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2026年8月16日日曜日

ブラジルで有害なスチレンモノマーが貯蔵タンクから流出、住民204名が治療

 今回は、2026715日(水)、ブラジルのアマゾナス州マナウス南部工業地区にある石油化学会社イノバ社の第4ユニット(石油化学貯蔵エリア)のスチレンモノマー用貯蔵タンクで重合によってスチレンモノマーが流出し、住民204名がスチレンモノマーのベーパーを吸って息切れ、めまい、吐き気、失神などの症状を呈し、治療を受けた事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ブラジル(Brazil)アマゾナス州(Amazonas)マナウス(Manaus)にある石油化学会社イノバ社(Innova)のプラントである。

■ 事故があったのは、マナウス南部工業地区にあるイノバ社の第4ユニット(石油化学貯蔵エリア)のスチレンモノマー用貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026715日(水)午後520分頃、 プラント内にあった貯蔵タンクから有害性のスチレンモノマーが漏洩するという事故が発生した。

■ プラント内には、3基のスチレンモノマー用貯蔵タンクがあったが、漏洩があったのは、そのうちの1基である。イノバ社によると、タンク内の製品の温度が異常に上昇したため、爆発を避けるため、機器の安全装置によってベーパーが制御された状態で放出されたという。スチレンモノマー貯蔵タンク内で異常な化学反​​応が発生したとみられる。

■ 発災にともない、イノバ社の自衛消防隊とともにアマゾナス州軍消防局が出動した。

■ 漏洩発生直後に作業員が撮影し、ソーシャルメディアで拡散された動画は、事態の深刻さを物語っている。映像には、タンクから立ち昇る濃い白い煙が会社の敷地内に急速に広がっていく様子が映っている。流出するベーパーの激しさに、現場や近隣の工場にいた従業員は恐怖を感じた。

■ 危険な状況が発生した後、同社は直ちに社内の専任消防隊を現場に派遣してリスク管理作業を実施するとともに、アマゾナス州軍警察消防局に緊急連絡を取り、連携した消火活動のため現場へ急行するよう要請した。複数の消防隊が同時にタンクの冷却、ガス監視、区域隔離作業を実施した。イナバ社は、社内で定めた緊急対応手順に従って速やかに事態の収束を図った。

■ スチレンモノマーは、プラスチックやゴムの製造に使用される化学物質で、加熱すると蒸発し、強い臭気を発する。暴露すると、目、鼻、喉の炎症のほか、頭痛、めまい、吐き気などの症状を引き起こす恐れがある。 民間防衛当局は、市民に対し、開放的で換気の良い場所に留まり、空気の循環を促すためにドアや窓を開け、エアコンや換気システムなど外部の空気を取り込む機器の電源を切るよう勧告した。

■ 呼吸器系の炎症、めまい、吐き気などの急性曝露症状のため、当初、16名が医療トリアージを必要としたと報じられていた。その後、医療機関に治療を受けたひとの数は増えていった。

■ 当局は、今回の事態を受けて隔離された区域を漏洩が発生したタンクを中心とした半径300mの範囲であると発表した。イノバ社の隣にある会社は避難措置が取られ、封鎖状態が継続されている。現場への立ち入りは、消防署、アマゾナス州軍警察、民間防衛隊、保健機関など事故対応に携わる関係者のみが許可された。

■ アマゾナス州軍消防局などの対応チームは、スチレンモノマーの漏洩を抑えるため、タンクの冷却作業を行った。

■ スチレンモノマーは温度変化によって変化し続ける。タンクの冷却中、作業員が注入する水は、蒸発や凝固などのプロセスを経て変化する製品の温度を制御するのに役立つ。そのため、初期段階で事態が収束した後も、少量のベーパーが放出される可能性があり、消防隊員は、タンクの温度上昇や新たな危険の発生を防ぐため、引き続き状況を監視した。

■ ガス漏れにより、学校や工業地区の企業が活動を停止した。

■ マナウス市長は、工業地区でスチレンガスが漏洩したことを受け、市内は厳戒態勢にあると述べた。

■ 州政府は安全対策として、漏洩箇所周辺地域の即時避難を勧告し、緊急対応要員が事態を収拾するまで工業地区を通って移動するのを避けるよう市民に呼びかけた。

■ 当局は、周辺地域に住む人たちに、ドアや窓を開けたままにし、換気システムやエアコンの電源を切るよう勧告した。スチレンを吸入したり、接触したりすると中毒を引き起こす可能性があるので、めまい、吐き気、呼吸困難、皮膚や目の炎症などの症状が現れた場合は、できるだけ早く医療機関を受診するよう呼びかけた。

 アマゾナス州民間防衛局は、住民に対し以下の予防措置を講じるよう呼びかけた。風通しの良い開放的な場所に滞在する、空気の循環を促すため、ドアや窓を開けておく、エアコンや換気システムなど、外気を取り込む機器の電源を切っておく、影響を受けた地域またはその近隣にいる人は、直ちに漏洩現場から離れ、市内の別の安全な場所に避難する、追って通知があるまで、工業地区および周辺地域への移動は避ける。

■ フェースブックなどでは、流出事故の状況を伝える動画が投稿されている。

  ●FacebookProcess Safety Case Study: Styrene Monomer Release in .2026/7/15

  ●Linkedin.comStyrene Monomer Leak at Innova Petrochemical Plant in ..2026/7/15

被 害

■ スチレンモノマー用貯蔵タンク1基の機能が喪失し、タンク内部から重合したスチレンモノマーが流出した。

■ 近くの住民に避難指示が出された。

■ 住民204名がスチレンモノマーのベーパーを吸って息切れ、めまい、吐き気、失神などの症状を呈し、治療を受けた。 

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、タンク内の製品の温度が異常に上昇したため、爆発を避けるため、機器の安全装置によってベーパーが制御された状態で放出されたという。スチレンモノマー貯蔵タンク内で異常な化学反​​応が発生したとみられる。異常な反応へ至った原因は調査中である。

