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2024年3月31日日曜日

米国カリフォルニア州でトラックの燃料タンクが爆発、対応中の消防士9名が負傷

 今回は、2024215日(木)、米国カリフォルニア州ロサンゼルスの路上で、牽引用の大型トラックの燃料用の圧縮天然ガスタンクが火災を起こしたため、通報を受けた消防隊が出動して対応中に爆発が発生し、消防士9名が負傷するという事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のカリフォルニア州(California)ロサンゼルス(Los Angeles)のウィルミントン(Wilmington )地区の路上である。

■ 事故があったのは、トレーラーヘッドと呼ばれる牽引用の大型トラックで、燃料用の圧縮天然ガス(Compressed Natural GasCNG)のタンクである。圧縮天然ガスの圧力は3,000psi20.6MPa≒210kg/c㎡)である。大型トラックは、ヒーブ・ロード・トランスファー社(Heave Load Transfer, LLC.)所有で、事故当時、トレーラーを牽引していなかった。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2024215日(木)午前7時頃、ロサンゼルスのウィルミントン地区で大型トラックが火災を起こした。  

■ 圧縮天然ガス(CNG)とみられるタンクが燃えているとの通報を受け、ロサンゼルス消防局の消防士10名が出動した。 出動したのはよく訓練され優れた機動部隊だった。

■ 消防隊が対応していたとき、大型トラックに装備された圧縮天然ガスの燃料タンクが爆発し、ファイアボールが舞い上がった。この爆発で、火災に対応していた消防士10名のうち9名が負傷した。9名は全員がハーバーUCLAメディカルセンターに救急搬送された。うち8名の容体は安定していたが、1名は重症である。

■ 運転手は、大型トラックの異変に気づき、緊急通報用の911番に通報するためにその場を離れたため、ケガを免れたという。

■ 大型トラックは圧縮天然ガスを燃料とし、燃料タンクは100ガロン(378リットル)のタンク2本が装備されており、そのうちの1本がウィルミントンの現場に消防隊が到着した6分後に爆発した。このときの音声が公開され、助けを呼ぶ緊急用符号語の「メーデー!メーデー!メーデー!」の後で、「CNGトラックで爆発が発生した。複数の消防士が倒れている」というもので、直後、ハズマット(HazMat)隊を含む150人以上の消防士が現場に出動した。

■ ファイアボールは電信柱と同じくらいの高さ30フィート(9m)で、近くの変圧器のひとつを爆発させた。さらに、2本目の燃料タンクからはガスが出ていて、小さな炎が燃え続けており、爆発の恐れが残っていた。

■ 負傷した消防士を助けるためと燃え続ける2本目のタンクに遠隔から水を供給するため、消火ロボットが導入された。

■ 大型トラックは完全に破壊され、路上に瓦礫が散乱した中で、2本目の圧縮天然ガス燃料タンクは2時間経過しても小さな炎を燃え続けており、消防隊員は安全な距離を保つことを余儀なくされた。

■ 爆発は工業地域に近いところで起きたが、広い道路と線路によって近隣地域からは隔てられていた。また、半径500フィート(150m)の広範囲に警戒線が張られた。

■ ロスアンゼルス市消防局は「住民は屋内に留まるよう呼びかけている」とし、 「当面の危険区域内には住宅はなく、正式な避難命令は出していない」と発表した。一方、発災時、ロサンゼルス警察は近隣住民約75人に数時間の家屋からの立ち退きを求められていた。

■ この地域の住民のひとりは「大きな揺れを伴う爆発だったので、地震のようでもあり、爆弾のようでもありました」と語っている。爆発時の破片が庭に飛んできた住宅もある。爆風の影響でケガをした住民もおり、負傷した人は複数いるという。爆発の近いところに住む人にとって、爆発によって建物の構造に影響していないか懸念する人もいる。

■ ユーチューブには、爆発の瞬間を撮影された動画などのニュースが投稿されている。

 YouTube9 firefighters hurt, 2 critically, in Los Angeles area explosion involving natural gas cylinder2024/2/16

 ●YouTubeWilmington explosion injures 9 firefighters2024/2/16

 ●YouTubeWilmington gas explosion leaves 9 LA firefighters injured2024/2/16

 ●YouTubeNatural gas-powered truck explosion injures 9 firefighters in Los Angeles2024/2/16

