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2022年1月22日土曜日

米国ペンシルバニア州で固定屋根式タンクの脆性破壊事故(1988年)

  今回は、198812日(土)、ペンシルベニア州フローレフェにあるアシュランド・オイル社のタンク・ターミナルで固定屋根式タンクが脆性破壊を起こし、内部の油が全量流出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ペンシルベニア州(Pennsylvania)アレゲニー郡(Allegheny)フローレフェ(Floreffe)にあるアシュランド・オイル社(Ashland Oil Co. : 現在のAshland Inc)のタンク・ターミナルである。タンク・ターミナルは、ピッツバーグ(Pittsburgh)の南方約25マイル(40km)に位置している。

■ 事故があったのは、タンク・ターミナルにある直径120フィート(36.6m×高さ48フィート(14.6m)で、容量400万ガロン(15,100KL)の固定屋根式(コーンルーフ)タンク(TankNo.1338)である。内液はディーゼル燃料(No.2ヒューエル・オイル)用である。

■ タンクは1940年頃にオハイオ州(Ohio)クリーブランド(Cleveland)に建設・使用されていたが、 19865月に解体され、オハイオ州東隣のペンシルベニア州で再組立てされたものである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 198812日(土)午後5時頃、タンク・ターミナルにあるディーゼル燃料用タンクが縦方向に破壊した。タンクに油を入れるのは初めてのことだったが、液高さが14.0mに達したとき、突然、雷のような音が約30秒間続 き、タンク内の油が一気に噴出した。

■ タンク・ターミナルはモノンガヒラ川(Monongahela River)の近くにあった。タンクには、385万ガロン(14,600KL)のディーゼル燃料が入っており、全量が流出して石油施設の敷地に溢れだし、さらに約775,000ガロン(2,937KL)の油がモノンガヒラ川に流れ込んだ。このアッシュランドのタンク破壊事故は国内史上最悪の内陸油流出のひとつになった。

■ タンク破壊は、アシュランド社のペンシルベニア州フロレフェにあるタンク・ターミナルに設置されて初めて満杯にされたときに発生した。タンクは、以前オハイオ州で使用されていたもので、そこで解体され、ペンシルベニア州に移されて再び組み立てられていた。タンクが破壊したので、385万ガロン(14,600KL)のディーゼル燃料が貯蔵施設にあふれ、さらに油の一部が土盛り堤を越え、隣接する施設を横切って流れ出て、近くの排水溝に達した。流出した油は排水溝を通って約775,000ガロン(2,937KL)がモノンガヒラ川に流入した。

■ タンクが破壊し、大量の油が一気に放出することによって事故現場で発生する力はかなりのものだった。地元住民の中には、タンクが壊れるとき、低いレベルの爆発のような音が聞こえたと語っている。タンクから放出される油は、実際、タンクと基礎を引き離し、タンク本体を切り裂き、曲げてしまった。ペンシルベニア州環境保護局(DEP)によると、タンクの鋼製側板はねじ曲げられ、歪んだまま地面に残されており、「側板自体は、元の場所から東方へ約120フィート(36m)位置がずれていた。鋼製の柱や他の支持部材は鋭角に曲げられて、最初あった場所から遠くへ放り投げられていた」という。

■ 約100フィート(30m)離れた別の大きな貯蔵タンク(Tank No.1367)は、破裂したタンクから押し寄せる油の衝撃によって側板部が凹んでしまい、基礎からズレてしまった。次に近かった別なタンクは放出した油が飛び散ったところにあり、側板が地面から約40フィート(12m)のところまで褐色に汚れていた。流出経路にあった1個の小さな構造物も流された。

■ 流出事故に伴い、アッシュランド施設近くの住民242世帯(約1,200人)が自宅から避難を余儀なくされた。タンク破壊時、油流出に伴うタンク破片が別の百万ガロン(3,790KL)のタンクに接続されているガソリンラインを壊して、配管から約20,000ガロン(76KL)のガソリンが漏洩した。ディーゼル燃料とガソリンの混合液は爆発する危険性があり、これが住民避難の主要因だった。避難指示は14日(日)正午頃に解除された。

■ 川の近くを通る線路や道路は、人の健康と火災の危険性への懸念から、鉄道と車両の交通が停止された。

■ 油膜がモノンガヒラ川とアレゲニー川の合流点に到達し、さらに一緒になってオハイオ川に流れていき、18日までにウェスト・バージニア州のホイーリングに達した。モノンガヒラ川への流出はオハイオ川へ広がり、このための水質汚染は深刻な事態を引き起こした。公共水道系が閉鎖され、ペンシルベニア州、オハイオ州、ウェスト・バージニア州の約80の自治体で100万人以上が影響を受けた。一部の町では、8日間、水道が利用できなかった。また、水質汚染によって多くの鳥や魚が死んだ。

■ タンクの破壊状況の推定動画が米国環境保護庁(EPA)からユーチューブで公開されている。(YouTube,Ashland Oil Company Diesel Fuel Spill 1988 Allegheny County, Pennsylvaniaを参照)

 

■ 容量400万ガロン(15,100KL)のディーゼル燃料用タンクが破壊し、内部に入っていた385万ガロン(14,600KL)の油が全量流出した。

■ 油流出に伴うタンク破片によってガソリンラインが壊れて、配管から約20,000ガロン(76KL)のガソリンが漏洩した。また、油の流出によって隣接タンクの側板が凹んだ。

■ 近くにあったモノンガヒラ川に約775,000ガロン(2,937KL)の油が流出し、大規模な水質汚染を引き起こした。この影響によって公共水道系が閉鎖され、ペンシルベニア州、オハイオ州、ウェスト・バージニア州の約80の自治体で100万人以上が影響を受けた。 

■ 近くに住む住民242世帯(約1,200人)が予防措置として自宅から3日間避難を強いられた。   

< 事故の原因 >

■ 事故原因はタンク側板材の脆性破壊である。その要因はつぎのとおりである。

 ● タンクが初めて満杯にされたとき、タンクの側板が裂けており、使用材料が不適切だった。事故発生時の気象状況は、 気温-3.3℃、 湿度41%、風速4.1m/s、受入れ油の温度7.8℃、 破壊起点の側板の推定温度3.3℃で、タンクがさらされた低温と応力に対して十分な耐力をもっていなかった。

 ● アッシュランド社は、40年前に製作されていたタンクを安易に解体・再組立てし、当時の業界規格を満たす材料を使用していなかったし、これらの規格で要求するテストも行っていなかった。

 ● 当時の米国環境保護庁(EPA)の規制は、石油貯蔵施設の運営者が業界規格を使用してタンクを建設し、テストすることを要求していなかった。

■ 事故原因の調査結果の詳細は、Investigation into the Ashland Oil Storage Tank Collapse on January 2, 1988および「石油タンクの脆性破壊事故」を参照。

< 対 応 >

■ 沿岸警備隊と石油会社に雇用された請負会社による流出油のクリーンアップはオイルフェンス、バキューム車などを使用して行われ、冬の天候によって妨げられが、流出したディーゼル燃料とガソリンの混合液387万ガロン(14,676KL)のうち約298万ガロン(11,290KL)を回収したと報告されている。それでも、約89万ガロン(3,370KL)の油は回収されなかった。一方、米国環境保護庁(EPA)は、川に流出した油の20%を回収したと述べている。 注;流出量約775,000ガロン(2,937KL×20%=回収量約155,000ガロン(587KL) 未回収量約620,000ガロン(2,350KL

