(写真はNews8000.com
から引用)
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<事故の状況>
■ 2014年11月19日(水)午前7時頃、米国ウィスコンシン州にあるアスファルトタンクが爆発する事故があった。事故があったのは、ウィスコンシン州ラクロス郡ラクロスのサムナー通りにあるミッドウェスト・フューエル社(Midwest
Fuels Inc.)の燃料プラント内にあるミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社(Midwest
Industrial Asphalt Inc.)のアスファルト貯蔵タンクが爆発・火災を起こした。
ウィスコンシン州ラクロスのサムナー通り付近
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 当局による最初の発表では、19日水曜の午前7時頃、ミッドウェスト・フューエル社の地上式タンクが爆発して火災になったといい、タンク内容物はディーゼル燃料およびアスファルトで、量は不明だといっていた。ラクロス消防署のダン・スキレス隊長によると、最初の爆発は数マイル(5~8km)離れたところからも感じられたという。
■ ミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社よると、発災したタンクは直径24フィート(7.2m)×高さ40フィート(12.2m)、容量132,000ガロン(50KL)であるが、シーズン終わりで7,000ガロン(26KL)のアスファルト混合液を温度200℃で保持して貯蔵していたという。ラクロス消防署によると、タンク内容物はアスファルト70%×ディーゼル燃料油30%の混合液だという。発災したのは同種タンク7基のうちの1基で、そのうち3基は空だった。親会社であるALMホールディング社のスティーブ・マシー社長は、「爆発の原因はよくわかっていません」と語っている。
■ 発災に伴い、ラクロス消防署のほか、ラクロス地方空港の消防隊が出動し、爆発後にタンクから噴き出す炎に対して消火活動に努めた。消防隊は発災タンク内に泡を放射して炎の制圧を行うとともに、隣接タンクへ冷却水をかけて少なくとも4基のタンクへの延焼を回避させたとスキレス隊長は語った。また、スキレス隊長は、隣のハイドライト・ケミカル社(Hydrite
Chemical Co.)へ広がることを懸念したといい、「そこには大量のケミカル類が保管されており、その中には爆発性の高いものがありました」と語った。なお、ラクロス消防署の消防隊は、今夏、爆発可能性のある火災への対処方法の訓練を受けていたという。
■ スキレス隊長によると、ひとりがケガのため病院に運ばれたという。爆発時、プラントには8名の従業員がいた。ケガをしたのは男性従業員で軽い火傷を負ったものである。その後、この男性は治療を受けたのち、退院したという。
一方、近隣住民は、空気汚染の懸念から室内にとどまるよう言われた。この勧告は約2時間後に解除された。スキレス隊長は、「私たちはタンクが壊れた場合の住民の被爆を懸念しました」と語っていた。
■ 消防隊は、タンクが壊れた場合のことを考慮して吸着材を配備することとし、近くのブラック川がアスファルトとディーゼル燃料の混合油によって汚染されることを防止しようとしていた。ミッドウェスト社は吸着材を準備した。ウィスコンシン州天然資源局も注意を払っていた。
■ 火災は約1時間半後の午前8時25分に鎮火し、公共地区や河川への影響の心配が無くなったとラクロス消防署のグレッグ・クリーブランド署長は発表し、「もっと深刻な事態になった可能性があります。タンクが壊れるような事態があれば、他のタンクへの影響があったかもしれません」と語った。事故に伴い、サムナー通りとヘイガー通りの一部がほぼ一日、通行止めになった。
■ 発災タンクでは、屋根部が噴き飛び、ミッドウェスト・フューエル社の敷地の北側に落下していた。ミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社は、爆発後、ただちに消防署へ通報したという。なお、ラクロス消防署によると、第2分署の消防士が北西方向に真っ黒い大きな煙が立ち昇っているのに気付き、現場に自主出動したという。ラクロス消防署のクレイグ・スナイダー分署長は、タンク屋根が外れたが、タンクは爆発時にそのように作られているといい、「爆発の力が空中に逃げており、大きな音がしたのは、それが理由のひとつです」と語った。
■ 発災から5日経った24日(月)、ALMホールディング社マシー社長は、爆発・火災のあったエリアの操業を停止しており、事故の原因を調査していると語った。発災タンクのほか、隣接している6基のタンクは停止されている、マシー社長は、「火災が起こった際、タンクの加熱用電源を切りましたが、その後もそのままにしています」と語った。
■ ミッドウェスト社は、消防隊による消火活動で出た消火排水に混じって若干、アスファルトとディーゼル油が排出したが、鎮火後に行なったクリーンアップ作業によって回収したと語った。同社によると、使用した吸着材は600,000~700,000ガロン(2,200~2,600㎥)になったという。