 ●YouTubeNew video shows massive Wilmington explosion2024/2/16

被 害

■ 大型トラック1台が損壊した。ほかに爆発の影響を受けた自動車や住宅があるとみられる。 

■ 事故により対応中だった消防士9名が負傷した。近隣に住む人の中にはケガした人も複数いるとみられる。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 2本目タンクは予防措置として「ガス抜き」が行われた。

■ 消防当局は、爆発前に大型トラックがどのようにして火災を発生したのかは不明であり、調査中であると述べた。

■ 消防署長は、「今日という日は、消防活動がいかに危険であるかを私たちに再認識させる日でした。消防隊の対応について消防署として振り返ってみることとします。このチームは高度な訓練を受けており、今回の事故についてあらゆる側面を調査し、教訓と改善事項をまとめたいと思っています」と語った。

■ 一方、専門家も今回の事故について、この職業には絶えず変化する自然環境と危険性があることを気づかせるものであり、「今日の世界では、CNG 燃料、水素燃料、電気自動車、ガソリン、ディーゼルなどさまざまなタイプの車両があるため、火災はもちろんのこと、それぞれのタイプの車両に関連する事故が発生するたびにいろいろな意見が出て議論沸騰している」と語っている。

■ 217日(土)、トラックを所有する会社ヒーブ・ロード・トランスファー社は、つぎのような声明を発表した。 

「ヒーブ・ロード・トランスファー社は、215日(木)朝にカリフォルニア州ウィルミントンで当社の圧縮天然ガス(CNG)トラック1台が爆発したことを認識しています。私どもはアドバイザーとともに事故を調査しており、当局と協力して原因を究明しています。現場で対応した消防士に感謝するとともに、安全を確保する過程で負傷した方々の回復をお祈りいたします」

■ 今回の事故で完全に破壊されたトラックは、一見平凡な世界に潜む危険性を示すものとなっている。消防士は日常的なヒーローとして称賛されることが多いが、奉仕するという使命に内在するリスクがあることを再認識させられる。圧縮天然ガスの輸送や取扱いの安全対策に関する疑問が前面に浮上している。今回の事故は、危険に立ち向かう人々の勇敢さを浮き彫りにするだけでなく、将来の悲劇を防ぐために厳格な安全手順の必要性があることをはっきりと示している。

補 足

■「カリフォルニア州」(California)は米国西海岸に位置し、メキシコとの国境から太平洋沿いに細長く伸び、人口約3,890万人の州である。

「ロサンゼルス」(Los Angeles)はカリフォルニア州の中部に位置し、人口は同州最多の約390万人である。なお、ロサンゼルス都市圏には 11 のトップレベルのプロスポーツ・チームの本拠地があり、野球では大谷翔平が所属していたロサンゼルス・ エンジェルスと現在所属するロサンゼルス・ドジャースがある。

「ウィルミントン」(Wilmington)はロサンゼルス市にある地区で、産業が発達しており、人口約53,800人である。

■「発災タンク」はトラックの燃料タンクで、内部の燃料は天然ガスを圧縮した圧縮天然ガス(Compressed Natural GasCNG)である。燃料タンクは容量100ガロン(378リットル)で左右に2本付いており、圧力は3,000psi 20.6MPa≒210kg/c㎡)である。

■ 天然ガス自動車は燃料の種類によって大きく3種類に分けられ、圧縮天然ガスは天然ガスを20MPaに圧縮して容器(燃料タンク)に貯蔵して使用するもので“CNG自動車とも呼ばれている。天然ガス自動車(CNG自動車)の特徴は地球温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)の排出量を、ガソリン車より23割低減でき、 光化学スモッグ・酸性雨などの環境汚染を招くNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)の排出量が少なく、SOx(硫黄酸化物)が排出されない。


 天然ガス自動車の安全性は、日本ガス協会によると、使用部品や装置の機能によって衝突時や火災時につぎのように確保されているという。

 ●衝突の場合、①過流防止弁、主止弁、燃料遮断弁など各種の安全装置により、燃料(天然ガス)の漏洩を防止する。②ガス容器(燃料タンク)、配管・継手、機器類はすべて衝突に耐えうる強度を持ち、また損傷しにくいように配置されている。

