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2018年9月28日金曜日

米国ジェファーソン郡の化学工場でタンクからスチレン漏洩

 今回は、2018年8月22日(土)、米国テキサス州ジェファーソン郡ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場でスチレンが漏れた事故を紹介します。
ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson County)ポート・ネチズ(Port Neches)にあるライオン・エラストマー社(Lion Elastomers )の化学工場である。

■ 発災があったのは、ポート・ネチズにある化学工場のタンク施設である。
ライオン・エラストマー社の化学工場南端にある横型タンク群
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月22日(土)午後9時頃、ポート・ネチズのライオン・エラストマー社の施設でスチレンが漏れる事故があった。

■ 住民は、22日(土)の夜遅く、なじみの薄い臭いが近隣に広がっていったことに話題となった。住民のひとりは、「最初、暴走族が蚊とりスプレーを撒き散らしていったと思っていたが、臭いは消えず、だんだん強くなっていった」と話した。別な住民は、「私たちは、ここから避難すべきなのか、ひどい状態なのか知らされていなかった。とにかく、かなり強い臭いだった」と語った。

■ スチレンの臭いは強烈で、わずかな量でも住民はたじろいでしまう。住民のひとりは、「私には喘息気味の男の子がいるのですが、臭いがひどくて、外に出たがりません」と話している。

■ 臭いは近くにあるライオン・エラストマー社の工場の方から漂っていた。ライオン・エラストマー社は、ポート・ネチズ消防署へスチレンの漏れがあったことを報告した。

■ 消防署は、しばらく近隣地区に強い臭いが残るかもしれないが、化学物質の濃度としては危険レベルをかなり下回っていると話している。消防署は「外に居ても安全である」と発表した。消防署の推定によると、化学物質の能力から周辺地区では漏洩による臭いを感じることができるだろうという。スチレンの臭いしきい値(嗅覚しきい値)は0.016ppmで、極めて少量でも強い臭いを感じるという。

■ ライオン・エラストマー社の広報担当は、漏洩はわずかな時間だけで、漏れ量はわずかだといい、漏洩したスチレンは有害な量ではないと語った。広報担当は、工場の南端にあるタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったと語った。

■ 22日(土)夜のスチレン濃度は5ppm以下と報告されており、危険レベル以下である。米国環境保護庁(EPM)によると、ほとんどの人が一時的な副作用を訴える前に1時間曝露できる最大の大気中濃度は5.04ppmである。米国安全衛生労働局(OSHA)によると、作業環境におけるスチレンの許容濃度は、8時間の平均で100ppmである。

被 害
■ スチレンが漏洩して、周辺住民から臭気のクレームが出た。
■ 事故に伴う健康への被害者はいなかった。 

< 事故の原因 >
■ 工場のタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になった。
 漏洩に至った詳しい原因はわからない。

 < 対 応 >
■ ライオン・エラストマー社は、人的な被害はないが、大気を監視している。 22日(土)夜の事故発生時からすると、空気中のスチレン濃度は下がり続けているという。

補 足
米国およびテキサス州(Texas)の位置 (日本の広さと比較したもの)
(図は123ohmygod.seesaa.netから引用)
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国の南部のメキシコ湾に面しており、人口約2,800万人の州である。州都はオースティン である。
 「ジェファーソン郡」(Jefferson County)は、テキサス州の南東部に位置し、人口約25万人の郡である。郡都はボーモント(人口約12万人)である。
 「ポート・ネチズ」(Port Neches)は、ジェファーソン郡の東部にあり、人口約13,000人の町である。
テキサス州のジェファーソン郡(赤枠)の位置
(図はGoogleMapから引用)
■ 「ライオン・エラストマー社」(Lion Elastomers LLC)は、1943年に設立された化学会社で、EPDM(エチレンプロピレンゴム)やSBR(スチレン・ブタジエンゴム)などの合成ゴム製品を製造している。同社はポート・ネチズを本拠にしており、以前はアシュランド・エラストマー社(Ashland Elastomers LLC)として知られていたが、2014年にライオン・コポリマー社(Lion Copolymer)に買収され、現在は同社の子会社として活動している。

■ 「スチレン」(Styrene)は、無色または黄色液体で、芳香性が強く、比重が0.9の石油系液体である。工業的には、エチルベンゼンを鉄触媒等で脱水素して製造され、スチレンモノマーなどとも呼ばれる。引火点32℃、沸点145℃で、高濃度の蒸気は麻酔作用があり,多発性神経炎を起こす。日本における管理濃度は20ppmである。スチレンの臭いしきい値(嗅覚しきい値)について報道では、0.016ppmとあるが、日本では0.035ppmというデータもある。

■ ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場の施設内容は分からない。工場の南端にあるタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったと言われているが、確かに工場南には、「横型タンク群」がある。しかし、どのようなプロセスでスチレンが漏洩したかは分からない。 
ライオン・エラストマー社の化学工場南にある横型タンク群
(写真はGoogleMapストリートビューから引用)
所 感
■ 今回の事故は直接的な健康被害者が出ることなく、臭気クレームだけで終わった。漏洩量はわずかだというが、スチレンの臭いがいかに強烈かを物語る事故である。施設内のスチレンなどの臭気などの知識(どのような臭いがするか)はあっても、化学工場から漏洩した場合、大きな環境問題になりうることを示す事例といえる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・12newsnow.com,  Chemical  Leak at Port Neches Plant Last Night not Considered Dangerous, Officials Said,  September  23,  2018
    ・12newsnow.com,  Port Neches Residents Concerned about Plant Leak,  September  23,  2018
    ・Hazmatnation.com,  Styrene Peak “Below Dangerous Levels”,  September  23,  2018
    ・Isssource.com, TX Plant Chemical Reaction Causes Leak,  September  25,  2018



後 記: スチレン漏洩のニュースで、タンクからの漏洩らしいということなので、調べてみました。しかし、タンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったという以外に詳細な情報は得られませんでした。臭いだけの問題なので、消防署は手のつけようもなく、ハズマット隊は忙しかったのかも知れませんが、一般の消防士の活動の場は無かったようです。しかし、考えれば、臭気クレームだけのローカル・ニュースでも、地球の裏側の日本にまで届く時代なのですね。

2018年9月16日日曜日

北海道電力・苫東厚真発電所の胆振東部地震による損傷


 今回は、貯蔵タンク事故ではありませんが、 201896日(木)、北海道厚真町で震度7の揺れを記録した北海道胆振東部地震において、北海道全域で停電に至るきっかけになった北海道電力の苫東厚真発電所の地震による損傷事故について紹介します。
写真はhokkaido-np.co.jpから引用)
< 事故施設の概要 >

■ 事故があったのは、北海道勇払郡厚真町(あつま・ちょう)にある北海道電力の苫東厚真発電所(とまとうあつま)である。苫東厚真発電所は石炭火力発電所で1980年に運転を開始した。総発電能力は165万kWで、1号機35万kW(1980年運転開始)、2号機60万kW(1985年運転開始)、4号機70万kW(2002年運転開始)である。

■ 事故があったのは、発電所施設の1号機から4号機の3機すべてである。
事故のあった厚真町の苫東厚真発電所周辺(矢印が発電所)
(写真はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
北海道胆振東部地震
(図はLivedoor.comから引用)
■  2018年9月6日(木)午前3時8分頃、北海道胆振東部地震が発生し、厚真町で震度7の揺れが起こった。震源は胆振(いぶり)地方中東部、深さ37km、マグニチュード6.7だった。

■ この地震によって、厚真町で大規模な崖崩れが広範囲で発生して多数の住宅が巻き込まれるなどの被害が出て、全道で41名の死者が出た。

■ 苫東厚真発電所では、地震によって全機が緊急停止した。これによって、北海道内の電力の発電量と使用量のバランスが急激に崩れて周波数が乱れ、この影響による機器の故障を避けるために当時稼働していたほかの火力発電所も自動停止し、道内の離島を除く全域にあたる295万戸で停電、いわゆる「ブラックアウト」が起こった。

北海道電力の主な発電所と送電線
(図はHokkaido-np-.comから引用)
■ 地震発生時に苫東厚真火力発電所では、3基の発電機が動いており、合計出力は165万kWで、地震発生時の需要(310万kW)のほぼ半分を1箇所の発電所が担っていた。一方、地震発生時に運転していた火力発電所は6基で、砂川発電所など別の火力発電所の6基はバックアップ用で運転待機中だった。しかし、これらが全てすぐに稼働できたとしても、発電能力は約92万kWであり、苫東厚真発電所の3基分の出力を補うことはできなかった。

■ 9月6日(木)午前9時過ぎ、苫東厚真発電所の4号機の蒸気タービン付近から出火した。火災は午前10時15分に鎮火した。

■ 北海道電力は、苫東厚真火力発電所以外の停止した発電所を立ち上げるとともに、新たに各地の発電所の運転を始めた。9月7日(金)夕方時点で運転を始めた火力発電所は9箇所、水力発電所は47箇所である。火力発電所では、発電を始めていった順に砂川3号機(12.5万kW)、奈井江2号機(17.5万kW)、砂川4号機(12.5万kW)、森(2.5万kW)、知内1号機(35万kW)、奈井江1号機(17.5万kW)、音別2号機(7.4万kW)、伊達1号機(35万kW)、伊達2号機(35万kW)である。 47箇所の水力発電所の出力は計29.3万kWである。このほか北海道電力以外の火力発電所からの供給が3箇所(10.1万kW)、水力発電所が19箇所(11.1万kW)であった。

