヨタユーゼックでは、TAA(トヨタオートオークショ)横浜会場に設置されたLPガスボンベ庫の屋根が強風により破損し、LPガスボンベの配管(ボンベから調整器の間)が切れ、LPガスが漏洩した。消防隊1隊出動し、漏洩検知活動などの対応行った。現在、漏洩は停止している。
          横浜市トヨタユーゼックのTAA横浜付近  (写真はGoogleMapから引用)
(5) 宮城県柴田郡大河原町の(株)アストモスガスセンター仙南営業所 
■ 宮城県柴田郡大河原町の(株)アストモスガスセンター仙南営業所では、床上浸水によりボンベが流出した。流出したボンベは相当数が白石川に流出した。
■ 10月14日(月)午後3時時点で、流出容器のほとんどを回収済み。残りの流出容器については、引き続き、回収作業中である。
■ 15日(火)午後2時時点で、未回収ボンベは23本となり、引き続き事業者が回収作業を実施中である。
■ 17日(木)午後12時4時点で、未回収ボンベは1本となった。
  宮城県大河原町のアストモスガスセンター仙南営業所付近  (写真はGoogleMapから引用)
(6) 長野県東後市の国際石油開発帝石(株)の東京ライン
■ 長野県東後市の国際石油開発帝石(株)では、長野県東御市本海野地内の千曲川の増水による洗堀によってガス導管を添架している橋台が崩落したため、天然ガス東京ラインが損傷を受けた可能性が発生した。
■ このため、当該区間を遮断して安全を確保し、ガス供給は別系統により継続中である。
           長野県東御市本海野付近の千曲川  (写真はGoogleMapから引用)

(7) 福島県いわき市の東部ガス(株)下タ田橋の橋梁添架管
■ 福島県いわき市の東部ガス(株)では、いわき市の下タ田橋の橋梁添架管(中圧)の一部に折損が発見された。このため、バルブを閉止し、当該中圧管の使用を停止した。
■ バックアップ用低圧配管から別系統での供給を行っている。
■ 10月15日(火)、折損箇所は仮設配管を敷設することとし、同日から調査を開始した。
■ 10月19日(土)、折損箇所の仮設復旧配管の工事を実施している。
          いわき市の下タ田付近  (写真はGoogleMapから引用)