< 対 応 >

■ イノバ社は、今回の事案は同社の緊急時対応手順に従って対処され、発生した廃棄物はすべて適切な処理のために保管されたと報告した。同社はまた、火災は発生しておらず、封じ込め区域外への液体製品の漏洩もなく、被害者の報告もないといい、「事態は、当社が定めた緊急時対応手順に従って速やかに収束した」と述べた。

■ スチレンの漏洩が発生してから24時間以上が経過したが、アマゾナス州軍消防局の対応チームは、716日(木)も引き続きタンクの冷却作業を行った。対応している消防隊によると、タンクの温度制御作業中、漏洩するベーパーがまだ放出されているが、その割合は前日(715日)に記録されたものよりは低いという。

■ アマゾナス州保健局によると、717日(金)午前中までに、この事故に関連して公衆衛生ネットワークで治療を受けた人は204人だったという。治療を受けた人々は、息切れ、めまい、吐き気、失神などの症状を呈していた。そのうち192人の患者が退院し、11人が入院中である。なお、1人の死亡が確認されたが、死亡と漏洩との直接的な関連性は見つからなかったと報告されている。

■ 当局は、事件の原因を究明するための調査を実施すると述べた。製品が過熱した原因について、タンク内部での自然発生的な反応だといい、「あらゆる状況から判断すると、タンク内部で自然発生的な反応が起こっていると考えられます。スチレン分子が分解されると、連鎖反応が起こり、生成物が過熱されます」と説明した。また、安全弁が作動しなかった場合、その反応は爆発や火災を引き起こす可能性があったといい、「イノバ社の事例では、タンクの安全弁が開いていました。タンク内の製品が高圧状態にあったため、垂直方向の噴流として漏れが観測されました」と述べた。

■ イナバ社は、「マナウス市民の皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。当社は、このような事態の再発防止に必要なあらゆる措置を講じるとともに、関係当局およびその他すべての関係者に対し、必要な情報提供や説明をで行います」と発表した。

■ マナウス市はイノバ社に450万レアルの罰金を科した。マナウス市の環境・持続可能性事務局、都市計画研究所、保健事務局および市民保護・防衛執行事務局によって構成されたタスクフォースによる技術検査の結果、大気汚染レベルが人体への曝露に関して安全とみなされる基準値を上回っていることが判明した。罰金に加え、イノバ社は、20日以内に、技術安全報告書、緊急時対応計画、緊急対応計画、排水に関する情報、および処理能力に関する情報を提出しなければならない。

■ 今回の事例では、安全弁は設計どおりに作動した。しかし、都市全体が警戒態勢に入った。ブラジルのマナウスにあるイノバ石油化学プラントで報告されたスチレンモノマーの漏洩は、安全システムが機能しているからといって、必ずしもリスクがなくなったわけではないことを思い起こさせる。貯蔵タンク内で異常な状態が発生すると、安全弁が容器を壊滅的な損傷から保護するが、放出された有害性のベーパーはプラントの境界を超えて新たな危険を生み出す可能性がある。これが、定量的リスク評価(QRA)と結果分析が重要な理由である。たとえば、緊急事態が発生する前に、つぎのような質問に適切に答えることができるか。

 ① 有毒なベーパーはどのくらい遠くまで広がる可能性があるか?

 ② どの地域社会と資産が危険にさらされているか?

 ③ 緊急対応計画は現実的な拡散シナリオに基づいているか?

 ④ 安全対策は、敷地外への影響を軽減するのに十分か?

 重大な事故は、爆発や火災だけで定義されるわけではない。制御された放出でも、事業継続とともに、従業員や一般市民に大きな影響を与える可能性がある。

補 足

■「ブラジル」(Brazil)は、正式にはブラジル連邦共和国で、南アメリカに位置する人口約21,200万人の連邦共和制国家である。首都はブラジリアである。

「アマゾナス州」(Amazonas) は、ブラジルの北西部に位置し、人口約394万人の州で、州都はマナウスである。

「マナウス」(Manaus)は、アマゾナス州の北に位置し、人口約208万人の市である。

「イノバ社」(Innova)は、正式にはVideolar-Innova S.A.で、ブラジルの石油化学・プラスチック加工企業であり、スチレン系樹脂を専門とする企業である。プラスチック事業を展開してきたVideloarグループが、Petrobrasから取得した石油化学資産を統合し、2015年に設立された。プラントは、マナウス(アマゾナス州)、トリウンフォ(リオグランデ・ド・スル州)、モンテネグロ(リオグランデ・ド・スル州)に配置されており、中でも第4ユニットは、マナウスにある石油化学製品の貯蔵・移送専用プラントであり、常圧のスチレンモノマー貯蔵タンクを備えている。この第4ユニットは、地元の電子機器、食品包装、日用品産業チェーンに基礎化学原料を供給しており、工場には150名が勤務しており、5交代制で操業している。

■「スチレンモノマー」は、分子式はC8H8で、無色透明の液体で特有の強い臭いがある。ポリスチレンやABS樹脂等のプラスチックやゴム・塗料の原料となる化学物質である。一般的には、原油やナフサなどから得られたエチレンとベンゼンを化学反応させてできるエチルベンゼンから、水素を取り除くという製法で作られる。スチレンモノマーは、単にスチレンと呼ばれることもある。モノマーとは単体(1つの分子)のことであり、それがたくさんつながったポリマー(ポリスチレンなど)と区別するために、原料としての液体の状態を「スチレンモノマー」と呼ぶ。

 スチレンモノマーは、加温や光、酸化剤、酸素および過酸化物の影響下で重合することがあり、特に、貯蔵タンクでは、ベーパーが制約されておらず、温度上昇があれば重合し、さらに生じた熱で最終的に暴走反応につながることがある。

「発災タンク」の大きさなどの仕様については報じられていない。グーグルマップで調べると、直径は約27mであり、高さを2225mとすれば、容量は12,50014,300KLの固定屋根型タンクである。

