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2021年8月26日木曜日

1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー(泡消火剤の搬送)

 今回は、1964年の新潟地震における石油タンク火災に関して、最近インターネット情報の「乗り物ニュース」に泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動について投稿されていました。この内容を既ブログ「1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」(20145月)の消防活動の追録としてまとめましたので、紹介します。

要 旨

■  日本はこれまで多くの地震に遭ってきた。地震が起こると、油槽所、製油所、石油化学などの工場もまた被害を受けてきた。この論文では、日本において地震によって被害を受けた石油タンクの事故の歴史をまとめるとともに、1964年新潟地震の被災状況についてまとめた。

「日本における石油コンビナートの災害の歴史」については、既ブログ1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」20145月)を参照。

■ 19646月に新潟地方で起こった地震は石油コンビナート地区に大きな被害を与えた。約150基の油タンクが火災となり、他に90基ほどのタンクに被害が出た。原油や燃料油を保有していたタンクでは、ボイルオーバーが数回起こっている。

1964年新潟地震

■ 表2に1964年新潟地震の概要を示す。新潟市は東京から北250kmに位置し、日本海に面しており、石油コンビナートがある。多くの建物や家屋が被害を受けたが、火災は工業地帯近くの家屋に限定された。石油コンビナートを含む新潟市域は津波に襲われた。石油コンビナートを含む市街地の大部分に地震による液状化現象が発生した。おそらく液状化によると思われる橋の損壊が起こった。

石油コンビナートの被害

■ 新潟の石油コンビナートは大きく、その中には製油所と数百基の石油タンクがあった。火災の多くはシェルグループの昭和石油の製油所において起こった。(図1、2、3を参照) 図4は、石油タンクの大半が火災を起こした石油コンビナート地区をA、B、C、D、Eの5つに分けてみたものである。


■ エリアAには、大型の原油貯蔵タンクが5基(表3を参照)あったが、No.1103タンクから出火したのち、全タンクに延焼した。 No.1103タンクでは、地震による油の揺動で油が側板を越えて溢流し、屋根とタンク側板が衝突したことによって火災が起こったものとみられる。

■ エリアBでは、津波の影響を受け、ガソリン、灯油などの油が海に流出した。2番目の火災は、昭和石油と三菱金属の境界付近で起こった。火災の着火源は、保管されていた金属(おそらく鉄粉)と海水の化学反応による発熱と思われる。エリアBには揮発性の油が漏洩していたため、火災はすぐに広がっていった。図4の矢印は火災の広がりの方向を示す。

■ エリアAには大型の原油タンクが5基あり、エリアCには灯油と原油タンクがあり、エリアDには重油タンクがあった。エリアEには、原油をはじめ、いろいろな油種を貯蔵していたタンクが数多くあった。

■ 新潟市の西地区には日本石油の製油所があり、大量の油が漏洩していたが、火災は発生しなかった。

■ 最初にNo.1103タンクで発生した火災は、短時間でエリアAの全タンクに広がった。61823時(地震発生から約58時間経過)、 No.1103タンクにおいてボイルオーバーが起こった。ボイルオーバーは他のタンクでも起こったが、発生回数ははっきりしていない。しかし、ボイルオーバーが起こったことによって、エリアAの火災を消火することは極めて困難になり、火災は628日まで続いた。

■ 三菱金属との境界付近で発生した2番目の火災は、エリアCの西および南の方向へ広がり、さらにエリアDとエリアEへと拡大していった。エリアDには10基のタンク(ガソリン、灯油、軽油)があったが、幸いなことに消防隊の活動によって延焼を免れた。

■ ボイルオーバーは、エリアBの重油タンクで発生し、さらにエリアCとエリアDにあった原油タンクでも起こった。ボイルオーバーの正確な発生回数は明確でないが、おそらく少なくとも45回あったとみられる。

事故の時系列

■ 津波によって新潟港は被害を受けた。地震によって液状化が起こり、揚圧力や噴砂の現象が生じ、油タンクや施設にダメージを与えた。石油コンビナートでは4か所で火災が起こっていた。

火災の始まり

■ 4か所の火災の概況を以下に示す。

昭和石油の製油所

■ 火災は地震直後に原油タンク地区で発生した。地震による油の揺動によって原油が飛散し、火災に至った。その後、火災はエリアA内のタンクに防油堤を越えて広がった。合計5基のタンクが火災となり、ボイルオーバーは2基あるいは3基のタンクで起きたとみられる。

昭和石油と三菱金属の境界付近

■ 地震発生後、約5時間経過して2番目の火災が発生した。この地区の製油所側では、深さ約0.5mの海水に浸かっていたが、損壊した油タンクや配管から漏れた揮発性の油の層が水に浮いていた。 このため、火災は水上を容易に広がっていった。結局、計138基のタンクが火災あるいは損傷を受けた。

ナルマス・オイル

■ 蒸留装置の製品を貯蔵する容量100KLの燃料タンクが地震によって損傷した。漏れた油に引火し、火災は水の上を走って建物へと広がった。火災は617日午前4時に鎮火した。

