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2014年11月25日火曜日

米国ワイオミング州で天然ガスタンクの爆発によって死傷者4名

 今回は、2014年9月23日、米国ワイオミング州リンカーン郡ラ・バージにあるEOGリソース社所有の天然ガス生産施設にある貯蔵タンクの爆発によって4名の死傷者が出た事故を紹介します。
(写真はLocaltvkstu.iles.wordpress.com から引用
 <事故の状況> 
■  2014年9月23日(火)、米国ワイオミング州にある天然ガスタンク施設で爆発があり、死傷者の出る事故があった。事故があったのは、ワイオミング州リンカーン郡ラ・バージにあるEOGリソース社(EOG Resources Inc.)所有の天然ガス生産施設にある貯蔵タンクで爆発があり、作業員1名が死亡、3名が負傷した。
                           ワイオミング州ラ・バージ付近    (写真はグーグルマップから引用)
■ 当局によると、ワイオミング州西部で天然ガス貯蔵タンクが爆発して4名の作業員が負傷する事故があったと発表された。リンカーン郡保安事務所広報担当のスティーブン・マリック氏は、グリーンリバーから北西約30マイル(48km)の砂漠にあるタンクをメンテナンス要員によって清掃作業が行われているときに爆発が起こったと語った。

■ タンク所有者であるEOGリソース社(本社:ヒューストン)女性広報担当のケイ・レナードさんは、負傷した3名はソルト・レイク市民病院へ搬送され、1名は診療所で手当てを受けたのち退院したと語った。レナードさんによると、負傷した4名のうち2名はEOGリソース社の従業員で、あとの2名は請負会社の社員だという。
 その後、負傷した1名は重度の火傷のため、ユタ大学病院へ移されたが、23日夜に死亡したと報じられた。被害者は請負会社の社員だとレナードさんは語った。ユタ大学病院は、死亡したのはジャレッド・ロフティスさん(男性35歳)だったことを明らかにした。入院した他のふたりもユタ大学病院火傷治療センターで治療を受けている。このふたりの名前は明らかにされていない。なお、死亡した人を含め、請負会社の二人はヒューズ・エンタープライズ社(Hughes Enterprises Inc.)の従業員である。

■ マリック氏によると、発災後、火は消防隊によってすぐに消されたという。 EOGリソース社広報担当のレナードさんによると、事故はフラッシュ・ファイヤーと呼ばれる現象だったという。天然ガス生産施設には油井1基と小型の貯蔵タンク2基があるという。火災は鎮火し、油井は閉止されているとレナードさんは語った。

■ ワイオミング州労働安全衛生局のインスペクター2名が24日(水)の朝、現地へ立入り、調査を開始した。

■ 今回事故があった天然ガス施設は、グリーンリバーから北西約30マイル(48km) のラ・バージ・ハイウェイ近くの砂漠の中にあり、2014年4月に爆発・火災のあったワイオミング州オパールの天然ガス処理プラントから約15マイル(24km)しか離れていないところである。 

■ 4月に爆発・火災のあったワイオミング州オパールの天然ガス処理プラントはウィリアムズ・カンパニーズ社(Williams Companies Inc.)が所有する施設で、爆発・火災による負傷者は出なかったが、オパールの住民約100人が避難する事態となった。火災は5日間に亘って続いた。

■ この地方は米国内で最も大きな天然ガス生産地区のひとつであり、数多くの油井が点在している。ワイオミング州は石油・天然ガス産業の労働災害事故が多い州となっている。

