今回は、2023年10月2日(月)、英国オックスフォードシャー郡カシントンにあるセバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラントの消化層タンク(バイオガス・タンク)が落雷によって爆発・火災を起こした事例を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、英国(England)オックスフォードシャー郡(Oxfordshire)のオックスフォード(Oxford)北部のカシントン(Cassington)にあるセバーン・トレント・グリーン・パワー社(Severn
Trent Green Power)のプラントである。このプラントは、食品廃棄物をグリーンエネルギー源であるバイオガスに変換する施設である。
■ 事故があったのは、セバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラント(Food Waste Recycling Plant)の消化層タンク(バイオガス・タンク)である。タンクはコンクリート製の円筒型で、上部にはプラスチック製の緑色のカバーで覆われている。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2023年10月2日(月)午後7時20分頃、食品廃棄物リサイクルプラントの消化層タンク(バイオガス・タンク)に落雷があり、大規模なガス爆発が発生した。当時、この英国南部の地域は悪天候で雷雲が通っていた。
■ 目撃者によると、プラントで爆発が起こった後、ファイヤボールが夜空を照らしたという。オックスフォードの住民のひとりは、 「キッチンに座っていたら、部屋全体がまばゆい光で照らされ、そのあと空気が切り裂かれるような激しい雷鳴がとどろきました。窓から外を見ると、まるで空がオレンジ色に脈打っているようでした」と語った。爆発の音は20マイル(32km)離れたところからも聞こえた。火災が確認される前に2回の爆発音が聞こえたという報告もある。
■ 発災に伴い、消防隊が消防士40人と消防車両6台とともに出動した。消防隊のほかに救急車4台が待機した。消防隊は、はしご車と消火水タンク付き車両を使って消防活動を行った。
■ プラスチック製カバーが火災によって完全に破壊された3基の消化層タンク(バイオガス・タンク)からはガスが噴き出していたため、消防隊は3基のタンク内の火災に対処した。
■ 警察は、 幹線道路のA40号線についてウルバーコートとアインシャムの間を通行止めとした。また、「安全を確保するため、近隣住民は窓やドアを閉め、自宅に留まるように」という広報を流した。
■ 近隣のウィットニー、バーフォード、チッピング・ノートン、ミルトン・アンダー・ウィッチウッドでは、停電になったという。この停電は爆発事故による影響ではなく、悪天候によるらしい。
■ 事故に伴う負傷者は出なかった。
被 害
■ 消化層タンク(バイオガス・タンク)3基が損傷した。
■ 負傷者は出なかった。
■ 近くの幹線道路が交通遮断された。近隣住民には、「安全を確保するため、窓やドアを閉め、自宅に留まるように」という広報が流されたが、避難指示は出なかった。
< 事故の原因
>
■ タンクの発災は落雷によるものとみられる。
< 対 応 >■ 10月3日(火)の未明、消防隊は5時間以上かかって消火した。消防士は一晩中現場にいて、10月3日の朝も現場に待機した。地上では状況がよく分からなかったが、ドローンによる空撮映像では、5基の消化層タンク(バイオガス・タンク)のうち3基のタンクは溶けたプラスチックのカバーの残骸がタンクを覆っているのが見えた。
■ 10月3日(火)、消防署によると、火災の調査と監視は数日間続く予定だという。消防隊は、規模を縮小しており、残っている消防車は1台のみである。
■ 10月3日(火)、警察官は午前4時頃に現場を去り、A40号線の通行止めは解除された。
■ 10月3日(火)、セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、火災が消えて現場は安全な状態になっているが、一般の人たちは現場に近づかないよう呼びかけた。
■ 10月5日(木)、セバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラントは、2023年6月に避雷針マストの設置がオックスフォードシャー郡議会から許可されていたことが分かった。メディアのBBC は、10月2日(月)に起こった事故の前に、高さ22mの避雷針マストが設置されていたかセバーン・トレント・グリーン・パワー社に問い合わせたが、同社は確認を拒否した。
■ セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、食品廃棄物リサイクルプラントをすべての業界標準(Industry Standards)に沿って運営していたと述べている。さらに、消化層タンク(バイオガス・タンク)のタンクには、雷に対する接地保護装置を備えていたと付け加えた。
■ オックスフォードシャー郡議会から6月に避雷針マストの設置が許可されたが、2月の申請段階の審議では、避雷針マストによって消化層タンク(バイオガス・タンク)や施設への落雷のリスクが軽減されると述べられていた。
