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2017年4月24日月曜日

米国ホワイティング製油所の装置爆発で貯蔵タンク70基に延焼(1955年)

 今回は、1955年8月27日、米国インディアナ州ホワイティングにあるスタンダード・オイル社の製油所で流動床式のハイドロフォーマー(接触改質装置)が爆発し、飛び火して70基の貯蔵タンクに延焼した歴史的な災害事例を紹介します。
(写真はPophistorydig.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国インディアナ州(Indiana)のホワイティング(Whiting)にあるスタンダード・オイル社(Standard Oil)の製油所である。製油所の敷地面積は1,660エーカー(670万㎡)だった。

■ 発災の発端は、製油所の流動床式のハイドロフォーマー(接触改質装置)である。ハイドロフォーマーは、触媒による接触分解プロセスとして知られ、高温・高圧下でナフサと水素を使用して高オクタン燃料を製造する装置である。ハイドロフォーマーは高さ260フィート(79m)で、25階のビルより高い。当該装置の生産能力は30,000ガロン/日(1,100KL/日)で、ホワイティング製油所の新しい装置として稼働し始めたばかりだった。ハイドロフォーマーの設備は、当時、石油精製装置の中で最大の塔槽を有し、最高水準の技術が結集されたものと信じられていた。
発災前のスタンダード・オイルのホワイティング製油所
(写真はPophistorydig.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 1955年8月27日(土)午前6時15分頃、予兆もなく、流動床式のハイドロフォーマーで爆発が数回起った。これが“地獄の始まり”だった。最初の爆発でプロセス装置はバラバラになり、2インチ(5cm)厚で30フィート(9m)長の鋼材が吹き飛び、無数の小破片が四方へ乱れ飛んだ。近くに住んでいた女性は、「太陽が爆発し、世界の終わりが来たと思いました。恐ろしいような音が聞こえ、大きな赤い閃光が走りました」と語っている。最初に起った爆発力によって3マイル(4.8km)以内のほとんどの窓が割れた。キノコ雲が8,000フィート(2,400m)の高さにまで上がり、30マイル(48km)離れたシカゴでも見えた。

■ 爆発したハイドロフォーマーから熱い破片が製油所内と隣接する住宅地に雨のように降り注いだ。製油所構内では、噴き飛んだ金属片やコンクリート片の一部が石油貯蔵タンク群へ落下し、穴をあけた。このため、タンクに火がつき、中には爆発を誘発した。 “燃えている油による洪水”が製油所内の地上や構外のホワイティング通りと排水溝を流れているようだったと当時の新聞は報じている。排水溝から逆流するガスにタバコや家庭調理器の火で着火する危険性があると、あとから住民に警告がまわった。実際、この地区にある何本かの電柱が燃えた。

■ 製油所に隣接する住宅地では、飛んでいった物体が多くの家屋に損害を加え、住民に恐怖を与えた。実際、10フィート(3m)の鋼管が1軒の家の屋根を突き破り、部屋で寝ていた3歳の男の子に当たって男の子は死亡した。大きなものでは180トンの鉄の塊が飛んでいた。製油所から半径3マイル(4.8km)以内の会社事務所、住宅、ガレージ、自動車などに多大な被害が出た。
 
■ かろうじて家から逃げて避難所のホワイティング・コミュニティ・センターにたどり着いた二人の子どもを連れた夫婦は、その時の恐怖をつぎのように語っている。
 「爆発でベッドから放り出されました。鉄のパイプが建物を突き破っていました。窓は部屋の内側に吹き飛び、天井のしっくいが剥がれ落ちていました。私たちは床を這い出し、子どもたちを探しました。子供のベッドはひっくり返っており、子どもはその下にいました。まわりは割れたガラスとしっくいで覆われていました。私たち四人はそこから急いで出て、車に乗り込みました。路地に沿って抜けようとしたところ、100トンはあろうと思われる金属の塊に行く手を阻まれました。塊は製油所から飛んできたものでした。私たちは引っ返して路地の反対側を進み、やっと避難所に着くことができました」