補 足               
■ 「ワイオミング州」は、米国中西部に位置し、人口約56万人と全米50州の中で最も人口の少ない州である。州は山岳・高原地域で、ロッキー山脈やイエローストーン国立公園がある。
 「リンカーン郡」は、ワイオミング州中西部にあり、人口約18,000人である。
 「ラ・バージ」は、リンカーン郡にあり、人口約550人の町である。オパールはリンカーン郡にあり、人口約100人の町である。「グリーン・リバー」は、ワイオミング州スウィートウォーター郡にある都市で同郡の郡都で、人口は約12,000人である。
■ 「EOGリソース社」(EOG Resources Inc.)は、1999年に設立された米国の独立系石油·天然ガスの探査·生産会社である。旧名エンロン・オイル&ガス社(Enron Oil and Gas)で、テキサス州ヒューストンを本拠地にして米国、カナダなど世界的に展開している。
■ 「フラッシュ・ファイヤー」(Flash Fire)は、可燃性ガス、可燃性または爆発性液体あるいは可燃性粉体と空気の混合気が着火して突然、激しい火災を起こすことをいう。高温、短時間、急速な火炎前面が特徴である。一般には「爆発」という用語で表現するが、消防など専門分野では区別している。 201399日米国ニューハンプシャー州マンチェスター市にあるモービル給油所の地下タンクでフラッシュ・ファイヤーが起こり、工事中の作業員2名が火傷を負う事故が起きている。「米国ニューハンプシャー州の地下タンクでフラッシュ・ファイヤー、2名負傷」を参照。

所 感
■ タンク爆発(フラッシュ・ファイヤー)の原因は、ガス井に通じる配管との切離し(孤立)が不完全だったためだと思われる。 2014年10月30日に起きた「米国ワイオミング州シャイアンでタンク爆発して死者1名」の火災事故の原因は油タンクまわりにおける火気工事管理のミスだと思われると所感で述べたが、今回の事故も同様に工事管理のミスである可能性が高い。

■ ワイオミング州は1990年代から天然ガスの生産が増大してきているが、一方で天然ガス産業における労働災害事故の多い州となっている。米国内でも、この要因として「安全文化の欠如」が指摘されている。おそらく、ワイオミング州の天然ガス産業界は生産優先で、米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」の認識が希薄だと思われる。
                          ワイオミング州における天然ガス田の例      (写真はFlickr.comから引用)
備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
       ・BigStory.ap.org,  4 Injured in Natural Gas Tank Blast in Wyoming, November 23, 2014
       ・Fox13now.com, Explosion Reported at Gas Plant Pumping Station in Wyoming, November 23, 2014
       ・Reuters.com, One Dead after Fire at EOG Resources7 Wyoming Natgas Tank, November 24, 2014  
       ・Trib.com, Officials ID Victim in Fatal Gas Explosion, November 24, 2014
       ・BicMagazine.com, Natural Gas Tank in Wyoming Explodes during Maintenance, November 24, 2014
       ・BillingsGazette.com, 1 Dead Following Wyoming Gas Explosion, November 24, 2014
       ・BigStory.ap.org, Worker Hurt in Wyoming Natural Gas Tank Blast Dies, November 24, 2014
       ・Munufacturing.net, Natural Gas Storage Tank Explosion Injured 4, November 24, 2014
       ・ThinkProgress.org, A Gas Plant Fire Just Killed One Wyoming Worker, November 24, 2014



後 記: 「米国ワイオミング州シャイアンでタンク爆発して死者1名」(2014年10月30日)の事故を調べていて、9月の天然ガス貯蔵タンクの火災事故を知り、紹介することとしました。しかし、今回の報道記事は間接情報(人から伝聞された話)が多く、曖昧さの残る事故情報になりました。発災場所も漠然としており、グーグルマップで探すことを試みましたが、特定できませんでした。というより、諦めました。それはワイオミング州の天然ガス施設が年々変わっている(増加)様子が感じられたからです。9月の火災施設は油井1基とタンク2基から構成されているようですが、標題の写真の中にも同様の施設が写っていますし、グーグルマップでも同じような施設がみられます。最新マップと位置情報がないと、発災場所を特定することは難しいと悟りました。逆にいうと、グーグルマップの写真が追いつかないほどワイオミング州の天然ガス生産(施設)が進んでいるということでしょう。  

