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2026年6月20日土曜日

米国カリフォルニア州でケミカル・タンクが制御不能、5万人に避難命令

 今回は、2026521日(木)、米国カリフォルニア州ガーデングローブにある航空機部品メーカーのGKNエアロスペース社でメタクリル酸メチルの入っていたケミカル・タンクが制御不能となり、住民5万人に避難指示が出された事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国カリフォルニア州(California)オレンジ郡(Orange)ガーデングローブ(Garden Grove)にある航空機部品メーカーのGKNエアロスペース社(GKN Aerospace)の工場である。

■ 事故があったのは、工場内にあるケミカルを貯蔵するタンクである。タンクには、メタクリル酸メチル(Methyl methacrylate C5H8O2 )が入っていた。メタクリル酸メチルは、揮発性で可燃性の化学物質でプラスチックの製造に使用されるが、人の呼吸器系に問題を起こす可能性のある物質である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026521日(木)、 GKNエアロスペース社の工場で、約6,500ガロン(24.6KL)のメタクリル酸メチル(C5H8O2)を貯蔵するケミカル・タンクが制御不能な状態になった。タンクが過熱してベーパーが漏れ始めていた。

■ 現場にある3基のタンクのうち1基が温度上昇したため、噴霧のスプリンクラーを作動させて冷却を試みた。

■ 地元と州の当局者は、航空機部品メーカーの敷地内で最悪の事態が起こるのを回避するために奔走した。当局は、タンクが爆発し、巨大な火球が空高く舞い上がることを懸念していた。 

■ 当局によると、圧力と温度の上昇に伴いタンクからベーパーが放出されたものの、大気中の有害化学物質濃度は監視によって検出されていないという。

■ 大規模な工業爆発の恐れが生じ、周辺地域の最大50,000人の住民に強制避難命令が出された。 オレンジ郡消防局は、 521日(木)に避難命令を出したが、ベーパーの状態が改善したため、その夜には解除した。しかし、作業員がタンクから物質を除去しようとしたところ、タンクのバルブが詰まってアクセスできなくなったため、化学物質を除去できないことが判明し、このため地元当局は避難命令を再発令した。

■ タンクのバルブが詰まっていることから、内部圧力が急上昇した。

■ 一部の住民からは、喉や鼻の炎症、めまいなどの症状が報告された。米国環境保護庁によると、この化学物質に曝露すると、深刻な呼吸器系の問題、神経系の問題、皮膚、目、喉の炎症を引き起こす可能性があるという。

■ GKNエアロスペース社は、制御できなくなったタンクを安定させるために、化学物質を冷却・中和する作業を継続した。

■ 当局は、522日(金)時点で、タンクからベーパーは出ていないと強調し、引き続き大気質を監視していると述べた。 GKNエアロスペース社はあらゆる手を尽くしているが、危機を緩和することはできていない。オレンジ郡消防局は522日(金)の記者会見で、タンクが過熱し始めたことで化学反応が引き起こされ、対応要員がそれを止めることができなかったと述べた。その理由の一つは、反応によって中和剤を注入するために必要なバルブが「詰まってしまった」ためだという。

■ 522日(金)、警察は住民に避難を促すため、緊急通報番号911に逆電話をかけ、避難に関する情報をソーシャルメディアに投稿した。オレンジ郡消防局は、予想爆発区域の詳細と、爆発が発生した場合に深刻な構造的損傷や重大な被害を受ける恐れのある地域を説明する ビデオを公開した。

■ 当局はドローンを使ってタンクの温度を測定しており、当初はタンクの温度が下がっていると考えていた。しかし、オレンジ郡消防局は、523日(土)、温度が華氏90°F(摂氏32℃)まで上昇したといい、 「昨日22日(金)の朝の時点で温度は華氏77°F (摂氏25℃)でした。その後、1時間に約1度ずつ上昇しているので、状況が悪くなっている」と語った。これが分かったのは、 22日(金)夜に施設内の2つ目のタンクを無毒化しようとした緊急対応チームが危険にさらされた後に判明したという。

■  523日(土) 、GKNエアロスペース社は、問題のタンクを安定させるために、化学物質を冷却・中和する作業を急いでいると語った。この過程を氷が凍る様子に例えると、 「基本的には外側から固まり始め、内部には完全に凍るまで液体が残っている状態になる。それが期待していること」だというが、この作業が必ずしも成功するとは限らない。可能性としては、タンクに亀裂が入って6,500ガロン(24.6KL)の化学物質が全て流出する恐れがあるし、壊滅的な爆発が起きて他の2つのタンクに影響が出る恐れもあると消防は述べた。「もし崩壊が始まった場合、封じ込め区域、二次封じ込め、堤防、砂によるダムなどを設置しなければならないが、既に設置はほぼ完了している」と付け加えた。

■ GKNエアロスペース社は、523日(土)、状況は「依然として継続中です」といい、 「地域社会、従業員、その他関係者全員の安全を確保するため、緊急サービス、専門の危険物処理チーム、関係当局と連携して全力で取り組んでいます」と述べ、避難を余儀なくされた住民や地元企業に大きな混乱をもたらしたことを謝罪した。

■ 消防は、タンクが発火や爆発する正確な温度については不明だと述べた。しかし、この計画が失敗して大破するのを放置しておくことはできないと語った。

■ 避難区域の住民のうち、約15%、つまり約6,000人が避難に否定的だった。

■ 赤十字社は、523日(土)の夜、ファウンテンバレーなどに設置した3箇所の避難所が、定員に近づいていたため、ゴールデンウェストカレッジに新たな避難所を開設した。このほか、近隣のアナハイムに設置された別の団体が運営する避難所も、避難民のために開放されている。

■ カリフォルニア州知事は、523日(土)、オレンジ郡に 非常事態宣言を発令した。州は、避難所の拡充を含め、危険化学物質事故への対応が強化できる。必要に応じて州所有の施設や見本市会場を避難者のための避難所として利用することができる。タンクが設置されている場所は、ディズニーランドから約8km、ナッツベリーファームから約6kmの距離にある。両パークは状況を注視しており、来園者と従業員の健康と安全を最優先に考えていると述べた。しかし、両パークは避難区域外に位置しており、営業を継続している。