■ この爆発事故によって、スタンダード・オイル社の従業員1名が死亡し、40名以上が負傷して病院に搬送された。

■ 近隣地区では、600世帯約1,500人が避難した。治安維持のため、地元警察のほか武装した州兵が出動した。

■ 最初の爆発に続き、製油所の別なところから火災が起った。つぎの2日間、火災は広がり続けた。貯蔵タンク地区を行進するように爆発が起こり、油が流出し、火災が起った。火炎は、ときには、300~400フィート(90~120m)の高さにまで上がった。

■ 製油所構内にある貨物用鉄道は高温に曝されて、線路が歪んでしまった。貨物車の中には、熱によって溶けかかったものもあった。

■ 発災から二日目の時点では、火災は制圧下に入っていたと言われていた。しかし、この段階では、火炎が近くのシンクレア・オイル製油所に延焼してさらに被害の広がる恐れがあった。発災から時間が経過し、消防隊は火災を消すよりも封じ込める方が現実的だと感じていた。このため、製油所以外のところに火災が広がることがないよう、消防隊は火災場所の周辺に大きな土盛り堤を構築し始めた。

■ 結局、45エーカー(182,000㎡)の貯蔵タンク地区にあったタンクのうち70基が火災となった。損壊したタンクからは油が流出し、インディアナ港の運河に流れ込んだ。

■ 製油所は燃え続け、最後の火災が消えたのは9月4日(日)である。火災は8日間と5時間燃え続け、3つのプロセス装置が損壊し、貯蔵タンク70基が焼失した。火災跡には、曲がりくねった真っ黒な鋼材が横たわっていた。
(写真はPophistorydig.comから引用)
(写真はChicagotribune.comから引用)
(写真はChicagotribune.comから引用)
被 害
■ 事故による死者は2名(従業員1名、市民1名)、負傷者は40名以上である。
 なお、近隣地区の600世帯約1,500人が避難した。

■ 焼失面積は45エーカー(182,000㎡)で、3つのプロセス装置と70基の貯蔵タンクが損壊した。石油貯蔵タンク内の6,000万バレル(950万KL)の油が焼失したといわれている。

■ 爆発によって損壊した家屋は180棟にのぼった。このうち、140棟はスタンダード・オイル社が買い上げた。

■ 損害額は、当初、1,000万ドルと見積もられた。このうち、100万ドルが損害保険で支払われた。その後の損害に関する見積もりでは、3倍の3,000万ドル(2015年換算で8,700万~2億7,300万ドルの間)という額になった。
 
< 事故の原因 >
■ 貯蔵タンクが火災となったのは、ハイドロフォーマー(接触改質装置) の爆発によって飛び火して延焼したものである。

< 対 応 >
■ 大火災と戦うため、スタンダード・オイル社から多くの従業員が動員されるとともに、ハモンド、東シカゴ、ゲイリー、カルメット・シティ、ダルトン、シカゴの各消防署の消防隊が出動し、合計で6,000人以上が参加した。

■ 消防隊は火災を消すよりも封じ込める方が現実的だと判断し、施設から流れ出て燃えている油を封じ込めるため、 3,000人で貯蔵タンク周辺に土盛り堤を構築した。

■ 一方、爆発を伴う恐れのある石油貯蔵タンクは、州兵によって40ミリ機関銃が打ち込まれ、タンクが爆発する前に内部の油が銃弾の穴から流れ出るようにした。

■ 1年後、スタンダード・オイル社は操業を再開し、被災した設備を作り直して再び100%の能力で運転を行っている。

■ 一方、事故が製油所で働く作業員と地域の人たちに与えた恐怖と不安感は大きかった。住民のひとりは、のちに、「爆発事故を契機にホワイティングの人口は10,000人から5,000人に減りました」と語っている。実際、事故後、アモコ/スタンダード社は製油所に隣接する土地を買い取ることになり、火災によって損害を受けた多くの住居や事務所が再び戻ることはなかった。