(8) 福島県郡山市富久山町の㈱エム・ティ・アイ郡山工場
■ 福島県郡山市の金属表面処理の㈱エム・ティ・アイ本社郡山工場では、川の氾濫で浸水したメッキ工場から毒物のシアン化ナトリウム(青酸ソーダ)が流出した。工場は台風19号で氾濫した阿武隈川沿いにあり、シアン化ナトリウムを使用する生産ラインや薬品の保管庫が水没し、薬品を貯めておくタンクが浸水して一部が流れ出たものである。
■ 10月16日(水)午後4時頃、浸水被害確認のため、市の環境保全センター職員が水質汚濁防止法に基づき㈱エム・ティ・アイに立入調査を実施した結果、シアン化ナトリウムが流出していることを確認した。工場出口調整池の貯留水を採取して水質検査を実施した結果、午後8時に排水基準0.5mg/Lのところ、基準の46倍の23mg/Lの濃度のシアン化合物を検出した。
■ 10月17日(木)午前8時頃、工場周辺の汚染状況を確認するため、周辺地域において氾濫水が残留している4箇所と、工場排出水の放流先水路で阿武隈川に流入する直前の1箇所において水質検査を実施した。結果は下記のとおり。
■ シアン化ナトリウムは毒物に指定されていて、高濃度で摂取すると死に至る危険性もあるということでるが、浸水で流出した際に薄まっているとみられ、清掃作業にあたった工場の従業員などに健康被害は出てないという。
■ 郡山市は、念のため、工場の周辺に住む5世帯に避難を促したが、地域住民は、「もうパニックすぎちゃって何からやっていいかわからない」といい、避難した人はいないということである。
        福島県郡山市のエム・ティ・アイ郡山工場付近  (写真はGoogleMapから引用)
エム・ティ・アイ郡山工場の出口調整池排水回収作業  (写真はAsahi.comから引用)
(9) 福島県郡山市のアイ・テック・サービス(株)郡山ガスセンター 
■ 福島県郡山市のアイ・テック・サービス(株)郡山ガスセンターでは、川の氾濫で高圧ガスボンベが敷地外の工業団地内に流出した。アイ・テック・サービスは、ガス事業会社の岩谷瓦斯(株)の100%出資によってガスセンターの管理運営を請負う会社である。 
■ 10月19日(土)午前10時時点で、大半は回収したが、ボンベ2本が未回収であ、事業者が回収作業を実施中である。ボンベ内のガス種(窒素、酸素、アルゴンまたは二酸化炭素)は調査中である。
アイ・テック・サービスの郡山ガスセンター(イワタニ福島郡山支店の敷地内)付近 
(写真はGoogleMapから引用)
(10) 埼玉県桶川市の中野酸工(株)桶川工場 
■ 埼玉県桶川市のプロパン販売の中野酸工(株)桶川工場では、河川の増水によってプロパンガスボンベが流出した。事業所敷地外に流出したボンベは概ね回収済みで、10月15日(火)午後5時時点で約20本が未回収である。 
■ 10月17日(木)午後5時時点で未回収は16本である。流出したボンベは不燃性の冷媒ガスを詰めていたボンベであり、中身は全て空の状態のため、危険性は低い。引き続き、事業者が回収作業を実施中である。
          埼玉県桶川市の中野酸工桶川工場付近  (写真はGoogleMapから引用)
(11) 静岡県静岡市清水区の(株)Jーオイルミルズ静岡工場 
 ■ 静岡市清水区にある(株)Jーオイルミルズの静岡工場では、台風19号による高潮の影響で浸水する被害があり、台風が通過した10月14日(月)に農薬を保管していた保管庫の扉が壊れ、病害虫駆除に用いる指定特定毒物のリン化アルミニウム剤(製品名フミトキシン)の入ったアルミ製のボトル4本(1kg)がなくなっているのを職員が見つけた。アルミ製のボトルには粒状のリン化アルミニウム剤が入っている。
■ リン化アルミニウム入ったボトルのうち1本は工場の敷地内で見つかっていて、残る3本を引き続き探している。リン化アルミニウムは毒物に指定されていて、穀物を保管する際に病害虫の発生を防ぐため、ガス状にして使うという。
■ Jーオイルミルズによると、農薬が入ったボトルは頑丈で、開けるには専用の道具が必要なため、中身が漏れ出す可能性は低いとしていますが、農薬を直接口に入れたり、空気中の水分と反応して発生したガスを大量に吸い込むと、死に至る危険性があるという。このため、ボトルを見つけた場合は、絶対に手を触れずに、最寄りの警察か、会社に連絡するよう呼びかけている。
           静岡市のJーオイルミルズ静岡工場付近  (写真はGoogleMapから引用)
リン化アルミニウム剤の入ったボトル(商品名;フミトキシン)  
(写真はJ-oil.comから引用)
(12) 各地の消費者宅・LPガス容器
■ 岩手県、福島県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、長野県、山梨県において河川の氾濫等により消費者宅のLPガス容器が計73本流されていたことが分かった。
■ LPガス事業者等が水が引いた箇所から順に被害状況を確認していた。流されていた容器のうち32本は回収された。未回収の41本の容器についてき事業者が回収作業を実施している。

被 害
■ 流出による人身災害は無かった。
■ 流出による経済的な損失は不明である。
■ 流出による環境への影響は不明である。

< 事故の原因 >
■ 台風19号の暴風、豪雨、高潮の自然災害による。
 ただし、個々の案件については事前の対応策や回避策があったと思われる。

< 対 応 >
■ 経済産業省は、省関連の被害状況を把握し、その状況を「令和元年台風第19号による被害・対応状況について」と題して10月12日(土)~19日(土)まで順次ウェブサイトに公表した。
■ 福島県郡山市は㈱エム・ティ・アイのシアン化ナトリウムの流出事故について調査し、対応状況を「台風19号を原因とする浸水被害に伴う毒物の流出事故について」と題してウェブサイトで公表した。

補 足
■ JXTGエネルギー横浜製造所の油漏洩は、「浮き屋根式タンク」の浮き屋根上とタンク周辺側溝に油混じりの雨水が10リットル程度あったという。 JXTGエネルギー横浜製造所は主に潤滑油の製造を行っており、この種のプラントでは、通常、浮き屋根式タンクを使うことはない。潤滑油のほかにエンジンテスト用の特殊燃料油などを作っているので、このプラントで使っている浮き屋根式タンクだと思われる。しかし、今回の報告だけだと、事象の状況は分からない。

