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2024年6月6日木曜日

ルーマニアの製油所で環境保全を考慮したドーム型内部浮き屋根式タンク建設

 今回は、2024年、東南ヨーロッパにあるルーマニアのOMVペトロム社が製油所に使用時の安全性を高め、環境への排出ベーパーを最小にした容量60,000KLのドーム型内部浮き屋根式タンクを建設した話題を紹介します。

< はじめに >

■ ルーマニア(Romania)のOMVペトロム社(OMV Petrom)はペトロブラジ製油所(Petrobrazi Refinery)に国内最大の容量60,000KLのドーム型内部浮き屋根式タンクを新設した。使用時の安全性を高め、環境への排出ベーパーを最小にしたタンクである。

■ OMVペトロム社は、 2005年以来、プロイェシュティ(Ploieşti)近郊にあるペトロブラジ製油所に20億ユーロ(約3,400億円)以上を投資してきた。この投資額の3分の1は環境負荷の低減に役立っている。

< OMVペトロム社について >

■ OMVペトロム社はルーマニアの石油・ガス会社であり、東南ヨーロッパにおける大きな総合エネルギー企業である。グループにおける2023年の年間における炭化水素生産量は約4,100万原油換算バレルである。同社は年間450万トンの精製能力を有し、860MWの高効率ガス火力発電所を運営している。また、ルーマニア国内や近隣諸国の石油製品市場において、OMVPetrom2つのブランドで約780か所の給油所を通じて事業を展開している。

■ 東南ヨーロッパの大手企業・銀行・保険会社を紹介するビジネス情報メディア“See News” が出した“SEE TOP 100ランキングにおいて、OMVペトロム社は、売上高134億ユーロ(約22,800億円)、利益21億ユーロ(約3,490億円)で2年連続トップの座を維持した。

■ OMVペトロム社は、2007年以降、事業戦略の中に企業の社会的責任の原則を組み込むようにした。2007年~2023年までの間に、ルーマニアの環境保護、教育、保健衛生、地域開発に重点を置いた地域開発のために約16,000万ユーロ(273億円)を充ててきた。

■ OMVペトロム社は、2023年末時点、ルーマニアの株主が43%以上の株式を保有しており、うち20.7%はルーマニアのエネルギー省が所有しており、22.5%はルーマニアの年金基金が持っている。これに約50万人の個人投資家やルーマニアの団体が参画している。OMVペトロム社の株式の51.2%はオーストリア最大の上場企業であるOMVアクツィエンゲゼルシャフト社(OMV Aktiengesellschaft)が保有し、残りの5.6%は外国投資家が所有している。 OMVペトロム社の全株式のうち、28.1%はブカレスト証券取引所において市場で自由に売買できる浮動株である。

■ OMVペトロム社は、 20207月、気候変動のリスクと機会について気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial DisclosuresTCFD)がまとめた提言内容を支持すると発表した。同社は、毎年、これらの提言の実施状況を報告している。

■ OMVペトロム社の最高経営責任者は、グリーン燃料への移行は一夜にして実現するものではないので、2030年までは従来型燃料の需要が堅調に推移するだろうと語っている。グリーン燃料とは、二酸化炭素(CO2)や水素(H2)などの再生可能な資源を原料とした燃料で、燃料を燃焼しても大気中のCO2量が増加しないカーボンニュートラルの次世代型燃料として期待されている。

< 新しいタンクの建設 >

■  OMVペトロム社はペトロブラジ製油所に、ルーマニアで最大のドーム型内部浮き屋根式の原油タンクを新設した。このタンクは、使用時の安全性を高めるため、この分野における最新の基準に従って設計・建設された。

■ 貯蔵タンクは、ベーパー排出量を98%削減する断熱システムを備えており、重量53トンのアルミニウム製ドーム構造となっている。このタンクの特長は、二重壁で二重底面、アルミニウム製ドームカバー、ベーパー排出を抑えるための内部浮き屋根である。