■ 2015年8月、事故から60回目の記念日を迎えた。ホワイティング/ロバーツデイル歴史協会は新しいドキュメンタリー映画「夜明けから1分後」を発表した。 1時間半の映画は貴重な経験を残すために制作されたものである。
遠くから火災を見ていたとき、突然、 爆発が起きて車の方に逃げる住民
(写真はPophistorydig.comから引用)
爆発で飛んできた大きな金属片の横で燃え上がる大型タンク
(写真はPophistorydig.comから引用)
(写真はChicagotribune.comから引用)
燃える油の封じ込めのため、土盛り堤の構築作業
(写真はPophistorydig.comから引用)
まだくすぶりが続く中、損壊したタンクを調査する人
(写真はPophistorydig.comから引用)
補 足
■ 「インディアナ州(Indiana)は、米国中西部に位置し、五大湖地域にある人口約650万人の州である。
 「ホワイティング」(Whiting)はインディアナ州北西部に位置するレイク郡にあり、ミシガン湖に接する人口約5,000人の町である。
               インディアナ州の位置   (図はNizm.co.jpから引用)
■ 「スタンダード・オイル社」(Standard Oil)は、1870年にジョン・D・ロックフェラーによって設立された石油会社である。1878年には米国の石油精製能力の90%を保持するまでに至り、独占を制限する動きから会社を34に分割した。スタンダード・オイル社はその後エクソン・モービル、アモコ、シェブロンなどに引き継がれることになる。
 インディアナ州ホワイティングにあった製油所はスタンダード・オイル・オブ・インディアナとなり、その後アモコに改名された。ホワイティングの製油所は、現在、「ホワイティング製油所」(Whiting Refinery)と称し、42万バレル/日の精製能力でBPによって経営されている。
                現在のホワイティング製油所   (写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ 最悪で大規模な石油施設の事故である。最近の大きな貯蔵タンク事例では、2005年の英国バンスフィールド事故の被災タンクが23基、2009年のプエルトリコ事故の被災タンクが21基、インドのジャイプール事故の被災タンクが11基である。これに比べ、タンク規模やタンク間距離などの違いがあるにしても、ホワイティング事故の被災タンクは70基(67基と報じられていることもある)であり、いかに大災害だったか分かる。

■ これだけの複数タンク火災が起これば、消火活動は困難である。消火戦略としては、消極的戦略として延焼防止の土盛り堤構築を行い、燃え尽きさせようというのは妥当な判断だっただろう。興味深いのは、機関銃でタンク側板に穴を開けて爆発する前に油を抜く判断を行ったことである。今から考えれば、かなり荒っぽい方法ではある。しかし、当時の発災現場は大混乱していたと思われるが、消火戦略上の「敵」を明確にして対応しようとしたことはうかがえる。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
 ・Pophistorydig.com , “Inferno at Whiting” Standard Oil: 1955,  August  27,  2015 
 ・Chicagotribune.com ,  1955 Standard Oil refinery blast sounded like ‘end of the world‘ ,  August  27,  2015


後 記: さすがに記録好きの米国だと感じる資料です。しかし、日本にも、この事例に関する記述が残っていました。「渋沢社史データベース」の「日本石油㈱ 日本石油史:創立70周年記念」の中で、昭和30年(1955年)8月に「アメリカ、インディアナ・スタンダード石油ホワイティング製油所の流動式ハイドロフォーマー大爆発、損害1,000万ドル」と記載されています。このあたり、日本石油がスタンダード・オイル社系の会社だったことが分ります。日本石油はJXエネルギーとなり、さらに、この4月から東燃ゼネラルと合併し、JXTGエネルギーとなりました。日本石油は情報公開に積極的な会社で、昭和35年に「石油精製技術便覧」を編纂し、現在ではインターネットで内容を見ることができるようにしています。少し心配なのは、会社が寡占状況になると、情報公開に積極的でなくなります。今年の1月に起きた東燃ゼネラル和歌山工場の事故原因について報告書が公開されなくなるのではないかと懸念しています。老婆心であればよいのですがね。

