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2020年7月9日木曜日

米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発

 今回は、2020年6月30日(火)、米国のニュージャージー州カムデン郡グロスターシティのブルーナイト・エナジー・パートナーズ社のアスファルト処理工場で、アスファルト・タンクが爆発・火災を起こした事故を紹介します。
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のニュージャージー州(New Jersey)カムデン郡(Camden)グロスターシティ(Gloucester City)のブルーナイト・エナジー・パートナーズ社(Blue Knight Energy Partners)のアスファルト処理工場である。 

■ 発災があったのは、ウォーター通りにあるアスファルト処理工場のアスファルト・タンクである。 アスファルト処理工場では、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)が製造されている。  
 < 事故の状況および影響 > 
事故の発生 
■ 2020年6月30日(火)午前12時50分頃、アスファルト・タンクが、突然、爆発を起こした。 

■ 近くの住民は、大きな音と家が揺れたので、目をさました。住民のひとりは、 「ちょうどベッドにはいって寝ようとしたところ、大きなボーンという音が聞こえました。一瞬、花火かと思いましたが、それにしてはあまりにも大きな音でした」と語った。 

■ 爆発によってタンク上部の保温外装板が引き裂いたようにはがれ、火災となった。 
■ 発災に伴い、グロスターシティ消防署の消防隊が現場に出動した。アスファルトは燃焼性の危険物質なので、カムデン郡のハズマット(Hazmat)隊も現場に駆け付けた。 

■ 一方、消防隊は消火水の供給に課題点があった。この地域はデラウェア川に囲まれており、給水が制限されており、消火栓のアクセスも限られていた。 アスファルトは非常に燃焼性があり、まわりには満杯のタンクが火災に曝されており、また、近くには木造住宅がたくさんあったので、消防署はすぐに避難勧告を出すことにした。
 

■ 当局は、安全が確認されるまで、予防措置として住民を避難させた。3~4ブロックを半径とする地域に住むおよそ30世帯が避難した。約4時間後に住民は帰宅できた。


■ 事故に伴う負傷者はいなかった。


■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、事故後、ただちに運転を停止し、製品の出荷を取りやめた。 


■ 消防隊は消火泡を使用した。アスファルト・タンクの火災は約3時間ほど続いたあと、制圧され、7月1日(水)午前8時に消火が確認された。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。


被 害 
■ アスファルト用タンクが爆発・火災で損壊した。屋根部が側板から外れ、タンク内に落ちるように損傷している。 

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。 

■ 近くの住民約30世帯が避難した。
 < 事故の原因 > 
■ 事故の原因は調査中である。 

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

 < 対 応 > 
■ 現場には、消防や警察のほか、ニュージャージー州環境保護局、連邦環境保護庁、米国沿岸警備隊が立入りを行った。 

■ 爆発によって有害な煙が空気中に放出され、大気を汚染した。これは人間の肺に影響を与え、目や皮膚を刺激し、頭痛やめまいにつながる恐れがある。特に、こどもや呼吸器疾患を持つ人には憂慮すべき問題で留意が必要である。 
補 足 
■「ニュージャージー州」(New Jersey)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,280万人である。   
「カムデン郡」(Camden)は、ニュージャージー州の南西部に位置し、人口約51万人の州である。  
「グロスターシティ」(Gloucester City)は、カムデン郡の西部に位置し、デラウェア川をはさんでペンシルベニア州に接する人口約11,000人の市である。 

■「ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社」(Blue Knight Energy Partners)は、オクラホマ州タルサを本拠地として2007年に設立したエネルギー会社で、特に液体アスファルトと原油を中心として物流部門の事業を展開している。は 1,570万バレル(250万KL)の貯蔵タンク、約646マイル(1,033km)のパイプライン、約60台の原油用タンクローリー、26州にある53箇所の液体アスファルト・ターミナルを保有している。 

■「アスファルト・エマルジョン」(アスファルト乳剤)とは、加熱しなくても常温で取扱えるように工夫したものをいい、アスファルトと水に乳化剤を混ぜてアスファルト微粒子を水中に分散(乳化)させ、含まれている水分が蒸発することでアスファルトとしての粘度性能を発揮させる。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)は、主として舗装の表面処理、安定処理、タックコートなどに使用され、他にも緑化、水利、防水、鉄道の軌道材料などとして用いられている。  
 アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造方法の例は図のとおりである。 
 乳化剤によって、水中にあるアスファルト粒子の表面の電荷が異なり、電荷の違いによりカチオン系(正電荷)、アニオン系(負電荷)、ノニオン系(帯電なし)に分けられる。カチオン系は、接着性に優れることから道路舗装によく用いられており、日本で道路用に使用されているアスファルト乳剤のほとんどがカチオン系で、アニオン系乳剤が使われることは少ない。ノニオン系は、セメント・アスファルト乳剤安定処理混合用として、既設アスファルト舗装を修繕する際、その場で舗装を粉砕して既設の路盤材とともに混合し、路盤を再構築する路上再生工法に使用される。  
 乳化剤は以下のものが使われる。  
 ● カチオン系:牛脂やヤシ油の脂肪酸誘導体のアミンの塩酸または酢酸塩(pH2~5)
 ● アニオン系:高級アルコール硫酸塩(pH12~13) 
 ● ノニオン系:アルキル基(ノニルフェニルなど)にエチレンオキサイドを付加したもの(中性付近) 

