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2017年8月18日金曜日

インドのヒンドスタン・ペトロリアム社で原油タンクに落雷して火災

 今回は、2017年7月29日(土)インドのアンドラ・ブラデシュ州ヴィサカパトナムにあるヒンドスタン・ペトロリアム社のヴィサカパトナム製油所で原油タンク1基に落雷があり、火災となった事故を紹介します。
(写真はYoutube.comの動画から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インドのアンドラ・ブラデシュ州(Andhra Pradesh)ヴィサカパトナム(Visakhapatnam )にあるヒンドスタン・ペトロリアム社(Hindustan Petroleum Corporation Limited:HPCL)のヴィサカパトナム製油所(Visakhapatnam Refinery)である。ヴィサカパトナム製油所の精製能力は15万バレル/日である。

■ 発災があったのは、ヴィサカパトナムのマラカプラム(Malkapuram)地区にあるヴィサカパトナム製油所の石油貯蔵地区の原油タンクである。
ヒンドスタン・ペトロリアム社のヴィサカパトナム製油所付近 (矢印が発災した原油タンク地区) 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年7月29日(土)午後6時30分頃、石油貯蔵地区にある原油タンク1基に落雷があり、浮き屋根のリムシール火災が発生した。

■ 製油所の西側から立ち上る黒煙を見て、地元住民の間に不安が広がった。

■ 発災に伴いヒンドスタン・ペトロリアム社の自衛消防隊が現場に出動し、泡による消火活動を実施した。事故当時、雨が降っており、火炎を抑えるのに役立った。

■ 発災のあった原油貯蔵タンク地区には、原油タンクが4基あり、延焼が懸念されたが、火災は制圧され、約1時間後に消された。

■ 事故に伴うケガ人は出なかった。

■ ヒンドスタン・ペトロリアム社は、事故による製油所の操業への影響は無いと発表した。  

被 害
■ 火災によって原油タンクが一部焼損した。被害の範囲や程度は明らかでない。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はYoutube.comの動画から引用)
(写真はYoutube.comの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は落雷によって原油タンクの屋根シール部の可燃性ガスへ引火したとみられる。
 原油タンクには、固定式泡消火設備が設置されていたとみられるが、作動しなかった理由は分かっていない。

< 対 応 >
■ 発災の状況は地元メディアからYouTubeで映像が流されている。 (「 VIZAGVISION:Fire Accident Flames fired withthunderbolt in  HPCL.Visakhapatnam..」「Fire in HPCL Company | Visakhapatnam | ABN Telugu」

■ 地元メディアは、ヒンドスタン・ペトロリアム社ヴィサカパトナム製油所における事故は初めてではないと報じている。1997年9月、製油所の貯蔵地区において液化石油ガスの配管からLPGが漏洩して爆発し、大火災が起った。この事故によって61名の死者が発生し、住民7万人が避難した。2013年8月には、冷却塔の建設中に冷却塔が崩壊し、28名の死者が出た。

補 足
■ 「インド」は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約12億人で世界第2位である。
 「アンドラ・ブラデシュ州」(Andhra Pradesh) は、インド南東部にある州で、人口は約4,900万人である。
 「ヴィサカパトナム」(Visakhapatnam )はアンドラ・ブラデシュ州の東部にあり、ベンガル湾に面した人口約203万人の港湾都市で、同州で最も大きい都市である。
 