 ●火災の場合、ガス容器が破損しないように、ガスを安全に排出する安全弁が作動し、ガス容器内の圧力上昇を防ぎ、破損を防止する。また、ガス充填終了後にガス充填ホースを接続した状態で発進した場合、車両および充填設備の損傷を防ぐために、車両側のガス充填口の扉を開くとスタータ回路が切れ、エンジンが始動しないようにした誤発進防止装置(スタータ・インターロックシステム)を装備した車両もある。

所 感

■ 原因は調査中で分からないが、つぎのような状況と経過ではないかと思う。

 ●トラックの運転手は最初に“異変を感じた” と語っているということなので、異変は圧縮天然ガスの燃料系統から漏れ始めていたとみられる。

 ●漏れ始めた圧縮天然ガスがトラックのエンジン系統の熱などの引火源によって火がつき、火災になったと思われる。画像を見ると、火災は結構な大きさに進展しているので、漏洩は次第に大きくなっていたと思われる。

 ●消防隊が到着して6分後に爆発している。炎は燃料タンクをなめており、タンク材質の強度が低下し、圧縮天然ガスの圧力(約20MPa)に耐えきれず、一気に圧縮天然ガスが流出し、爆発現象に至ったと思われる。

■ 圧縮天然ガス自動車の安全対策として“火災の場合、ガス容器が破損しないように、ガスを安全に排出する安全弁が作動し、ガス容器内の圧力上昇を防ぎ、破損を防止するというのが無力感を感じる。ロサンゼルス消防局のよく訓練され優れた機動部隊の消防士10名が出動しているが、天然ガスが豊富で広く流通している圧縮天然ガス自動車の安全対策についてはよく理解していただろう。圧力20MPaといえば、プロセス装置の中でも圧力の高い重油直接脱硫装置と同じレベルである。このような高圧の燃料タンクを装備して移動する自動車はリスクが高過ぎ、無理がある。

 一方、日本では考えられないような危険性のあるプロセス装置を開発・導入してきた米国であり、今回のような事故もハザード評価を行い、事故の発生頻度を推測し、定量的リスクアセスメントにより判断されるのだろう。(見方によっては数字のマジック)

 注記;タンク事故を例にすれば、「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」201512月)や「米国の石油貯蔵タンク基地におけるハザード評価」20161月)を参照。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Sandiegouniontribune.com,  9 Los Angeles firefighters injured after burning truck’s fuel tank explodes,  February  16,  2024

     Theguardian.com,  Los Angeles firefighters rushed to hospital after huge truck explosion,  February  16,  2024

       Fox59.com,  Video shows truck explosion that injured at least 7 firefighters in California,  February  15,  2024

       Abc10.com,  9 Los Angeles firefighters injured in explosion of burning truck's fuel tank,  February  15,  2024

       Nbcnews.com,  9 Los Angeles firefighters injured, 2 critically, in explosion of burning truck’s fuel tank,  February  16,  2024

       Abc7news.com,  9 firefighters hurt, 2 critically, in Los Angeles area explosion involving natural gas cylinder,  February  16,  2024

      Cbsnews.com,  9 LAFD firefighters injured after explosion in Wilmington area,  February  17,  2024

      Bnnbreaking.com,  9 LAFD firefighters injured after explosion in Wilmington area,  February  15,  2024

      Nbclosangeles.com,  SoCal trucking company investigating explosion that injured 9 LA firefighters,  February  15,  2024


後 記: 事故の情報を知って最初はタンクローリーの事故だと思い、つぎにトラックに積んだ横型タンクだと思いました。情報を調べていって、トラックに装備された圧縮天然ガスの燃料タンクだということが理解できました。消防士9名が負傷したという事故だというので、思い出したのは、 19823月に起こった「重油直接脱硫装置配管の水素侵食による破裂」事故です。この事故では、プロセス流体が漏れ出した後、破裂して火災が発生し、運転員5名が死亡し、3名が負傷しました。圧力異常を検知後、計器室から8名が現場確認のため漏出現場に集まりましたが、漏出発見から45分という短い時間で破裂したため、大きな被害となりました。今回の圧縮天然ガス自動車の事故と類似しています。この事故以降、異常を検知したら、大勢で見に行くのではなく、最小限のふたりで行き、万一のことを考えてパイプラックの柱などに身を隠しながら点検するという教訓話が伝わっていました。

  

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