ニットー・ファイバ

■ 埋設のパイプラインから原油が漏れ出し、引火した。火は水の上を伝わって広がり、617日午前5時に鎮火するまで火災が続いた。

消防活動

■ 火災時における主な出来事と消防活動の概要を表4に示す。発災初期において地元消防署は市街地の災害対応に集中した。石油会社の消防隊は617日の早朝から活動を始めた。しかし、616日、17日の消防活動は不十分なものだった。その後、東京消防庁と他市の消防署の派遣部隊が支援に駆けつけた。この消防活動によってエリアDにあった製品油タンクの延焼防止に成功した。

=泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動=

■ 油火災には専用の泡消火剤と化学消防車が必要不可欠であるが、当時の新潟市消防局に化学消防車は1台もなく、企業所有のものが3台だけだった。消火剤の備蓄もわずかだった。これを知った東京消防庁は、616日夕方、化学消防車5台と消防隊員36名を応援として出動させ、消火剤も緊急輸送することを決めた。消火剤は東京と埼玉のメーカーで直接トラックに載せられ、パトカーの先導付きで新潟へ向かった。とはいえ、当時はまだ関越自動車道などなく、一般道で約11時間以上もかかる大変な行程だった。

■ 応援隊が新潟に向かう間にも、火災がすさまじい勢いで広がっているとの情報が次々と入った。そこで東京消防庁では、航空機による消火剤の空輸を防衛庁(当時)に打診した。防衛庁は航空自衛隊の出動を決定する。在日米軍からも協力の申し出があったので、日米共同での空輸作戦を行うこととなった。地震発生の翌日617日早朝、東京都下の在日米軍立川基地(現在の陸上自衛隊立川駐屯地)に古いプロペラ輸送機4機が集結する。輸送機は名前をカーチスC-46“天馬といい、第2次世界大戦中に米国で大量生産され、戦後に航空自衛隊へ供与されたもので、製造から20年過ぎた古いものだった。在日米軍からはロッキードC-130輸送機1機が米軍提供の消火剤を積んで参加した。  

■ 集まったC-46輸送機4機とC-130輸送機1機の計5機は、消火剤入りポリタンクと専用の噴射ノズルを積んで立川基地を離陸した。新潟空港は施設が破損して離着陸不能であったため、あらかじめ消火剤にはパラシュートがくくり付けられており、それを空港上空で地上へ落とす物量投下を実施した。こうして新潟に届けられた消火剤は火災現場に運ばれ、消火活動に使われた。  

■ 618日午前030分、10時間以上かけて新潟市に到着した東京消防庁は、体制を整え火災への反撃が午前5時に開始された。しかし、618日に最初のボイルオーバーの発生し、火災との戦いをくり広げる消防隊を支援するため、消火剤の空輸は続行された。618日以降、輸送機の出発地は消火剤メーカーに近い埼玉県の航空自衛隊入間基地に移された。 

■ 618日から19日にかけての深夜には、航空自衛隊のC-46輸送機7機と米軍のC-130輸送機3機による夜間空中投下が敢行された。投下目標は、新潟空港の滑走路上である。そこには夜間ということで目印代わりに炎が焚かれたドラム缶が並べられていた。ちなみに、C-46輸送機にはレーダーなどなく、舵も重かったといわれているため、夜間低空飛行は非常に困難だったと想像される。

■ 空輸作戦は619日午後まで続けられ、延べC-46輸送機×22機、C-130輸送機×5機により、約87,730リットル(87.73KL)の消火剤の空中投下を行った。

タンク火災およびボイルオーバー

■ 異なるタンクでボイルオーバーが何回か起こったということは、いろいろな報告の中で言及されているが、正確な情報は明らかでない。(表4を参照) 火災発生から約58時間経過後、No.1103タンクでボイルオーバーが起こった。ボイルオーバーの発生までの時間が長かったのは、浮き屋根が浮力機能を有してリムシール火災の様相が長く続き、油への熱移動が小さく、油の燃焼速度やヒートウェーブ下降速度が遅かったためである。ヒートウェーブ下降速度は0.25m/hと推算している。 No.1103タンクでは、ボイルオーバーが2回以上発生した。

■ エリアC、D、Eには、エリアAと同様、ボイルオーバーを起こす恐れのある原油や燃料油のタンクがあった。事実、これらのタンクのいくつかはボイルオーバーが起こっているが、正確な発生時間や回数は分かっていない。エリアEにあった小型タンクで3日後にボイルオーバーが起こっている。ボイルオーバーが遅く起きたのは、前述の理由と同じだと思われる。何度もボイルオーバーが発生するような状況にあり、消防活動は困難を極めてが、消防隊には大きなケガをする消防士が出なかった。このような厳しい条件のもとで、消防隊は最善を尽くした活動を行なった。

教 訓

■ 新潟地震当時の日本にも、危険物の取扱いおよび貯蔵に関する法令があったが、この地震を契機に改正された。火災からの教訓と法令の改正内容はつぎのとおりである。

1) 防油堤が地震で簡単に壊れたので、防油堤の強度が災害を教訓にして改正された。

2) 油タンクの構造に関する法令が災害を教訓に改正された。

3) 火災が民間の家屋にまで達したので、石油施設のレイアウトに関する法令が見直された。

4) エアフォーム・チャンバーは全タンクに設置されていたが、そのほとんどは機能しなかった。このため、エアフォーム・チャンバーは火災警報システムと自動的に連動して作動すべきとされた。

