(写真はCaller.com
から引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国テキサス州(Texas)コーパスクリスティ(Corpus
Christi)のイングルサイド(Ingleside)にある旧ファルコン製油所(Falcon Refinery)のタンク施設である。
資産の所有権はナショナル・オイル・リカバリー社(National
Oil Recovery Corp.=NORCO)にあった。 NORCOは、さらにスーペリア・クルード・ギャザリング社(Superior
Crude Gathering Inc.)に3基のタンクをリースしていた。
■ 旧ファルコン製油所の地区はイングルサイド市域のすぐ外側に位置し、およそ104エーカー(42万㎡)の広さがあった。この地区の北東と南西は湿地帯に隣接し、北と南東は住宅地と隣接し、北西に廃棄された製油所、南西に建設会社があった。ファルコン製油所は、2002年、環境保護庁(Environmental Protection
Agency;EPA)から有害物質汚染地域であるスーパーファンド・サイト(Superfund Site)に指定された。スーパーファンドとは、国土の中でコントロール不良の有害廃棄物地域をクリーンアップするための連邦政府のプログラムである。計画では2010年までに当該地域はクリーンアップを終える予定であった。
■ 発災があったのは、旧製油所の原油用の貯蔵能力55,000バレル(8,700KL)のタンクNo.13である。このタンクはスーペリア・クルード・ギャザリング社にリースされていた3基のうちの1基で、タンク内には原油が52,000バレル(8,200KL)保管されていた。
コーパスクリスティのイングルサイドの旧ファルコン製油所付近 (発災当時)
(写真はGoggleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2010年2月9日(火)午後4時頃、 原油用の貯蔵能力55,000バレル(8,700KL)のタンクNo.13が破損し、保管されていた52,000バレル(8,200KL)の原油が流出し始めた。
目撃者によると、 55,000バレル(8,700KL)のタンクのベースに1つの破損個所があり、油がほとばしり出て、防油堤内へ流れ込んでいたという。50,000バレル(7,900KL)の油がタンク周囲の防油堤内に流れ込んだが、一部はほかのタンクへ移送された。
■ タンクNo.13から漏洩していたため、スーペリア・クルード・ギャザリング社の従業員がタンクNo.15への移送を試みて、何とか28,000バレル(4,500KL)を移送した。ところが、この移送作業中、タンクNo.15が破損しているのが確認された。破損はタンク底近辺で生じており、油が犬走りを伝って流れ始めた。
(写真はCaller.com
から引用)
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■ さらに、防油堤に3個所の不具合があることが発見され、油は淡水池と沼地へ流れ込んでいった。タンクNo.15から油が漏れ出ているが確認されたのち、スーペリア・クルード・ギャザリング社はタンクに水を注入し、破損個所より上に油面が来るようにレベルを上げた。一晩中、レベルを維持することができ、油はそれ以上漏れ出てくることが避けられた。
■ タンクNo.13の南東の位置にあった淡水池を回収ポイントとして、約2,000バレル(300KL)の流出油が導き入れられた。2日間で約900バレル(140KL)の油を回収した。発災2日目の2月11日(木)に雨が降り、この雨によって回収作業がやりやすい方向に働いた。
雨が油を淡水池の方へ流し込み、油収集作業を楽にしたからである。
■ 2月11日(木)朝、“てんま船”が到着し、正午頃からタンクNo.15に入っていた28,000バレル(4,500KL)の油をてんま船へ移送し始めた。また、同時に、現場へバキューム車を持ち込み、タンクNo.13の防油堤に溜まった油の回収が行われた。一晩中の作業によって、防油堤に溜まっていた油のうち約2,000バレル(300KL)を回収した。その後、昼夜作業によって20,000バレル(3,000KL)の油の回収が試みられた。
■ 2月15日(月)の時点で、防油堤外の淡水池および用水路に残っている油は約4バレル(600L)程度となった。防油堤内には約1,000バレル(150KL)が残っており、油の溜まっている箇所に集中して回収作業が行われた。
■ 原油流出事故後、油まみれになっていたミミヒメウ1羽、クート2羽、ヒシビロガモ1羽の鳥が2月13~14日にかけて死んでしまった。ムスタング島の動物リハビリテーションセンターで野生動物管理グループによる徹底した努力にもかかわらず、4羽の鳥がバレンタインデー
の2月14日(日)に死んだ。5番目の鳥、ゴイサギサギも前の週に油流出現場で見つかり、手当てのため動物リハビリテーションセンターに運ばれたが、毒性の原油と関係ない病気で死んだ。