■ 一方、避難の必要性を強調しながら、この事態をどうにかして軽減する方法を見つけ出さない限り、避難システムは失敗するだろうという意見が出ている。

■ オレンジ郡保健局は、523日(土)、避難区域外の空気は安全だと思われると述べた。メタクリル酸メチルに曝露すると、肺や鼻腔に著しい刺激が生じ、めまいや吐き気を引き起こす可能性があるが、人体への曝露事例はほとんど記録されていないため、爆発が発生した場合に住民にどのような影響が出るかは予測不可能であり、このため避難区域には近づかないよう呼びかけている。保健局は、「私たちは前例のないことに突入しており、入手できる情報も限られています」という。

■ 発災から2日経った523日(土)、事故の影響は79,000人の住民に及んでいる。ウェストミンスター市内の避難区域内の住民のひとりは、母親などの家族が21日(木)から頭痛に悩まされているといい、避難先が見つけるまで、22日(金)夜は車の中で過ごしたと語った。スタントン在住の住民は、522日(金)に家族やペットと避難しようとした際、避難する人々のひどい交通渋滞に直面し、長い時間がかかったと語った。また、避難する人たちを取材するヘリコプターやドローンの影響で混乱していたといい、「何が起こっているのか、誰も詳しいことを教えてくれません。そして、これがいつまで続くのかもわかりません」と語った。別な住民は、「木曜日の夜に窓を閉め忘れてしまい、後悔している」といい、「喉と鼻の中が痛く、妻は金曜日の夜にめまいを訴えました」と語っている。

■ 消防隊はメタクリル酸メチルのタンクに繰り返し放水したが、タンク内部の温度は524日(日)には華氏100°F(摂氏37.7℃)に達した。ドローンは10分間隔で温度を監視し、急激な上昇がないかを確認していた。状況が安全になったとみなすには、温度が周囲の気温、つまり華氏6070°F(摂氏15.621.1 ℃)程度まで下がる必要があるという。

■ 524日(日)に撮影された航空写真にはこの地域の閑散とした道路が写っていた。複数の避難所が開設されていたが、近隣のラ・パルマにある高校では、人々が車の中やアスファルトの上に敷いたマットや寝袋で寝ていた。

■ ユーチューブなどでは、事故のニュースを伝える動画が投稿されている。

 YoutubeCracks in unstable Orange County chemical tank could be relieving pressure2026/05/25)  

 ●YoutubeGarden Grove chemical leak crisis takes new turn as tank crack found amid explosion fears2026/05/25

 ●FacebookHAPPENING NOW: A storage tank carrying a toxic chemical at2026/05/25

被 害

■ タンク1基が制御不能に陥り、クラックなどの損傷をした。

■ 住民50,000人に避難指示が発令された。

■ 一部の住民からは、喉や鼻の炎症、めまいなどの症状が報告されているが、被災の詳細は不明である。 

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 当局は、ここ数日間、過熱し始めたメタクリル酸メチルの入ったタンクが爆発するか、タンクから流出するかのどちらかであり、いずれにしても避けられない状況を防ごうと努めてきた。避難区域は、 GKNエアロスペース社の工場周辺の9平方マイル(23.3平方キロメートル=2,330ヘクタール)の範囲に及ぶ。

■ しかし、過熱したメタクリル酸メチルを貯蔵していたタンクに亀裂が生じ、危険な圧力から解放された。これにより最悪のBLEVE(沸騰液体膨張蒸気爆発)による壊滅的な爆発が回避された。化学爆発を起こさずに圧力を解放するのに十分な程度の亀裂が入ったことが幸いだった。

 オレンジ郡消防局は、525日(月)朝、夜間の調査により、作業員が亀裂を確認し、温度が低下していることを確認できたと述べた。タンク内部の温度が低下し、圧力が解放されたという夜間の評価結果である。

■ 当局は、壊滅的な爆発の危険性は排除されたと判断し、避難を余儀なくされた5万人のうち約3分の2に対する避難命令を解除した。

■ 525日(月)夜、避難区域が大幅に縮小され、多くの避難者が帰宅できるようになった。

■ 63日(水)の朝、 FBI (連邦捜査局)がGKNエアロスペース社を捜索していることが確認された。 GKNエアロスペース社の施設の外に複数の車両と数名の連邦捜査官がいたのが目撃された。

■ 63日(水)、連邦当局は、 GKNエアロスペース社に捜索令状を執行した。令状は、問題を起こしたタンク内に含まれていた化学物質であるメタクリル酸メチルの「保管、使用、または廃棄」に関連する文書および記録の押収を承認した。令状によると、「メタクリル酸メチルおよび/または有害物質を含んでいる、または過去に含んでいた疑いのあるタンク、トート、ドラム缶、槽、容器、またはコンテナ内の物質のサンプル」も捜索される。令状には、捜査官に対し「メタクリル酸メチルの温度を制御または調整するために使用される冷却装置またはその他の装置」に関連する記録を押収するよう命じている。

■ 現場の清掃と廃棄物処理作業を主導しているオレンジ郡保健局によると、過熱した化学物質はまだ貯蔵タンク内に残っているという。同機関は、先週末、貯蔵タンクから中和したメタクリル酸メチルを密閉トラックにポンプで移送し、輸送・処分する計画を立てていた。しかし522日(金)、同機関は「資機材不足のため」撤去作業は行われなかったと発表した。

■ メタクリル酸メチルは、米国環境保護庁のリスク管理プログラム(EPA)およびカリフォルニア州の規制対象化学物質ではない。このため、当該タンクは別の下位の危険物規制プログラムの下で規制されていた可能性があり、規制当局がその保管状況を監督するための手段が限られていたと考えられている。

■ ケミカル・タンクで異常が発生したのは、GKNエアロスペース社のガーデングローブの工場である。しかし、同社の工場で問題を起こしたのは、今回だけではない。 2018年以降、労働安全衛生局による4回の検査を受け、その結果、10件の違反が指摘されたことが、公的記録から明らかになっている。 202011月にガーデングローブ工場で行われた検査で明らかになった問題により、違反通知が出され、GKNエアロスペース社は和解金として約100万ドルを支払った。