 インドにおける主なタンク事故はつぎのとおりである。
 
■ 「ヒンドスタン・ペトロリアム社」(Hindustan Petroleum Corporation Limited:HPCL)は、1974年に設立されたインドの国営石油会社で、本社はマハラシュトラ州ムンバイにあり、従業員約11,000人の会社である。しかし、インド政府は原油相場の変動に耐え得る巨大石油会社を誕生させる方針を打ち出しており、今年7月、ヒンドスタン・ペトロリアム社はインド石油ガス公社(ONGC)へ売却される計画であることが報じられている。
 ヒンドスタン・ペトロリアム社は、インド西海岸にあるムンバイ製油所と東海岸にあるヴィサカパトナム製油所の2つの主要な製油所を保有している。ヴィサカパトナム製油所は15万バレル/日の精製能力を有している。
ヒンドスタン・ペトロリアム社のヴィサカパトナム製油所 
(写真はThenewsminute.comから引用)
■ 「発災タンク」は製油所の西側にある原油タンク4基のうちの1基という情報から、グーグルマップによって調べてみた。該当の地区とみられる原油タンクは、直径約82mであり、高さを20mとすれば、10万KLクラスである。しかし、発災タンクは特定できなかった。
発災のあった原油タンク地区付近 
(写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ インドの雷の発生頻度は少くはないが、多発地域ではなく(「NASAによる世界の雷マップ」を参照) 、このようなところで10万KLクラスの浮き屋根式原油タンクにおいて落雷によるタンク火災が起こるのは珍しいが、見方を変えれば、貯蔵タンクはどこでも落雷によるリスクが潜在しているといえる事例である。
 事故はリムシール火災にとどまったのは幸いだった。原油タンクには、固定式泡消火設備が設置されていたとみられるが、正常に作動しなかったものと思われ、日常の点検が重要であることを示す事例でもある。

■ 消火活動については、固定式泡消火設備が機能しなかったので、大型化学消防車による泡放射が行われているが、最終的には原油タンクの上部に昇って携行式泡ノズルによる泡消火が行われたのではないだろうか。

 注記:タンク浮き屋根の位置(高さ)によるが、浮き屋根の位置が高くてタンク側板越えの泡が有効にシール部に届けば、消火できよう。一方、液位が低いときなどタンク屋根シール部が側板の死角になって泡が有効に届かない場合は、タンクの上部に昇って泡モニターによる泡消火を行う方法がとられる。
 ヒンドスタン・ペトロリアム社」(HPCL)は、製油所紹介映像をYouTubeに掲載「HPCL : plant shoot」しており、この中に大型浮き屋根式タンクへの大型化学消防車(3台)からの泡放射テストの状況がある。この珍しい貴重な映像を見ると、消防車からの泡放射の有効性に限界があることが伺える。  
ヒンドスタン・ペトロリアム社による浮き屋根タンクへの泡放射テストの例 
(写真はYouTube.comHPCL : plant shoot」の動画から引用)
備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Thehindu.com, Crude Oil Tank at HPCL Catches Fire,  July  29,  2017 
  ・Timesofindia.indiatimes.com,  Lightning Leads to Fire in HPCL Tank,  July  30,  2017
    ・Thenewsminute.com,  HPCL Crude Oil Tank in Andhra Catches Fire after Lightning Strike in Vizag,  July  30,  2017  
  ・Nyoooz.com,  Lightning Leads to Fire Outbreak in HPCL Tank,  July  30,  2017
    ・Youtube.com,  VIZAGVISION:Fire Accident Flames fired with thunderbolt in HPCL.Visakhapatnam.. ,  July  29,  2017
    ・Youtube.com,  Fire in HPCL Company | Visakhapatnam | ABN Telugu,  July  29,  2017  
    ・Youtube.com, HPCL : plant shoot,  December 24,  2017


後 記: 典型的なタンク火災のひとつである落雷による浮き屋根式タンク火災だったので、多くの情報(報道)が出るかと思っていましたが、世界的な通信社からの発信はなく、ローカルなメディアからの情報だけでした。被災写真はなく、メディアから出されている動画(YouTube)から取りました。しかし、この動画も映りが悪く、紹介する絵(写真)を切り取るのに苦労しました。
 一方、今回の調査をしている際、ヒンドスタン・ペトロリアム社」(HPCL)が大型浮き屋根式タンクへの泡放射テストを行っている状況の映像が出てきました。日本では、三点セットでの大型タンク全面火災は消火できないということが明らかになっていますが、実タンクへの泡放射を見てみると、そのことが分かります。このため、当該事故に直接関係しなかったのですが、所感で触れてみました。

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