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2019年8月23日金曜日

ベネズエラの超重質原油アップグレード関連施設でタンク火災

 今回は、2019年3月13日(水)、ベネズエラ東部のアンゾアテキ州サンディエゴ・デ・カブルティカにあるベネズエラ国営石油公社PDVSAの子会社でオリノコベルトの超重質原油アップグレード・プロジェクトを実施しているペトロ・サン・フェリックス社の施設にある石油貯蔵タンクが爆発・火災を起こした事例を紹介します。
写真Orinocotribune.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ベネズエラ(Venezuela)東部のアンゾアテキ州(Anzoategui)サンディエゴ・デ・カブルティカ(San Diego de Cabrutica)にあるペトロ・サン・フェリックス社(Petro San Felix)の施設である。ペトロ・サン・フェリックス社は、ベネズエラ国営石油公社PDVSA(Petróleos de Venezuela, S.A.)の子会社である。

■ 発災があったのは、オリノコベルトの超重質原油アップグレード・プロジェクト(Heavy-crude upgrading project)の石油貯蔵タンクである。貯蔵タンクはペトロ・サン・フェリックス社施設のポンプ場に設置されていた。
          ベネズエラのアンゾアテキ州南部付近  (写真はGoogleMapから引用)
       ベネズエラのサンディエゴ・デ・カブルティカ付近  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年3月13日(水)正午頃、ペトロ・サン・フェリックス社の施設に設置された2基の石油貯蔵タンクが爆発して火災となった。タンクからは炎と黒煙が空に吹き出した。

■ 貯蔵タンクは容量40,000KLで、油種は希釈剤用だった。タール状の超重質原油を原油生産現場からパイプラインを通じてを移送するためには、希釈剤を混合する必要があるが、ベネズエラ国営石油会社PDVSAでは、通常、希釈剤として軽質原油または燃料油を使っている。

■ 発災のあったタンクは、1基は高さ22フィート(6.7m)まで入っていたが、もう1基は空に近かった。 

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。火災の制圧には約18時間を要した。
 
■ 火災の輻射熱が激しく、発災現場に近い地元住民約10世帯が避難した。

■ 3月13日(水)午後6時頃、3回目の爆発が発生した。この火災は3月14日午前6時頃に消火した。

■ 事故に伴う死傷者は出なかった。

■ 爆発をとらえた動画がユーチューブに投稿されているが、夜に撮影されたもので、3回目または再燃した火災ではないかと思われる。

被 害
■ 石油貯蔵タンク3基が火災で焼損し、内液の石油が焼失した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は不詳である。

< 対 応 >
■  3月13日(水)の夜、ベネズエラ国営石油会社PDVSAの総裁は、ベネズエラの大統領の政治的な敵対者のテロリストによる襲撃の仕業だとツイッターで述べた。

■ サンディエゴ・デ・カブルティカにある希釈システムを操作するプラントは、大規模な停電のため週末から麻痺していたが、復旧し、電源を入れようとしたときに、爆発が起こったという情報がある。ベネズエラでは、3月7日(木)に全土で発生した停電から1週間が経過し、徐々に復旧したが、首都カラカスですら電気は不安定で、完全復旧にはほど遠い状態である。
(写真はSouthfront.orgから引用)

(写真はSouthfront.orgから引用)
(写真はSouthfront.orgから引用)

(写真はTodayvenezuela.comから引用)
(写真はTodayvenezuela.comから引用)

(写真はDinero.com.veから引用)
補 足                                   
ベネズエラのオリノコベルト
(図はToyo-keizai.co.jpから引用) 
■ 「ベネズエラ」 (Venezuela)は、正式にはベネズエラ・ボリバル共和国といい、南米の北部に位置する連邦共和制社会主義国家である。人口は約3,100万人で、首都はカラカスである。ベネズエラはマラカイボ湖やオリノコ川流域を中心に多くの石油が埋蔵し、古くから油田開発が進められ、経済は石油に依存している。
 「アンソアテギ州」 (Anzoategui)は、ベネズエラ北東部に位置し、美しいビーチのある観光地として知られている。州の人口は約148万人で、州都はバルセロナである。
 「サンディエゴ・デ・カブルティカ」(San Diego de Cabrutica)は、アンソアテギ州南部にあるホセ・グレゴリオ・モナガス市(人口約17,000人)にある6つの自治体のひとつである。