■ 地域汚染対策機関である南海岸大気質管理地区(AQMD)による検査の結果、 GKNエアロスペース社ガーデングローブの工場は、有害なレベルで放出されると大気汚染を引き起こす揮発性有機化合物(VOC)の排出量を記録した必要な書類を維持・保管していなかったことが判明した。また、検査官らは、 GKNエアロスペース社が許可を得ずに新しい機器を稼働させていたことや、既存の機器が許可証に記載された内容と合致していなかったことを見つけた。さらに、許可された機器を、当局が義務付けている許可変更申請を行わずに改造していたことも判明している。

 同機関によると、 GKNエアロスペース社は202012月と20212月に報告された問題点の是正を義務付ける2度の是正命令通知を受け取ったが、これに応じていなかった。その結果、20214月に違反通知が発せられ、 GKNエアロスペース社は約90万ドルの民事制裁金を支払ったという。

■ 今回の危機的状況に至ったのは、州および地方自治体が十分に対処できていないことや、複数の規制システムにおける欠陥を露呈させた。大気汚染規制当局は、危機発生の何年も前から法令遵守上の問題点を指摘していた。地域住民の権利擁護団体や化学物質安全専門家は、州および地方の規制当局が何を把握していたのか、どのような安全対策が講じられていたのか、そしてなぜタンクがこれほど大惨事寸前まで至ったのかについて、住民はより明確な説明を受ける権利があると述べている。

■ 南海岸大気質管理地区(AQMD)は過去10年間でGKNエアロスペース社を3回検査したが、同施設は地区の許可制度において小規模排出源に分類されており、この分類により規制当局は同施設を頻繁に検査する必要がなかった。この不十分な監督体制が長年にわたる法令遵守問題の一因となった可能性があると指摘されている。

■ 住民の中には、メタクリル酸メチルを航空機用化学物質としてではなく、職場における危険物質として認識している人もいる。そして、彼らはその撲滅のために何年も闘ってきた。メンバーは、この化学物質が労働者の肺、皮膚、目に及ぼす影響を記録し、長年にわたり反対運動を展開してきた。

■ カリフォルニア州で最も厳しい化学物質漏洩防止規則は、ガーデングローブのタンク内で爆発寸前となり、5万人もの住民を避難させた化学物質には適用されない。メタクリル酸メチルは揮発性の高い化合物であり、プラスチック製造において最も広く使用されている化学物質の一つであるが、液体が過熱してのタンクが破裂・爆発し、数千ガロンもの化学物質が流出する恐れのあるものとはみていなかった。

補 足

■「カリフォルニア州」(California)は、 米国西部の太平洋岸に位置し、人口は約約3,935万人で、米国で最も人口の多い州である。

「オレンジ郡」(Orange)は、カリフォルニアの南部に位置し、人口約318万人の郡である。ロサンゼルス大都市圏に位置している。

「ガーデングローブ」(Garden Grove)は、オレンジ郡北部に位置し、人口約17万人の都市である。カリフォルニア州ロサンゼルスからは南へ約60kmに位置する。

■「GKNエアロスペース社」(GKN Aerospace)は、1930年に設立し、航空機のコックピットの窓、キャノピー、風防などを製造しており、2004年からガーデングローブに拠点を置いている。 GKNエアロスペース社は、2012年に英国のエンジニアリング大手GKN社によって買収され、同社の子会社となった。のちに社名を変更し、GKNエアロスペースとなっている。

■「メタクリル酸メチル」(Methyl methacrylate C5H8O2 )は、可燃性の無色液体で、樹脂、プラスチック、プラスチック義歯の製造に使用され、連邦政府によって規制されている。環境保護庁によると、この物質は肺、目、皮膚を刺激する可能性があり、高濃度で摂取すると肺機能の低下、めまい、記憶障害を引き起こす可能性がある。さらに、長期間にわたってメタクリル酸メチルに曝露されると、深刻な呼吸器系の問題を引き起こしたり、意識を失わせたりする可能性がある。

 今回、タンク内部の温度が十分に上昇した場合、メタクリル酸メチルが液体から気体に変化する際に圧力が上昇し、爆発の危険性が高まり、他のタンクに引火する可能性もあった。爆発が起きれば化学物質がより広い範囲に放出され、危険なベーパーが拡散する可能性もあった。

「発災タンク」は、内部に入っている液の容量が約6,500ガロン(24.6KL)と報じられているのみで、種類やサイズなどはわかっていない。グーグルマップと被災写真で調べると、発災場所には3基のタンクがあり、直径は同じくらいだが、高さはタンクによって若干異なる。直径を約3.0mとし、高さを5.06.0mと仮定すれば、タンクの容量は3542KLである。 タンク内には高さ3.4mほどの液が入っていたことになる。タンクは圧力容器式の円筒型タンクで、3基のタンクの中でどれが発災タンクかは報じられていないが、事故後のタンク被災写真を見ると、冷却効果をよくするため、タンク外壁の保温を撤去した一番小型のタンクが発災タンクと思われる。なお、3基のタンクまわりには、冷却散水用の配管設備が設置されている。

所 感 

■ タンクに入っていたケミカルの反応を制御できなくなり、地域住民5万人に避難指示を出すというような事例は初めて聞いた。なぜ、反応を制御できなくなったかという原因がわからないが、状況が悪くなっていく中でバルブが詰まって開かなくなったという事業者の設備管理状態に問題が山積しているとみられる。タンクに亀裂が生じ、たまたま圧力を解放するのに十分な程度の亀裂が入ったことが幸いだったというのも異常である。

 最悪のリスクが回避できた後に、メディアが事業所のこれまでの設備管理状況を批判するというのは、米国としてはめずらしい。しかし、標題の写真を見れば、住民の居住地と問題になったタンクの位置があまりにも近すぎる。広大な米国でこのようなことがあるのだというのも驚きである。

■ 一方、自治体の対応のまずさも指摘されている。一度発令した避難指示を状況が改善したという情報から避難指示を解除し、状態が悪化したので再び避難指示を出したというのも自治体の対応としては最悪である。しかし、このようなことは米国だけの問題でなく、日本でも起こり得る組織体制の話であると感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Edition.cnn.com, Officials race to cool down tank containing toxic chemical as 50,000 residents remain under evacuation order in California, May  24, 2026

     Edition.cnn.com, FBI seizing evidence at California plant where chemical tank overheated and forced evacuations, June  11, 2026

     Calmatters.org, A chemical tank nearly exploded. Did California’s regulators miss the signs?,  May  30, 2026

