今回は、2024年11月19日(火)、米国オクラホマ州タルサ郡タルサにあるアクセル・ロイヤル社の潤滑油・グリース製造施設でタンク設備が火災になった事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国オクラホマ州(Oklahoma)タルサ郡(Tulsa County)タルサにある潤滑油・グリース製造・販売会社のアクセル・ロイヤル社(AXEL Royal) の工場である。.
■ 発災があったのは、潤滑油・グリース製造工場内の潤滑油混合装置のタンク設備である。
< 事故の状況および影響 >事故の発生
■ 2024年11月19日(火)午前10時前、潤滑油・グリース製造工場のタンク設備エリアで火災が発生した。
■ 火災は潤滑油混合装置の西側で発生した。アーカンソー川のすぐ近くの火災現場から大きな黒煙が上がり、煙はタルサ郡を何マイルも移動し、州間高速道路44号線からも見えた。
■ 発災にともない、タルサ消防署の消防隊が出動した。消防士たちは午前10時頃にアクセル・ロイヤル社の現場に到着した。■ 燃えているのは潤滑油製品とみられ、何かが施設の潤滑油混合装置とベースオイルの貯蔵タンクに引火して火災になったと思われる。
■ タルサ消防署は、午前11時30分時点で、発災地域の道路を封鎖した。消防署はソーシャルメディアに「消防隊員らが消火活動に当たっている間、別の移動経路を探してください」と投稿した。
■ アクセル・ロイヤル社の部品を製造している近隣のハワード・プレシジョン・マニュファクチャリング社の従業員によると、火災が発生したとき爆発音を聞いたが、「音は聞こえましたが、建物のドアが閉まっていたため、大きくはありませんでした。銃声などの変な音ではなく、ピックアップ・トラックの荷台のテールゲートを下ろした音かと思いました」といい、さらに火災が激しくなったあと、「熱気が伝わってきました。私たちの建物も火災になるのかと思いました」と語った。
■ 火災と爆発音が聞こえたため、消防署は人々にその場から立ち退くよう要請した。
■ 午前11時40分時点では、消防隊が消火活動を続けている。
■ 事故に伴う死傷者は出ていない。
■ 消防署は、火災の正確な原因は不明だと述べている。
■ 消防署は複数のドローンを使用して大規模な化学物質火災を監視し、消防士を安全な距離に保った。タルサ消防局はフェイスブックへの投稿の中で、「ドローンの機能により、現場への対応が迅速かつ安全になり、市民へのサービスをより効率的に提供できるようになります。今回の火災ではタルサ消防局にとってこれまでで最大のドローンによる対応であり、7機のドローンを同時に飛行させ、現場にはいろいろな経験を有する8人のパイロットがいました」と述べた。今回のドローンによる対応は、タルサ市を世界のドローン首都にするという市長の意向に従って行われた。
■ ユーチューブでは、火災発生のニュースが動画に投稿されている。
●Youtube、 「Fire at
AXEL Royal petroleum tank farm in Tulsa under control, no injuries reported」(2024/11/21)
●Youtube、 「Tank
fire breaks out in west Tulsa」 (2024/11/20)
●Youtube、「Hazmat
crews work to extinguish industrial fire」 (2024/11/20)
●Youtube、「Video:
Tulsa firefighters using new technology to more safely and effectively fight
fire」 (2024/11/22)
●Youtube、「11-19-2024 Tulsa, OK - Large Petroleum Tank Explosion」 (2024/11/20)
被 害
■ 潤滑油混合装置とベースオイルの貯蔵タンク複数基が焼損した。
■ 負傷者は出なかった。
■ 近隣の道路の通行が閉鎖された。
■ 黒煙などによる環境汚染の恐れが出た。
< 事故の原因 >
■ 火災の原因は不明で、調査中である。
< 対 応 >
■ 消防隊は周囲の建物の保護に集中したという。消防隊は水を使ってタンクを冷やし、泡を使って消火作業をした。
■ 午後12時30分頃、対岸にあるホリーフロンティア社の製油所の消防隊が合流し、消防隊はなんとか火を制圧した。ホリーフロンティア社の消防隊は大量の消火泡を供給した。約3時間にわたる消火活動の後、タルサ消防署と支援機関は鎮火することができた。
