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2021年5月31日月曜日

米国マサチューセッツ州ボストンの糖蜜タンク崩壊(1919年)

 今回は、1919115日(水)、米国マサチューセッツ州ボストンにあった米国工業用アルコール社の施設内にあった糖蜜用の貯蔵タンクが崩壊し、21名の死者を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国マサチューセッツ州(Massachusetts)ボストン(Boston)のノースエンド(North End)にあった米国工業用アルコール社(United States Industrial Alcohol  USIA)の施設で、操業はピュリティ・ディスティリング社(Purity Distilling Company)が行っていた。

■ 事故があったのは、施設内にあった糖蜜用の貯蔵タンクである。タンクは、1915年にボストンのウォーターフロントに沿いに建設されたリベット接合式タンクで、直径90フィート(27m×高さ50フィート(15メートル)、容量250万ガロン(9,500KL)で、発災時は200万ガロン(8,000KL)の糖蜜が入っていた。

■ 当時、工業用アルコールは糖蜜を発酵させて作られており、用途として第一次世界大戦(19141918年)の軍需品や兵器を製造するのに使用され、非常に利益をもたらしていた。糖蜜はキューバ、プエルトリコ、西インド諸島から運ばれ、タンクに貯蔵され、イースト・ケンブリッジの蒸留所で工業用アルコールに変えられた。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 1919115日(水)午後1230分頃、貯蔵タンクが、突然、崩壊し、200万ガロン(8,000KL)の糖蜜が一気に周囲に流出し、甘い香りで粘りのある糖蜜が大洪水を起こした。

■ 報告によると、高さ1540フィート(512m)、幅約160フィート(49m)の波が時速約35マイル(56 km/h)で移動し、ふたつの街区を襲い、建屋を破壊し、ボストン高架鉄道の鋼桁を壊して鉄道車両に損傷を与えた。

■ 目撃者によると、タンクが崩壊したとき、地面の揺れを感じ、轟音を聞いたという。また、タンクから接合部のリベットが飛び出し、機関銃の弾丸のように近所を襲ったという。

■ 事故に伴う糖蜜の流出によって死傷者が発生した。救助隊はすぐに到着したが、糖蜜が硬化し始め、救助活動は困難を極めた。結局、21人が死亡し、その多くは糖蜜による窒息死で、そのほか約150人が負傷した。さらに、数頭の馬が粘着性のハエ取り紙に捕まったハエのように死んだ。

被 害

■ 容量250万ガロン(9,500KL)の貯蔵タンクが崩壊し、周辺の施設や建物を破壊した。タンク内に入っていた200万ガロン(8,000KL)の糖蜜が流出した。

■ 事故に伴って、10歳から78歳までの21人が死亡し、約150人が負傷した。

■ 亡くなった男性、女性、子どもたちは、粘り気があって茶色の糖液のシロップの津波によって窒息死し、サフォーク郡の医療検査官は「重油の皮で覆われているように見え、目や耳、口や鼻が詰まっていた」と証言している。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因はいろいろ調査され、断定には至らないが、つぎのような複数の要因が関与していたとみられる。

 ● タンクは急いで建設され、十分に試験されていなかった。建設時、タンクは満水による水張検査をせず、6インチ(15cm)の水を入れただけだった。タンクに糖蜜を入れるたびに異音がしていたという危険な兆候を無視していた。

 ● 事故の7日前、50万ガロン(1,900KL)以上の糖蜜がタンクに荷揚げされた。船からの温かい糖蜜がタンク内の冷たい糖蜜と混ざり合い、発酵プロセスが起きた。タンク内で起こった発酵により二酸化炭素が発生し、タンクの内圧が上昇した。この時期の通常の気温は-17℃であるが、事故前日には5℃に上昇しており、気温の上昇が内圧の増加を助長した。

 ● タンク基礎の近くのマンホールの蓋のところから破損が発生しており、材料の劣化による亀裂が致命的な段階にまで成長した。リベットの設計に欠陥があったことも問題で、亀裂が最初に形成されたリベット孔に大きな応力がかかっていた。

 ● 2014年に現代の工学技術による調査が行われ、側板の板厚は下部の0.67インチ(17mm)から上部の0.31インチ(7.8mm)までの範囲で、タンクの大きさに対して決められた厚さの半分しかなく、満杯の糖蜜を保持するには薄すぎたかったことが判明した。また、当時は認識されていなかったが、鋼材にマンガンが含まれておらず、それによって余計に脆くなっていたとみられる。

< 対 応 >

■ 被害地域の清掃には、消防艇から汲み取った海水で糖蜜を押し流し、砂を使って糖蜜を吸着させた。直接的に被害を受けた地域の清掃には数百名もの人々が参加したが、2週間を要した。このほかの浄化作業は数週間続き、ボストンはその後何年も糖蜜のような匂いがし続けたと伝えられている。糖蜜を洗い流すために汲み取った海水は数百万ガロン(19,000KL)といわれている。

■ 災害をきっかけに多くの訴訟が提起された。犠牲者は疑惑タンクが安全ではなかったと申し立てたが、米国工業用アルコール社(USIA)は、悪意をもった人間による破壊行為であると主張していた。しかし、1925年にタンクは健全では無かったと判断され、米国工業用アルコール社(USIA) は損害賠償を支払うように命じられた。(賠償金は今日の金額で約1,500万ドル=約16億円)

■ この災害事例によって全国の州において、より厳しい建設規則が採用された。  

■ 長年、糖蜜のような一見穏やかな物質がどうしてこれほど多くの死者を引き起こしたのかという疑問が投げかけられていた。2016年に、ハーバード大学の研究者たちは糖蜜の温度変化が関係しているという

研究結果を発表した。事故の起こる2日前、運搬しやすいように外気温よりも高い温度状態で糖蜜がタンクに貯蔵され、糖蜜の粘度は低い状態だった。タンクが崩壊したとき、糖蜜は街を広がっていくほどに温度が下がり、当時のボストンの冬の夕方の気温と同じくらいになるまで冷やされていくことで糖蜜の粘度は劇的に増加していった。これにより救助隊が被害者の窒息する前に救助しようという試みを妨げることになった。

■ 密度のある糖蜜を非常に高く積み上げられたタンクは、大量の位置エネルギーを蓄えていた。保持していたタンクが崩壊すると、その位置エネルギーはすべて運動エネルギーになった。糖蜜が非常に粘性であっても、慣性は粘性によって移動できる力よりもはるかに強力である。

 ハーバート大学では、タンクの縮尺模型を作成し、コーンシロップによる実験を行い、高速度カメラで撮影した。その結果、事故と同じようにコーンシロップが津波のように小さな置物を飲み込んだ。密度が水の1.5倍ある糖蜜はゆっくりしか注ぐことができない。しかい、非ニュートン流体である糖蜜が洪水のような状態では、土砂崩れ、雪崩、溶岩流のように重力流として移動し、推算結果、事故時の証言にあるように時速35マイル(56 km/h)の速さで移動した可能性があることが確認された。

■ 糖蜜流出のコンピュータによるシミュレーションがユーチューブに投稿されている。

YouTubeBoston Molasses Flood.mov2017/01/14)を参照。2分半過ぎから始まる)