     Abc7ny.com, Federal search warrant being served at California aerospace facility after chemical tank crisis, June  11, 2026

     Apmnews.com, There’s no longer a risk of a catastrophic explosion at a California plant. Here’s what to know, May  26, 2026

     Ksdk.com, Crack found in damaged chemical tank in California could change response strategy, May  25, 2026

     Latimes.com, What we know about GKN Aerospace, the firm at center of O.C. chemical leak, May  23, 2026

     Foxnews.com, Officials say possible crack in unstable chemical tank may relieve pressure at aerospace plant, May  23, 2026


後 記: 最近、世界で事故が多く、また、戦争で多くの人が死傷していますので、今回のような事故があっても、えっと驚くような感じでは無くなっているのが我ながらおそろしいですね。避難指示や非常事態宣言が出される状況における住民や自治体の緊張感を伝えたいと思って調べましたが、報道が時系列ではなく、また住民の声を報じることも少なく、まとめるのが難しい事例でした。爆発や火災が起きているのではなく、住民への連絡や情報も何かが起こりそうだという曖昧な状況では、仕方の無いことなのでしょうね。

 

2026年6月13日土曜日

米国オクラホマ州で製油所のホートン球形タンクが火災、負傷者1名

 今回は、2026511日(月)、米国オクラホマ州タルサにあるHFシンクレア社の製油所で長楕円体をしたホートン球形タンクが火災を起こして損傷した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国オクラホマ州(Oklahoma)タルサ(Tulsa)にあるHFシンクレア社(HF Sinclair) の製油所である。

■ 事故があったのは、ウェストタルサのサウスユニオン・アベニュー1700番地にある製油所内の長楕円体をしたホートン球形タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026511日(月)午前1030分過ぎ、 製油所内のタンクで火災が発生した。

■ 製油所からは大きな炎と濃い黒煙が上がっているのが市内から目撃された。

■ 発災タンクは真の球形タンクでなく、長楕円体をしたホートン球形タンクだった。

■ 現場では、タンクの自動散水システムが作動した。球形タンクの近くには焼け焦げた車両が見られた。

■ 発災にともない、製油所の自衛消防隊が出動し、現場の対応を実施した。公設のタルサ消防署の消防隊は待機支援を行うため出動した。

■ 事故にともない、従業員1名が負傷し、診察のため搬送された。

■ HFシンクレア製油所は、敷地境界線沿いに大気モニタリングを実施し、敷地外への影響は確認されていないと述べた。

■ ユーチューブなどでは、火災のニュースを伝える動画が投稿されている。

  YoutubeTulsa Refinery Fire: Massive Flames Erupt at HF Sinclair Tulsa Refinery! Watch the Video2026/05/12

  ●Facebook.comMay 11, 2026 Tulsa firefighters responded to the HF Sinclair refinery around 11 a.m. to provide standby support during a fire at the facility2026/05/11

  ●Linkedin.com𝗕𝗿𝗲𝗮𝗸𝗶𝗻𝗴 | HF Sinclair Refinery Fire — Tulsa, Oklahoma 2026/05/11

被 害

■ タンク1基が火災で損傷した。

■ 車両が1台火災で被災した。

■ 負傷者1名があった。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は不明である。 

< 対 応 >

■ 製油所内の自衛消防隊が火災を鎮火した。公設消防のタルサ消防署とベリーヒル消防署は出動したが、待機支援に回り、最終的に直接介入することはなかった。

■ 今回の事故で注目される点は、①ホートン球形タンク付近で焼け焦げた車両が見つかったことで、危険区域における車両アクセス管理について疑問が生じる。炭化水素貯蔵施設付近での火気作業許可、立入り禁止区域、引火源管理は、単なる事務手続きではなく、安全管理である。②自衛消防隊が自治体の消防隊の支援を必要とせずに火災に対処できたことは、緊急事態への備えの証といえよう。

■ 原因は発表されていない。調査は継続中である。

■ この製油所は1日あたり125,000バレルを処理し、中西部諸州にガソリン、ディーゼル、ジェット燃料、潤滑油、アスファルトなどを供給しており、操業停止が長引けば、地域全体の供給に影響が出る。

■ 今回のHFシンクレア製油所のタンク火災は、PBFエナジー社(PBF Energy Inc.)のルイジアナ州シャルメット製油所で発生した大規模火災からわずか数日後に発生した。事故の分析データでは、製油所火災事故が世界的に顕著に増加していることが示されている。注記; 202658日(金)にガソリン製造用の改質加熱炉で爆発・火災事故が発生した。

補 足

■「オクラホマ州」(Oklahoma)は、米国の中南部に位置し、人口約396万人の州である。州名はチョクトー族インディアンの言葉でokla  hummaを合わせたもので赤い人々を意味する。1907年に元のインディアン準州とオクラホマ準州を合わせて合衆国46番目の州になっており、当初は全米のインディアン部族のほとんどを強制移住させる目的で作られた州である。このため、他の州に比べてインディアンの保留地(Reservation)の多い州である。

「タルサ」(Tulsa)は、オクラホマ州の北東部に位置し、アーカンソー川沿いにある人口約41万人の都市でタルサ郡の郡庁所在地でもある。タルサは、20世紀初頭の石油採掘によって成長した。

■「HFシンクレア」(HF Sinclair Corp.)は、1947年に設立し、テキサス州ダラスを拠点とする独立系エネルギー企業である。同社は、原油処理能力が1日あたり678,000バレルで、複合製油所を7か所運営しており、ガソリン、ディーゼル、ジェット燃料の精製・販売のほか、再生可能ディーゼルや潤滑油などの製造を手がけている。米国の 30 州に1,600箇所 を超える独立系シンクレア ブランドのガソリンスタンドを通じて、自動車燃料を消費者に販売・流通している。 オクラホマ州タルサには精製能力125,000バレル/日の製油所を有している。会社の経緯は、最初、ゼネラル・アプライアンス・コーポレーションとして1947年に設立され、1952年にホーリー・コーポレーションに社名を変更し、その後、買収・合併を繰り返し、2023年、HFシンクレアが設立された。