2017年4月15日土曜日

ベルギーで硝酸タンクの漏洩によって全村避難

              硝酸漏洩によって流れる茶褐色のガス   (写真Firedirect.netから引用)
 今回は、2017年3月31日(金)、ベルギーの西フランダース州ゼーフェコーテ村にある肥料工場の硝酸タンクから漏洩事故があり、全村民が避難するという事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ベルギーの西フランダース州(West-Flanders)のゼーフェコーテ村(Zevekote)にある肥料工場である。

■ 発災があったのは、肥料工場にある硝酸タンクである。タンク容量は26KLだった。
                   ベルギーのゼーフェコーテ村付近    (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年3月31日(金)午後5時30分頃、肥料工場の硝酸タンクからの漏洩が始まった。発災時、硝酸は容量26KLタンクの60%まで入っていた。

■ 硝酸が漏洩したことを受けてゼーフェコーテ村に地方災害対応プランが発動された。地元の村長は予防措置として全村民の避難指示を出した。硝酸に触れるとやけど状の損傷を受けるし、硝酸から発するガスは軽度の呼吸困難を起こす要因となる。

■ ゼーフェコーテ村の住民約570人全員が避難した。住民は、突然、家から離れなければならなくなった。ある若い母親は、「すぐにうちを出るよう言われ、少しの猶予もありませんでした。とりあえず要りそうなものを車に運び、家を出ました。赤ん坊のためのボトルを用意するのと、おしめを少し持ってくることくらいしかできませんでした」と語った。

■ さらに、夕刻遅く風向きが変わったため、隣接するシント・ピーテルス・カペル村の住民約300人も避難することになった。

■ ひとりの警官が硝酸のガスを吸ったが、病院で検査を受けた後、帰宅した。

■ 当局は、一晩中、監視のための測定を行った。この結果によると、漏洩は制御下に入っていると判断された。

■ 4月1日(土)の朝の時点で、タンクは空になった。ただ、わずかにまだガスが放出しているという。

■ 技術的専門家が現場に派遣され、タンク漏洩の問題をどのように解決するか検討に入った。分析調査は食品安全機関と環境機関によって進められた。作物や植物への影響も調べられている。現時点では、この地域の動物や野菜を食べることは勧められないし、井戸水も警告の対象である。
(写真はGrenzecho.netから引用)
(写真はT-online.deから引用)
被 害
■ 事故に伴い、住民約870人が避難した。

■ 肥料工場の硝酸タンクに損傷があると見られているが、設備の被災状況は不詳である。硝酸の漏洩損失量は約15KL(タンク容量26KL×60%)である。

< 事故の原因 >
■ 漏洩の要因はタンクに亀裂が入ったためとみられる。事故の原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 硝酸タンクは残留液を排出され、水で洗浄されたが、この作業には化学会社のBASFが支援した。

