爆発して空中へ飛び出したタンク(右上)と炎上し始めたタンクローリー(左下)
(写真はGgreeleytribune.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、コロラド州ウェルド郡グリーリー市郊外のグリーリー‐ウェルド郡空港近くにある天然ガス生産関連施設で、所有者はエネルギー会社のNGLエナージー・パートナーズ社(NGL
Energy Parters)傘下のNGLウォーター・ソリュージョン社(NGL
Water Solutions)である。
■ 発災施設は、水圧破砕法による掘削から発生する排水を専用施設で炭化水素を分離したあと、排水は地下井へ圧入して処分する設備で、C4施設と呼ばれている。施設には、排水用の鋼製タンクやファイバーグラス製タンクがある。
■ 水圧破砕法は地震を誘発していると疑われているが、発災現場は、2014年5月と6月に起ったグリーリー郊外の地震と関連あるといわれている近くの注入井ある。昨年5月31日にマグニチュード3.4の地震がこの地区に発生した。6月23日には、マグニチュード2.6の地震が同じ地区に発生した。コロラド大学の研究者は、地震の震源を特定するため、注入井のある地区に複数の地震計モニターを設置した。その地区はグリーリー・ウェルド郡空港の東にある注入井のある狭い区域である。
(写真はGreeleytribune.comから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年4月17日(金)午後1時15分頃、C4施設にある排水貯蔵タンクに落雷があり、その後、一連の爆発があり、火災となった。爆発とファイアボールによって真っ黒い煙が空に吹き出し、火災から発する音は貨物列車がゴーゴーと発しながら通りすぎるようだった。
■ 現場近くに家があり、避難した住民の話によると、火災が始まったとき、爆発音が一回あったという。
■ 消防署には、グリーリー‐ウェルド郡空港の真東に当たる郡道49号線付近から黒煙と炎が上がっているのが見えるという通報が相次いだ。黒煙は数マイル離れたところからも見えた。当日はずっと雨が降っており、この地区は厚い灰色の空に覆われていたが、事故が起こる少し前から雲が薄くなり始めていた。
■ 午後3時少し過ぎ、火災は南のタンク群のある方へ広がった。そのとき、笛のような音とともに大きな爆発が起こり、1基のタンクが空中に噴き飛んだ。タンクは約60フィート(18m)離れたところに落下した。この日の午後は、何基かのタンクが同じように空に舞った。
■ グリーリー消防署の広報担当デール・ライマンさんは、「数多くのタンクが壊れました」と語った。小爆発でも現場は緊張し、午後の間中、ファイアボールが吹き上がり、そのたびにタンクが壊れていったと、ライマンさんは話している。タンクのほかに近くに駐車していた2台のトレーラー連結車も延焼で被災した。
■ NGLウォーター・ソリュージョン社ダグ・ホワイト副社長は、グラスファイバー製タンクの内液は水であるが、排水の中にわずかに炭化水素を含んでいて、可燃性ベーパーを形成する可能性はあり、このベーパーが落雷によって引火したものとみられるといい、「ここを通過していったのは、まさに雷を伴った嵐でしたでしょう。私たちはテキサスで何度も経験しました。これがビジネスというものです。被害の大きさはまだ分かっていませんが、これから状況を調べ、評価していきます」と語った。
■ 爆発から火災が続き、消防隊は火災の延焼を回避することに半日を費やしたが、午後5時30分になって火災を消火するための攻撃的な活動を開始し、午後6時45分に火災は鎮火した。
事故による被害
■ NGLウォーター・ソリュージョン社ホワイト副社長によると、施設は24時間体制で管理し、3名の従業員がいたが、全員無事で、事故に伴う負傷者はいなかったという。
■ グリーリー消防署ライマンさんによると、近くに住む4世帯ほどが避難した。
■ 火災による施設の損害額はわからないが、相当なものになるだろうと、グリーリー消防署ライマンさんは語っている。
< 事故の原因 >
■ 発災の原因は排水貯蔵タンクに落雷したこととみられる。当時、この地区には落雷が多数あったという。排水の中には、水圧破砕作業の結果としてわずかに炭化水素が含まれており、この炭化水素から形成した可燃性混合気に引火したと思われる。
■ NGL社は、火災が完全に消え次第、調査に全面的に参画することを約束した。
■ 米国シリコンバレーに住むソフトエンジニアのデビット・ヘロンさんは、つぎのような指摘をしている。
● 水圧破砕作業によって出た排水には“わずかに炭化水素”を含むというが、普通の水であれば、火災に至ることはないし、まして空高く飛び出し、60フィート(18m)離れた場所に落下することはない。今回の火災事故は、水圧破砕作業によって出た排水に含まれる炭化水素は“わずかでない”ことを示している。
< 対 応 >
■ グリーリー消防署ライマンさんによると、消防隊は、4月17日(金)午後1時過ぎ、グリーリー‐ウェルド郡空港の北東にあるNGLエナージー・パートナーズ社の施設から火災通報を受けた。
