このブログを検索

2026年6月6日土曜日

米国ワシントン州の製紙工場で薬品タンクが破裂・倒壊、死傷者19名

 今回は、2026526日(火)、ワシントン州ロングビューにあるニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の製紙工場において薬品タンクが破裂・倒壊して、死傷者19名を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ワシントン州(Washington)ロングビュー(Longview)にあるニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社(Nippon Dynawave Packaging)の製紙工場である。同社は、日本製紙㈱の子会社である。

■ 事故があったのは、製紙工場内にある薬品タンクである。薬品タンクには、白液(ホワイトリカー)という水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムの混合液が入っていた。タンク容量は340万リットル(3,400KL)とみられる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026526日(火)午前7時過ぎ、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の製紙工場にある薬品タンクが破裂・倒壊するという事故が起きた。

■ 事故にともない、ひとりの死亡が確認されたほか、9名の安否が分かっていない。このほか、消防士を含む9人が負傷し、病院へ搬送された。事故翌日、病院に搬送されていたひとりの死亡が確認され、死者は2名となり、負傷者は8名となった。

■ タンクには、紙の原料を作る際に使われる白液(ホワイトリカー)と呼ばれる薬品が保管されていたという。白液のpH値は14で、皮膚に触れると重度の化学火傷を引き起こすという。

■ 発災が起こる約15分前に従業員の勤務交代が始まっており、このエリアには、事務作業スペース、休憩室、作業スペースなどが含まれていた。ちょうど交代勤務の時間帯で、多くの作業員が現場に集まり、致死性の化学物質が入った巨大なタンクの隣にある休憩室周辺に集まっていた。  

■ 現地警察、消防などとともにニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は現場の安全確保を行うとともに行方不明者を捜索を進めた。行方不明者の捜索は週を通して続けられ、消防隊は屋内エリアの瓦礫を片付け、現場のまわりをドローンによる上空からの捜査を行い、 犠牲者の見落としがないように努めた。遺体収容作業は綿密に行われたが、非常に困難だった。最後の犠牲者は530日(土)に収容された。 

■ 528日(木)時点、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社(日本製紙)は、発災にともなう死傷者について死者8名、不明者3名、負傷者8名であると発表した。 その後、529日(金)時点で死者9名、不明者2名、負傷者8名と発表した。530日(土)、死者11名の身元が確認され、負傷者8名となり、最終的に死傷者は19名だった。

■ 米国ワシントン州の州知事は、527日(水)、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の工場で薬品タンクが破裂・倒壊した事故について「州史上で最悪の産業事故となるだろう」と現場での記者会見で述べ、約50名の州兵を派遣したことを明らかにした。今回の事故は、1930年にパシフィック・コースト・コール・カンパニーが所有する炭鉱で爆発によって17名の労働者が死亡した時以来、ワシントン州で最悪の産業災害となった。

■ 工場で紙をつくる工程の中で使う白液(ホワイトリカー)とよばれる薬品を貯蔵するタンクが破裂・倒壊したが、さらに、この汚染物質は工場から近くのコロンビア川に流出しているがわかった。製紙産業で栄えてきた町への影響は大きい。白液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含む化学溶液で、強いアルカリ性で触れるとやけどをする。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、発生直後と23時間後の二度、工場から川につながる排水口で高濃度の汚染を確認したといい、今後、中和作業が必要になると説明した。州政府は「飲料水への影響や大気汚染の被害は確認されていない」としている。一方、州知事は「排水口から12匹のコイの死骸が見つかった」と述べ、20名の州兵が除染支援にあたるという。

■ タンク容量は、最初30万リットル(300KL)といわれていたが、実際は340万リットル(3,400KL)だったと当局が明らかにした。損壊したタンクには、推定34万リットル(340KL)の液体が残っている。

■ 当局は、大気質やロングビュー市の飲料水に健康への悪影響は検出されていないという。

■ ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の親会社の日本製紙㈱は、同社のウェブサイトで事故があったことを発表するとともに、「謹んで哀悼の意を表すとともに、ご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。また、地域の皆様、お取引先様、および関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」と述べている。

■ ユーチューブでは、タンク事故のニュースを伝える動画が投稿されている。

  Youtube「日本製紙傘下企業の化学薬品タンク破裂、1人死亡・9人不明 米ワシントン州」2026/05/27

  ●Youtube「日本製紙グループの子会社工場でタンク破裂 1人死亡、9人不明 アメリカ・ワシントン州」2026/05/27

  ●YoutubeWhite liquor tank at center of deadly Longview implosion not inspected by state, experts say2026/06/02

被 害

■ 薬品用タンク1基が損壊した。

■ 11名の死傷者が発生した。内訳は、死者11名、負傷者8名である。

■ 汚染物質(白液)が近くの河川に流出し、川が環境汚染された。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 捜査当局はまだ原因を特定しておらず、調査中である。