 当ブログに投稿したベネズエラのタンク事故情報は、つぎのとおりである。

■「ペトロ・サン・フェリックス社」(Petro San Felix)は、ベネズエラのオリノコベルトの超重質原油アップグレード・プロジェクトを実施する会社で、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の子会社である。フランスのTotal SA、ノルウェーのEquinor ASA、ロシアのRosneft、米国のChevronは、PDVSAとの合弁会社の少数株主である。
 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A.、略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。設立時は人事の政治化を排除し、政府から独立した合理的な経営が行われていたが、チャベス前大統領が就任後、PDVSA上層部の刷新や職員の大量解雇が実施されたことに加え、PDVSA総裁はエネルギー石油大臣の兼務となり、PDVSAに対する政府の関与が著しく強まった。社会開発事業へ資金を提供するなど国家財政に対する度合いが増し、食料、電力、セメントなど石油関連以外の子会社をその傘下に加えるなど、政府の一機関としての側面が強まったが、政府の経済政策が破綻してしまい、経営は完全にゆき詰まっている。

■「発災タンク」は、タンク型式が浮き屋根式とみられ、容量40,000KLという情報を採用した。サンディエゴ・デ・カブルティカ付近のグーグルマップでは、開発造成地のみでタンクなどは写っていないので、裏付けはとれていないが、被災写真から規模的には妥当だと思われる。
サンディエゴ・デ・カブルティカ付近のプラント敷地と思われる場所 
(写真はGoogleMapから引用)
■ 37日(木)にベネズエラ全土で発生した「大停電」は5日ほど続き、国内に大きな影響が出ており、1日あたり18,000万ドル(約200億円)以上の経済損失が発生しているといい、少なくとも国内総生産(GDP)を2%押し下げるとの指摘もある。停電が長引いたことで、世界最悪水準とされる治安の悪化がひどくなっている。この大規模停電は米国のテロ攻撃だと噂が出ているが、草刈りを怠ったために高圧線の近くで山火事が起きるなど、複数の要因が重なったのが原因だという。さらに、325日(月)、2回目となる停電が発生し、首都カラカス郊外の主要空港は暗闇に見舞われ、地下鉄が運休となる中、歩いて帰宅する通勤者が道路を埋め尽くした。

所 感
■ 貯蔵タンクの爆発・火災の原因は、テロによるものでなく、当時、ベネズエラの大規模停電が復旧し始めていた頃であり、この復電作業と関連した事象だと思われる。日本でも、2018年9月北海道電力・苫東厚真発電所の胆振東部地震による損傷」により、北海道全域がブラックアウトになるという事故があった。企業内の自家発電所が何日間も停電が続くということはないが、長期の停電があった場合に、石油施設で爆発混合気が形成するようなことがあるのかどうか一度は検討しておくことも必要かもしれない。

■ タンク上空からの被災写真をみると、タンクは浮き屋根式で、屋根上で燃えているとみられる。本格的な消火活動が行われている様子は見られないので、タンク火災は浮き屋根上の油が燃え尽きて消えたのではないだろうか。空に近かったタンクの火災も同様に残油が燃え尽きて消えたと思われる。一方、3基目のタンク火災についてはほとんど情報が出されておらず、状況はわからない。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・Oorinocotribune.com, Two Tanks Explode in Oil Facilities in Venezuela,  March  14,  2019
    ・Reuters.com,  Oil Storage Tanks Explode in Venezuela, While Main Terminal Resumes Shipments,  March  14,  2019
    ・Reuters.com, UPDATE 2-Storage Tanks Explode at Venezuela Heavy Oil Project –Sources,  March  14,  2019
    ・Hydrocarbonprocessing.com, Storage Tanks Explode at Venezuela Heavy Oil Project,  March  13,  2019
    ・Xinhuanet.com, Two Chemical Tanks Explode at Venezuela Oil Company Facility,  March  14,  2019
    ・Hazardexonthenet.net, Venezuela Tank Farm Explosion Blamed on “Terrorist Incursions”,  March  14,  2019
    ・Oilnow.gy, Storage Tanks Explode at Venezuela Heavy Oil Project,  March  13,  2019
    ・24-my.info, In Venezuela, Exploded Oil Tanks,  March  14,  2019
    ・Southfront.org, IN PHOTOS: EXPLOSIONS AT VENEZUELA’S PETRO SAN FELIX HEAVY OIL PROJECT,  March  13,  2019
    ・Elpitazo.net, Tras 18 horas de labores controlaron incendio en Petro San Félix,  March  14,  2019
    ・Dinero.com.ve, Presidente de PDVSA acusó a Marco Rubio de explosión en tanques de Petro San Félix,  March  17,  2019
    ・ Elcomercio.pe, Explotan tres tanques de almacenamiento de petróleo en Venezuela,  March  14,  2019   