 まとめ

■ この論文では、日本における地震の歴史とその地震による石油コンビナートの被災状況についてまとめた。

■ 1964年新潟地震では、大型の石油タンクが火災に至り、原油および燃料油を貯蔵していたタンクのいくつかはボイルオーバーが発生した。地震と津波によって新潟市は甚大な被害を受けたが、火災の消防活動時には、東京消防庁の尽力もあってケガをした人はほとんどいなかった。

■ 2011年における東日本大震災は、地震のような自然災害時に私たちが危険に直面するということを再認識させた。

補 足                                                                          

■「消防研究センター」(National Research Institute of Fire and Disaster)は消防庁の研究機関で、火災原因究明のための調査・試験や消防資機材の開発など消防の科学技術に関する研究開発を総合的に行っている。もともと1948年に創設された「消防研究所」が前身で長い歴史をもった機関であるが、現在は消防庁消防大学校に設置されている形となっている。著者の古積博氏と岩田雄策氏は消防研究センターの危険性物質研究室に所属する専門家である。古積氏はボイルオーバーを専門分野の一つとして研究され、多くの論文を発表されている。

■「昭和石油 新潟製油所」は1953年に建設され、 40,000バレル/日の精製能力があったが、1999年に精製装置は停止され、現在は「新潟石油製品輸入基地」として石油タンク基地となっている。「昭和石油」は1985年にロイヤル・ダッチ・シェル傘下のシェル・ペトロリウムと合併し、「昭和シェル石油」と改称されている。なお、旧新潟製油所跡地には、2010年、太陽光発電施設「新潟雪国型メガソーラー発電所」の稼働を開始させ、日本の石油元売大手が商業用の太陽光発電事業に初めて着手するケースとなり、2012年にはさらに増強し、現在8MW規模のメガソーラー発電所となっている。一方、新潟地震時に火災発生のなかった日本石油新潟製油所(26,000バレル/日)も1999年に精製装置を停止している。

■ 昭和石油新潟製油所の火災に関する消防活動は、予防時報「新潟地震に伴う昭和石油製油所火災戦闘記」、小野寺慶治(196410月発行)に詳しく述べられている。(残念なことに、ブロック分けとタンク番号を記載した図が添付されていない) 小野寺氏は、当時、東京消防庁消防監として派遣部隊の本部長として現場活動に参画し、地震による損傷と津波による被害を含む広域のタンク火災という過酷な条件の中で、現在からみれば貧弱な消防資機材でよく奮闘されていることがわかる。火災の消火活動で得た19項目の教訓が述べられており、広域の複数タンク火災に直面した経験は現時点でも参考になる。以下にその例を列記する。

 ● タンク容量、現在量、油種などを早く調査して消火活動の重点を決定し、対応部隊を決定しなければならない。しかも、未燃タンクの受ける温度を測定し、タンクの温度を測定し、さらにその後の変動をいち早く察知しなければならない。

 ● タンクの油量が少なければ少ないほど、内部ガス圧が加熱により急激膨張をなし、タンク屋根が噴き飛んだり、あるいは屋根が裂けて口をあける。 

 ● 燃焼しているタンク側板は、油レベルまでは変色しないが、上部燃焼部分は焼けさびとなる。さらに長時間燃え続けると、タンク側板上方は溶解して内部へ垂れ下がり、屋根部のないタンクでは油量が少なくなるにつれて低くなり、高さ34mくらいで止まる。また、屋根部が口を開けて燃え続けるタンクは、その部分がゆがみ、肩部が下がって変形する。この場合、タンク内部は不完全燃焼のため、火勢は弱い。

 ● 堤内火災で、配管のバルブやタンクの下部マンホールが長時間火災に曝されると、パッキンや締付けボルトが狂い、漏油するようになり、これがまた燃え続ける。

 ● 屋根部の飛んだタンクは、大きく口を開けて燃え、ときどき爆音を発する。これは、燃焼中に風のため空気がよく入り、完全燃焼する時に起きるものであり、またタンクの内部は空気の流通が悪いため、火勢は弱いが、縁から上方は急激に完全燃焼を起こし、上昇速度が非常に速い。従って、射程の短い泡放射を行っても、タンク内に泡は入らず、飛ばされてしまう。(タンクが高い場合)

 ● 燃焼しているタンクから受ける輻射熱は相当高温であるが、空気の対流作用が激しいため、周囲から流入する冷たい空気のため呼吸は楽である。

 ● 注水によるタンク冷却は効果があるが、防油堤内の排水を考慮しなければならない。水位が高まり、防油堤の外に漏れ出し、火面を広げないように留意すべきである。防油堤が地震によって壊れている箇所があった。

 ● 地上流出油火災は噴霧消火で十分効果をあげられるが、広範囲の火災には、その幅だけの噴霧ノズルを用いないと、側面から火が回り、退路を遮断される危険があるので、消火した部分を土砂などにより区切って行くようにするのが大切である。

 ● 筒先隊員はもちろん指揮者も機関員も平常火災と同じ人数では、長時間高温下の活動には耐えられない。常識的に考えて、指揮者と機関員は2人宛とし、筒先担当者は9名以上として3班に分け、1020分宛交代させるようにしなければ、隊員の疲労がかさみ、危険である。