■「発災タンク」は、種類や大きさなどの仕様が報じられていない。被災写真はドローンで撮影された映像が流されているので、球形タンクであることが分かる。しかし、よく見ると、真の円形でなく、楕円形をしているので、ホートン球形タンク(Horton Sphere Tank、または長球、長楕円体、回転楕円体タンク)と思われる。日本では見られないが、米国では球形タンクのひとつとして使用されている。過去のタンクと思っていたが、現在でも、インドのアンモニア産業に使用されている例がある。

 グーグルマップで調べると、直径は約20mであり、容量は4,000KL級と思われる。球形タンクの頂部には、散水配管が設置されている。

所 感 

■ 今回の事例の原因は報じられていない。被災写真によると、最初にタンク下部で火災が発生し、その後、大量に漏れて爆発的燃焼が起こった後、再びタンク下部の火災が継続したのではないかと思われる。タンク下部の漏洩箇所は、タンク本体の損壊などの損傷ではなく、下部フランジからの流出やクラックからの漏れではないだろうか。

■ タンク近くに燃える車両があるが、この車両(および人)が要因で火災が生じたか可能性は否定できない。しかし、「従業員1名が負傷し、診察のため搬送された」というので、火災や爆発的燃焼の際に負傷したのかも知れない。

■ 消火活動は自衛消防隊で消火したと報じられているが、球形タンクの火災であり、燃焼物はLPガスなど高圧の軽質ガスである。このような火災の場合、消火戦略は、ガスの流出による爆発と人員へのリスク回避のため、不介入戦略または防御的戦略(冷却散水)をとる。「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)を参照。被災写真を見ても、実際、泡薬剤などによる消火活動は行っていない。

 火災は燃料源の供給を停止することである。タンクへの供給弁を閉止して火災を消火したのであろう。公設消防による消防隊は待機させており、どのような話し合いがされたか分からないが、妥当な判断ではないだろうか。球形タンクの事故例については「中国山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」20157月)「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故(2011年)の原因」20123月)を参照。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Newson6.com, Large fire sends black smoke into sky in West Tulsa, fire crews respond, May  11, 2026

     Koco.com, Pictures show plume of black smoke after large fire at HF Sinclair Refinery in Tulsa, May  11, 2026

     Newsflare.com, US: Fire Erupts at HF Sinclair Refinery in West Tulsa, May  11, 2026

     Linkedin.com, US: Fire Erupts at HF Sinclair Refinery in West Tulsa, May  11, 2026

     Fox23.com, Crews respond to fire at HF Sinclair refinery in west Tulsa, May  11, 2026

     Tulsaflyer.org, Large fire sends black smoke into sky in west Tulsa, fire crews respond, May  11, 2026

     Hazardexonthenet.net, Refinery fire prompts emergency response in west Tulsa, May  19, 2026 

     Kfor.com, Tulsa fire crews respond to fire at refinery, May  11, 2026


後 記: 米国の事故に対する感度や感性が、メディアを含めて、鈍くなっていると思います。メディアは、SNS(ソーシャルネットワークシステム)に押され、事故の要因に関して深堀りをせず、映像さえあれば良いという感じです。SNSはユーチューブ、フェースッブック、インスタグラムなど盛んに発信していますが、中身が薄いですね。「事故の分析データでは、製油所火災事故が世界的に顕著に増加していることが示されている」という意見が報じられていますが、製油所の火災事故だけでなく、ブログをやっていると、タンク関連の事故でも最近多くなっていると感じています。世界のいろいろなところで戦争が起こっていますが、戦争による人や設備の被害が伝えられてマヒして、人の感受性が衰え、弱くなってきているのかも知れませんね。

2026年6月6日土曜日

米国ワシントン州の製紙工場で薬品タンクが破裂・倒壊、死傷者19名

 今回は、2026526日(火)、ワシントン州ロングビューにあるニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の製紙工場において薬品タンクが破裂・倒壊して、死傷者19名を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ワシントン州(Washington)ロングビュー(Longview)にあるニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社(Nippon Dynawave Packaging)の製紙工場である。同社は、日本製紙㈱の子会社である。

■ 事故があったのは、製紙工場内にある薬品タンクである。薬品タンクには、白液(ホワイトリカー)という水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムの混合液が入っていた。タンク容量は340万リットル(3,400KL)とみられる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026526日(火)午前7時過ぎ、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の製紙工場にある薬品タンクが破裂・倒壊するという事故が起きた。

■ 事故にともない、ひとりの死亡が確認されたほか、9名の安否が分かっていない。このほか、消防士を含む9人が負傷し、病院へ搬送された。事故翌日、病院に搬送されていたひとりの死亡が確認され、死者は2名となり、負傷者は8名となった。

■ タンクには、紙の原料を作る際に使われる白液(ホワイトリカー)と呼ばれる薬品が保管されていたという。白液のpH値は14で、皮膚に触れると重度の化学火傷を引き起こすという。

■ 発災が起こる約15分前に従業員の勤務交代が始まっており、このエリアには、事務作業スペース、休憩室、作業スペースなどが含まれていた。ちょうど交代勤務の時間帯で、多くの作業員が現場に集まり、致死性の化学物質が入った巨大なタンクの隣にある休憩室周辺に集まっていた。  

■ 現地警察、消防などとともにニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は現場の安全確保を行うとともに行方不明者を捜索を進めた。行方不明者の捜索は週を通して続けられ、消防隊は屋内エリアの瓦礫を片付け、現場のまわりをドローンによる上空からの捜査を行い、 犠牲者の見落としがないように努めた。遺体収容作業は綿密に行われたが、非常に困難だった。最後の犠牲者は530日(土)に収容された。 

■ 528日(木)時点、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社(日本製紙)は、発災にともなう死傷者について死者8名、不明者3名、負傷者8名であると発表した。 その後、529日(金)時点で死者9名、不明者2名、負傷者8名と発表した。530日(土)、死者11名の身元が確認され、負傷者8名となり、最終的に死傷者は19名だった。

■ 米国ワシントン州の州知事は、527日(水)、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の工場で薬品タンクが破裂・倒壊した事故について「州史上で最悪の産業事故となるだろう」と現場での記者会見で述べ、約50名の州兵を派遣したことを明らかにした。今回の事故は、1930年にパシフィック・コースト・コール・カンパニーが所有する炭鉱で爆発によって17名の労働者が死亡した時以来、ワシントン州で最悪の産業災害となった。