補 足

■「マサチューセッツ州」(Massachusetts)は、1788年に米国で6番目の州となった。現在、人口約654万人で、事故のあった1919年には人口約378万人だった。州都および州内最大都市はボストン(Boston)である。

 マサチューセッツ州は、農業分野の発展は無かったものの、経済は1900年から1919年まで繁栄を極めた。ボストンは1900年時点で米国で2番目に重要な港であり、漁獲取扱量では一番の港であった。しかし、1908年までに市場競争によってその価値は急速に下がっていった。一つの工場が1つか2つの製品を作ることに頼っていた大規模産業に基づく経済に陰りが見え始め、外国の低賃金労働による競争の激化や、後年の世界大恐慌などの要因もからみ、マサチューセッツの製靴と繊維の2つの主要産業が衰退した。

所 感

■ 本事故は失敗学会の「失敗知識データベース」の失敗事例に掲載され、事例の知識化(教訓)について「仕事に対するあせり、詳細部分の無視など一件小さな要因が集まって、大きな予想外の事故を招くことがある」としている。当時のマサチューセッツ州の経済・社会状況を反映した事例ともいえる。

■ 米国は記録や覚書を残すことの好きな国であるが、今回の事例を調べても驚くほどいろいろな情報が残っている。不可思議な事故という印象の強い理由や背景はあろうが、100年前の事故について容易に調べることができる。この点は米国を見習うべきことだと感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Britannica.com, Great Molasses Flood, April  29, 2021

     Bostonglobe.com,  The Great Molasses Flood of 1919 was Boston’s strangest disaster,  January  09, 2019

     Ja.wikipedia.org,  ボストン糖蜜災害,  May  08, 2021

     En.wikipedia.org , Great Molasses Flood,  May  18, 2021

     Historytoday.com, A Sticky Tragedy: The Boston Molasses Disaster,  January 01, 2009

     Nbcnews.com, The Great Boston Molasses Flood of 1919 killed 21 after 2 million gallon tank erupted,  January 15, 2009

     Time.com, How the Great Molasses Flood of 1919 Made the World a Little Bit Safer,  January 14, 2019

     Boston.com, ‘Masses of wreckage’: The painstaking cleanup and tragic aftermath of Boston’s Great Molasses Flood,  January 14, 2019

     Youtube.com, The Great Boston Molasses Flood,  January 15, 2019

     Shippai.org ,  糖蜜貯蔵タンク破裂事故


後 記: 今回は、202152日に紹介した「貯蔵タンクが崩壊する原因はなにか?」の中で、「貯蔵タンクの破損で最も不名誉な事例のひとつは、100年前に米国のボストンで起こった」という記述をきっかけに調べたものです。調べてみると、100年前とは思えないほど、インターネットではいろいろな情報がありました。中には、当時の白黒写真に色付けを施したものもありました。一方、一番難儀したのが、リベット接合式タンクの写真です。グーグルで検索しても、日本はおろか米国でもリベット接合式タンクの写真や図が出てこないのです。「タンクから接合部のリベットが飛び出し、機関銃の弾丸のように近所を襲った」という記事に対してリベット接合式タンクを見たことのない人は分からないでしょう。時代が変わっていることを実感しました。 

2021年5月24日月曜日

防油堤内の配管フランジ漏れ火災に対処する方法

  今回は、“Industrial Fire World”2021414日に掲載された「制御できない圧力火災に対処する方法」(How to Deal with Uncontrolled Pressure Fires)について紹介します。

< 背 景 >

■ 「パーフェクト・ストーム」(Perfect Storm)とは、複数の悪い事が同時に起き、最悪の壊滅的な事態になることを指す言葉である。タンク火災の緊急事態において複数の悪い事象の中には、冷却水を使いすぎたり、ボルト締付け型フランジからの漏れによって生じる制御できない圧力火災が起こったりする。 この複数の悪い事象から、防油堤内の区域にあるタンクがすべて被災する結果になるかもしれない。

< タンク火災時の現場における問題 >

■ タンク火災といっても、他のいかなる火災時における緊急事態と変わりはない。最初の消火戦略は防御的戦略をとる。すなわち火災を制御し、延焼を回避することである。そのような状況を維持できれば、それから積極的戦略をとって火災を消火することができる。

■ ほとんどの消防士は、火災になったタンクやそのまわりの状況についてトンネル視、すなわち視野や思考が狭くなりやすい。 よくある衝動的行動は、火災になったタンクや隣接するタンクに対して水による冷却を始めることである。これは一見、つぎのような大きな脅威をもたらしかねないという合理的な反応であるようにみえる。

 ● 内部浮き屋根式タンクの場合、通気口から吹き出す炎の輻射熱によって別のタンクに火災が広がらないだろうか。 

 ● 防油堤内で漏れている配管フランジから噴出する圧力をもった炎が他の配管やタンクに直接衝突するかもしれない。

■ 産業消防分野の活動に携わってから40年経っているが、輻射熱だけで発火した内部浮き屋根式タンクや固定屋根式タンクは知らない。火災がタンクからタンクに広がるには、火炎が直接、タンクに衝突する必要がある。強風時でさえ、炎が直接的に衝突するには、もっとも近い隣接タンクでも十分な距離があるといえる。

■ API RP 2021Management of Atmospheric Storage Tank Fires;常圧貯蔵タンク火災の管理 )には、「直接火炎に触れているか、塗装が焦げるほどの輻射熱を受けていない限り、隣接するタンクの冷却は一般的に不要である」とし、過剰に冷却水を使うことを警告しており、われわれの経験と一致している。防油堤内に放出された冷却水は溜まっていき、その表面で燃えている燃料が他のタンクや配管に広がっていく可能性がある。

■ 従って、まず第一に重要なことは冷却放水を制限することである。 これは、他の配管を損傷させて油を供給して堤内火災に至ったり、あるいは別のタンクに火がつく原因になる直接衝突する火炎を作らないようにするためである。

■ もしも火炎衝突に冷却放水を適用した後には、圧力のかかったフランジの漏洩火災を制御し、他のタンクとおたがいに接続された他の配管を危険にさらすことがないようにしなければならない。火災が別なフランジ部やシール部に広がると、さらに多くの燃え得る油が防油堤内に流出することになる。防油堤内で火災が増えると、貯蔵タンクへの直接的な炎の衝突が増え、火災はさらに拡大していく。

■ 実際にボルト締付型フランジが漏れて、噴出し、燃えている状況の火災にどのように対応するか。通常、圧力配管の火災に対応するためのトレーニングには、テキサスAMにおける規模の大きいプロセス装置による火災訓練がある。漏洩箇所の上方で衝突しているすべての炎は、火災が広がらないことをインストラクターが確信するまで冷却される。

■ 次に、チームリーダーは漏れを遮断するためのバルブを閉止するように振る舞うが、このとき同時に訓練の燃料担当者が燃料を閉止して火が消える。これは訓練で簡単にできるかもしれないが、タンク防油堤内のボルト締付型フランジが漏れているという現実の世界では簡単にいかない。多くのタンク火災では、漏洩しているフランジ火災を制御するバルブは燃焼している中央部にあるのが一般的である。

< フランジの漏れ制御 >

■ 実際のバルブを閉止したり、漏れを止めたりしたりして、フランジ火災をできるだけ無くすめにできる有効な方策や操作はあるか?