■ 化学安全専門家らは、タンクの被災写真から、タンクは外側に破裂したのではなく、内側に損壊したとみられ、圧力の急激な変化(おそらく安全弁の詰まりが原因)が壊滅的な内破を引き起こした可能性があるという。これは、たとえば薄い壁のプラスチック製ペットボトルに口を当てて吸った様子にたとえれば、ボトルは真空状態になり、内側に潰れる。専門家のひとりは、多々起こる工業用タンクの爆発とは異なり、40年の実務経験の中で目のあたりにしたタンクの内破事故は片手で数えられるほどしかないという。 注記;内破(ないは)は外側からの圧力が内側からの圧力よりも著しく大きくなった結果、物体が中心部に向かって急速に押し潰される現象である。外側へ向かって飛散する爆発とは逆のメカニズムである。

■ 一方、「タンクに重大な欠陥があり、それが破裂または崩壊の原因となった」という専門家もいる。捜査官はタンクの構造に亀裂、腐食、通気口の問題がないか調べ、保守記録を精査して機器の不具合を確認し、従業員、管理者、技術者に聞き取り調査を行い、原因を特定する予定だという。 

■ また、何らかの詰まりがあったのではないかと推測する専門家もいる。

■ ワシントン州労働産業局は、今回の事故の原因究明と、安全規則違反が事故の一因となったかどうかを明らかにするため、職場安全に関する調査を正式に開始した。この調査には最長6か月かかる可能性がある。  

■ 今回の事故は、安全記録に問題のない施設で発生したわけではなかった。

 ワシントン州労働産業局は、2019年から2025年の間に、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社を安全規則違反で4回告発しており、破裂・倒壊事故発生時点で既に同社に対する2件の労働産業局による調査が開始されていた。 この案件は、当局者によると、いずれもタンク破裂・倒壊とは直接関係がないという。1件は、アンモニア水浄化槽のバルブに関する懸念について匿名の通報を受け、3月に開始されたものだった。

 20263月、製紙工場の労働者らは、排水口が床に陥没穴を作っていることを州の労働安全衛生局に通報した。また、同施設では20237月に大規模な木材チップ火災が発生し、ポートランドの大気汚染レベルが悪化したが、正確な原因は特定されなかった。2025年にも同施設で火災が発生したが、負傷者は出なかった。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、過去2年間で州環境局から12,000ドルの罰金を含む、汚染および環境基準違反で告発されていた。

■ ワシントン大学環境・職業保健科学部の教授は、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社が過去5年間で3回の検査を受けており、タンク破裂・倒壊時、2件の未解決検査があったことは注目に値すると述べた。「労働産業局の監視対象になったり、従業員から通報されるような問題が繰り返し発生しているなら、その現場でより良い安全衛生文化を築くために何かを変える必要がある」という。

補 足

■「ワシントン州」(Washington)は、米国西海岸の最北部に位置し、人口約770万人の州である。州都はオリンピア市で、人口規模や経済の面での中心都市はシアトル市である。

「ロングビュー」(Longview)は、ワシントン州南西部に位置し、カウリッツ郡で最も大きく人口約37,800人の市である。南端を流れるコロンビア川がオレゴン州との州境となっている。

■「ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社」(Nippon Dynawave Packaging)は、日本第2位の製紙会社である日本製紙㈱がシアトルに拠点を置く木材会社ウェイアハウザーからロングビュー工場を22,500万ドルで買収し、2016年に完全子会社になった。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、飲料パック用の紙などを製造し、従業員は2025年末時点で564名である。

 ロングビュー工場は、コロンビア川沿いにある製紙工場では70年以上にわたり、木材チップを化学薬品で煮沸する製紙法が用いられてきた。クラフトパルプ化と呼ばれるこの製法は、木材を分解して丈夫なセルロース素材に変え、紙や牛乳パックなどの容器の製造に利用できる。チップは、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムの混合液で加熱され、白液(ホワイトリカー) として知られる腐食性の化学物質が生成される。

■「白液(ホワイトリカー) 」は、厄介な物質で、非常に腐食性が高く、pH値は14で、化学火傷を起こしやすい。世界には約4,500のパルプ・製紙工場が稼働しており、その大半はアジアにあり、米国で操業を続けている製紙工場は約128に過ぎない。 「白液(ホワイトリカー) 」 に関連する事故の報告は稀である。データ分析によると、526日(火)の事故以前の過去10年間で、米国で発生した流出事故は8件だった。そのうちのひとつは、2021年にニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社で発生したもので、バルブが開いていたため3,000ガロン(11KL)のガスが漏れ出したが、この事故で負傷者は出なかった。

 専門家によると、パルプと製紙の工程は過去100年間ほとんど変わっておらず、極めて危険な作業であるという点も変わっていないという。

「発災タンク」は、容量が340万リットル(3,400KL)と報じられている。グーグルマップで調べると、直径は約20mであるので、高さは約10.8mとなる。型式はコーンルーフの円筒式固定屋根型タンクである。通気管(オープンベント)は臭気対策のためと思われる延長パイプ型である。一般に延長パイプの先に封水設備があるが、本事例では延長先がどのようになっているかは分からない。

