このブログを検索

2024年8月11日日曜日

米国テキサス州で配管漏れで爆発、イソブチレンタンクに延焼、死傷者3名(原因)

 今回は、今から約5年前の201942日(火)米国テキサス州ハリス郡クロスビーにあるKMCO社の化学プラントでイソブチレンが爆発して火災になったが、この事故について米国CSB(化学物質安全性委員会)が202312月に原因調査の報告書を公表した内容について紹介します。2019年当時の事故情報については、「米国テキサス州で配管漏れで爆発、イソブチレン・タンクに延焼、死傷者3名」20194月)を参照してください。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)クロスビー(Crosby)にあるKMCO社(KMCO LLC)の化学プラントである。 KMCO社は1975年に設立された化学会社である。

■ 発災があったのは、KMCO社のイソブチレン装置内の配管やタンク設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 201942日(火)午前1045分頃、KMCO社のイソブチレン装置内の配管で爆発があり、火災になった。すぐに、近くのイソブチレンの入った横型タンクに延焼し、さらに近くにあった貯蔵倉庫に延焼した。貯蔵倉庫の中には、固体で燃焼性のあるケミカルが入っており、火が移ったものとみられる。空には黒煙が立ち昇った。

■ 発災に伴い、ヒューストン消防署、クロスビー消防署などの公設消防隊が出動した。 KMCO社は緊急事態対応の指揮所を開設した。対応チームと公設消防は、火災を封じ込めようと活動した。

■ 発災に伴い、1名が死亡し、2名の重傷者が出た。亡くなったのは、KMCO社の運転部門の従業員で、現場において死亡が確認された。爆風で亡くなったものとみられる。ケガをしたふたりは救急ヘリコプターで病院に搬送された。

■ 事故発生により、当局は工場から1マイル(1.6km)以内の住民と学校の生徒に屋内に留まるように勧告した。クロスビーの学校では、校内の暖房、換気、空調システムのすべてを止め、さらに追加の安全予防策として、できる限りドアの密閉を強化した。

■ 火災は、約5時間半経った午後420分に消された。しかし、消防隊はホットスポットによる再引火に留意した。

■ KMCO社は事故後、火災の経過についてイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語った。

被 害

■ イソブチレン装置内の配管やタンクが焼損し、内部の油が焼失した。 また、貯蔵倉庫の内部に保管されていたケミカルが焼失した。  

 3名の死傷者が出た。1名が死亡したほか、2名は重傷である。このほかに、少なくとも28名の従業員が負傷した。消防隊に数人の負傷者が出たといわれている。

 プラント近隣の住民と学校の生徒が一時、屋内待機した。

< 事故の原因 >

■ イソブチレン装置の配管系に設置されていた鋳鉄製Y型ストレーナーが過剰内圧による脆性破壊(brittle overload fracture)によって破損し、イソブチレンの漏洩が発生し、蒸気雲が形成された。この可燃性の蒸気雲が、近くの密閉性の低い建物内の電気機器と接触して発火し、爆発したとみられる。


< 対 応 >

■ 202312月、米国CSB(化学物質安全性委員会)は、KMCO社の生産施設で発生した爆発・火災事故に関する原因調査の報告書を公表した。概要はつぎのとおりである。 

 ● 201942日、KMCO社は潤滑添加剤として硫化イソブチレンを生産していたが、配管の一部に亀裂が生じ、そこからイソブチレンが漏れ出し、可燃性の蒸気雲が形成され、それが発火して爆発・火災が発生した。

 ● KMCO社の従業員1名が死亡、2名が重傷を負った。少なくとも28名の他の従業員も負傷した。爆発とその後の火災により、KMCO社の施設の一部が大きな被害を受けた。