 台風や豪雨がきっかけで浮き屋根式タンクの浮き屋根沈没事故としては、つぎのような事例がある。

 ハリケーンや豪雨によってタンクから油が流出した事故としては、つぎのような事例がある。

所 感
■ 台風19号では多量漏洩の事故は無かったが、暴風、豪雨、洪水、大潮という自然災害の要因に加え、神奈川県、宮城県、福島県、長野県、静岡県、埼玉県と広範囲のエリアで起こったことが特徴である。また、台風19号の甚大な被災状況の陰に隠れて、2・3の事例を除き、報道機関による報道は無かった。この点は、内容の分かりにくさを除けば、公的な機関の情報公開に果たした役割は大きい。

■ 事故原因は、台風19号の暴風、大雨、洪水、高潮の自然災害による故意の過失である。しかし、自然災害だから仕方が無かったと判断すべきではない。個々の案件をみていくと、事前の対応策や回避策があったと思われる。過去の事例では、ハリケーンによる油流出事故が起こっている。以前であれば、日本の台風よりはるかに強いハリケーンの所為にされていたが、今は状況が変わってきている。日本の会社では、従来から台風対策がとられていた。しかし、日本のどこでも台風19号クラスの台風が襲来する可能性がある。従来の台風対策の前提条件を見直すべき時期が来たことを示す台風19号だった。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Meti.go.jp,  令和元年台風第19号による被害・対応状況について(10月13~19日),  October 17,  2019
   ・Nhk.or.jp,  浸水した工場から毒物流出,  October 17,  2019
    ・Fnn.jp, 台風の影響でメッキ工場から毒物(シアン化ナトリウム)が流出 周辺住民に呼びかけ〈福島県郡山市〉,  October 17,  2019
    ・City.koriyama.lg.jp , 台風19号を原因とする浸水被害に伴う毒物の流出事故について,  October 17,  2019
    ・This.kiji.is, 基準超え濃度「未検出」 郡山の工場・毒物流出、健康被害なし,  October 18,  2019
    ・Quick-news.site, 郡山市メッキ工場で猛毒流出!危険性が?場所や地図は?,  October 17,  2019
   ・Shiritailabo.com , エムティーアイ(福島郡山)の場所や青酸ソーダ流出の避難エリアや被害状況は?,  October 18,  2019
   ・Nhk.or.com , 静岡の工場から農薬入りボトル流出台風19号の高潮の影響,  October 17,  2019
   ・J-oil.com , 当社静岡事業所における台風 19 号による農薬遺失に関するお詫びとお知らせ,  October 17,  2019
   ・Inpex.co.jp, 台風 19 号の影響について(お知らせ),  October 13,  2019


後 記: 台風19号による被災状況が連日報道されています。各地で洪水が起こり、2019年8月の「佐賀県の大雨洪水で工場浸水して熱処理用の焼入油が流出」のような事例が起こっていないかと思って調べ始めました。大きな流出事例は無かったのですが、各地で暴風、大雨、洪水、高潮による事故が起こっていました。 2010年7月に起きた「パキスタン洪水に伴う油流出による環境汚染」は2017年10月に本ブログに掲載したのですが、それは「このようにいろいろな災害や事故が起こると、驚くことがなく、物事に関する感性が鈍ってくるように感じています。その意味で初心に帰る事例として紹介することとしました」とその時の後記で述べました。パキスタン洪水の被災写真はまだどこか異国の事象だという気持ちがありましたが、台風19号で起こっている洪水の写真を見るとパキスタン洪水と変わりません。そういえば、千葉県で多くの屋根瓦を飛ばした台風15号と台風19号を比較した写真が報道されていましたね。
(写真はWeathernews.jpから引用)   