■ 9月8日(土)、北海道電力は電力供給を午後8時時点でピーク需要の9割を満たす350万kWを確保した。 北海道電力は、週明け10日以降の計画停電を回避するため、節電を全道に呼びかけた。節電に加えて水力発電所を新たに稼働、他社の自家発電設備からの電力供給を合わせて十分な供給力を確保できると判断し、9月9日(日)、10日(月)両日は計画停電を行わずに済むとの見通しを示した。

■ 9月8日(日)、北海道電力の社長が記者会見を開き、苫東厚真火力発電所の復旧に「1週間以上を要する」と明らかにした。1、2号機で蒸気配管、4号機でタービンが損傷し、地震からほぼ3日たっても高温で立ち入れない箇所があるという。

地震発生からの動き
(表はAsahi.comから引用)
■ 9月10日(月)、「ブラックアウト」は、苫東厚真火力発電所の1号機(出力35万kW)が、地震発生から約17分後に停止したのが引き金だったことが分かった。地震発生直後の6日(木)午前3時8分頃、2号機と4号機が地震で緊急停止したが、1号機は稼働を続けていた。電力は需要と供給のバランスが崩れると、周波数が乱れて発電機が損傷する恐れがある。このため、北海道電力は、失われた供給分(約130万kW)に見合うように一部の地域を強制的に停電させて需要を落としバランスの維持を試みた。
 しかし、地震発生から約17分後の午前3時25分頃に何らかの原因で1号機が緊急停止した。強制停電による需給バランスの維持が間に合わなかったとみられ、1分以内に知内、伊達、奈井江の三つの発電所が発電機の損傷を防ぐため自動的に停止し、北海道電力のすべての発電所が停止するブラックアウトとなった。

■ 9月12日(水)、苫東厚真発電所の周辺道路や石炭置き場など発電所敷地内の数箇所で、砂が噴き出す地盤の液状化とみられる痕跡があることがわかった。敷地内の道路の一部などは液状化により、陥没していた。北海道電力は、「復旧作業に影響があるものではない。必要に応じて補修を行っていく」としている。ヘリコプターで上空から観察した北海道大の渡部教授(地盤工学)は、「発電所周辺の海沿いでは、至る所で砂が噴き出していた。建屋近くでも、少なくとも2箇所は痕跡が確認できた。ただ、今回見る限りでは、発電所の建物に直接影響している可能性は少ないのではないか」と話している。
苫東厚真発電所内の液状化痕跡 (白い部分)
(写真はAsahi.comから引用)
被 害
■ 北海道胆振東部地震による死者は41名、負傷者681名である。

■ 住宅の被害は、全壊64棟、半壊57棟、一部破損72棟である。このほか、土砂崩れ、液状化、インフラ・農業・産業への影響があるが、損害額は分かっていない。

■ 苫東厚真発電所では、地震による死傷者は出なかった。
 発電所のボイラーおよび蒸気タービンに損傷が出たが、損害額は分かっていない。 

< 事故の原因 >
■ 苫東厚真発電所の事故原因は、地震の揺れのよるボイラーまたは蒸気タービンが損傷し、緊急停止したことによる。

< 対 応 >
■ 経済産業大臣は、9月6日(木)地震直後の朝の記者会見で、北海道電力に対して数時間以内に復旧のめどを立てるよう、北海道電力に指示した。しかし、6日(木)の昼前、苫東厚真発電所の損傷が次第に分かってきたため、復旧に少なくとも1週間程度かかるという見通しに変わった。

■ 9月11日(火)、 北海道電力は、これまで「1週間以上」と説明していたが、復旧時期が大幅にずれこみ、全面復旧が11月以降になるとの見通しを示した。復旧が遅れる理由について「点検が進むにつれ、損傷していた場所が多く見つかっている」という。