■ 避難指示が解除された後も、各家庭の住居の換気が行われて、安全が確認されてから住民の帰宅が行われた。最初に帰宅が許可されたのは、4月1日(土)の午後1時である。
(写真は、左:Ketnet.be.、右: M.hln.be. から引用)
      発災タンク(丸印)と漏洩処理状況   (写真はNieuwsblad.beから引用)
                    発災タンク    (写真はDeredactie.be から引用)
補 足
■ 「ベルギー」(Belgium)は、正式にはベルギー王国(Kingdom of Belgium)で、西ヨーロッパに位置する立憲連邦君主制国家で、人口約1,100万人である。首都はブリュッセルである。
 「フランダース州」(Flanders)はベルギーの北西部にあり、人口約115万人の州である。 「ゼーフェコーテ」(Zevekote)はフランダース州の北部にあり、人口約570人の村である。
                ベルギーの位置   (図はGoogleMap から引用)  
■ 「硝酸」(HNO)は、通常、無色~黄色の刺激臭のある強酸の液体で、発煙性が激しい。融点-41℃、沸点86℃で、普通に硝酸というときには、水溶液を指す。98%硝酸の比重は1.50以上、50%硝酸の比重は1.31以上である。肥料、硝酸エステル、ニトロ化合物の原料のほか、液体ロケット燃料の酸化剤として用いられる。
 濃硝酸からは常に硝酸のガスや微粒子あるいは窒素酸化物が発生しており、水や金属などの物質との反応で爆発的に発生する危険性物質である。漏洩時の事故処理に当たっては、保護衣と防毒マスクを着用する必要がある。多量に流出した場合、漏洩した液は土砂等で流れを止め、それに吸着させるか、または安全な場所に導いて、遠くから徐々に注水してある程度希釈した後、消石灰やソーダ灰などで中和して多量の水を用いて洗い流す。 (硝酸の危険性や漏洩時の対応は公益財団法人 日本中毒情報センターの「硝酸」を参照)
 2015年2月、スペインの化学プラントで硝酸による爆発が起き、有毒ガスが大量に大気へ放出されて多くの住民が屋内避難した事例がある。
                  スペインの硝酸爆発事故     (写真はCool3c.comから引用)
所 感
■ 硝酸タンクの事故を紹介するのは、初めてである。石油タンクの事故とは違った怖さがある。漏れた硝酸のガスがいかにも毒々しい茶褐色で一層不気味さを感じる。見方を変えれば、硝酸ガスの汚染エリアがよく分かるともいえる。

■ 発災タンクの仕様は容量(26KL)だけが発表されているが、材質などは不詳である。事故処理状況の写真を見ると、二重殻のような構造であるが、金属製と思われる。従って、ステンレス鋼ではないかとみられる。容量から推測すれば、高さ約4m×直径約2.8mクラスの竪型円筒タンクとみられる。タンクに亀裂があったと報じられており、亀裂の要因としては材質選定ミスまたは溶接不良などが考えられよう。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・News-h24.com,  Whole Village Evacuated as Nitric Acid Leaks Author: CDC,  April  01,  2017   
    ・Hotrecentnews.com,  Belgian Tank with Nitric not Empty,  April  01,  2017 
  ・Firedirect.net,  Belgium – Entire Villiage Evacuated Following Nitric Acid Tank Leak,  April  07,  2017  
    ・Standaard.be, Laatste inwoners Zevekote weer naar huis na lek salpeterzuu,  April  01,  2017
  ・Nieuwsblad.be, Salpeterzuur ontsnapt uit tankwagen, oorzaak lek nog niet bekend,  April  01,  2017


後 記: 石油系の貯蔵タンクの事故の紹介が多いが、今回、ケミカルである硝酸タンクの事故情報を取り上げたのは、「全村避難」という報道に関心を持ったためです。調べてみると、茶褐色の硝酸ガスが漂っている写真が報じられており、石油系タンクとは違ったリスクのあることが分かりました。最近、シリアで化学兵器(サリン)が使われたというニュースと重なるような事例になりました。化学兵器の殺傷力に比べれば、硝酸漏洩の人間への影響力は小さいとはいえ、今回の事故で800名を超す住民が避難することになりました。ケミカルの中には、危険性の高いものがあることを再認識しました。Haz-Mat(ハズマット)隊は必要ですね。


2017年4月8日土曜日

日本におけるタンク内部清掃作業に係る火災事故

 今回は、20062月に危険物保安技術協会がまとめた1975年~2004年の日本におけるタンク内部清掃作業に係る火災事例とともに、2005年以降に起きた3事例を付け加え、13事例の事故概要を紹介します。
< 概 要 >
■  危険物保安技術協会は、日本における屋外タンク貯蔵所のタンク内部清掃作業に係る火災事例を2006年2月に紹介している。タンク内部清掃作業に係る火災は1975年~2004年の30年間に10件の事例が発生している。ここでは、さらに2005年以降に起きた3事例を付け加え、13事例の事故概要をまとめた。