■ 油まみれになった鳥をきれいにして介抱することはかなり神経をつかう作業である。これが鳥にとって適切でなければ、日曜に見たように死んでしまう。鳥が油まみれになるということは不幸なことであり、あらゆる手立てをとってやるべきだし、油漏れの事故では、当然やるべきで、それが鳥に対して公平な立場の対処だと、動物リハビリテーションセンターは語っている。
野鳥の種類
(左からクート、ミミヒメウ、ゴイサギサギ、ハシビロガモ)
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被 害
■ 貯蔵タンク2基が破損した。
■ タンク内にあった原油が約7,900KLが流出し、環境汚染を生じた。
■ 事故に伴う負傷者は出なかったが、池や湿地に生息していた野鳥の幾羽が油まみれで死んだ。
< 事故の原因 >
■ 旧製油所の貯蔵タンクの保全不足だとみられる。
< 対 応 >
■ 環境保護庁(EPA)の緊急対応チームの現場コーディネータによると、ナショナル・オイル・リカバリー社(NARCO)はスーペリア・クルード・ギャザリング社に3基のタンクをリースしており、このタンクが流出事故を起こしているので、スーペリア社の油流出事故という解釈になるという。しかし、このようなタンク運用の進め方はスーパーファンド・サイトとして標準ではなかった。
■ 米国政府の独立した機関で国土の管理に携わっているジェネラル・ランド・オフィス(General Land Office)のコーパスクリスティ支部によると、2月9日(木)、スーペリア・クルード・ギャザリング社の従業員が1基の貯蔵タンクへ油を移送していたところ、午後4時頃、原油が防油堤内へ流出しているのを発見しているが、ジェネラル・ランド・オフィスには、2月10日(水)の午前7時半まで連絡されなかった。連絡を受け、ジェネラル・ランド・オフィスはチームを編成して現場へ駆けつけ、午前8時半に指揮所を設置した。同時に、ジェネラル・ランド・オフィスはテキサス環境品質委員会(Texas
Commission on Environmental Quality)へ環境(空気)モニタリングを依頼した。その後2時間ほどして問題ないことが確認でき、ジェネラル・ランド・オフィスはアセスメントを実施するための担当官を現場へ派遣した。
■ 油流出の対応はジェネラル・ランド・オフィスのほか、スーペリア・クルード・ギャザリング社、テキサス環境品質委員会、テキサス鉄道委員会(Texas
Railroad Commission)、テキサス州公園・野生生物管理局(Texas Parks & Wildlife)が協力して行われた。
■ ジェネラル・ランド・オフィスは、旧製油所の油流出現場における関心事が水から油を分離する段階を迎えれば、緊急事態の最終局面になるといい、2月17日(水)の終りまでに、ジェネラル・ランド・オフィスは撤収し、その後の長期間の環境改善についてはテキサス鉄道委員会に引き継ぐという。
(写真はCaller.com
から引用)
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油回収作業
(写真はCaller.com
から引用)
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油回収作業 (写真はCaller.com から引用) |
油回収作業 (写真はCaller.com から引用) |
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,780万人の州で、州都はオースティンである。
「コーパスクリスティ」
(Corpus Christi)はテキサス州の南部にある沿岸部の都市であり、人口は285,000人である。「イングルサイド」(Ingleside)はコーパスクリスティの南東地区に位置する町である。
テキサス州コーパスクリスティ(Corpus Christi)周辺
(写真はGoggleMapから引用)
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■ ファルコン製油所(Falcon Refinery)は精製能力40,000バレル/日で1980年に設立された。製油所は断続的に操業されたが、発災当時は廃棄製油所になっており、「スーパーファンド・サイト」にリストアップされていた。
現在の製油所地区をグーグルマップで見てみると、発災のあったタンク施設は残っている。使用されていない座屈した浮き屋根式タンクに隣接して、供用中とみられるタンクがある。どのような運用が行われているかわからない。
旧ファルコン製油所付近の風景 (発災当時前)
(写真はGoggleMapから引用)
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現在の旧ファルコン製油所のタンク施設付近
(写真はGoggleMapから引用)
