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2024年1月31日水曜日

米国テキサス州ワイズ郡の原油生産施設で円筒タンク爆発、負傷者1名

 今回は、2023913日(水)、米国テキサス州ワイズ郡ディケーターにある原油生産施設において円筒タンクが爆発・火災を起こし、負傷者1名が出た事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)ワイズ郡(Wise)ディケーター(Decatur)にあるトリニティ・リソーシズ&オペレーティング社(Trinity Resources & Operating, LLC)の原油生産施設である。

■ 事故があったのは、郡道3170号線沿いの700番地にある原油生産施設の円筒タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023913日(水)午前7時頃、原油生産施設でタンクが爆発し、火災となった。

■ ディケーター消防署は、タンクの1基が火災になったという通報に応じて消防隊を出動させた。

■ タンク火災による黒煙が数マイル先の遠くのところからも見えた。発災現場に近い場所に住んでいた住民のひとりは、「家で仕事の準備をしていたところ、大きな爆発音が聞こえ、住宅がガタガタと揺れました。それで外に出てみると、裏庭の方向から大きな煙が立ち昇っているのが見えました」と語っている。

■ 複数ある円筒タンクのうちの1基が炎上していた。頭上では報道用のヘリコペターが飛行し、現場では、爆発したタンクに火がつき、円筒タンクの上部が吹き飛ばされていた。

■ 事故に伴い、ひとりが負傷し、病院へ搬送された。

■ 県道3170号線は緊急車両のため通行閉鎖となった。 

■ 近くの住民に避難命令は出されなかった。

■ ユーチューブなどでは、消防活動状況のニュース番組が投稿されている。

 Youtube1 person injured in Wise County fire at oil and gas facility2023/09/13

 ●NBCDFWOil and gas facility catches fire in Wise County, one injured2023/09/13

被 害

■ 原油生産施設内の円筒タンク1基が焼損した。内液の油分が焼失した。

■ 負傷者1名が発生した。

■ 現場近くの道路が緊急車両の通行のために閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中ということで、分からない。

< 対 応 >

■ 消防活動はディケーター消防署が指揮をとり、近隣のボイド消防署、ブリッジポート消防署、ワイズ郡消防保安局などの支援を受けた。しかし、消防隊は、「火災を制圧下に入れ、自然に燃え尽きるまで待つことになる。この施設は水源に恵まれており、ホットスポットが発生しないようにできる」と語っている。

■ 発災日の913日(水)昼の時点で、消防隊は郡道3170号線沿いにある施設で延焼を防ぐための活動を続けている。

補 足

■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約2,900万人の州である。

「ワイズ郡」(Wise)は、テキサス州の北に位置し、人口約68,000人の郡である。

「ディケーター」(Decatur)は、ワイズ郡の中部に位置し、人口約6,500人のワイズ郡庁所在地の町である。

■「トリニティ・リソーシズ&オペレーティング社」(Trinity Resources & Operating, LLC)は、独立系原油・天然ガス事業のトリニティ・ オペレーティング社の関係会社で原油生産施設を直接運用している。トリニティ・ オペレーティング社は、テキサス州ヒューストンに本社を置き、テキサス州のほかルイジアナ、オクラホマで事業を展開している。

■「発災タンク」は、郡道3170号線沿いにある原油生産施設の円筒タンクである以外、詳細仕様はわからない。グーグルマップで調べると、被災写真にあるタンク設備の施設があるのがわかった。発災タンクの直径は約3.5mで、高さを4mとすれば、容量は約38KLである。発災写真を見ると、タンク屋根が噴き飛んで40mほど離れたところに落下しており、かなり激しい爆発があったものと思われる。

所 感

■ 事故要因に関する情報は報じられていないので、事故原因はわからない。発災タンクは単なる土盛りがあるエリア内に建っている円筒タンクである。 この側にあるコンクリート製の防油堤に設置されているのが原油用のタンク設備とみられる。発災タンクは、本来、爆発するような液体ではなく、油井注入の水やケミカル用の円筒タンクではないだろうか。タンク屋根が噴き飛んで40mほど離れたところに落下しており、激しい爆発があり、負傷者が1名出ているので、設備の不具合や運転の不調が関連しているのかも知れない。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回は原油生産施設の油用タンクではなく、付帯設備の円筒タンクであり、燃焼油量が多量でないと判断したためか、近くのタンクや設備などに延焼しない冷却を優先した防御的戦略をとられている。   