所 感

■ 事故の原因は、タンク内のスチレンモノマーの温度が異常に上昇したため、爆発を避けるため、機器の安全装置によってベーパーが制御された状態で放出されたという。“ベーパーが制御された状態で放出” というのは、最悪の爆発に至らずにタンクから漏れたという事業者側の見方であり、治療を受けたひとの数からいえば、違和感のある言い方である。

■ スチレンモノマーがタンクから漏れた事故は、過去にもつぎのような事例を紹介した。 

 ●「韓国のスチレンモノマー装置でタンクからオイルミスト噴出」20196月)

 ●「インドで化学工場のスチレンタンクからガス漏洩、死者12名」20207月)

 韓国の事故では、「スチレンモノマー装置における異常な重合によってタンク内圧が上昇し、噴出した。この背景は、スチレンモノマー装置の重合の危険性に対する事業所の認識の甘さのため、タンクの温度・圧力管理が不適切だったとみられる」

 インドの事故では、「本来、2022℃以下で貯蔵されるスチレンがタンク冷却器の故障で、冷却がされなかったことにより重合反応が起きて、温度が上昇し、スチレンガスが発生した」とみられる。この背景には、スチレンの重合の危険性に対する事業所の認識の甘さのため、タンクの温度・圧力管理が不適切だったといえ、事故の原因は運転管理ミスによると思われる」

 今回の事故では、事業者はスチレンモノマーの重合というリスクをよく理解しているはずである。今回の事例では、タンクから流出する動画が流されており、“流出するベーパーの激しさに、現場や近隣の工場にいた従業員は恐怖を感じた”ということがよく分かる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     G1.globo.com, Vazamento de gás em Manaus: bombeiros seguem resfriando tanques 24 horas após o incidente,  July 16,  2026

     Innova.com.br,  July 15th, 2026, STATEMENTchemical emergency occurred in one of the three styrene monomer storage tanks,  July 15,  2026

     News.chemnet.com, Hazard Alert: Chemical reaction in styrene storage tank at Innova Manaus plant in Brazil,  July 16,  2026

     Linkedin.com, Styrene Release at Innova Petrochemical Plant Highlights Risk Assessment Importance,  July 23,  2026

     Isssource.com, Chemical Leak Forces Evac; 16 Injured,  July 20,  2026


後 記: 初めは、スチレンモノマーのタンクからもやもやとした状態で漏れている映像を見ましたので、大したことはないのではないかと思いました。ところが、調査していくと、ベーパーが激しく流出している発災直後の映像があり、重合したスチレンモノマーがタンクから漏れるということがどのようなことをいうのかよく理解できました。今回の事故では、報道の内容の時系列が分かりにくい事例でした。特に、事業者のイノバ社が事実に基づいた発言をしているのか、イクスキューズ(事前の言い訳)を言っているのか曖昧で、事例の深刻さが伝わってきませんでした。

2026年8月11日火曜日

メキシコのヌエボ・レオン州の潤滑剤工場で石油タンクの爆発・火災から延焼拡大

 今回は、2026713日(月)、メキシコのヌエボ・レオン州ヘネラル・スアスアにある潤滑剤製造会社のルブリカンテスLyA社の工場で石油タンクが爆発して火災になり、延焼が拡大して大きな被害になった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、メキシコ(Mexico)のヌエボ・レオン州(Nuevo León)ヘネラル・スアスア(General Zuazua)にある潤滑剤製造会社のルブリカンテスLyA社(Lubricantes LyA)の工場である。

■ 事故があったのは、スアスア-マリン道路(Zuazua-Marin)沿いにあるルブリカンテスLyA社の工場内にある石油タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026713日(月)午後2時頃、ルブリカンテスLyA社の工場で石油タンクが爆発し、火災が発生した。

■ 工場で発生した火災により、瞬く間に濃い煙の柱が空高く立ち昇り、スアスア市の空は黒く染まり、市街地は暗闇につつまれた。この煙は、エスコベド、アポダカ、サン・ニコラス・デ・ロス・ガルサといった都市圏の一部の地点からも視認できた。

■ 石油タンクの爆発・火災により、工場内の4連タンクや圧力容器類に連鎖的に影響を及ぼした。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。ヌエボ・レオン州のほか、スアスア、マリン、イゲラス、ドクター・ゴンサレスの各自治体から消防隊員と民間防衛隊員が出動した。

■ 消防隊が到着した際、石油やディーゼル燃料を貯蔵していた油タンクとタンクローリーが火災になっていた。

■ 火災は少なくとも10回以上の爆発を引き起こした。

■ 事故にともなう死傷者は出ていない。

■ 当局は、予防措置として、同社の従業員や近隣の施設・住宅の住民300人強を避難させた。

■ フェースブックなどでは、火災のニュースを伝える動画が投稿されている。

 FacebookAsí luce el incendio que consume una fábrica aceitera en .2026/7/13

    ●InstagramNuevo León on Instagram: "#Zuazua | ¡En llamas! Se incendia ...2026/7/13

被 害

■ 石油タンクなど潤滑剤工場の設備が火災で損壊した。内部に入っていた油が焼失した。

■ 従業員や住民300人が避難した。

■ 火災による炎や黒煙により環境への汚染が生じた。

< 事故の原因 >

■ 事故の要因は石油タンクの爆発・火災であるが、爆発の原因はわかっていない。

< 対 応 >

■ 約20時間後、スアスア市で大規模な火災が発生した工場では、燃焼臭と煙の臭いが残っていた。

■ ルブリカンテスLyA社は州および市の市民保護局から営業停止命令を受けた。工場の門から見ると、内部には使い果たされた大きな容器などが散乱しているのが見える。

■ スアスア・マリン間の幹線道路は全面開通しており、714日(火)の朝の交通の流れは円滑に流れていた。警察は現場での警備は継続されると述べた。

補 足

■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、米国(アメリカ合衆国)と中央アメリカの間に位置し、人口約13,400万人の連邦共和国(合衆国)である。