 ● 爆発は近隣の住宅を揺らし、周辺地域全体に響き渡り、地元当局は施設から半径1マイル(1.6km)以内の住民に対し、4時間以上にわたり屋内退避命令を出した。

■ 米国CSBの報告書では、 イソブチレン配管系に設置されていたY型ストレーナーが過剰内圧による脆性破壊(brittle overload fracture)によって破損し、イソブチレンの漏洩が発生したと判定された。具体的には、鋳鉄製のY型ストレーナーは、KMCO社におけるイソブチレン配管系の他の部分と異なり、圧力開放設備が無く、高圧条件から保護されていなかった。そのため、おそらく液体の熱膨張が原因でY型ストレーナーの内部圧力が高くなり、破裂してイソブチレンが放出され、蒸気雲が形成された。この可燃性の蒸気雲は、近くの密閉性の低い建物内の電気機器と接触して発火したと考えられる。

■米国CSBの報告書では、重大な事故につながった要因として、つぎのような 3つの安全上の問題を指摘した。

 ① 緊急時対応; KMCO社の手順とトレーニングでは、緊急対応時にオペレーターが果たす役割について適切な制限をしていなかった。KMCO社のプラント文化は、現場の緊急時対応チームが集まって検討する前に、装置オペレーターがすぐに動いて漏洩を止めることに依存していた。こうした素早いコミュニケーションや動きは、多くの作業員を危険から遠ざけるのに役立ったが、素早く動いた作業員は危険にさらされていた。KMCO社 は、化学物質の漏洩を緊急に止めるために自らを危険にさらすことがないよう、明確な方針を定めて作業員をトレーニングしていれば、201942日の被災状況を軽減できたはずである。

  遠隔での縁切り; Y型ストレーナーが破裂したとき、KMCO社の作業員は、耐爆の計器室などの安全な場所からイソブチレンの漏洩を止めるために必要な設備(安全装置)を保有していなかった。 

 ③ 危険性評価(ハザード評価);  危険性評価は、プロセス安全管理プログラムの中でもっとも重要な要素のひとつである。KMCO社の危険性評価では、Y 型ストレーナーが鋳鉄製であることを見落していたか、よく理解していなかった。鋳鉄は脆い材質であり、既存の業界標準や事例集では、KMCO社のイソブチレン系のような危険性の用途では使用しないよう警告している。

■ 米国CSBの主任調査官は、「KMCO社における安全上の問題を明らかにするだけでなく、報告書では、同様の事故を防ぐのに役立つ7つの重要な安全上の教訓について指摘している。その教訓のひとつは、運転員の安全を確保するという目的であり、事故の影響を最小限に抑えるため漏洩放出物を迅速に隔離するという目的は、互いに排他的であってはならないということです。安全システムを堅固に適用するとともに、効果的な緊急対応プログラムを確立することでどちらも達成できます」と述べている。

■米国CSBの報告書で、同様の事故を防ぐのに役立つ7つの安全上の教訓は、つぎのとおりである。

 ① 鋳鉄は脆い材料として広く認識されており、可燃性や有毒なケミカルなど危険性のある流体には使用すべきでない。

 ② 配管系については、液体の熱膨張など危険性の生じる可能性がある高圧からの保護を装備すべきである。たとえば、 API Standard 521Pressure-relieving and Depressuring Systems)では、液体の熱膨張の危険性が高い場合は、圧力開放装置の設置を推奨している。

 ③ 信頼性の高い設備警報システムは、運転員に危険があることを警告し、緊急時のコミュニケーションをとるのに有効で、人々の生命と健康を守るために役立つ。

 ④ 遠隔での縁切り設備が設置されていないような場合、化学物質の放出を止めるために運転員が危険に身をさらすことがないようにするために、明確な方針とともに効果的なトレーニングが必要である。

 ⑤ 緊急事態対応計画では、手順やトレーニングを含めて、工場の運転員が対応すべき事象と、資格をもった緊急事態対応チームが対処しなければならない緊急事態を明確に区別する必要がある。

 ⑥ 作業員の安全を確保するという目標と、事故の影響を最小限に抑えるために放出を迅速に縁切りするという目標は、相互に排他的であってはならない。どちらも、堅固な安全システムをつくり、効果的な緊急対応計画を実施することで達成可能である。遠隔操作の緊急遮断弁を適切な場所に設置しておくと、運転員は安全な場所から放出をすばやく止めることができる。