< タンク内部清掃時の火災事例 >
1.コーカー油タンクのスラッジの自然発火事故
 ● 発 生 日; 1977年8月20日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量2,600 KL、スチーム加熱器・保温付き、油種:コーカー油
 ● 発 火 源; スラッジによる自然発火
 ● 人的被害;  死傷者なし
 ● 事故の概要;
  重質油分解プロセスであるコーカー装置に付帯するコーカー油タンク内の油を可能な限り移送した後、スラッジの除去を目的としてハール油(引火点76℃)を48KL投入して、バキュームホースによる抜き取りを行い、作業終了後、タンク下部のマンホールを閉止した。翌朝、作業再開のため、マンホールを開けたところ、白煙が充満しており、まもなく黒煙が上がり、爆発した。 コーカー油スラッジの余熱による自然発火と推定された。

2.灯油タンクの残油抜き取り中の爆発事故
 ● 発 生 日; 1977年9月15日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量10KL、油種:灯油
 ● 発 火 源; 電動ポンプの電気火花
 ● 人的被害;    負傷者2名
 ● 事故の概要;
  灯油タンクの残油を抜き取るため、タンクのマンホールを開け、電動ポンプでドラム缶に移す作業を行っていた。電動ポンプは作業用フォークリフトのバッテリーに接続して、タンク内にポンプの先端を入れ、ドラム缶にロートで移していたところ、電動ポンプの電気火花で灯油の気化ガスに着火し、爆発した。

3.原油タンクの清掃準備中の内部ガス放出時に爆発事故
 ● 発 生 日;  1987年11月30日
 ● タンク仕様;  浮き屋根式タンク、容量3,000KL、油種:原油
 ● 発 火 源;  換気用ファンの電気配線のスパーク
 ● 人的被害;     負傷者なし
 ● 事故の概要;
  原油タンク内の清掃準備において内部のガスを大気放出(拡散)させるため、浮き屋根にあるマンホールを開けて換気用ファンを取り付けた。換気用ファンの電気配線コネクターを接続したところ、突然、タンク内で爆発が起きた。発火の原因は、通電状態のまま三相ケーブルコネクターの接続部位を誤って差し込んだため、マンホール部に設けた換気用ファンの電動機用アースを介して、ファンを仮止めした番線部でスパークしたものとみられる。

4.原油タンクの清掃準備中に内部ガスが流出して爆発
 ● 発 生 日; 1988年12月19日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量99,600KL、油種:原油
 ● 発 火 源; 車両積載形トラッククレーンのマフラーの排気
 ● 人的被害;    負傷者5名
 ● 事故の概要;
  原油タンク内の清掃準備においてタンク側板のマンホールを開けるため、車両積載形トラッククレーン(通称、ユニック車)を使用してマンホールカバーを吊り上げた。このとき、マンホールから流出したガスがトラッククレーンの吸気口から吸い込まれ、エンジン内部で不完全燃焼を生じ、マフラーから排気された高温の燃焼カーボンがマンホール部から流出するガスに引火した。 

5.重油タンクの清掃作業中に溶断工事の火花で火災
 ● 発 生 日; 1991年11月28日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量1,000KL、油種:重油
 ● 発 火 源; 配管の溶断作業による火花
 ● 人的被害;    負傷者なし
 ● 事故の概要;
  重油タンクの内部開放点検にあわせ、貯蔵油種を重油から灯油に変更するため、タンク内外で工事を実施していた。タンク内では、重油スラッジを希釈剤の灯油で溶かして回収していた。タンク外の側板近くでは、スチーム配管の溶断作業を実施していた。溶断によって飛散した火花がタンク内部で使用していた灯油に着火し、タンク内の灯油と重油スラッジが火災となった。

6.重油タンクの清掃作業中に溶接の熱で火災
 ● 発 生 日; 1991年7月2日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量15,000KL、油種:重油
 ● 発 火 源; 計装機器の溶接作業による熱
 ● 人的被害;    負傷者2名
 ● 事故の概要;
  重油タンクの補修のため、タンク内の重油を抜き取り、残油スラッジを除去した後、仕上げ清掃のために灯油を使用して底板上のスラッジ分の拭き取り作業を実施していた。タンク外側では、液面計のフロートガイド板取付けのための補強板の溶接作業を実施していたため、内部に熱が伝わり、灯油の気化ガスに引火して火災となった。タンク本体の破損は無かった。