■ 工場で紙をつくる工程の中で使う白液(ホワイトリカー)とよばれる薬品を貯蔵するタンクが破裂・倒壊したが、さらに、この汚染物質は工場から近くのコロンビア川に流出しているがわかった。製紙産業で栄えてきた町への影響は大きい。白液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含む化学溶液で、強いアルカリ性で触れるとやけどをする。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、発生直後と23時間後の二度、工場から川につながる排水口で高濃度の汚染を確認したといい、今後、中和作業が必要になると説明した。州政府は「飲料水への影響や大気汚染の被害は確認されていない」としている。一方、州知事は「排水口から12匹のコイの死骸が見つかった」と述べ、20名の州兵が除染支援にあたるという。

■ タンク容量は、最初30万リットル(300KL)といわれていたが、実際は340万リットル(3,400KL)だったと当局が明らかにした。損壊したタンクには、推定34万リットル(340KL)の液体が残っている。

■ 当局は、大気質やロングビュー市の飲料水に健康への悪影響は検出されていないという。

■ ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の親会社の日本製紙㈱は、同社のウェブサイトで事故があったことを発表するとともに、「謹んで哀悼の意を表すとともに、ご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。また、地域の皆様、お取引先様、および関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」と述べている。

■ ユーチューブでは、タンク事故のニュースを伝える動画が投稿されている。

  Youtube「日本製紙傘下企業の化学薬品タンク破裂、1人死亡・9人不明 米ワシントン州」2026/05/27

  ●Youtube「日本製紙グループの子会社工場でタンク破裂 1人死亡、9人不明 アメリカ・ワシントン州」2026/05/27

  ●YoutubeWhite liquor tank at center of deadly Longview implosion not inspected by state, experts say2026/06/02

被 害

■ 薬品用タンク1基が損壊した。

■ 11名の死傷者が発生した。内訳は、死者11名、負傷者8名である。

■ 汚染物質(白液)が近くの河川に流出し、川が環境汚染された。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 捜査当局はまだ原因を特定しておらず、調査中である。

■ 化学安全専門家らは、タンクの被災写真から、タンクは外側に破裂したのではなく、内側に損壊したとみられ、圧力の急激な変化(おそらく安全弁の詰まりが原因)が壊滅的な内破を引き起こした可能性があるという。これは、たとえば薄い壁のプラスチック製ペットボトルに口を当てて吸った様子にたとえれば、ボトルは真空状態になり、内側に潰れる。専門家のひとりは、多々起こる工業用タンクの爆発とは異なり、40年の実務経験の中で目のあたりにしたタンクの内破事故は片手で数えられるほどしかないという。 注記;内破(ないは)は外側からの圧力が内側からの圧力よりも著しく大きくなった結果、物体が中心部に向かって急速に押し潰される現象である。外側へ向かって飛散する爆発とは逆のメカニズムである。

■ 一方、「タンクに重大な欠陥があり、それが破裂または崩壊の原因となった」という専門家もいる。捜査官はタンクの構造に亀裂、腐食、通気口の問題がないか調べ、保守記録を精査して機器の不具合を確認し、従業員、管理者、技術者に聞き取り調査を行い、原因を特定する予定だという。 

■ また、何らかの詰まりがあったのではないかと推測する専門家もいる。

■ ワシントン州労働産業局は、今回の事故の原因究明と、安全規則違反が事故の一因となったかどうかを明らかにするため、職場安全に関する調査を正式に開始した。この調査には最長6か月かかる可能性がある。  

■ 今回の事故は、安全記録に問題のない施設で発生したわけではなかった。

 ワシントン州労働産業局は、2019年から2025年の間に、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社を安全規則違反で4回告発しており、破裂・倒壊事故発生時点で既に同社に対する2件の労働産業局による調査が開始されていた。 この案件は、当局者によると、いずれもタンク破裂・倒壊とは直接関係がないという。1件は、アンモニア水浄化槽のバルブに関する懸念について匿名の通報を受け、3月に開始されたものだった。

 20263月、製紙工場の労働者らは、排水口が床に陥没穴を作っていることを州の労働安全衛生局に通報した。また、同施設では20237月に大規模な木材チップ火災が発生し、ポートランドの大気汚染レベルが悪化したが、正確な原因は特定されなかった。2025年にも同施設で火災が発生したが、負傷者は出なかった。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、過去2年間で州環境局から12,000ドルの罰金を含む、汚染および環境基準違反で告発されていた。

■ ワシントン大学環境・職業保健科学部の教授は、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社が過去5年間で3回の検査を受けており、タンク破裂・倒壊時、2件の未解決検査があったことは注目に値すると述べた。「労働産業局の監視対象になったり、従業員から通報されるような問題が繰り返し発生しているなら、その現場でより良い安全衛生文化を築くために何かを変える必要がある」という。

補 足

■「ワシントン州」(Washington)は、米国西海岸の最北部に位置し、人口約770万人の州である。州都はオリンピア市で、人口規模や経済の面での中心都市はシアトル市である。

「ロングビュー」(Longview)は、ワシントン州南西部に位置し、カウリッツ郡で最も大きく人口約37,800人の市である。南端を流れるコロンビア川がオレゴン州との州境となっている。

■「ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社」(Nippon Dynawave Packaging)は、日本第2位の製紙会社である日本製紙㈱がシアトルに拠点を置く木材会社ウェイアハウザーからロングビュー工場を22,500万ドルで買収し、2016年に完全子会社になった。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、飲料パック用の紙などを製造し、従業員は2025年末時点で564名である。

 ロングビュー工場は、コロンビア川沿いにある製紙工場では70年以上にわたり、木材チップを化学薬品で煮沸する製紙法が用いられてきた。クラフトパルプ化と呼ばれるこの製法は、木材を分解して丈夫なセルロース素材に変え、紙や牛乳パックなどの容器の製造に利用できる。チップは、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムの混合液で加熱され、白液(ホワイトリカー) として知られる腐食性の化学物質が生成される。

■「白液(ホワイトリカー) 」は、厄介な物質で、非常に腐食性が高く、pH値は14で、化学火傷を起こしやすい。世界には約4,500のパルプ・製紙工場が稼働しており、その大半はアジアにあり、米国で操業を続けている製紙工場は約128に過ぎない。 「白液(ホワイトリカー) 」 に関連する事故の報告は稀である。データ分析によると、526日(火)の事故以前の過去10年間で、米国で発生した流出事故は8件だった。そのうちのひとつは、2021年にニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社で発生したもので、バルブが開いていたため3,000ガロン(11KL)のガスが漏れ出したが、この事故で負傷者は出なかった。