■ アッシュランド社は、発災から1か月後の127日(水)に、事故のあったタンクを再組立てする際、以前の溶接部に欠陥があったことを認めた。19861117日のメモによってX線撮影された39個のうち22個の欠陥があった。 しかし、欠陥は40フィート(12m)の割れがあったタンクの領域ではなかったという。また、再組立て後の水張検査は液位1.5mで行われ、漏れは無かったという。

■ 流出した油のクリーンアップ費用は1,100万ドル(14億円)かかった。

■ 19886月、 国立標準局(National Bureau of Standards NBS)は、事故の物理的原因について調査結果(Investigation into the Ashland Oil Storage Tank Collapse on January2, 1988)をまとめた。

 ● タンク側板の使用材料を分析したところ、ASTM A 283 grade D steel相当(SS400類似品)だった。API Std 650 Welded Tanks for Oil Storage)の適用材料から外れ、引張強さとシャルピー衝撃値が不足する材料だった。

 ● タンクは脆性破壊で壊れているが、タンク側板にはペンシルベニア州フローレフェにおける再組立て前から欠陥があり、これが起点となった。欠陥は、基礎部から約8フィート(2.4m)上で、側板1枚目と2枚目の間で水平溶接継手の下部に位置しており、溶接によるものでなく、ガス切断によるものとみられる。

 ● 側板材料に十分な強さが不足していたので、破壊の伝播を抑えることができず、タンク側板が完全な断裂に至った。タンク側板の溶接品質はAPI Std 650を満足するものではなかったが、破壊の起点になった要因ではなかった。しかし、欠陥に近傍した溶接は金属の脆化に寄与したとみられる。

 ● タンク基礎の安定性の欠如が側板に過度な応力をかけた可能性を調査したが、基礎部に問題は見つからなかった。

■ 1989年に米国会計検査院(Government Accountability Office GAO)による調査結果が議会に報告され、つぎにように指摘された。

 ● 米国環境保護庁(EPA)の規制は、石油貯蔵施設の運営者が業界規格を使用してタンクを建設やテストすることを要求していない。

 ● アッシュランド社のタンクは、当時の業界規格を満たす材料で構成されておらず、これらの規格で要求するテストが行われていなかった。

 ● タンクが初めて満杯にされたとき、タンクの側板が裂けた。金属分析の結果、タンクがさらされた低温と応力に対して十分な耐力をもっていなかった。



補 足

■「ペンシルベニア州」(Pennsylvania)は、米国北東部に位置し、人口約1,300万人の州である。気候は多様な地形により様々であるが、総体的に冬は寒く、夏は降水量が多い。

 「アレゲニー郡」(Allegheny)は、ペンシルベニア州の南西部に位置しており、人口約122万人の郡である。同郡には主要都市のピッツバーグ(人口約30万人)がある。

 「フローレフェ」(Floreffe)は、アレゲニー郡のジェファーソン・ヒルズにある区域である。

「アシュランド・オイル社」(Ashland Oil Company :現在のAshland Inc)は、1924年にケンタッキー州アシュランドに石油精製会社として設立された。その後、複数の石油精製会社を合併して発展し、石油化学にも進出した。化学事業が中心となったことから、1995年に社名をAshland OilからAshland Inc.に変更した。

■「当時の規制」 アッシュランドのタンク破壊事故は、米国の州レベルと連邦レベルの両方で地上式貯蔵タンクの不十分な規制を浮き彫りにした。当時の米国環境保護庁(EPA) によると、当時、地上式貯蔵タンクを規制していた法律があったのは15州だけだった。米国の州の半分以下が地上式貯蔵タンクの流出を追跡することさえ気にしなかったという。規制を行った州の中でも、管轄区域や管轄当局が不明確であり、時にはいくつかの機関に分散しており、流出や地下の漏洩事故が学校、水道、住宅地を脅かした場合、地方の管轄当局は混乱していた。

■ 材料に力を加えていくと、通常、弾性変形し、次に塑性変形をし、さらに力を加えると破壊に至る。しかし、塑性変形をほとんど伴わず、破壊が起こることがあり、目に見える変形を伴わずに、突然、破壊が起こる現象が「脆性破壊」である。たとえば、鋳鉄や黒鉛などは曲げる方向に力を入れても曲がらず、突然、折れてしまうが、これが脆性材料である。一方、鉄鋼材料でも「低温環境」、「引張応力が高いこと」、「応力が一点に集中すること」などの条件によって脆性破壊が起こる。これが分かったのは、第二次世界大戦中、米国で製造された溶接接合が採用されたリバティ船が真二つに割れて沈没する事故が多発したが、これが脆性破壊を知るきっかけになった。この事例や脆性破壊については失敗知識データベース「リバティー船の脆性破壊」を参照。

所 感

■ この事例は今から34年前の1988年の事故であるが、当ブログで紹介した19602003年までの43年間に起こった事故をまとめた「貯蔵タンク事故の研究」20118月)の中で、貯蔵タンクの割れによって川に流出した事例として出てくるほど有名な脆性破壊の事故である。しかし、事故状況の詳細は知らなかったので、まとめてみた価値はあった。タンク再組立て時の材料選定や溶接技術などの欠陥問題はわずか34年前の技術立国である米国の一姿であるが、日本ではありえないと思わず、謙虚に読むのがよいと感じる。

「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」201511月)では、 主な事例として、米国ペンシルベニア州の燃料油タンクが破壊し、防油堤内に流出し、別なタンクに損傷を与えたほか、油が防油堤を越えていった事故として掲載されている。

 「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」では、結論として「はっきりしたことは、貯蔵タンクに壊滅的な破壊が生じた場合、たとえ防油(液)堤が損傷しなくても、貯蔵されていた液の70%を超える量が越流して堤外の環境へ影響を与えるということである。その上、流出液による衝撃に対して、2次封じ込め設備が耐え得るか疑わしい。堤の構造にはいろいろあるが、一般的に設計された堤には、6倍の動圧力がかかる」としている。ペンシルベニア州の事故では、「14,600KLのディーゼル燃料の全量が流出して石油施設の敷地に溢れだし、さらに2,937KLの油がモノンガヒラ川に流れ込んだ」といい、貯蔵タンクの20%が防油堤を越えて川に流出している。また、「約30m離れた別の大きな貯蔵タンクは、破裂したタンクから押し寄せる油の衝撃によって側板部が凹んでしまい、基礎からズレてしまった」とあり、「液流出のモデル化」が机上の話ではないことを物語っている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Pophistorydig.com, “Disaster at Pittsburgh” 1988 Oil Tank Collapse,  April  06,  2015

    Washingtonpost.com, WATER SCARCE FOR 750,000 AFTER OIL SPILL,  January 04,  1988

    Epa.gov, Floreffe, Pennsylvania Oil Spill

    Apnews.com, Oil Spill Fouls River, Threatens Water for 750,000,  January 04,  1988