所 感

■ これまでタンク事故について紹介してきたが、今回のようなタンクの被災事例は初めてである。報じられた原因に関する専門家の意見は、つぎのとおりである。

 ● タンクは外側に破裂したのではなく、内側に損壊したとみられ、圧力の急激な変化(おそらく安全弁の詰まりが原因)が壊滅的な内破を引き起こした可能性がある。

 ● タンクに重大な欠陥があり、それが破裂または崩壊の原因となった。

 ● 多々起こる工業用タンクの爆発とは異なり、40年の実務経験の中で目のあたりにしたタンクの内破事故は片手で数えられるほどしかない。

 このタンクには、安全弁は無いが、同様の働きをする通気管(オープンベント)が延長されており、詰まる要因は高い。また、タンク底板と側板の溶接部に欠陥があり、ここを起点に破裂して多量の内液が流出した可能性はあると思う。

■ 日本でも、日本製紙が親会社のため、事例に対する反応は高かった。しかし、原因に関する報道は無かった。米国で多数の被害者が出たほか、稀に見る異常なタンク倒壊で、犠牲者が捜査が一段落したあと、原因に関する推測が報じられた。事業者の安全管理に関するこれまでの経緯が報じられたが、被災写真を見てもっとも驚くのは、薬品タンクに漏洩時の防止堤はなく、さらにタンク横に駐車スペースがあり、引継ぎ所が近くにあったという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Newsdig.tbs.co.jp,  日本製紙子会社の工場で薬品保管のタンク破裂し1人死亡、9人安否不明 消防が立ち入れないエリアも 米ワシントン州,  Ma 27,  2026

    Newsdig.tbs.co.jp, 日本製紙子会社工場でタンク破裂 1人死亡、9人不明米西部,  May 27,  2026

    Asahi.com,  米西部の日本製紙子会社工場薬品タンク破裂、州史上最悪の産業事故か,  May 28,  2026

    Nipponpapergroup.com,  米国子会社日本ダイナウェーブ・パッケージングにおける事故の状況について(第一報~第四報),  May 27,  2026

    News.yahoo.co.jp, 日本製紙の子会社で工場タンクが破裂した事故で遺体の収容を完了 死者11人 米ワシントン州,  May 31,  2026

    Reuters.com, Eleven confirmed dead in Washington state chemical accident, all bodies recovered,  May 31,  2026

Jnylaw.com, 11 Killed at Nippon Dynawave Packaging in Washington,  June 02,  2026

    Opb.org, ‘Something dramatically wrong’: Questions but few answers after Longview mill tragedy,  May 31,  2026

    Nbcnews.com, All missing victims recovered in Washington paper mill explosion,  May 31,  2026

    Usatoday.com, Victims identified in Washington chemical explosion, death toll at 11,  May 31,  2026


後 記: 人間というものは、慣れてしまえばリスクをリスクと考えないものだとよく分かる事例です。米国の創造的発想はすばらしいものですが、いったん現実になったプロセス設備に対する感度が鈍いところがあるように思います。安心しきったところに、今回のような破裂・倒壊事故が起こるものなのでしょう。ところで、今回の事故の要因名について、報道では爆発 破裂 倒壊などが使用されていましたが、被災写真を見ると、これまでのタンク事故には無い印象で、ぴったりする表現がありません。内破という言葉もありますが、一般に浸透しておらず、類似辞典を調べてみました。しかし、いい表現がなく、結局破裂・倒壊という言葉にしました。

2026年5月25日月曜日

広島県三次市で工事中にエタノールタンク2基が爆発・火災、負傷者5名

 今回は、2026428日(火)、広島県三次市にある医薬品などを製造する丸善製薬㈱の三次工場で、エタノールを貯蔵するタンク2基が爆発・火災を起こし、負傷者5名が発生した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、広島県三次市(みよしーし)にある丸善製薬㈱の三次工場である。丸善製薬は医薬品や健康食品の原料を製造する会社である。

■ 事故があったのは、工場内にあるエタノール貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2026428日(火)午前1130分頃、丸善製薬の三次工場のエタノールを貯蔵するタンクで爆発・火災が発生した。

■ 付近の住民から「タンクが爆発した」という119番通報があり、消防署が出動した。

現場ではエタノールを貯蔵するタンク2基から炎が上がっていた。工場内には複数のタンクがあり、うち2基が爆発し、火災が発生した。1基のタンクは屋根が噴き飛び、近くに落下していた。もう1基のタンクは屋根の一部が外れて隙間から炎が噴き出していた。

■ 住民のひとりは、「大きな音が2回して、建物のガラス窓が揺れた」と話している。

■ 事故当時、丸善製薬の三次工場では、製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていた。

■ 発災にともない、作業をしていた2030歳代の男性5名が骨折ややけどなどで病院に搬送された。ふたりが重傷とみられる。5名は同市と兵庫県に住む社外の請負会社の作業員である。

■ ユーチューブやフェースブックでは、事故を伝える映像が投稿されている。

Youtube製薬工場で爆発事故 中にエタノール…男性作業員5人重軽傷 広島・三次市(2026年04月28日)

●Youtube5人負傷】製薬工場でエタノール入ったタンク爆発 広島・三次市」2026/04/28

 ●FacebookAlcohol storage tank fires and explosion at Maruzen Pharmaceuticals in Miyoshi City, Japan (28 April 2026) Five people were injured in the incident 2026/04/28