■ 最も成功する可能性のある方法は、漏れているフランジのある配管内に膨張させた泡溶液をポンプで圧送することである。十分に膨張した泡溶液の流れがあれば、漏れている燃料を大幅に減らしたり、完全に無くすことができる。泡と水がフランジから漏れている間に、有効な防護を施した消防士またはメンテナンス・スペシャリストが漏れを止めることができる。漏れを止めるには、フランジのボルトを増締めするだけで止まることもあるし、あるいは古いボルトを1本づつ新しいボルトと交換し、取り付けられていたようにボルトを締めればよい。フランジがまだ漏れている場合は、標準的なフランジ補修用クランプを用いるのがよく、地元の製油所、発電所、石油化学プラントに問い合わせれば見つかる可能性がある。

■ ボルト締めフランジの漏れを制御する方法は、可燃性液体に関する特別な火災訓練のひとつとして実施すべきである。

■ 圧力のある配管内で泡溶液を膨張(通気)させるには、高背圧発泡器( High Back Pressure Foam Maker)が必要である。この機器は泡溶液に空気(またはエアレーション)を追加する際に必要なもので、従来、貯蔵タンクの底にポンプで送り込み、 SSI方式(液面下泡放射方式)という名で知られているタンク火災を消すための重要な機器だった。 SSI方式(液面下泡放射方式)のシステムは、古い貯蔵タンクではいまでもよく見られる。このことは、エアレーションされた泡を漏れている配管に入れるために必要な機器は、いまでも活用できることを意味している。不足しているのは、フランジ漏洩火災において高背圧発泡器を使用する方法を消防士に訓練することだけである。

■  SSI方式(液面下泡放射方式)という芸術的ともいえる方法はほとんどがお役御免になった。なぜか? タンク火災に対するSSI方式(液面下泡放射方式)の適用は水成膜泡薬剤の導入とともに1970年代にさかのぼり、これは液面下放射に耐え得る最初の消火泡薬剤だった。

< タンク火災への対応 >

■ 防油堤内の火災を制御下に置ければ、消火戦略は積極的戦略に進むことができ、タンク火災または複数タンク火災の消火活動を行うことになる。屋根が噴き飛ばされているタンクや、屋根と側板の溶接部が破断して大きな開口部があるタンクでは、泡の流量を計算し、安全率をさらに多くとり、赤い炎の上を白い泡で覆いつくすときである。

■ しかし、内部浮き屋根式タンクで外側の屋根が開口していない場合、タンク内に泡を入れる別の方法を見つける必要がある。防油堤内火災が制御されていても、内部浮き屋根式タンクが6日間もベント部で燃え続けたのを見たことがある。このとき、タンク内に泡やドライケミカルを入れる方法を試みる時間は十分にあった。

■ 最も有効だった方法のひとつは、消火に必要な泡の流量を計算し、泡をタンク内の液面下にポンプで送り、泡のホースと接続した自作のパイプをクレーンで吊り上げ、パイプの開放端を屋根上部の開口部に挿入することである。あるいはタンク径の周りにある通気口のいくつかに泡を強制的に放射するストレート・チップ型の地上用モニターを配置したことである。場合によっては、これらの方法を同時に使ってタンクを消火したこともあった。

■ 原油が燃えるタンク火災については明らかに注意しなければならない。ボイルオーバーに至った内部浮き屋根式タンク火災のケースが2件あった。 1件はベント部で7日間燃えていたが、突然、噴出した事例である。もう1件は、 SSI方式(液面下泡放射方式)で泡を注入する前に何時間も燃えていた原油タンクでボイルオーバーが発生した事例である。

■ 熱を克服するのに十分な水分をとるのは簡単であるが、貯蔵タンクの消火活動ははるかに複雑である。地上で生じた圧力のある火災をすばやく解決することで、1つの小さな事象によって大きな防油堤内火災となり、複数のタンク火災に変わるのを防ぐことができる。これが教え始める必要のある教訓である。

所 感

■「フランジの漏れを制御する方法は、漏れているフランジのある配管内に膨張させた泡溶液をポンプで圧送することである。膨張した泡溶液の流れがあれば、漏れている燃料を大幅に減らしたり、完全に無くすことができる」という対応策は初めて聞いた。 このため、SSI方式(液面下泡放射方式)の高背圧発泡器を活用するという経験からの話は興味深い。

■ 一方、「泡と水がフランジから漏れている間に、有効な防護を施した消防士またはメンテナンス・スペシャリストが漏れを止めることができる」という対応は、日米の消火戦術の違いを感じる。米国では、発災があっている防油堤内に人が入っていくが、日本では、通常、堤内に人が入ることを嫌う。嫌う理由は定かでないが、事故事例の体験やテキサスAMなどでの火災訓練による違いだと思う。

■「多くのタンク火災では、漏洩しているフランジ火災を制御するバルブは燃焼している中央部にあるのが一般的である」と話されているが、日本では防油堤内にポンプや孤立用手動バルブを設置しないという考え方があり、昔からの設備を除けば、通常では考えられないことであろう。しかし、タンク内の自動水切り装置や配管などを考えれば、まったく無いとはいえない。

■「原油が燃えるタンク火災については明らかに注意しなければならない。ボイルオーバーに至った内部浮き屋根式タンク火災のケースが2件あった」といい、これまで聞いたことのない事例であり、詳しい経緯を聞きたいと思うような資料である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, How to Deal with Uncontrolled Pressure Fires,  April 14, 2021 


後 記: 今年にはいってから貯蔵タンクの事故情報を紹介したのは2件だけです。新型コロナウイルスによる影響だと感じます。それで、今回も「Industrial Fire World」からの情報を紹介することとしました。しかし、この英文資料は最初に「パーフェクト・ストーム」(Perfect Storm)という言葉が出てきて難儀しました。調べると「パーフェクト・ストーム」とは2000年に製作された映画の題名でした。いまでは、複数の悪い事が同時に起き、最悪の壊滅的な事態になることを意味するそうです。このように技術資料では見ない言葉や表現が使われており、その典型は「put the white stuff on the red stuff」という文がありました。「stuff」は物質や材料を言いますが、直訳すれば、「赤いものの上に白いものを置く」で何を意味するのか見当がつきませんでした。いろいろ考えて「赤い炎の上を白い泡で覆いつくす」としましたが、文意からまるっきり違っていることはないでしょう。

2021年5月12日水曜日

米国東海岸に石油を供給するコロニアルパイプラインにサイバー攻撃(身代金払う)

  今回は、202157日(金)、米国メキシコ湾岸のテキサス州ヒューストンから北東部のニューヨーク湾まで石油製品を運ぶコロニアル・パイプラインがサイバー攻撃を受け、操業を停止した事故を紹介しましたが、ハッカーからの身代金要求に対してコロニアル社は500万ドルを支払っていたことが分かったので追記しました。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ジョージア州(Georgia)アルファレッタ(Alpharetta)に本拠をおくコロニアル社の石油パイプライン施設である。