7.覆土式タンクの清掃作業中に残留ガソリンの火災
 ● 発 生 日; 1992年7月13日
 ● タンク仕様; 覆土式石油地下タンク、容量100KL、油種:ガソリン
 ● 発 火 源; 電気器具の電気火花
 ● 人的被害;    負傷者4名
 ● 事故の概要;
  覆土式ガソリンタンクの清掃のため、タンク内のガソリンを抜き取った後、タンク上部のマンホールを開けて内部ガスの大気放出(拡散)を始めた。並行してタンク内のスラッジを除去するため、内部へ入槽するための側板マンホールを開けたところ、強烈なガソリン臭気が押し寄せてきた。作業員が危険を感じて出口への隧道(トンネル)を通って避難したとき、電気コードリールのコンセント/プラグを破損して、電気火花によって漏れたガソリン気化ガスに引火した。

8.覆土式タンクの残油をバキューム車で抜き取り作業中に爆発・火災
 ● 発 生 日; 1993年12月6日
 ● タンク仕様; 覆土式石油地下タンク、容量1,500KL、油種:ジェット燃料
 ● 発 火 源; バキューム車
 ● 人的被害;    死者3名、負傷者2名
 ● 事故の概要;
  覆土式タンクの点検修理のため、タンク内のジェット燃料(JP-4)を移送後、バキューム車を使用して残油を抜き取り中に、突然、タンクが爆発して炎上した。この事故に伴い、5名の死傷者が出た。

9.重油タンクの清掃作業中に洗浄用ベンゼンの爆発事故
 ● 発 生 日; 1996年1月29日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量500KL、スチーム加熱器・保温付き 油種:重油
 ● 発 火 源; 照明器具の電気火花
 ● 人的被害;    負傷者2名
 ● 事故の概要;
  重油タンクの油抜き取りが終わり、タンクを開放して、内部のスチーム加熱器に付着していた重油留分の洗浄を始めた。洗浄作業はベンゼンをしみ込ませたウェスで油分を拭き取っていた。作業を中断しようと照明器具のコードプラグを抜いたとき、火花が生じ、滞留していたベンゼンの気化ガスに引火して爆発した。

10.ガソリンタンクの清掃作業中にガソリン気化ガスが放出して火災
 ● 発 生 日; 2003年8月29日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量4,609KL、油種:ガソリン
 ● 発 火 源; 工事用電気器具の電気火花
 ● 人的被害;    死者3名、負傷者2名
 ● 事故の概要;
  隣接する2基の固定屋根式タンクを内部浮き屋根式に改造する計画を実施していた。1基のタンクは清掃作業の段階で、もう1基のタンクは内部浮き屋根の組立段階だった。清掃作業段階のタンクについて、側板マンホールと屋根マンホールを開放したとき、大量のガソリンの気化ガスが側板マンホールから流出した。このため、工事中の隣接タンク側に設置していたガス警報器が作動した。工事中の作業員が退避するときに、作業用電気器具のプラグをコンセントから抜いた際に出た火花によってガソリンの気化ガスに引火して火災となった。この事故に伴い、5名の死傷者が出た。

11.原油タンクの清掃作業中に原油スラッジの軽質油気化ガスによる火災
 ● 発 生 日; 2006年1月17日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量約90,000KLクラス、油種:原油
 ● 発 火 源; 清掃作業時の機工具類などによる何らかの着火源(特定できず)
 ● 人的被害;    死者5名、負傷者2名
 ● 事故の概要;
  当日の朝、タンク内の可燃性ガス濃度と酸素濃度を測定し、入槽許可基準値の範囲内であることが確認され、タンク清掃工事の下請け会社の作業員がエアラインマスクを装着してタンク内へ入槽し、清掃作業に着手した。タンク内に残った原油スラッジを希釈用の軽油で溶かしながら、仮設ポンプで外部に排出する作業が行われた。午後の作業時に投光器が倒れた直後、タンク内の原油スラッジ中の軽質油分の気化ガスに引火し、火災となった。発火源は投光器による可能性が大きかったが、検証結果で特定できなかった。
 (当該事故の詳細は「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」を参照)