■ プロジェクトの建設には約2年を要し、投資額は2,300万ユーロ(39億円)超である。

■ タンクは、10階建てのビルよりも高く、直径72m×高さ15mで、総容量60,000KLである。これは50リットルの燃料タンクに120万回分に相当する油を貯蔵することができる。アルミニウム製ドームの所定の位置への吊り上げは、ルーマニアで初めて操作卓による28台のリフティング装置を制御する空気圧システムが使用された。この種のドームとしてはルーマニアでもっとも大きく、重量が53トンあり、印象的な構造物である。


■ OMVペトロム社の精製・マーケティング担当の取締役は、「ペトロブラジ製油所では、熱分解法のディレードコーキング装置に使用する新しいコークスドラムの設置など近代化を進めていますが、新しい石油タンクの建設はもうひとつの重要なプロジェクトです。これらの投資は、製油所の安全な運営を確保して、ルーマニア地域の市場への供給に必要な燃料在庫の能力を強化するためのものです。このプロジェクトは、ベーパーの排出量をゼロに近づけるという環境面でも重要な要素を持っています」と語っている。

 注;プロセス装置の新しいコークスドラムの設置はユーチューブに建設状況が投稿されている。(YouTubeCoke drums replacement at Petrobrazi Refinery - Turnaround 2023‐2023/08/25を参照)

■ この新しい貯蔵タンクの建設状況はユーチューブに投稿されている。(YouTubeA new oil tank at Petrobrazi refinery2024/05/20を参照)

所 感

■ 環境保全に徹底した貯蔵タンクの設計・建設である。タンク内の液側の断熱を考慮して側板を二重化し、底板も二重化し、気相側の断熱はアルミニウム製ドームカバーと内部浮き屋根でベーパー排出を抑えた貯蔵タンクである。ベーパー排出量を98%削減するという。欧州は環境に配慮した施策を展開していることは知っていたが、東南ヨーロッパのルーマニアでもこのような環境保全の対応をしている。

■ ルーマニアはロシア‐ウクライナ戦争に近いところであり、はじめは二重壁で二重底面の貯蔵タンクというので、側板へのテロ攻撃に関する対策かと思った。実際、「タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)」20162月)では、テロ攻撃でタンク外板に穴が開いたが、タンク内板に被害はなく、貯蔵機能は維持されていた。

■ 今回の容量60,000KLのドーム型内部浮き屋根式タンクは全面火災になりにくいタンクのようにみえるが、仮に全面火災に至るような事故になれば、当然、大容量泡放射砲システムが必要になる。直径72mであり、日本の基準では放射能力40,000リットル/㎡の泡放射砲が必要となる。実際、2021年の「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」202111月)では、大容量泡消火砲が出動した。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Omvpetrom.com, OMV Petrom commissioned the largest crude oil storage tank in Romania, at Petrobrazi refinery,  May 20,  2024

    Tankstoragemag.com, OMV Petrom Commissions Romania’s Largest Crude Oil Storage Tank,  May 22,  2024

    Romania-insider.com, OMV Petrom commissions largest crude oil tank in Romania,  May 21, 2024

    Seenews.com, OMV Petrom commissions Romania's largest crude oil tank,  May 20, 2024

    Storageterminalsmag.com, OMV PETROM COMMISSIONED THE LARGEST CRUDE OIL STORAGE TANK IN ROMANIA, AT PETROBRAZI REFINERY,  May 20, 2024

    Energynomics.ro,  OMV Petrom: Investment of 23 mln. euro in the largest crude oil storage tank in Romania, May 21, 2024

   Iinspenet.com, OMV Petrom inaugurated the largest crude oil storage tank in Romania,  May 22, 2024


後 記: OMVペトロム社は企業PRに積極的な会社だと思います。もともと本資料はブカレスト証券取引所に提出したプレスリリースです。もちろん、自社のウェブサイトにも掲載されています。このため、“Tank Storage Magazine”“Storage Terminals Magazine”などの情報誌が取り上げています。さらに、2年かかったタンク建設時の状況をユーチューブに掲載しています。単なる思い付きでまとめたものではないことがわかります。

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