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Nbcdfw.com, Oil and gas facility catches fire in Wise County, one injured,  September  13,  2023

    Wcmessenger.com, Battery tank explodes, ignites blaze,  September  13,  2023

    Cbsnews.com, 1 person injured after fire breaks out at Wise County oil & gas facility,  September  13,  2023     


後 記: テキサス州は今回のような陸上原油生産施設の数が多いところです。その所為(せい)か、タンク火災への消防活動が落ち着いており、必死さは感じられません。燃えているタンクに入っている液体や量の情報が入っているのでしょう。日本だと、炎を見れば何としても消さなくてはならないという気持ちになるのは、木造建築で延焼の危険性が高いという風土から来ているように思います。事実、この11日の能登半島地震では、朝市で有名なところが広範囲に焼ける火災がありました。実際、眼前で事故による火を見ると落ち着いてはおれませんが、沈着冷静な態度は必要ですね。 

2024年1月25日木曜日

ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災

 今回は、2024119日(金)、ロシアのブリャンスク州クリンツィにある石油貯蔵施設において無人航空機(ドローン)による攻撃で燃料用貯蔵タンク4基が火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシア(Russia)ブリャンスク州(Bryansk)クリンツィ(Klintsy)にある石油会社;ロスネフチ社(Rosneft)の石油貯蔵施設である。 

■ 発災があったのは、クリンツィにあるクリンツォフスカヤ石油貯蔵施設の燃料用貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2024119日(金)午前640分頃、ロシア西部の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)による攻撃によって火災が起こり、4基の燃料用貯蔵タンクに燃え広がった。

■ ブリャンスク州知事によると、無人航空機(ドローン)は撃墜したが、無人航空機に搭載していた爆弾によって石油貯蔵施設で大規模な火災が起きたと明らかにした。ロシア国防省は、ウクライナの無人航空機(ドローン)1機を妨害電波により撃墜したが、積んでいた弾薬がクリンツィの石油貯蔵施設の敷地に落下したと発表した。ブリャンスク州のほかの地域でも、防空部隊が2機のウクライナの無人航空機(ドローン)を撃墜したという。

(注) ドローン攻撃への対策には、高出力レーザーや高出力マイクロ波でドローンを撃墜したり、網で捕獲したりするなど複数の手段がある。中でも、実用化が先行しているのが電波探知妨害装置である。   

■ 被災した燃料用貯蔵タンク4基の総容量は6,000KLであり、施設から巨大な黒煙があがっていて、火災面積は約1,000㎡だという。

■ 攻撃による死傷者は出なかった。

■ 発災に伴い、消防隊140人と消防車5台が消火活動を開始した。さらに、特殊消防列車が消火水120トンと泡薬剤5トンを積んで現場に到着した。火災の状況は、クリンツィ駅エリアの列車の交通に影響を与えなかった。

■ 発災に伴い、石油貯蔵施設の近くを通っている道路が交通閉鎖された。事故現場付近のクリンツィ駅に到着した列車の乗客によって撮影された映像がソーシャルネットワークに公開されたが、火災のため迂回を余儀なくされている。

■ 120日(土)、クリンツォフスカヤ石油貯蔵施設の火災は2日目も続いた。無人航空機(ドローン)の爆発後、燃料用タンクに引火して火災になったもので、状況は制御下にあるいわれているが、火災の影響や消火活動の完了については報告されておらず、2日目も消火活動を続けているとみられる。火災の範囲が広がり、ほぼ2,000㎡に達した。

■ 石油貯蔵施設近くの住民32人が避難した。

■ ウクライナ国境に近いロシアの都市ベルゴロド市は、ウクライナの無人機攻撃の脅威を理由に、119日(金)に行われる予定だった伝統的な正教会の公現祭の祭りを中止した。ロシアで無人航空機(ドローン)の脅威により主要な公共イベントが中止されたことが知られるのはこれが初めてである。

■ 120日(土)午前9時、石油貯蔵所施設近くの道路に加えて、クリンツィの4つの通りが緊急車両を通行させるために閉鎖された。

■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

 YoutubeHuge fire at Russian oil depot after Kyiv’s cross-border drone attack2024/01/19