2019年10月16日水曜日

ルイジアナ州ミシシッピー川沿いの製油所で油漏洩、野鳥に被害

 今回は、2019年10月2日(水)、ルイジアナ州プラークミンズ教区ベルチャスのフィリップ66社のミシシッピ川沿いにあるアライアンス製油所において油漏洩があり、雨水排水系の雨水貯留池や湿地に来た野鳥が被害を受けた事故を紹介します。
    油漏洩のあった製油所 2010年撮影、手前が雨水貯留池と湿地)
(写真はBloximages.newyork1.vip.townnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ルイジアナ州(Louisiana)プラークミンズ教区Plaquemines Parish)ベルチャス(Belle Chasse)にあるフィリップ66社(Phillips 66)のアライアンス製油所(Alliance Refinery)である。製油所の精製能力は 253,600バレル/日である。製油所は、ニューオリンズ(New Orleans)から南へ約25マイル(40km)のところにあり、ミシシッピ川沿いにある。

■ 発災のあった製油所は、ニューオリンズ(New Orleans)から南へ約25マイル(40km)のところにあり、精製能力が 253,600バレル/日で、ミシシッピ川沿いにある。
     ルイジアナ州ニューオリンズの周辺(矢印が発災場所)  (写真はGoogleMapから引用)
          フィリップ66社アライアンス製油所付近左が北側)  写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年10月2日(水)、アライアンス製油所で油漏洩の事故が起こった。漏洩は製油所にあるパイプラインから漏れたもので、漏洩量は50,000ガロン(189,000リットル=189KL)とみられている。油の大半は製油所の雨水排水系の雨水貯留池と湿地へ流れ込み、構外への流出はなく、封じ込まれた。

■ 油漏洩に伴い、クリーンアップ作業が実施されている。

■ 発災に伴う負傷者は無かった。

■ 当初、ミシシッピ川周辺の野生生物への被害は報告されておらず、製油所は野生動物への影響が無いよう州の野生生物当局者と協力して進めているといっていた。

被 害
■ 漏洩によって50,000ガロン(189,000リットル=189KL) の油が喪失した。(一部は回収)

■ 漏洩事故による人的被害は無かった。しかし、油の漏洩したエリアに入ってきた野鳥が被害を受け、少なくとも3羽が死んだ。  

< 事故の原因 >
■ 油漏洩はパイプラインから漏れたものであるが、漏れの原因は発表されていない。

< 対 応 >
■ 製油所は10月3日(木)の朝までにパイプラインの漏洩箇所を特定し、油漏洩対策を施した。

■ 10月8日(火)、ルイジアナ州油流出調整官事務所は、漏洩した油のほとんどは回収されたと発表した。油漏洩による製油所外への流出はなかった。 

■ 10月10日(木)、漏洩した油にさらされている鳥が約20~30羽いることが分かった。被害にあったのは野生のアヒルやシギチドリで、原油が付着し、少なくとも3羽が死んだという。油付着のひどい3羽はリハビリテーションを受けている。

■ 野生生物当局者は、ほかの鳥が汚染地区に降り立たないよう 鳥おどしの“スケア・キャノン”(Scare Cannon)を発射するようにしている。

< 対 応 >
■ 製油所は10月3日(木)の朝までにパイプラインの漏洩箇所を特定し、油漏洩対策を施した。

■ 10月8日(火)、ルイジアナ州油流出調整官事務所は、漏洩した油のほとんどは回収されたと発表した。油漏洩による製油所外への流出はなかった。 
鳥おどしの“スケア・キャノン”(LPG使用)の例
(写真はReedjoseph.com から引用)

■ 10月10日(木)、漏洩した油にさらされている鳥が約20~30羽いることが分かった。被害にあったのは野生のアヒルやシギチドリで、原油が付着し、少なくとも3羽が死んだという。油付着のひどい3羽はリハビリテーションを受けている。 

■ 野生生物当局者は、ほかの鳥が汚染地区に降り立たないよう 鳥おどしの“スケア・キャノン”(Scare Cannon)を発射するようにしている。

補 足
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国南部に位置し、メキシコ湾の面した人口約466万人の州である。州の土地の多くはミシシッピ川を流下する堆積物から形成し、豊かな生物が暮らしている。
「プラークミンズ教区」(Plaquemines Parish)は、ルイジアナ州の東にあり、メキシコ湾に面した人口約23,500人の教区(郡)である。
「ベルチャス」(Belle Chasse)は、ミシシッピ川西岸にあり、人口約13,000人でプラークミンズ教区で最大の町である。