■ 火災通報を受け、グリーリー消防署およびイートン防火管区の消防隊が火災対応に出動し、発災現場周辺の道路を封鎖した。出動した人員は、グリーリー消防署から消防士35名と消防車8台、イートン防火管区から消防士5名である。 消火活動には、消火泡や空港用消防車を含めて各種消防資機材が投入された。
■ 現場には、火災に曝されていたトレーラー連結車が何台かあった。消防隊は、最初、危険物を積んでいると思ったが、作業員に確認すると、タンクローリーの中身は塩水だとわかった。最も近い消火栓までの距離があったため、給水車が要請された。
■ 午後から夕方にかけて消防隊は、残っているタンクの破壊や爆発の危険性が収まるのを待ち続けなければならなかった。グリーリー消防署ライマンさんは、「火災が広がることはありませんでした。意図したように封じ込め策は功を奏していました」と話している。
爆発の危険性が少なくなったとき、消防隊は炎を制圧するため泡による火災抑制策をとり始めた。泡薬剤は、液体火災の消火に使用するもので、燃料の上を覆って火災への酸素供給を遮断し、冷却効果を果たすと、ライマンさんは語った。
■ 爆発から火災が続き、消防隊は火災が広がらないように努めるのに半日を費やしたが、午後5時30分になって火災を消火するための攻撃的な活動を開始した。およそ1時間半でほぼノックダウンに至った。午後6時45分に鎮火した。鎮火後の状態についてグリーリー消防署ライマンさんは、「それはまったく巨大な廃船のようでした」と語っている。
■ コロラド州石油・ガス保全委員会は、火災現場のモニタリングのため、2名の職員を派遣した。発災現場への直接的な対応に加え、ウェルド郡保安官事務所は、周辺道路の交通整理のために、副保安官を派遣した。危機管理ウェルド郡オフィスは、火災封じ込めの支援機材を提供した。
■ NGLウォーター・ソリュージョン社ホワイト副社長は、施設には2次防止堤があり、発災現場から流出する心配はないと語った。また、ホワイト副社長は、施設は修復ができるまでシャットダウンすることになるだろうと語った。同社はウェルド郡内に数箇所の別な注入施設をもっている。
(写真はGreeleytribune.comから引用)
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(写真はGreeleytribune.comから引用)
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(写真はGreeleytribune.comから引用)
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(写真はGreeleytribune.comから引用)
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噴き飛ぶタンク(上方) (写真はGreeleytribune.comから引用)
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(写真はGreeleytribune.comから引用)
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(写真はGreeleytribune.comから引用)
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補 足
■ コロラド州は、米国西部に位置し、州の南北にロッキー山脈があり、州全体の平均標高が全米で一番高い山岳地帯の州である。人口は約500万人で、州都および最大都市はデンバーである。コロラド州は石油・天然ガス資源に恵まれており、米国天然ガス田100傑のうち7か所、油田100傑のうち2か所がある。天然ガスの生産量は国内生産量の5%を超えている。オイルシェールの埋蔵量は石油換算で1兆バーレル
とされているほか、石炭(瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭)もかなりの埋蔵量が見つかっている。
「ウェルド郡」 (Weld
County)は、コロラド州北東部に位置し、比較的平坦な地域にあり、人口約25万人である。ウェルド郡では、近年、洪水による石油タンク施設から油流出の事故があった。
●2013年9月、「米国コロラド州で洪水によって被災したタンクから油流出」
●2014年6月、「米国コロラド州で洪水によって今年もタンクから油流出」
「グリーリー」(Greeley)は、コロラド州北部に位置するウェルド郡の郡庁所在地であり、人口約95,000人で、同郡で最大の都市である
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グリーリー‐付近
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 「NGLエナージー・パートナーズ社」(NGL Energy
Parters)は、石油・天然ガスの生産・貯蔵・輸送、プロパンガスの販売などを行なうエネルギー会社で、本社はオクラホマ州タルサにある。
傘下の「NGLウォーター・ソリュージョン社」(NGL
Water Solutions)は、石油·天然ガスの生産・掘削活動から発生する排水を専門に処分する会社である。専用の施設で、処理前に水からの固体および炭化水素を分離し、排水を地下へ圧入して処分する。