■ 11月25日(火)、事故の調査官はまだ爆発の原因を特定していない。ミッドウェスト社の作業員はメディアの質問に対して会社を通じて回答しているが、事故の調査官には協力しているという。連邦労働安全衛生局は事故を調査していることを認めているが、広報担当は原因が明らかになるまで内容を公表できないと話している。調査には6か月ほどかかるという。
■ ALMホールディング社マシー社長は、今回の経験がより強い組織になるといい、「原因調査を終えるときには、多くのことを学び、より良い会社になっていることを確信しています」と語っている。
(写真は左:News8000.com、右:Winonadailynews.com
から引用)
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(写真は左:Myfoxtwincities.com
、右:Winonadailynews.com から引用)
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(写真はWxow.comから引用)
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補 足
■ 「ウィスコンシン州」は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。
「ラクロス郡」は、ウィスコンシン州西部に位置し、人口約114,000人である。
「ラクロス」は、ミシシッピ川に沿ったラクロス郡の郡庁所在地で、人口は約51,000人である。ウィスコンシン州西側州境では最も大きい都市である。
ウィスコンシン州の気候は湿潤大陸性気候で、夏は過ごしやすい日が多いが、寒暖の差が激しく、米国内ではミネソタと並び寒い州である。ラクロスの平均最高最低温度は7月で29℃/17℃、1月で-3℃/-14℃である。事故時の写真を見ると雪がうっすらと積もっているが、11月の最高最低温度は7℃/-3℃とすでにかなり寒くなっている。
■ 「ミッドウェスト・フューエル社」(Midwest
Fuels Inc.)および「ミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社」(Midwest
Industrial Asphalt Inc.)は、「ALMホールディング社」(ALM
Holding Co.)傘下の会社である。ミッドウェスト・フューエル社はガソリンやディーゼル燃料などの石油燃料を扱う会社で、ウィスコンシン州ラクロスとミネソタ州バイロンに燃料プラントを所有している。
ミッドウェスト・フューエル社はアスファルトを取り扱っておらず、アスファルトタンクを保有していなかったが、ラクロス工場の中にアスファルトタンクを増設し、ミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社が操業する形態をとっているとみられる。従って、
ALMホールディング社がアスファルトを取り扱うようになったのは最近のことだと思われる。
ミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社のアスファルトタンク
(写真はグーグルマップから引用)
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ミッドウェスト・フューエル社ラクロス工場敷地内にあるアスファルト・プラント
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用) |
■ アスファルト自体は火災を起こしにくい液体であるが、世界的にみると、アスファルトタンクの事故は少なくなく、最近でもつぎのような事例がある。
① 2006年5月「日本の東亜石油京浜製油所におけるアスファルトタンクの爆発事故」
② 2009年9月「ニュージーランドのフルトンホーガン社のアスファルトタンク爆発による溶接士の死亡事故」
③ 2010年12月「カナダのポートスタンレーにあるマックアスファルト・インダストリー社のアスファルトタンク破損による漏洩事故」
④ 2011年5月「米国カリフォルニア州のグラナイトロック社のアスファルトタンク爆発事故」
⑥ 2013年3月「中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災」
⑦ 2013年5月「フィリピンでアスファルトプラントのタンクが爆発して死傷者2名」
アスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。失敗知識データーベースでは、1990年10月に岡山で起こった「製油所のブローンアスファルトタンクの壁面付着物の酸化蓄熱による火災」を紹介している。この事故原因は、ブローンアスファルトのタンク貯蔵温度が通常のアスファルトより50℃以上高い220℃程度であるため、ブローンアスファルト中の軽質分が長期の間にタンク天板内面に付着し、次第に酸化されて蓄熱発火に至った。