■ 9月11日(火)、北海道電力はこれまでに分かった苫東厚真発電所の損傷状況を公表した。
(1) 1号機
 ● ボイラーの内部点検の結果、ボイラー管2本の損傷を確認した。
 ● 損傷管は取替を実施する。その後に健全性確認のため、水圧試験を実施予定。(9月16日の週)
 ● タービン設備については、現時点、運転再開に影響する損傷は確認していない。
 ● 復旧は9月末以降の予定である。
苫東厚真発電所の損傷の部位
(写真はHepco.co.jpから引用)
1号機のボイラー管の損傷 (ボイラー上部)
(写真はHepco.co.jpから引用)
() 2号機
 ●  ボイラーの内部点検の結果、ボイラー管11本の損傷を確認した。
 ● 損傷管は取替を実施する。その後に健全性確認のため水圧試験を実施予定。(9月16日の週)
 ● タービン設備については、現時点、運転再開に影響する損傷は確認していない。
 ● 復旧は10月中旬以降の予定である。1号機より2号機の方が損傷を受けた管の数が多い分、復旧には時間がかかる見込みである。
2号機のボイラー管の損傷
(写真はHepco.co.jpから引用)
() 4号機
 ● 冷却を継続していたボイラー本体は、9月10日(月)から内部点検を開始し、今のところ運転再開に影響する損傷は確認していない。
 ● 点検後、健全性確認のため水圧試験を実施予定。(9月16日の週)
 ● 4号機のタービンは内部の温度がまだ90℃あり、作業員が入れないため、内部の冷却が終わり次第、16日以降に点検を始める。
 ● タービンを分解し、損傷部分を修理・交換するなどして組み立て直す必要があり、1、2号機よりさらに時間が必要になる。
 ● 復旧は11月以降の予定である。 
4号機のタービン出火時の状況
(写真はHepco.co.jpから引用)
タービンの開放時の例(過去の例)
(写真はHepco.co.jpから引用)
■ 911日(火)、需給逼迫に伴う節電要請が続く北海道電力エリアで、高圧系統に接続された太陽光、風力が本格的に運用を再開した。これまでは蓄電池と組み合わせて運用できる設備を連系対象としてきたが、供給力の積み増しにより、北海道本州間連系設備(北本連系設備)に生じた余力を調整力として活用できるようになったことから、接続可能量が大幅に増加した。11日(火)正午時点で連系済みとなった風力は10箇所で約18万kW、午後5時時点で18箇所で約29万kWとなった。これまでは系統側に設置された大型蓄電池で調整できる約10万kWのみを連系対象としていたが、北本連系線に一定の空き容量ができたことから、他の風力も活用できるようになった。

■ 9月11日(火)、北海道電力は、電力の安定供給作業のため、各電力会社から支援を受けていると発表した。支援しているのは、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力で、合計約700名の社員と約150台の移動発電機車が北海道に派遣されている。
各電力会社からの支援
(写真はTwitter.comから引用)
■ 911日(火)、北海道全停電に対する北海道電力の対応への非難が出てきている中、北海道知事は記者会見で、北海道電力の対応について「今段階で過去にさかのぼってうんぬんと言うつもりは全くない」と述べ、評価に言及しなかった。知事は「北海道電力関係の方々は士気高く、北海道の危機的状況を乗り切るため、睡眠時間も抑えながら頑張っている」と指摘し、その上で「まずは道民それぞれの立場で総力を挙げて乗り切る。その後に検証し、同じような災害に備えるプロセスが重要だ」と強調した。

北海道電力の再稼働スケジュール
(図はHokkaido-np.co.jpから引用)
■ 9月13日(木)、北海道電力京極発電所1号機(揚水、20万kW)の運転が再開され、14日(金)には2号機(同)が運転を再開し、需給状況が大幅に改善し、計画停電が回避される可能性が高くなった。京極1、2号機が再開することで、供給力は393万kWにまで増え、これまで基準としてきた地震前のピーク需要383万kW(9月5日午後7時)を上回ることになる。

■ 北海道電力では、電力の安定供給対策として、つぎの計画を進めていた。
 ● 同社初の液化天然ガス(LNG)火力である石狩湾新港発電所1号機(56万9,400kW)を建設中で、10月に総合試運転を始める予定で、2019年2月の営業運転開始を目指している。
 ● 北海道-本州の連系線の増強。北本連系設備の容量は現在60万kWであるが、別ルートで30万kWの増強工事中である。2019年3月に運用開始予定である。
 しかし、これらの対策は今回の地震には間に合わなかった。

補 足
■ 「厚真町」(あつま・ちょう)は、北海道南部に位置し、胆振(いぶり)総合振興局管内の勇払郡(ゆうふつ・ぐん)にあり、人口約4,800人の町である。海側の地区は苫小牧東部工業地域に続く地域として1980年以降開発が進み、苫小牧市との境に苫小牧東港が作られたほか、道内最大規模の北海道電力の苫東厚真発電所や石油備蓄基地(国家・民間備蓄量は国内最大)がある。
北海道電力・苫東厚真発電所と石油備蓄基地 
(写真はTaku-kankou.comから引用)
■ 「北海道電力」は、1951年に設立された北海道を営業地域とする電力会社である。従業員は約8,000人である。発電所は火力・水力などを含めて70箇所、総出力780万kWを有する。
北海道電力の保有発電所
(表はAmeblo.jpから引用)
■ 「苫東厚真発電所」は、1980年に1号機が運転を開始して以降、4号機まで建設された。3号機は商用としては世界初の加圧流動床複合発電方式を採用し、高い熱効率と低環境負荷が期待されたが、配管の摩耗や損傷などによるトラブルが多発して稼働率が上がらず、多額の補修費が問題となり、2005年に廃止された。4号機も加圧流動床複合発電方式で35kWでの計画だったが、3号機の運転が不良だったために、4号機は従来型の70kWに計画変更を行った。この4号機は、発電効率向上のため、主蒸気温度および再熱蒸気温度600℃、主蒸気圧力25.0MPaとした北海道電力初の超々臨海圧のボイラーと蒸気タービンを採用している。

