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2024年10月2日水曜日

米国オクラホマ州の石油ターミナルでタンク頂部が火災 (2023年)

 今回は、1年半ほど前の2023215日、米国オクラホマ州ロジャーズ郡カトゥーサにあるエネルギー会社のホリー・エナジー・パートナーズ社の石油ターミナルで、化学物質貯蔵タンクの頂部で火災が発生した事例を紹介します。

 < 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国オクラホマ州Oklahomaロジャーズ郡RogersカトゥーサCatoosaにあるエネルギー会社のホリー・エナジー・パートナーズ社Holly Energy Partnersの石油ターミナルである。

■ 発災があったのは、カトゥーサ港Port of Catoosaにある石油ターミナルの化学物質貯蔵タンクである。 カトゥーサ港はオクラホマ州のバーディグリス川西端の内陸港である。なお、人口約7,400人のカトゥーサの西約23kmには、オクラホマ州2番目の都市であるタルサ(Tulsa41万人)があり、今回の事故でもタルサ消防署が対応した。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023215日(水)、午前9時頃、カトゥーサ港で火災が起こった。火災は化学物質貯蔵タンクの上部で発生した。

■ 港の警報システムであるサイレンがけたたましく鳴った。

■ 通報を受けた消防署は消防隊を出動させた。現場に最初に到着した隊員からは「タンクの上部から激しい煙と炎が出ている」と報告があった。タルサ消防署が火災に対応した。

■ タルサ消防署は、港で高さ30フィート(9m)のタンクが火災を起こしていると発表した。

■ 港湾当局から避難指示が出され、近隣住民に屋内退避の勧告が出された。港の労働者に対してはこの地域から避難するよう連絡が出された。タンクからの煙が住宅街に向かって漂っていたため、消防隊が消火活動を行う間、地元住民は避難するよう指示を受けた。 オクラホマ州ハイウェイ・パトロールとロジャーズ郡保安局が車両を退避する支援を行った。

■ カトゥーサ市は、この火災を化学火災と判断し、北風が火災を「タルサの衛星都市カトゥーサに向かって押し流している」と述べた。市は住民に避難指示を出した。小学校は避難させられ、港に続く道路は封鎖された。港には人影がなく、避難する人々の車列が伸びていた。

■ 火災の原因は不明で、港湾当局は地元メディアに対し、タンクに何が入っていたかは不明だと語った。タルサ消防署は、タンクは空だったと述べた。

 一方、ホリー・エナジー・パートナーズ社の広報担当者によると、タンクは使用中ではなかったが、重合物質polymerized materialがわずかに入っていたという。さらに、事故前に貯蔵タンクのメンテナンスが行われていたが、正確な原因の調査が行われていると付け加えた。ホリー・エナジー・パートナーズ社の広報担当者は、「この事故が公衆に脅威を与えたとは考えていない」と述べている。

■ ユーチューブでは、火災発生のニュースが動画に投稿されている。

Youtube、Chemical fire forces evacuations at Port of Catoosa2023/02/16)  

YoutubePort of Catoosa Tank Catches Fire During Repairs, Firefighters Say2023/02/16

●YoutubeTank Fire Forcing Evacuations At Port Of Catoosa, Tulsa Port Authority Says2023/02/16

被 害

■ 貯蔵タンク1基のタンク屋根部が焼損した。

■ 負傷者はいなかった。

■ 近隣の住民や小学校が避難した。

■ 近くの道路が閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は調査中である。現場では、タンクのメンテナンスを行っていたが、タンク内に残留した製品が燃えた可能性がある。

< 対 応 >

■ カトゥーサ市は、近くの住民に避難指示を出した。避難は「安全上の予防措置と手順に基づいて」開始されたと述べた。その後、発災から1時間半後の午前1030分頃に解除された。

■ 消防署によると、ホリー・エナジー・パートナーズ社は「空のタンクの底から火を消す」消火策を考えたという。彼らは「火を完全に消す」ために高所に設置したホースによることにした。現場に最初に到着した消防隊は、消火のために放水した。

■ 港湾局は、午前1030分までに火は消えたと述べた。また、現場の緊急対応要員の報告によると、作業員が空のタンクのメンテナンスを行っていたが、タンク内に残留した製品が燃えた可能性があるという。

■ 負傷者は報告されていない。

■ 熱画像検査でタンクがほぼ常温に戻ったことがわかり、タルサ港湾局は、火が消えてタンクの温度が下がると、現場はホリー・エナジー・パートナーズ社に引き渡された。

■ 午前11時前、ロジャーズ郡緊急管理局は、ホリー・エナジー・パートナーズ社所有のタンクから煙が上がり、避難指示が出されていたが、警報を解除したと発表した。

■ タルサ消防署が無事に消火に成功した後も、メディアは貯蔵タンクから約1,000フィート(900m)以内に近づくことは許可されなかった。当局は、安全上の理由によるものだと述べた。

■ 215日(水)の午後、タルサ港湾局は何が起こったのかを説明する声明を発表した。

「本日午前 9 時直前、タルサ港湾局は、航行水路の北端にあるホリー・エナジー・パートナーズ社の貯蔵タンクで火災が発生し、煙が立ち昇っていることを知りました。タルサの消防隊が現場に向かう中、港湾局は港湾にある危険物警報を鳴らし、火災に関する電子通知を発し、地元地域に港湾からの避難を検討するよう勧告しました。東からの風が吹いていたため、火災の真西に位置する産業地区は避難するよう勧告しました。