 ● 長時間かつ灼熱下での活動では、消火ノズルは方向を変えられる固定式放水銃のようなものが必要だった。放射能力は1,500 L/min、射程4060m程度のものが必要である。東京消防庁の化学消防車のノズルは射程も短く、隊員が手で持つタイプであったから、疲労と危険が伴っていた。(注:当時の消火資機材のレベルが想像できる)

■「No.1103原油タンク」は、地震による油の揺動で油が側板を越えて溢流し、屋根とタンク側板が衝突したことによって火災が起こったものとみられるが、「昭和39年新潟地震昭和石油株式会社 新潟製油所火災」(消防庁)によると、「地震とともに屋根が34回側板より上方に揺動し、同時に上部から側板に沿って原油が周囲に溢流した。そして、4回目くらいの揺動時に火災が発生した」とある。

  No.1103タンクは容量30,000KLで直径51.5mであった。現在の消防法によると、必要な大容量泡放射砲の放水能力は20,000 L/minである。これは泡放射量約9.6 L/min・㎡に相当する。当時の消防車の性能では消火できないし、小野寺氏の要望した放射能力1,500 L/min程度では勿論、現在の大型化学消防車(放射能力3,000 L/min程度)を複数台配置しても消火できない。

 実際、燃え尽きる戦略がとられた。しかし、No.1103などのタンク群の西隣に主装置があり、さらに延焼を免れている製品油タンク群があった。このため、620日、燃え尽きる戦略のほかNo.1103タンクのボイルオーバーによる被害防止策として、タンク群と主装置間の道路に土砂による堤防を構築する戦術がとられた。この堤防(長さ200m、高さ70cm、幅1m)は、煙と熱気の中、自衛隊100名で約2時間余で構築されている。

■「1964年新潟地震」は新潟国体の終わった4日後に起こっている。そして、4ヵ月後に1964年東京オリンピック(1010日開会式)が開催された。地震直後は大きなニュースになったが、東京オリンピックがあったため、その後は地元以外に忘れられた感がある。しかし、現在、インターネットに投稿されている新潟地震に関する情報は少なくない。新潟地震による災害を表した写真の一部を以下に紹介する。


所 感20145月)

■ 1964年新潟地震があったことは知っているが、このように凄まじい災害だったとは思っていなかった。2011年東日本大震災前であれば、おそらく極めて稀な事例という位置づけで終わっていただろう。しかし、新潟地震の状況を見ていくと、東日本大震災時の津波による石油タンク損傷と油流出、LPガスタンク爆発・火災などの被災状況と重なる。

 現在は1964年当時より確かにタンク施設は強化され、消防資機材も充実した。しかし、今の石油タンクの事故想定は基本的に単発事故(タンク1基の事故)である。だが、単発事故に制限してくれる保証は何もない。 1964年新潟地震や2011年東日本大震災の事例をみると、堤内火災を伴ったタンク火災や複数基火災を仮想しておくべきである。

■ 消防資機材が充実したとはいえ、例えば、大容量泡放射砲システムは指定区域に1セット(最大タンクを対象)である。地震により同区域の複数基のタンクが全面火災になった場合、誰が、どのような判断でどこに大容量泡放射砲システムを送り込む決断をするのか考えておく必要がある。特に原油タンクはボイルオーバーが発生する可能性があり、余裕時間はない。今回、新潟地震における火災タンクのヒートウェーブ下降速度は0.25m/hと推算されているが、これは極めて稀な遅い例である。ヒートウェーブ下降速度の仮定値を設定し、ボイルオーバーの発生時間を推算して消火戦略を計画しなければならない。

所 感20218月)=泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動=

■ 1964年新潟地震時における泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動を示すインターネット情報が投稿されたことは興味深い。延べC-46輸送機×22機、C-130輸送機×5機により、約88KLの消火剤が空中投下されたとのことである。当時の化学消防車や泡モニターの能力から考えれば、これだけの泡消火剤があっても火災を制圧することはできなかっただろうことは容易に推測できる。

■ 現在、大容量泡放射砲システムが導入されたが、複数基のタンク火災への対応に課題があるほか、当初から指摘されていた搬送に関わる課題がある。この点、50年前に中古の輸送機で泡消火剤を運ぶというアイデアと実行力は大いに参考になるのではないだろうか。 

備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

  ・「Multi-Boilover  Incidents in Oil and  Chemical Complexes in the 1964 Niigata Earthquakes, Loss Prevention Bulletin 231 June 2013        Hiroshi Koseki*, Gilles Dusserre**, Yusaku Iwata*       *National Research Institute of Fire and Disaster, Japan      ** Ecole des Mine d’Ales, France

      Trafficnews.jp,地獄のコンビナート火災へ向かった空自の老兵機&在日米軍機 知られざる51時間の死闘,   July  19,  2021

後 記: 今回の泡消火剤搬送のような情報は貴重です。本文は「乗り物ニュース」というインターネット情報ですが、このような情報があるのを知ったのは、Yahooニュース・ジャパンです。現在でも、火災事故における資機材のロジスティクス(兵站)活動をまとめて、それを公表(発表)することはほとんどありません。本ブログにどのように載せようか試案しましたが、別なブログにするよりも元のブログに追記しておく方がよいと考え、今回のような形にしました。しかし、初めて知った「乗り物ニュース」ですが、乗り物に興味をもっている人は多いのでしょう、かなり頻度高く情報を出しているようです。