「ヌエボ・レオン州」(Nuevo León)は、メキシコ北東部に位置し、正式名称はヌエボ・レオン自由主権州といい、人口約578万人の州である。

「ヘネラル・スアスア」(General Zuazua)は、ヌエボ・レオン州の中央北部に位置し、モンテレイ都市圏にある人口約10万人の自治体である。ヘネラル・スアスア市は、有名なロデオと郷土料理であるエンパルメスで知られている。

「ルブリカンテスLyA社」(Lubricantes LyA)は、1994年に設立した自動車および産業分野向け潤滑剤を製造している会社である。ヌエボ・レオン州ヘネラル・スアスア市に拠点を置く100%メキシコ資本の企業である。同社は、エンジン、トランスミッション、産業用として包装された自動車用オイル、不凍液、ポリエチレン製容器とそのキャップの製造、ラベルの製造・印刷といった製品を卸売や小売で提供している。

「発災タンク」について、報道では、石油タンクというだけで大きさなどの仕様は報じられていない。石油タンクの爆発・火災により、工場内のタンクや圧力容器類に連鎖的に影響を及ぼしたとあり、また消防隊が到着した際、石油やディーゼル燃料を貯蔵していた油タンクとタンクローリーが火災になっていたと報じられており、軽質油を積載していたタンクローリーが積込んでいた石油タンクとの接続部から流出して発災したことも考えられる。

 グーグルマップで調べると、ルブリカンテスLyA社の工場にはタンク群があり、直径は2.63.6mで比較的小型である。このクラスの容量は約850KLとみられる。

所 感 

■ 今回の事故は、原因をはじめ状況のよくわからない事例である。タンク群の火災写真があるが、そのときには、すでにタンク外のエリアでかなりの部分で火災が起きている。もともと危険性が高くないとみられる潤滑剤製造工場で、このような大規模な火災に至るということは、軽質油を含む危険性の高い液体を保有していた可能性がある。

■ 消火戦略も積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つのうちのいずれを選択したかは分からない。火災は少なくとも10回以上の爆発を引き起こしたと報じられており、上述と重なるが、危険性のある軽質油を保有しており、消防隊の消防士の身の安全を考慮して、火災初期は不介入戦略をとったのかも知れない。実際、映像の中には、火災中にタンクから爆発性の燃焼が起こっている。火災の終盤は積極的戦略をとっているが、消火資機材は十分だとはいえないように思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Milenio.com, Desalojan a más de 300 personas por incendio en fábrica de lubricantes en Zuazua,  July  13, 2026

     Jornada.com.mx, Nuevo León: realizan evacuación de más de 300 personas por fuerte incendio en fábrica de aceites de General Zuazua,  July  13, 2026

     Telediario.mx, Presunta explosión de tanque de aceite provoca fuerte incendio en fábrica de Zuazua; levanta enorme nube de humo,  July  13, 2026

     Diariopresente.mx, INCENDIO EN FÁBRICA DE ACEITES PROVOCA ENORME COLUMNA DE HUMO EN GENERAL ZUAZUA, NUEVO LEÓN,  July  13, 2026


後 記: 最近感じるのは、インターネットの検索エンジンが進歩したのか、タンク事故の情報が増えたように思います。あるいは、世の中が浮ついていて本当に事故がたくさん起きているのかも知れません。情報の質でいうと、事故を深堀したものが少なくなっています。以前に比べ、映像の情報は多くなっています。ドローンやヘリコプターによって映像が得られれば、事故があったという記事で済むのかも知れません。今回の事例もブログに書こうとすると、分からないことが多く、内容に深みのないものになってしまいました。

2026年8月4日火曜日

米国オクラホマ州セミノール郡の石油生産施設に落雷、油タンクが爆発・火災

 今回は、202675日(日)、米国オクラホマ州セミノール郡リトルにある石油生産施設の石油タンクが落雷とみられる原因によって爆発・火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国オクラホマ州(Oklahoma)セミノール郡(Seminole County)リトル(Little)にある石油生産施設である。

■ 事故があったのは、リトルの小さな町の近くにある石油生産施設のタンク設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202675日(日)夜、リトルにある石油タンクで爆発があり、火災が発生した。

■ 石油生産施設の近くの住民によると、「落雷音の後に大きな爆発音が聞こえた」といい、「雷が鳴った時の音ってご存知でしょう。大きな爆発のような音が聞こえて、その後、家の窓がガタガタ揺れました。実際、家の窓が何枚か吹き飛んだのかと思いましたよ」と語った。

■ 町に轟いた雷鳴と爆発は予想をはるかに超える衝撃を伴った。落雷と大きな爆発により近隣の家々を揺るがし、濃い黒煙が空高く立ち昇った。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。

■ 事故にともなう負傷者は出なかった。

■ 爆発・火災は落雷によるものだとみられる。

被 害

■ 石油生産施設内の石油タンク1基が爆発・火災で損壊した。内部の油が焼失した。

■ 負傷者はいなかった。 

< 事故の原因 >

■ 爆発・火災の原因は、落雷によるものとみられる。

< 対 応 >

■ 爆発とその後の火災は1時間以上燃え続け、消防隊は燃え盛る石油タンクの火災をようやく鎮火した。

■ これは単発的な異常事態ではなかった。石油タンクやタンク群での落雷による火災は、オクラホマ州の嵐の季節における厄介な問題となっている。2026623日にポタワトミー郡の田舎で発生した大規模なタンク群火災は、落雷によって発生した大火災に複数の消防隊が出動し、KFORが報道し、Yahooにも再掲載された。注記;ポタワトミー郡のタンク火災は、「米国オクラホマ州で石油生産の関連施設で落雷によるタンク火災」を参照。

■ オクラホマ州公益事業委員会は、アッシャーとセミノール周辺で発生した落雷によるタンク事故を複数取り上げ、悪天​​候と石油施設がいかに頻繁に事故につながっているかを強調している。同委員会の記録によると、広範囲にわたる貯蔵施設に落雷が頻繁に発生しており、国立気象局の嵐の履歴データは、オクラホマ州中部を危険な雷雨が頻繁に襲っているかを示している。  

