(写真はFoxsanantonio.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はウィスコンシン州ダグラス郡スーペリア市にあるカルメット社(Culumet)のスーペリア製油所である。製油所はスーペリア市の南に位置する場所にある。
■ 発災したアスファルト・タンクは、高さ9mで容量4,000バレル(636KL)であった。
カルメット社スーペリア製油所 (写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年4月28日(火)午後3時30分頃、カルメット・スーペリア製油所でアスファルト・タンクが爆発し、火災となった。地元テレビ局は、火災によって立ち上った黒煙が隣のミネソタ州ダルースからも見えたと報じた。
■ カルメット・スーペリア製油所のコリン・シェイド所長は、ボンという爆発音が聞こえ、事務所の窓から外を見たら、アスファルト・タンクの上から炎が上がっていたと語っている。
■ 火災通報に従って出動したスーペリア消防署の消防隊は、現場到着後、発災したタンクが空であることを知った。
■ スーペリア消防署のスティーブ・パンガー署長によれば、爆発は、午後3時半少し前、空のアスファルト・タンクで起こり、火災はそのタンクだけに限られたという。火災は、高さ30フィート(9m)のタンク内にあった残留物質が燃えたものとみられる。
■ タンク内に存在していた炎を出さないでくすぶるような物質によって、タンク内圧が異常上昇して爆発が起ったものとみられている。この爆発によってタンク上部が裂けた。カルメット社シェイド所長は、「爆発の力が上に逃げたのは不幸中の幸いでした。このため、タンクの屋根だけが裂けたのです」と語っている。
■ 当局は、スーペリアの製油所で起った爆発・火災事故による公共への危険性は無いと発表した。
■ スーペリア消防署とカルメット社の緊急事態対応チームの消防活動によって、同日午後5時15分、火災は鎮火した。
(写真はDuluthnewstribune.com
から引用)
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被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。
■ スーペリア消防署パンガー署長によれば、事故に伴う実質的な避難者は出なかったという。
< 事故の原因 >
■ カルメット社は、火災の詳細原因は分かっていないと語っている。
■ 最初の爆発の原因については、スーペリア消防署とカルメット社によって4月27日(水)から調査が始められた。カルメット社は調査のため第三者を招いて進めるとしている。
< 対 応 >
■ 火災発生の通報に従って市の3箇所の消防署から消防車が出動した。
■ 発災に伴い、カルメット社は社内の緊急事態対応計画に従って活動を開始し、火災については緊急事態対応チームが対応した。
■ スーペリア消防署パンガー署長によれば、スーペリア消防署の消防隊はカルメット社の緊急事態対応チームを支援し、ドライケミカルを用いて火災を消火したという。スコット・ゴードン隊長によれば、タンクの温度が熱かったので、何回か火の手が上がったが、午後5時15分、消火に成功したという。発災後、2時間以内で制圧した。
■ パンガー署長によれば、その時点で、消防隊は水を使用してタンク外側を冷却し、燃料が再燃しないように図ったという。消防署の1部隊が現場に残り、タンクの冷却を続けた。
■ カルメット社の緊急事態対応チームは、火災を消火するために必要なドライケミカルは大量に保有していた。しかし、高さ30フィート(9m)のタンク頂部にアクセスする方法が無かった。スーペリア消防署はタンク頂部に届くはしご車を保有していたが、パープルKと呼ばれる高価で特殊なドライケミカルは持っていなかった。現場指揮所で消火戦術が決定され、はしご車の上からドライケミカルを放射し、消火することができた。スーペリア消防署とカルメット社の消防隊はこれまで広範囲な訓練を行なってきており、今回の事故対応でも、迅速かつ円滑に双方の消防資機材を投入し、火災を消火に導いた。
■ 警察署は予防措置としてスティンソン通りの通行を規制した。交通規制は、消防隊が現場で活動している間、実施された。
■ 火災が続いている間、製油所と消防署が共同で大気のモニタリングを実施した。住民へ危険を及ぼすような影響は出なかったという。
■ カルメット社は、製油所の生産には影響が無く、その旨、規制当局には連絡していると語っている。
(写真はDuluthnewstribune.com
から引用)
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(写真はDuluthnewstribune.com
から引用)