■ 午後2時20分頃までに地元の店舗は営業を再開したが、10月19日(火)の午後遅くまで多くの道路は閉鎖されたままだった。
■ タルサ消防署は、消防隊が火を鎮圧した後、地域に直ちに環境や健康への危険は生じていないと述べた。
■ タルサ消防署によると、「各消防署は管轄区域内の建物や企業を定期的に巡回しており、今回のような火災が発生した場合に、どのような製品がそこにあるのかを把握できるようにしています」と語った。
■ メディアの中には、コメントを求めてアクセル・ロイヤル社に連絡を取ったが、オンラインに掲載されていた電話番号は切断されていたという。
■ セントラルオクラホマ大学の緊急事態管理学准教授は、「説明責任という点では、もし会社に過失があったと認められるなら、汚染の除去と修復の責任は会社が負うべきだと思う」と述べ、今回の火災に関して懸念しているのは水質汚染だといい、「水への影響について言えば、石油製品は水面に浮かんで汚染を広げる可能性がある。そして、消火活動の流出水が油や化学物質を雨水管や近くの水域に流す可能性がある。アーカンソー川のそばで起きており、土壌浸透によって地下水も汚染される可能性がある。そして、水生生物にとって有毒だ」と語っている。
■ アクセル・ロイヤル社のCEO(最高経営責任者)は、たまたま会議のため11月20日(火)にはタルサに滞在していたが、何が起こったのかはまだ分からないと語った。工場管理者も、3時間続いた火災の間、現場から離れていた。工場管理者によると、火曜日の火災は同施設で起きた事故の中ではこれまでで最大のものだという。工場管理者は、被害を最小限に抑えるのに尽力したタルサ消防署とホリーフロンティア社の製油所の消防安全部門に感謝しているといい、「原因を評価したら、教訓を生かして状況を改善していきたい」と語った。
■ アクセル・ロイヤル社は、10月20日(火)、つぎのような声明を発表した。
「今朝午前10時頃、タルサにあるアクセル・ロイヤル社の施設で火災が起こりました。現時点での最も確かな情報としては、潤滑油混合装置の西部で火災が発生していますが、原因はまだ特定されていません。
従業員と訪問者全員の安全が確認され、帰宅が許可されました。以降のシフトでも同様であり、呼び戻されるまでこの状態が続きます。
火災は、タルサ消防署によって対岸にあるホリーフロンティア社の製油所の支援を受けて制圧され、午後2時頃、鎮火したと報告されました。暫定評価では、被害は主に潤滑油混合装置と屋外ベースオイル貯蔵タンクに影響を及ぼしており、そのうち2基が火災によって直接影響を受けました。より詳細な評価は後日行われます。
環境当局には適切に通報しました。顧客には連絡を取り、今後に影響があれば引き続き最新情報を伝えていきます。
当社は、現場の事態収拾に尽力した消防隊員および当社従業員に深く感謝しております。何よりも、負傷者が出なかったことに感謝しています」
補 足
■「オクラホマ州」(Oklahoma)は、米国の南部に位置し、人口約3,960万人の州である。州の南はテキサス州、北はコロラド州とカンザス州、東はミズーリ州とアーカンソー州、西はニューメキシコ州に接している。
「タルサ郡」(Tulsa County)は、オクラホマ州の北東部に位置し、人口約67万人の郡である。
「タルサ」(Tulsa)は、タルサ郡の中央部に位置し、人口約41万人で、郡庁所在地の市である。
■「アクセル・ロイヤル社」(AXEL Royal)は、1914年に設立した米国製の潤滑油とグリースを製造・販売する会社である。生分解性、合成、鉱物ベースのオイルを使用して、鉱業、建設、石油・天然ガス、製鉄所、海洋、工業、農業、輸送などあらゆる用途向けに数百種類の潤滑油とグリースを製造している。本社はオクラホマ州タルサにあり、従業員は102名である。もともとロイヤル社と称していたが、2018年にAxel Christiernsson Internationalに買収され、アクセル・ロイヤル社となった。
■「発災タンク」は特定できなかった。被災写真を見ても、黒煙に隠れてしまって判別がつかない。また、タンクそのものではなく、タンクまわりの配管などが火災のように見える。下図に火災に巻き込まれていると思われるタンクに印をつけてみた。タンクの直径は大きく3つに分れ、16m、9m、4m程度であり、容量は2,000KL、500KL、75KLクラスと思われる。
所 感
■ 被災したのは潤滑油混合装置とベースオイルの貯蔵タンクと報じられているが、通常よく見るタンク屋根部を含んだ火災ではなく、タンク底部付近にある潤滑油混合装置の配管類が火元のタンク火災ではないだろうか。潤滑油は火の付きにくい油種であり、ベースオイルとの混合に使用された軽質の油または化学物質が漏洩してベースオイルを含めた火災に進展したと思われる。