■ 「フィリップ66社」(Phillips 66)は、米国テキサス州ヒューストンに本社を置く石油精製と販売に従事する石油企業で、2012年にコノコフィリップスより分離独立した。国内に14箇所の製油所を保有している。
 「アライアンス製油所」(Alliance Refinery)は、 1971年、2,400エーカー(970万㎡)の土地に建設された。ミシシッピ川沿いにあり、主に軽質で低硫黄の原油を処理している。アライアンス製油所の精製能力は253,600バレル/日で、 1系列の製油所で流動接触分解装置、アルキレーション装置、コーキング装置、水素化脱硫装置などの装置を保有しており、従業員は850名である。
 アライアンス製油所の雨水貯留池付近の公道 (写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
 フィリップ66社アライアンス製油所では、次のような事例がある。

所 感
■ 油漏洩の原因はパイプラインからの漏れとみられるが、パイプラインの漏れ原因は分かっていない。 漏洩量は50,000ガロン(189,000リットル=189KL)というので、結構な量であり、パイプラインのピンホール漏れやフランジ漏れのレベルではない。開口または割れによる漏洩だと思われる。
 フィリップ66社アライアンス製油所では、2012年9月に「米国ルイジアナ州の製油所でハリケーン襲来後に油漏出」の事故が起こっている。同事故については歯切れの悪い見解だったが、今回の事故についても多くを語っておらず、会社の隠蔽体質(情報隠し)は変わっていないように感じる。

■ ルイジアナ州の石油会社が情報公開に関して無関心な訳ではない。ルイジアナ州南部の火災と安全に関して責任のある人たちが、相互応援コミュニティーをいかに強化するかについて話し合い、 “ハイアード・ガン・ギャング”(Hired Gun Gang)というグループを1987年に結成させている。この経緯については「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」( 2016年3月)を参照。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Nola.com,  Oil leak reported at Belle Chasse refinery; more than 50,000 gallons spilled, contained,  October 08,  2019
   ・Nola.com, Dozens of birds exposed to oil after refinery leak near Belle Chasse; three have died,  October 10,  2019


後 記: 製油所の油漏洩という情報を知り、インターネットを調べましたが、今回の事故を伝えたのは、野生生物保護に積極的な一社のみでした。 ルイジアナ州では、人口が少なく、住民に関係のない企業内での事故については興味がなく、関心も薄いのでしょうか。ルイジアナ州は2005年のハリケーン・カトリーナなど何度も大型のハリケーンに襲われたため、移転する州民が多く、他の州に比べて人口が伸び悩む傾向にあるといいます。さらに余談ですが、ベルチャスはプラックマイン教区にありますが、他の州では教区(Parish)でなく郡(County)という言い方を使っており、今もParishという言葉使っているのはルイジアナ州だけだといいます。関係ありませんが、「ルイジアナ・ママ」という歌が1960年代にヒットしましたね。


2019年10月9日水曜日

フランスで潤滑剤の貯蔵施設を巻き込む工場火災

 今回は、2019年9月26日(木)、フランスのセーヌ・マリティム県ルーアンにあるルーブリゾール社の工場やSCMT社の倉庫がある工場地域で起こった火災事故を紹介します。
                  ルーアンの工場地域の火災と撮影するドローン  写真はActu.fr から引用)
 < 施設の概要 >
■ 事故があったのは、フランス(France)セーヌ・マリティム県(Seine-Maritime)ルーアン(Rouen)にある工場地域である。

■ 発災があったのは、工場地域にある化学会社のルーブリゾール社(Lubrizol)と倉庫・輸送業のSCMT社(Societe Commerciale De Magasinage et de Transports)である。ルーブリゾール社は工業用潤滑剤や燃料添加剤のメーカーで、ルーアンの化学工場にはプラントのほか工業用潤滑剤と燃料添加剤の倉庫がある。
                                   ルーアン市内周辺(矢印が発災場所) (写真GoogleMapから引用)
                  ルーブリゾール社の化学工場周辺 (写真GoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年9月26日(木)午前2時40分頃、ルーブリゾール社ルーアン工場とSCMT社の倉庫が火災になった。ルーアン工場には、プラントのほかドラム缶や貯蔵倉庫などがあった。
(写真はScd.en.rfi.frから引用)
■ 火災は何度も爆発を伴うものだった。
 (ユーチューブを参照。 YouTube「Explosionsheard as huge fire erupts at French chemical plant」