■ 事故があったのは、 石油製品をメキシコ湾岸のテキサス州ヒューストンから北東部のニューヨーク湾まで運ぶ長さ約8,800kmのコロニアル・パイプライン(Colonial Pipeline)である。コロニアル・パイプラインは、1250万バレル(40KL)の燃料を輸送しており、東海岸で消費されるガソリン、ジェット燃料、ディーゼル燃料の45%を占めている。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202157日(金)、米国国内最大の石油パイプラインであるコロニアル・パイプラインがサイバー攻撃を受け、同日から操業を停止した。

■ 58日(土)、コロニアル・パイプラインはランサムウェア(身代金ウイルス)によるサイバー攻撃があったと発表した。57日(金)に発覚して一部のシステムを落としたため、全パイプラインの稼働が停止した。サイバー攻撃の調査を外部企業に依頼するとともに、連邦捜査当局などに通報した。

■ 米国運輸省はこの問題を受け、59日(日)、石油の路上輸送の時間制限を緩和する措置を発表した。18の州・地区に対し、ガソリン、ディーゼル燃料、ジェット燃料など石油製品の陸上輸送について時間制限を緩和した。対象は、アラバマ州、アーカンソー州、コロンビア特別区(首都ワシントン)、デラウェア州、フロリダ州、ジョージア州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、メリーランド州、ミシシッピ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州、ペンシルヴェニア州、サウスカロライナ州、テネシー州、テキサス州、ヴァージニア州である。運輸省による輸送制限の免除によって、石油製品はトラック輸送でニューヨークまで運べるようになるが、これはパイプラインの輸送量には遠く及ばないと同社は認めている。

■ パイプラインの操業停止を受け、石油価格は週明けにも23%は上昇するだろうと複数の専門家は見ている。もし操業停止が長期化する場合は、さらに深刻な影響もあり得る。510日(月)、米国のガソリン価格は約2%高で、ヒーティングオイルも1%超上昇した。それにとどまらず、原油先物価格も約1%超上昇した。

■ コロニアル・パイプラインを攻撃したのはロシア発の犯罪集団「ダークサイド」とみられる。コロニアル・パイプライン社のネットワークに56日(木)に侵入し、100ギガバイト近いデータを盗み取ったという。データを入手した「ダークサイド」は、一部のコンピューターやサーバー上のデータをロックし、57日(金)になって「身代金」を要求。支払いがなければインターネットに漏洩すると脅しているという。

■ コロニアル・パイプライン社は、捜査当局やサイバー・セキュリティーの専門家、エネルギー省などと連携して、操業再開に向けて取り組んでいると話している。59日(日)夜には、主要4本のパイプラインはまだ停止中だが、中継地点を結ぶ支線の一部は輸送を再開したという。

■ コロニアル・パイプライン社は、「攻撃に気づいて、速やかに被害範囲を食い止めるため、一部のシステムをオフラインにした。これによって全てのパイプライン操業が一時停止し、ITシステムにも一部影響が出たが、これは急ぎ再開作業を進めている」と説明している。「完全に安全だと判断した時に初めて全システムをオンラインで復活させる」としている。

■ ロンドンを拠点とするサイバーセキュリティ会社「ディジタル・シャドウ」によると、「ダークサイド」は営利目的でサイバー攻撃を行っている。データを暗号化して盗み取るソフトウェアを開発した後、「アフィリエイト」にソフトウェアや仕様書、使い方の練習方法などを含むツールキットを提供している。「アフィリエイト」は、ランサムウェア攻撃で得た収入の一部を「ダークサイド」に納めるという仕組みだという。注);アフィリエイトとは、企業の商品やサービスを紹介して、そこから申込が入ったら報酬がもらえる仕組みのこと(別名=成果報酬型広告)

■「ダークサイド」は通常のブラウザではアクセスができない、いわゆるダークウェブ上に自分たちのサイトを置き、これまでのハッキングや盗み出した情報などの業績を並べている。ほかにも、医療機関や教育機関、葬儀関連会社や非営利団体、政府などは攻撃しないという倫理規定のページも掲示している。「ダークサイド」はこのほか、手当たり次第にログイン情報を盗み取る「アクセス・ブローカー」とも取引しているという。

被 害

■ パイプラインの制御用コンピューターが被害を受け、操業できなくなった。代替策としてタンクローリーなどの陸上輸送を行っている。

■ ハッカーからの身代金要求に対して500万ドル(約54,700万円)を支払った。

■ パイプラインに物理的な損傷はない。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、ランサムウェア(身代金ウイルス)によるサイバー攻撃で、故意の過失である。

■ セキュリティー会社「ディジタル・シャドウズ」(Digital Shadows)創業者のジェイムズ・チャペル氏は、今回のパイプライン攻撃は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響で起きたと指摘する。自宅から作業し、パイプラインの制御装置を操作するエンジニアが増えたからだという。チャペル氏は、「ダークサイド」はパソコンを遠隔操作できる「Team Viewer」や「Microsoft Remote Desktop」などに関係するログイン情報を買い取ったのだろうと考えている。

■ 「ディジタル・シャドウズ」 によると、セキュリティー情報に特化した検索エンジン「Shodan」などを使えば、誰でもオンライン状態のコンピューターのログイン・ポータルを調べることができる。ハッカーたちはそこに大量のユーザー名とパスワードを投入していくことで、いずれ使える組み合わせに行き当たるのだという。

< 対 応 >

■ 「ディジタル・シャドウズ」の調査によると、サイバー犯罪集団は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ジョージア、アルメニア、モルドバ、アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンなどの旧ソビエト連邦を構成した独立国家共同体(CIS)諸国の企業への攻撃を回避しているため、ロシア語圏の国に拠点を置く可能性があるという。

■ 58日(土)、国土安全保障省サイバー・インフラ安全局(CISA)は、「ランサムウェアがあらゆる組織に脅威を及ぼすことがはっきり示された」と述べ、各方面の組織に対策強化を呼び掛けた。

■ 510日(月)、米連邦捜査局(FBI)は、今回のサイバー攻撃はハッカー集団「ダークサイド」による犯行だと断定した。これに先立ち、ダークサイドは声明を発表した。コロニアル社に直接言及していないものの、「最新のニュースについて」という見出しで「われわれの目的は金もうけであり、社会に問題を起こすことではない」と表明している。要求する金額には触れず、将来における社会的な影響を回避するため、仲間のハッカーらに対するチェックを開始すると述べた。

■ 510日(月)、コロニアル・パイプライン社は全面復旧を週末までに果たす方針を示した。同社はテキサス州からニュージャージー州へ延びているパイプラインについて、一部が段階的に復旧しつつあると説明した。今回の攻撃を受けて燃料が不足し、米東部沿岸の人口の多い地域に影響が広がるとの懸念は、これで一部和らいだ。同社がパイプラインの操業を再開するまでの間、地域の貯蔵タンク内にある在庫で需要を十分に満たせるかが当面の課題となる。

 同社によると、ノースカロライナ州グリーンズボロの貯蔵施設とメリーランド州ボルチモアを結ぶパイプラインの一部は、「既存在庫が利用可能な限られた期間」で操業を再開した。ただ、通常であればニューヨーク市場向け供給分の最大3倍近くの輸送が可能なテキサス州南部からノースカロライナ州までの区間は、操業を停止したままとなっている。