 ●YoutubeRussian oil depot catches fire after Ukrainian drone downed2024/01/19

 ●YoutubeUkrainian drone destroys Russian oil tanks in Bryansk2024/01/19

被 害

■ 総容量6,000KLの燃料用貯蔵タンク4基が損壊・焼損した。内部の燃料が焼失した。

■ 死傷者はいなかった。

■ 近くの住民32人が避難した。石油貯蔵施設近くの道路が閉鎖された。

■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 120日(土)、石油貯蔵施設の火災は2日目も続いた。鎮火したという報告は報じられていない、

■ ロシアでは、118日(木)にも、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの港の石油ターミナルに対してウクライナ軍によるものとみられる攻撃が行われていた。サンクトペテルブルクの石油港が無人航空機(ドローン)による攻撃で火災になったとしてロシアがウクライナを非難したが、その翌日に今回のタンク火災が起きた。ウクライナ当局者は、この目標を攻撃するために国産の無人航空機(ドローン)を使用したことを認めた。この無人航空機(ドローン) は1,200km以上の距離を移動したといわれている。ウクライナがロシア国内での攻撃について犯行声明を出すことはめったになかった。

■ 専門家によると、クリンツィは、ロシア国防省の利益のために行われている燃料と潤滑油の輸送と物流のため、ブリャンスク地域の重要な中継拠点である。ロシア軍の需要も含め、燃料と潤滑油はこの石油貯蔵施設から送られていた。 

■ 2024121日(日)、ロシア天然ガス会社のノバテク社は、サンクトペテルブルク西方約170kmのフィンランド湾で運営している大型製油輸出ターミナルの一部の操業停止を余儀なくされたと発表した。ウクライナの無人航空機(ドローン)攻撃に伴い火災が発生したとみられる。このターミナルは、天然ガスコンデンセートを軽質ナフサ留分、重質ナフサ留分、灯油、軽油などに分離精製処理し、国際市場向けにタンカーへ積込む施設である。操業停止や市場への影響などは現段階では分かっていない。

補 足

■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,300万人の連邦共和制国家である。2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」 202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

  ●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」20234月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」20235月)

  ●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」20236

「ブリャンスク州」(Bryansk)は、ロシアの西部に位置し、人口約117万人のロシア連邦直属の州である。南はウクライナと接している。 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の影響を受けた地域である。

「クリンツィ」(Klintsy)は、ブリャンスク州の西部に位置する人口約7万人の町である。

■「ロスネフチ社」(Rosneft)は、1993年に設立されたロシア最大の国営石油会社である。ソビエト連邦時代のソ連石油工業省を母体に設立された。ロシア国内のサハリン、シベリア、ティマン=ペチョラ行政区、チェチェンを含む南ロシアにおいて原油と天然ガスを生産している。

「クリンツォフスカヤ石油貯蔵施設」はクリンツィにあり、この地域にあるブリャンスクネフテ社 (ロスネフチの一部) 2つの石油貯蔵施設のうちのひとつである。同社自体は、独自の給油所ネットワークを通じて自動車燃料の小売りも実施している。

 このブログでロスネフチ社のタンク事故を紹介したのは、つぎのとおりである。

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」20225月)

  ●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」20236月)

■「発災タンク」は、クリンツォフスカヤ石油貯蔵施設にある4基の燃料貯蔵タンクで、総容量は6,000KLと報じられている。グーグルマップで調べると、クリンツィ駅付近に石油貯蔵施設があり、貯蔵区域にはタンクは9基ある。被災写真と見比べると、同径で比較的大きいタンク4基が発災タンクだと分かる。これらのタンクは固定屋根式タンクで直径約13mであり、高さを12mとすれば、容量は1,520KLとなる。4基で6,080KLとなり、報じられている総容量に近い。


所 感

■ 近年、海外や日本ではドローンを活用し始めており、このブログでも事例を紹介し、推奨している。しかし、戦争で使用される無人航空機(ドローン)が進化することは認めがたい。一方、貯蔵タンクを運営する事業者や公的機関にとって攻撃型無人航空機(ドローン)の動向は、テロ対応上、知っておく必要があろう。このテロ対応上から今回の事例を見てみる。

