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2023年7月25日火曜日

イランの製油所でタンクローリーによるプラント内の石油タンクが火災、負傷8名

 今回は、2023710日(月)、イランのホルモズガーン州バンダル・アッバスにあるアフタブ・オイルリファイニング社のバンダル・アッバス製油所において石油原料を積んだタンクローリーの火災事故をきっかけに製油所の石油タンクに延焼して火災に至った事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イラン(Iran)のホルモズガーン州(Hormozgan)バンダル・アッバス(Bandar Abbas)の工業地帯にあるアフタブ・オイルリファイニング社(Aftab Oil Refining Co.)のバンダル・アッバス製油所である。製油所の精製能力は30万バレル/日である。

■ 事故があったのは、製油所内のプラント内にある石油タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023710日(月)午後3時頃、プラント内にある石油タンクで爆発が発生し、隣接する石油タンクも爆発した。爆発した石油タンク2基は引き続いて火災になった。

■ 発災に伴い、消防隊が10台の消防車とともに出動した。地元情報筋によると、消火活動が開始されたが、この区域には5基の石油タンクがあり、このうち2基の石油タンクが爆発後に火災になっており、さらに隣接する石油タンクが爆発する恐れがあると伝えた。

■ 火災を制圧しようとしていた消防士が負傷した。当初、4名といわれていたが、負傷した消防士は8名だという。

■ アフタブ・オイルリファイニング社は、火災により製油所の生産プラントが被害を受けたか明らかにしていない。

■ ツイッターには、製油所から黒煙が立ち昇っている動画が投稿されている。また、イランのジャーナリストクラブ通信社メディアYjc.irIsna.irには、火災の状況を撮った動画が掲載されている。



被 害

■ 製油所内のプラント内にある石油タンク2基が火災によって損傷した。内部の液が焼失(量は不明)した。 

■ 消火活動をしていた消防士8名が負傷した。 

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

 事業者は事故原因について、「製油所の操業区域内において、道路輸送とタンクローリーの交通過多により、同社の原料油供給における主要な問題点のひとつとされている石油原料を積んだタンクローリーの危険な運転により火災事故が発生し、製油所のタンクに延焼して火災に至った」と発表している。

< 対 応 >

■ 710日(月)、ホルモズガーン州の検察官が火災状況を確認するため、火災現場に立入った。

■ 火災は発災から3時間で消し止められ、石油タンクは冷却されているという。

■ 713日(木)、アフタブ・オイルリファイニング社は事故原因について、「製油所の操業区域内において、道路輸送とタンクローリーの交通過多により、同社の原料油供給における主要な問題点のひとつとされている石油原料を積んだタンクローリーの危険な運転により火災事故が発生し、製油所のタンクに延焼して火災に至った」と発表した。

補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約8,792万人のイスラム共和制国家である。

「ホルモズガーン州」(Hormozgan)は、イランの南部に位置し、ホルムズ海峡に面した人口約178万人の州である。

「バンダル・アッバス」は、ペルシャ湾に面したイラン南岸に位置し、ホルモズガーン州の港湾都市で人口約53万人の都市であり、ホルモズガーン州の州都である。バンダル・アッバスは原油や石油製品の輸出拠点のひとつである。

 イランにおける事例は、つぎのとおりである。

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でナフサ貯蔵タンク火災」

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でまた貯蔵タンク火災」

  ● 201610月、「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」

  ● 20172月、「イランのテヘランで石油施設に落雷後、タンク火災」

  ● 20179月、「イランのハッカーがサウジアラビアの石油化学会社へサイバー攻撃」

  ● 20218月、「イランのハールク島にある石油化学でガソリンタンク火災」

■「アフタブ・オイルリファイニング社」(Aftab Oil Refining Co.)は、 2007年に設立されたイラン最大の輸出業者のひとつである。バンダル・アッバスに製油所を保有している。

 「バンダル・アッバス製油所」は、30万バレル/日の精製能力を持つ中東最大級の製油所で、バンダル・アッバス市近郊の地域に建設された。製油所への供給原料は、主にサルクーンガス処理プラントから移送される重質原油である。製油所製品の一部は輸出されており、残りは需要を満たすために地元市場に供給されている。各油種の公式容量は、ガソリン: 46,000 バレル/日、灯油・ジェット燃料: 37,000 バレル/日、炉用燃料: 67,000 バレル/日、軽油: 70,000 バレル/日、タール: 5,000 バレル/日、LPG: 7,000 バレル/日である。