■ 510日(月)、 米国エネルギー長官は、今回のパイプライン閉鎖について、インフラがいかにサイバー攻撃の危険にさらされているかを浮き彫りにしたと指摘し、「我々がいかに完全に無防備かが分かる。通信や重要なインフラを対象としたランサムウェアによる攻撃の例が相次いでいる」と述べた。

■ 510日(月)、コロニアル社は、パイプラインの完全な運用制御を行っており、ランサムウエアが無力化されるまでは輸送を再開しないと確約した。

■ 510日(月)、米国大統領は、同サイバー攻撃についてロシアを非難しなかったものの、ハッカーか使用されたソフトウエアが「ロシアに存在する」という「証拠がある」と述べた。同大統領は、「政権はランサムウエア攻撃を巡る国際的な取り組みを目指す」と表明した上で、ロシアは「これに対処する多少の責任がある」と指摘した。米国家安全保障副補佐官(サイバー・セキュリティー担当)は、ダークサイドとロシア政府との間につながりがあるか現在調査していると明らかにした。

■ 511日(火)の関係者の情報によると、今回のサイバー攻撃は、複数の米国政府機関の協力を得た民間企業の小規模グループが事態悪化を阻止したという。サイバー攻撃に関する調査あるいは説明を受けた関係者によると、盗まれたデータが最終目的地と考えられるロシアに向かう流れを食い止めたため、コロニアル社は一部データを回収できた。今回のサイバー攻撃への対抗措置には、ホワイトハウスや連邦捜査局(FBI)、国土安全保障省サイバー・インフラ安全局(CISA)、国家安全保障局(NSA)が関与し、ハッカーらが利用していた主要サーバーを停止したという。同措置は58日(土)に行われたという。

■ 511日(火)、サイバー犯罪集団「ダークサイド」が関与を認める声明を発表した。ダークサイドは自らのウェブサイトで、「私たちの目的は金銭であり、社会で問題を起こすことではない」と表明した。また、自分たちは「政治に関心はない」とし、「地政学には関わらないし、私たちの動機は(中略)どこの国の政府とも関係ない」と主張した。さらに、コロニアル・パイプラインが攻撃対象となったのは知らなかったとし、「今日からは、私たちのパートナーが暗号化しようとする企業についてチェックし、社会に影響を及ぼさないようにする」との考えを示した。

■ 米国では、昨年、政府機関が利用するソーラーウィンズ社のネットワーク管理ソフトにロシアのハッカーによる大規模な攻撃があり、20213月にはマイクロソフト社の企業向けメールソメールソフトに対する中国関連のハッカー攻撃が発覚するなど、サイバー・セキュリティー上の問題が相次いでいる。

■ 514日(金)、コロニアル社は、東欧を拠点とするハッカーに500万ドル(約54,700万円)近くの「身代金」を支払っていたことが分かった。ランサムウエアによるとみられるテロ攻撃を受けて数時間以内に、追跡困難な暗号資産(仮想通貨)で身代金を支払ったという。東海岸の主要都市へのガソリンやジェット燃料の供給再開を急ごうと、同社に非常に大きな圧力がかかっていたことを浮き彫りにする。ハッカーは支払いを受けた後、コンピューター・ネットワークを復旧させるための暗号解読ツールをコロニアル社に提供した。ただ、このツールによる復元プロセスが非常に遅かったため、独自のバックアップも使い続けて復旧につなげたと、事情に詳しい関係者は話している。コロニアル社は、5日間のシステム停止を経て、512日(水)午後5時前後に操業再開に着手したと発表した。513日(木)午前には、大半の供給先に対し燃料輸送を再開したと明らかにした。

補 足

■「ダークウェブ」とは、匿名性の高い特別なネットワーク上に構築されたウェブサイトのことである。ダークウェブは、通常のウェブとは異なり、基本的にはGoogleYahoo!などの検索エンジンの検索結果にヒットしないだけでなく、閲覧する際にも、一般的なChromeInternet Explorerなどのウェブブラウザーでは閲覧できないウェブサイトの総称である。匿名性が高いことから、ダークウェブでは違法性の高い情報や物品が多く扱われている。ダークウェブの元になった技術は、米国海軍によって開発されたものである。匿名性を確保することで、情報通信の秘匿性を確保するという目的があった。

 ダークウェブでの取引において、決済という行為は犯罪者にとってリスクが高い。クレジットカードや銀行振り込みといった旧来の手段で代金を決済しようとすると、匿名性が失われ、犯罪者への抑止力となっていた。しかし、2009年にビットコインが登場し、急激に広まっていったことで、ダークウェブの世界が一変した。暗号資産は匿名性が高いため、犯罪者が決済手段として暗号資産を使うことで、足がつくリスクを大きく低減できる。ダークウェブ上の取引が活発化する一因となった。

 ダークウェブに興味本位でアクセスすると、マルウェアに感染するなどのリスクも高く、一般ユーザーは関わるべきではない。しかし、ダークウェブというものが存在することは認識しておくべきである。最近でも数々の情報漏洩事件が日本で起きており、ダークウェブ経由で盗まれた情報が悪用される危険性を十分に理解し、取り得る限りの対策を講じていくことが必要な時代になりつつある。

■ このブログでとりあげたコンピュータのサイバー攻撃に関するものは、つぎのとおりである。

 ●「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」201610月)

 ●「イランのハッカーがサウジアラビアの石油化学会社へサイバー攻撃」201710月)

 ●「タンク施設におけるサイバーセキュリティの危険性」20185月)

 ●「制御システムへのサイバー攻撃が増加、いま、あなたは何ができるか?20211月)

所 感

■ 事故の原因は、コンピュータへのサイバー攻撃で、故意の過失である。「ダークサイト」というハッカーの犯罪集団が起こしたものとみられる。しかし、組織は複雑で、「ダークサイド」は営利目的でサイバー攻撃を行っているが、データを暗号化して盗み取るソフトウェアを開発した後、ソフトウェアや使い方を含むツールキットを提供し、別なハッカー集団がランサムウェア攻撃で得た収入の一部を「ダークサイド」に納めるという仕組みらしいという。

■ 今回のパイプライン攻撃は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響で起きたと指摘されている。自宅から作業し、パイプラインの制御装置を操作するエンジニアが増えたからだという。この指摘が当たっているかどうかは分からないが、確かに、これまで制御システムはインターネットから切り離されており、安全だという認識だった。

 今年1月の 「制御システムへのサイバー攻撃が増加、いま、あなたは何ができるか? の所感の中で、「あなたが使っている製品がまだ侵害されていないという理由だけで、将来にわたって侵害されることは無いと考えるのは間違っている」ということを受け、考えてみれば、家庭でも「モノのインターネット」(IoT)化した住宅が出てきて、電気製品のスイッチを容易に遠隔操作できるようになっており、便利になっているが、サイバー攻撃の脅威が増加しつつあると感じると書いた。新型コロナウイルス対応で、テレワークを推奨する世の中になったが、セキュリティの問題を危惧する人もおり、それが現実になったという事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Bbc.com,  米石油パイプラインにサイバー攻撃、燃料不足の懸念 データ「人質」の犯罪集団,  May 10, 2021