2014年11月19日水曜日

カナダのシェル製油所の原油タンク地区で火災

 今回は、2014年11月11日、カナダのオンタリオ州サーニアにあるシェル・カナダ社のサーニア・マニュファクチャリング・センターで、原油タンク地区において火災が発生した事故を紹介します。
 <事故の状況> 
■  2014年11月11日(火)午前11時頃、カナダのオンタリオ州にあるシェル社製油所の石油貯蔵タンク地区で火災事故があった。事故があったのは、オンタリオ州サーニア市コルーニャにあるシェル・カナダ社(Shell Canada Ltd)のサーニア・マニュファクチャリング・センター(Sarnia Manufacturing Centre)で、原油タンク地区において火災が発生した。
              オンタリオ州サーミア市コルーニャ付近  (写真はグーグルマップから引用)
■ シェル・カナダ社広報担当によると、製油所タンク地区の南東隅にある原油タンクで11日午前11時少し前に火災が発生したという。タンクは使用状態でなく、従ってタンク内液は燃えていないという。火災はタンクにおける作業に関連したもので、タンクは運転再開に入ったという。発災後、構内の消防隊によって消火活動が行われた。「消防隊による迅速な対応によって、火災は消えました」と広報担当は語った。セントクレア・タウンシップ消防署へは予防措置として通報され、消防隊が確認のため出動した。「セントクレア・タウンシップ消防署の消防隊は待機していました」と広報担当は語った。

■ 広報担当によると、発災に伴うケガ人は出ておらず、火災の原因は調査中だという。広報担当は、「私どもは境界柵の内外においてモニタリングを実施しましたが、数値的に変化がありませんでした」と語り、事故に伴う環境への影響の兆候が無いことを会社として確認したと付け加えた。

補 足           
■  「カナダ」は、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約3,400万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。
 「オンタリオ州」は、カナダの中東部に位置し、人口約1,360万人とカナダ全人口の約3分の1がこの州に集まっており、カナダの政治経済の中心となっている。州都はカナダ最大の都市トロントで、連邦政府の首都オタワもオンタリオ州にある。
 「サーニア」は、オンタリオ州南西部にあり、人口約71,000人の都市である。五大湖の水系にあたるセント・クレア川に面し、対岸は米国領となる。「コルーニャ」は、サーニア市街地から南約10kmに位置する町である。

■ 「シェル・カナダ社」(Shell Canada Ltd)は、多国籍石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルの子会社で、カナダを本拠地として活動している。
 「サーニア・マニュファクチャリング・センター」(Sarnia Manufacturing Centre) はシェル・コルーニャ製油所ともいわれており、1952年にカナディアン・オイル社(Canadian Oil Companies Ltd)として設立された製油所である。1963年にシェル社に買収され、シェル・カナダ社となった。現在、従業員350名、精製能力75,000バレル/日で操業している。
             シェル・カナダ社サーニア・マニュファクチャリング・センター   (写真はTheObserver.caから引用)
■ 発災場所は「製油所タンク地区の南東隅にある原油タンク」となっており、グーグルマップによると、直径約54mの浮き屋根式タンクと思われる。直径から推測すると、40,000KL級の貯蔵タンクとみられる。
                    シェル・カナダ社コルーニャ製油所のタンク地区   (写真はグーグルマップから引用)
所 感 
■ 報道記事の見出しを見ると、タンク火災の印象を持つが、タンク本体の火災ではないようである。火災時の状況がはっきりしないが、タンクの開放検査が終了して、運転のための準備作業が行われていたときの火災事故ではないかと思われる。
 製油所は1952年に操業を開始し、62年間の経験を有しており、またオペレーターの世代交代時期もかなり以前に終わっているとみられるので、技術不足というより危険予知不足による運転作業ミスあるいは工事片付け作業ミスから火災事故に至ったものではないだろうか。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・TheObserver.ca, Incident under Investigation, November 11 , 2014
  ・UK.Finance.yahoo.com,  Crude Tank Fire at Shell Sarnia Manufacturing Center under Control - Shell, November 11,  2014
  ・FirstEnercastFinancial.com, Royal Dutch Shell Oil-Tank Fire under Control, November 11 , 2014   
  ・BlackBurnNews.com, Shell Tank Farm Fire, November 11 , 2014