 地上設置型の貯蔵タンク、特に浮き屋根式のものは、落雷時に驚くほど脆弱になることがある。落雷によって電気アークが発生したり、縁部のシールに沿って可燃性のベーパーが引火したりする可能性があり、これは事業者が何としても避けたい連鎖反応である。業界のガイドラインでは、リスクを軽減するために、ボンディング、バイパス導体、その他の避雷対策を推奨している。

 オクラホマシティの当局者によると、76日(月)早朝の午前5時頃、火災により石油タンク3基が全焼した。ノース・カウンシル・ロードとノースウェスト220番地付近で発生した火災は落雷が原因だった。負傷者は報告されておらず、約1時間で火災は鎮火した。

補 足

■「オクラホマ州」(Oklahoma)は、米国の中南部に位置し、人口約396万人の州である。州名はチョクトー族インディアンの言葉でokla  hummaを合わせたもので赤い人々を意味する。1907年に元のインディアン準州とオクラホマ準州を合わせて合衆国46番目の州になっており、当初は全米のインディアン部族のほとんどを強制移住させる目的で作られた州である。このため、他の州に比べてインディアンの保留地(Reservation)の多い州である。

「セミノール郡」(Seminole County)は、オクラホマ州の中央部に位置し、人口約23,500人の郡である。オクラホマが州に昇格する以前、セミノール郡はセミノール族インディアンに割り当てられたインディアン準州の小部分だった。広大なセミノール油田はこれまで発見された中でも重要なもののひとつで、セミノール郡は米国の石油産業で重要な役割を果たしてきた。

「リトル」(Little)は、セミノール郡にある非法人地域のコミュニティである。

■「発災タンク」は、石油生産施設のタンク設備と報じられているだけで、タンクの大きさなどの仕様はわからない。

所 感 

■ 今回の事例で印象的なことは、オクラホマ州の落雷について地元のひとが危機意識を感じていることがうかがえることである。オクラホマ州は落雷の頻度の少なくない地域であるが、余程苛烈な印象の落雷が多くなっていると思われる。以前はテキサス州が落雷による火災事故が多かったが、雷の数と質がテキサス州から北方のオクラホマ州へ変わってきており、過去のブログによる事例をみていくと、オクラホマ州の危機意識が理解できる。

 ●20136「米国で9日間に3箇所のタンク施設で落雷による火災発生」

 ●20245「米国オクラホマ州で竜巻警報の中、落雷によるタンクが爆発・火災」

 ●20266「米国オクラホマ州で石油生産の関連施設で落雷によるタンク火災」

 日本でも雷注意報を目にすることが多くなってきているし、落雷の程度も強烈になってきているように感じる。事例で指摘しているように、タンクは雷に対して脆弱だと認識し、リスクを軽減するために、ボンディング、バイパス導体、その他の避雷対策を行い、日常の管理を怠らないことが大事だろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     News9.com, No injuries reported after lightning causes Seminole County oil tank explosion,  July  6, 2026

     Hoodline.com, Lightning Strike Blows Up Oil Tank, Rattles Tiny Little, Oklahoma,  July  6, 2026

     Okcfox.com, Three oil tanks destroyed in overnight fire sparked by lightning strike,  July  6, 202


後 記: オクラホマ州では落雷について危機意識を感じているひとが出始めているようです。日本では、最近起こった震度7を記録した平成8年熊本地震についていろいろなことを感じざるを得ません。熊本には10年前に起こったので、もう無いだろうと思っていました。人間は忘れやすいということを改めて感じました。また、地震発生から1時間20分後に起きたイオンモール熊本のガス爆発は思いもよらないことです。災害はひとの知識や常識を超えたところで起こるということを物語っています。しかし、LPガスはわざわざ嫌なニオイをつけています。 なにも作業現場だけでなく、日常の生活空間での危険予知(KYが有効なのでしょう。

 

2026年7月30日木曜日

ナイジェリアの石油ターミナルでディーゼル燃料用貯蔵タンクが火災

 今回は、202673日(金)、ナイジェリアのラゴス(Lagos)にある石油施設のボノ・エナジー・ストレージ・ターミナルにおいて容量5,000KLのディーゼル燃料用貯蔵タンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ナイジェリア(Nigeria)のラゴス(Lagos)にある石油施設のボノ・エナジー・ストレージ・ターミナル(Bono Energy Storage Terminal)である。

■ 事故があったのは、ラゴスのアパパ・オウォロンショキ高速道路(Apapa–Oworonshoki Expressway)沿いにあるターミナル内のディーゼル燃料用貯蔵タンクで、容量は500万リットル(5,000KL)である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202673日(金)午前7時頃、石油施設のディーゼル燃料用貯蔵タンクで火災が発生した。

■ ターミナル近くで働いている目撃者のひとりによると、火災は金曜日の午前7時頃に発生したといい、住民などがラゴスの緊急電話番号112番に繰り返し電話をかけたが、緊急回線がつながらず、すぐには対応してもらえなかったと語っている。

■ 発災にともない、各消防署の消防隊が出動した。

■ 出動したのはアジェグンレ消防署、サリ・イガンム消防署、イソロ消防署の消防隊員で、このほか近隣の石油・ガス施設の消防隊員が支援で参画した。  

■ 事故にともなう死傷者はいなかった。

■ 消火活動は、火災が周辺の貯蔵タンクや設備に延焼するのを回避しようと努めた。

■ ユーチューブでは、事故による火災のニュースを伝える動画が投稿されている。

 FacebookThe Lagos State Fire Service said it has contained a fire that ..2026/7/3