     Cnn.co.jp,  米パイプライン停止させたサイバー攻撃、ロシア発の犯罪集団が関与か 元米高官,  May 10, 2021

     Bloomberg.co.jp,  米パイプラインが被害のサイバー攻撃、ロシアへのデータ流出は阻止,  May 11, 2021

    Jp.reuters.com,  原油先物は約1%上昇、米最大の石油パイプライン停止で,  May 10, 2021

    Jp.reuters.com,  サイバー攻撃の米パイプライン、週末復旧も ハッカー「目的は金」,  May 11, 2021

    Bbc.com,  米石油パイプラインのハッカーが声明 「問題起こすつもりなかった」,  May 11, 2021

  Bloomberg.co.jp, 米コロニアル、5億円超の「身代金」ハッカーに支払った-関係者,  May 14, 2021



後 記: 今回の事例を調べていて感じたことは、海外メディアが日本語による記事を出していることでした。このことは以前から分かっていましたが、今回のような大きな話題は主要な海外メディアがそろって日本語の記事を出していることに驚きました。もうひとつは、メディアの中でもコンピュータへのサイバー攻撃に関心をもち、以前から調べていたことをうかがわせる記事があったことです。今回の場合、ブログは早めに投稿した方がよいと思ったので、海外メディアの原文を確認せずにまとめました。(原文を確認しても、コンピューターのサイバー攻撃の専門用語をすぐには理解できなかったでしょうが) 
追記: ハッカーからの身代金要求に対してコロニアル社は500万ドルを支払っていたことが分かったので加えました。「被害」と「対応」に追記し、「備考」のインターネット情報(引用情報)を書き加えました。

2021年5月9日日曜日

エクソンモービルとテキサスA&M大学は消防士のための訓練を提供

  今回は、“Fire Rescue1”の20191214日に掲載された「エクソンモービル社とテキサスA&M大学は最初に緊急対応する人のために危険性液体のトレーニングを提供する」(ExxonMobil, Texas A&M offer hazardous liquids training for first responders)について紹介します。

< 背 景 >

■ テキサス州には、地下にパイプラインが縦横に走っており、原油貯蔵タンクがペルム紀盆地の至る所に点在している。事故が起こった場合に最初に対応しなければならない者にとって、事故の対処方法を知っておくことは重要である。 

< エクソンモービル社の支援 >

■ パイプラインの破裂や貯蔵タンクの爆発などの事故が起こることは稀だが、事故が発生した場合、重要なことは事故に対する前もっての準備である。

■ エクソンモービル社はテキサスAM大学のエンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)と協力して、消防士に危険性液体の緊急対応のトレーニング・コースを提供している。石油大手からの20万ドル(2,200万円)の助成金は、訓練教程の開発と8月と10月に行われる研修会への150名の消防士の参加資金に供された。3回目の研修会が11112日に設定されており、すでに50名の消防士が参加を申し込んでいる。

■ トレーニング・コースに対するエクソンモービル社の支援は、事業を展開するコミュニティへの取り組みの一環であるという。訓練教程の開発に資金を提供した200,000ドル(2,200万円)の助成金に加えて、エクソンモービル社は次の年の訓練教程のために、さらに200,000ドル(2,200万円)の助成金を提供した。

■ テキサスAM大学TEEXの産業火災部門の責任者は、「地方自治体の消防士やボランティアの消防士は、やれる範囲の業務はりっぱにやり遂げており、住宅火災、車両火災、救出活動についてはよく訓練されている」と語っている。 しかし、例えば、ポート・ネチズで起こったようなプラント火災を模した訓練、または陸上油井におけるタンク火災やパイプライン火災の訓練は多くの費用がかかる。 

■ エクソンモービル社からの資金提供により、地方自治体の消防士やボランティアの消防士がその訓練を受けることができるようになった。  

■ テキサスAM大学TEEXの産業火災部門の責任者は、 「宿泊代、食事費、研修費、トレーニングで使用される燃料費、訓練で使用される消火薬剤の費用、そのほかコストのかかるものの費用に当てています」と語っている。

■「これは、お互いが有利になるWin-Win(ウィンウィン)の関係です」とテキサスAM大学TEEXの産業火災部門の責任者は語っている。エクソンモービル社、ダウ社、ライオンデル・バセル社などの企業は工場間の共同体意識をもっているが、パイプラインや油井用タンク施設などではよく訓練された消防隊から防護に関する改善策を得ただけでなく、これらの企業は火災や爆発の場合にさらに支援を受けている。

■ これらの企業のプラントは、標準的に火災と戦うために訓練された自衛消防隊を持っている。しかし、この消防隊の人数は限られている。そのため、地方自治体の消防士やボランティアの消防士の応援をもらうことが重要である。

< テキサスAM大学TEEXのブレイトン消防トレーニング場 >

■ テキサスAM大学TEEXの産業火災部門の責任者は、「あなた方が火災と戦っているとします。あなた方は激しく呼吸しているでしょう。そして、アドレナリンが出て対応しています。しかし、そのうち疲れ果てます。ここで、出たり、入ったりする交代のできる人たちがいるかどうかが重要になるのです」という。

■ 訓練は300エーカーの「ブレイトン消防トレーニング場」(Brayton Fire Training Field)で行われる。 (注;300エーカーは1,214,000㎡=約1,100m四方) 訓練を受けるひとがトレーニング施設に着いてから言うのは、「ディズニーランドのようです。我々は実際の火災を経験していますが、流れが違います。火災の規模がこれまでに見たものよりずっと大きかった」という。

■ テキサスAM大学TEEXの産業火災部門の責任者は、ひとつの例として、デイセッタにあるハル-デイセッタ消防署の経験をあげた。8月に行われた研修会では、油井施設のタンク火災との戦いがひとつだった。その研修会の2日後、消防署の消防隊は油井施設のタンク火災で呼び出されたが、対処方法は分かっていたという。

■ ボランティアの消防士は州の消防署の85%を占めるため、トレーニングはボランティアの第一線対応者を対象としている。

■ エクソンモービル社の緊急事態対応のエキスパートとテキサスAM大学TEEXが協力して、パイプラインとタンク火災に関するトレーニングの研修課程を開発した。トレーニングセッションは、テキサス州のブライアン-カレッジステーションの緊急事態準備キャンパス内にあるTEEXのブレイトン消防トレーニング場で開催されている。

補 記

■「テキサスAM大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)」については、1997年に日本から研修会に参加したレポート「石油公団備蓄技術者海外研修」(旧石油公団:現JOGMEC)や2013年に参加した「第14AM大学訓練センターにおける実消火訓練について」に詳しく報告されている。なお、1997年以降もTEEXは規模が大きくなっている。

 ● 1998年;  TEEXは、「米国緊急対応および救助訓練センター」(National Emergency Response and Rescue Training Center)の本拠地になった。米国司法省は、テロリストによる核攻撃、生物学的攻撃や化学的攻撃に対応する緊急対応要員を訓練するために、国家緊急対応救助訓練センターを設立した。ブレイトンフィールドに隣接する7,000万ドルの災害都市と緊急操作トレーニングセンターの建設が始まった。

 ● 2000年; 「防火訓練課」(Fire Protection Training Division)は「緊急サービス訓練機関」(Emergency Services Training Institute)となった。