被 害

■ エタノールの貯蔵タンク2基が爆発・火災で焼損した。

■ 負傷者が5名出た。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 発災時、製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていたというので、工事が関連しているとみられる。  

< 対 応 >

■ 火災を起こしたエタノールタンク2基は、約3時間後の午後230分頃に消し止められた。

■ 428日(火)、丸善製薬は、同社のウェブサイトで事故の状況などを発表し、「事故当時は製造棟新設工事に関連する作業を行っていました。深くおわび申し上げます」と述べた。 

■ 現場検証のため、三次工場は一時操業停止としていたが、58日(金)より、安全確認が完了した倉庫内の在庫に ついて、出荷を行う体制を整えているという。

補 足                                                

■「広島県」は、中国地方の山陽側の中央部に位置し、南は瀬戸内海に面し、人口約271万人の県である。県庁所在地は広島市である。

「三次市」(みよしーし)は、広島県の北部に位置し、人口約46,000人の市である。三次市は、中国地方の中心部に位置しており、江の川の支流が三次盆地で合流するため、河港として栄え、古くから山陰-山陽を結ぶ文化・経済・交通の要衝の地として機能してきた。 現在でも、中国自動車道・中国やまなみ街道(尾道自動車道・松江自動車道)・芸備線など三次市を中心に放射状の交通網が整備されている。

■「丸善製薬㈱」(まるぜんせいやく)は、1938年に設立し、広島県尾道市に本社を置き、医薬品などを製造する会社である。医薬品以外にも、化粧品や甘草から抽出した甘味料などを製造している。広島県三次市に製造工場がある。

■「エタノール」 (エチルアルコール; C2H6O)は、引火性の高い液体で引火点が約13℃で揮発性が高く、室温でも可燃性ベーパーを容易に放出し始め、このベーパーが電気火花、溶接火花、裸火などの発火源に接触すると、激しい爆発を引き起こす可能性がある。密度は0.78/㎤、燃焼範囲(爆発限界)は3.319.0vol%である。

 エタノールには消火を困難にする特殊な特性があり、エタノールは水に溶ける性質がある。すなわち、水ではエタノール火災を消火できないだけでなく、場合によっては液体と混ざることで可燃性ベーパーの拡散を助長する。エタノールの消火には水溶性引火性液体に接しても破泡しない頑丈な泡を形成する耐アルコール泡が必要で、エタノール火災の消火には、AR-AFFF(耐アルコール性)と呼ぶ特殊な消火泡を用いる。この泡は燃焼液の表面に膜を形成し、酸素を遮断し、ベーパーの発生を抑える。

 20262月に発生した「ブラジルでエタノールタンクの保全工事中に爆発、死傷者3名」 20263月)の事故では、タンクに固定泡消火設備が設置されており、 AR-AFFF(耐アルコール性)の消火泡が投入されて消されたとみられる。しかし、ブラジルの多くの消防署では、アルコール専用泡の不足が消防業界の既知の問題となっている。

 今回の事例では、 AR-AFFF(耐アルコール性)の特殊な消火泡が使用されたかは報じられていないが、「広島県の各消防本部の化学消火薬剤の備蓄状況」2010年とやや古いデータではあるがでは、下表のように、三次市の属する「備北地区消防組合」の耐アルコール用消火薬剤は多くの蓄えはないが、広島県全体では備蓄量はあるとみられる。おそらく、危急の場合、融通しあうのではないだろうか。 

■「発災タンク」は、エタノール貯蔵タンク2基と報じられているが、タンクのサイズなどの仕様はわからない。グーグルマップと被災写真で調べると、2基の発災タンクは同じ形状で、直径は約2.0mであり、高さを約3.0mとすれば、容量約9.4KLのコーンルーフ型円筒タンクである。

所 感

■ 事故の原因は分かっていない。しかし、事故当時は製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていたという。このブログでは、何度も指摘してきたが、「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)のつぎの項目のいずれかが欠けていたと思われる。

  ①代替方法の採用、  ②危険度の分析、 ③作業環境のモニタリング、

  ④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督

■ 消火活動は、「約3時間後」に消し止められたと報じられているが、詳細は語られていない。2基同時火災という困難な状況下で、且つ消防車や消防隊の配置も最適な場所の確保が難しかったが、今回の事故はメディアによる映像が放映されているので、消火戦略について推測してみる。

 ●AR-AFFF(耐アルコール性)の泡薬剤の備蓄量に不安があるため、他の消防本部からの融通を優先し、初期の消火戦略は防御的戦略をとり、他のタンクへの延焼を防ぐ冷却放水を行った。

 ●AR-AFFF(耐アルコール性)の泡薬剤が到着した段階で、積極的戦略をとり、泡放射を行った。このとき、まず1基のタンクに集中して泡放射を実施した。もう1基のタンクは冷却散水を継続した。

 ●1基のタンクが消火できたら、つぎに残りのタンクについて泡消火の積極的戦略をとった。

 タンク火災としては直径約2mと大きくはないが、消火までに約3時間かかっており、複数基火災が予想以上に消火が難しいかを知る事例となっている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Yomiuri.co.jp,  工場でエタノールタンク2基が爆発・炎上、やけどや骨折で作業員5人重傷か周辺で配管取り付け作業中に,  April  29,  2026