    Apnews.com, Bad Welds Detected A Year Before Tank Collapsed,  January 27,  1988

    Govinfo.gov, Investigation into the Ashland Oil Storage Tank Collapse on January 2, 1988,  June,  1988

    En.wikipedia.org, Ashland oil spill,  December 20,  2020

    Jstage.jst.go.jp, 石油タンクの脆性破壊事故, JHPI Vol.31 No.2 1993


後 記: 今回の事故では、前回の「米国における貯蔵タンクの保守とリムシール火災後の対応」(2022112日)を紹介したとき、事例のひとつとして載っていたのをきっかけに調べたものです。なにせ34年前の事故ですし、インターネットでどのくらい情報が集まるかと思っていましたが、意外にいろいろな情報が検索できました。さすがに記録好きの米国だと感じました。一か月も立たずに情報が消える日本と違うと実感しました。ところで、今回の事故の事象で悩んだのが「破壊」という言葉です。いままでは事故では、「損傷」、「損壊」、「破損」などを使っていましたが、事故の激しさから見てしっくりきません。「崩壊」という言葉を使っているのもありましたが、脆性破壊の「破壊」という言葉を使いました。





2022年1月12日水曜日

米国における貯蔵タンクの保守とリムシール火災後の対応

 今回は、20211221日付けのインターネット情報誌のIndustrial Fire Worldにあった“Fire Protection for Floating Roof Tanks (浮き屋根式タンクの火災防護)の内容を紹介します。

背 景

■ 米国全体でAPI規格(米国石油協会)の貯蔵タンクは数十万基が使用されている。その中で、比較的少ないが、火災が発生したり、あるいは壊滅的な事態を引き起こしている。 しかし、異常事態を常に準備しておくのが最善の策である。

屋外貯蔵タンクの仕様

■ タンク所有者は、緊急事態の時だけでなく、日常の保全や検査に活用できるタンク仕様のリストを保持しておくべきである。タンクの直径や高さ、貯蔵容量、タンク内に入っている製品の種類、タンクの断熱材の有無、断熱材の種類、計装機器の種類、屋根の種類などが分かるようにしておくことが大切である。

■ タンク所有者は、現貯蔵量、貯蔵できる容量、製品の温度、気体か液体か、製品の引火点と爆発限界などタンク貯蔵製品にも精通しておくべきである。

■ API Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction)は、API Std 650Welded Tanks for Oil Storage)とAPI Std 12CSpecification for Welded Oil Storage Tanks)の規格のもとで策定された地上式貯蔵タンクのための規格である。初版は1991年に発行され、その後5回改訂され、最新版は2014年に更新された。環境保護庁の文書局によると、1980年代後半にあった一連の壊滅的なタンク損壊事例により、米国石油協会(API)は3つの新しい規格、すなわち API Std 650API Std 651Cathodic Protection of Aboveground Petroleum Storage Tanks)、API Std 653を策定した。

■ ある事例では、地上式貯蔵タンクで漏洩があり、サウスダコタ州の学校が閉鎖に至った。別の事例では、タンクの損壊に続いて、10万ガロン(379KL)のディーゼル燃料がカリフォルニアの水路に流出した。 1988年には、タンク損壊後、ペンシルベニア州のモノンガヒラ川に約100万ガロン(3,790KL)が流出した。

■ 貯蔵タンクは、数千ガロン(数十KL)から数百万ガロン(数万KL)までの間でどのようなサイズでも設計ができ、建設することができる。技術が進歩するにつれて、より大きな貯蔵タンクをつくることができるようになった。タンクのサイズが極めて大きくなると、火災になった大型タンクは消火することが困難になる。また、大型タンクの製造コストが高くなると、損傷すれば物的損害額も大きくなる。

■ 貯蔵タンクは引火性や燃焼性の内容物を幅広く貯蔵できる。これらのタンクは、メキシコ湾岸沿いのタンク基地に集中している場合もあれば、製造施設、空港、発電所など全国のさまざまな場所で見られる場合もある。

浮き屋根式タンクのリムシール火災

■ 原油などの引火性の高い液体は、通常、浮き屋根式の貯蔵タンクに入れられる。タンク内の液面が変化する際、浮き屋根は蒸発損失を最小限に抑えるのに役立つ。さらに、火災を防ぐのに役立つ。浮き屋根をもつ貯蔵タンクにおける火災のほとんどは落雷によるものである。外部式浮き屋根型タンク火災のほとんどは落雷によって引き起こされるリムシール火災である。落雷によってベーパーに引火し、それから火災に至る。通常、タンク内の圧力を下げるか、ドライケミカルの消火器を使用すると、炎は消える。 

■ 屋外貯蔵タンクの火災は、実際には過去40年間減少傾向にある。 2014年のNFPA(全米防火協会:National Fire Protection Association) の報告によると、貯蔵タンクの火災は年間平均1,142件で、火災による負傷者発生は28件であった。2011年の時点では、火災の数は76%減の275件で、負傷者はひとりだった。過去10年間で火災は少なかったものの、NFPAの報告書によれば、屋外貯蔵タンクにおける火災が依然として約300万ドル(330百万円)の直接的な物的損害を引き起こしている。

■ 米国では、屋外貯蔵タンク火災の多い時期は5月から8月の間である。全火災の約三分の一が落雷による引火源であり、嵐の多い期間と重なっている。晩春から夏の気象条件は、通常、雷雨が発生しやすく、雷雨は、もちろん、稲妻を発生させる。

■ 貯蔵タンク火災のほぼ半分は正午から午後8時の間に発生している。米国海洋大気庁の国立暴風雨研究所(National Severe Storms Laboratory)によると、雷雨は正午から夕方の時間帯に最も多く発生する。落雷は引火源の三分の一強の原因となっている。暴風雨が貯蔵タンク火災の約三分の一の引火源になっていると考えられている。

■ ひとの迅速な行動は小さな火災が拡大するのを防ぐのに役立つ。ニュース報道によると、テキサスの油田労働者がすばやく動いて消火器で炎を消火し、おそらく落雷によって引き起こされた火災を消すことができた。油田労働者の行動が油の漏洩や流出を防ぐのに役立った。 

■ ひどい嵐に続いて明らかに火災になった後には、損傷具合を評価するため貯蔵タンクについてすべての検査を行うべきである。検査は、タンクの屋根、側板、底板、基礎について徹底的に評価すべきである。浮き屋根が損傷した場合、修復は元の構造図面と一致するようにすべきである。タンクへの機械的損傷は、損傷の軽重程度と損傷した部品に応じて、修復するか完全に取替えるか直ちに対処すべきである。

■ たとえば、浮き屋根の損傷したシール部は修理ではなく、取替えるべきである。API Std 6537.13.2項に従って、リムに取り付けられたシール部やシューに取りつけられた2次シール部は、タンクの供用中に簡単に修理や取替えができるかも知れない。 API Std 6537.13.1項によると、蒸発による損失を最小限に抑え、作業者への潜在的な危険を減らすために、供用中のタンクの工事では、一度に屋根シール系の四分の一を超えないようにすべきである。 

補 足

■ 筆者のエリン・シュミットさん(Erin Schmitt)は、 2019年に100周年を迎えたピッツバーグ・タンク&タワー・グループ(Pittsburg Tank & Tower Group)でメディア・ディレクター/テクニカル・ライターを務めている。彼女はケンタッキー大学でジャーナリズム学を専攻していた。