 ●無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化している。今回の被災タンクは直径約13mで容量1,500KLクラスと比較的小型であるが、一度に4基が被災し、そのうち、1基は明らかにタンクが傾斜するほどの損壊を受けている。

 ●この傾斜したタンクが爆弾によるものか、タンク爆発によるものかは別にして、タンク側板と底板の接続部が破損し、油が流出して防油堤内での火災につながったものと思う。この堤内火災がタンク4基の被災になったのだろう。

 ●消火活動は、特殊消防列車が出動し、現場ではスクアート車が配置されているので、消火資機材は整っていたものと思われる。しかし、火災は2日目も続いており、堤内火災と複数タンク火災が複合すれば、容量1,500KLクラスの火災でも対応できていない。日本でも、堤内火災と複数タンク火災には対応できないと思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Nhk.or.jp, ロシア石油貯蔵施設で火災 双方でインフラ施設への攻撃強まる,  January  20,  2024

      Jp.reuters.com,  ロシア西部石油基地で火災、ウクライナのドローン撃墜で=当局者,  January  19,  2024

      Newsyou.info, ロシア連邦では2日目、石油貯蔵所の消火活動が行われている(ビデオ),  January  21,  2024

      Vietnam.vn, ロシアの石油倉庫で火災が相次ぎ、ウクライナによる攻撃の疑い,  January  20,  2024    

      Rferl.org,  Ukrainian Drone Sets Oil Depot On Fire In Russia's Bryansk Region, Says Governor,  January  19,  2024

      Bbc.com,  Ukraine war: Russian oil depot hit in Ukrainian drone attack,  January  20,  2024 

      Cbsnews.com,  Russia oil depot hit by Ukrainian drone in flames as Ukraine steps up attacks ahead of war's 2-year mark,  January  19,  2024

      Voanews.com,  Ukrainian Drones Strike Russian Oil Reservoirs,  January  19,  2024

      Rbc.ru,  Площадь пожара на нефтебазе в Брянской области достигла 1 тыс. кв. м,  January  19,  2024

      Bragazeta.ru,  Пожар на нефтебазе в Клинцах не удалось потушить до сих пор,  January  19,  2024    


後 記 20222月にロシアがウクライナに侵攻してから2年近くになりました。無人航空機の攻撃戦術は確実に進んでいるようです。202211月頃からタンクへの攻撃方法(どこに命中させれば被害が大きくなるかなど)を試していると感じていましたが、今回の事例では堤内火災と複数タンク火災を発生させています。以前は攻撃の実行者が正確にいえば不明だったのですが、今回からはウクライナが攻撃を認め始めています。この不幸な事態はそろそろ収めなければ、無人航空機による全面的な戦争になりかねません。このブログは戦争による軍事行動(平常時の“故意の過失”)は基本的に対象にしていません。無理にテロ対応からの視点でまとめていますが、終わりにしたいですね。

2024年1月22日月曜日

ブラジルでエタノール・タンク爆発の瞬間を監視カメラが撮影

 今回は、約2年前の2022928日(水)、ブラジルのアラゴアス州にあるバイオ燃料会社ウシナ・カエテ社)の工場でエタノール用貯蔵タンクが爆発し、火災になった事例を紹介します。この事故では監視カメラで爆発の瞬間がとらえられています。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、ブラジル(Brazil)アラゴアス州サン・ミゲル・ドス・カンポス(São Miguel dos Campos)にあるバイオ燃料会社であるウシナ・カエテ社(Usina Caetés)の工場である。

■ 事故があったのは、工場内のエタノール用貯蔵タンクである。

        

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022928日(水)、午前750分頃、工場内のエタノール用貯蔵タンクが爆発し、火災となった。

■ アラゴアス軍消防署(Corpo de Bombeiros Militar de AlagoashttpsCBMAL)の監視カメラがとらえた画像には、エタノールタンクが爆発した瞬間の映像が映っていた。







■ 発災に伴い、軍消防局が出動した。消防部隊20人と車両5台が現場に派遣され、消火活動が行われた。工場からは給水車数台が支援に出た。

■ 住民らは発災現場から遠く離れた場所でも揺れを感じたという。市内からはタンクから出る煙と炎が確認された。

■ 同社の従業員2名が負傷した。従業員のひとりは工場の外来診療所で治療を受け、退院した。もうひとりは熱傷を負い、市の緊急治療室に搬送された。

■ ユーチューブなどには爆発の瞬間を含む火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。(注記;映像に写っている左端の警備員詰所は別の会社の建物の詰所とみられる。また、道路は公道である)