後 記: 今回の事故情報はほとんどがシェル・カナダ社の広報担当から発信されたものでした。この情報源の広報担当には二人いて、記事によって若干異なる内容になっており、解釈に悩みました。通常、ブログでは、海外メディアと同様、広報担当者の名前を掲載するのですが、今回はわずらわしくなるので、単に「広報担当」と記載しました。広報担当が違った意見を出したというより、リポーターがタンク操業に詳しくないためかもわかりません。公設消防が構内に入っていますが、火災が消えたあとですので、火災状況についてコメントはできないでしょう。火災時の写真もなく、ぼや程度で典型的なローカルニュース的な事故情報ですが、ブログで紹介することとしてまとめました。

2014年11月15日土曜日

米国ワイオミング州シャイアンでタンク爆発して死者1名

 今回は、2014年10月30日、米国ワイオミング州ララミー郡シャイアンにあるトライ・ステート・オイル・リクレーマー社のタンク施設で爆発があり、作業員1名の死亡する事故を紹介します。
 <事故の状況> 
■  2014年10月30日(木)午前10時過ぎ、米国ワイオミング州にあるタンク施設で爆発があり、作業員1名の死亡する事故があった。事故があったのは、ワイオミング州ララミー郡シャイアン市街地から西約7マイル(11km)のオットー通り沿いにあるトライ・ステート・オイル・リクレーマー社(Tri State Oil Reclaimers  Inc.)のオイル・リサイクル施設で、油タンクが爆発し、溶接中だった作業員が被災した。
                  ワイオミング州シャイアン付近   (写真はグーグルマップから引用)
■ 爆発・火災によって現場から真っ黒い煙が青い空に立ち昇り、数マイル(58km)先からも見えるほどだった。トライ・ステート社の施設の近くに従業員とその家族の住宅がある。両親がトライ・ステート社で働いているサラ・マーティンさんは、「爆発したとき、衝撃を感じたわ。テレビを見ていたんだけど、ベッドが揺れたわ。とても大きくね。すぐに何か悪いことが起ったとわかったわ」と話した。トライ・ステート社従業員のルース・カペンターさんは、「ドーンという音が聞こえ、最初に出た言葉は“オー・マイ・ゴット”でした。ここで10年働いていますが、今度のようなことは初めてです」と語った。

■ 事故発生の第一報は午前10時30分にあり、ただちにララミー郡の消防機関に連絡された。近隣の消防署の消防隊のほか、F.E.ウォーレン空軍基地やシャイアン市の緊急対応部隊が出動した。火災に対し泡消火活動が行われ、午前11時頃に鎮火した。この間、オットー通りは消火活動のために交通遮断された。

■ 当局は、爆発場所への立入り禁止措置をとり、記者や見物人に対して安全な距離をとった。しかし、50ヤード(45m)離れたところからでも、損壊した高さ20フィート(6m)のタンクと部分的に焦げた建設用クレーンが見えた。

■ ワイオミング州労働安全衛生管理局の広報担当ヘイリー・マッキーさんによると、木曜にタンクが爆発した際、亡くなったエルマー・ローマンさん(52歳)は貯蔵タンクの渡り歩廊で溶接作業をしていたという。トライ・ステート社従業員マイケル・ピアースさんは爆発現場から最も近いところで目撃していたが、事故時のショック状態によって病院で診療を受けた。彼の同僚によると、午後には退院したという。

■ ワイオミング州労働安全衛生管理局のマッキーさんは、事故原因を調査中であり、トライ・ステート社に対する職場の安全違反があったかどうかについてコメントできないと語った。