 専門家によると、パルプと製紙の工程は過去100年間ほとんど変わっておらず、極めて危険な作業であるという点も変わっていないという。

「発災タンク」は、容量が340万リットル(3,400KL)と報じられている。グーグルマップで調べると、直径は約20mであるので、高さは約10.8mとなる。型式はコーンルーフの円筒式固定屋根型タンクである。通気管(オープンベント)は臭気対策のためと思われる延長パイプ型である。一般に延長パイプの先に封水設備があるが、本事例では延長先がどのようになっているかは分からない。

所 感

■ これまでタンク事故について紹介してきたが、今回のようなタンクの被災事例は初めてである。報じられた原因に関する専門家の意見は、つぎのとおりである。

 ● タンクは外側に破裂したのではなく、内側に損壊したとみられ、圧力の急激な変化(おそらく安全弁の詰まりが原因)が壊滅的な内破を引き起こした可能性がある。

 ● タンクに重大な欠陥があり、それが破裂または崩壊の原因となった。

 ● 多々起こる工業用タンクの爆発とは異なり、40年の実務経験の中で目のあたりにしたタンクの内破事故は片手で数えられるほどしかない。

 このタンクには、安全弁は無いが、同様の働きをする通気管(オープンベント)が延長されており、詰まる要因は高い。また、タンク底板と側板の溶接部に欠陥があり、ここを起点に破裂して多量の内液が流出した可能性はあると思う。

■ 日本でも、日本製紙が親会社のため、事例に対する反応は高かった。しかし、原因に関する報道は無かった。米国で多数の被害者が出たほか、稀に見る異常なタンク倒壊で、犠牲者が捜査が一段落したあと、原因に関する推測が報じられた。事業者の安全管理に関するこれまでの経緯が報じられたが、被災写真を見てもっとも驚くのは、薬品タンクに漏洩時の防止堤はなく、さらにタンク横に駐車スペースがあり、引継ぎ所が近くにあったという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Newsdig.tbs.co.jp,  日本製紙子会社の工場で薬品保管のタンク破裂し1人死亡、9人安否不明 消防が立ち入れないエリアも 米ワシントン州,  Ma 27,  2026

    Newsdig.tbs.co.jp, 日本製紙子会社工場でタンク破裂 1人死亡、9人不明米西部,  May 27,  2026

    Asahi.com,  米西部の日本製紙子会社工場薬品タンク破裂、州史上最悪の産業事故か,  May 28,  2026

    Nipponpapergroup.com,  米国子会社日本ダイナウェーブ・パッケージングにおける事故の状況について(第一報~第四報),  May 27,  2026

    News.yahoo.co.jp, 日本製紙の子会社で工場タンクが破裂した事故で遺体の収容を完了 死者11人 米ワシントン州,  May 31,  2026

    Reuters.com, Eleven confirmed dead in Washington state chemical accident, all bodies recovered,  May 31,  2026

Jnylaw.com, 11 Killed at Nippon Dynawave Packaging in Washington,  June 02,  2026

    Opb.org, ‘Something dramatically wrong’: Questions but few answers after Longview mill tragedy,  May 31,  2026

    Nbcnews.com, All missing victims recovered in Washington paper mill explosion,  May 31,  2026

    Usatoday.com, Victims identified in Washington chemical explosion, death toll at 11,  May 31,  2026


後 記: 人間というものは、慣れてしまえばリスクをリスクと考えないものだとよく分かる事例です。米国の創造的発想はすばらしいものですが、いったん現実になったプロセス設備に対する感度が鈍いところがあるように思います。安心しきったところに、今回のような破裂・倒壊事故が起こるものなのでしょう。ところで、今回の事故の要因名について、報道では爆発 破裂 倒壊などが使用されていましたが、被災写真を見ると、これまでのタンク事故には無い印象で、ぴったりする表現がありません。内破という言葉もありますが、一般に浸透しておらず、類似辞典を調べてみました。しかし、いい表現がなく、結局破裂・倒壊という言葉にしました。

2026年5月25日月曜日

広島県三次市で工事中にエタノールタンク2基が爆発・火災、負傷者5名

 今回は、2026428日(火)、広島県三次市にある医薬品などを製造する丸善製薬㈱の三次工場で、エタノールを貯蔵するタンク2基が爆発・火災を起こし、負傷者5名が発生した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、広島県三次市(みよしーし)にある丸善製薬㈱の三次工場である。丸善製薬は医薬品や健康食品の原料を製造する会社である。

■ 事故があったのは、工場内にあるエタノール貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2026428日(火)午前1130分頃、丸善製薬の三次工場のエタノールを貯蔵するタンクで爆発・火災が発生した。

■ 付近の住民から「タンクが爆発した」という119番通報があり、消防署が出動した。

現場ではエタノールを貯蔵するタンク2基から炎が上がっていた。工場内には複数のタンクがあり、うち2基が爆発し、火災が発生した。1基のタンクは屋根が噴き飛び、近くに落下していた。もう1基のタンクは屋根の一部が外れて隙間から炎が噴き出していた。

■ 住民のひとりは、「大きな音が2回して、建物のガラス窓が揺れた」と話している。

■ 事故当時、丸善製薬の三次工場では、製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていた。

■ 発災にともない、作業をしていた2030歳代の男性5名が骨折ややけどなどで病院に搬送された。ふたりが重傷とみられる。5名は同市と兵庫県に住む社外の請負会社の作業員である。

■ ユーチューブやフェースブックでは、事故を伝える映像が投稿されている。

Youtube製薬工場で爆発事故 中にエタノール…男性作業員5人重軽傷 広島・三次市(2026年04月28日)

●Youtube5人負傷】製薬工場でエタノール入ったタンク爆発 広島・三次市」2026/04/28

 ●FacebookAlcohol storage tank fires and explosion at Maruzen Pharmaceuticals in Miyoshi City, Japan (28 April 2026) Five people were injured in the incident 2026/04/28