 タルサ消防署が現場に出動して事故に対応している間、港湾からの車両の避難を実施しました。午前10 30分頃、タルサ消防署は港湾局に火災は鎮火し、通常の港湾業務を再開できると報告しました。緊急対応員の報告によると、施設の作業員は空のタンクのメンテナンスを行っていましたが、タンクに残留した製品が発火して火災を引き起こした可能性があるということです。負傷者の報告はありません。タルサ港湾局は、緊急対応要員の迅速かつ専門的な対応に感謝しています」

補 足

■「オクラホマ州」Oklahomaは、米国の南部に位置し、人口約3,960万人の州である。州の南はテキサス州、北はコロラド州とカンザス州、東はミズーリ州とアーカンソー州、西はニューメキシコ州に接している。

「ロジャーズ郡」Rogersは、オクラホマ州の北東に位置し、人口約71,000人の郡である。

「カトゥーサ」Catoosaは、ロジャーズ郡とワゴナー郡にあり、人口約7,400人の町である。カトゥーサは、オクラホマ州ロジャーズ郡のタルサ市から北東に14マイル (23km) の場所にある。

■「カトゥーサ港」は、オクラホマ州北東部のマクレラン・カー・アーカンソー川航行システムの航行拠点に位置し、米国最大かつ最も内陸にある河川港のひとつである。農産物、建築資材、石油製品、機械など、あらゆる品物を船(はしけ)、鉄道、トラックを組み合わせて毎日カトゥーサ港から輸送できる。現在、カトゥーサ港の2,000エーカーの工業団地内には70社が拠点を構え、 合計で約3,000人が雇用されている。

■「ホリー・エナジー・パートナーズ社」Holly Energy Partnersは、石油製品の貯蔵・輸送を行うエネルギー会社である。 202312月、ホリー・エナジー・パートナーズ社は、 HF Sinclair Corporationと合併し、現在は同社の完全子会社となっている。本社はテキサス州ダラスにあり、石油ターミナルは、HollyFrontierの製油所およびDelekBig Spring製油所に接続されたパイプラインから製品を受け取る。ブタン、エタノール、バイオディーゼル、指定されたグレードのガソリンとディーゼルを達成するための混合設備や添加剤の注入やジェット燃料の濾過を含む補助サービスを行っている。石油ターミナルは複数の貯蔵タンクで構成され、24時間稼働する自動トラック積載装置が装備されている。

■「発災タンク」の仕様は高さ9mというデータ以外報じられていない。グーグルマップで調べると、直径は約18mであり、高さを9mとすれば、容量は2,200KLである。被災写真を見ると、タンク型式はコーン型固定屋根式タンクである。隣接する大型タンクは内部浮き屋根式とみられるが、発災タンクは通常の固定屋根式タンクである。

所 感

■ 貯蔵タンクには、化学物質または重合物質(Polymerized material)が入っていたと報じられており、メンテナンスのため内液を抜き出し、残油が残っていたために火災になったものとみられる。しかし、発災は、タンク屋根の中心部付近の限定したエリアで起こっている。この要因は工事に関わり、2つのことが考えられる。

 ● センターベント部(またはフレームアレスター)が円形のベースプレート(屋根部)とともに元あったところから移動している。この円形のベースプレートは爆発でできたものでなく、人為的に切断され移動した。

 ● 通気口はタンク屋根の端に設置されており、センターベント(またはフレームアレスター)を新しく設置するために、屋根中央部を円形に切断した。プレハブで製作した新しいセンターベント(またはフレームアレスター)部は溶接で付けるために屋根中央部付近に置かれていた。       

 事故当日、タンクではメンテナンスが行われていたが、タンク屋根には溶断器やアースクランプのような溶接器具が残されている。これらのことから、タンク屋根の一部を円形に撤去した際、溶断部の火花がタンク底に落ち、火災が発生したものではないだろうか。

■ 発災タンクの設置場所は消防活動を行うのに適切な場所とはいえない。実際、今回の消防車による放水も隣接する大型タンク(直径約40m)越しに行われている。防災道路はあるが、道幅が狭く、消防車が発災タンクに近寄ると、火災の状況によっては消防隊が二次災害を受ける危険性がある。今回も防災道路に消防車が進入した形跡はなく、被災写真では、川側の道路から消防士がホースを展張している。おそらく、タンク屋根に昇って、放水を行おうとしたのではないだろうか。今回の火災規模は小さかったので、何とか対応できたようだが、もっと規模の大きい火災時には対応がとれないのは明らかである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Newsweek.com, Oklahoma Tank Fire Sparks Yet Another Chemical Incident,  February  20, 2023

   Ktul.com, Port of Catoosa reopens after chemical fire causes evacuation,  February  16, 2023

   Fox23.com,  Fire contained at Port of Catoosa,  February  15, 2023

   Maritime-executive.com, Tank Fire Prompts Evacuation at Port of Catoosa,  February  16, 2023

   Kjrh.com, All clear after tank fire at Port of Catoosa,  February  16, 2023

   Tulsaworld-com,  All-clear issued after fire brought under control at Port of Catoosa,  February  15, 2023


後 記: 今回の事例では、ドローンによる空からのタンク屋根部の写真で状況がよく分かりました。ところで、報道記事でよく分からなかったのが、事故対応の組織・体制です。発災地のあったカトゥーサでなく、20kmほど離れたタルサ消防署が指揮をとっていますが、カトゥーサには消防署があったのか、港湾局がどのような位置づけだったのかなどいまいちよく分からなかったというのが感想です。それにしても、発災事業所が「この事故が公衆に脅威を与えたとは考えていない」と言っていますが、住民に避難指示を出したのは港湾局など公的機関ですし、公衆に物損が出ていないので、いかにも米国らしい合理的な考え方(?)です。しかし、これでやっていけるのでしょうかね。

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