■「発災タンク」についての情報はほとんどない。内容液、大きさ(容量、直径×高さ)などの仕様は報じられていない。被災写真から大きさは500KL前後の固定屋根式タンクとみられる。グーグルマップで製油所内を丹念に見ていったが、発災場所のほか発災タンクも特定できなかった。

所 感

■ 事業所によると、製油所の操業区域内において、道路輸送とタンクローリーの交通過多により、同社の原料油供給における主要な問題点のひとつとされている石油原料を積んだタンクローリーの危険な運転により火災事故が発生し、製油所のタンクに延焼し火災に至ったという。しかし、この発表内容は分かったようで、事故状況がはっきりしない。 

■ 被災写真をもとに推測すると、石油原料を積んだタンクローリーが荷下ろしのため、操業区域内の荷下ろし接続配管部に到着したが、石油原料を流出させ、何らかの引火源によって堤内火災を引き起こした。この堤内火災によって近くのタンクに延焼したのではないだろうか。タンクローリーの危険な運転の所為(せい)になっているが、事業所側の役割やタンクローリーの安全対策など多くの疑問がある。

■ 消防活動もよく分からない。消火活動中の消防士8名が負傷したが、どのような状況で負傷したのか分からない。一方、被災写真では床に使用した消火用の泡が見られるので、泡消火が行われたものとみられる。路面に消火水や消火泡が溜まっているので、排水系は閉じられ、構外に出さないような配慮がなされたと思われる。

 事故としては堤内火災とタンク火災が重なった対応の難しい事例であるが、発災から3時間で火災は消されており、この点からすれば、消防活動としては適切だったと思われる。ただし、消火活動によって消防士が負傷しており、人員配置や活動方法に無理があったのではないかという疑問もある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Ogj.com,  Operator reveals cause of fire at Iran’s Bandar Abbas refinery,  July  13,  2023

    Jp.reuters.com, UPDATE 3-Refinery fire at Iran's Bandar Abbas put out - state media,    July 10,  2023

    Tankstorage.com,  Fire at Iran Bandar Abbas Oil Refinery Under Control,  July 14,  2023

    Iranintl.com, Refinery Blaze Breaks Out In Iran's Persian Gulf Port,  July 10,  2023

    En.mehrnews.com, Fire breaks out in Iran's Bandar Abbas refinery,  July 10,  2023

    En.irna.ir, Tanker truck caused fire at Iran's second largest refinery,  July 11,  2023

    Theatlasnews.co, Large Fire Engulfs Aftab Oil Company Storage Tanks, Bandar Abbas Oil Refinery, Iran,  July 10,  2023

    Mehrnews.com,  آتش در پالایش نفت آفتاب بندرعباس مهار شد,  July 10,  2023

    Yjc.ir,  آتش سوزی در پالایشگاه نفت آفتاب بندرعباس /حریق اطفا شد+ فی,  July 10,  2023

    Aftabor.com,  جزئیات حادثه آتشسوزی در پالایش نفت آفتاب ,  July 10,  2023


後 記: 報道の自由化ランキング2023年では、イランは相変わらず最下位クラスで対象国180か国中177位です。若い学生が警察拘留中に死亡したことへの抗議活動に対する強圧的な弾圧により、「社会的背景」と「司法環境」のスコアがさらに低下しています。今回のタンク火災事故報道では、なにが事実なのかわからないほど報道によって伝える内容が違います。たとえば、事故による負傷者はいなかったという報道が結構ありました。事業所の人に負傷者はいなかったということで、消防士が負傷しても部署が違うということでしょうか。また、負傷した人数もバラバラです。このような中でブログでは事実(らしい)と思う記事だけを書きました。

2023年7月19日水曜日

韓国で容量80,000KL原油タンクが保全工事中に火災、2名負傷

  今回は、202338日(水)、韓国の全羅南道麗水市にあるオイルハブコリア麗水㈱の石油タンク貯蔵所で容量80,000KLの原油タンクが保全工事の準備中に火災が発生し、負傷者2名が出た事例を紹介します。



< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国の全羅南道(チョルラナムド/ぜんらなんどう)麗水市(ヨス・シ/れいすい・し)新徳洞の国家産業団地にあるオイルハブコリア麗水㈱(Oil Hub Korea Yeosu Co.,)の石油タンク貯蔵所である。

■ 事故があったのは、石油タンク貯蔵所内にある容量80,000KLの原油タンクである。原油タンクは直径69.4m×高さ24mであるが、発災当時、タンクに入っていた油は抜出され、保全工事の準備中だった。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202338日(水)午後120分頃、貯蔵所内にある原油タンクで火災が発生した。

■ 発災に伴い、消防署が出動し、消防士50名と消防車など装備18台を投入して消火活動が行われた。タンク内部に原油の残油があり、消火には時間がかかるものとみられる。

■ タンクには自動の冷却用散水設備が設置されているほか、消防用ノズルを使用してタンク側板に水をかけている。

■ 発災場所の近隣の村に住民50人余りが居住しているが、爆発の危険は低いと見て住民の避難は行われなかった。

■ 事故は、空の原油タンクに新しい物質を貯蔵する前、不純物除去のためのクリーニング作業の過程で火災が発生した。

■ タンクのクリーニング作業には、請負会社の作業者9名が従事しており、そのうち2名が全身2度の火傷を負った。負傷者2名は、麗水のある病院で応急処置を受けた後、釜山にある火傷治療専門病院に移されて治療を受けている。

被 害

■ 容量80,000KLのアルミニウム製ドーム型タンクが火災で損傷した。タンク内の残油が焼失した。 

■ 負傷者が2名発生した。

■ 地域住民への避難指示は出なかった。 

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 タンクは空(残油のみ)で、開放工事のために請負会社の作業者が換気装置を設置する作業をしていて、突然火がついたという。一方、事業者は自然発火だ語っている。

< 対 応 >

■ 消防署関係者は、作業者がタンクのマンホールを開けて、内部のガスを除去するために換気装置を設置する作業をしていて、突然火がついたと語っている。一方、オイルハブコリア麗水㈱は、自然発火だと主張しているが、正確な火災原因は調査中だと話している。

■ 火災は4時間後に消えた。

■ ユーチューブには、火災の情報を伝える動画が投稿されている。

 「노동자 2명 전신화상... 여수산단 원유탱크 화재 현장」(労働者2人全身火傷...麗水原油タンク火災現場)2023/03/08

 ●「내 최대 석유비축기지불’...“여수산단 불바다 될 뻔”/ KBC뉴스」(国内最大の石油備蓄基地で火災」2023/03/08




補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,170万人の共和制国家である。

「全羅南道」(チョルラナムド/ぜんらなんどう)は、 大韓民国の南西部(朝鮮半島の南西部)に位置し、人口約180万人の行政区である。

「麗水市」(ヨス・シ/れいすい・し)は、全羅南道の東南部の沿海部にあり、人口約28万人の市である。

■「オイルハブコリア麗水㈱」(Oil Hub Korea Yeosu Co.,)は、2013年に韓国最大規模の商業用石油貯蔵施設を運営する会社として設立された。事業主体は国内6社(KNOCSKIP、サムスンなど74%) 、海外1社(China Aviation Oil Trading26%)から成り、貯蔵能力は貯蔵タンク36基で818万バレル(原油352万バレル、石油製品466万バレルである。貯蔵量は韓国全体の約4日に相当する。桟橋は20DWT、12DWT、8DWT、1DWTの4基がある。

■「発災タンク」は、直径69.4m×高さ24m、容量80,000KLのアルミニウム製ドーム型タンクである。タンク型式は原油を貯蔵していたので、浮き屋根式タンクとみられる。被災写真をグーグルマップで見比べると、発災したタンクの特定ができる。(下写真を参照)

 グーグルマップでタンク貯蔵所を見ると、タンク間距離が短いことに気づく。小容量のタンク群ではタンク間距離が短い配置の貯蔵所があるが、直径69.4mで容量80,000KLクラスのタンク群でタンク間距離が短い配置は見たことがない。グーグルマップでタンク間距離を調べると、15m程度である。おそらく、自動冷却用散水設備と泡消火設備を設置し、タンク間距離を通常より短縮したものではないだろうか。今回の事故ではタンクに残油しかなかったが、短時間に消火できずに、鎮火までに4時間かかっている。仮に満杯のタンクで火災が発生したら、ほかのタンクに延焼する可能性は高い。