■ 「平成30年北海道胆振東部地震」は、防災科学技術研究所の推定震度分布(速報)によると、北海道苫東厚真発電所のある場所の震度は6.2~6.4(震度6強)だったとみられる。また、今回の観測点で最大加速度は追分観測点で1,796galだった。追分観測点は苫東厚真発電所から見れば約50kmとやや離れているが、発電所に近い早来観測点(約17km)で716gal、むかわ観測点(約11km)で662galを記録している。発電所構内では、少なくとも600~700galを超えていたものと思われる。
 なお、危険物を扱うプロセス装置では、地震検知による自動停止機能を組み込むが、火力発電所は、一般的に地震検知による自動停止機能はない。(原子力発電所では、「地震加速度大(120gal)」で停止する)
北海道胆振東部地震の防災科学技術研究所による推定震度分布 (矢印が苫東厚真発電所)
(図はhinet.bosai.go.jpから引用
所 感 
■ 今回の苫東厚真発電所の事故原因は、地震の揺れのよるボイラーまたは蒸気タービンが損傷し、緊急停止したことによる。北海道電力はこのことを認識してオープンにすればよいが、情報公開の量・質ともに少ない。そのような中で、推測と疑問について述べる。

 ● ブラックアウトまでの17分間の理由は、1号機と2号機の損傷程度の差異だと思う。ボイラー管11本が破損した2号機はボイラーの蒸気が急激に低下し、自動停止したものではないかと思う。一方、1号機のボイラー管の損傷が2本と少なく、且つ予熱系であったため、蒸気タービンへの供給蒸気がある程度保たれたので、自動停止までに時間がかかったのではないだろうか。

 ● 火力発電所は、危険物を取り扱うプロセス装置と異なり、地震検知による自動停止機能が組み込まれていない。1号機と2号機が自動停止した検知機能(蒸気圧低下、燃料供給圧低下、運転員の判断など)を北海道電力は公表すべきである。

 ● 一方、4号機はボイラー管には運転再開に影響する損傷を確認していないという。蒸気タービンから出火したというが、これは地震発生後、6時間を経過したのちである。蒸気タービンには振動が大きくなったことによる自動停止機能がついている。振動大で自動停止したとすれば、なぜ4号機だけなのかという疑問が出る。4号機の自動停止した検知機能を公表すべきである。

 ● 4号機の出火要因についても疑問が残る。もっとも可能性があるとすれば、潤滑油系統の漏れがある。4号機は主蒸気温度が600℃で主蒸気圧力25.0MPaの超々臨海圧のボイラーと蒸気タービンである。この型式と関係があるのかもしれない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Nikkei.com,  苫東厚真発電所の復旧、北電社長「1週間以上要する」 ,  September  08,  2018
    ・Denkishimbun.com,  北海道電力、苫東厚真の点検急ぐ/復旧時期は「損傷次第」,  September  11,  2018
    ・Asahi.com,苫東厚真発電所、全面復旧は11月以降 配管損傷や出火,  September  12,  2018
    ・Nhk.or.jp ,  北海道の停電「数時間以内に復旧のめどを」指示 経産省,  September  06,  2018
    ・ Hepco.co.jp , 設備および停電等の状況について(9 月 7 日 15 時現在),  September  07,  2018
    ・Hepco.co.jp,   北海道胆振東部地震により被害を受けた 苫東厚真発電所の点検結果と復旧見通しについて,  September  11,  2018
    ・Denkishimbun.com,   震度7の地震により北海道全域で停電。主力電源が緊急停止,  September  10,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 火発長期停止、備えなし 想定訓練一度もなく 苫東厚真からブラックアウト,  September  08,  2018
    ・Denkishimbun.com,  再エネ運用が本格化/北本連系余力を調整力に,  September  11,  2018
    ・Denkishimbun.com,  京極1、2が順次再開へ/計画停電は回避の方向,  September  13,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 北電の対応「今段階でうんぬんせず」と知事,  September  11,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 震源域に最大火発 停止次々、全道に連鎖 「想定せず」遅れた対処,  September  07,  2018
    ・Static.jishin.go.jp, 平成 30 年北海道胆振東部地震の評価,  September  06,  2018
    ・Bosai.go.jp, 防災研の災害関連情報(速報) 平成30年北海道胆振東部地震  解析結果,  September  11,  2018
    ・Yomiuri.co.jp, 地震発生17分後、3基目停止でブラックアウト,  September  10,  2018
    ・Yomiuri.co.jp, 主力発電所1号機が停止、1分でブラックアウト,  September  11,  2018
    ・Mainichi.jp, 苫東厚真の火力2基、地震直後に自動停止,  September  11,  2018
    ・Asahi.com , 苫東厚真火力発電所、敷地内で液状化 北電が認める ,  September  13,  2018
    ・Asahi.com , ブラックアウト、空白の17分 需給バランス再び崩れる 北海道地震,  September  13,  2018
    ・Sankei.com , ブラックアウト、苫東厚真火力の「一本足打法」あだに,  September  13,  2018
    ・Fdma.go.jp , 平成30年北海道胆振 東部地震による被害及び 消防機関等の対応状況(第25報),  September  14,  2018