被 害

■ 容量500万リットル(5,000KL)のディーゼル燃料用の貯蔵タンクが損壊した。内部の油が焼失した。

< 事故の原因 >

■ 事故原因はラゴス消防署によって調査中である。

< 対 応 >

■ 火災は消防隊によって73日(金)の午後2時頃、消火された。

■ メディアの一社が午後3時頃にターミナルを訪れた際、消防隊員と緊急車両がまだ施設内に待機しており、職員が事故後の状況を監視していた。しかし、施設の警備員は、メディアがターミナルに入るには管理者の承認が必要だと説明し、記者の立入りを拒否した。1時間ほど待ったが、事業者はインタビューに応じることも、メディアが施設内に入ることも拒否した。

■ このタンク火災が発生する前、ロゴス周辺では、イコロドゥ道路沿いのオニリン方面に向かうオウォデ・エレデで液化石油ガス(LPG)タンクローリーからLPガスの漏洩事故が発生し、ローリー周辺で爆発と火災が発生した。この事故では、死傷者は出ていないが、緊急要員が対応した。

■ 死傷者は出なかったものの、ナイジェリアで最も活発な石油・物流拠点であるアパパ地区には複数の燃料貯蔵施設や重要な産業施設があり、火災が発生すれば、すぐに大規模な緊急事態に発展する可能性があるため、今回の事故はアパパ地区にある石油貯蔵施設に伴うリスクを改めて浮き彫りにした。

補 足

■「ナイジェリア」(Nigeria)は、正式にはナイジェリア連邦共和国で、アフリカ大陸西南部に位置し、人口約232百万人の連邦制共和国である。1991年までラゴスが首都だったが、一極集中などの理由により首都はアブジャに移転した。ナイジェリアは、西にベナン、北をニジェール、北東がチャド、東はカメルーンと国境を接し、南はギニア湾(ペニン湾)に面し大西洋に通ずる。ナイジェリアは石油などの豊かな資源や大きな経済規模を持つ一方で、国民の多くが深刻な貧困と高い物価高に苦しみ、貧困格差の非常に大きい国である。

「ラゴス」(Lagos )は、ナイジェリア南西部に位置し、ギニア湾岸にあり、同国最大の港湾施設を備える人口1,500万人の港湾都市である。

■「ボノ・エナジー・ストレージ・ターミナル」(Bono Energy Storage TerminalBEST)は、 2019年に設立され、石油貯蔵、倉庫保管、小売、物流サービスを提供しており、ラゴスのイバフォン・アパパ工業地区に燃料輸入・流通の主要拠点がある。ボノ・エナジー・ストレージ・ターミナルの総貯蔵容量は47,350KLで、ガソリン、ディーゼル燃料用、航空タービン油、灯油、基油が貯蔵されている。ボノ・エナジー・ストレージ・ターミナルは、ボノ・エナジー・グループとグラディウス・コモディティーズが石油貯蔵ターミナルを取得するために設立した特別目的会である。

■「発災タンク」の仕様は、ディーゼル燃料用貯蔵タンクで、容量が500万リットル(5,000KL)と報じられている。ラゴスのイバフォン・アパパ工業地区をグーグルマップで調べたが、ボノ・エナジー・ストレージ・ターミナルの事業所名は見つからなかった。発災事業所(BEST)の写真をもとにグーグルマップを調べたところ、“Africa Terminals Nigeria Limited Depot”のタンク配置であることがわかった。この配置から被災写真と突き合わせると、発災タンクを特定することができた。グーグルマップで調べると、発災タンクはコーンルーフ型固定屋根式タンクで、直径は約23mであり、高さを12mと仮定すれば、タンク容量は約5,000KLである。

所 感

■ タンク火災の状況はほとんど報じられていない。しかし、被災後の発災タンクの写真を見ると、発災状況をうかがわせることが分かる。ひとつは、発災タンクの側板が座屈していることから、長時間火災の熱にあぶられていることが分かる。もうひとつは、タンク屋根がひっくり返った状態で落下している。タンク屋根をよく見ると、屋根の一部がタンク内側から破裂したと見られることである。このようなタンク屋根の一部が破断するような状況はこれまで見たことはなく、おそらくタンク屋根と側板の溶接部を弱めた個所と同様にタンク屋根板の接合部に欠陥があったのではないだろうか。

 火災の燃焼時間は7時間(午前7時~午後2時)であり、燃焼速度を20cm/hと仮定しても、液位は140cmしか下がらない。タンク側板の座屈状況から、容量5,000KLの貯蔵タンクには液位の低い状態だったと思われ、タンク内部に爆発性混合気が形成されたとみられる。これらのことから推定すると、発災タンクは内部爆発でタンク屋根が噴き飛ばされたと思われる。通常の軽油であれば、爆発することは考えにくいが、製品規格の曖昧なディーゼル燃料用であれば、軽質分を含む油だったのではないだろうか。火災の映像を見ても、軽油の燃焼というより、揮発分のあるガソリンのような激しい炎が出ている。

■ 消火活動は“火災が周辺の貯蔵タンクや設備に延焼するのを回避しようと努めた”とあり、消火戦略は防御的戦略をとったものと思われる。発災タンクの直径は23mであり、日本の法令であっても、大容量泡放射砲を使う範囲でなく、三点セット(最低放水能力3,000リットル/分の放射ノズル)があれば、積極的戦略で対応できたはずである。しかし、大型化学消防車を設置する場所の制約があったためか、泡消火設備の保有に制約があったためか、被災写真を見ても泡消火を実施した形跡はないように思う。タンク火災では発災タンクから液を移送することは避けなければならないが、今回の火災は燃え尽きた状態で鎮火したと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Joiff.com, NIGERIA – Investigation under way after diesel tank fire at Lagos fuel terminal,  July 16, 2026

     Punchng.com, Lagos probes fuel storage tank fire,  July 4, 2026

     Premiumtimesng.com, UPDATED: Fire breaks out at Lagos fuel terminal (PHOTOS),  July 3, 2026

     Hazardexonthenet.net, Investigation under way after diesel tank fire at Lagos fuel terminal,  July 8, 2026

     Channelstv.com, Five-Million-Litre Diesel Tank Fire Contained In Apapa,  July 3, 2026