 ● 2005年; 新しい消火器補充施設がオープンした。毎年12,000台以上の消火器が設置されるようになった。

 ● 2008年;  プロセス装置火災プロジェクトに40箇所の漏洩点が追加された。新しい廃水処理プラントが稼働した。

 ● 2009年; マズマット・ケミカル装置(プロジェクト♯31)が追加された。

 ● 2010年; サイト内の舗装(2.3平方マイル)が完了した。

 ● 2011年; ブレイトン・ファイア・トレーニング・フィールドが2倍以上の279エーカーになった。

 ● 2012年; 新しいレスキュー・キャンパスのために災害都市に隣接する17.8エーカーを取得し、総面積は296エーカーになった。

 ● 2013年; 「エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス」はテキサスAM エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス」(Texas AM Engineering Extension Service)になった。

 ● 2014年; 船舶用エンジン室に新しいエンジンが入った。新しいレスキュー・キャンパスに道路とユーティリティが追加された。災害都市に新しい瓦礫の山と専門の建物装置がオープンした。  

 ● 2014年; テキサスAM大学システムのメンバーとして、TEEXプログラムには、消防・緊急サービス、国土安全保障、公共安全とセキュリティ、公共事業、安全と健康、捜索・救助、知識工学が含まれるようになった。「テキサス・タスク・フォース1」は、最初の都市型捜索救助チームとして設立され、チームは48の組織からの186名の救急隊員で構成されている。

 ● 2014年; テキサス州に本拠地をもつ石油企業の「フィリプス66社」(Phillips 66)は、将来の拡張を支援するために、5年間で500,000ドル(5,500万円)を提供した。これにより、TEEXは、重要施設の防護に関する第一線緊急事態対応者のトレーニングをさらに強化できるようになった。

 ● 2015年; 新しいレスキュー教室とオフィスビルがオープンした。

 ● 2016年; 新しいレスキュー用タワーがオープンした。

 現在、新型コロナウイルスの対応で研修が一部制限されているものがある。

■ 日本における防災訓練センターの主な例は、つぎのとおりである。

 ● 横浜市消防局消防訓練センター; 各地方自治体に消防訓練センターがある

 ● 海上災害防止センター

 ● 空港保安防災教育訓練センター; 空港保安協会

 ● 災害対策トレーニングセンター; 東京大学

 ● ふくしま総合災害対応訓練機構

 ● 消防防災科学センター; 防災図上訓練

■「ポート・ネチズで起こったようなプラント火災」とは、2019年に米国テキサス州ジェファーソン郡ポート・ネチズにあるブタジエン製造装置の爆発・火災事故だと思われる。

 ●「米国テキサス州でブタジエン装置が爆発・火災、球形タンクに迫る」201912月)

 ●「米国テキサス州でブタジエン装置が爆発・火災、球形タンクに迫る(爆発原因)」202011月)

所 感

■「テキサスAM大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)」については、これまでに何度か触れてきたが、今回はスポンサー企業について語られている。この資料が作成された2019年は、石油企業のエクソンモービル社が資金を援助している。2014年は同じく石油企業のフィリプス66社が資金援助している。これは、企業が倫理的観点から事業活動を通じて自主的に社会に貢献する責任、すなわち企業の社会的責任を意識していると思われる。

■ 東日本大震災以降、「災害対策トレーニングセンター(東京大学)」や「ふくしま総合災害対応訓練機構」が設立され、災害時の対応を改善しなければならないという意識が出てきた。タンク火災のような事故時の対応訓練は、横浜市消防局消防訓練センターをはじめとする各消防署の消防訓練センター、海上災害防止センター、空港保安防災教育訓練センターがあるが、対象者が限定されており、横のつながりは無いと思われる。日本の原油備蓄基地では、保安・消防部門の消防士を対象としてテキサスAM大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)の訓練への参加を続けてきており、このことは良いことである。しかし、公的消防機関や企業の自衛消防隊の消防士は参加していない。日本の統一感の無いこのままの体制で良いのであろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Firerescue1.com,  ExxonMobil, Texas A&M offer hazardous liquids training for first responders,  December 14, 2019

    Teex.org, TEEX Brayton Fire Training Field History,  2021


後 記: 今回、改めて 「テキサスAM大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)」について調べてみましたが、想像以上に大きな規模になっています。 「米国緊急対応および救助訓練センター」の災害都市がブレイトン消防トレーニング場に隣接して建設され、テロリストによる核攻撃、生物学的攻撃や化学的攻撃に対応する緊急対応要員

が訓練されています。1930年にテキサス州の76の市と町を代表する196人の消防士が2日間の訓練を始めたのが最初でした。こうした歴史を見てくると、太平洋戦争と同様、ロジスティック(兵站)の重要性を理解し、実行している米国に日本は勝てないなと思ってしまいました。(勝ち負けの話ではないですが)

2021年5月2日日曜日

貯蔵タンクが崩壊する原因はなにか?

  今回は、“Industrial Fire World”の2021414日に掲載された「貯蔵タンクを崩壊させる原因はなにか?」(What Causes Storage Tanks to Collapse?)について紹介します。

< 背 景 >

■ タンクの壊滅的な損壊は一瞬のうちに起こることがある。ある石油タンクが問題なく機能していたとする。このとき、落雷が発生し、タンクが接地されていない場合、惨事が差し迫っているといえる。

■ 一方、タンクは時間の経過とともにゆっくりと損傷していくことがある。タンクがピッチングや腐食の初期兆候を示している場合、タンクは弱化していくが、最終的に破損する前に状況を改善する時間はまだある。

< 不適切な構造 >

■ 貯蔵タンクの破損で最も不名誉な事例のひとつは、100年前に米国のボストンで起こった。設計・建設・保守が貧弱だった貯蔵タンクが、 1919115日、ボストンのノースエンド地区で破裂し、230万ガロン(365,000リットル)の糖蜜が流れ出た。粘性のある液体が25フィート(7.6m)の高さでボストン通りを押し流れていき、25人が死亡し、150人が負傷した。このボストン糖蜜災害により一連の訴訟が提起され、タンク崩壊について6年間の調査が行われた。この調査結果をきっかけに、鉄鋼とコンクリートに関する法規制と建設基準が厳しくなった。

■ 最近の貯蔵タンクは、構造の健全性を確保するために、API Std 650Welded Tanks for Oil Storage;溶接式石油貯蔵タンク)およびAPI Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction;タンク検査、補修、変更、改造 )に準拠する必要がある。また、タンクは供用される前に、徹底的に検査する必要がある。 EPA (米国環境保護庁)によると、適切な設計が行われて保守されてきた貯蔵タンクは、上部屋根の接合部で側板に沿って外れるようになっている。この設計は、タンク内液が流出するのを防ぎ、火災の発生が広がるのを防ぐのに役立つ。

< 天 候 >

■ ハリケーンは激しい風と豪雨を伴って地球で最も破壊的な嵐であり、通過した後にひどいつめ跡を残す。石油や危険物質の入った貯蔵タンクは、メキシコ湾岸に沿って数多く設置されており、ハリケーンに繰返し襲われている。揮発性の化学物質と猛威をふるう嵐が組み合わされると、危険性があって致命的な混合物が放出される可能性がある。 