所 感

■ 事故原因は、保全作業中の要因、またはタンク内の硫化鉄による自然発火であろう。この2つの要因に関するタンク火災事故は日本にもある。そして、両火災とも詳細な事故報告書が公表されている。これらの事故報告書は類似事例を無くすために有益な情報である。

 ●「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故(2006年)」 20173月)

 ●「東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因(最終報告)」 20176月)

■ 今回の石油タンク貯蔵所をグーグルマップで見ると、タンク間距離が極めて短いことに気づく。直径69.4mで容量80,000KLクラスの大規模タンク群で、タンク間距離を調べると、15m程度である。おそらく、自動冷却用散水設備と泡消火設備を設置し、タンク間距離を通常より短縮したものではないかと思われる。今回の事故ではタンクに残油しかなかったが、短時間で消火できずに、鎮火までに4時間かかっている。仮に満杯のタンクで火災が発生したら、ほかのタンクに延焼する可能性は高かった。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Ohmynews.com, 여수산단 원유탱크 화재... 외주 작업자 2명 전신 화상,  March  08,  2023

      Hani.co.kr,  여수 국가산단 원유보관업체서 화재…노동자 2명 부상,  March  08,  2023

      Joongang.co.kr,  여수산단 석유 저장 탱크서 원인 모를 불…작업자 2명 화상,  March  09,  2023

      Ikbc.co.kr,  여수산단 원유보관업체 탱크서 화재..'인재 가능성도‘,  March  09,  2023

      News.kbs.co.kr, 여수산단 석유저장시설 오일탱크 화재…2명 화상,  March  08,  2023


後 記: 今回の事故は20233月にあったもので、4か月前です。第一報の事故状況の報道としてはタンクの大きさなどの情報があり、被災写真もありますし、良い方だと思います。その後、事故に関する原因などの追情報が出ていないかと見ましたが、無さそうです。タンク火災は消えたので一件落着では、火傷を負った人が出た事故の教訓は活かされません。この点、日本の報道の自由度ランキングは相変わらず良くない(2023年版世界報道自由度ランキングは首位ノルウェー、日本は68位)のですが、「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故(2006年)」と「東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因(最終報告)」は改めて出色の報告書だと思います。

2023年7月13日木曜日

浮き屋根式タンクの線形熱検出ケーブル(LHDC)による早期の火災検知

 今回は、2023627日にインターネット情報誌International Fire Protectionに載ったFire Safety in Storage Tanksを紹介します。内容は、線形熱検出ケーブル(LHDC)による早期の火災検知方法について、欧州アイルランドのベラナボイ・ブリッジ・ガスターミナルの内部浮き屋根式タンクに適用した例などです。

< はじめに >

■ 燃料タンクの火災はそれほど頻繁に起こるものではない。しかし、一旦、火災が起きると、壊滅的な打撃を受ける可能性がある。英国では、200512月に起きたバンスフィールド貯蔵ターミナルの爆発とその後に起きた火災事故を多くの人が記憶している。バンスフィールド貯蔵ターミナルは英国の石油パイプライン網における主要な拠点で、ヒースロー空港、ガトウィック空港、ルートン空港に航空燃料を供給しており、当時、爆発・火災は欧州でもっとも大きい事故として世界に広く報道された。事故調査の結果、最初の原因は計器の故障で、その結果、ガソリンがタンク屋根部から防油堤内に溢れ出し、大きな蒸気雲を形成して爆発したことが判明した。事故はその後、7つの防油堤にある20基以上のタンクで火災が発生した。

■ 20228月には、キューバのマタンサス・スーパータンカー基地においてタンクの1基に落雷があり、大火災が発生した。施設全体で複数回の爆発があり、火災が起こった。詳細は「キューバのタンク基地で落雷による原油タンク火災4基、死傷者162名」20228月)を参照。

< 地上式常圧貯蔵タンク >

■ 圧力貯蔵タンクと異なり、常圧貯蔵タンクはほとんど圧力をかけない状態で液体を貯蔵する。多くの場合、液体あるいは液体の放出するベーパーは、揮発性で可燃性が高く、時には爆発性が高いものもある。この種のタンクに貯蔵される危険な液体には、アルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、バイオディーゼル、ディーゼル燃料、ガソリン、航空燃料、パラフィン、ケミカルなどである。

