今回は、2022年9月26日(月)にデンマーク沖のボルンホルム島周辺で起こったガス漏れについて、海底パイプラインのノルドストリームで強力な爆発によって生じたことが確認され、水中ドローンのカメラによってパイプラインの損傷状況が判明した情報を紹介します。事故直後の情報は本ブログの「ロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインの漏れは止まった?」を参照。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、欧州のバルト海(Baltic Sea)ボルンホルム島(Bornholm)のデンマーク(Denmark) とスウェーデン(Sweden)沖の海底である。
■ 事故があったのは、海底パイプラインのノルドストリーム(Nord Stream)の敷設場所付近である。ノルドストリームはロシア(Russia)のガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2022年9月26日(月)の夜、ノルドストリーム2パイプラインのオペレーターは、105バールからわずか7バールまで急激に圧力が低下したことを確認した。その後、バルト海の海面にガスで泡立っていたのが確認された。
■ 9月27日(火)、デンマーク国防司令部は、バルト海にあるボルンホルム島沖の3か所でガス漏れが確認されたことを明らかにした。ガス漏れ源は天然ガスパイプラインのノルドストリームだとみられる。ガス漏れは、2本あるパイプラインのうち、ノルドストリーム1の2か所、ノルドストリーム2の1か所で起き、ガス漏れが原因とみられる泡(最大のものは直径1km)が海面に発生している。海面のガス漏れによる泡の状況は映像が公開され、ユーチューブに投稿されている。(YouTube、「Footage shows Russia's Nord Stream
gas pipelines leaking under Baltic Sea」(2022/09/28)を参照)
■ スウェーデンとデンマークの地震学者はガス漏れの近くで2つの爆発の可能性を記録したが、爆発は海底ではなく、水中で発生したとみられるという。英国の防衛関係筋は、爆発はおそらく計画的で、水中地雷やその他の爆発物を使用して遠くから爆発させたとみられると語っている。
■ 10月1日(土)、デンマークのエネルギー庁は、バルト海で破裂した2本の天然ガスパイプラインのうちの1本の漏出が止まったようにみえると述べた。ノルドストリーム2を運営している会社から、ロシアからドイツまで走るパイプラインの圧力が安定したようにみえると知らされたという。これは、ノルドストリーム2のパイプラインでガスの漏れが止まったことを示しているとみている。
■ 10月2日(日)、デンマークのエネルギー庁は、ノルドストリーム1とノルドストリーム2のパイプラインからの漏れが止まったと語った。
被 害
■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が、ボルンホルム島沖の海底で破損した。
■ 海底パイプライン内の天然ガス(主にメタンガス)8億㎥が海中へ漏出して、海面から大気へ放散し、環境汚染を引き起こした。
< 事故の原因 >
■ パイプラインが強力な爆発によって破損した。
デンマークとスウェーデンは水中検査を行い、パイプラインの破損状況を確認した。爆発物による破壊工作の疑いがあるというが、両国ともそれ以上は語っていない。
< 対 応 >
■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が破壊工作を受けた疑いがあることを受け、欧州各国は、9月28日(水)、石油・天然ガス関連施設周辺のセキュリティを強化すると発表した。一方、EU(欧州連合) に加盟していないノルウェーは、石油と天然ガスの施設を保護するために軍隊を配備すると述べた。石油が豊富な国で、欧州最大の天然ガス供給国でもあるノルウェーは、陸上・海上設備のセキュリティを強化するとエネルギー相は述べた。
■ 10月1日(土)、ロシアの国営ガス会社のガスプロム社は、「8億㎥のガス漏れが起きていると思われる。漏れたパイプラインには、8億㎥のガスが入っていると推定され、これはデンマークの3か月間の消費量に相当する」と明らかにした。
■ 10月15日(土)、ドイツの放送局アード(Ard)によると、ドイツ政府の情報源を引用して、ノルドストリーム・パイプラインに生じた損傷は爆発によってのみ説明されるという。これはドイツ政府の調査団が水中ドローンによって撮影された写真を調べた後、調査官が到達した結論である。水中ドローンで撮影した写真には、長さ8mの切り傷が記録されていたという
■ 10月18日(火)、デンマークの警察は、バルト海のデンマーク沖にある2本のノルドストリーム・ガスパイプラインの損傷に関する予備調査の結果、ガス漏れは強力な爆発によって引き起こされたことが判明したと発表した。警察によると、調査では、パイプラインに広範囲の損傷があることが確認されたという。
