< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インドのマハラシュトラ州(Maharashtra)ニラ(Nira)にあるジュービラント・ライフ・サイエンス社(Jubilant
Life Sciences)の化学プラントである。
■ 発災があったのは、化学プラント内にあるタンクである。
インドのマハラシュトラ州ニラ付近 (写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年4月17日(水)午後4時30分頃、化学プラント内にあるタンクからケミカル(無水酢酸)が溢流して漏れ出た。
■ 事故に伴い、当初、21人の労働者が病院に入院し、ひとりが重体だといわれた。一方、地元の住民の中には、プラントで爆発があり、40人以上の労働者が被害を受けたと言っている。うち3人が重体だという。被害にあった労働者はニラやローナンドの私立病院で治療を受けているという。
■ 被害を受けた労働者は、呼吸困難、目の灼熱感、吐き気、めまいなどの症状を訴えた。
■ 発災後、プラントの事業者は、ただちに弁を閉じ、漏洩を止めたといっている。
■ ニラの町は人口約20,000人で、そのうちの何人かはプラントで働いている。事故のあと、いろいろな話が瞬く間に広がっていった。地元村民のひとりは、「午後4時30分頃、無水酢酸で満たされていたタンクの内部圧力が上昇し、爆発を起こした。35~40人くらいの労働者が相次いで病院へ運ばれた」という。
■ 事故が起こった後、数時間、ケミカルが大気中に漂い、住民に対して不快感や呼吸困難の被害を与えた。
■ 重体の被害者は、ターネから来た男性の契約ドライバー(42歳)で、タンクローリーからプラントへ希釈された酸を荷下ろし中だったという。彼はフュームを吸込み、意識を失ったという。
■ 発災は午後4時30分頃に起きたが、国の緊急救急隊が知ったのは午後6時30分頃である。国の緊急救急隊が現場に着くまでに、プラントの事業所はすでに被害者の労働者を病院に連れて行っていた。
■ 無水酢酸は、いろいろなアシル化製品を作る中間体として使用される。主なものは酢酸セルロースの製造で、ほかには鎮痛剤などの製造である。
被 害
■ ケミカル(無水酢酸)によって労働者55人が病院で手当を受けた。うち、ふたりは重体だった。
■ 事故が起こった後、数時間、ケミカルが大気中に漂い、住民に対して不快感や呼吸困難の被害を与えた。
< 事故の原因 >
■ 事故要因は、ケミカル(無水酢酸)がタンクから溢流して漏洩したものとみられる。タンクからの漏洩原因は分からない。
ニラにあるジュービラント・ライフ・サイエンス社のプラント
(写真はGoogleMapから引用)
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< 対 応 >
■ 地元住民は、2006年にプネー(Pune)から約75km離れたニラに化学プラントができて操業を開始して以来、プラントに対して抗議してきた。2009年にプラントの廃水をニラ河を放出し、水質を汚染していることがわかり、抗議委員会が結成されている。
■ 4月18日(木)、州の安全衛生局は会社の所有者に対して法的措置をとることにし、担当官がプラントに立ち入った。事故後、ジュービラント・ライフ・サイエンス社は自らの判断でプラントを停止している。安全衛生局はジュービラント・ライフ・サイエンス社に対して、運転を再開する前にすべての安全性を確認するよう命じた。
■ 4月20日(土)、住民は、もしプラントがこの地域で操業を続けるならば、プラントへの道路をふさいで、再開阻止の運動を行うと迫っている。
■ 州の安全衛生局の職員が労働者の入院した病院へ訪問して確認した結果、被災者数は55人だった。重体はふたりで、その後は快復の傾向にある。
補 足
■ 「インド」は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約13.3億人である。
「マハラシュトラ州」(Maharashtra)は、インド西部にある州で、人口は約9,700万人である。
「ニラ」(Nira)は、マハラシュトラ州の南西部に位置し、人口約20,000人の町である。
インドのマハラシュトラ州付近 (写真はGoogleMapから引用)
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なお、このブログで紹介したインドの事故などはつぎのとおりである。
● 2003年3月、「インドで石油タンクに迫撃砲によるテロ攻撃(2003年)」
● 2009年10月、「インド・ジャイプールのインディアン石油でタンク火災(2009年)」
● 2016年4月、「インドのバイオ燃料製造施設で火災、タンク12基に延焼」
● 2017年7月、「インドのヒンドスタン・ペトロリアム社で原油タンクに落雷して火災」