■ 最近、ワイオミング州の油施設では死亡事故が続いている。この9月には、リンカーン郡の天然ガス貯蔵タンクでフラッシュ火災が起こり、死者1名、負傷者3名の事故が発生している。
ワイオミング州シャイアンにあるトライ・ステート・オイル・リクレーマー社の工場
(写真はグーグルマップから引用)
補 足
■ 「ワイオミング州」は、米国中西部に位置し、人口約56万人と全米50州の中で最も人口の少ない州である。州は山岳・高原地域で、ロッキー山脈やイエローストーン国立公園がある。
 「ララミー郡」は、ワイオミング州の南東部にあり、人口約81,000人である。
 「シャイアン」は、ララミー郡の州都で、人口約53,000人の都市である。シャイアンという名はインディアンのシャイアン族からとっている。

■ 「トライ・ステート・オイル・リクレーマー社(Tri State Oil Reclaimers  Inc.)は、1983年に設立されたオイル・リサイクルを行なう会社で、ワイオミング州シャイアンを本拠地にし、シャイアンに工場がある。
ワイオミング州シャイアンにあるトライ・ステート・オイル・リクレーマー社の工場
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
所 感
■ 発災したタンクの大きさや油種はわからないが、爆発の原因は油タンクまわりにおける火気工事管理のミスだと思われる。
 火気工事における事故防止(人身事故)を図ろうと、米国CSB(化学物質安全性委員会)が安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」をまとめている。おそらく、7つの教訓のうちのいずれかに該当するような事故であったろうが、なかなか教訓が活かされない。


備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・KGWN.TV,  Deadly Explosion at Oil Recycling Plant, October 30 , 2014
       ・Trib.com, One Killed, Another Injured in Oil Tank Explosion West of Cheyenne, October 30 , 2014  
   ・WyomingNews.com, Fuel Blast Kills One, October 31 , 2014
         ・WashingtonTimes,com, Welder Killed in Oil Tank Blast near Cheyenne, November 03 , 2014




後 記: 今回のワイオミング州の事故を調べようと思ってインターネット検索していたのですが、情報に混乱しました。あとでわかったことですが、今回の記事最後にあるようにワイオミング州では、9月に天然ガス貯蔵タンク火災の死者1名の事故情報が混在していたのです。米国中西部の広大なワイオミング州ですが、人口はわずか56万人ですから、事故の発生確率はかなり高いといえます。9月の天然ガス貯蔵タンクの火災事故は別途紹介しようかと思いながら、今回の事故情報をまとめました。

2014年11月9日日曜日

石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その2)

 今回は、 「A-CERT」(シンガポール企業緊急対応チーム協会)がまとめた「Storage Tank Fire Fighting Strategies」(貯蔵タンク火災の消火戦略)の中で事例検討として行われた「フェザンのLPGタンクの爆発・火災事故(1966年1月)の資料を紹介します。
(写真はAccidentsoilandgas.blogspot.jpから引用)
< 概 要 >
■ 1966年1月4日、フランスのフェザンにある製油所でLPG球形タンクの爆発・火災事故が起こった。事故は、製油所のオペレーターがLPGタンクのドレン抜出し作業中にバルブが閉止できず、LPGが大量に漏洩して始まった。漏洩したLPGはベーパーとなって分散し、一部が構外の県道を通りかかった乗用車の熱くなったエンジンによって引火した。

■ タンクが破裂してBLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)現象が起き、まわりにあったLPGタンク4基が損壊した。さらにジェット燃料や原油の入った常圧式貯蔵タンクにも延焼し、製油所は大きなダメージを受けた。

■事故の発端は、ドレン弁の操作が適切ではなかったちょっとした人為ミスだった。プラント配置の欠陥、設備の健全性の配慮不足、標準作業手順書の不適切、教育・訓練の不足といったことが、可燃性ガスへの引火、爆発、火災事故の要因となり、場合によっては大きな災害へ至ることがある。今回取り上げた事例は、LPGタンク施設に関する法令改正へ影響を与えた事故だった。