後 記: 本情報は最近、別な調べをやっていて知ったタンク火災です。発災から5か月ほど経っていますが、日本と違って(?)インターネット情報は残っていました。しかし、情報公開という点においてベネズエラはひどい状況にあります。事業者というべきベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の総裁(兼石油大臣)が政治的な敵対者のテロリストによる襲撃の仕業だとツイッターで述べているわけですから、事故に関する事実は開示されないでしょう。実際、その後、ベネズエラ政府側から情報は出ていません。
 ところで、ツイッターって何なのでしょうか。単なるつぶやきですが、公人が出せば、影響はあるわけです。しかし、公的な報告ではないので、聞いた噂と言ってしまえば、責任はないですよね。ただ、信じている人(信じたいと思っている人)もいるでしょう。第二次大戦中の日本の大本営発表みたいに事実ではないことが、まことしやかに流されているように思います。今回の事故情報をきっかけにベネズエラの国を調べましたが、前回2012年にタンク事故を紹介したときより国情は驚くほど悪くなっています。超インフレ、5年連続マイナス経済成長、3年間で総人口の1割(300万人)以上の国民が国を脱出、今年1月以降は2人の大統領が並び立つという異常な事態にあります。中米の石油大国というのが昔の(教科書の)印象ですが、いまは見る影もない状況です。
ベネズエラにおける経済成長率と石油価格の推移
(図はIde.go.jp から引用)


2019年8月6日火曜日

中国・河南省のガス工場で空気分離装置が爆発、死者15名負傷者多数

 今回は、2019年7月19日(金)、中国河南省三門峡市にある河南省煤気社の義馬ガス工場で深冷分離法の空気分離装置で起こったコールドボックスと液体酸素タンクの破裂・爆発事故を紹介します。
写真Dw.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国河南省(かなん/ホーナン省)の三門峡市(さんもんきょう/サンメンシャー市)義馬(ぎば/イーマー)にある河南省煤有限責任公司Henan Coal Gas Co.)である。
 同社は、天然ガス、メタノール、ジメチルエーテル、合成アンモニア、硝酸アンモニウム、酸素、窒素、アルゴンなどのガス製造を行っている会社である。

■ 発災があったのは、河南省煤気社の義馬ガス工場にある深冷分離法の空気分離装置C号機である。C号機の製造能力は酸素20,800N/h、窒素11,000N/h、アルゴン720N/hである。
              三門峡市の河南省煤気社付近(矢印が発災場所)  写真はGoogleMapから引用)
   河南省煤気社義馬ガス工場の空気分離装置付近(発災前;下が北)  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019719日(金)午後545分頃、ガス工場の空気分離装置で大きな爆発があった。爆発で装置施設の多くが吹き飛び、巨大な白い雲が立ち上った。

■ ガス工場から500m離れたところにいた地元の住民は爆発が発生したとき、「火の球と煙の雲が見え、非常に大きな音がしました」と語った。
(写真は、左;6parknews.com、右; xianjichina.comから引用)

■ 爆発の衝撃で半径3km圏内の建物の窓やドアが破損した。特に爆発した場所から500m以内の建物の損傷はひどく、高層住宅から窓ガラスやアルミ製の窓枠が次々に落下し、地上にいた人や自動車が被害にあった。街路樹も鋭い落下物に直撃され、枝葉が地上に散乱した。また、マンションでは激しい振動で天井板が落下した部屋もあった。中国のインターネットに投稿された映像には、爆発の瞬間、飲食店が爆風で激しく揺れる様子が映っていた。また、爆心から5kmのところでも爆発による被害が見つかっている。

■ 事故に伴い15人が死亡、16人が重傷を負った。このほかに250人を超える多数のけが人が出ている。
ガス工場は43交代のシフトで運転が行われ、発災時は少なくとも200人の従業員が従事していた。