■ 石油系のアスファルトはつぎのような種類がある。
石油アスファルトは製油所において原油を精製して作られるが、減圧蒸留装置の残渣から製造されるのをストレートアスファルト、これを空気酸化して得られるものをブローンアスファルトと呼んでいる。ブローンアスファルトは高温の空気を吹き込み、軟化点を高くしたもので、耐候性と耐水性が高く、建築材料に使用される。
常温で使用できるようにストレートアスファルトを灯油や軽油でカットバックさせたのが、カットバックアスファルトと呼んでいる。カットバックアスファルトは、通常、アスファルトと溶剤を混ぜて骨材を常温で混合する。道路舗装作業後、溶剤が気化することで強度が得られるが、大気汚染の問題や危険性のために使用されることは少ない。
所 感
■ 事故原因は調査中となっているが、アスファルトの通常の貯蔵管理に比べ、つぎのような問題があるのは明らかである。
● アスファルトに軽油であるディーゼル燃料を混合し、危険性を高めた液体としている。
● このアスファルト(いわゆるカットバックアスファルト)をすぐに出荷するのではなく、長期貯蔵している。
● 貯蔵温度が200℃と高い。(ストレートアスファルトであれば、通常、170~180℃である)
このような条件であれば、つぎのような危険性に至る恐れがある。
● ディーゼル燃料中の軽質ベーパーが発生し、タンク上部で爆発混合気を形成する。
● 軽質分が長期の間にタンク屋根裏面に付着して酸化されて蓄熱発火する。
今回の爆発火災は、過去に起こった事故と同種の事例と思われる。
■ 発災事業所の会社形態は、ALMホールディング社ーミッドウェスト・フューエル社ーミッドウェスト・インダストリアル・アスファルト社となるが、実態は曖昧でアスファルトの取り扱いに関する知識・経験の不足した管理組織であるように思われる。
ALMホールディング社長の発言や取組み姿勢には誠実さがみられるが、事故を起こす前に、過去の貴重な事故事例を活かす組織が大切であることを示す事例といえよう。
備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Jrn.com, Fire at La Crosse Fuels Plant
Extinguished, November 19, 2014
・StarTribune.com,
Explosion at Fuels Plant in Western Wisconsin Felt for Miles, Fire
Extinguished, November 19, 2014
・WinonaDailyNews.com,
Fire Extinguished after Morning Explosion Rocks La Crosse, November 19,
2014
・News8000.com,
La Crosse Fire Dept. Investigating Cause of Explosion in La Crosse, November
19, 2014
・MyFox.Twincities.com,
Explosion at La Crosse, Wis. Chemical Plant, November 20, 2014
・Weau.com, Eight Employees inside La
Crosse Plant during Explosion, November 20, 2014
・Weau.com,
Investigation Continues at Midwest Industrial Asphalt, November 24, 2014
・Wxow.com,
Investigation Continues into Tank Explosion at Midwest Fuels, November 25, 2014
・Firehouse.com,
Wis. Asphalt Tank Explosion, Fire Probed, November 25, 2014
後 記: 最近紹介した米国ワイオミング州におけるタンク事故の情報が曖昧な報道記事だったのに比べると、今回は複数の記事を整理しなければなりませんが、タンクのサイズや容量などの基本データを含め、事故状況を考えるだけの情報が揃いました。人がほとんど住んでいない場所と避難を呼びかけねばならない町での事故の違いでしょうね。今回は、発災場所を地図で示した情報や発災タンクの写真(鎮火後を含め)も多数あり、全体を理解しやすかった事故だといえます。
その中で、わかりにくかったのは発災事業所の会社名でした。メディアによって違っており、記事に出てくる会社名をインターネットで調べていって、ようやく3社の関係がわかりました。そのお陰で、発災事業所のアスファルト事業が既設エリアの中に比較的新しく増設されたようだということがわかりました。これによって、なぜアスファルトを扱う事業所が基本的なアスファルトに関する知識不足を感じさせる疑問が薄くなりました。
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