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散水のほか、はしご車によるドライケミカル放射と思われる消火活動の火災現場
(写真はTopix.com
から引用)
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■ スーペリア消防署ゴードン隊長によると、スーペリア消防署の消防隊と製油所の緊急時対応チームのメンバーは月1回を基本に一緒の訓練を行っているという。スーペリア消防署の上級隊員と製油所の管理者は定期的に意思疎通を図っている。
■ ゴードン隊長によると、この自治体と民間企業のパートナーシップのあり方は、全米の製油所における共同応援体制に比べると“革命的”だと説明している。このことはスーペリア市民にとって有益なことであり、製油所の緊急事態時に最適な対応がとれることにつながっていると、ゴードン隊長は語っている。
■ これだけではない。カルメット社と他にスーペリア市で石油を取り扱っているふたつの会社(エンブリッジ社とプレーン・ミッドストリーム社)がスーペリア消防署に資金援助し、4名の消防士をテキサスで行われている石油関連火災への高度な訓練に派遣している。
ゴードン隊長によると、昨年、テキサスの訓練に消防士を派遣しており、今回の火災ほど大きくはなかったが、訓練で同様な火災を体験していたという。
■ カルメット社のシェイド所長は、4月29日(水)、「これは双方にとってウィン‐ウィン(Win‐Win)の関係です」といい、「昨日のように消防隊が駆け付けて対応してくれたことに、私どもは本当に感謝しております。同じようなことですが、消防隊が求めに応じて来ることがあれば、彼らの知識や知見を教えてくれることを私たちは期待します。私たちは一緒に訓練を行っていますし、このトレーニングによって私どもは見返りを十分得ています」と語った。
■ 発災当時、スーペリア消防署の消防隊と製油所の緊急時対応チームは統一の指揮所を設置し、火災制圧のための調整を行なったが、この2つの隊は1週間前に一緒に訓練を行なったばかりだった。
補 足
■ 「ウィスコンシン州」(Wisconsin)は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。
「ダグラス郡」(Douglas
County)は、ウィスコンシン州の北西部に位置し、五大湖地域にあり、人口は約44,000人の郡である。
「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。
ウィスコンシン州では、2014年11月、ラクロス郡で「米国ウィスコンシン州でアスファルトタンクが爆発・火災」事故が起こっている。
マーク部がウィスコンシン州スーペリア市 (写真はグーグルマップから引用)
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■ 「カルメット社」(Culumet)は、1919年に創業し、特別な炭化水素生成物を専門に生産する独立系製油所をもつ石油企業である。インディアナ州を本拠とし、北米に11施設を有し、潤滑油、溶剤、ワックス、高純度ホワイトオイル、アスファルトなどを生産している。
スーペリアには、2011年にマーフィー・オイル(Murphy
Oil Co.)から取得した精製能力45,000バレル/日のカルメット・スーペリア製油所(Culumet
Superior Refinery)があり、アスファルトのほか、ガソリン、重油を生産している。
■ 「発災タンク」の仕様は、高さ9m、容量4,000バレル(636KL)
という情報がある以外、詳細はわかっていない。このデータからすれば、直径は約9.5mとなる。グーグルマップと火災写真からすると、発災地区にある地上式のコーンルーフ式固定屋根タンクの直径は20~25mのクラスであり、発災タンクではないとみられる。一方、プロセス装置近くに支持脚付きの直径約8mの円筒タンクがあり、これが発災タンクと思われる。支持脚付き構造であり、いわゆる通常の貯蔵タンクではなく、アスファルト装置に関連するタンクと思われる。
カルメット・スーペリア製油所の発災地区(矢印が発災タンクとみられる)
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
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■ 「ドライケミカル」は、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩類を主成分とする粉末の消火剤である。火災の熱によって分解して不燃性ガスを発生し、噴射に用いた窒素ガスとともに空気中の酸素濃度を低下させて消火する。油火災のほか電気火災やガス火災にも有効である。消火後の清掃が容易で、火の及ばなかった機器を損傷することがないという特長を有している。