■ 爆発によって引き起こされた火災は夜遅くまで続いた。

■ 発災に伴い、河南省消防署と三門峡消防署が出動し、209名の消防隊員が46台の消防車両とともに現場での対応に当たった。

■ 発災現場は危険なガスタンクのある区画ではなかったが、工場の操業は全面的に停止された。

■ メディアの空撮映像が公開され、並んでいた工場の建物が倒壊し、鉄板や破片が点在し、現場が壊滅的になったことが分かった。

被 害
■ ガス工場の空気分離装置C号機と容量500㎥の液体酸素貯蔵タンクが完全に破壊した。また、爆発箇所近くの建物数棟で壁が無くなるほどの深刻な被害を受けた。
 発災前にあったコールドボックス(矢印)とそばにあったタンクが無くなっている
(写真は左;Afpbb.com、右;GoogleMapから引用)
■ 事故に伴い、従業員の15人が死亡、15人が重傷を負った。このほかに250人を超える多数のけが人が出ている。

■ 爆発の衝撃で半径3km圏内の建物の窓やドアが破損した。特に爆発した場所から500m以内の建物の損傷がひどく、高層住宅から窓ガラスやアルミ製の窓枠が落下し、地上にいた人や自動車が被害にあった。

< 事故の原因 >
■ 義馬ガス工場の空気分離装置は酸素と窒素の分離に使用され、極低温を用いる深冷分離法で、-150℃で運転されている。予備調査によると、事故の直接的な原因は、空気分離装置のコールドボックスの液体酸素漏れの対応が適切に行われなかったため、“砂爆発”が発生したことによるとみられている。
 コールドボックスの外側ケーシングには断熱材としてパーライト(真珠砂)が充填されているが、コールドボックスの漏れにより大量の極低温液体が断熱層内に流出して蒸発し、コールドボックスの外側ケーシングが低温脆性で自重の作用で崩壊、ガスが大量のパーライトと共に噴出する“砂爆発”が発生した。コールドボックスが崩壊して近くのあった容量500㎥の液体酸素貯蔵タンクが漏れて、大量の液体酸素が一気に流出した。このため、爆発と火災が起こり、周囲にいた人の間に多数の死傷者が出た。
 
■ 事故の詳細な原因はさらに調査中である。
(写真はHk01.comから引用)
(写真はXinhuanet.comから引用)
(写真は、左;Orientaldaily.on.cc、右; 360kuai.comから引用)

(写真は、左; 360kuai.com、右;Kuaibao.qq.comから引用)
(写真は、左;Std.stheadline.com、右;Afpbb.comから引用)
(写真は、左;Shareapp.cyol.com、右;M.gelonghui.comから引用)
(写真はAfpbb.comから引用)
< 対 応 >
■ 河南省政府は720日(土)に「719日」大規模爆発事故調査チームを立ち上げた。本会議が開かれ、事故の調査が本格的に始められた。

■ 最初に爆発したのは空気分離装置で、別の会社の技術者によると、空気分離装置は比較的安全だが、-150℃以下で操作せねばならないと指摘した上で、容器には、内部圧力が一定値以上に高まると内部の気体を放出する安全装置が設置されているが、何らかの原因で安全装置が機能せず、圧力超過による爆発が発生したとの見方を示した。

■ 中国では安全規定が厳格に履行されないことが多く、重大な産業事故が頻発していると報じられている。中央政府から工場、発電所、鉱山での安全性向上の命令にもかかわらず、中国では頻繁に労働災害が発生している。20193月には、東部江蘇省の化学工場の爆発で78人が死亡、600人以上が負傷した事故があった。さらに、最悪の事故のひとつとして、20158月に天津市の港地区にある化学倉庫で大規模な爆発があり、165人が死亡、8人が行方不明、798人が負傷した。2回の爆発によって引き起こされた爆発力は24トンTNT火薬相当といわれ、死傷者の大半が消防士と警察官だった。
 また、今回の事故を除くと、1973年以来、中国では運転中に空気分離装置(ASU)の爆発事故は8回あったとみられる。
 
72日の事故対応訓練
  写真はXianjichina.comから引用)
■ 皮肉なことに、発災のあった義馬ガス工場は、79日(火)に同省政府から安全管理の手本となる72社のうちの1社に選ばれていた。また、72日(火)には、アンモニアタンクの漏洩の事故対応の訓練を実施していたという。

■ 河南省政府の事故調査チームの予備調査による原因が発表された。

 ● 事故の直接的な原因は、空気分離装置のコールドボックスの漏れに対応が適切でなく、“砂爆発”が発生したことによるとみられている。空気分離装置のコールドボックスの外側ケーシングには断熱材としてパーライト(真珠砂)が充填されている。コールドボックスの漏れにより大量の極低温液体が断熱層内に流出して蒸発し、コールドボックスの外側ケーシングが低温脆性で自重の作用で崩壊、大量のガスが断熱材のパーライトと共に噴出する“砂爆発”が発生した。コールドボックスが崩壊して近くのあった容量500㎥の液体酸素貯蔵タンクが漏れて、大量の液体酸素が一気に流出した。このため、爆発と火災が起こり、周囲にいた人の間に多数の死傷者が出た。
 ● 発災前の2019年6月26日(水)、空気分離装置のコールドボックス断熱層中の酸素濃度が上昇したので、少量の酸素漏れがあると判断した。しかし、この漏れについて重要視せず、しばらく様子をみることとし、適切な保守と修理の措置をしなかったとみられる。

