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2017年11月14日火曜日

米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃

 今回は、2017年10月1日(日)、ネバダ州ラスベガスの大通りの野外コンサート会場に向けてマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から半自動ライフル銃を乱射し、観客58人が死亡、500人以上が負傷する事件が起ったが、この事件でホテルの部屋から銃撃する際、マッケラン国際空港の敷地にある燃料タンクに向けて発砲し、ライフルの銃弾2発が直撃していたというタンク事故を紹介します。
                  標的になったジェット燃料タンク  (写真はReviewjounal.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ネバタ州(Nevada)のラスベガス(Las Vegas)にあるマッケラン国際空港の敷地にある小型飛行機用の燃料貯蔵施設である。

■ 発災(被災)があったのは、燃料貯蔵施設のジェット燃料用固定屋根式タンクである。タンクは2基あり、1基当たりの容量は43,000バレル(6,800KL)である。タンクの運転管理はスイスポート・フューエリング社(Swissport Fueling)が行っている。
ラスベガスのマンダレイ・ベイ・ホテルの周辺 
(写真はGoogleMapから引用)
ジェット燃料タンクとマンダレイ・ベイ・ホテル  
(写真はNydailynews.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年10月1日(日)午後10時過ぎ、ネバダ州ラスベガスの大通りで開催されていたカントリー・ミュージック・フェスティバルの野外コンサート会場に向けてネバダ州在住のスティーブ・パドッグ容疑者(64歳)がマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から半自動ライフル銃を約10分間にわたって無差別に乱射した。この米国現代史上最悪の銃乱射事件では、観客58人が死亡し、500人以上が負傷した。
 パドック容疑者は滞在先ホテルの部屋の中で自殺しているのが発見された。パドック容疑者が宿泊した部屋から銃16丁と銃弾、自宅から少なくとも18丁の銃と大量の銃弾、爆発物が見つかった。

■ この事件では、パドック容疑者がホテルの部屋から野外コンサートの観客を銃撃する際、マッケラン国際空港の敷地にある燃料タンクに向けて発砲し、ライフルの銃弾2発を直撃させていたことが明らかになった。さらに、パドック容疑者は燃料タンクに向けて焼夷弾(しょういだん)を撃っていた。焼夷弾は発火性の薬剤を装填したもので、着弾すると、火炎を生じ、攻撃対象を焼き払うために使用する。なお、ホテルの部屋からコンサート会場までの距離は約1,100フィート(335m)で、部屋から燃料タンクまでの距離は約2,000フィート(610m)だった。

■ 専門家によると、この種の焼夷弾は燃料タンクに引火することは可能であるという。焼夷弾はパドック容疑者がいたホテルの部屋と燃料タンクの近くで見つかった。ただ、焼夷弾でタンクを爆発させようとしたのか、タンクに向け発砲するのに焼夷弾を使用したかは明言されていない。

■ 銃弾の一発は、満杯ではなかったが油の入っていたジェット燃料タンクT-202の側板を貫いていた。もう一発は、同じタンクの側板上部に当たっていたが、貫通していなかった。このタンクは専門家によって調査され、火や煙が出た気配は無かったことが分かった。

ホテルの割られた二つの窓 (写真はAbcnews.gfo.comから引用)
■ FBIの調査によると、ホテルの32階の部屋では、2つの窓が割られ、ひとつはコンサート会場に向いており、もうひとつは燃料タンクが直接見える方向だった。

■ 調査官によると、ホテルの部屋からトレーサー弾(曳光弾)が見つかったという。トレーサー弾は弾丸に火薬のほかに発光剤が装薬されており、飛んでいくとき明るく燃え、昼間の肉眼で発射軌道を見ることができ、夜間の発射では非常に明るい。これにより、射撃者は発射された弾丸の軌道を観察して照準補正を行うことができる。ただし、今回の銃撃でトレーサー弾が使われたという証拠はないという。

■ マッケラン国際空港の関係者によると、銃が乱射されたコンサート会場から逃れようと、300人ほどの人たちが空港の周囲に設置されていた保安用フェンスを突破し、飛行場内を横切り、一時的に航空機の離発着ができなくなっていた。

被 害
■ 燃料タンク1基が銃弾による損傷を受けた。側板を貫通しており、油を抜いて検査を行い、補修が必要である。
                   事件現場の位置関係  (図はThetruthaboutguns.comから引用)
             ホテルの部屋と残された銃  (写真はNytimes.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は、不法行為による故意の過失である。

< 対 応 >
■ タンクは油を抜き出し、検査を行い、必要な補修が行われる予定である。

■ マッケラン国際空港の関係者は、タンクへの攻撃が明らかになった後、銃撃によってタンクが爆発する可能性は少ないと語った。さらに、ジェット燃料は、引火しなければ、炎に短い時間、曝されても耐えるように設計されていると補足した。

■ 事件後、マッケラン国際空港は、安全な燃料供給を維持するための措置について燃料貯蔵施設の専門家に相談している。事件の対応に当たったラスベガスの保安官は、ジェット燃料タンクからは燃料ベーパーを連続的に抜いて出すようにされているので、銃撃で引火する可能性は低かったと語っている。