後 記: 今回の事故を調べていて感じたことは、日毎にメディアの北海道電力に対する印象が悪くなっていることです。確かに情報公開がオープンでなく、何かを隠しているのではないかと思わせます。そのような中で北海道知事は、「今段階で過去にさかのぼってうんぬんと言うつもりは全くない。北海道電力関係の方々は士気高く、北海道の危機的状況を乗り切るため、睡眠時間も抑えながら頑張っている」と述べています。緊急事態対応のときに上に立つ人の態度は泰然自若(たいぜん-じじゃく)でいるべきです。
 北海道電力の情報公開に関するつまずきや消極的な対応のきっかけは、地震直後の経済産業大臣の記者会見で(根拠もなく)「北海道電力に対して数時間以内に復旧のめどを立てるよう指示した」の言葉にあると思います。このようなことを大臣から指示されれば、泰然自若の人でなければ、忖度(そんたく)の方向へ向かうでしょう。とりあえず(根拠もなく)「復旧に少なくとも1週間程度かかる」と言ってしまったのでしょう。この被害を小さくみせるつまずきから、情報公開に消極的な対応になっていったと思います。



2018年9月9日日曜日

テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災

 今回は、2018年8月28日(火)、米国テキサス州ウィチタ郡ウィチタフォールズにあるプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社の原油タンク施設で起こったリムシール火災について紹介します。
(写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国テキサス州(Texas)ウィチタ郡(Wichita)ウィチタフォールズ(Wichita Falls)にあるプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社(Plains All American Pipeline LP)の原油タンク施設である
 ウィチタフォールズは北テキサスの原油配送拠点で、テキサス西部のペルミアン盆地からオクラホマ州クッシングの石油貯蔵ハブまでプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社のパイプラインが走っている。
 
■ 発災があったのは、ウィチタフォールズ東部のハーディング通り2100番地にあるタンク基地の原油タンクで、容量504万ガロン(19,100KL)で高さ約60フィート(18m)の浮き屋根式タンクである。
        ウィチタフォールズのハーディング通り付近  (右端がタンク施設) 
 (写真はGoggleMapから引用)
 プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社のタンク施設 (矢印が発災タンクとみられる) 
 (写真はGoggleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月28日(火)午前7時40分頃、ウィチタフォールズ基地の原油貯蔵タンクで火災が発生した。

■ 火災は屋根シール部から起こったリムシール火災だとみられる。プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、タンクの屋根シールを交換する工事を発注していた。

■ 発災に伴い、ウィチタフォールズ消防署が出動した。

■ タンクの近くにいる住民のひとりは、家への被害や隣人が心配だといい、「どのくらいの量を貯蔵しているか知りませんが、ここには原油がいっぱいあるので、ちょっと怖いですね。風向きが変われば、火の粉が心配です」と語った。 

■ 屋根シールの交換作業中、タンク内の油が火災に巻き込まれた。タンク容量は504万ガロン(19,100KL)であるが、火災発生時に原油がどのくらい入っていたかは発表されていない。多くの作業員が安全な場所に避難した。消防署は、タンクのシール部の交換作業中に、内部の原油に引火したものとみている。

■ 警察は、すぐに発災場所への通行を閉鎖し、周辺の交通規制を実施した。この地区の住民に対して避難の勧告をすることは一度も無かった。大気の空気質は火災が消火されるまで監視された。

■ プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、火災は貯蔵タンク1基に限定されており、行方不明の作業員はいないと語っている。 一方、最初の対応者は現場にいたといい、けが人の有無については語っていない。また、火災による影響についても言及しなかった。

■ 消防隊は泡を使って火災を消火したが、午前10時30分頃、再び燃え出し、タンクから6~8フィート(1.8~2.4m)のところで燃えていた。タンク頂部には手すりのない狭い歩廊しかなく、十分な泡を維持することができなかった。この種の消火用泡を確保するため、ヒューストンやボーモントから泡薬剤の搬送車とともに消防隊が支援で訪れた。消防隊は、爆発の危険性はないと語った。