     Maruzenpcy.co.jp, 三次工場におけるタンク火災事故に関して,  April  28,  2026

     Nikkei.com,  広島県三次市の製薬工場でタンク爆発か 5人負傷し搬送、地元消防,  April  28,  2026

     News.ntv.co.jp,  製薬工場でエタノール入ったタンク爆発 5人負傷 広島・三次市,  April  28,  2026

     News.yahoo.co.jp,  製薬工場タンク爆発か、5人搬送 広島・三次、2人は重傷,  April  28,  2026


後 記: 今回の事例でよかったと感じたのは、火災現場の活動状況のわかる映像があったことです。文字による記事だけでは、タンクの大きさも分からず、消火活動もまったく分からない状況でした。テレビ局の強みが発揮されたと思います。それでも、分からないことの多い事例です。安全意識の高いはずの化学プラントでなぜ「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117)の指摘しているような基本的事項の逸脱があったのか、また、なぜ発災タンクに隣接していたタンクもすぐに爆発したのかなど、これまでの事例に無かったことが起きています。それが事故というものだで済まない気のする事例です。

2026年5月18日月曜日

イランの原油積出し拠点のカーグ島周辺で油流出か、実はタンカーのバラスト水の投棄

 今回は、202658日(金)、ペルシャ湾内にあるイランの主要な原油積出し拠点であるカーグ島周辺の海域で衛星写真によって大規模な石油流出が起きているのではないかという事故情報を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ペルシャ湾内にあるイラン(Iran)の主要な原油積出し拠点であるカーグ島(Kharg Island)周辺の海域である。 カーグ島はイランの原油輸出の90%を担う拠点である。

■ 事故があったとみられたのは、カーグ島内の原油積出し関連設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202658日(金)、カーグ島周辺の海域で大規模な石油流出が起きている可能性があることが衛星画像で確認された。  

■ 欧州の地球観測プログラム“コペルニクス” の衛星が56日(水)~7日(木)に撮影した画像では、島の西側海域に灰色と白色の帯状が8kmにわたって広がっていた。

■ 英国の紛争・環境観測団(CEOBS)は、流出の原因と発生地点は現時点で分からないと述べ、58日(金)時点の画像では、新たな活発な流出の兆候は見られなかったという。

■ 米国・イスラエルーイラン戦争によって米軍が攻撃開始後、カーグ島の軍事目標は早い段階で破壊されたところで、米海軍はイランのタンカーの出入りを阻止するため、イランの港湾を封鎖している。米国の財務長官は、4月下旬、近いうちにカーグ島の原油貯蔵施設が満杯になり、イランの油田は生産停止に追い込まれるとの見方を示していた。

■ 海上には油膜が広がっており、環境や生態系への影響が懸念される。米国・イスラエルーイラン戦争の緊張が続く中、早期の回収は困難な状況である。油膜は他のペルシャ湾岸諸国に到達する恐れもある。

■ 紛争・環境観測団(CEOBS)によると、ここ6か月の間に同様な流出は確認されていなかったといい、今回の流出は「重要性の高い石油ターミナルに負荷がかかっている兆候」ではないかと疑問を呈した。

■ 専門家の中には、貯蔵能力の不足を理由に石油が意図的にペルシャ湾に放出された可能性があると示唆しているが、現時点ではその説を裏付ける証拠はない。

■ 紛争・環境観測団(CEOBSは、流出した石油は約44 ㎢に広がっていると推定している。一方で、石油の流出を監視するスペインの「Orbital EOS」は、流出が57日(木)時点で52 ㎢以上に及んでいるように見えると述べた。

■ 59日(土)、紛争・環境観測団(CEOBSは、衛星画像では油膜の範囲が「大幅に縮小」している様子が見て取れると述べた。現時点では、「流出の原因と発生源は不明のままであり、利用可能な画像だけでは断定できないとしているが、地球観測プログラムコペルニクスの画像分析に基づくと、流出しているのは石油のように見える」と述べた。しかし、「9日(土)のコペルニクス画像では、最初に確認された6日(水)の画像と比べ、その規模が大幅に減少していることが示されているようだ」という。

■ 59日(土)、イラン議会エネルギー委員会は、貯蔵能力の逼迫によりイランの施設から石油が流出していることを確認する報告は「今のところない」とし、「国内の様々な油田での生産は問題なく続いている」と述べた。

■ 511日(月)、イラン外務省は、この地域での米国の軍事作戦が原因で生態系に被害が生じていると非難した。また、イランの石油ターミナル会社はカーグ島付近で石油流出が起きているとの報道を否定した。

被 害

■ カーグ島周辺に排出されたタンカーのバラスト水(油混じりの廃水)によって海の環境が汚染された。 

< 事故の原因 >

■ カーグ島付近で原油流出の疑いがあったが、タンカーから排出された汚染物質を含むバラスト水(廃水)の投棄が原因である可能性が高いとみられる。

< 対 応 >

■ カーグ島周辺の流出報道が出る以前の202647日(火)、米軍はペルシャ湾に浮かぶイランの主要原油積出し拠点であるカーグ島の軍事施設を攻撃した。米国は413日(月)にもカーグ島の軍事施設を空爆したが、イラン経済の生命線とされる石油インフラストラクチャーへの攻撃は見送っていた。