■ 発災に伴い、130名の消防士が出動し、消火活動に当たった。
(写真はTheguardian.comから引用)
■ ルーアンに住む男性は、「夜中に大きな爆発音が聞こえたが、暴風だと思って慌てたりはしなかった。しかし、午前6時半に起床してニュースを聞き、それ以降は屋内に閉じこもっている」と語った。「火は燃え続けていて厚い煙の雲が消えない。屋外は吐き気や肺の不快感を生じさせる強烈な臭いがする」という

■ 近隣の13地区で学校や保育所などが休校となり、警察は工場近くの住民に対して移動を制限するよう呼びかけた。工場からは黒煙が立ち上り、道路や車に油の残留物が付着しているという住民の苦情が相次いだ。消火水が溢れたら、付近を流れるセーヌ川に汚染物質が流れ込む恐れがあるという。

■ 消防当局は26日(木)正午前、「火は鎮圧されているものの、鎮火には至っていない」と発表し、消防当局トップは、「爆発する可能性があり、ドミノ火災となり得るため工場内で最もリスクの高い部分を守ることを最優先した」と話している。

■ ルーアンに加え周辺にある12の町の住民は、屋内に留まるよう求められたが、この地域にある学校は月曜まで休校になった。工場近くに住む人たちは9月26日(木)の夜には帰宅することができた。

■ 火災は9月27日(金)の朝までに消されたが、消防士は現場にとどまり、残ったホットスポットを監視した。完全な鎮火には数日かかる可能性があるという。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。しかし、火災に関連して気分が悪くなったりして病院を訪れた人は224人いたという。

■ 9月27日(金)、フランス保健相は、住民らに対する健康上のリスクがないと保証することはできないと述べた。地元当局によると、27日までに鎮火され、火災によるけが人は出ていないが、刺激臭のある黒煙が周辺の22km圏内に広がった。市内では学校が2日連続で休校となったほか、27日もマスクをして歩く人々の姿が多く見られた。

■ 火災は24時間以上燃え続け、刺激的な黒煙が現場から約22km先まで広がった。県は、この地方の作物の収穫と農産物の販売を禁止する処置をとった。ある農家は、発災以降、大量の牛乳を廃棄せざるを得なかった。また、火災から出た油混じりのススで畑が汚染されていた。県は損失を補償することを約束した。
                             いろいろなところについた油跡   (写真Uvelordremonondial.ccから引用)
■ 消火水は堰を溢れることがなかったので、懸念されていたセーヌ川の汚染は回避された
■ 火災の状況はインターネットの動画で流されており、そのひとつ(ユーチューブ)を紹介する。

被 害
■ 工場地域の倉庫など約30,000㎡が火災で焼失した。

■ ルーブリゾール社では、化学物質、石油、燃料添加剤など5,250トン以上の製品が焼失した。SCMT社では、保管されていた8種の製品が火災で焼失した

■ 発災に伴う負傷者はいなかったが、工場からは黒煙で道路や車に油の残留物が付着したという住民の苦情が相次いだ。火災に関連して気分が悪くなったりして病院を訪れた人は224人いた

■ 県は、この地方の作物の収穫と農産物の販売を禁止する処置をとり、畑や牧畜で出た被害について損失を補償することを約束した。  

< 事故の原因 >
■ 原因は調査中で、分かっていない。
 監視ビデオなどによって、火災はルーアン工場の構外で始まり、拡大したとみられるとルーブリゾール社は語っているが、火元についても確定されていない。
 (写真Newstatesman.comから引用)
(写真はLimnews.comから引用)
写真Nouvelordremondial.ccから引用)
 (写真Letelegramme.frから引用)
< 対 応 >
■ 火災事故についてセーヌマリティム県がPPI(特定の介入計画)を実施する判断をし、コミュニティへのすべての決定とコミュニケーションは県とその技術評議会によって管理されることとなった。

■  9月26日(木)から事故調査が進められており、ルーブリゾール社はPPI (特定の介入計画) を尊重し、対応している。監視ビデオと目撃者の証言によれば、火災はルーアン工場の構外で始まっているとみられ、ルーアン工場に拡大したとみられるとルーブリゾール社は語っている。