■ この事故についてはユーチューブでも発信されており、主なものはつぎのとおりである。
   ● 「河南义马气化厂爆炸」(2019/07/19)
 ● 「河南三门峡气化厂爆炸」(2019/07/19)
(写真はRti.org.twから引用)
(写真はAfpbb.comから引用)
(写真はStd.stheadline.comから引用)
補 足
■ 「中国」は、正式には中華人民共和国といい、東アジアに位置し、人口約139,500万人の社会主義国家である。
 「河南省」 (かなん/ホーナン省) は、中国の東部中央にあり、黄河の南にあることから河南と称された中国の中でも歴史のある地域で、人口約9,400万人の省である。省都は鄭州市(ていしゅう/チェンチョウ市)である。 
 「三門峡市(さんもんきょう/サンメンシャー市)」は、河南省北部に位置し、人口約227万人の地級市である。「義馬」(ぎば/イーマー)は、三門峡市の東部にある人口約16万人の県級市である。
                       中国における河南省三門峡市の位置(マーク部) 
  (図はGoogleMapから引用)
■ 「河南省煤有限責任公司」(河南省煤气(集团)有限责任公司Henan Coal Gas Co.)は、河南エネルギー化学工業集団有限公司の100%所有であり、河南省国有資産監督管理委員会が河南エネルギー化学工業集団の100%の株式を保有している。河南省煤気社は1996年に河南省政府によって承認された石炭-各種ガスの生産、流通および販売に従事する大規模な国有企業である。
 河南省煤気社の「義馬ガス工場」(義馬氣化廠)は、従業員数は1,220人で、天然ガス、メタノール、ジメチルエーテル、合成アンモニア、液体酸素、液体窒素、液体アルゴンなどを生産している。義馬ガス工場には、3基の空気分離装置があり、AB号機は7500〜8000N/hの酸素製造用空気分離装置である。発災のあったC号機は、2006年に運転が開始され、既存装置の2倍以上の製造能力を持ち、酸素20,800N/h、窒素11,000N/hアルゴン720N/hである。

■ 「空気分離装置」(Air Separation Unit;ASU)は、空気を分離し、酸素・窒素・アルゴンなどの産業用ガスを製品として製造する装置である。空気分離装置のプロセスには、深冷分離法、吸着分離法、膜分離法の3種類が実用化されている。深冷分離法は、空気を極低温(一般に-170℃以下)まで冷却して液化させ、蒸留により分離する方法で、酸素・窒素・アルゴンなど、空気中の組成物のほぼ全てを高純度で得ることができる。一方、極低温までの冷却が必要となるため、設備が大きくなり、起動に時間がかかるというような欠点がある。なお、酸素量8,000N㎥/h以上の大規模な空気分離装置は、ほぼすべて深冷分離法が採用されている。

 「コールドボックス」(Cold Box)は、外気から精留塔への熱侵入量を抑えるため、精留塔を覆うように断熱材を充填した機器である。内部に精留塔、熱交換器等が内蔵されている。断熱材としてパーライト(真珠砂)を精留塔の周りに充填し、外気からの熱侵入量を減少させている。空気分離装置とコールドボックスの例を図に示す。
深冷分離法による空気分離装置の例とコールドボックスの範
(写真はTn-sanso-plant.comから引用)
                                 空気分離装置のプラント例    (写真はTn-sanso-plant.comから引用)
所 感
■ 空気分離装置は原料流体が空気で、生産物が窒素、酸素、アルゴンという安全な流体である。しかし、深冷分離法の超低温というプロセスが恐ろしい事象を生むということを示す事例である。コールドボックス内の液体酸素の漏れにより、炭素鋼製鋼材が低温脆性で強度を失い、崩壊し、ついで液体酸素タンクの漏れにより何らかの可燃物との接触により、いわゆる液体酸素爆薬のような爆発・火災を引き起こしてしまったとみられる。
 被災写真を最初に見て感じたのは、現場が異常に白っぽいことだったが、事故原因をみると、コールドボックス内に充填していたパーライト(真珠砂)が“砂爆発”で四方に飛散してしまったと思われる。まったく異常な事例である。