 ⑦ 過去の事故は、設備やシステムに内在する問題の警告サインとなる場合がある。企業は、これらの以前の警告をはっきりと認識して対処し、根本的な問題を特定して修正することで、将来の事故を防ぐことができる。

■ 201942日の事故後、KMCO社は破産を申請し、現在は廃業した。アルティビア・オキサイド・ケミカル社(Altivia Oxide Chemicals, LLC)が 2020年にクロスビーにある施設を購入し、事故に関係したプロセスを解体することを米国CSBに通知した。そのため、米国CSBは報告書においてKMCO社への勧告事項を発表していない。

 とはいえ、米国CSBは、アルティビア社に対して報告書をよく読み、旧KMCO社の施設において事故につながった要因やそこから得られる教訓を理解するよう求めている。さらに、今後アルティビア社が事故に関係したプロセスや設備を再開する場合、同社は事故を引き起こした事実・条件・環境および事故の深刻さの一因となった状況が繰り返されないようにすべきである。

補 足

■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約470万人の郡である。

「クロスビー」(Crosby)は、ハリス郡東部に位置し、人口約3,400人の町である。

■「KMCO社」(KMCO LLC)は、1975年に設立した化学会社で、クーラント(冷却剤)、ブレーキ・フルード製品、油田業界向けの化学薬品などを製造している。クロスビー工場は2012年に買収して保有したもので、従業員は180名である。工場施設には、貯蔵タンク600基、鉄道タンク車250台、反応塔28基などがある。

 20194月事故後、KMCO社は破産を申請し、廃業した。その後、2020 年にアルティビア・オキサイド・ケミカル社(Altivia Oxide Chemicals, LLC)がクロスビーにある施設を購入し、事故に関係したプロセスを解体することを米国CSBに通知した。

■「発災タンク」は、前回では石油生産施設の円筒タンクとし、グーグルマップで調べて直径約3.5m×高さ約6mとし、容量は約58KLと推定していた。しかし、今回の報告書によると、イソブチレン用で炭素鋼製の横型タンクで、内径12フィート(3.65m×長さ80フィート(24.4m)、容量70,000ガロン(265KL) であることがわかった。

所 感

■ 事故の原因は、イソブチレン配管系に設置されていた鋳鉄製Y型ストレーナーが過剰内圧による脆性破壊(brittle overload fracture)によって破損し、イソブチレンが漏洩して発生したものだという。化学プロセス配管系のストレーナーに鋳鉄製を使用していたということに唖然とした。しかも、技術力のある米国の2019年に起こった事故とは思えない。

■ 一方、米国らしいといえば、そうなのだが、 発災事業所のKMCO社が事業撤退し、他社に施設を売却したため、原因調査の報告書の対象事業者がいなくなり、宙に浮いてしまっている。米国CSBは、施設を購入したアルティビア社に対して報告書をよく読み、旧KMCO社の施設において事故につながった要因やそこから得られる教訓を理解するよう求めているが、これで事故の教訓が本当に活かされるのだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hazmatnation.com, Report: Lack of Training, Procedures Cited in Deadly 2019 Explosion,  January  10,  2024

    Csb.gov, Fatal Equipment Rupture, Explosion, and Fire at the KMCO Chemical Facility  Investigation Report,  December  21,  2023


後 記: 報告書を読み、鋳鉄製ストレーナーが現代のプロセス装置で使用されていたことに驚きました。しかも、当事者であるKMCO社が施設を売却し、事業から撤退してしまっています。米国らしいといえば、そうなのでしょうが、ドライな考え方で、日本では考えられないビジネスライクなのでしょう。このため、事故調査の報告書の存在意義が半減してしまっています。ハード面の原因ははっきりしていますが、ソフト面の原因(会社の方針など)について熟読せよと言っても、半身に構えてしまうのは、仕方ないように思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