■ ルーブリゾール社の製品はノルマンディー・ロジスティック社(Normandie Logistique)の倉庫で管理されていた。倉庫はアスベスト材を使用した屋根の下に大量の化学物質を保管していたため、アスベスト汚染の問題が懸念された。

■ 9月30日(月)になっても町に炭化水素の強い臭いが漂っているにもかかわらず、地元当局は普通に生活して働くことができるという声明を出したが、住民の多くは不安を解消することはできなかった。県は、試験結果、大気や水道中に有害な毒素は認められないと述べた。黒いススを除去するクリーニングが行われ、学校は再開したが、こどもたちが頭痛に苦しんでおり、先生の一部は仕事に戻ることを拒否した。

■ 10月1日(火)、ルーブリゾール社の火災で5,250トン以上の化学物質、石油、燃料添加剤があったと県は発表した。3,300トン以上の多目的添加剤、711トンの粘度増進剤、および分散剤、不凍液、減摩添加剤などのケミカル類が数十トンだという。

■ 火災発生以来、政府は住民や環境団体から批判を受けており、10月2日(水)、労働組合、農民、住民は、化学工場の火災による人の健康や環境への影響に関するデータをすべて開示するよう政府に要求した。

■ 10月2日(水)、フランスの首相は燃焼した物質のリストを公開することを議会に告げた。以前、首相はルーアンの住民に長引く臭いは「迷惑」であるが、危険ではないと言っていたが、国家による透明性を約束した。ルーアンの火災に関する政府の公式見解に対する不信感は、パリのノートルダム大聖堂の火災による鉛中毒などの健康リスクに関する懸念に続いている。

■ 10月2日(水)、火災後に採取されたサンプルの分析を担当する国立産業環境リスク研究所の所長は、火災がダイオキシンの放出につながった可能性があると話した。ただし、現在の分析では、ほとんどの農産物がダイオキシンを放出する可能性は低いと付け加えた。

■ ルーアンの工場地域の敷地面積は135,000㎡であったが、火災で被災したのは約30,000㎡であることがわかった。被災画像を発災以前のグーグルマップと比較すると、被災敷地にある4つの倉庫が火災で完全または部分的に焼失している。このうち2つはルーブリゾール社の製品を保管するノルマンディー・ロジスティック社の所有する倉庫であるが、あとの2つはSCMT社の建物である。
                被災画像と発災以前のグーグルマップとの比較  写真Flourish.studioから引用)
■ 104日(金)、 SCMT社で保管されていた8種の製品が火災で燃え、うち6種は危険物ではないが、2種は粘度向上剤で健康や環境への影響の問題になることが指摘された。
写真Youubu.comから引用)
写真Leparisien.frから引用) 
補 足 
■ 「フランス」(France)は、正式にはフランス共和国で、西ヨーロッパにある人口約6,280万人の共和制国家である。
 「セーヌ・マリティム県」 (Seine-Maritime)は、フランス北部のノルマンディ地域圏にあり、人口約125万人の県である。
 「ルーアン」(Rouen)は、セーヌ・マリティム県の中部にある県庁所在地で、人口約112,000人の都市である。

■ 「ルーブリゾール社」(Lubrizol Corp)は、オハイオ州ウィクリフに本社を置く潤滑油メーカーで、潤滑剤、燃料添加剤、化成品などを開発・販売している。2011年に米国の億万長者のウォーレン・バフェットの投資会社バークシャー・ハサウェイ社に買収された。
 ルーアン工場は、「ルーブリゾール・フランス」の本社工場で、1954年に操業され、潤滑剤および塗料用添加剤の製造をしている。なお、2019年9月3日(火)午後4時頃、ル・アブールにある工場の添加剤製造ユニットのろ過室で火災事故が起こっている。

■ 「火災エリア」を被災写真とグーグルマップをつき合わせて調べてみた。(図を参照) そうすると、ルーブリゾール社ルーアン工場のプラント部の東端は火災を受けているが、プラントの大部分の施設は火災を受けていない。火災の被害はルーブリゾール社(ノルマンディー・ロジスティック社)の倉庫のほか、SCMT社の倉庫が受けている。グーグルマップでは会社名が記載されているが、報道情報をつなぎ合わせると、図中の「L(N)」がルーブリゾール社(ノルマンディー・ロジスティック社)の倉庫、「S」がSCMT社の倉庫と思われる。
                            火災エリア(黄色の枠写真GoogleMapから引用)
所 感 
■ 事故は、真夜中(午前2時40分頃)に人のいない倉庫で起こっており、電気に関連する火災ではないだろうか。あるいは、日中は忙しく人が動いている倉庫のようなので、不十分な後始末が影響しているかもしれない。