■ 今回の事故原因から想起されるのは、生産第一だったのではないかということである。コールドボックス内の酸素の漏れと思われる事象を捉えていたのも関わらず、処置をとらなかったのは、運転を停止することをためらったからだろう。単なる常温の酸素でなく、液体酸素という物質に関する甘い判断があったのではないかと思う。

備  考
  本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Afpbb.com,  中国のガス工場で大爆発 2人死亡 3キロ圏の窓割れる,  July  20,  2019
    ・Jp.sputniknews.com,  中国河南省のガス工場で爆発 10人死亡5人行方不明,  July  20,  2019
    ・Fnn.jp,  中国 ガス工場で大規模爆発 2人死亡 12人不明,  July  20,  2019
    ・Mainichi.jp,  中国・河南省の化学工場爆発 2人不明,  July  19,  2019
    ・Jiji.com,  工場爆発で2人死亡、12人不明=中国河南省,  July  20,  2019
    ・Excite.co.jp,  河南省で工場が大爆発、10人死亡=10日前に「安全ベンチマーク企業」に認定されたばかり,  July  20,  2019
    ・Youtube.com ,  河南省でガス工場爆発 当局は情報封鎖 |新唐人|中国情報,  July  23,  2019
    ・Nhk.or.jp,中国 河南省で大規模な爆発 多くのけが人,  July  19,  2019
    ・Nytimes.com, Gas Plant Explosion in Central China Kills at Least 10,  July  20,  2019
    ・Insurancejournal.com, Death Toll Rises from Chinese Gas Plant Explosion,  July  23,  2019
    ・Financialexpress.com, 10 killed, 19 injured in China gas plant explosion,  July  20,  2019
    ・Gasworld.com,  ASU explosion in China, casualties and missing persons according to local reports,  July  22,  2019
    ・Thechemicalengineer.com,  Gas plant explosion in China kills 15,  July  22,  2019
    ・Hk01.com ,   河南氣化廠爆炸 事故釀10死19重傷 衝擊波致附近房屋坍塌,  July  20,  2019
    ・Tw.weibo.com,  應急管理部通報河南義馬氣化廠“7·19”重大爆炸事故,  July  26,  2019
    ・Std.stheadline.com, 河南氣化廠爆炸15死15重傷,  July  21,  2019
    ・Moread.cc, 義馬爆炸:致15死15重傷 涉事企業曾多次被安監環保處罰,  July  22,  2019
    ・Bj.people.com.cn, 義馬氣化廠“7·19”重大爆炸事故調查組調查工作全面展開,  July  22,  2019
    ・Big5.zhengjian.org, 河南義馬氣化廠大爆炸 15人死256人住院,  July  20,  2019
     ・Pttnews.cc, 義馬氣化廠爆炸事故直接原因查明:裝置“帶病”運行,  July  27,  2019
    ・Baike.baidu.com, 7·19义马气化厂爆炸事故,  July  25,  2019
    ・M.news.cctv.com, 持续关注 | 河南三门峡义马气化厂爆炸事故已致10人死亡19人重伤 仍有5人失联,  July  19,  2019
    ・Xinhuanet.com, 河南义马气化厂爆炸事故已致10人死亡5人失联,  July  20,  2019
    ・New.qq.com, 河南气化厂爆炸已致15人死亡 员工称爆炸时至少200人在岗,  July  20,  2019
    ・Cb.com.cn, 义马之灾,  August 03,  2019


後 記: 報道の中には情報封鎖が敷かれているというものがあり、今回の事故も情報公開がオープンではないかと思いました。しかし、調べてみると、意外に多くのメディアから情報が出されていました。この6月に同じ河南省で起こった「中国・河南省の食品関連工場で二重層タンクが爆発、死傷者11名」では確かに情報がオープンでなかったように感じましたが、今回の事故は被害が広範囲で、情報封鎖を敷くというレベルではありません。おそらく、異常な事故であり、初期には何が起こっているのか分からないという状況にあったと思います。日本のメディアも報道しており、参照しましたが、初期の情報だけで報じているので、あとから見ると、内容は乏しいものです。今回の発災事業者は河南省が関係している国営企業のためか、予備調査の段階で原因について発表されています。速いのは結構ですが、中央政府を意識した責任回避が背景にあるのではないかと思うのはうがった見方すぎるでしょうか。