■ 28日(火)午後1時30分時点で、オンラインのウィチタフォールズ公共交通規制システムを搭載した2台のユニットともに、ウィチタフォールズ消防署の13台の消防機材は現場にいた。午後4時の時点でも、11台の消防機材が現場にいた。交通規制は消火されるまで継続された。

■ 民間人や消防関係者に負傷の報告は無かった。

■ タンクのリムシール火災は、29日(水)の深夜に消火できた。

被 害
■ 容量504万ガロン(19,100KL)の浮き屋根式貯蔵タンク1基の屋根シール部が焼損した。このほかに損傷した部品があるとみられるが、詳細はわからない。

■ タンク内にあった原油が焼失した。燃えた油量はわからない。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >
■ 浮き屋根式貯蔵タンクの屋根シール部の交換作業中に、内部の原油に引火し、リムシール火災になったものとみられる。どのような交換作業を行っていたかはわからない。

< 対 応 >
■ ウィチタフォールズ消防署は、48名の消防士と15台の消防機材を投入した。シェパード空軍基地消防署、ウィチタ警察署、ウィチタ郡保安官事務所が支援に駆けつけた。

■ 8月29日(水)、プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、タンク基地と関連のパイプラインは操業を再開したと発表した。また、消火に携われた方に感謝申し上げるとともに、タンク基地の近隣住民へご心配をおかけしたことをお詫び申しあげますというコメントを出した。

■ 8月30日(木)、パイプラインは1日当たり410,000バレルの流量に回復した。パイプラインの設計流量は1日当たり450,000バレルである。パイプラインの供給停止のニュースが流れたとき、石油関係者の間には、西テキサスの原油物流の弱さを露呈したとみられていた。
(写真はTimesrecordnews.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
                避難してきた人々   (写真はTimesrecordnews.comから引用)
補 足
■  「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,830万人の州で、州都はオースティンである。  「ウィチタ郡」(Wichita)は、テキサス州の北部にあり、人口約13万人の郡である。
「ウィチタフォールズ」(Wichita Falls)は、ウィチタ郡の東部にあり、人口約10万人の郡長所在地の町である。
         テキサス州ウィチタ郡の位置   (写真はGoggleMapから引用)
■ 「プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社」(Plains All American Pipeline. LP) は、1998年に米国で設立された原油・天然ガスの輸送・貯蔵事業を行っているエネルギー会社である。1,000マイル(1,600km)のパイプラインと7,700万バレル(1,200KL)の原油貯蔵能力を有しており、主に北米で事業を展開している。親会社はプレインズ・GP・ホールディング社(Plains GP Holdings. LP)である。

■ 「発災タンク」の容量は19,100KLである。このタンクをグーグルマップで調べてみると、タンク基地の南東端のタンクだとみられる。このタンクの直径は約38mであり、高さを18mとすれば、容量は20,000KL級である。一部のメディアで60フート・タンク(a 60-foot tank)という表現があり、直径でなく、高さ60フィート(18m)と解釈した。発災タンクの写真を見ると、リムシール火災はタンク頂部に近いところで燃えており、内部の原油はほぼ一杯だったとみられる。
             発災したとみられるタンク(右端)   (写真はGoggleMapから引用)
          発災したとみられるタンク(事故前)   (写真はGoggleMapから引用
■ 「リムシール」はタンク側板と浮き屋根(ポンツーン)のシールである。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。シール部の交換を運転中に行うことはない。一方、米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を採用した浮き屋根タンクがある。グーグルマップ写真では、タンク側板側からタンク中央にかけていく筋もの油の流れた跡のようなものが見える。当該タンクがメカニカルシールを使用し、運転中保全を行ったとみられる。
リムシールの種類の例
■ 「リムシール火災」は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、「リング火災」とも呼ばれる。日本では、固定式泡消火設備を設けることになっており、リムシール火災への別な対応方法は考えられていない。海外では、固定式泡消火設備のないのがあり、リムシール火災への対応方法が考えられている。当ブログでリムシール火災について言及した資料を紹介する。

 この資料は、タンク火災事故の消防対応の業務などを行うウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が、2004年9月米国オクラホマ州で起こった落雷によるリムシール火災の消火活動状況について述べたものである。

 この事例は、落雷による浮屋根式タンクのリムシール火災の典型的な事例である。米国では、固定式泡消火設備を設置したタンクは多くないが、このタンクには自動システムの泡消火設備が設置されており、有効に機能した事例である。

 この資料は、「A-CERT」(シンガポール企業緊急対応チーム協会)がまとめた貯蔵タンク火災の消火戦略である。貯蔵タンクの概要を含めて消火戦略について総合的に整理されており、リムシール火災への対応として火災の状況によって、①積極的(オフェンシブ)戦略、②防御的(ディフェンシブ)戦略、③不介入戦略の選択に関する基本的考え方などについてまとめられている。