■ 5,000KL級石油貯蔵タンク火災と比べると、ドラム缶(ペール缶)などの火災は消火活動が厄介だと感じる。一連の爆発が続き、倉庫内の危険物の内容物を十分把握できていない状況の上、倉庫の隣が潤滑剤プラントで、プラントへの延焼を食い止める必要があり、冷却作業と並行して消火戦略を進めることは難しかったに違いない。火災は南からの風が強く、炎が北上して進んでいったように思う。

■ 今回の厄介だった点のひとつは火災後の始末である。貯蔵タンクの石油製品の火災でも、石油は完全燃焼せず、10%は未燃のまま飛散していく。今回の場合、火災写真のいずれのときも黒煙がひどく、多くの未燃分が飛散していったことは容易に想像がつく。これら未燃分の臭いがきつく、ひとつの市や県のレベルを越え、政府を巻き込む健康や環境の問題になってしまった印象である。 


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Afpbb.com,  フランスの化学工場で火災、セーヌ川に汚染物質流出の恐れ,  September  27,  2019
    ・Euronews.com, Black smoke unleashed by fire at French chemicals factory 'not toxic’,  September  27,  2019
    ・Newscenter.lubrizol.com, Press Release:Rouen, France Fire Update,  September  30,  2019
    ・Afpbb.com, 化学工場火災、健康上のリスク否定できず 保健相,  September  28,  2019
    ・Cnn.co.jp, 化学工場で大規模火災 巨大な黒煙と悪臭、住民は外出控え フランス,  September  27,  2019
    ・Japantimes.co.jp, Fallout from French chemical plant fire prompts ban on local agricultural output,  September  30,  2019
    ・Theguardian.com, French voice health fears after Rouen chemical plant fire, October 02,  2019
    ・France24.com, Potential dioxin emissions from Rouen chemical plant fire raises concerns, October 03,  2019
    ・Reuters.com, Over 5,250 tonnes of chemicals burned in Rouen, France, industrial fire, October 02,  2019
    ・Bbc.com, Rouen chemical factory fire 'leaves our children in danger‘, October 02,  2019
    ・Lci.fr,  Lubrizol: 224 passages aux urgences, dont huit hospitalisations, October 04,  2019
   ・Usinenouvelle.com, L'incendie de l'usine Lubrizol à Rouen soulève des inquiétudes pour l'environnement,  September  27,  2019
   ・Francetvinfo.fr, Incendie à Rouen : des produits dangereux ont-ils aussi brûlé dans une entreprise voisine de Lubrizol ? , October 04,  2019



後 記: 今回の火災事故は大きなニュースとなり、日本でも取り上げられたので、石油貯蔵倉庫の事故として調べることとしました。ルーブリゾール社は日本国内にも販売されている著名な会社で、どのような経緯で火災になったのだろうかと思いました。初めはプラントのある化学工場だったので、プラント全体が火災になり、大きな問題になってしまったのかと感じました。火元はルーブリゾール社ではないような発表があり、「発災施設」をどのような表現にしたらよいかと考えました。しかし、火災写真とグーグルマップを見比べていくと、意外にもプラントの大部分は火災に遭っていなかったのです。

 ここから調べなおしていくと、同様のことを記事にしていることが分かり、ブログは初めから推敲し直しが必要でした。発災から10日以上経っても火元が特定できたという報道はなく、さらに被災を受けた別な倉庫にも問題になる製品があったようだというのです。さらに、ルーブリゾール社はノルマンディー・ロジスティック社に製品の管理・輸送を任せていたということで、思い込みはいけないとしながらも、だんだんと訳が分からなくなっていきました。ということで、現時点で分かっている事実(らしいこと)でまとめることとしました。ルーブリゾール社が火元ではないというようなことを発表したのは、ノルマンディー・ロジスティック社(の倉庫)を同列とは考えていないのではないかと感じていますが、ブログでは触れませんでした。