今回は、2022年11月23日(水)、オランダのノールトブラバント州のムルダイク工業団地にあるGCA社の輸送車両施設で有毒物質が漏洩し、体調不良者が発生した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、オランダ(Netherlands )ノールトブラバント州(Noord-Brabant )のムルダイク工業団地(Moerdijk
industrial estate)にあるGCA社の輸送車両施設である。
■ 事故があったのは、輸送用タンク(コンテナ)とみられる。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2022年11月23日(水)午前8時50分頃、 GCA社の輸送車両施設から有毒物質が漏洩した。
■ 漏洩物に出くわした作業員8名が体調不良となり、病院へ搬送された。うち1名は重傷だという。当初、負傷者は5名と報告されたが、後に8名に修正された。
■ 事故発生に伴い、救急車、消防署、警察、ヘリコプターの外傷班が現場に出動した。
■ 化学物質はGCA社の輸送用タンクに関連した保守作業中に放出されたとみられる。
■ ムルダイク工業団地には、多数の化学会社の本拠地がある。漏洩の影響は、隣接するストールスヘブン社(Stolthaven)にも及んだ。
■ 漏洩した有毒物質は、殺虫剤などに使われる三塩化リンとみられる。三塩化リンは、腐食性があり、無色発煙性のある透明な液体で、眼、皮膚、呼吸器官に刺激を与え、深刻な肺疾患を引き起こす可能性がある。
■ 当局は、タンク内に有毒物質があったのかや、どのようにして漏れたかについてはまだ確定していないと述べている。
被 害
■ 負傷者(毒性物資による体調不良)が8名あった。うち1名は重傷である。
■ 隣接する工場へも影響があった。影響度は不明である。
< 事故の原因 >
■ 負傷者が発生した原因は、有毒物質の三塩化リンが漏洩したためとみられる。
■ 三塩化リンが漏洩した原因は分かっていない。
< 対 応 >
■ 漏洩した有毒物質の対応や処理は報じられていない。
■ ムルダイク工業団地は、南ホラント州(Zuid-Holland)との国境にあるホランズ・ディエップ(Hollands Diep)に位置し、多くの化学会社が立地しているが、事故は今回だけでない。2014年6月、ムルダイク工業団地にあるシェル社(Shell)で大爆発があった。その衝撃はユトレヒト(Utrecht)やザ・ハウジ(The Hauge)でも感じられた。爆発は、反応器内の物質間の予想外の化学反応によって起こった。2人が負傷した。シェル社は、重大な事故を防ぐために十分な対策を講じなかったとして、250万ユーロの罰金を科された。
補 足
■「オランダ」(Netherlands)は、 西ヨーロッパに位置し、東はドイツ、南はベルギーと国境を接し、北と西は北海に面し、人口約1,740万人の立憲君主制国家である。
「ノールトブラバント州」(Noord-Brabant)は、オランダ南端部に位置し、人口約241万人の州である。
■「GCA社」は、1956年に設立した欧州の輸送会社で、主にバルク輸送、 鉄道輸送、 道路輸送、 タンク(コンテナ)輸送を事業の柱としている。オランダにあるGCA
Nederlandは、Charles Andre Group (GCA) の子会社であり、欧州の化学、液体、ガス業界にバルク・ロジスティクス・サービスを提供している。ムルダイク工業団地(Moerdijk) に専用の車両施設がある。
GCA社は、石油化学、危険物、非危険物について客先のニーズに応じた輸送を行っている。
また、化学物質 (危険物かどうかに関係なく)、食品、ドライバルク製品を輸送したロードタンカー、タンクコンテナなどの内部洗浄も手がけている。
GCA社のブランドムービーがユーチューブに投稿されている。(YouTube、「GCA Nederland brandmovie」 2019/03/21を参照)
■「三塩化リン」は、リンの塩化物のひとつの無機化合物で、化学式はPCl3である。毒性、腐食性を持ち、常温・常圧において液体である。水と激しく反応する。工業的に重要な化合物であり、除草剤、殺虫剤、可塑剤、油への添加剤、難燃剤の製造に使われている。毒物および劇物取締法で毒物に指定されている。
■「発災タンク」については“貯蔵用タンク” と報じられているだけで、詳細な仕様は伝えられていない。GCA社が輸送事業を行っていることから、タンクコンテナなどの輸送用タンクとみられる。
所 感
■ 事故の状況や対応については、あまり報じられていないので、類推になってしまうが、つぎのようなことが考えられる。
● 輸送用タンク(コンテナ)保守のため、ドレン弁を開けた際、残っていた三塩化リンが漏れ出した。この処理をしようと水をかけたため、激しく反応して有毒ガスが発生した。
● 輸送用タンク(コンテナ)の洗浄を行うためタンク内部に水を入れた際、三塩化リンが激しく反応し、有毒ガスが発生した。
● 輸送用タンク(コンテナ)を洗浄しようと、内部に入った際、残っていた三塩化リンが水と激しく反応して有毒ガスが発生した。
● 保管している輸送用タンク(コンテナ)から漏洩した。
● 輸送用タンク(コンテナ)の保守メンバーは三塩化リンの毒性や物性について基本知識が不足していた。
印象としては、輸送車両施設で働いている人が多種の化学物質や毒性物質について知識を持たなければならないということに対する盲点があったように思う。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Nltimes.nl, Eight
hospitalized in chemical workplace incident; One in critical condition, November
23, 2022
・Dutchnews.nl,
Eight hospitalised after chemical leak from storage tank in
Moerdijk, November 23, 2022
・Tankstoragemag.com, Eight hospitalised after
chemical leak, November 24,
2022
・Transport-online.nl, Acht mensen onwel door giftige stof op
industrieterrein Moerdijk, November 23,
2022
・Ruetir.com, Eight people injured due to release
of toxic substance at Moerdijk industrial estate, November
23, 2022
後 記: 今回の事故は、工業団地の貯蔵用タンクで起こったらしいという認識でした。それにしては、取り上げるメディアが少ないなぁと思っていました。 GCA社は化学会社と思い込んでいましたから、殺虫剤製造プロセスと三塩化リンの関係を調べたりしました。ところが、GCA社は輸送会社らしいという情報が出ても、三塩化リンと結びつきませんでした。 GCA社について調べていくと、輸送車両のタンクやコンテナの洗浄を業務のひとつとして行っていることが分かりました。これで、三塩化リンとの関係が類推できました。
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