■ 英国の安全衛生庁( Health and Safety Executive )は、セバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラントへの立入検査を実施する予定だという。
■ 10月5日(木)、セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、食品廃棄物リサイクルプラントの一部について再稼働しており、補修についてはタンク3基の上部に限定されていると語った。
■ セバーン・トレント・グリーン・パワー社は「すべての業界標準に沿って建設し、運営していた施設の現場は、迅速かつ安全に封じ込められた」といい、「落雷があったときに何が起こったのかよく理解するために、私たちは消防署などと協力していきます」と語っている。
一方、業界団体である嫌気性消化生物資源協会(Anaerobic Digestion
Bioresources Association)は、「悪天候など厳しい気象条件の頻度が増加傾向に対処するため、業界標準を強化する必要があるかどうかの見直しを主導する」意向であると述べた。また、オックスフォードシャー消防局は、同様の事故が再発しないようにするための措置を講じることができるかどうかを調査していると述べた。
■ 2016年には、ウォーリングフォード(Wallingford)近郊のベンソン(Benson)にあるアグリバート社(Agrivert)が操業する廃棄物消化槽タンクに落雷があり、貯蔵されていたメタンに引火し、20分間燃え続けて屋根を損壊する火災が発生した事例がある。
■ ユーチューブには、爆発時の夜景やドローンからの空撮映像などが投稿されている。主な動画は、つぎのとおりである。
● YouTube, 「Fireball
erupts over Oxford skyline in gas explosion caused by lightning strike」(2023/10/03)
● YouTube, 「Drone
footage shows extent of damage from biogas tank explosion」 (2023/10/03)
● YouTube, 「Oxfordshire
explosion: Drone footage shows major destruction」 (2023/10/03)
補 足
■「英国」(England)は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)を構成する4つの国(カントリ)の一つである。人口は約5,300万人で、面積はグレートブリテン島の南部の約三分の二を占める。北はスコットランド、西はウェールズと接し、北海、アイリッシュ海、大西洋、イギリス海峡に面している。
「オックスフォードシャー郡」(Oxfordshire County) )は、英国南東部にあり、オックスフォードシャー州とも呼ばれており、人口約69万人の地域である。
「カシントン」(Cassington)は、オックスフォード(Oxford)北部に位置し、人口約750人の村である。
■「セバーン・トレント・グリーン・パワー社」(Severn Trent Green
Power)は、2017年に設立した再生可能エネルギー会社で、食品廃棄物のリサイクルとグリーン廃棄物の堆肥化ネットワークを運営している。セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、11 の嫌気性消化施設と 5つの堆肥化施設を所有しており、 65以上の地方自治体や企業に食品廃棄物リサイクル ソリューションを提供している。カシントンにあるプラントでは、毎年 50,000トンを超える固形および液体廃棄物を処理しており、 2.1メガワットの電力を地域へ供給している。なお、英国には、現在、バイオガス・プラントの総数は約660 箇所あり、電力を供給している稼働中のバイオガス・プラントが約109箇所あるという。
バイオガス変換は気密容器内で廃棄物を発酵させ、そこで嫌気性呼吸をさせてガスを発生させる。その後、ガス貯蔵タンクに集められ、暖房や電気のエネルギーとして利用される。下図を参照。
■「発災タンク」は、緑色のプラスチック製カバーが溶けた3基のタンクのうちのいずれかであるが、最後まで白煙が漂っている一番南端のタンクと思われる。日本では発酵槽と呼ばれる消化層タンク(バイオガス・タンク)は、5基とも同じ大きさで、直径は約32mであり、高さを5mと仮定すれば、容量は4,000KLクラスである。通常の鋼製の円筒型タンクと異なり、タンク本体はコンクリート製である。コンクリート製円筒型タンクの例は下図を参照。
所 感
■ 英国の嫌気性消化生物資源協会は「悪天候など厳しい気象条件の頻度が増加傾向に対処するため、業界標準を強化する必要があるかどうかの見直しを主導する」という。すでに、事業者であるセバーン・トレント・グリーン・パワー社は避雷針を設置する計画だった。「悪天候など厳しい気象条件の頻度が増加傾向」は日本だけでなく、英国もそのように感じているようだ。日本でも、コンクリート製の消化層タンク(バイオガス・タンク)のような設備があれば避雷針を設置すべきであろう。
■ 一方、大きな爆発事故が起きている割に、コンクリート製の消化層タンク(バイオガス・タンク) の被害状況は小さい。燃焼物がバイオガス(メタンが主)であり、プラスチック製のタンク上部に溜まっていたバイオガスが爆発で消費したら、タンク内部からのバイオガス供給は極端に少なくなることによる。この点が油の貯蔵タンクと異なり、リスクが大きくないといえる。