■ ほとんどの液体は、わずかな欠陥や開孔部からでも漏れたり、滲み出したり、さらに蒸発して可燃性のガスを放出する可能性があるため、このような危険な液体が入ったタンクを安全に運転するためには、特別な注意が必要である。当然、常圧貯蔵タンクの設計や運転には、液体の性質に応じて環境規制が適用される。また、規制には、液体やガスの発火防止の対策が適用される。

■ 常圧貯蔵タンクの型式には、タンク上部が閉じた固定屋根式のほか、タンク上部が開いている浮き屋根式がある。浮き屋根式はタンク内の液位に応じて上昇・下降する構造である。石油精製をはじめ多くの産業で使用されているが、浮き屋根は、安全性を確保する前提条件であるとともに、液面上の可燃性ベーパーをできる限り最小限に抑え、大気汚染の防止策になっている。

< 事故後の影響 >

■ 可燃性の高い液体を閉空間で貯蔵することは火災や爆発の可能性があり、このことは安全を確保する義務を負っている事業者でなくてもよく分かっている。タンク事故の発生を減らす方策を考えるとき、人命への脅威を無くすことが最優先事項であるが、貯蔵タンクは重要な資産で業務の中心的要素であるので、タンク施設の損失には経済的影響や大幅な休止が伴う。 

■ たとえば、マタンサス・スーパータンカー基地には8基の貯蔵タンクの施設があり、キューバの電力系統において重要な役割を果たしていた。敷地内には規模の大きい石油パイプラインが通っており、キューバ原油を受入れ、原油は発電を行う熱電発電所に移送されていた。

■ したがって、火災による環境への影響は大きいが、火災の消火に対する努力も、事業継続上、極めて重要な考慮事項である。たとえば、英国バンスフィールド油槽所タンク火災では、火災中にタンク防油堤の一部が損壊し、燃料と消火泡が放出され、土壌と地下水が汚染された。火災は4日間にわたって燃え続け、消防隊は約68,000KLの水と約800KLの泡薬剤を使用した。泡薬剤の中には、有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含むものもあった。この事故の経済的損失は約10億ポンドと見積られているほか、飲料水供給に用いられていた帯水層が汚染され、現場から約3km離れた公共水道の井戸が汚染の影響で閉鎖された。

消火活動は「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」 20166月)を参照。

< 満杯と空の際の危険性 >

■ 満杯のタンクによって起こる火災の危険性は誰にとっても明らかであるが、タンクに詳しくない人にとって信じられないことは、タンクが空の場合でも問題を引き起こす可能性があることである。空になる前に燃料などのような揮発性製品を貯蔵していたタンクで処理されずにそのまま放置された場合、タンク内の雰囲気は炭化水素のベーパーで満たされている。このベーパーは可燃性が高く、引火すると爆発し、悲惨な被害を引き起こす可能性がある。

< “本質安全防爆による火災からの防護 >

■ 常圧貯蔵タンクの火災や事故の原因に浮き屋根のリム・ シール部の摩耗や損傷によるものがある。タンクの設計内容は地域のニーズに応じてメーカーや現場によって少しづつ異なる。一方、火災抑制システムを設置した場合、検知や作動したりする際の懸念事項は、可燃性の液やベーパー雰囲気の危険区域で電気機器を使用することである。このようなハザードには、本質安全防爆技術の導入、すなわち認定されたバリアや隔離策を用いたシステムにする必要がある。

■ 本質安全防爆の技術は、実際の計装システムに用いている電気エネルギーや熱エネルギーが常に十分低く、引火が起こらないようにすることである。本質安全防爆のバリアは、ゾーン0(すなわち、爆発性混合物が継続的あるいは長時間存在するエリア) に分類される危険区域であっても、検知や作動の電気的信号が安全に操作できるように防護することである。