■ 貯蔵タンク火災の原因は落雷が全体の三分の一であるという。これは、「貯蔵タンク事故の研究」 20118月)の中でも指摘されている。この要因について解説されていないが、米国の陸上油田におけるタンク施設が大きく寄与していると思われる。この種の施設は小型タンクであり、多くは落雷に弱点のある固定屋根式タンクのためである。このブログの「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報についてーその3 20209月)では、 原因不明を除いた事故件数を分類してみると、落雷による事故件数が多く、全体の三分の一に近い。一方、原因推定別の事故件数では、 落雷を抜いて「保全/火気工事」がトップとなった。

■ 筆者は、「米国では、屋外貯蔵タンク火災の多い時期は5月から8月の間である。全火災の約三分の一が落雷による引火源であり、嵐の多い期間と重なっている。晩春から夏の気象条件は、通常、雷雨が発生しやすい」と指摘している。確かに米国では春から夏にかけてメキシコ湾岸における陸上油田のタンク施設の火災が多く、指摘は当たっていると思う。ただし、最近は落雷によるタンク火災は春から秋に移行しているように感じる。

 筆者はタンク火災が5月から8月の嵐の多い気象条件だと指摘している。一方、 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報についてーその3では、四半期ごとに分けてみると、第1四半期(13月)と第4四半期(1012月)に比べ、第2四半期(46月)と第3四半期(79月)が多い。見方を変えれば、4月~9月にタンク事故が多く、人の活動期と関係があるように見えるとした。この根拠として、曜日ごとの事故件数では火曜~金曜が多く、土曜・日曜が少なく、1週間における人の社会・経済活動と関係があるとみている。  

■ 筆者は、浮き屋根式タンクのリムシール火災に注目し、浮き屋根の損傷したシール部は修理ではなく、取替えるべきと指摘している。また、API Std 6537.13.1項を引き合いに出して、蒸発による損失を最小限に抑え、作業者への潜在的な危険を減らすために、供用中のタンクの工事では、一度に屋根シール系の四分の一を超えないようにすべきであると解説している。 内部浮き屋根式タンクであるが、供用中の検査方法はAPI会議で発表になっている。(「内部浮き屋根シールの供用中検査の方法」 20118月を参照)

 一方、「リムに取り付けられたシール部やシューに取りつけられた2次シール部は、タンクの供用中に簡単に修理や取替えができるかも知れない」と解説している。 これは、リムシールの構造の違いである。米国では、長期使用が可能なメカニカルシール方式が多く、日本のフォーム・ログ・シール方式と異なる。メカニカルシール方式では、主シールのメタリック・シューのほか、2次シールがあり、接地用のシャンツ設備が付いている。シャンツについてはAPIでリムシール火災の要因になっていると議論になった。(「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」20115月を参照)

所 感

■ 米国における貯蔵タンクの保守に関する基本的な考え方が分かる資料である。米国では、タンク側板、底板、浮き屋根、リムシールなどタンクに使用されている部品はすべて長期使用を前提にしている。リムシールはメカニカルシール方式で、たとえリムシール火災があっても、その後の対応では供用中にシール部を取替えるという考え方である。日本では、シール部にエンベローブ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式であり、供用中(運転中)に交換を行うことはない。日本のように十年周期をひとつの前提として開放検査の義務化をしている国とは考え方が異なってくる。長期使用可能といってもメンテナンス・フリーではない。このために制定されたのが、API Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction)である。これらのことを理解して資料を読む必要があろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Fire Protection for Floating Roof Tanks(浮き屋根式タンクの火災防護), by Erin Schmitt,  December 21, 2021        


後 記: 年末には、新型コロナは収まっているなと思っていたら、年明けて一週間も立たずに、ここ山口県ではまん延防止等重点措置が初めて適用される事態に急変化です。山口県では岩国市と和木町に限定されていますが、私が住んでいる周南市近辺でも結構な感染者が出ています。隣県の広島県でもまん延防止等重点措置が適用されており、安芸の宮島も正月は初詣でにぎわっていたのが、先日のニュースでは閑散としていました。うんざりですが、しばらくはマスクを手放せない生活です。

 このブログで20203月に「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)に備えて知っておくべきこと」と「新型コロナウイルスの伝染性は高い? 低い?」を出してから2年ほどになりますが、ウイルスはワクチンの効かない新しい株の開発(?)などの戦略で人間の対応戦術を上回っていますね。2020年では、ダイヤモンド・プリンセス号の水際作戦が失敗し、今回も日本の米軍基地が水際作戦の抜けになっています。もしかしたら、英国で当初にとった対策のように、米軍は兵士の集団免疫の戦略をとったのではないかとうがった見方をしてしまいますね。

2022年1月6日木曜日

2012年米国テネシー州核兵器施設への侵入事件とセキュリティ問題

 今回は、20211109日付けのインターネット情報誌のIndustrial Fire Worldにあった“Security or Pseudo Security?”(セキュリティあるいは疑似セキュリティ?)の内容を紹介します。

< 背 景 >

■ 産業施設の警備建屋で鳴り出している点滅するライトやけたたましいアラームは、本物のセキュリティ事象なのか、あるいはテスト用の疑似セキュリティを表しているのか? 2012年にテネシー州オークリッジの核兵器施設で起こったセキュリティ違反事例は、監視している人間が自分たちの仕事についてあきあきしたようになった場合、世界中のどんなハイテクのセキュリティ機器であっても役に立たないことを示した。

■ テネシー州オークリッジの核兵器施設はY-12と呼ばれ、 正式には「Y-12国家安全保障複合施設」(Y-12 National Security Complex)で、最初の原子爆弾のウラン濃縮を目的として建設された。第二次世界大戦後の数年間、核兵器部品や防衛目的の製造施設として運営されていたが、冷戦終結以来のY-12の主な使命は、核兵器備蓄管理に変わり、ウラン部品の保守と生産を行っている施設である。

■ リスクマネージメントの専門家であるデイビット・ホワイト氏が、オークリッジの核兵器施設のセキュリティ違反を事例にしてセキュリティの本質について解説する。

< 核兵器施設への侵入事件 >

■ 2012728日の夜明け前、Y-12国家安全保障複合施設ではっきりと表示されている高度セキュリティの境界線を3人の核兵器抗議者たちが越えていった。そこには兵器用ウランを貯蔵している非常に要塞化された構造物があった。その建物へ行こうと、抗議者たちはボルトカッターを使用して三か所のフェンスを通過していった。

■ 二番目のフェンスを切断した後、抗議者たちは複数のアラームのマイクロ波センサーを作動させた。あいにく、その地域を監視するために用いられていた(閉回路)テレビカメラは作動しなかった。

■ テレビカメラが使用できないとき、施設の実施要綱では、直ちに現場に担当者を派遣し、何が起こっているか確認する必要があった。しかし、そのような対応がとられることは無かった。

■ 抗議者たちが制限区域の奥深くに侵入すると、人感センサー(モーション・ディテクター)が作動した。このときには2種類のアラームが鳴っているので、セキュリティ担当者は侵入者が存在する可能性が高いと推測すべきだった。しかし、繰り返しになるが、対応はとられなかった。

