今回は、2024年1月7日(日)、アルゼンチンのブエノスアイレスにあるライゼン社のブエノスアイレス製油所で原油貯蔵タンクに落雷があり、リムシール火災が起こった事例を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、アルゼンチン(Argentina)のブエノスアイレス(Buenos Aires)アベジャネーダ地区(Avellaneda)ドック・サッド(Dock Sud)にあるライゼン社(Raízen)のブエノスアイレス製油所である。製油所は、主にシェル(Shell)のサービスステーションに燃料を供給している。
■ 事故があったのは、アベジャネーダ地区ドック・サッドにある製油所内の原油貯蔵タンクである。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2024年1月7日(日)午後5時頃、ブエノスアイレス首都圏(AMBA)を襲った嵐によってブエノスアイレス製油所の原油貯蔵タンクに落雷があり、火災が発生した。
■ タンク上部のリムシール部から炎が上がり、黒煙の柱は数km離れたところからも見えた。
■ ライゼン社と近隣住民から火災の通報があった。製油所の緊急時対応チームの自衛消防隊と公設消防の消防隊が出動した。
■ 事故に伴う死傷者はいなかった。
■ 火災は夜まで続いた。
■ ブエノスアイレス近郊では激しい雷雨が発生したため、伝統的なヘスス・マリア馬場馬術・民俗祭典は第2夜を中断せざるを得ず、約250人の避難者が記録され、一部の地域では220mm以上の雨が降った。
■ ユーチューブでは、リムシール火災の映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。
● Youtube、「EXPLOSIÓN
EN DOCK SUD I Un rayo impactó en un tanque de petróleo crudo de una destilería」(2024/01/09)
● Youtube、 「Cayó un rayo sobre un tanque de petróleo crudo en una destilería de Dock Sud」 (2024/01/09)
被 害
■ タンクのリムシール部が火災で損傷した。内部の原油が一部焼失した。
■ 負傷者は出なかった。
< 事故の原因
>
■ 火災の原因はリムシール部の漏出ガスへの落雷による引火である。
< 対 応
>
■ 火災は数時間続き、鎮火した。
■ ライゼン社は、「緊急事態対応基準が適切に機能し、状況を即座に制御して事故による影響を受ける人も出ずに、数時間で消火に成功した」と述べた。
補 足■「アルゼンチン」(Argentina)は、正式にはアルゼンチン共和国で、南アメリカの南部に位置し、人口約4,500万人の連邦共和制国家である。アルゼンチンは、アンデスの山々、氷河湖、大草原パンパ、伝統的な牛の放牧地などがあり、タンゴや音楽でも有名である。
「ブエノスアイレス」(Buenos Aires)は、正式にはブエノスアイレス自治市(Ciudad Autónoma de Buenos Aires;CABA)で、アルゼンチンの首都で州には属さず、ほかの23州とともにアルゼンチンを構成する。人口は都市部で312万人、 都市圏で1,560万人である。
「アベジャネーダ地区」(Avellaneda)は、ブエノスアイレス都市圏の南部に位置し、ラプラタ川の海岸にあり、人口約342,000人である。
■「ライゼン社」(Raízen)は、ブラジルのエネルギー会社で、シェル社(Shell)とコーサン社(Cosan)の事業の一部が統合されて設立された合弁会社である。砂糖とエタノールの生産・燃料流通・発電部門に事業を展開している。 2018年10月、ライゼン社はアルゼンチンのブエノスアイレスにあるシェル社の製油所を買収し、アルゼンチンに進出した。
■「発災タンク」は、原油用の浮き屋根式タンクと報じられている。グーグルマップでライゼン社のブエノスアイレス製油所を見てみると、海側に発災タンクと思われるエリアがある。これをグーグルアースの3Dで見てみると、被災写真にあるタンク番号3(発災タンク)やタンク番号33・34のタンクがあった。これにより発災タンクが特定できた。この発災タンクの直径は約58mで、高さを20mと仮定すれば。容量は52,800KLとなる。
■「リムシール火災」は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、「リング火災」とも呼ばれる。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を採用した浮き屋根式タンクがある。アルゼンチンのタンク施設でどのようなリムシールが採用されているか分からない。日本では、タンクには固定式泡消火設備を設けることになっているが、アルゼンチンのタンク設備に固定式泡消火設備は使用されていない。
最近のリムシール火災の事例は、つぎのとおりである。
● 2023年12月、「米国バージニア州のプレインズ社のタンク基地でリムシール火災」
● 2021年7月、「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」
所 感
■ 今回のタンク火災の原因は落雷である。リムシール火災の原因としては、落雷またはメカニカルシールの金属接触による火花によるものが多いので、典型的なタンク火災のひとつである。ブエノスアイレス近郊では激しい雷雨が発生し、洪水が発生したところもあるという。日本でも、気候変動による異常天候が発生し、雷発生の頻度は多くなり、激しい落雷が普通になっている。日本で落雷によるリムシール火災などタンク火災が起こる可能性があることを再認識させる事例である。
■ 今回の事例では、消火活動の詳細な状況はわからない。被災写真では、四方から放水をしている状況が写されており、これはタンク側板を冷却していると思われる。しかし、タンクには固定泡消火設備が設置されていないので、これだけでは鎮火に至らない。大型高所放水車やはしご車によって泡モニターで泡消火作業を行わなければならない。一方、鎮火までに数時間を要しており、消火資機材が不十分だったため、消防士がタンク側板の階段頂部に昇り、泡モニターによってリムシール部に消火泡を投入して消火させたのかもしれない。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Clarin.com, Dock Sud: se incendió el tanque de una refinería tras la
caída de un rayo, January 08,
2024
・Tn.com.ar, Dock Sud: un rayo provocó el incendio del techo de un
tanque de petróleo crudo en una destilería,
January 08, 2024
・Periodiconuevaepoca.com.ar, Incendio en Dock Sud: un rayo
desencadenó fuego en un tanque de petróleo,
January 08, 2024
・Mejorinformado.com, VIDEO: Un rayo reventó un tanque de petróleo
crudo en una destilería, January 07,
2024
・Canal26.com, Dock Sud: un rayo provocó la explosión y el
incendio de un tanque de petróleo en una destilería, January
07, 2024
・Diarioconvos.com, Un rayo provocó el incendio de un tanque de
petróleo en Avellaneda, January 08,
2024
・Noticiasnqn.com.ar, Un rayo provocó la explosión de un tanque de
petróleo crudo en una destilería Raizen,
January 07, 2024
後 記: 2024年は能登半島地震で始まり、続いて羽田空港で日本空港の旅客機と海保の飛行機が衝突して火災事故があり、波乱の年明けでした。今回の落雷によるタンク事故をまとめている最終段階で、大学ラグビー選手権の決勝(1月13日)が国立競技場でありましたが、途中で落雷の可能性が発生したため、約1時間中断しました。ラグビーは雨が降ろうが、雪になろうが試合を行うスポーツですが、東京で行われる試合で雷によって中断するとは思いもしませんでした。落雷によるリムシール火災をまとめていましたので、余計に落雷のこわさを感じる年明けになっています。
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