 この資料は、石油貯蔵タンク施設における消火戦略・戦術について書かれたものである。リムシール火災については固定泡消火設備が設置されていない場合、人による消火活動に頼る必要があり、水を噴霧して防護した上で、消防士が消火泡モニターを携行し、タンク頂部のプラットフォームに昇って対応することなどについて言及されている。

 この資料は、タンク火災の発生頻度、タンク規模による消火の容易性、タンク開放検査の周期など定量的に書かれている。リムシール火災の95%は落雷によって発生しており、リムシールを保有する全タンクの0.16%は使用期間中にリムシール火災に遭うといい、早期に対処するため、タンクリムまわりには監視システムおよび消火システムを設置することを推奨している。 

 この資料は、石油貯蔵タンクの避雷設備について言及されたものであるが、日本ではなじみのない浮き屋根式タンクのシャンツやメカニカルシール(メタルシール)について実験を行い、評価したもので、2010年のAPIタンク会議で発表されたものである。

 この資料は、イタリア化学工学協会の会報に掲載されたもので、タンクの種類、火災の発生要因、事故対応の事前計画などについて書かれたものである。貯蔵タンクの固定泡消火設備は損傷を受けなければ、リムシール火災に対して適切な装置といえるが、貯蔵タンクの事故において火災の前に爆発が起これば、固定泡消火設備は損傷を受ける可能性が高く、火災を抑制することができないので、代替の消火システム(移動式消火設備)を必要だという。

所 感
■ 消防隊の隊員はタンク上部に昇り、よく活動して対応したらしいことは分かる。しかし、リムシール火災の消火戦略・戦術がみえない。消防隊は泡を使って火災を一旦消火したが、約3時間後に再燃してしまった。タンク頂部には手すりのない狭い歩廊しかなく、十分な泡を維持することができなかったという。しかし、リムシール火災では、消火してもタンク側板が熱くなっているので、再燃しやすい。 「燃えているタンク内に油を入れる消火戦術」(2016年1月)によると、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、再燃しないように防油堤内からタンク側板を冷却したという。今回の事故対応の消火活動は詳しく言及されていないので、一概には言えないが、過去の教訓が活かされていないように感じる。

■ 今回の事例では、どのようにして消火できたかわからないが、大量の泡薬剤を手配しているので、タンク側板の階段頂部1箇所からリムシール部に消火泡を投入し、消火と再燃を繰り返しながらも全周に泡を行き渡らせたのではないかと推測する。また、タンクの被災写真によると、火災はタンク全周でなく、ところどころから火の手が上がっており、屋根シールはメカニカルシール(メタルシール)の可能性が高い。これが、16時間余のリムシール火災でも全周火災にならずに済んだともいえよう。
 日本では、固定泡消火設備が設置されているので、リムシール火災については対策はとれている。一方、固定泡消火設備が壊れた場合、対応がうまくとれるだろうかという疑問は残る。大型化学消防車や大型高所放水車によって、手前でタンク側板裏の死角になる部分にうまく泡放射できるだろうか。これは、大容量泡放射砲システムでも同じことである。さらに、大容量泡放射砲システムでは、時間がかかれば大量の水をタンク屋根に供給することになり、浮き屋根の浮力が問題になる。また、フォーム・ログ・シール方式の屋根シールでは、シール(ウレタン)がすぐに燃えてしまい、かなり大きな全周のリムシール火災になる可能性がある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
     ・ Fredirect.net ,   US – Crude Oil Tank Fire Extinguished,  August 31,   2018
     ・Reuters.com, Fire Breaks out at Plains All American Crude Tank near Wichita Falls, Texas,  August 29,   2018
     ・Timesrecordnews.com , Company States Oil Tank Fire Extinguished, Terminal Has Resumed Operation,  August 29,   2018
     ・Oilandgasinvestor.com, Fire Breaks Out At Plains Crude Tank Near Wichita Falls,  August 28,   2018
     ・Newschannel6now.com, Crude oil tank fire extinguished in Wichita Co.,  August 28,   2018
     ・Bicmagazine.com , Fire Breaks out at Plains All American Crude Tank near Wichita Falls, Texas,  August 30,   2018



後 記: 今回の事例を調べていて、過去の事例が活かされていないことを感じました。そのように思っているところに北海道で震度7の地震(北海道胆振東部地震)がありました。このようなブログを書いていると、当然ですが、近くにある製油所や原油タンク備蓄基地の貯蔵タンクは大丈夫だったのだろうかとすぐに思いました。長周期でなく、直下型の短周期の揺れだとみられますので、おそらく無事だと思いましたが、ニュースでは、何も触れられませんでした。2003年十勝沖地震後にあった製油所でのタンク火災事故は、すでに15年を経ており、忘れ去られているのでしょうね。