2021年8月19日木曜日

イランのハールク島にある石油化学でガソリンタンク火災

  今回は、2021810日(火)、イランのハールク島にあるハールク石油化学においてガソリンタンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、イラン(Iran)のハールク島(Kharg island)にあるハールク石油化学(Kharg Petrochemical Company)である。

■ 発災があったのは、本土から約25km離れたハールク島のハールク石油化学のタンク地区にある貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021810日(火)朝(午前2時頃という情報もある)、ハールク石油化学で大規模の火災が発生した。公開された写真では、2基のタンクから黒煙が上がっているように見える。

■ 事故に伴い、ハールク石油化学の消防隊が出動した。

■ 発災から1時間ほどでタンク火災を制御でき、完全に消火するのに、4時間ほどかかったと報じられている。一方、午前10時時点で火災は消火できていないとも報じられている。

■ ハールク石油化学の広報担当は、タンクにガソリンが入っており、何らかの引火源の火花によって炎上したものとみられると発表した。

■ 事故に伴う死傷者は無かった。

被 害

■ ガソリンタンクが火災で損傷した。詳細な被害は不詳である。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は分からない。

< 対 応 >

■ 消火後、消防隊は影響を受けたタンクの冷却作業を継続した。

補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約8,000万人のイスラム共和制国家である。

「ハールク島」(Kharg Island)はブーシェフル州に属し、イラン本土から約25km離れた位置にあり、日本では英語のつづりからカーグ島とも呼ばれる長さ8 km×4 kmの小島である。イラン石油の主要な輸出基地で、かつては世界最大のオフショア原油ターミナルであった。しかし、1980年代のイラン-イラク戦争でイラク空軍によるハールク島の施設への激しい爆撃が行われ、ほとんどのターミナル施設が破壊された。1988年に戦争が終結した後も、施設の復興は遅く、 2009年に原油の輸出が再開された。

 イランで起こった事故でブログに紹介した事例は、つぎのとおりである。

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でナフサ貯蔵タンク火災」

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でまた貯蔵タンク火災」

  ● 201610月、「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」

  ● 20172月、「イランのテヘランで石油施設に落雷後、タンク火災」

■「ハールク石油化学」(Kharg Petrochemical Company)は国有のイラン石油会社系列で、1967年に設立され、ハールク島で原油からプロパン、ブタン、ペンタン、硫黄などを製造する石油化学であるとともに、原油輸出の石油ターミナルがある。

■「発災タンク」は内液がガソリンと報じられているだけで、大きさ(容量、直径×高さ)は分からない。発災写真を見ると、タンク型式はアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクと思われる。グーグルマップで調べると、島の南側にドーム型タンクがある。この付近のタンク群の配置が発災写真のタンク群に似ている。このドーム型タンクが発災タンクならば、直径は約51mであり、高さを18mと仮定すれば、容量は36,000KL級とみられる。

 一方、このタンクの後ろ側には、直径約35mのドーム型タンクがあり、高さを15mと仮定すれば、容量は14,000KL級とみられる。さらに、これらのタンクの間には、直径約10mの小型タンク(300KL級)が4基ある。黒煙が出ている高さから直径約10mの小型タンク群が火災の起点ではないかと思われる。なお、発災写真の左側タンク付近からも黒煙が上がっているが、これもタンク本体でなく、後ろ側にある配管やプラントの一部から出ているのではないかと思う。

所 感

■ 今回の事故は、発災写真で見られる容量36,000KL級(直径約51m)のドーム型タンクではなく、このタンクの後ろ側にある容量14,000KL級(直径約35m)のドーム型タンク、またはこれらのタンクの間にある小型タンク(300KL級、直径約10m)が起点の火災ではないかと思う。黒煙が出ている高さから直径約10mの小型タンク群の可能性の方が高いと思われる。なお、発災写真の左側タンク付近からも黒煙が上がっているが、これもタンク本体でなく、後ろ側にある配管やプラントの一部から出ているのではないかと思う。

■ 事故は石油ターミナルのタンクではなく、原油からプロパン、ブタン、ペンタンなどを製造するハールク石油化学のプラントにおける貯蔵タンク関連設備であろう。運転中だったと思われるプラント関連であり、原因は設備不具合または運転ミスにかかわる事項ではないかと思う。

■ 発災写真が何時頃(発災後の経過時間)撮影されたものか分からないが、印象としては発災後、比較的早い時間帯ではないかと思う。「大規模の火災が発生した」と報じられており、発災写真が撮影された後、さらに火災の規模が大きくなっているのではないだろうか。消防隊による活動で1時間後には火災は制御されたという報道もあるが、どのような状態を制御と言っているか分からないし、疑問が残る。ガソリンを主とした軽質分の火災であり、消防活動は難航しただろう。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Fire at Kharg petrochemical terminal put out,  August 11, 2021

    Iranintl.com, Blaze Breaks Out In Iran's Kharg Oil and Petrochemical Terminal,  August 10, 2021

    Reuters.com, Fire put out at Iranian petrochemicals plant - state media,  August 10, 2021

    Jpost.com, Fire breaks out in Iranian petrochemical factory – report,  August 10, 2021

    Iranpress.com, Gasoline reservoir of Iran's Kharg Petrochemical Company catches fire,  August 10, 2021

    Theiranproject.com, Production not affected after fire at Iranian petrochemical plant,  August 10, 2021