● 2017年10月、「インドのムンバイ沖のブッチャー島で石油タンクに落雷して火災」
● 2018年12月、「ボウタイ分析による貯蔵タンクの危険性と軽減策の検討」
ジュービラント・ライフ・サイエンス社のニラ工場
(写真は21imguf_niraから引用)
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■ 「ジュービラント・ライフ・サイエンス社」(Jubilant
Life Sciences)は、インドの総合医薬品製造およびライフ・サエンス企業である。
ニラにある化学プラントは、いろいろな工業界で使用される酢酸、無水酢酸、酢酸エチルなどを製造している。以前は、ガソリンやディーゼルに混合するエチルアルコールを製造していた。従業員は450名で24時間操業である。
■ 「発災タンク」の仕様は報じられておらず、型式や大きさなどは分からない。
■ 「無水酢酸」(Acetic
anhydride)は、汎用分析用試薬、薬品、香料、染料等の有機合成原料として使用される。化学式は(CH3CO)2O、無色で強い酸味と刺激臭のある液体で、沸点140℃、密度1.08g/c㎥である。ベーパーは催涙性があり、液体が皮膚につくと、水泡や炎症を生じる。引火性で、49℃以上では爆発性混合気を生じることがある。
漏洩時には、保護具・酸性ガス用フィルター付マスクを着用し、換気に留意しながら、漏れた液を密閉式の容器にできる限り集め、残留液は砂または不活性吸収剤に吸収させて安全な場所に移す。
所 感
■ 今回の事故は、化学プラント内にあるタンクからケミカル(無水酢酸)が溢流して漏洩し、被災者が出たものと思われる。石油タンクにおいて液面計器の故障などで過充填による事故例があるが、この事故も同様の事象があったのではないだろうか。
■ 発災事業所のジュービラント・ライフ・サイエンス社は被災者を病院へ運んでいるが、公的機関への報告は2時間後で、同社のウェブサイトでも事故に関して何も掲載されておらず、情報公開に極めて消極的である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
・Timesofindia.indiatimes.com,
At Least 21 Hospitalized in Chemical Leak at Nira-Nimbut
Plant, April 18, 2019
・Timesofindia.indiatimes.com,
Villagers Warn of Protests If Nira Plant Is
Reopened, April 20, 2019
・Timesofindia.indiatimes.com, DISH Officials Peg Chemical
Leak Affected Plant Workers’ Tally at 55,
April 26, 2019
・Hazardexonthenet.net,
India Chemical Plant Leak Injures at Least 21,
April 23, 2019
・Timesofindia.indiatimes.com, 2 Workers Critical a Day after Chemical Leak
in Nira Plant , April
19, 2019
・Firedirect.net, India – Chemical Plant Leak Injures At
Least 21, April 24, 2019
・Geoasia.org, TR: RSOE EDIS – Event Report – HAZMAT : [Nira-Nimbut
Chemical Plant] Nira, State of Maharasthra,
India, Asia, April 18, 2019
後 記: 今回の事故は、インドの化学プラント事業者と住民の確執を表しているように思います。その背景には、1984年に起きたインドのボパール事故が尾を引いているように感じます。1984年12月の夜中に、ボパールの化学プラントから猛毒のイソシアン酸メチルが漏洩し、3,000人以上の死者と35万人の被災者を出した最悪の工業事故です。
発災事業所のジュービラント・ライフ・サイエンス社は、何とか隠密に処理したいという失敗を隠したがる典型のような行動ですし、住民は化学プラントの事業者に対して不信感が色濃くあるように感じます。そういう日本でも、水俣病などが分かった昭和30年代(1955年)に同様の隠蔽がありましたし、いまも自動車や建築物などに不正検査の問題が報じられています。いつの時代でも過去の教訓を活かしていくことが大事ですね。
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