< 事故の状況 >
■ 製油所のオペレーターが、LPG球形タンクのドレン抜出し作業中にバルブを閉止できなくなった。これは排出中にバルブが氷結してしまったからである。このため、大量のLPG(プロパンとみられる)が漏洩した。漏洩して分散したLPGベーパーは、一部がタンクから50~60mのところにある県道を通行中の車によって引火し、爆発を起こした。漏洩のあったタンクを含めて複数のタンクが火災によって損壊した。

■ ドレン抜出し作業とは、LPGに含んでいる重質分を貯蔵中のLPGから分離することである。重質分はタンクや配管などの容器の底部に溜まっていく。当該事例だけでなく、軽質炭化水素やLPGでは、水の凝縮や水の混入はよくある。LPGでは、氷結あるいはハイドレートが生成することは少なくない。
 LPGは、液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas)の略で、LPガスと呼ばれることもある。パラフィン系炭化水素のプロパンやブタンが主であるが、オレフィン系のプロピレンやブテンなども含む。

■ 事故の経緯は「事故の概略経緯表」を参照。タンク地区の配置は図1を参照。

 事故の概略経緯表
日時                         事 象
1月4日
06:30     LPG球形タンクのドレン抜出し作業を開始。
06:45     作業を終了。ドレン弁を閉じようとしたが、バルブを閉止できなかった。
07:05頃    製油所構内の警報が鳴った。おそらくガス検知器によるものとみられる。製油所の消防隊が
         消防車で出動した。ほぼ同時刻に、製油所のそばを通っている高速道路の交通遮断が
         行われた。しかし、並行して通っている県道の交通遮断は行われなかった。
07:30     県道を1台の乗用車が走行した。そのとき爆発が起こり、ほとんど同時に漏洩を
         起こしたタンクが炎に包まれた。
08:45     隣接していたLPG球形タンクが爆発した。
         さらに、LPG球形タンク1基と油タンク1基が火災となった。
1月5日
 ー      発災の翌朝になって火災は収まった。
図1 発災タンク地区の配置
LPG球形タンクのドレン抜出し配管図
(図はAria.developpement-durable.gouv.fr ら引用)
< 事故の原因 >
■ 漏洩の原因はドレン抜出し中に極めて低温になったことによるとみられる。タンクのドレン抜出し作業中にフラッシュ蒸発によってLPGの温度が下がったため、湿分が氷結したものと思われる。このため、球形タンク底部のドレン弁を閉止できなくなったと考えられる。

■ 引火源は県道を走行していた車のエンジンだったとみられる。

■ LPGタンクの爆発は、あとでBLEVEと呼ばれる現象だった。タンク上部の鋼板部分が火炎に曝され、その部分の温度が上昇し、強度が落ちてゆき、最終的に破裂に至った。破裂部から噴出したLPGベーパーが火炎によって引火し、爆発を起こした。
BLEVE事象へ至る状況
< 事故後の改善策 >
■ バルブの氷結を回避するには、つぎのようにすべきである。
  ① バルブを二重化する。二重化したバルブとバルブの間は適正な長さをとる。
  ② 適切なバルブ操作の教育と訓練を実施する。

■ LPGタンク施設の改善策はつぎのとおりである。
  ① 防液堤を設置し、漏洩したLPGの分散を抑制する。
  ② タンク上部への水噴霧設備を設置し、LPG液レベルより上のタンク・シェルを冷却して壁温が過熱しないようにする。
  ③ タンク支柱を耐火構造とする。
  ④ タンク間に適切な距離をとる。

■ タンクの設置場所は適切な位置とする。特に、公道との距離、人々が集まる公共施設との距離に配慮する。

< 教 訓 >
■ LPGは、火災の危険性のある軽質炭化水素の中でも、最も危険性の高い物質であることがわかった。LPGの危険性が高い理由はつぎのとおりである。
  ① 極めて低い温度でベーパー化し、ガス比重が空気より重いため、地表に沿うように流れていく。
  ② LPGは無色・無臭のため、漏れている状態が極めて確認しずらい。