■ 2017年の夏にメキシコ湾岸を襲ったハリケーン・ハービーは、ヒューストンで51.9インチ(1,318mm)の雨を降らせた。このエリアには多くの原油や化学物質の貯蔵タンクがあり、その多くは屋根の雨水を排水しなくても最大10インチ(250mm)の雨を保持するように設計された浮き屋根が装備されていた。ヒューストン・クロニクル紙の記事によると、ハリケーン・ハーベイの記録的な降雨量はタンク浮き屋根の性能を超えており、少なくとも15基のタンク浮き屋根が沈降し、計340,000KLの揮発性化学物質が大気中に放出された。

■ 貯蔵タンクにとって気象関連で最も恐いのが雷である。 NFPA(全米防火協会)の報告によると、屋外にある貯蔵タンクの火災の引火源は3分の1が落雷だった。 火災は直撃雷だけによるものでなく、近くに落ちた誘導雷によっても起こる。貯蔵タンクへの落雷による影響を軽減する方法はある。 1920年代までさかのぼると、専門家は落雷からタンクを保護するためにタンクを接地することの重要性を説いてきた。

< 地 震 >

■ 2011311日、マグニチュード9の大地震と津波が東日本を襲った。激しい地震の結果、この地方の石油などの貯蔵タンクの多くが被害を受けた。 湾岸にあった小型の石油タンクは津波によって流され、地震による長い揺れによってタンクが損傷した。東北地方太平洋沖地震による後遺症は何年も続いた。 2013年、通信社のロイターは、福島原子力発電所の汚染水のタンク近くで記録的な放射線測定値があったと報告した。

■ 貯蔵タンクは、地震帯を念頭において設計する必要がある。米国の一部の地域は断層帯に近いため、この地域は地震が発生しやすい。貯蔵タンクは、API  Std 650の付属書E(石油タンクの耐震設計)の基準に従って、潜在的な地震に耐えるように設計する必要がある。カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州などの地震帯2以上の地域に設置するタンクは、該当する基準の規定にもとづいて地震の安定性をチェックする必要がある。

< 操業運転上のミス >

■ タンク爆発の要因には、人為的なミスによって引き起こされることがある。 20185月、ウェストバージニア州の石油とガスを取り扱っているプラントの現場で、作業員が酸素-アセチレン切断器を使って廃止タンクの解体をしていた。このタンクには底板接合部に漏洩箇所があった。タンク内に残っていた可燃性物質に引火し、爆発が発生した。この事故で 3人の作業員が火傷を負った。

■ 2014年に起こった事故では、米国労働安全衛生局(OSHA) によると、従業員がタンク上の歩廊で溶接していたときに、使用済み油からのベーパーに引火させてしまった。従業員は墜落防止用の安全帯を着用していなかったため、タンクの上部から落下して亡くなった。

< 圧 力 >

■ タンクを過剰充填すると、過度の圧力が発生する可能性がある。圧力が上昇しすぎると、タンクが破裂する可能性がある。貯蔵タンクの加熱と冷却は、両方とも過剰圧力または減圧による破損を引き起こす可能性がある。タンクに液体が入ると、ベーパーが移動する。タンク内のベント(通気)は、ベーパーがタンクから安全に排出され、圧力変化を軽減させるのに役立っている。また、ベントはタンクに空気が入るので、減圧になることはない。

■ 揮発性の液体は常温で容易に蒸発する。揮発性の液体をポンプでタンク内に送液するとフラッシュする可能性があり、ベーパーが形成され、圧力の上昇を引き起こす可能性がある。ガソリン、アセトン、エタノール、臭素はすべて揮発性液体の例であり、貯蔵タンクによく見られる。

■ 1983年、ニュージャージー州ニューアークの施設でガソリン・タンクの爆発事故が起こった。浮き屋根式タンクが過剰充填となり、タンク防油堤内に1,300バレル(206KL)のガソリンが流出した。 このため、蒸気雲が形成され、引火した。爆発は非常に激しかったので、100マイル(160km)離れたところの人が感じたという。この事故でひとりが死亡、24人が負傷した。

< 破壊行為 >

■ 化学物資の貯蔵タンクは、テロリストや泥棒にとって魅力的な標的である。貯蔵タンクに揮発性の化学物質が入っている場合、テロリストにとっては壊滅的な爆発を引き起こすためにある火薬庫のようなものである。たとえば、メタンフェタミンの主成分である無水アンモニアを盗もうとしている泥棒にとっては化学物質も貴重なものである。本来、人は米国労働安全衛生局によるOSHA規制1910​​ Subpart H1910.111の無水アンモニア基準に従う必要がある。

■ 2013417日のテキサス州ウェストでの肥料工場の爆発事故は故意の過失事例だったと連邦当局が述べている。米国の化学物質安全・危険調査報告書によると、爆発によって緊急対応要員12名を含む15人が死亡し、約260人が負傷し、 150戸の建物が破壊・損傷して半径5ブロックのエリア内に破片が飛散した。

■ 米国労働安全衛生局(OSHA)によると、爆発後の調査で、1985年以来、施設は安全検査が完全には実施されていないことが分かったという。報告によると、施設には緊急対応の要員に警告する火災検知システムや自動スプリンクラー・システムも設置されていなかった。米国アルコール・タバコ・銃・爆発物局(the Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives ATF)によると、火災は故意に起こしたと見るしかないと述べている。

■ タンクが破損する要因はいろいろあるが、規制や基準に従ってタンクを注意深く検査し、保全していくことが、タンク事故を防ぐために最も良い方法である。

所 感

■ 貯蔵タンクの事故を崩壊や破損の観点から、米国における100年の歴史を観た解説である。要因を不適切な構造、天候、地震、操業運転上のミス、圧力、破壊行為の6分類に分けて、過去の事例を紹介しながら説明している。1919年に起こったボストン糖蜜災害は、最近になっても原因が語られる古くて新しい事例である。(インターネットの失敗事例;「糖蜜貯蔵タンク破裂事故」を参照)

■ 事故の要因を11分類に分け、19602003年までの43年間に起こった242件の貯蔵タンク事故について分析したものは、「貯蔵タンク事故の研究」2005年)を参照。

 このブログでは、事故要因を同様に13分類に分け、「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その3)」20209月)を投稿している。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com,  What Causes Storage Tanks to Collapse?,  April 14, 2021 


後 記: 新型コロナウイルスが出てきて、感染症への医療体制、ワクチンの開発体制など日本の政治・経済・社会・技術が世界に比べて遅れてきているという声が大きくなっています。“グローバル・スタンダード” や選択と集中という名のもとに、遅れが見え始めるようになってから2011年の東日本大震災がダメ押しで、それ以降は空白の10になったように感じます。ところで、貯蔵タンクの事故状況も様相が変わってきました。 「貯蔵タンク事故の研究」(2005年) と「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その3)」( 20209月) を比べると、明らかに変わってきました。以前に比べて最近の事故要因で注目されてきたのが、地震、ハリケーンなどの自然災害、故意の過失(テロ攻撃)です。これらは、2005年当時はそのような事故の要因があるという程度の扱いでした。今回の資料を見ると、執筆者はそのような状況変化を感じているように思います。