グリーリー‐ウェルド郡空港の東方にあるタンク施設
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 落雷のあった排水タンクの仕様は明らかでない。その後、何基かのタンクが噴き飛んでいるが、このタンクの仕様もわからない。発災場所のグーグルマップによると、グリーリー‐ウェルド郡空港の東方にタンク施設が見え、直径3.7mのタンクが複数基設置されている。発災施設はタンクが増設されたものと思われる。爆発して飛んだものと思われるタンクは、高さを6mと仮定すれば、容量は60KL級とみられる。
■ 「水圧破砕法」(Hydraulic
Fracturing)は、地下の岩体に超高圧の水を注入して亀裂を生じさせる採掘技術である。シェールオイル・シェールガスの採取に用いられている。特殊な砂粒や、酸・腐食防止剤・ゲル化剤・摩擦低減剤などのケミカルを添加した水が使われており、フラクチャリング流体とよばれる。消費した水の一部はオイル・ガスとともに地上に戻ってくるので、この排水は地下へ圧入して処理される。
水圧破砕法は、画期的な採掘技術であるが、ケミカルによる地下水の汚染、大量の水使用による地域の水不足の可能性、排水の地下圧入による地震発生の危険性といった問題点が指摘されている。
水圧破砕法による天然ガス採掘の例 (図はOilgas-info.jogmec.go.jpから引用)
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所 感
■ 今回の事故を知って、2013年11月に起った「米国ノースダコタ州の石油施設で爆発、タンク13基が被災」事故における所感でつぎのように述べたが、そのとおりになったと思った。
「最近、米国では、油井関連施設のタンク事故が目立つ。今回も天然ガス井の塩水処理施設におけるタンク爆発・火災事故である。これまでは油・ガス井に付帯する貯蔵タンクの事故で、運転管理に問題があると思っていたが、今回は塩水処理を専門とする会社における事故であり、問題は根深いように思う。米国内で課題化されるのではないだろうか。対応策がとられなければ、事故が再発するのは必至だと感じる」
■ 今回の消防活動でも、初期には燃え尽きさせる戦略をとっている。火災写真をみると、相当激しい火炎規模であり、消防活動中の二次災害を考えれば、妥当な判断だと思う。
一方、攻撃的消火活動をとる前に、「爆発の危険性が少なくなったとき、消防隊は炎を制圧するため泡による火災抑制策をとり始めた。泡薬剤は、液体火災の消火に使用するもので、燃料の上を覆って火災への酸素供給を遮断し、冷却効果を果たした」とあり、これまでだと、さらっと読み過ごしていたが、前回の「ブラジルの液体バルクターミナルで8日間のタンク火災」の事例から考えると、この消火活動は
空港用消防車による特殊消火剤「コールド・ファイア」を使用したのではないだろうか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・9news.com,
Lightning Strike Sparks Oil Tank Fire near Greeley, April 17, 2015
・GreeleyTribune.com, Greeley Firefighters Extinguish Blaze
near Greeley-Weld County Airport, April
17, 2015
・5280fire.com, Greeley Tank Battery Fire, April 17, 2015
・TheDenverChannel.com, Crews Battle Fire after Explosion
at Wastewater Fracking Site in Greeley, April 17, 2015
・PopularResistance.org,
Colorado Fracking
Wastewater Injection Site up in Flames,
April 19, 2015
・Longtailpipe.com, Fracking
Wastewater Injection Wells Are Potential Firebomb Risks, it seems, April 20, 2015
後 記: 今回の事故は、今年も米国の落雷シーズンが来たかと思いました。この種の原油・ガス生産関連施設における落雷によるタンク火災は、米国では珍しい事故でないので、通常は淡々とした事実報道だけが普通です。しかし、水圧破砕法による天然ガス生産施設の事故は別なようです。成分のわからないケミカルを使うフラクチャリング流体が問題視されているのは知っていましたが、今回は排水の地下注入が地震を誘発した可能性について報じている記事がありました。シェールガス革命の裏には、いろいろ問題があるようです。
ところで、今回はARIA資料の形式でまとめてみました。通常、事故を報じている段階では、書く内容に乏しく、事故状況の紹介にとどまるのですが、地震誘発の調査情報を含め、概ね各項を埋めることができました。
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