後 記: 今回の事故情報も内容の乏しいものでした。ハールク島という離れ小島で起こっていますし、新型コロナウイルスによるメディア活動制限で仕方ないのかも知れませんが、もう少し何とかならないものかと思ってしまいます。実際、多くのメディアは写真すら無い状態で、どのような経緯で得たのか分かりませんが、公開されたのも被災写真は1枚だけです。唯一の被災写真に文句を言ってはなんですが、どのように解釈すればよいか分かりづらい状況の写真です。しかし、この写真をもとにグーグルマップで根気よく調べていったら、どうやらタンクの後ろ側に本当の被災部がありそうなことが分かりました。

 ところで、イランでは新型コロナウイルスの感染者と死者数が急増し、過去最悪の水準に達しているそうです。コロナ対策の規制が緩く、ワクチン接種も進んでおらず、封じ込めに苦戦(失敗?)しています。米国の制裁による影響が新型コロナウイルスの感染にも出ているようです。

 イランといえば、隣国アフガニスタンの政局変化は速かったですね。この春頃、イランとパキスタンからアフガニスタンへの帰還が続いているといわれていました。イランからの帰還者が今年3月には約6万人のピークがあったようで、今も多くのアフガン難民が帰還しているそうです。アフガニスタンにおける新型コロナウイルスの感染者データは図のように減少傾向のように見えますが、国の混乱で実態を表していないでしょう。政局の安定化の課題のほか、新型コロナウイルス感染対策も大変でしょう。(日本ものんびり構えている状況ではありませんが)


2021年8月12日木曜日

メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災

  今回は、2021731日(土)、メキシコのタバスコ州にあるペメックス社のドスボカス・マリータイム・ターミナルにある浮き屋根式タンクで落雷による火災が起こった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、メキシコ(Mexico)タバスコ州(Tabasco)にあるメキシコ国営石油会社;ペメックス社(Pemex)のドスボカス・マリータイム・ターミナル(Dos Bocas maritime terminal)である。

■ 事故があったのは、ドスボカス・マリータイム・ターミナルの浮き屋根式タンクである。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021731日(土)午後930分頃、落雷によって浮き屋根式タンクから火災が発生した。

■ 火はタンク周囲から上がっており、リムシール火災とみられる。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ ペメックス社は事故状況などの情報は公開していない。

■ 発災時の映像がインターネットのツイッターに投稿されている。

(投稿されたTwitter動画Antonio De Marcelo Aug 1を参照)    

被 害

■ 人的被害は無かった。

■ 貯蔵タンクが落雷によって火災となり、損傷した。落雷による被災タンク基数や内部液の焼失量は分からない。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は落雷によって浮き屋根式タンクのシール部で着火したとみられる。

< 対 応 >

■ 火災は深夜0時頃に制御された。

補 足

■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置し、人口約12,600万人の連邦共和制国家である。

「タバスコ州」(Tabasco) は、メキシコの南西部に位置し、人口約224万人の州である。

■「ペメックス社」(Pemex)は、1938年に米国、英国、オランダの石油会社に支配されていた石油産業をメキシコ政府が国有化して設立されたメキシコ国営石油会社である。

「ドスボカス・マリータイム・ターミナル」(Dos Bocas maritime terminal)は、ドスボカス港にあるペメックス社の重要な原油輸出ターミナルである。ドスボカス港には、ペメックス社の新しい製油所の計画があり、開発が進められている。この地域は希少なマングローブの林があり、環境問題が報じられている。

 なお、メキシコ(ペメックス社)では、パイプラインでの油窃盗事故が多く、ブログで取り上げたのはつぎのとおりである。

 ● 20147月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」

 ● 20178月、「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」

 ● 20191月、「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」

■「発災タンク」は、浮き屋根式タンクという情報のみで、容量や大きさ(直径×高さ)などの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べても、同種のタンク群があり、情報が乏しく、特定できなかった。

所 感

■ 火災の原因は落雷によるものとみられる。

 NASAの雷マップ(データは最新でないが)によると、雷の多い米国のメキシコ湾岸ほどではないが、メキシコのタバスコ州付近も雷の多い地域のひとつである。


 ■ タンクのリムシール火災は、つぎのブログを見ると、ドローンで撮影した状況などがわかる。

 ●「マレーシアの製油所で原油タンクが落雷でリムシール火災」 20206月)

■ タンク火災の消火活動は2時間半ほどかかったが、内容は不明である。グーグルマップのタンク周辺を見ると、入出荷配管以外に配管が走っており、固定式泡消火設備(または半固定泡消火設備)が設置されているのではないかと思われる。従って、固定式泡消火設備(または半固定泡消火設備)を使用し、消防隊の泡消火モニターを併用して消火させたものと思われる。 

 リムシール火災は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、リング火災とも呼ばれる。日本では、固定式泡消火設備を設けることになっており、リムシール火災への別な対応方法は考えられていない。海外では、固定式泡消火設備のないのがあり、リムシール火災への対応方法が考えられている。リムシール火災の対応について「補足」の中で言及したブログはつぎのとおりである。

 ●「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」20189月)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Tankstoragemag.com, Lightning causes tank fire at Pemex termina,  August 03, 2021

    Finance.yahoo.com, Fire controlled at Pemex storage tank in southern Mexico,  August 02, 2021