■ 危険性の高い物資を貯蔵するには、十分に配慮した施設にする必要がある。その上に、安全性を十分に確保した距離をとる必要のあることがわかった。

< 教訓の背景 >
■ 漏洩の原因はバルブ操作のミスだった。ドレン弁は複数になっており、2個設置されていた。LPGがフラッシュすると、蒸発熱によって温度が下がり、氷結あるいはハイドレートの生成が起こる。このため、バルブが閉止できなくなるが、あとで溶けて、タンクからLPGが放出してしまった。
 上流側バルブと下流側バルブは完全に開いていた。両バルブとも低温状態で凍結していたとみられ、閉止することができなかった。二つのバルブは隣接して付いており、第2バルブの低温状態が第1バルブへ伝播する形になった。

■ 製油所構外の道路に関する交通規制が十分でなかった。問題点は二つあり、ひとつは製油所の配置の問題で、LPGタンクの設置されている場所と公道までの距離が50~60mしか無かった点である。もうひとつは、地方自治体と住民間の情報伝達が不十分だったことである。

■ 爆発はBLEVE現象だった。タンク下部の温度はそれほど高くなっていなかった。というのは、タンク下部にはLPGの液が存在しており、火炎から吸収した熱はLPGの蒸発熱として消費された。一方、タンク上部にはLPGの液が無く、火炎に曝されたタンク壁は非常に高い温度になった。このため、鋼製のタンク壁の強度が低下し、タンク内圧に耐え切れず最終的に破裂に至った。被災範囲が広がった要因は、タンク間の距離が十分とられていなかったことにある。

■ 火災は隣接の球形タンク群へ広がった。球形タンクの支柱(脚)は鋼製で、耐火構造ではなかったので、支柱の強度が高温で低下し、タンクは転倒して壊れた。隣接のタンク間距離は短かった。現在ではこのことはよく理解されているが、当時は認識されていなかった。この事故を契機にBLEVEに関する研究が行われるようになった。
(写真は左:Accidentsoilandgas.blogspot.jpおよび右:Tamagozzilla.blogspot.jpから引用)
(写真はAccidentsoilandgas.blogspot.jpから引用)
補 足        
■  「A-CERT」(Association of Company Emergency Response Teams (Singapore):シンガポール企業緊急対応チーム協会)は、シンガポールの企業で異常事態が発生した際に適切な対応が行なうことができるように設立されたCERT(Company Emergency Response Team企業緊急対応チーム)をまとめた団体である。

■ 「フランスのフェザンにある製油所」とは、フランス南部リヨン市(Lyon)の郊外の町フェザン(Feyzin)にあるフランス国立石油会社のエルフ社(Elf:現在のTotal)のフェザン製油所で、精製能力40,000バレル/日で1964年に操業した。

■ 「フェザンLPGタンク爆発火災(1966年)」は、小さな人為ミス(ヒューマンエラー)が巨大な災害をもたらした事故として、またLPGの持つ危険性の大きさを示す事故として世界的によく知られている。この事故では、死者18名、負傷者31名の被災者が出ている。日本で総括的にまとめられたものとしては「フランス フェザンのLPGタンク爆発火災」(小林光夫・田村昌三、失敗知識データベース・失敗百選)がある。