■「発災タンク」は、アスファルト・タンクというだけで、容量や大きさなどの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約19mである。高さを12mと仮定すれば、容量は3,400KLとなる。従って、容量3,000KL級のコーンルーフ式タンクだとみられる。
 
 通常、コーンルーフ式タンクは爆発など内圧が上昇したときには、屋根と側板の溶接線が意図的に弱くした放爆構造で製作されており、屋根板が外れるようになっている。今回の事故でも、屋根板が側板から外れ、一部がタンク内に落下したと思われる。しかし、タンクの保温外装板は引きちぎられたようにギザギザになって破断している。これがタンク側板が引きちぎられたように見える。一般に全面火災時は熱によってタンク側板が内側に座屈するが、今回はタンク保温外装板が火災の熱によって内側に座屈したとみられる。  
 一方、発災タンクだけでなく、隣接しているタンクをみると、大気開放のタンクベントがついていないように見える。住宅地が近いので、不活性ガスの封入あるいは除害装置への連絡管が設置されているのではないだろうか。(爆発しているので、不活性ガス封入ではないと思われる)  
 なお、発災タンクは、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する前のアスファルトのタンクなのか、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造したあとの貯蔵タンクなのかは分からない。5基あるタンク群の中では、小型であり、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造過程にあるタンクではないだろうか。 

所 感 
■ 今回の事故は、これまで意外に多いアスファルト・タンクの爆発事例である。爆発例で多いのは、アスファルト内に軽質分が混入して気相で爆発混合気を形成する事故である。しかし、今回はアスファルト処理工場でアスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する工程であり、従来の例とは異なるように思う。どのような乳化剤が使用されていたか分からないが、普通で考えれば、爆発混合気を形成するような軽質分が混入することはない。屋根が噴き飛んではおらず、屋根の落下状況を見ると、爆発力は大きくないと思う。しかし、事故が現実に起こっており、乳化剤などの添加剤が関わった運転上の要因に関係しているのではないだろうか。 

■ 消火活動状況は詳しく報じられていないが、消防活動は適切だったように感じる。グロスターシティ消防署だけの対応でなく、アスファルトの燃焼性を考慮してカムデン郡のハズマット隊(Hazmat)を支援に要請している。また、消火活動の準備に並行して、すぐに近隣住民への避難を判断している。消火栓に課題があったといわれているが、解決して大きな問題とせず、消火活動を行っている。このあたりは、事前に仮想訓練をやっていたように感じる。もちろん、その場の状況に応じた即断力も必要だが、訓練(机上あるいは実践)で即断力を養うことは必要だと思う。  
 発災タンクは3,000KL級と比較的小型であったが、タンク屋根が油面上にかぶさり、障害物ありタンク火災の対応となった。はしご車が出動し、上から泡消火剤を放射すれば、消火は困難ではなかったのではないだろうか。

 備 考  
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。   
 ・6abc.com, Asphalt tank erupts into flames in Gloucester City, N.J., forces evacuations, July 01, 2020 
 ・Fox29.com, Hazmat, fire crews respond to asphalt tank explosion in Gloucester City, July 01, 2020 
 ・Nbcphiladelphia.com, Blast Rips Top Off Tank at NJ Asphalt Plant; Neighbors Forced From Homes, June 30, 2020 
 ・Gloucestercitynews.net, Toxic Fumes from The Asphalt Tank Explosion Spread Throughout Gloucester City, June 30, 2020 
 ・Courierpostonline.com, Asphalt storage facility explosion rocks, evacuates Gloucester City neighborhood, July 01, 2020 
 ・Phillyvoice.com, Tank explosion at Camden County industrial plant results in residents being evacuated, June 30, 2020 
 ・Apnews.com, Evacuated residents return after fire in asphalt tank, June 30, 2020 
 ・Nj.com, Asphalt tank explodes in N.J. neighborhood, sending terrified families fleeing from homes, June 30, 2020 


後 記: アスファルトタンクの爆発・火災ということで、これまでも起こったことのある類似事例かと思っていましたが、今回は本格的なアスファルト処理工場における事例でした。アスファルト処理工場のプロセスを調べてみましたが、爆発混合気の形成過程の類推もできず、よくわかりません。ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、「タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こした。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性がある」と話しており、うすうす原因についてわかっているようにも感じます。

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