    Mexiconewsdaily.com, Pemex controla incendio en tanque de almacenamiento de Dos Bocas,  August 01, 2021

    Eleconomista.com.mx, Pemex controla incendio en tanque de almacenamiento de terminal de Dos Bocas,  August 01, 2021

    Elsoldemexico.com.mx, Controlan incendio de contenedor en refinería de Dos Bocas,  August 01, 2021


後 記: メキシコではパイプラインでの油窃盗事故については状況をよく報道されていますが、タンクの事故は報じられていません。事故が無いのか、事業者からの情報公開がないためなのか分かりません。今回のリムシール火災などは、発災状況がどうだったのか、消火活動はどのように行われたのか、知りたいことがたくさんあります。落雷による火災が起きたが、消火できて一件落着という事業者のように見えます。国内に競争のない国有会社のマイナス面なのでしょう。メディアも新型コロナウイルスのためか報道が淡泊な印象です。なお、メキシコでの新型コロナウイルス感染者数は増加傾向にあり、810日時点、平均で116,782人の新規感染者が報告されており、1日平均人数のピークだった 121日の96%になっているそうです。


 

2021年8月4日水曜日

緊急事態対応の事前計画を策定する際の考慮すべき事項

 今回は、202132日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「6 Considerations for an Effective Pre-Plan」(効果的な事前計画のための6つの考慮事項)の内容を紹介します。

< 背 景 >

■ 工場内の消防士や運転担当者は、自社施設内の製品、製造プロセス、貯蔵と流通システムに精通している。彼らの多くは、職場において予期せず望ましくない問題に備えるために、月毎、四半期毎、年次毎の緊急事態対応訓練に参加する。

■ 地方自治体の消防士や緊急事態対応者は、産業施設内で毎日働いている緊急事態対応者に比べると、相対的に地元のプラントや産業界におけるハザード(危険性)に精通しているとはいえない。全米防火協会(NFPA)基準による消防士1”消防士2” の教育課程では、住宅、アパート、商店に関する消火に関する授業時間や訓練に比べ、産業施設やハザード(危険性)に関する授業や訓練に費やす時間少ない。

■ 工場における産業消防士は、NFPA 1081Standard for Facility Fire Brigade Member Professional Qualifications)に記載されているように消防訓練をかなり頻繁に実施する。 NFPA 1081では、学習時間と教育目的を産業消防隊の任務と労働安全衛生に充てている。産業界の緊急事態対応者の訓練では、緊急事態対応者が扱うことになる機材や装置とともに、プラントにおける特別なハザード(危険性)に焦点を当てることになる。

■ 石油貯蔵タンクの火災が発生した場合、工場と地方自治体の両方の緊急事態対応者が協力してたずさわり、安全で適切に消火するために水、泡薬剤、機材、燃焼タンクへのアクセスなどの情報を共有化する必要がある。

■ 地上式石油貯蔵タンクのような産業界におけるハザード(危険性)に関する事前計画は、各担当グループによって取るべき初動対応が準備されているので、工場内および地方自治体の緊急事態対応者にとって非常に価値がある。

< 事前計画の検討 >

■ 事前計画は、様式や使用目的が幅広く、包括的な用語である。事前計画の検討は、総括的にいえば、NFPA1620 Standard for Pre-Incident Planning)の規定あるいは地方政府機関の要件に合致したものである。

■ いいかえれば、事前計画は、合理的な考え方で想定される緊急事態に対して特定の従業員と緊急事態対応者のために作り込んだ技術的なガイダンス(手引き)といえる。そして、工場経営者側としては、従業員に事前に決定した方法で対応したり、あるいは事前に準備された機材や技術を用いて対応することを望んでいる。

< 構成と様式 >

■ 過去の緊急事態から学んだ教訓としては、知識・経験をもった緊急事態に対応した人でさえ特別なハザード(危険性)を見たとき、その緊急事態にどのように対処するかについては異なる考えがありうるということである。そのような緊急事態に際して最も安全で最も望ましい結果となるようなインシデント・アクション・プラン(事故後の行動計画)をいち早く作成する際に有効なのは、権限を有する当局者、施設の所有者、または施設の緊急事態対応者から発出される明確な戦略的・戦術的なガイダンスである。

■ 戦術的な事前計画は簡潔にすべきで、施設所有者や投資家・顧客などのステークホルダーの戦略的思考を反映させておくべきである。戦術的な事前計画では、グループリーダーのために現場指揮所(IC)、対応活動、プランニング、ロジスティクス、指揮所の運営など事故時の役割を明確にし、組織化しておく。また、連絡・報告(地方、州、連邦機関への)、人員・資機材の集結(ステージング)、広報担当、泡薬剤の管理などの他の対応部署や要求事項を含んでおく。

< 石油貯蔵タンク >

■ 地上式石油貯蔵タンクの事前計画を検討する場合、一般的にタンク施設全体と個々の貯蔵タンクの2つの観点から問題を検討すると有用である。

< 取扱いする製品類 >

■ タンク内に保管される液体には、原油などの可燃性の油、施設内で使用される原料、販売されるプロセス中間製品、精製された製品、自動車用の燃料や潤滑油のブレンド用オイルなどあらゆる種類が含まれる。保管される液体には、廃水や排液も含まれる。