< 本質安全防爆形の線形熱検出ケーブル(Linear Heat Detection Cable LHDC >

■ “単純な装置”(Simple apparatus)は、少なくともこの50年間、本質安全システムの重要な部分として使用されてきた。単純な装置は英国規格BS EN 50020 : 2002Electrical Apparatus For Potentially Explosive Atmospheres. Intrinsic Safety ‘I’ 」(爆発性雰囲気用の電気機器、本質安全防爆“I”5.4項で定義されているが、基本的に単純な装置を説明するためにのみ使用されている。その安全性は、いろいろなデータを参照しながら資格をもった技師の目視検査によって簡単に検証されている。エネルギーレベルが低く、引火源を持たないため、ATEX指令やその他の機関への認証は必要ない。ただし、設備が単純な装置だとみなされる場合でも、本質安全防爆バリアに接続しなければならない。この単純な装置の例としては、圧力スイッチ、キースイッチ、デジタル・リニア熱検出ケーブルなどの個別のスイッチ類がある。

■ ATEXとは、Atmosphères Explosives(爆発性雰囲気)の略で、爆発の可能性がある雰囲気内での使用を目的とした機器や防護システムで、EU(欧州連合)では 20037月に爆発の危険性のある雰囲気で使用される機器について、ATEX指令に準拠することが義務付けられた。

■ 線形熱検出ケーブル(Linear Heat Detection Cable LHDC)はケーブルや被覆に炎や熱を感知させるもので、火災や過熱の初期兆候を検出することができる。通常のアナログ型のほかデジタル型がある。線形熱検出ケーブル(LHDC) は、独立した検出システムや消火抑制システムとして使用することができる。消火抑制システムは、常圧貯蔵タンクを火災の発生から防護するために泡消火剤の放出を行うシステムである。デジタル型線形熱検出ケーブル(LHDC)は小さな炎にさらされると反応する2芯ケーブルである。各ケーブルを覆っている反応性ポリマー絶縁体は、事前に設定された警報温度で溶融し、2本の内部導体またはケーブルを融着させ、スイッチ回路が形成される。


■ 線形熱検出ケーブル(LHDC) は浮き屋根のリム・シール上部に取付けて、漏洩ベーパーが発火する可能性をすぐに検出できるようにすべきである。前に述べたように地域のニーズによって、リム・シールの配置方法や固定方法にはいろいろな形態がある。最適で実用的なケーブルの取付け方法を決めるためには、徹底的に現物を見て個別に判断すべきである。ケーブルの入ったブラケットは、通常、タンク側板部にあるポンツーンの二次シールの可動域を覆うように固定されている。線形熱検出ケーブル(LHDC)用ブラケットは、一次シザース (またはパンタグラフ)のシール部に取付けることもできる。

■ 浮き屋根のポンツーンは、タンク液位の変化に応じて上昇や下降するため、検出ケーブルと制御パネル間の電気接続に問題が生じる場合がある。そのため、23m 4芯ケーブルを用いたATEX認定の自動ケーブル巻取り装置を使用し、接続に支障をきたさないようにする。

■ 2芯は線形熱検出ケーブル(LHDC)用に使用され、残りの2芯は終端監視抵抗器(End of Line monitoring resistor)を接続するために用いられる。このようにして終端監視抵抗器はタンク外に設置することができる。ケーブル巻取り装置はタンク上部のリムに設置され、フローティング・ポンツーンの屋根上の中継端子に接続されて動きに合わせて常に調整される。ケーブル巻取り装置は、タンクの液位が下がると、自動的にケーブルを送り出し、液位が上がれば巻き戻すようになっている。

■ ケーブル巻取り装置は、SUS316またはSUS304のステンレス鋼製キャビネットに収納されている。または、浮き屋根ポンツーンの上部にステンレス製ケーブル・コレクターを設置し、自立式の4芯コイルケーブルを使用することもできる。コイル状ケーブルは浮き屋根とタンク上部のリムに設置された2つの中継端子箱間に接続される。

< パトール社(Patol  - 英国のLHDCメーカー) >

■ パトール社は、英国バークシャー州レディングにある英国の企業で、火災検知器を専門的に設計・製造している。パトール社はスディプテック・グループ(Sdiptech Group)の一員で、産業界に防火・安全管理機器の製造や専門的サービスを提供している。製造機器には、他の方法では出来ないような過熱状況を早期に知らせる線形熱検出ケーブル(LHDC) のファイヤセンス・シリーズの製品がある。パトール社の線形熱検出ケーブル(LHDC)は、常時監視が可能で、終端装置に組込むことによって開回路 (故障表示) と短絡 (火災表示) を知らせるようになっている。アースに接続したステンレス鋼のオーバーブレード(編組)を使用して供給することもできる。この方法は静電気放電のリスクを排除することができるために推奨される。小さな炎にさらされてからの反応時間は10秒未満である。