■ 妨げられることなく、抗議者たちは、光ファイバーセンサーが設置されていた三番目のフェンスを切断した。しかし、このアラーム・システムはいつもよく鳴ることで悪名高かった。この理由のため、コントロール・センター(中央管理室、管制センター)によって半ば当然のように無視された。

■ その間、人感センサーが感知しているにもかかわらず、抗議者たちは先へ先へと進んだ。一番奥のフェンスを切断し、抗議者たちはカラースプレーで「戦争ではなく平和のために活動せよ」と書き、建物に人の血をまき散らした。抗議者たちがハンマーで建物を叩いたときは、その音は建設作業の騒音だと間違えられた。

■ 最終的に警備員(セキュリティ担当者)が駆け付けた。しかし、監督者が数分後に到着するまで、抗議者たちは拘束されなかった。最初のフェンスが切断されてから約2時間後、ようやく防護区域の封鎖が命じられ、抗議者たちは拘束された。

■ 悪賢く、ステルスのような侵入者はどんな人物だったのか ? 敵のスパイ ? テロリスト ? 世界支配に傾倒していた人物 ? これらのどれでもなかった。侵入者は82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だった。彼らはオークリッジにある政府施設への侵入と物損に関連した重罪の罪に問われた。

■ 1988年以来、オークリッジ環境平和同盟は、兵器工場を閉鎖するために、Y-12国家安全保障複合施設で非暴力の直接行動抗議を組織してきた。カトリックの修道女たちもオークリッジ施設で抗議活動を行ってきている。

■ 抗議者たち三人が貯蔵所の建物内に入ることに成功しなかったにもかかわらず、現場のセキュリティを管理している会社はすぐに契約を失った。下院エネルギー・商業委員会の監視と調査に関する小委員会は、セキュリティ違反に関して国家核安全保障局における問題について3月に公聴会を開催した。

< セキュリティは疑似セキュリティと異なる >

■ 米国にあるプラントや製油所と比較すると、Y-12の核兵器施設はまったく安全だといわれていた。 なぜなら、あなたの工場に人感センサーが設置されているか? 光ファイバーセンサーはどうか? マイクロ波センサーは?  いたるところに懐中電灯をもったガードマンがいる。にもかかわらず、施設内を通っていっただけでなく、中に入って混乱させたことは明らかである。

■ 高度なアラーム・システムを効果的に運用するためには、行動を起こすような人にアラーム・システムの高度さを知っておくようにするのもひとつである。逆に言えば、防護施設の四方に効果的な対応策が施されているため、行動を起こすような人には思い通りに使えるツールが必要となる。

■ それでも、私たちは勤務時間中のガードマンに武装させることすらしていない。なぜか? それは高価すぎると施設所有者はいう。しかし、それは真実ではない。不正な人が現代産業の核燃料に近づこうとする場合、高すぎるということはない。D・ウィリアムズ氏はそのことを最もよく言い表し、「私たちはそこでケーキ生地を作っているわけではない」と語っている。

■ これを読んでいる多くは反射的に「なぜデイビットさんはそこまで言うのだろうか」と考えるだろう。そのような人は、セキュリティの問題に直接対処するよりも、むしろ疑似セキュリティの領域を好むだろう。そのような人は「デイビットさん、誰もそこまで知る必要はない」という。そのような考え方をすることは悪者を過小評価するだけである。敵とみられる人が得意とすることは、ソフトターゲット(テロ攻撃に対して脆弱とみられる人や物)を見つけることだということは歴史が証明している。 

所 感

■ 今回の事例では、侵入者がテロリストでなく、 82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だったということで、心情的には侵入者に対する同情心が沸くが、セキュリティでは感傷的になることを否定する。このあたりは資料の筆者の巧みさを感じる。

■ 一方、核兵器施設で起こったセキュリティ違反事例は、監視している人間が自分たちの仕事についてあきあきしたようになった場合、世界中のどんなハイテクのセキュリティ機器であっても役に立たないことを示した事例でもある。 Y-12の核兵器施設には、人感センサー、光ファイバーセンサー、マイクロ波センサーが設置されているが、筆者はさらにガードマンに武装させるべきだと指摘する。しかし、20131月に起こった「アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況」「アルジェリア人質事件 スタトイル社の調査報告」201310月も参照)では、 警備として配備されていた軍隊へ過度に信頼を置いてしまっていたという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com,  Security or Pseudo Security? (セキュリティあるいは疑似セキュリティ?, by David White,   November  09,   2021 


後 記:  2012年に核兵器施設で起こったセキュリティをいとも簡単に破った事例が 82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だったという面白い話だったので、ブログに紹介しようと思いました。(面白がる事例ではないが) その後、20142月に修道女は84歳で禁固211月、男性2人は禁錮52月が言い渡され、刑務所に収容されたとのことですが、修道女は、「70年前にこれをしなかったことを後悔している」、 「余生を刑務所で過ごすのが最大の名誉だ」と語っています。

2021年12月29日水曜日

ボイルオーバーの研究 = 実際的な教訓

 今回は、201612月に公表された“LASTFIRE Boilover ResearchPractical Lessons Learned”LASTFIREによるボイルオーバー研究ー実際的な教訓)の資料を紹介します。

< 背 景 >

■ 1990年代後半の世界の石油会社16社が集まり、大型(直径40m以上)貯蔵タンクに関連するリスクを検討するプロジェクトが開始された。このプロジェクトが“LASTFIRE” Large Atmospheric Storage Tanks)である。この当時、大型の外部式浮き屋根型貯蔵タンクに関する火災のハザード(危険性)が十分に理解されていなかった。このため、現場における火災対応とリスク低減を図る必要性が石油・石油化学の工業界に認識されてプロジェクトが始まった。

■ 現在のメンバー会社はつぎの19社である。AMPOL, BP International, Coogee, EnQuest, ExxonMobil, LyodellBasell, MOL Hungarian Oil & Gas Co.,  Neste Oil,  Nynas,  Petronas,  Phillip66,  Puma Energy,  Qatar Petroleum,  Reliance Industries Lt,  Shell Global Solutions,  SINOPEC Safety Engineering Ins.,  Swedish Petroleum & Biofuel Institute(SPBI),  Total,  Viva Energy Australia

■ この資料は、LASTFIREのグループ・メンバーが集めた知識と経験にもとづいてまとめられたもので、原題は“LASTFIRE Boilover ResearchPractical Lessons Learned”LASTFIREによるボイルオーバー研究ー実際的な教訓)である。

1.  ボイルオーバーの概念

 

2. ボイルオーバーの要点

■ ボイルオーバーから得られる教訓は、つぎのとおりである。

 ● ボイルオーバーの蓋然性(がいぜんせい)は原油タンクが全面火災になったときに起こるもののひとつだと仮定すべきである。原油タンクの全面火災についてすべての報告事例をLASTFIREで調べたところ、ボイルオーバーは火災がある時間燃えていたときに起こっている。

 ● ボイルオーバーは、常にではないが、ファイアボールからかなりの量の原油が雨のように降り注ぐ結末に至る。噴出物はタンク外に噴き出ることがある。しかし、ときどき「燃え立つナイアガラ」(Flaming Niagara)と表現されるようにタンク側に噴き落ちることがあり、防油堤内に留まるかも知れない。ただし、噴出流の速度や勢いによっては、燃える原油が防油堤を越えていくことがある。