     Dailytrust.com, Fire guts petroleum storage tank, gas truck explodes in Lagos,  July 4, 2026

     Guardian.ng, Fire Guts Bono Energy Terminal As Gas Tanker Leakage Sparks Inferno In Owode,  July 4, 2026


後 記: ナイジェリアのタンク火災については、つぎのような事例を紹介してきました。

 ●2014年7月、「ナイジェリアの石油ターミナルで落雷、タンク火災、その後油流出」

 ●202011月、「ナイジェリアのラゴスでOVHエナージー社のガソリンタンク火災」

 ●20247月、「ナイジェリアのカナダ高等弁務官事務所で発電機用燃料タンクが爆発、死傷者4名」

 ナイジェリアの事故例は、フェーク写真がよく見られ、真偽を問われます。(報じている方からすれば、写真に説明分を付けているわけでなく、タンク火災のイメージ例を示しているだけだと言いそうですが) 今回のタンク火災事例は、メディアの敷地内立入りが拒否されたり、当局からの発表内容にも疑問があり、これまでになく疲れる事例でした。そのような中で、激しいタンク火災の写真が出れば、飛びつきますよね。今回のフェーク写真の例を下に示します。


 

2026年7月24日金曜日

ロシアのモスクワ製油所、ドローンでなく防災ミサイルでタンク屋根が噴き飛ぶ

 今回は、先般、ロシアのモスクワにあるガスプロム・ネフチ社のモスクワ製油所がウクライナによる無人航空機(ドローン)による攻撃で、貯蔵タンクの屋根が噴き飛んだ事例を紹介しましたが、実際は防災ミサイルによる誤射でタンク屋根が噴き飛んだとみられる動画が出ましたので、この情報を改めて紹介します。前回のブログは「ロシアのモスクワ製油所、無人航空機による攻撃で貯蔵タンクの屋根が噴き飛ぶ」2026712日)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 被害があったのは、ロシア(Russia)のモスクワ(Moscow)にあるガスプロム・ネフチ社(Gazprom Neft)のモスクワ製油所である。この製油所は所在地からカポトニャ製油所(Kapotnya Oil Refinery)とも呼ばれている。

■ 発災があったのは、モスクワ中心部から南東約15km離れた製油所内にある燃料貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2026618日(木)早朝、モスクワ製油所にウクライナ軍(Ukrainie)の無人航空機(ドローン)による攻撃があった。

■ 目撃者によると、強力な爆発により大型燃料貯蔵タンクの屋根が完全に噴き飛ばされ、激しい火災が発生したという。燃料貯蔵タンクの屋根が数十メートルも空中に舞い上がった。製油所では、少なくとも5か所で火災が発生し、黒煙が空に広がった。

■ 当初、このタンク屋根が噴き飛んだ原因はウクライナ軍の無人航空機(ドローン)による攻撃だったと報道されたが、新たな目撃者の動画がオンラインに公開され、OSINT(オープン・ソース・インテリジェンス)の専門家が分析した結果、発生した爆発は、無人航空機(ドローン)ではなく防空ミサイルによるものという見解が報じられた。

■ 防空ミサイルは、本来、敵の航空機、ミサイル、無人航空機(ドローン)から重要な施設や部隊を迎撃・防衛するための誘導兵器である。防空ミサイルはその射程や運用方法によって分類されるが、今回は、携帯式防空ミサイル(兵士が肩に担いで発射する小型ミサイル)とみられ、近年では無人航空機(ドローン)の迎撃に用いられている。

■ 携帯式防空ミサイルを撃ったのは、明確になっていないが、ロシアの発射したミサイルが誤って貯蔵タンクに当たったものだと報じられている。

■ OSINTOpen Source Intelligence)とは、公開情報(ウェブサイト・SNS・公的データベースなど)を収集・分析し、サイバー脅威の兆候を把握するインテリジェンス手法である。元来は軍事情報活動の一環であり、現在、OSINTの活用は民間部門へも拡大し、多くの企業や団体において標準的な活動となっている。

■ ウクライナ軍は、製油所への攻撃により、RVS-10000型タンク3基、RVS-30000型タンク1基のほか製油所のオイルプロセス装置を攻撃で損傷させたと語っている。注記;貯蔵タンク RVS-10000型は、主に石油や化学薬品などの液体を大量に保管するために使用される容量10,000KLの円筒形鋼製タンクをいう。

■ フェースブックでは、防空システムのミサイルによるタンク被災の映像が投稿されている。

 FacebookНе дрон, а ракета ПВО вызвала взрыв на НПЗ в Капотне2026/6/19

被 害

■ 製油所の貯蔵タンク1基の屋根が噴き飛ぶほどの損壊をした。このほかタンク3基やプロセス装置が無人航空機(ドローン)による攻撃で損傷した。また、タンクや装置内にあった油が焼失した。

■ 死傷者は発生していない。  

< 事故の原因 >

■ 原因は、テロによる“故意の過失”でなく、戦争時の無人航空機(ドローン)による攻撃である。 タンク屋根が噴き飛んだ貯蔵タンクへの攻撃は、無人航空機(ドローン)でなく、防空ミサイルによるものとみられている。

< 対 応 >

■ 本格的な戦争開始以来最大規模のウクライナ軍の攻撃で製油所が攻撃され、ロシアの一部に黒い油の粒が降り注いだ。この攻撃では、約200機の無人航空機(ドローン)がロシアの首都に向けて発射された。

ロシアのモスクワ市長によると、首都モスクワを目指していた少なくとも194機の無人航空機(ドローン)を618日(木)未明にかけてロシアの防空システムによって撃墜したという。