■ 逆に、リスクが大きくない所為で消化層タンク(バイオガス・タンク)のタンク間距離が短い。被災写真を見ても、消防車両がよくタンク地区に進入していったというほどの狭さである。落雷によって発災したのは一番南端のタンクと思われるが、タンク間距離が短いため、隣接タンク2基のプラスチック製カバーに延焼したとみられる。
■ セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、すべての業界標準(スタンダード)に沿って建設し、運営していた施設だという。この種の再生エネルギー施設は積極的に展開していくべきものであるが、今回の事例は食品廃棄物リサイクルプラント分野において貴重な教訓として活かされるだろう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Bbc.com, Explosion at Oxfordshire recycling plant after lightning
strike, October 03,
2023
・Bbc.com, Oxfordshire explosion: Plant had permission for lightning
mast, October 05,
2023
・Dailymail.co.uk, Oxford locals reveal they heard massive blast at
green energy plant TWENTY miles away - as aerial images show devastation of
site struck by lightning and video shows moment huge fireball was sent into the
sky, October 03,
2023
・Oxfordmail.co.uk, Oxford explosion update from Severn Trent Green
Power, October 03,
2023
・Theguardian.com, Lightning strike causes huge explosion at Oxford
recycling plant, October 03,
2023
・Mrw.co.uk, Lighting strike
causes explosion at food waste biogas plant,
October 03, 2023
・Reuters.com, UK police attending gas facility fire likely caused by
a lightning strike, October 02,
2023
・News.sky.com, Oxfordshire explosion: New pictures show damage caused
by lightning strike at recycling plant,
October 02, 2023
・Wionews.com, Oxfordshire Explosion: Lightning strike causes fire at
recycling plant biogas tank,
October 02, 2023
・Bioenergy-news.com, Power outage after lightning strikes Oxfordshire
AD plant, October 02,
2023
・Tankstorage.com, Lightning strike on gas tank causes fire in
Oxford, October 03,
2023
・Standard.co.uk, Lightning strike causes huge explosion at recycling
plant in Oxfordshire, October 03,
2023
・Uk.finance.yahoo.com, Fire service reveal extent of damage to power
station after explosion, October 03,
2023
・Uk.news.yahoo.com, Shocking aftermath of lightning strike gas
explosion, October 03,
2023
後 記: 最初にプラスチック製カバーが溶けている被災タンクの写真を見たとき、よく理解できませんでした。爆発時の夜景の映像との乖離(かいり)が大きく、これまでの油タンクの爆発・火災状況とずいぶん違っていました。そこで、はじめに食品廃棄物リサイクルプラントについて調べていきました。そうすると、「食品廃棄物から再生可能エネルギーを創出!地域循環型社会を目指すバイオフードリサイクル」というキーワードが環境省から出ていました。今回の事例は最先端技術であるプラントの最新の事故情報でした。日本の牧之原バイオマス発電所(下記資料を参照)よりはるかに規模の大きい施設が英国では操業されていたということです。 EU(欧州連合)から離脱していた英国が地域循環型社会を目指していることを知った事例でした。
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