■ 10月5日(木)、全米ライフル協会は、ライフルが機関銃のように弾を早く発射できるようにする装置に対して厳しい規制をかけることを是認した。これは、何年にもわたって新しい銃規制に強く反対してきたグループにとっては稀なことである。パドッグ容疑者は、1分間に数百発を発射できる半自動ライフルを使用していた。
                  ジェット燃料タンク  (写真はAbcnews.gfo.comから引用)
側板上部に2発の銃弾跡の残ったタンク 
 (写真はReviewjournal.comから引用)
                 銃弾跡の拡大  (写真はReviewjournal.comから引用)
                銃弾跡の拡大  (写真はReviewjournal.comから引用)
補 足
■ 「ネバタ州」(Nevada)は、米国の西部に位置し、人口約270万人の州で、人口の3分の2以上がラスベガス都市圏に住んでいる。
 「ラスベガス」(Las Vegas)は、ネバタ州南部に位置し、市域の人口は約60万人の都市で、カジノの町として有名である。
米国のネバタ州とラスベガスの位置 
(図はGooglleMapから引用)
■ ラスベガスにある「スイスポート・フューエリング社」(Swissport Fueling)は、正式名称が「Swissport Fueling of Nevada, Inc.」で、航空会社、空港、燃料供給業者に代わって航空燃料の取り扱い業務を提供する会社で、国際的な空港関連企業であるスイスポート・インターナショナル社(Swissport International Ltd)の傘下の会社である。
  
■ 「発災(被災)タンク」は、容量43,000バレル(6,800KL)の固定屋根式タンクである。グーグルマップによると、直径は約25mであるので、高さは約14mクラスのタンクである。

所 感
■ 今回の事件では、銃弾によってタンク火災が起きるかどうかが議論になっている。過去のタンク事故の中につぎのような事例がある。
 このタンク火災は、灯油相当で着火しにくいジェット燃料と異なり、引火しやすい原油という油種である上、油井用の小型タンクという違いはある。しかし、銃弾によって引火・爆発して火災になりうるといえる事例である。今回の事件でタンクに直撃したのは、ライフル銃の銃弾(またはトレーサー弾)とみられるが、発射された焼夷弾がタンクに当たっていれば、火災になった可能性は高かっただろう。 

■ 銃弾以外の武器によるタンクへの攻撃はつぎのような事例がある。中東における紛争に関連するものが多いが、近年、タンクへのテロ攻撃は急増しているといえよう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
     ・Reviewjournal.com,  McCarran’s  Fence Breached by People Fleeing Las Vegas Strip Shooting,  October  03,  2017
     ・Reviewjournal.com, Commissioner Calls for Security Review of Jet Fuel Tanks after Las Vegas Strip Shooting,  October  05,  2017 ・Nytimes.com,  N.R.A. Supports New Rules on ‘Bump Stock’ Devices,  October  05,  2017
     ・Fox6now.com, Sheriff: Las Vegas Mass Shooter Fired at Nearby Fuel Tanks, Shot Security Guard before Shooting at Concert,  October  09,  2017
    ・Cnn.co.jp,  ラスベガス銃乱射、燃料タンク狙い焼夷弾射撃も 情報筋,  October 11,  2017 
   ・Voanews.com, Police: Las Vegas Shooter Fired at Jet Fuel Tanks,  October  13,  2017
    ・Edition.cnn.com,  Las Vegas Shooter Fired ‘Incendiary' Rounds at Fuel Tank,  October  11,  2017
    ・Firedirect.net,  USA – Aviation Fuel Tanks Deliberately Targeted During Mass Shooting Incident,  October  27,  2017
    ・Reviewjournal.com,   Jet fuel tank targeted by Las Vegas shooter will soon be inspected,  October  19,  2017
    ・Japantimes.co.jp  , Vegas Gunman Aimed at Aviation Fuel Tanks to Create Diversion, Had Escape Plan: Sheriff,  October  09,  2017



後 記: 今年10月に起ったラスベガスの銃乱射事件は日本でも大きく報道されました。容疑者が自殺したので、事件の意図や詳細は多くの疑問が残っているようです。そのひとつがジェット燃料タンクを標的にした銃撃です。事件の2日後には、タンクが銃撃されたというニュースを報じているメディアがあります。その後も多くのメディアからタンク銃撃の話が流されていますが、内容が少しづつ違っており、イマイチはっきりしないというのが本当のところです。
 しかし、まとめた経緯から推測した話をすれば、容疑者は当初の計画ではタンクを標的にしていなかったと思います。観客が空港の敷地内へ逃げ込もうと保安フェンス前に集まり押し倒そうとするのを見た際、タンクの存在に気がつき、火災を誘起させようと狙ったものではないでしょうか。よくタンクから火が出なかったものです。しかし、600m離れたタンクに命中させているのですから、射撃の腕は悪くなかったのでしょう。距離感を確かめようと、自宅周辺の地図を見て、改めて600mの距離がいかに遠いか分かりました。

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