被 害

■ エタノールの貯蔵タンク2基が爆発・火災で焼損した。

■ 負傷者が5名出た。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 発災時、製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていたというので、工事が関連しているとみられる。  

< 対 応 >

■ 火災を起こしたエタノールタンク2基は、約3時間後の午後230分頃に消し止められた。

■ 428日(火)、丸善製薬は、同社のウェブサイトで事故の状況などを発表し、「事故当時は製造棟新設工事に関連する作業を行っていました。深くおわび申し上げます」と述べた。 

■ 現場検証のため、三次工場は一時操業停止としていたが、58日(金)より、安全確認が完了した倉庫内の在庫に ついて、出荷を行う体制を整えているという。

補 足                                                

■「広島県」は、中国地方の山陽側の中央部に位置し、南は瀬戸内海に面し、人口約271万人の県である。県庁所在地は広島市である。

「三次市」(みよしーし)は、広島県の北部に位置し、人口約46,000人の市である。三次市は、中国地方の中心部に位置しており、江の川の支流が三次盆地で合流するため、河港として栄え、古くから山陰-山陽を結ぶ文化・経済・交通の要衝の地として機能してきた。 現在でも、中国自動車道・中国やまなみ街道(尾道自動車道・松江自動車道)・芸備線など三次市を中心に放射状の交通網が整備されている。

■「丸善製薬㈱」(まるぜんせいやく)は、1938年に設立し、広島県尾道市に本社を置き、医薬品などを製造する会社である。医薬品以外にも、化粧品や甘草から抽出した甘味料などを製造している。広島県三次市に製造工場がある。

■「エタノール」 (エチルアルコール; C2H6O)は、引火性の高い液体で引火点が約13℃で揮発性が高く、室温でも可燃性ベーパーを容易に放出し始め、このベーパーが電気火花、溶接火花、裸火などの発火源に接触すると、激しい爆発を引き起こす可能性がある。密度は0.78/㎤、燃焼範囲(爆発限界)は3.319.0vol%である。

 エタノールには消火を困難にする特殊な特性があり、エタノールは水に溶ける性質がある。すなわち、水ではエタノール火災を消火できないだけでなく、場合によっては液体と混ざることで可燃性ベーパーの拡散を助長する。エタノールの消火には水溶性引火性液体に接しても破泡しない頑丈な泡を形成する耐アルコール泡が必要で、エタノール火災の消火には、AR-AFFF(耐アルコール性)と呼ぶ特殊な消火泡を用いる。この泡は燃焼液の表面に膜を形成し、酸素を遮断し、ベーパーの発生を抑える。

 20262月に発生した「ブラジルでエタノールタンクの保全工事中に爆発、死傷者3名」 20263月)の事故では、タンクに固定泡消火設備が設置されており、 AR-AFFF(耐アルコール性)の消火泡が投入されて消されたとみられる。しかし、ブラジルの多くの消防署では、アルコール専用泡の不足が消防業界の既知の問題となっている。

 今回の事例では、 AR-AFFF(耐アルコール性)の特殊な消火泡が使用されたかは報じられていないが、「広島県の各消防本部の化学消火薬剤の備蓄状況」2010年とやや古いデータではあるがでは、下表のように、三次市の属する「備北地区消防組合」の耐アルコール用消火薬剤は多くの蓄えはないが、広島県全体では備蓄量はあるとみられる。おそらく、危急の場合、融通しあうのではないだろうか。 

■「発災タンク」は、エタノール貯蔵タンク2基と報じられているが、タンクのサイズなどの仕様はわからない。グーグルマップと被災写真で調べると、2基の発災タンクは同じ形状で、直径は約2.0mであり、高さを約3.0mとすれば、容量約9.4KLのコーンルーフ型円筒タンクである。

所 感

■ 事故の原因は分かっていない。しかし、事故当時は製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていたという。このブログでは、何度も指摘してきたが、「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)のつぎの項目のいずれかが欠けていたと思われる。

  ①代替方法の採用、  ②危険度の分析、 ③作業環境のモニタリング、

  ④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督

■ 消火活動は、「約3時間後」に消し止められたと報じられているが、詳細は語られていない。2基同時火災という困難な状況下で、且つ消防車や消防隊の配置も最適な場所の確保が難しかったが、今回の事故はメディアによる映像が放映されているので、消火戦略について推測してみる。

 ●AR-AFFF(耐アルコール性)の泡薬剤の備蓄量に不安があるため、他の消防本部からの融通を優先し、初期の消火戦略は防御的戦略をとり、他のタンクへの延焼を防ぐ冷却放水を行った。

 ●AR-AFFF(耐アルコール性)の泡薬剤が到着した段階で、積極的戦略をとり、泡放射を行った。このとき、まず1基のタンクに集中して泡放射を実施した。もう1基のタンクは冷却散水を継続した。

 ●1基のタンクが消火できたら、つぎに残りのタンクについて泡消火の積極的戦略をとった。

 タンク火災としては直径約2mと大きくはないが、消火までに約3時間かかっており、複数基火災が予想以上に消火が難しいかを知る事例となっている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Yomiuri.co.jp,  工場でエタノールタンク2基が爆発・炎上、やけどや骨折で作業員5人重傷か周辺で配管取り付け作業中に,  April  29,  2026

     Maruzenpcy.co.jp, 三次工場におけるタンク火災事故に関して,  April  28,  2026

     Nikkei.com,  広島県三次市の製薬工場でタンク爆発か 5人負傷し搬送、地元消防,  April  28,  2026

     News.ntv.co.jp,  製薬工場でエタノール入ったタンク爆発 5人負傷 広島・三次市,  April  28,  2026

     News.yahoo.co.jp,  製薬工場タンク爆発か、5人搬送 広島・三次、2人は重傷,  April  28,  2026


後 記: 今回の事例でよかったと感じたのは、火災現場の活動状況のわかる映像があったことです。文字による記事だけでは、タンクの大きさも分からず、消火活動もまったく分からない状況でした。テレビ局の強みが発揮されたと思います。それでも、分からないことの多い事例です。安全意識の高いはずの化学プラントでなぜ「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117)の指摘しているような基本的事項の逸脱があったのか、また、なぜ発災タンクに隣接していたタンクもすぐに爆発したのかなど、これまでの事例に無かったことが起きています。それが事故というものだで済まない気のする事例です。