デンマークの国防相は、「これは極めて由々しき問題であり、決して偶然の一致ではない。計画的というだけでなく、非常によく計画されている」とインタビューで述べた。
■ 10月18日(火)、ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社(Blueye Robotic)は、スウェーデンの新聞社Expressenと協力して、水中ドロ-ンのカメラを使って水深80mのノルドストリーム・パイプラインの損傷部を撮影した映像を発表した。この映像によると、ノルドストリーム1のパイプが破断している様子が見てとれる。ブルーアイ・ロボティクス社によると、損傷を受けたと思われるパイプラインの大部分が海底に埋もれているか、完全に失われているという。
撮影は午前11時頃から始められたが、最初、パイプラインの敷設ルートを示す位置にはパイプは映っていなかった。しかし、海底には強い変化を示していた。突然、ノルドストリーム1の厚さ数十ミリの鋼管のねじれた残骸が画面に表示された。パイプライン外側の保護コンクリーから曲がった鉄筋とともに、ぽっかりと開いたパイプの切り口が見えた。パイプの一部は真っ直ぐで鋭いエッジがあり、他の部分ではパイプが大きく変形していた。視界は悪いが、カメラが近づくと、パイプ内側に赤い部分があることがわかる。カメラをパイプ内に入れると、底には泥の薄い層があった。
パイプ周辺の海底への影響が非常に大きかったことがわかる。パイプが敷設されていた海底には大きな溝があり、パイプの部品のように見える破片を見ることができた。パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという。カメラで周辺を捜索したが、パイプ断面の反対側の端を見つけることはできなかった。少なくとも50mが失われているか、海底の下に埋まっていると思われる。
この撮影時、上空で航空機が近づいてくるのが聞こえ、スウェーデンの沿岸警備隊が船の周りを数周した。船の西側にはデンマークの軍艦が残っていた。厳重に監視され、セキュリティ・ポリシーの重要な場所にいることを感じたという。
■ 10月25日(火)、ブルーアイ・ロボティクス社で水中ドローンの担当者は、インタビューでつぎのように語っている。
● パイプが破裂すると、3,200psi(218bar)の高圧のガスが海底を乱し、損傷した一部を埋めているように見えた。
● 西に向かうパイプラインの一部がまだ海底に埋もれており、東に向かうパイプラインの端が海底から持ち上がっているのを見たと思う。
● このエリアの残骸は少ないようにみえた。おそらく、ガスの噴流で押し流されたか、すでに捜査しているスウェーデンの調査団によって撤去されたのではないか。
■ スウェーデン治安当局は、10月3日(月)に捜査のための専門船を現地に派遣しており、10月6日(木)に水中調査を終えた後、現場で証拠物を押収したと述べた。しかし、スウェーデン当局の調査で現場エリアをどのように変えたのかは明らかではない。スウェーデンは調査によって破壊工作の疑いが裏付けられたと発表した。
■ デンマークは、専門船によって実施するパイプラインの捜査について10月21日(金)までに完了予定で、結果は11月初めまでに判明する予定だという。
■ デンマークは、スウェーデンやドイツなどとの国際協力の枠組みについてはいくつかの要因に左右されるため、何かを言うのは時期尚早だと述べている。爆発物が故意の妨害行為に使用されたことを認める以外に、捜査官は調査結果の詳細をほとんど明らかにしていない。デンマーク、スウェーデン、ドイツはパイプラインの破壊箇所を調査しているが、誰がどのような理由で損傷を引き起こしたのかについては固く口を閉ざしている。
■ 11月2日(水)、スイスに拠点をおき、ノルドストリーム1を実質的に運営していたノルドストリームAG社(Nord Stream AG)は、スウェーデン沖のパイプライン損傷の場所で調査していたが、初期データ収集を完了したと発表した。予備的な結果によると、海底に深さ3~5mの人工的なクレーターを発見したという。クレーターは互いに約248m離れていた。クレーター間のパイプの部分が破壊されており、少なくとも半径250mのエリアにパイプの破片が拡散していた。
■ ユーチューブには、ブルーアイ・ロボティクス社の撮影したパイプラインの破損状況の一部映像がメディから投稿されている。代表例はつぎのとおりである。
(YouTube,「Nord
Stream pipeline damage captured in underwater footage」(2022/10/18)を参照)
詳細な映像は、スウェーデンの新聞社Expressenのインターネット誌「Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns botten」を参照。