 ● タンクの操業を管理する上で最良の選択をすることに関していろいろな考え方があり、ある場合にはボイルオーバーを回避するためであったりする。これらには、つぎのようなことである。

  〇 原油の沸点を均一化するために特別な材料を加えること。

  〇 ホットゾーンを攪拌して壊すため、原油、空気、水をポンプで循環させること。

  〇 水の層を排出すること。

 LASTFIREによる調査・検討では、緊急避難的な方法であっても、これらには保証できるものは無かった。ある場合には、ボイルオーバーを激しくするものもあった。(第4節を参照)

 ● LASTFIREによる研究では、現時点、ボイルオーバーを避けるための唯一の方法はホットゾーンが形成する前に全面火災を消火することである。直径の大きなタンクでは、有効な泡放射を達成するために煩雑な作業分担を行う必要があるが、これは実際には簡単なことではない。一旦火災が消えても、フロスオーバーやスロップオーバーによって原油がタンクから噴出する場合があることを認識すべきだある。

 ● 消火泡溶液をつくって水をタンクに加えることによって、消火活動はフロスオーバーやスロップオーバーに見舞われる。

 ● 防油堤は重要で火災の拡大を制限することに役立つ。ボイルオーバーのテスト作業中、広い範囲ではないが、防油堤の外に火災が広がったことがあったのを記しておく。

 ● 同じ防油堤内にある隣接タンクへの火災拡大は、ボイルオーバーが起こったときには、本質的に避けられない。従って、リスクを最小にするためには、ボイルオーバーの起こる可能性のある油を貯蔵する場合、タンク毎に防油堤を設けるのが好ましい。ただし、タンク設置場所におけるリスク評価(アセスメント)において油の性質が火災の着火の可能性が低いと評価された場合や、タンクが十分に小さく、ボイルオーバーが起こる前に迅速に消火できると評価された場合を除く。

 ● ボイルオーバーからの火災拡大の可能性は風下側でタンク径の10倍まで、風上側で少なくともタンク径の5倍まで広がると仮定すべきである。ただし、タンク設置場所の地形や防油堤の設計・一体性・サイズによっても違ってくる。緊急事態時の計画策定の目的では、火災拡大をタンク径の10倍と考慮しておくべきで、この意味で消防隊員の避難方法を考慮しなくてはならない。タンク間距離が少なくともタンク径の5倍を超え、十分なスペースを持っているタンクが大多数の場合には、実効性は低いと思われる。

 ● 大規模なテスト作業にもとづくと、ホットゾーン(ヒートウェーブ)降下速度は1.52.5m/hの範囲にあると推定される。ただし、この値はテスト時における値であり、実際の大型タンクにおける絶対値ではないことを付記しておく。

 ● ディーゼル燃料やバイオディーゼル燃料でボイルオーバーが発生するのかどうかを調べるため、ディーゼルおよびバイオディーゼルを燃料としたテストを行った。これらの燃料を水ベースの上で燃焼させて、燃料が十分燃え、水の層の最上部の温度が沸点に達すると、ときどきボイルオーバーのような現象が現れた。これは「薄層ボイルオーバー」(Thin Film Boilover)と呼ばれているが、実際のボイルオーバーのような激しい現象ではなかった。テストした典型的なバイオディーゼルではボイルオーバーが発生しなかったが、バイオディーゼルはいろいろな種類やグレードがあり、すべて同じ性質をもつということは保証できない。もし特別な懸念があれば、テストすべきである。(注記; 一般的にバイオディーゼル燃料を貯蔵するタンクは、ボイルオーバーが起こる原油と違ってタンク底における水の液位は低い。もちろん、バイオディーゼル燃料は引火の可能性が十分に低く、実際に起こるリスクは完全に異なる)

3. 火災時の対応者に関する留意事項

■ ボイルオーバーに関する一般的な問題をLASTFIREは提示しており、火災時の対応者の留意事項は、つぎとおりである。

 ● ボイルオーバーは極めて厳しい火災事象である。原油タンク火災が起こってから比較的短時間で消火できなければ、ボイルオーバーが起こると仮定すべきである。(この場合、全面火災のケースである)

 ● リムシール火災だけの事象であれば、タンクがボイルオーバーを起こしたという報告事例はない。

 ● 火災の防護に関する基準や手引きでは、「ボイルオーバー」、「スロップオーバー」、「フロスオーバー」はそれぞれ発生要因によって異なる理由から別な事象と言及していることがある。しかし、実際の火災対応時には、熱い原油や燃えている原油が噴き出してくる事象は人的被害や設備被害の点において同じ可能性をもっていると感じている。

 ● もっとも激烈な形で起こるボイルオーバーに併存する3つの重要な要素は、つぎのとおりである。

  〇 タンク全面火災。

  〇 タンク内の水の層および/または水のポケット。

  〇 高温で比較的密な熱い領域、すなわちホートゾーン(ヒートウェーブ)の形成。このホットゾーンは原油では発生するが、ガソリンや灯油といった精製された油製品では生じない。ただし、このような各範囲をもつ油製品はタンク内で混合されている。異なった沸点をもつ別な油が同じタンク内で混合されたとき、ホットゾーンは生じることもある。

   ボイルオーバーから発生する輻射熱は、通常の安定した燃焼時に感じる輻射熱よりも格段に増加する。このレベルは火災対応者が耐えうると考えられる最大輻射熱レベル(たとえば、API Std 521Pressure-relieving and Depressuring Systems」では、短時間で6.3 kW/㎡と警鐘)をはるかに超えるものである。このことは重要で、ボイルオーバーが起こった時の輻射熱レベルは人が生存できないかも知れないということである。従って、対応者は全面火災時に配置していたときよりも数倍遠くへ退去して、適切な安全距離をとらなければならない。

 ● ボイルオーバーは同じタンクで一度だけでなく何回も起こることがある。LASTFIREのボイルオーバーのテスト時には、4回起こった。このように、1基の原油タンク火災から複数回のボイルオーバーが起こる可能性があるため、消防隊などの火災対応者には避難小屋が無いことを考慮すべきである。ボイルオーバーが収まったからといって、火災対応者はタンク近くの配備場所に戻ってはならない。ボイルオーバーが再び起こるかも分からないので、安全距離を保たなければならない。

 ● ボイルオーバーが収まった後でも、スロップオーバーのようなボイルオーバー型の事象が起こり得るので、対応戦略としてはこのことを認識しておくべきである。

 ● もし原油タンク全面火災を迅速に消火できれば、ボイルオーバーの発生確率は減らすことができる。

 いつまでに火災を消火すればよいか、正確な時間を提示することは不可能である。これはボイルオーバーが多くの変数が影響しているからである。しかし、必要な泡放射量を適用できれば、消火活動がうまくいくチャンスがある。(たとえば、米国規格や欧州規格における最低泡放射量は、泡モニターを使用した場合に1012 L/min/㎡(ロスを含む)、泡システムを使用した場合に48 L/min/㎡である) 連携がとれた協調した泡の攻撃の行える理想的な時間は数時間であろう。理想的には、原油タンク火災の泡放射は24時間以内で開始すべきである。しかし、実際にはすべての配備が円滑にいくとは限らないことを認識しておく必要がある。あらゆるケースの中で、泡放射の開始前にボイルオーバーが発生するという可能性を評価しておかなければならない。そして、多くの要素がボイルオーバーに影響するが、もっとも関係するのが、油の液位であり、ホットゾーン(ヒートウェーブ)の可能な深さである。もし、泡の攻撃の資機材の配備がかなり遅れれば、どんな泡の攻撃がなされようとも成功するという保証は無い。(予燃焼期間が長引いた原油タンク火災の泡の効果については十分には分かっていない)