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■ 米国では、ラブキャナル事件を契機に1980年代に「包括的環境対策・補償・責任法」を制定し、環境汚染の調査や浄化は米国環境保護庁が行い、汚染責任者を特定するまでの間、浄化費用は石油税などで創設したスーパーファンド(信託基金)から支出し、浄化を早く行うという施策をとっている。この法律を一般にスーパーファンド法と呼んでいる。環境保護庁が調査して汚染地域と決定した場所を「スーパーファンド・サイト」といっている。
スーパーファンド法は、環境汚染者が浄化費用を負担するという考え方でなく、浄化目的を確実に実行するために、潜在的責任当事者の範囲を定め、これに無過失連帯責任(厳格責任)を負わせるという基本思想に立っている。日本では、スーパーファンド法は公的資金を投入して、浄化を実施することとみられがちであるが、むしろ潜在的責任当事者の概念により、できるだけ公的資金の投入を避け、民間ベースで浄化を実施させるとともに、不良事業者の自然淘汰や廃棄物の適正処理に寄与しているとみるべきという。
■ 「ナショナル・オイル・リカバリー社」(National
Oil Recovery Corp.=NORCO)は、1991年に設立された民間の石油会社で、従業員は20名程度である。NORCOのもとに請負った「スーペリア・クルード・ギャザリング社」(Superior
Crude Gathering Inc.)は、1993年に設立した民間の石油卸企業に分類され、テキサス州コーパスクリスティをベースにした会社で、従業員は20名ほどである。この両会社と環境汚染処理の関係は不詳である。
■ 「ジェネラル・ランド・オフィス」(General
Land Office)は、米国政府の独立した機関で、国土の管理に携わっている。テキサス州にはテキサス・ジェネラル・ランド・オフィスがある。テキサス州の場合、メキシコからの独立後に設立され、当初の一般的な土地局の職務が拡大し、石油と天然ガスの掘削権の管理や近年では油流出防止に関する業務も行っている。
■ 「テキサス鉄道委員会」(Texas
Railroad Commission)は、名前が示すように元来は鉄道に関する公共業務を行うために設立された。その後、石油工業の発達によってパイプラインに関する業務を行うようになり、現在は鉄道、パイプライン、石油・天然ガス、石炭・ウランの鉱物資源に関する業務を行っている。
所 感
■ スーパーファンド法は、米国の環境汚染防止に関する取組み姿勢を表わしている。この法律をもとに関係機関がいろいろ活動していることは当該事例でうかがえる。しかし、スーパーファンド・サイトに指定し、環境汚染処理を実施中に、環境汚染を起こすという皮肉な結果もまた実情を示している。 どのような経緯で廃棄製油所のタンクを使用することになったか不詳であるが、適当な運用が行われていたか大いに疑問がある。
■ 日本でも、製油所の生産能力が過剰で製造プラントを停止(廃棄)するケースが出てきている。しかし、供給体制上、タンク施設はそのまま使用されることは多い。この観点でいえば、米国と法体系の違いがあるが、この事例は製油所停止後の貯蔵タンクの管理体制や保全を適切に行う必要性を示す事例だといえよう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Caller.com, Oil
Spill Cleanup in Ingleside Continues,
February 12, 2010
・BannedBooksCaféBlogspot.
com, Government Responds to Refinery Oil Spill, February
17 , 2010
・Kristy.
Com, Oil Spill in Ingleside, February
11, 2010
後 記: 当該油流出事故の起った2010年という年は、4月20日に米国ルイジアナ州のメキシコ湾沖合80kmの石油掘削施設が爆発事故を起こし、3か月間原油が流出し続けるという大きな環境汚染の問題のあった年です。この石油掘削施設爆発事故は、2016年に映画化され、「バーニング・オーシャン」と題して公開されました。この映画で描ききれなかった話は、「メキシコ湾原油流出事故の真実」としてDVDのドキュメンタリー映画として公開されました。これらの映画は、石油掘削施設の所要者であるBPの実名を明らかにし、経済性を優先した掘削工程に誤りがあったという内容になっています。
話が横道にそれますが、
「メキシコ湾原油流出事故の真実」の中では、米国議会の公聴会に石油メジャーのCEOが呼ばれ、各社であれば、事故は防げたかということが問われています。当時のエクソンモービルのCEOが今の米国国務長官レックス・ティラーソン氏です。メキシコ湾原油流出事故は防ぎきれなかったという主旨の答えで、石油掘削施設の事故を防ぎ得ないとする人が戦争を回避すべき国務長官になっていることに「オイオイ」と感じました。
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