■ ユーチューブには、2010年に実施されたフルスケールのガス配管に関する爆発試験の映像が投稿されている。ブルーアイ・ロボティクス社が指摘している「パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという」のが理解できる。(YouTube,「FORCE Technology Full scale burst testing of gas pipes」(2010/02/22)を参照)
補 足
■「バルト海」(Baltic Sea)は、欧州の北に位置する地中海で、ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた海域である。ユーラシア大陸に囲まれた海域ともいう。
西岸にスウェーデン、東岸は北から順にフィンランド、ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア、南岸は東から西にポーランド、ドイツ、デンマークが位置する。
「ボルンホルム島」(Bornholm)は、バルト海上にあるデンマーク領で、人口約4万人の島である。スウェーデン、ドイツ、ポーランドに挟まれており、行政面ではデンマーク首都地域のボルンホルム基礎自治体を成している。ボーンホルム島と表記されることもある。
■ 「ノルドストリーム」 (Nord Stream)は、ロシアの国営企業ガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。パイプラインは長さ12mのパイプ約20万本で構成され、直径48インチ径で厚さ約40mmの鋼製ラインパイプで、厚さ110mmのコンクリートの被覆が施されている。
名称のノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味がある。ノルドストリームは大きく2本あり、それぞれ「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」と称し、2020年時点の概要は表のとおりである。
ノルドストリーム1は2012年10月8日に開通した。全長1,222kmのノルドストリーム1は、ランゲルド・パイプラインを上回る世界最長の海底パイプラインとなった。2018年から2021年にかけてノルドストリーム2の敷設が行われ、2021年9月に完成した。
ノルドストリーム・プロジェクトは、パイプラインが欧州におけるロシアの影響力を強めるという懸念や、中・東欧諸国の既存パイプラインの使用料が連鎖的に削減されるという理由から、米国、中・東欧諸国から反対を受けていた。ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認すると表明したことを受けて、この決定が領土保全と国家主権の尊重という国際法の原則に反する行為であるとして、ドイツの首相は2022年2月22日にノルドストリーム2の認証作業を停止した。
2022年2月24日(木)のロシアによるウクライナ侵攻以降の影響は、つぎのとおりである。
●「ノルドストリーム2」はまだ一度も稼働したことはない。ロシアによるウクライナ侵攻の直前にドイツにより運用開始が延期された。しかし、2022年9月の時点で、パイプライン内に3億㎥の天然ガスが入っていたという。
● 稼動していた「ノルドストリーム1」は、2022年6月に輸送量が 75%削減され、1日あたり 1億7,000万㎥が約 4,000万㎥になった。
● 2022年7月、 「ノルドストリーム1」は定期的な点検作業を理由に10日間停止された。再開したとき、流量は 1日あたり2,000万㎥と半分になった。
● 2022年8月下旬、「ノルドストリーム1」は機器の不具合を理由に完全に閉鎖された。それ以来、パイプラインは稼動していない。
所 感
■ バルト海のガス漏れの事象は、ノルドストリーム・パイプラインから発生したことがはっきりした。さらに、その原因は強力な爆発によってパイプが破断したことも分かった。デンマークやスウェーデンは10月初旬から水中カメラなどの調査(捜査)によってパイプラインの損傷状況を把握しているとみられる。
■ パイプラインへの攻撃という破壊工作の疑いが裏付けられたとしているが、誰が行ったかという決定的な証拠が確認されるまで、詳細は発表されないとみられる。
■ ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社とスウェーデンの新聞社Expressenが協力して、水中ドロ-ンのカメラを使ってパイプラインの損傷部を撮影した映像が発表された。この映像を見ると、厚さ40mmのパイプラインが破断されるほどの爆発の威力を知ることができる。
■ パイプラインと周辺の損傷状況は、ブルーアイ・ロボティクス社の映像のほかに、いくつかの取材による情報が出ている。これらの損傷情報がどこの位置を指すのかはっきり示されていないが、仮にブルーアイ・ロボティクス社の撮ったノルドストリーム1のパイプライン破断位置の周辺とみた場合のパイプラインの状況を図のように推測した。この状況について考えてみると、つぎのとおりである。