12.原油タンクの清掃作業中、浮き屋根の出入口を開けたところ、火災発生
 ● 発 生 日; 2016年6月24日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量48,000KL 、油種:原油
 ● 発 火 源; 不詳
 ● 人的被害;    負傷者なし
 ● 事故の概要;
  発災当時、原油タンクは清掃工事のため、内部の原油を抜く作業が行われていた。浮き屋根上で安全確認をしていた作業員が出入口を開けたところ、黒煙が上がって火災が発生した。

13.清掃中の原油タンクでスラッジの硫化鉄による自然発火
 ● 発 生 日; 2017年1月18日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量100,000KL、油種:原油
 ● 発 火 源; 原油スラッジ中の硫化鉄による自然発火
 ● 人的被害;    負傷者なし
 ● 事故の概要;
  前年11月から内部の原油を抜いて清掃中だったタンクで、内部に人のいない早朝の時間帯に火災が発生した。内部に油は無かったが、原油のスラッジが集積(幅約6m×長さ約20m、高さ0.6~1.6m)されて残っており、スラッジ中に生成した硫化鉄の自然発火による可能性が高いとみられる。

所 感
■ タンク内部清掃作業中の火災事故を油種別に見てみると、「原油」が最も多く、約4割を占める。しかも、2000年以降に起きた4件の事故のうち3件が「原油」である。この原油タンクにおける内部清掃作業時の事故の傾向を断ち切る必要があろう。
タンク内部清掃作業中の火災の要因
■ 一方、総括的に見ると、「ガソリン」でも「重油」でも起こっており、軽質・重質の油種に関係なく、タンク開放時の清掃段階では、火災のリスクが内在しているといえよう。

■ 発火源別に見てみると、「電気火花」が約4割を占め、電気機器を使用する際の危険性を物語っている。
しかし、「車両」や「溶接・溶断」といった常識的に危険性のあることが分かっているはずの発火源が要因として出ているのは、“大丈夫だろう” という予断や危険予知不足が根底にあると思われる。

■ 発火源として「自然発火」が意外に多いと感じる。原油などスラッジの中で硫化鉄が生成する可能性のある油種では、留意する必要がある。これは、タンク底だけでなく、屋根の部材やマンホール部に生成する可能性がないか過去の知見を確認しておく必要があろう。

備 考
 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
  ・Khk-syoubou.or.jp, 屋外タンク貯蔵所の内部清掃作業に係る火災事例(昭和50年~平成16年) ,  February  03, 2006  
    ・Sozogaku.com,   自衛隊覆土式地下石油タンクの大気開放時の火災 
    ・Tank-accident.blogspot.jp,  エクソンモービル名古屋油槽所の工事中タンクの火災事故,  April 15, 2016
  ・Tank-accident.blogspot.jp, 太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故,  March 11, 2017
  ・Tank-accident.blogspot.jp, JXエネルギー根岸製油所で浮き屋根式タンクから出火,  July 25, 2016
    ・Tank-accident.blogspot.jp, 東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因(中間報告),  March 15, 2017


後 記: 危険物保安技術協会から2006年2月に出された資料は、 2006年1月に発生した「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」に鑑みて広く参考にしてもらいたいという主旨で出されたものです。それから10年間、タンク開放清掃作業中の火災事故に接することはありませんでした。ところが、昨年の2016年から今年の2017年にかけて2件の事故が続きました。 そういうことで、危険物保安技術協会の資料を改めて紹介することとしました。まとめるに当たって、その後の事故を追加するとともに、表だったものを個々の事例紹介の形にしてみました。また、文章の用語はできる限り統一化し、分かりやすくするために補足的な言葉を入れてまとめました。