■ パトール社の線形熱検出ケーブル(LHDC)は、アイルランドの天然ガス生産事業で最大のコリブ・ガスプロジェクト(Corrib gas project)の8基の貯蔵タンクに取付けられた。

< アイルランドのベラナボイ・ブリッジ・ガスターミナルの防護 > 

■ コリブ生産層はアイルランド北西沖約83kmに位置する天然ガス田で、同国のガス需要の60%を供給できる能力を有する。ベラナボイ・ブリッジ・ガス・ターミナル(Bellanaboy Bridge Gas Terminal)は、4分割されているプロジェクトのひとつで、シェルE&Pアイルランド社(Shell E&P Ireland Limited SEPIL)が操業している。

■ 天然ガスはガス・ターミナルにおいて処理・乾燥・貯蔵され、パイプライン・システム(ボルド・ガイス・エイリアン;Bord Gáis Eireann)で国内に移送される。現場の美観・環境を重視し、タンク基地におけるシール型浮き屋根式タンクを防護するためにパトール社の線形熱検出ケーブル(LHDC)が選択された。本質安全防爆システムは、8基あるシール型浮き屋根式タンクにおいて発火エネルギーが生じないようにして電気機器が安全に作動することを確実なものとする。ベラナボイ・ブリッジ・ガス・ターミナルに採用されたパトール社のデジタル式線形熱検出ケーブル(LHDC)システムは、自動ケーブル巻取り装置からケーブル固定用クリップに至るまで、多くの部品が基地用に特別な調整と変更の改造が行われた。このシステムで行われた改造によって最高水準の火災検知方法を実現したといえる。

所 感

■ 日本でも、標準の光ファイバーケーブルを使用した火災検知用の熱感知システムが開発され、製作されている。実際に、ケーブルトレイ、コンベア、トンネルなどの設備異常温度検知向けに導入されているようだ。

■ この資料では、火災検知器を専門的に設計・製造している英国のパトール社が線形熱検出ケーブル(LHDC)を使用して、貯蔵タンクの火災検出方法に適用した事例が興味深い。 200512月に起きた英国のバンスフィールド貯蔵ターミナル火災事故や20228月のキューバのマタンサス・スーパータンカー基地におけるタンク爆発・火災事故の事例に見るように、一旦、火災が起きると、人的被害や物的損害などで壊滅的な打撃を受ける。さらに、貯蔵タンク施設が火災事故によって長期にわたって停止してしまう可能性がある。タンク火災について小さな炎の段階で早期に検出できる技術が確立されたのであれば、火災による大気汚染や地球温暖化、消火用水による土壌汚染などの環境問題を考慮すれば、線形熱検出ケーブルを積極的に導入していくべきである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Ifpmag.com,  Fire safety in storage tank, Author; Iain Cumner,  Managing Director at Patol Ltd ,  June  27, 2023

    Sfpegreatplains.wildapricot.org, Linear Heat Detection by Protectowire Fire Systems, Power Point Presentation

    Monoist.itmedia.co.jp, 熱感知に必要な機能を1ボックスに収めた線形熱感知器,  September 21,  2018


後 記: 線形熱検出ケーブル(LHDC)という技術は初めて知りました。この数年、このブログで紹介しているニュースや技術を見ると、明らかに米国から欧州にシフトしています。SDGsSustainable Development Goals;持続可能な開発目標)を見ても消極的な米国から積極的な欧州に主導権が移っています。アイルランドのベラナボイ・ブリッジ・ガス・ターミナルの建設では、環境問題から市民の反対運動があり、なかなか大変だったようです。貯蔵タンク(標題の写真)を見ると、シール型浮き屋根式タンクの背景が分かります。石油ベーパーが大気中にできる限り排出しないように内部浮き屋根式タンクが採用されたのでしょうが、さらにタンクから逃げるベーパーを無くすために通気口に配管を付け、シール型にしているようです。欧州におけるSDGsを感じる事例でした。