● パイプが破断して大量の天然ガスが放出されると、反動とパイプラインの拘束がなくなり、東(ロシア側)に移動したと思われる。
● クレーターは爆弾跡というより、天然ガスの放出によってできたのではないだろうか。
● クレーター間の距離(248m)はパイプラインの移動距離ではないだろうか。
● クレーター間に散乱していた破片はスウェーデンの調査(捜査)で回収されたとみられる。
● パイプラインにできた8mの切り傷はパイプラインの破断時または移動時に擦過したものではないだろうか。あるいは、破断部下流側にあれば、爆発の圧力によってパイプに沿って生じた長い亀裂かも知れない。
● パイプ内側にあった赤い部分は何か分からないが、爆弾の破裂時についたものではないだろうか。
備 考
本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
・Abcnews.go.com, Nord Stream
pipeline leaks caused by 'powerful explosions,' Danish police say, October
18, 2022
・Newcivilengineer.com, Nord
Stream explosions caused 50m of damage to ruptured pipeline, October
20, 2022
・Aljazeera.com, Denmark
confirms ‘extensive damage’ in Nord Stream pipelines, October
18, 2022
・Expressen.se, Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns
botten, October 18,
2022
・Upstreamonline.com, Investigations reveal severe explosive damage to
Nord Stream gas pipelines, October 18,
2022
・Theguardian.com, Nord Stream
1: first underwater images reveal devastating damage, October
18, 2022
・Cbc.ca, 50-metre section of Nord Stream gas pipeline missing, drone
footage reveals, October 18,
2022
・Nytimes.com , Three Inquiries, but No Answers to Who Blew Holes in
Nord Stream Pipelines, October 25,
2022
・Bbc.com, Nord Stream blast
'blew away 50 metres of pipe’,
October 18, 2022
・Agenzianova.com, German
media: the damage to the Nord Stream can only be explained by an
explosion, October 15,
2022
・Gcaptain.com, Journalists
Film Nord Stream Blast Damage,
October 18, 2022
・Offshore-energy.biz, Nord
Stream operator finds ‘technogenic craters’ at damaged pipeline, November
07, 2022
・Safety4sea.com, Watch: Underwater drone reveals damage of Nord
Stream pipeline, October 20,
2022
・English.alarabiya.net, Fifty
meters of Nord Stream 1 pipeline destroyed or buried under seafloor, October
18, 2022
後 記: 今回の報道でパイプライン破損状況の映像が出たときには、デンマークやスウェーデンの調査団から流れてきたものと思いました。しかし、それにしては小さなボートで少人数のクルーです。調べると、スウェーデンの新聞社が計画したものらしいことが分かりました。政府や警察が情報公開すれば、国際的(外交的)にいろいろ問題がありそうですので、裏を読んでしまいます。映像が出てきたので、もう少し待てばいろいろな情報が出てくるのではないかと思っていましたが、かん口令が出ているようで1か月経ってもほとんど出てきませんでした。というわけで、ガス漏れ事故の続報としてパイプライン破損状況の情報だけに焦点を絞ってまとめてみました。
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