LPGドレンバルブの開閉のイメージ
(図はSozogaku.com ら引用)
■ 防災活動の事例として考える上で、当時の状況について理解しておくべき事項はつぎのとおりである。
 ① ドレン抜出し配管は呼び径2インチで、バルブは2個直列で二重化されていた。ドレン抜出し作業終了後、第1バルブを閉めようとしたが、全閉にできずにLPGが流出を始めた。(第2バルブの操作については不明) オペレーターは3名いたが、3名はLPGベーパーに包まれ、ふらつきながら現場から離れたという。
 LPGのドレン抜出し配管は氷結を考慮し、通常、2個直列の二重化バルブにされる。ドレン抜出し時は第1バルブを全開にし、下流側の第2バルブ入口側を加圧する。つぎに第2バルブを微開から徐々に開度を開け、流量を調整する。この際、第1バルブを全開にしないで、圧力差をつけると、第1バルブ出口ではぼ大気圧になり、温度降下によって温度低下して氷結するため、このような作業は絶対に行ってはならない。

 ② 隣接する公道の交通遮断を行なったのは、製油所の自衛消防隊(守衛)である。高速道路をすぐ交通遮断しているが、なぜ県道を遮断しなかったかは不明である。なお、当時はLPGタンクと自動車専用道路の距離が50m以上あれば、認められていた。

 ③ LPGタンクは液でなく高圧ガスの貯蔵であり、当時、防油堤は設けなくてよかったので、LPG流出時の拡散を防ぐ防液堤は無かった。

所 感
■ 事例検討はディスカッション形式で行われているが、当該事例には「事例検討のポイント」の記載がなく、議論の内容はわからないが、企業マネジメントとしてドレン抜出し作業や初期対応について話し合われたものと思われる。
 
■ 「消火戦略」の観点からは、圧力タンクの火災は3つの戦略のうち「積極的(オフェンシブ)戦略」をとることはできず、講義で言及されたつぎのような圧力タンク火災に対処するための戦略的思考について確認されたと思われる。
 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。
 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。
 ● 液レベルより上部を冷却する。
 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。
 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。

■ LPG球形タンクの火災事例としては2011年3月11日の東日本大震災時のコスモ石油千葉製油所の事故が記憶に新しい。このブログでも「東日本大震災によるタンク被災(海外報道)」(2011年5月)の中で取り上げた。この爆発・火災事故の消防活動については「東日本大震災時のLPGタンク火災・爆発事故における防災活動」(危険物保安協会機関紙「Safety & Tomorrow」2012年5月)に掲載されている。この資料によると、つぎのような現場における貴重な経験(知見)が示されている。
 ● 消防車による球形タンク冷却散水が可能な場所を決めるため、現場確認をしていたところ、球形タンク安全弁の吹く音と普段聞き慣れない音がするのを確認、爆発のおそれを感じ、全員退避を指示。
 ● 大容量泡放射システムを使用しないことを指示(海上からの冷却散水等により火災を制圧できると判断)
 ● ヤード警戒区域で可燃性ガス濃度が上昇したため、消火活動停止の指示。約40分後、可燃性ガス濃度が低下したため、消火活動再開。
 ● タンクの残液の気化速度をさらに上げ、すべて燃焼させるため、海水散水から温水散水に切り替え。
 ● タンクの残液が少量となったため、燃焼を管理することが難しくなり、消火してのガス拡散へ戦術の変更を決断。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Acerts.org.sg, Storage Tank Fire Fighting Strategies, A-CERTS, September, 2012



   出光徳山製油所FCC装置付近の解体状況20141030日)
後 記: 久しぶりに新幹線に乗る機会がありましたので、出光徳山製油所の解体工事の状況を車窓から眺めてきました。流動接触分解装置(FCC装置)の主要塔槽類はすっかり無くなりました。
 ところが、工場閉鎖の話はこれだけでなく、先日、周南コンビナートの東端にある帝人徳山事業所が2017年3月末に閉鎖するというニュースが発表されました。帝人徳山事業所は、フェザンのLPGタンクの爆発・火災事故(1966年)のあった3年後の1969年に操業を開始し、ポリエステル繊維などを生産していました。事業所のおよそ100名の従業員は、別の工場への配置転換などをして雇用を維持するということです。寂しいことです。しかし、地方創生を掲げている安倍首相選挙区の山口県で逆に流れているのは皮肉なことですね。