 ● 直径の大きなタンク(大型タンク)のために車両機材を配備するようなロジスティック(兵站)があれば、泡放射のための目標時間は短くなる効果がある。このためには、機材は円滑に使用できるようにしなければならないし、非常事態の対応人員はタンク火災の対応に有能でなければならない。これには、大型容量の機材について十分な訓練と経験をもち、事前の計画と実際の配備や機材の操作を含めて大規模な訓練を通じて泡薬剤を備蓄しておくことが必要である。

● もし原油タンク火災が途切れることなく燃え続ける場合には、激しいボイルオーバーが発生すると思っておくべきである。ボイルオーバーが起これば、明るく輝く柱を形作って油が空中に噴出するだろう。油が地上に落下してくると、ひとつの波動が形成される。油は難なく防油堤を覆うように広がる。198212月に起こったベネズエラのタコア火災では、防油堤を越えていったことが知られている。1983年に起こった英国ウェールズのミルフォード・ヘブン原油火災時には、最初のボイルオーバーによって油が1.6ヘクタールのエリアに飛散した。

 ● 噴出する油の広がる範囲は、ボイルオーバーが発生した時におけるタンク内に入っている油の量に関係する。しかし、現時点、ボイルオーバーが発生したときの油の深さ(液位)と熱油の波動による移動距離との間の関係性については分かっていない。また、防油堤の壁の高さによって熱油の波動が防油堤を越えるのを防ぐか否かも分かっていない。

 ● 熱画像カメラや示温塗料はホットゾーン(ヒートウェーブ)を評価するのに役立つが、総合的にみて信頼性は低い。どこのタンク地区でもホットゾーンの形成が均一という理屈は無いからである。

 ● 泡溶液の種類によって火災時に適用される大量の水自身がボイルオーバー時の噴出水蒸気に付加したり、消火現象時にスロップオーバーを引き起こしたりして、非常事態対応者の安全を危険にさらす可能性がある。

 ● シューという音がボイルオーバー発生の切迫したサインだといわれるが、これも信頼性があるとはいえない。通常、いくらかの水蒸気発生が見えることがあり、これが“ボイルオーバー”の音と同時に起こることがある。ただし、常にそうだとはいえない。この音の始まりとボイルオーバーが起こる時までに、タンクの近くから安全に避難するには、十分な時間がないかも知れない。

 ● タンクから水を多く抜き出せば、ボイルオーバーの激しさを軽減できそうであるが、これはやめた方がよい。この行為はボイルオーバーまでの時間を短くすることになる可能性がある。しかし、現時点の知識では、これを定量化することができない。

 ● もしも安全な方法があったとして、タンク内の原油を抜き出すことはボイルオーバーの激しさを軽減できそうにみえるが、これはボイルオーバーの発生時間を早めることになる。この方法をとった時には、抜き出している原油の温度をモニタリングすべきである。そして、100℃に達する前に抜出しはやめるべきである。タンク底部あたりの温度が100℃になれば、ボイルオーバーが切迫していることを意味している。

 ● 迅速で効率的な消火活動を除けば、ボイルオーバーを回避したり、遅くすることについての理論を実際的な立場から証明した人はいない。

 ● ボイルオーバーが起こらないだけの十分な時間を確保した必要放射量の泡放射が安全に開始できないと判断したら、そのときは全焼の方針を承認しなければならないが、ボイルオーバーの激しさが予測不能であるため、“制御した全焼”はできないと認識しておくべきである。唯一残された戦略は、ボイルオーバーが起こった後、発災タンク以外で結果として生じる火災に曝されるかも知れない構造物の冷却に備えることである。もし可能であれば、原油をポンプで排出してしまうことである。タンクからすべての油を除去してしまえば、更なるボイルオーバーは起こらないことを考慮して、ボイルオーバーを待つために安全な位置まで下がった非常事態対応者が、消火活動や冷却作業を通じて更なる火災の拡大を防止することである。(ただし、これらのことは“安全が確保されること”が前提条件である)

 ● 原油以外の油で記録されているボイルオーバーがある。これは広範囲の沸点をもつ油製品の混合液である場合に生じている。

 4LASTFIREの調査研究を通じた価値ある特別な事例 

■ 調査研究作業の中で、 LASTFIREはボイルオーバーを回避したり、遅らすことができる方法に関して他の工業界のグループと協力していくこととした。これには、油の特性を変える目的で添加剤の適用を含んでいる。すなわち、添加剤によって油の特性を変え、ホットゾーン(ヒートウェーブ)を形成しない、あるいは少なくとも形成を遅らすことである。LASTFIREのメンバーによって規模の小さいテスト(直径2.4mまで)を実施して観察した。油の中のいろいろな高さにモニタリング用の熱電対を設けて、ホットゾーンの形成を記録した。テストでは、添加剤の有りと無しについてボイルオーバーまでの経過を時間記録と熱電対の読みとともに目視で観察した。しかし、添加剤を加えても遅延や防止効果は見られなかった。

■ 熱電対のデータとともにボイルオーバーまでの時間測定や目視観察では、添加剤の有りと無しによる結果に顕著な差は認められなかった。

■ この理論の効果に関する主張が、なおも、いくつか発表されている。その例は、LASTFIREの実施した作業の内容への疑問、理論を確かめる必要性、大規模なテスト無しに小規模なラボテストなどであり、主張は事故で実際に起こる前や緊急事態対応者が危険な目に遭う前に行うべきというものである。

5LASTFIREのボイルオーバー研究による写真 

■ つぎの写真は、LASTFIREのボイルオーバー研究のプログラムの中でいろいろな段階で撮影されたものである。この研究では、直径0.6mから直径約6mの範囲のテスト用タンクで行われたものを含んでいる。



所 感

■ 今回の資料は、「現時点、ボイルオーバーを避けるための唯一の方法はホットゾーンが形成する前に全面火災を消火することである」とし、「熱画像カメラや示温塗料はホットゾーン(ヒートウェーブ)を評価するのに役立つが、総合的にみて信頼性は低い。シューという音がボイルオーバー発生の切迫したサインだといわれるが、これも信頼性があるとはいえない」とし、ボイルオーバー発生への甘い見通しによって人的被害が出ることを回避しなければならないという意思を感じる。

■ 一方、原油タンク全面火災時に現場指揮所や消防隊とるべき実際的な対応事項は興味深く、参考になる内容である。このブログで紹介してきた「ボイルオーバー」の主なものはつぎのとおりで、これらの内容と読み比べ、これまで策定してきた緊急事態対応計画書を見直すのがよいと思う。

 ●「貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測」20142月)