  YoutubeVideo flagra momento exato de explosão em tanque de álcool na Usina Caeté em São Miguel dos Campos2023/09/29

 ● YoutubeCâmera de segurança flagra momento em que tanque de álcool explode em usina de São Miguel dos Campos2023/09/28

 ● Facebook、「CCTV footage shows the explosion of the storage tank at USINA CAETE in Brazil2023/09/28

 ● YoutubeÁrea de tanques de etanol explode na Usina Caeté e deixa duas pessoas feridas2023/09/28

被 害

■ エタノール貯蔵タンク1基が焼損した。タンク内液の燃料油が焼失した。 

■ 2名の負傷者が出た。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中で、報じられていない。

< 対 応 >

■ ウシナ・カエテ社は、爆発後に最初にとられた措置について新たな事故を避けるため、エタノールクとを冷却するとともに、発災区域から避難させることだったと発表した。

■ 現場に出動した軍消防局の消防隊によって鎮圧されるまで、5時間以上かかった。

■ ウシナ・カエテ社は、爆発の原因を調べることとし、「エタノールタンクが爆発したとき、容量は5%になっていた。従業員2名だけが負傷したが、重傷ではなかった。何が起こったのか調査中である」と語った。

■ 労働省は爆発の原因を究明するために調査を開始すると発表した。


補 足                                                                          

■「ブラジル」 (Brazil)は、正式にはブラジル連邦共和国(Federative Republic of Brazil)といい、南アメリカに位置し、国土面積は日本の22.5倍を有し、人口約21,330万人の連邦共和制国家である。首都はブラジリアである

「アラゴアス州」(Estado de Alagoas)は、ブラジル北東部に位置し、大西洋に面しており、人口は約335万人である。

「サン・ミゲル・ドス・カンポス」(São Miguel dos Campos)はアラゴアス州の東部に位置し、人口約61,000人の自治体である。経済は石油、天然ガス、サトウキビ、畜産、砂糖、セメント産業がある。

■「ウシナ・カエテ社」(Usina Caeté)は、砂糖、エタノール、バイオ発電の事業を展開しており、アラゴアス州とサンパウロ州に拠点を置き、ブラジル国内に8,000人以上の直接雇用を生み出している。

■「発災タンク」の仕様は報じられていないが、グーグルマップで調べると、固定屋根式で直

径は約42mである。高さを15mとすれば、容量は約20,700KLとなる。爆発時の動画の映像を見ると、火災になってから3分も経たないうちに、側板の下部近くまでが火炎に焼けて黒くなっている。このことから、タンクには油が下部近くまでしか入っていなかったことを示す。ウシナ・カエテ社は、爆発時、タンクには容量の5%しか入っていなかったと述べており、上記の推測からすれば、タンクには液位約0.75m、油量約1,000KLが入っていたとみられる。

所 感

■ 爆発の瞬間は映像に撮られているが、爆発の原因はわかっていない。爆発状況を見ると、タンク内から燃焼炎がタンク屋根と側板の溶接弱部の破断部から噴出している。このあと、破断したタンク屋根が噴き飛んでいる。このことから、爆発はタンク通気口から外部に漏出したガスに着火したものでなく、タンク内部で発火したものと思う。着火源は、タンク内に存在していたスラッジに含まれていた自己発火性の物質(硫化鉄など)や静電気などが考えられる。なお、エタノール(C2H6O)の爆発限界は下限3.3%~上限19.0ol%であり、エタノールをタンクから抜き出した際、通気口から空気が流入し、爆発限界内に入る可能性は高いとみられる。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回は爆発が起こっていることやタンク内のエタノール量が多くないことを考慮して、近くのタンクや設備などに延焼しない冷却を優先した防御的戦略をとられたと思う。側板が座屈してしまった燃焼終盤に泡放射し、鎮火に至ったものとみられる。しかし、火災は防油堤に生えていた草が燃えるほどだったので、タンク内部にエタノールが一杯に入っていたら、5時間で制圧できていない。直径42mのタンクの全面火災では、10,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要で、映像を見る限り消防隊の資機材では対応できていないだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