■ しかし、ロシアの防空システムが全部機能したわけでなく、ロシアの携帯式防空ミサイルが誤って貯蔵タンク1基に当たったものとみられる。

■ ロシア人がソーシャルメディアに投稿した動画は、二つのことを伝えている。ひとつは、首都モスクワの防空網は強固だったが、ウクライナの安価な大量生産の無人航空機(ドローン)によって突破され、製油所の貯蔵タンクの屋根が噴き飛ばされたことに代表される複数の火災が猛威を振るったことや環境災害が確実に発生しつつあることである。もうひとつは、モスクワ市民の不満の拡大と、それがもたらす政治的不安定さである。ロシア当局が抑制しようとしてきた動画が数多く投稿され、高まる反体制の姿勢と、最終的に失敗に終わった情報操作を示している。  

■ 現場からの画像や動画はインターネット上で広く拡散されたが、紛争が続いている状況下では、すべての映像の真偽を独自に検証することは依然として困難である。

補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦で、ユーラシア大陸北部に位置する人口約14,000万人の連邦共和制国家である

「モスクワ」(Moscow)は、人口約約1315万人のロシア連邦の首都である。また、連邦市として市単独で連邦を構成する83の連邦構成主体のひとつである。

■「ガスプロム・ネフチ社」(Gazprom Neft)は、ロシアの石油企業で国内の石油製造・精製企業としては、5番目の規模をもつ。2005年天然ガス最大手ガスプロムの傘下企業となり、ガスプロム・ネフチに改称した。本社はサンクトペテルブルクである

「モスクワ製油所」(カポトニャ製油所:Kapotnya Oil Refinery)は、1938 年に操業したが、2011年からロシア国営企業ガスプロム・ネフチ社の傘下にある。精製能力は、年間約1,200万トンで、日量換算で約24万~30万バレル/日の規模である。

■「発災(被災)タンク」は大きさ、油種などの仕様について何も報じられていない。グーグルマップで調べると、直径約45mであるので、高さを1520mとすれば、容量は23,80031,800KLとなる。グーグルマップの写真を見ると、ドームルーフ式の固定屋根型タンクである。ウクライナ軍が攻撃でRVS-30000型タンク1基を損傷させてと語っているが、このタンクが発災(被災)タンクとみられる。

所 感 (前 回)

■ 戦争時の貯蔵タンクの被災については、基本的にこのブログの調査対象にしていないが、今回の事例はタンク屋根が噴き飛んだというので、調べることとした。

 映像は少なくとも3か所から撮影されたものがあり、実際にタンク屋根が噴き飛んだものとみられる。タンク屋根は水平を保ったままかなりの高さまで飛んでいる。 一般にコーンルーフ式やドームルーフ式の固定屋根式円筒タンクは、タンク屋根と側板の溶接部の接続箇所が弱く作られており、この点でいえば、適切な設計・製作をされた貯蔵タンクといえる。タンク上部の混合気が爆発するような圧力になった場合、溶断部が破断するが、タンク屋根が水平を保って高くまで飛ぶということはめずらしい。事例のような状況になる要因を推測すると、タンク内部に液が少ない状態のところにタンク上部に無人航空機(ドローン)が突っ込んで爆発したのではないだろうか。このため、無人航空機(ドローン)の爆弾による衝撃的な力がタンク屋根部にかかり、溶断部を破断するが、タンク屋根が水平を保って空高く噴き飛んだのではないだろうか。

■ 2022224日、ロシアがウクライナに侵攻して軍事衝突が起こったが、両国の戦争でミサイルなどに代わって無人航空機(ドローン)によるタンク貯蔵施設への攻撃について、このブログで紹介したのは「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)が初めてだった。その後、無人航空機(ドローン)は飛躍的に発達して、現在は戦争の主要な武器となっている。対ドローン防御設備が開発されても「ロシアで対ドローン防御設備を施した貯蔵タンクが攻撃で被災」20262月)のように無人航空機(ドローン)による武器化の技術進展は、日本のドローンへのテロ対策を根本的に見直す必要性があることはこれまで述べてきたとおりである。

所 感 (今 回)

■ 戦争時の貯蔵タンクの被災については、このブログの調査対象にしていない。無人航空機(ドローン)によるテロ対応の観点から調べたが、結果は防災ミサイル(兵士が肩に担いで発射する小型ミサイル)で誤射によるものであった。誤射に関して意見や見解は示されておらず、これが“戦争”というもので、仕方ないことと思っているのであろう。人間のひととしての感性が鈍ってきている。

■ ロシアとウクライナの携帯式防空ミサイルの例は図のとおりである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Bbc.com, Moscow residents complain of black rain after largest Ukrainian attack hits oil refinery,  June  19,  2026

    Edition.cnn.com, Ukraine launches largest attack on Moscow since start of full-scale war,  June  19,  2026

    English.nv.ua, Satellite images reveal damage at Moscow refinery after Ukrainian drone strike,  June  21,  2026

    Ndtv.com, Video: Ukrainian Drone Hits Russian Refinery, Blows Tank Lid Off,  June  18,  2026

     Apnews.com, Ukrainian drones set a Moscow refinery ablaze in a major attack on the Russian capital,  June  19,  2026

     United24media.com, Moscow Oil Refinery After Ukrainian Drone Attacks: What Satellite Images Show,  June  19,  2026

     Abcnews.com,  Fuel storage tank's lid blown off as Moscow refinery targeted by Ukraine,  June  18,  2026

     Facebook.com,  Не дрон, а ракета ПВО вызвала взрыв на НПЗ в Капотне,  June  19,  2026


後 記: それにしてもロシア国内におけるフェースブックなどによる無人航空機(ドローン)の動画撮影への関心の高さには驚きます。今回の貯蔵タンクの屋根が噴き飛ばされた動画も複数あります。そのうちのひとつがOSINT(オープン・ソース・インテリジェンス)の専門家による分析結果、発生した貯蔵タンク爆発は、無人航空機(ドローン)ではなく、防空ミサイルによるものだというのが分りました。撮影された動画がオンラインで公開されていなければ、前回のブログのようにウクライナの無人航空機(ドローン)によるものだったということで終わっているはずです。ところが、そうではなく自国の貯蔵タンクを自国の防空システム(携帯式防空ミサイル)で攻撃したということが分ってしまいました。