 ●「浮き屋根式貯蔵タンクのボイルオーバー」20144月)

 ●「原油タンク火災の消火活動中にボイルオーバー発生事例」20139月)

 ●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー(1974年)」20142月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その1) 」201410月)

 ●「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故(19838月)」201412月)

 ●「原油貯蔵施設におけるリスクベース手法による火災防護戦略」20163月)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」20168月)

 ●「原油貯蔵タンク火災時のボイルオーバー現象」20169月)

 ●「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」20192月)

 ●1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー(泡消火剤の搬送)」20218月)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Lastfire.co.uk,  “LASTFIRE Boilover ResearchPractical Lessons Learned”LASTFIREによるボイルオーバー研究ー実際的な教訓),  Issue3 December, 2016 


後 記:  “LASTFIRE” 1990年代後半に世界の石油会社16社が集まり、この当時、大型の浮き屋根式貯蔵タンクに関する火災の危険性が十分に理解されていなかったため、いろいろな調査・検討を行ってきています。「ボイルオーバー」もそのひとつですが、要約版が一般に公表されたものです。今回の資料をきっかけにLASTFIREのメンバー会社を調べたら、プーマ・エナージー社がメンバー会社の1社であることを知りました。同社では、20168月に「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」を起こしています。この事故では、死傷者は出なかったようですが、爆発(ボイルオーバー発生)の危険性を考慮して、1km以内に立ち入らないよう求めていました。ボイルオーバーの危険性は想像を越えていることを正しく理解しておくのがよいという気がします。今年最後のブログですが、硬い締めくくりになりました。



2021年12月24日金曜日

日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名

今回は、20211218日(土)、山口県岩国市にある日本製紙㈱岩国工場でタンク洗浄中に硫化水素中毒でふたりが負傷して事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、山口県岩国市飯田町にある日本製紙㈱の岩国工場である。

■ 事故があったのは、製紙工場の木をパルプにする工程にある容量約10㎥のタンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211218日(土)午後110分頃、日本製紙岩国工場で社員がタンク洗浄中に倒れて意識がないという通報があった。

■ 発災に伴い、消防署の救急車が出動し、現場で社員2名を病院に搬送した。 2人のうちひとりの社員(20歳代)が意識不明の重体で、もうひとりの社員(50歳代)は喉に痛みを訴える軽傷である。

■ 消防によると、現場付近には何らかの液体が入ったタンクがあり、消防はこのタンクから硫化水素が漏れた可能性があるとみて原因を調べている。

■ 岩国地区消防組合によると、現場で硫化水素を検出したが、工場外への漏れは無いという。

■ 日本製紙によると、社員2人は、木をパルプにする工程にある容量約10㎥のタンクを酸性の液体を使って洗浄していたという。

被 害

■ 人的被害として負傷者2名が発生した。

■ 物的被害や生産への影響は不明。有害物質の漏洩があったが、所外の環境への影響はなかった。 

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、硫化水素の発生した可能性のあるタンク内からガスが漏れ出て、硫化水素中毒を起こしたとみられる。

< 対 応 >

■ 日本製紙によると、もともと硫化水素が発生する作業で、なぜ誤って吸ったかは調査中とのことである。 硫化水素は無色のガスで刺激臭があり、高濃度で吸うと意識混濁や呼吸マヒの症状が現れる。

補 足

■ 「岩国市」は、山口県の最東部に位置し、瀬戸内工業地域の一角を担う人口約127,000人の市である。

■ 「日本製紙㈱」は、日本第2位(世界8位)の製紙業会社で、三井グループと芙蓉グループに属し、全国に12の工場を擁している。

「日本製紙㈱岩国工場」は、 1939年(昭和14年)6月山陽パルプ工業㈱の岩国工場として操業開始し、現在は印刷出版用紙、情報用紙、外販用パルプを製造している。岩国工場のパルプ設備能力は木材パルプ1,800トン/日、年間生産量紙555,610トン、従業員555名、 敷地面積1,073,000㎡である。 岩国工場は合併の繰返しで、1972年に山陽パルプと国策パルプ工業が合併して山陽国策パルプ㈱となり、 1993年に十條製紙と山陽国策パルプと合併し、日本製紙㈱となった。

■ 事故があったのは「木をパルプにする工程」と報じられており、日本製紙の木材パルプ製造工程の例を図に示す。発災は容量約10㎥のタンクであるが、どの工程に使用されていたかは分からない。容量10㎥は直径2.5m×高さ2.5mほどのタンクである。日本製紙によると、酸性の液体を使って洗浄しており、もともと硫化水素が発生する作業であったという。

所 感

■ 今回の事故は、状況がよく分からない。タンク洗浄中に起こったものであるが、 2名の被害者うち、ひとりの社員(20歳代)が意識不明の重体で、もうひとりの社員(50歳代)は喉に痛みを訴える軽傷だという。印象としてはタンクへの入槽作業ではないと思われるが、硫化水素の濃度と症状からすれば、5350ppmの硫化水素が漂っていたと思われる。

■ 本ブログで取り上げた硫化水素に関わるタンク事故は、2018年以降だけでつぎのように3件ある。

 ●20217月、「宮城県女川原子力発電所で洗濯廃液タンクから硫化水素漏れ(原因)」
  (「宮城県女川原子力発電所で洗濯廃液タンクから硫化水素漏れ、7名体調不良」

 ●20192月、「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」

 ●20186月、「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」

■ 硫化水素の事故では、善意の行動が裏目に出た事例がある。一方、酸素欠乏危険作業になるのに、防護措置(酸素マスク)をせずに作業や救助しようという無謀な事例もある。日本製紙岩国工場は、今回の事故について同社のウェブサイト(ニュースリリース)で何ら情報を出していない。世の中は硫化水素による事故が多いので、是非、調査結果を教訓とともに公表してもらいたい。(後記を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Chugoku-np.co.jp,  日本製紙岩国工場でタンク洗浄中の社員1人重体 硫化水素検出,  December  18,  2021

   Sankei.com,  山口・岩国の日本製紙工場でガス漏れか、1人重体,  December  18,  2021

   Asahisinbun,  硫化水素中毒? 製紙工場で男性重体,  December  20,  2021


後 記: 今回の事故については、メディアの報道のほかインターネットのSNSで流れています。例えば、3年前に石川県の製紙工場で同じような硫化水素中毒による死亡事故があったことを思い出しました。社員の方が回復されますように」、「マイナーな業界ってやばい工程の人手作業を平気で残していて怖い」、「若いし、硫化水素扱い資格を持ってなかったんだろうか。硫化水素の事故が起きるのは管理者のせいですよ。守るべきルールを守らないから、最近、工業系の事故が増えているんです」、 「日本製紙が安全対策マニュアル作成して作業指示していたのか、作業員が指示どおり作業していなかったのか、防毒マスクや換気していたのか?」、 「質問1; 労働安全衛生法違反?・・・第二十四条 事業者は労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するために必要な措置を講じなければならない。 質問2; 労働者が声をあげて改善すべきだった?」 などで、状況が分かっていないだけに素朴な疑問が多いですね。このまま労働基準監督署に報告書を出して終わりじゃ、このような疑問をもった人はもっと多いはずで、日本製紙(岩国工場)に悪い印象残したままですね。