■ 発災タンクの消防活動を行うのに適切な配置計画とはいえない。実際、今回の消火活動では、はしご車による放水が行われているが、距離は100~150mあった。潤滑油は火災にならないという思い込みのある配置計画になっている。今回、黒煙による空気汚染への影響が大きかったが、事故はアーカンソー川のそばで起きており、消火活動の流出水や油が雨水管や土壌を通して水域に流れた場合のリスクについて指摘されている。今回の事故では、水質汚染や土壌汚染の有無は報じられていないが、実際にはどうだったのだろうか。
■ 今回、発災事業所であるアクセル・ロイヤル社の事故後の対応が不適切だった。工場管理者が現場に不在であったが、メディアへの対応がされていない。緊急事態対応では、工場管理者が不在のときを想定して工場管理者代理を決めておかなければならない。
■ 消火活動の詳細は報じられていないが、今回の出色は消火活動に専用のドローンを使用したということである。興味深いのは、タルサ消防署だけでなく、タルサ市長が積極的な活用の意向をもっているということであろう。
このブログでドローンの活用について投稿してきたが、主なものはつぎのとおりである。 ●「欧州ベルギーの港湾施設において自律型ドローンのネットワークを構築」(2023年5月)
●「欧州における自律型ドローンによる石油ターミナルの検査」(2022年2月)
●「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」( 2021年3月)
●「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」(2020年4月)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Ktul.com, Fire at AXEL Royal petroleum tank farm in Tulsa under
control, no injuries reported, November 20, 2024
・Usatoday.com, Crews battle large fire at manufacturing business'
petroleum tank farm in Tulsa, Oklahoma, November 19, 2024
・ Oklahoman.com, Crews battle large fire in Tulsa after explosion
near petroleum tank farm, November 19, 2024
・ Fox23.com, Large petroleum tank fire in west Tulsa contained, TFD
says, November 19, 2024
・ Tankstorage.com, Industrial Fire in Oklahoma Put Out, November 21,
2024
・Perigon.io, Fire Near Axel Royal Tanks Closes Tulsa Road, November
19, 2024
・Joiff.com, Tulsa Firefighters Successfully Contain Large Petroleum,
November 22, 2024
・Kjrh.com, Plant manager, CEO speak after massive industrial fire in
west Tulsa, November 21, 2024
後 記: 今回の事例は貯蔵タンクを火元とする火災ではないようです。オクラホマ州のタンク事故には変わった事例がときおり発生するように感じます。「米国オクラホマ州の石油ターミナルでタンク頂部が火災」(2024年10月)では、これまで見たことのなかったような事故でした。これもドローンによる映像があったから状況を知ることができました。この火災対応もタルサ消防署が行っていますので、ドローンの画像も同署が撮影したものではないかと今になって理解しています。今回は堂々とタルサ市長が主導しているドローン活用の一環だと発表しています。良いことだと感じているのは、消防署がドローンによる写真をメディアに提供していることです。
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