■ 510日(日)、イラン石油ターミナル社は、カーグ島で操業する貯蔵タンク、パイプライン、積載施設、タンカーからの漏洩の証拠は検査で発見されなかったと発表した。

■ 512日(火)、イランは、カーグ島付近で原油流出の疑いがある事案について、石油施設からの流出ではなく、タンカーによる廃水の投棄が原因である可能性が高いという見解を示した。イランは「われわれの調査結果では、この流出がイラン以外のタンカーから排出された汚染物質を含むバラスト水によるものであることを示しており、イランのパイプラインや石油施設からの原油流出は報告されていない」と述べた。

■ 衛星画像分析官は、漏洩源がタンカーだと考えていると述べたが、光学画像だけでは漏洩源を特定することはできないという。

■ 513日(水)、東京大学で画像分析を行った教授によると、カーグ島はイランの原油輸出の大部分を占めており、その西側の海域は積荷作業を行うタンカーによって頻繁に利用されていた。油膜の位置はこうした操業環境と一致するものの、カーグ島の石油ターミナルに近いからといって、そこが油膜の発生源であると断定することはできないという。

 教授は、「島の西側と南西側に広がっている漂流する油膜という空間パターンは、海底や海岸線の固定点からの連続的な漏出ではなく、単発の放出事象後に、風と海流によって運ばれた物質と一致しているように見えた。その後の画像では、活発な継続的な放出の兆候は見られなかった」いい、「入手可能な情報によると、石油ターミナルやパイプラインからの漏洩というよりも、船舶に関連した排出または漏洩の可能性が高いことを示している」と述べた。

補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国で、西アジア・中東のイスラム共和制国家である。世界有数の原油産出国であり、人口は約9,175万人で、首都はテヘランである。公用語はペルシア語である。

「カーグ島」(Kharg Island)は、ペルシャ湾のイラン北部に位置する島で、イラン本土の沖25kmにあり、ハールク(ārk)と呼ばれている。英語圏ではKharg Islandといい、日本の報道では、主に英語圏の報道機関・通信社から提供される情報を利用してニュースを伝えるので、主にカーグ島と表記されている。常住の人口は約8,100人であるが、石油積出し施設に関係する施設職員、港湾作業員、警備・軍関係者などを含めると、約20,000人の居住者がいるといわれている。

■「地球観測プログラム“コペルニクス”(Copernicus)」は、欧州連合(EU)が主導する世界最大級の地球観測プログラムであり、衛星や現地観測データを活用して、環境監視、気候変動対策、安全保障に関わるデータを無料で公開している。環境保護、自然災害管理、持続可能な農業など地球全体の現状を把握し、意思決定を支援する「欧州の地球の眼」である。

■「紛争・環境観測団」(Conflict and Environment Observatory、略称:CEOBS)は、2018年に英国で設立され、武力紛争や軍事活動が環境および人間に及ぼす影響を調査し、認識を高めることに特化した慈善団体である。

■ 「Orbital EOS」は、2019年にスペインで設立された環境監視の団体で、石油流出検知、環境パフォーマンス監視、海岸浸食など海洋分野における課題に対し、衛星ベースのソリューションを提供している。AI(人工知能)と高度な海洋モデリングを活用し、監視能力を向上させている。Orbital EOSの技術(EOS Viewer)の主な用途の一つは石油流出監視である。

■「バラスト水」は、貨物を積んでいない船が航行時の安定性を保つために船底のタンクに取り込む海水をいう。バラスト水は港で積込み、別の港で排出されるが、この海水に含まれる外来種が移動先で生態系を破壊する問題を防ぐため、国際条約により処理装置の設置が義務化されている。

所 感

■ メディアの一報からカーグ島の原油積出し施設内の貯蔵タンクからの流出ではないかと調べ始めたが、そうではなく、タンカーからのバラスト水排出とみられることが分かった。

 ①地球観測プログラム“コペルニクス”で流出が疑われる衛星画像・・・⓶場所はイランのカーグ島・・・③米国によるイラン攻撃があった・・・④カーグ島の石油ターミナルは機能停止している 

 このような条件が揃えば、誰だって石油ターミナルのタンクや配管からの油流出と思ってしまう。無意識の思い込みの典型例であろう。このような事例を調べて投稿している者にとってもっとも諌めなければならないことである。

■ ホルムズ海峡の封鎖でペルシャ湾には行き場のないタンカーや船舶が滞っている。意図したものかどうかはわからないが、このバラスト水投棄は戦争が及ぼす悪い影響のひとつである。しかし、タンカーなどの船舶関係者は、タンカーからのバラスト水の投棄はやってはならないということを強く意識してもらいたい。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Jp.reuters.com,  カーグ島で石油流出か、イラン主要積み出し拠点 油膜とみられる画像,  May 10,  2026