「パープル‐K」(Purple-K)は、米国の消火資機材メーカーのケムガード社(Chemguard
Inc.)のドライケミカルで、カリウム重炭酸塩を主成分としている。製油所・化学プラントや航空機など重要機器まわりの火災に対して使用されている。ケムガード社傘下の消火専門会社ウィリアムズ・F&H・コントロール社(Williams
Fire & Hazard Control)でも使用している。
パープル‐Kの使用例
(写真はウィリアムズ・F&H・コントロール社ウェブサイトから引用)
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■ 「テキサスの火災訓練」とは、テキサスA&M大学のTEEX(The
Texas Engineering Extension Service)による火災訓練だと思われる。同機関のウェブサイトによれば、火災緊急対応について、現在、15の訓練プログラムがある。TEEXの各種訓練には、米国内の企業や公的機関が参加しているほか、世界中から多くの訓練生が受講している。日本でも、旧石油公団(現JOGMEC)が主催して「備蓄技術者海外研修」として訓練に参加し始め、多くの訓練経験者がいる。「石油公団備蓄技術者海外研修について」(1997年2月号)を参照。
(写真はTEEXウェブサイトから引用)
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所 感
■ アスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。しかし、貯蔵タンクでなく、プロセス装置(アスファルト装置)と関連のあるタンクであれば、他にも要因があろうし、特にタンクは空の状態であった(はず)のであれば、別な要因が加わるであろう。爆発の原因やその後の火災の原因は調査を待つしかない。
■ 火災の規模はそれほど大きいものではなかったが、消防活動には参考になる情報があった。
=平常時=
● 公設消防と民間企業が月1回の合同の訓練を実施している。
● 民間企業が資金援助を行い、公設消防の消防士をテキサスの火災訓練に派遣している。
=緊急事態時=
● 公設消防と民間企業の消防隊が統一した指揮所を設置している。
● 双方の消防資機材を組み合わせる(はしご車とパープル‐K)ことによって、有効な消火活動を行ってる。(情報の共有化と判断ができている)
日本でも、災害応援協定が結ばれているところは多いが、このような実質的な活動に活かされていることは聞いたことがない。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・NewsOK.com,
Fire Burns Tank at Superior Refinery,
April 28, 2015
・KDAL610.com, Superior Firefighters Extinguish Asphalt
Tank Fire at Calumet Refinery, April 28,
2015
・Mineesota.CBSlocal.com, Fire Burns Tank at Superior, Wis.
Refinery, April 28, 2015
・BusinessNorth.com, Empty Tank Catches Fire at Superior
Refinery, April 28, 2015
・DuluthNewsTribune.com,
Crews Respond to Fire in Tank at Calumet Refinery in
Superior, April 28, 2015
・DuluthNewsTribune.com, Cooperation Key to Dousing Fire at
Superior Refinery, April 29, 2015
後 記: 先日は「コールド・ファイア」という消火薬剤の使用例の事故情報がありましたが、今回は「パープル‐K」というドライケミカルの消火薬剤の情報が出てきました。調べてみると、消火専門会社ウィリアムズ・F&H・コントロール社でも使用していました。薬剤としてはパープル(紫)というちょっと毒々しい色の消火剤だということがわかりました。日本では、公平さや宣伝への配慮からか具体的な商標名が報じられることは少ない(ほとんど無い?)ですが、情報を読む立場からすると、はっきりと報じられる方がよいですね。例えば、今回の事例でも、「特殊消火剤」という言葉で報じられれば、面白みも何もありませんからね。
酸化発熱?
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