    Brazil.postsen.com, Video shows moment of tank explosion at power plant in the interior of Alagoas,  September  29,  2022

    G1.globo.com, Tanque de combustível de usina explode em São Miguel dos Campos, AL,  September  29,  2022

    Ojornalextra.com.br, Tanque de álcool explode e provoca incêndio na Usina CaetéTanque de álcool explode e provoca incêndio na Usina Caeté.,  September  29,  2022

    Alagoasweb.com, Após cinco horas de trabalhos bombeiros apagam incêndio em reservatório de álcool da Usina Caeté em São Miguel dos Campos,  September  29,  2022


後 記: 今回の事故は最初に爆発の瞬間を撮った動画を見ました。2年前に起こった事故なので、報道記事は期待せず、既設タンクの爆発の瞬間だけを紹介しようと思いました。爆発原因は分かりませんでしたが、被災写真は割合多く投稿されていました。このブログでは、「ロシアのタタールスタン共和国で工事中の空のタンクが爆発、死者2名」202311月)に続いて爆発の瞬間をとらえた監視カメラの映像です。日本でも監視カメラの設置数が多くなりました。監視社会が良いことかどうかは一概にいえませんが、タンク事故では、これまで考えていなかった実映像を見ることができる世の中になっていると感じます。 







2024年1月15日月曜日

アルゼンチンのブエノスアイレス製油所で落雷によるリムシール火災

 今回は、202417日(日)、アルゼンチンのブエノスアイレスにあるライゼン社のブエノスアイレス製油所で原油貯蔵タンクに落雷があり、リムシール火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、アルゼンチン(Argentina)のブエノスアイレス(Buenos Aires)アベジャネーダ地区(Avellaneda)ドック・サッド(Dock Sud)にあるライゼン社(Raízen)のブエノスアイレス製油所である。製油所は、主にシェル(Shell)のサービスステーションに燃料を供給している。

■ 事故があったのは、アベジャネーダ地区ドック・サッドにある製油所内の原油貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202417日(日)午後5時頃、ブエノスアイレス首都圏(AMBA)を襲った嵐によってブエノスアイレス製油所の原油貯蔵タンクに落雷があり、火災が発生した。

■ タンク上部のリムシール部から炎が上がり、黒煙の柱は数km離れたところからも見えた。

■ ライゼン社と近隣住民から火災の通報があった。製油所の緊急時対応チームの自衛消防隊と公設消防の消防隊が出動した。

■ 事故に伴う死傷者はいなかった。

■ 火災は夜まで続いた。

■ ブエノスアイレス近郊では激しい雷雨が発生したため、伝統的なヘスス・マリア馬場馬術・民俗祭典は第2夜を中断せざるを得ず、約250人の避難者が記録され、一部の地域では220mm以上の雨が降った。

■ ユーチューブでは、リムシール火災の映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

  YoutubeEXPLOSIÓN EN DOCK SUD I Un rayo impactó en un tanque de petróleo crudo de una destilería2024/01/09

 ● YoutubeCayó un rayo sobre un tanque de petróleo crudo en una destilería de Dock Sud2024/01/09

被 害

■ タンクのリムシール部が火災で損傷した。内部の原油が一部焼失した。

■ 負傷者は出なかった。 

< 事故の原因 >

■ 火災の原因はリムシール部の漏出ガスへの落雷による引火である。

< 対 応 >

■ 火災は数時間続き、鎮火した。

■ ライゼン社は、「緊急事態対応基準が適切に機能し、状況を即座に制御して事故による影響を受ける人も出ずに、数時間で消火に成功した」と述べた。

補 足

■「アルゼンチン」(Argentina)は、正式にはアルゼンチン共和国で、南アメリカの南部に位置し、人口約4,500万人の連邦共和制国家である。アルゼンチンは、アンデスの山々、氷河湖、大草原パンパ、伝統的な牛の放牧地などがあり、タンゴや音楽でも有名である。

「ブエノスアイレス」(Buenos Aires)は、正式にはブエノスアイレス自治市(Ciudad Autónoma de Buenos AiresCABA)で、アルゼンチンの首都で州には属さず、ほかの23州とともにアルゼンチンを構成する。人口は都市部で312万人、 都市圏で1,560万人である。