     Afpbb.com,  カーグ島沖で石油流出か 9日の衛星画像では範囲「縮小」 環境団体,  May 10,  2026

     Jiji.com,  カーグ島海域に石油流出 貯蔵量超過の可能性もイラン,  May 12,  2026

     Jp.reuters.com,  ペルシャ湾の原油流出、タンカー廃水が原因の可能性=イラン高官,  May 13,  2026

     Cnn.co.jp,  イランのカーグ島付近で大規模な石油流出、衛星画像が捉える 専門家は新たな流出に警鐘,  May 13,  2026

     Nbcnews.com,  Oil spill in Gulf likely caused by tanker dump, Iran says,  May 13,  2026

     Thenationalnews.com, Oil slick near Iran's Kharg Island sparks concerns – but where did it come from?,  May 13,  2026

 

後 記: 所感で述べたように、ブログを投稿している者にとってもっとも諌めなければならないことは無意識の思い込みです。しかし、今回の事例で感じたことは、各地で戦争が起こっており、軍はうそを言っても構わないという風潮がメディアの中にも浸透しつつあるということです。このブログでは書きませんでしたが、カーグ島周辺の流出油の画像の中にはいろいろなものがあり、中にはカーグ島の東側のものもありました。もともとイランの事故情報のことは不明瞭でしたが、現在のイラン情勢では一層はっきりしないですね。第一、カーグ島の写真にしてもいい写真(下)だと思っても、よく見るとタンク基数や桟橋が違っており、以前の風景なのですね。


2026年5月11日月曜日

タイの製油所で落雷によって原油貯蔵タンクが屋根シール火災

 今回は、202654日(月)、東南アジアのタイのチョンブリー県にあるタイ石油公社のシラッチャ製油所で原油貯蔵タンクに落雷があり、屋根シール火災があった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、タイ(Thai)チョンブリー県(Chonburi)シラッチャ(Si Racha)にあるタイ石油公社(Thai Oil Public Co.)のシラッチャ製油所(Si Rracha refinery)である。製油所の精製能力は275,000バレル/日である。

■ 事故があったのは、製油所の原油貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202654日(月)午後5時頃、製油所にある原油貯蔵タンクの屋根に落雷があり、火災が発生した。

■ その時間帯にこの地域では、激しい雨と雷雨が発生していた。現場に居合わせた目撃者によると、原油貯蔵タンクの上部に落雷があり、大きな破裂音が聞こえたという。その後まもなく、タンクの屋根から黒煙と炎が立ち上るのが目撃された。

■ 火災の炎はタンク屋根部で急速に燃え広がり、近隣住民を不安にさせた。

■ 発災にともない、製油所の消防隊と地元の消防隊が出動した。

■ 消防隊は、泡消火剤を散布して火災が近隣のタンクに延焼するのを防いだ。

■ ユーチューブやフェースブックでは、事故のニュースを伝える動画が投稿されているが、このブログで紹介している画像と同様ではっきりした事故画像はない。

 Youtubeไทยออยล์ แจงฟ้าผ่าถังเก็บน้ำมัน ไม่กระทบการกลั่น : รอบวันทันเหตุการณ์ 12.00./ วันที่ 5 ..692026/05/05

 ●FacebookFire & Rescue Thailand รายงานว่า เกิดเหตุฟ้าผ่า ไฟลุกฝาถังเก็บน้ำมันโรงกลั่น เมื่อเวลา 17.00 น.วันที่ 4 พฤษภาคม 2569 เกิดเหตุฟ้าผ่าแล้วเกิดเพลิงลุกไหม้ ฝาถังเก็บ Crude Oil ของโรงกลั่นน้ำมัน พื้นที่ จ.ชลบุรี ขณะนี้เจ้าหน้าที่2026/05/05

 ●Facebookกิดเหตุฟ้าผ่าใส่ถังเก็บน้ำมันดิบ ในพื้นที่ อ.ศรีราชา จ.ชลบุรี ทำให้เกิดเพลิงไหม้ ก่อนที่เจ้าหน้าที่จะควบคุมเพลิงไว้ได้ . #Ch7HDNews #ข่าวออนไลน์7HD」2026/05/05