■ 低発泡の消火泡やドライケミカルなどの消火剤は、プラント内の燃料や危険物による火災の消火の要件に合致する必要がある。一方、消火活動の際には、泡薬剤は泡成分に含まれるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの汚染物質が含まれていることについて環境問題に対応する必要がある。

< タンクの設計・建設仕様 >

■ 米国での地上式石油貯蔵タンクの建設は、米国石油協会のAPI Std 650Welded Tanks for Oil Storage)に準拠すべきである。この規格はタンク建設の継続性を規定しているので、類似の屋根構造のタンクに対してある程度の標準化された消火戦術を用いることができる。石油貯蔵タンクは、通常、コーンルーフ式(円錐式)の屋根、外部式浮き屋根、内部式浮き屋根などの屋根の設計に用いられる。屋根の設計は、一般的に地上から識別できるし、タンク防油堤の外側からも識別できる。

■ 外部型や内部型の浮き屋根式タンクは側板の内側にシール部があるため、タンクが空や充填されたときに浮き屋根が上下に移動できる構造である。シール部での火災は緊急事態であり、シール部内にとどまっている間に消火する必要がある。そうしなければ、浮き屋根の浮力が減少し、屋根が傾いたり、沈んだりすると、タンクの全面が火災に巻き込まれる可能性がある。

■ 泡溶液をシール部に放射するように設計されたフォーム・チャンバーは、システムの型式(半固定式または固定式)を明らかにし、泡放射する操作方法を含めて事前計画で明確にしておかなければならない。

泡消火システムの配管、マニホールド、ドレン部については緊急事態の事前計画の中で明確にしておく必要がある。

< 緊急事態の種類に合わせた調整事項 >  

■ 特定のプラント資産のための基本的な電子式緊急事態事前計画のファイルに、あなた方が準備する必要のある各種のハザード(危険性)に対する切替用のタブを設ける場合がある。

 ● 火災: 貯蔵タンクへのアクセス道路のグループ化、消火配管と消火栓、卓越風、曝露のハザード(危険性)

 ● ハザード物質(危険物質)の流出と放出: 物質の化学的ハザード(危険性)に関する情報、攻撃的活動あるいは防御的活動のための適切な個人用保護具(PPE)、汚染除去の解決方法とその装置

 ● 水上流出: 油流出請負会社、環境請負会社、所轄官庁への連絡、避難所の開設

 ● 気象関連の自然災害: 地方、州、国の機関の通知の連絡先

 < 活きた文書と使用するメンバーの使いこなし >

■ 地上式石油貯蔵タンクにおける緊急事態の事前計画を良いものにするには、緊急事態対応グループのメンバーに使ってもらうことであり、計画の各担当に責任をもたせることである。そうすることによって、メンバーひとりひとりが計画に関する貴重な知識を得るだろうし、会社が非常事態にどのように対処したいか知るだろう。事前計画は、安全で効果的な緊急対応のための生きた文書として考える必要がある。

 

■ 著者のフレッド・ウェルシュ(Fred Welsh)は、消防や緊急対応の業務に従事して44年のベテランである。彼は、フェアファックス郡消防署で消防士を務めたほか、公設消防や産業消防の指揮官や責任者を務めている。

■「インフラストラクチャの階層化」は、デジタル技術によって基本的な図面に異なったインフラストラクチャを階層化する機能である。本文では、プラント専用の消火用水システムを挙げている。この技術はGIS(ジー アイ エス)といい、Geographic Information System の略称で日本語では地理情報システムと訳される。


 地球上に存在する地物や事象はすべて地理情報と言えるが、これらをコンピューターの地図上に可視化して、情報の関係性、パターン、傾向をわかりやすいかたちで導き出すのが GIS の役割である。本ブログでも地図情報はグーグルマップを使用しているが、地図と空撮写真が階層になっている。消火用水システムの例としては「会津若松市消火栓マップ」もその一例である。

所 感

■ 今回の資料の中で興味をひかれたのは、文書の階層化するデジタル技術である。すでに、「資源(人員・資機材)とインフラストラクチャに関するデジタル版の事前計画のそれぞれ層は、必要に応じて取り出せるようになっている。たとえば、消火水システム、攻撃用泡モニター/フォーム・ワンド/ドライケミカルのような特別な機材の使用場所、従業員の確認、製品ライン・用役ライン、排水系、成功対応と失敗対応の違いのわかる事項である」という。これによると、通常の GIS(地理情報システム)による階層化だけでなく、情報はすべて階層化していると思われる。

■ 緊急事態対応時のデジタル技術としては、20216月に起こった「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」の際、記者会見時に複数画面を映し出していたモニターが出ていた。指揮所でどのような使い方をしているか分からないが、デジタル技術の活用は進んでいる。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, 6 Considerations for an Effective Pre-Plan(効果的な事前計画のための6つの考慮事項), by Fred Welsh,  March  2,  2021


後 記: 今回の資料は、関係代名詞のある文章が比較的長く、途中でandが使われるなどしてどれを修飾しているのか分かりずらいものでした。副題も本文との関係がしっくりこないので、意訳しました。というより、このように解釈しないと意味が通じないよねという感じです。訓練か教育の写真がありますが、臨場感は薄いと感じました。緊急事態対応では、 20216月に起こった「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」の事故で、記者会見時に複数画面を映し出していたモニターが気になっていましたので、今回の所感の中に入れました。