「アベジャネーダ地区」(Avellaneda)は、ブエノスアイレス都市圏の南部に位置し、ラプラタ川の海岸にあり、人口約342,000人である。

■「ライゼン社」(Raízen)は、ブラジルのエネルギー会社で、シェル社(Shell)とコーサン社(Cosan)の事業の一部が統合されて設立された合弁会社である。砂糖とエタノールの生産・燃料流通・発電部門に事業を展開している。 201810月、ライゼン社はアルゼンチンのブエノスアイレスにあるシェル社の製油所を買収し、アルゼンチンに進出した。

■「発災タンク」は、原油用の浮き屋根式タンクと報じられている。グーグルマップでライゼン社のブエノスアイレス製油所を見てみると、海側に発災タンクと思われるエリアがある。これをグーグルアースの3Dで見てみると、被災写真にあるタンク番号3(発災タンク)やタンク番号3334のタンクがあった。これにより発災タンクが特定できた。この発災タンクの直径は約58mで、高さを20mと仮定すれば。容量は52,800KLとなる。

■「リムシール火災」は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、「リング火災」とも呼ばれる。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を採用した浮き屋根式タンクがある。アルゼンチンのタンク施設でどのようなリムシールが採用されているか分からない。日本では、タンクには固定式泡消火設備を設けることになっているが、アルゼンチンのタンク設備に固定式泡消火設備は使用されていない。

 最近のリムシール火災の事例は、つぎのとおりである。

 ● 202312月、「米国バージニア州のプレインズ社のタンク基地でリムシール火災」

 ● 20217月、「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」

所 感

■ 今回のタンク火災の原因は落雷である。リムシール火災の原因としては、落雷またはメカニカルシールの金属接触による火花によるものが多いので、典型的なタンク火災のひとつである。ブエノスアイレス近郊では激しい雷雨が発生し、洪水が発生したところもあるという。日本でも、気候変動による異常天候が発生し、雷発生の頻度は多くなり、激しい落雷が普通になっている。日本で落雷によるリムシール火災などタンク火災が起こる可能性があることを再認識させる事例である。

■ 今回の事例では、消火活動の詳細な状況はわからない。被災写真では、四方から放水をしている状況が写されており、これはタンク側板を冷却していると思われる。しかし、タンクには固定泡消火設備が設置されていないので、これだけでは鎮火に至らない。大型高所放水車やはしご車によって泡モニターで泡消火作業を行わなければならない。一方、鎮火までに数時間を要しており、消火資機材が不十分だったため、消防士がタンク側板の階段頂部に昇り、泡モニターによってリムシール部に消火泡を投入して消火させたのかもしれない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Clarin.com, Dock Sud: se incendió el tanque de una refinería tras la caída de un rayo,  January  08,  2024

     Tn.com.ar, Dock Sud: un rayo provocó el incendio del techo de un tanque de petróleo crudo en una destilería,  January  08,  2024

      Periodiconuevaepoca.com.ar, Incendio en Dock Sud: un rayo desencadenó fuego en un tanque de petróleo,  January  08,  2024

      Mejorinformado.com, VIDEO: Un rayo reventó un tanque de petróleo crudo en una destilería,  January  07,  2024

      Canal26.com, Dock Sud: un rayo provocó la explosión y el incendio de un tanque de petróleo en una destilería,  January  07,  2024

      Diarioconvos.com, Un rayo provocó el incendio de un tanque de petróleo en Avellaneda,  January  08,  2024

      Noticiasnqn.com.ar, Un rayo provocó la explosión de un tanque de petróleo crudo en una destilería Raizen,  January  07,  2024


後 記: 2024年は能登半島地震で始まり、続いて羽田空港で日本空港の旅客機と海保の飛行機が衝突して火災事故があり、波乱の年明けでした。今回の落雷によるタンク事故をまとめている最終段階で、大学ラグビー選手権の決勝(113日)が国立競技場でありましたが、途中で落雷の可能性が発生したため、約1時間中断しました。ラグビーは雨が降ろうが、雪になろうが試合を行うスポーツですが、東京で行われる試合で雷によって中断するとは思いもしませんでした。落雷によるリムシール火災をまとめていましたので、余計に落雷のこわさを感じる年明けになっています。