被 害

■ 原油貯蔵タンク1基の浮き屋根シール部が火災で被災した。

■ 負傷者はいなかった。 

< 事故の原因 >

■ 浮き屋根式タンクに落雷があり、屋根シール部の可燃性ベーパーに引火して火災になった。 

< 対 応 >

■ 当局は、事態が完全に収束したと発表した。火災は鎮火し、負傷者や死者は報告されていない。

 消防隊は再燃を防ぐため、タンクに冷却水を噴霧している。一方、当局は被害状況の詳細な調査を行っている。

■ 製油所は、敷地周辺の大気質を監視するため、公害防止局を含む関係機関と連携する準備を進めている。

■ 火災は迅速に鎮火されたが、当局は周辺地域に影響を与える可能性のある残留臭や煙がないか引き続き監視している。

■ 警察と技術専門家は、製油所の避雷システムと原油タンクの構造を調査し、事故発生時に避雷システムが十分に機能しなかった理由を調査する予定だという。

■ タイ石油公社は、被害の程度を評価している段階だが、被害は限定的で財務状況や業績に大きな影響を与えるものではないと見込んでいる。

 しかし、当局は、今回の事故による被害状況を評価中であり、今後同様の事故が再発しないよう、詳細な調査を実施する予定である。

補 足

■「タイ」(Thai)は、正式にはタイ王国(Kingdom of Thailand)で、東南アジアの中心に位置する人口約6,600万人の仏教国である。

「チョンブリー県」(Chonburi)は、タイ中部に位置し、海岸部はタイランド湾と接する人口約145万人の県である。

「シラッチャ」(Si Racha)は、チョンブリー県にあり、工業団地と港に囲まれた人口24,000人の市である。

■「タイ石油公社」(Thai Oil Public Co.)は、1961年に石油精製会社として設立され、タイ・オイル(Thai Oil)とも呼ばれる。タイ石油公社は、精製能力35,000バレル/日の小規模製油所から、275,000バレル/日を処理できる複合製油所へと発展してきた。精製燃料、石油化学製品、基油潤滑油など多種多様な製品を生産している。「シラッチャ製油所」の主な製品は、LPガス、ガソリン、混合キシレン、ジェット燃料、ディーゼル油、アスファルトなどである。

■「発災タンク」は、原油貯蔵タンクというだけので、サイズや油量は報じられていない。被災写真を見ると、外部型浮き屋根式タンクで510KLレベルの大型タンクである。タンクには、側板に散水配管が設置されている。このほか、固定泡消火設備または半固定泡消火設備が設けてあるのではないだろうか。

■ 「NASAによる世界の雷マップ」(20126月)によると、東南アジアのタイは日本よりはるかに落雷頻度が多い。

所 感

■ 近年、日本でも強い落雷を経験するようになったが、東南アジアのタイでは日本よりはるかに落雷頻度の多い地域である。このため、今回のタンク火災が起こったことに対して、「警察と技術専門家は、製油所の避雷システムと原油タンクの構造を調査し、事故発生時に避雷システムが十分に機能しなかった理由を調査する予定」だといい、強い関心を示している。

 ここでいう“製油所の避雷システム”とは何を指すのか分からないが、特別な被雷塔(避雷針)やタンクの接地設備を言っているのだろう。タンクの被雷システムは「中国における石油貯蔵タンクの避雷設備」20141月)がよくまとまっており、日本でもタンクの接地設備の保守などについて再チェックする機会の事例といえよう。

■ 浮き屋根シール火災の消火活動は、固定泡消火設備または半固定泡消火設備で消火させてものだろう。一方、“火災の炎はタンク屋根部で急速に燃え広がり、近隣住民を不安にさせた”とあり、泡消火設備が機能するまでに時間がかかったと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Nationthailand.com, A lightning strike sparked a crude oil tank fire at a Chonburi refinery, with crews using foam to contain the blaze. No injuries were reported,  May 04,  2026

     Marketwatch.com, Thai Oil Refinery Crude Storage Tank Catches Fire After Lightning Strike – OPIS,  May 05,  2026

     En.moneyandbanking.co.th, TOP explains that a lightning strike hit an oil storage tank, the fire was quickly brought under control, there were no injuries, and production was not affected,  May 05,  2026

     Thairath.co.th, ฟ้าผ่าโรงกลั่นที่ชลบุรี ไฟลุกท่วมฝาถังน้ำมันไทยออยล์ยันควบคุมสถานการณ์ได้แล้ว,  May 04,  2026

     Mgronline.com, ระทึก! ฟ้าผ่าฝาถังน้ำมันดิบโรงกลั่นที่ชลบุรีจนไฟลุกไหม้,  May 04,  2026

     Dailynews.co.th, ฟ้าผ่าโรงกลั่น! ไฟลุกท่วมฝาถังน้ำมันไทยออยล์ ศรีราชา เจ้าหน้าที่สยบเพลิงด่วนไร้เจ็บ...,  May 04,  2026

     Amarintv.com, ระทึก! ฟ้าผ่าถังเก็บน้ำมันดิบกลางโรงกลั่นชลบุรี ไฟลุกท่วมฝาถัง,  May 04,  2026

     Bangkokbiznews.com, ฟ้าผ่าโรงกลั่นน้ำมันชลบุรี ไฟไหม้ถัง Crude Oil คุมสถานการณ์ได้แล้ว,  May 04,  2026


後 記: 今回の事例で感じたのは、被災写真のあり方です。ブログを読んだ人で感じた方もあると思いますが、障害物が前に写ったりしていて状況がはっきりしません。各メディアの記事の写真は消防署が撮ったもののようですが、撮影条件(天候や時間など)が悪かった所為もあるでしょう。

 このように被災写真がはっきりしないと、現在のようにAIArtificial Intelligence;人工知能)が発達した世の中でははっきりさせようとする動きが出てきます。今回の事例では、さっそくSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に下のようなフェーク写真が投稿されています。右側の写真は発災のタンク番号と同じですが、少し大げさな構図なので、フェークということは分かるでしょう。しかし、左の写真になると、監視カメラで落雷の瞬間を撮ったものだと言われれば、フェーク写真ではないと思ってしまいますね。