左;タンク側板に開いた穴(事故後)、右:タンクから放出
するアスファルト
(写真はCsb.govから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のウィスコンシン州(Wisconsin)ダグラス郡(Douglas)スーペリア(Superior)にあるハスキー・エナージー社(Husky
Energy)の石油施設である。
■ 発災があったのは、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所で、精製能力は50,000バレル/日である。製油所は、5年ごとの定期保全のため、4月30日(月)から運転停止して5週間の定期検査を準備しており、広範囲の開放工事を予定して多くの作業員が入構していた。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所付近 (事故前、矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月26日(木)午前10時頃、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所の流動接触分解装置(FCC)で爆発が起こり、続いて、火災が発生した。
■ 最初の爆発が起きた後、金属片がアスファルトの貯蔵タンクの1基に当たって穴が開いた。タンク側板の穴の開いた箇所から真黒い液体が奔流となって落ち、約2時間にわたって放出した。構内にアスファルトが流れ出した後、午後12時30分頃に2回目の爆発が起こり、大きな火災となった。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所の火災
(写真はCsb.govから引用)
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避難した近隣地区
(写真はCsb.govから引用)
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■ この事故に伴い、36人が病院で診察を受けた。うち、11名が製油所および請負会社の作業員だった。
■ 製油所から半径5km圏内の住民に、また、煙が流れる南の方向では16kmの範囲に避難指示が出された。また、近隣の住宅、学校、病院に避難指示が出された。製油所は工業地区にあるが、北東側の2km以内に住宅地がある。このため、千人以上が避難し、3つの学校と1つの病院が予防措置として避難した。
■ 発災に伴い、消防署が出動した。消防隊は近隣のタンクに冷却水を掛け、火災が拡大するのを防ごうと試みた。消防隊員は火炎だけでなく、発火する恐れのある他のケミカル類や石油製品に関する危険性を考慮しなければならなかった。午後遅くなって、十分な消火水と水圧が得られるという報告があった。その後、泡消火が試みられた。火災は、4月26日(木)午後6時45分頃、消された。
■ 住民の避難指示は4月27日(金)午前6時に解除された。
■ この事故の状況に関しては、「米国ウィスコンシン州の製油所で爆発、貯蔵タンクが被災して火災、20名負傷」(
2018年5月18日)を参照。
被 害
■ 流動接触分解装置の一部が損壊し、火災で焼損したほか、アスファルト貯蔵タンク1基が破片で損傷し、内部の流体が流出して火災とな、複数のタンクが被災した。設備の損害額は2,700万ドル(30億円)に昇り、費用の被災額は5,300万ドル(58億円)以上に達するとみられている。
■ 事故に伴い、36人が医者の診察を受けた。また、火災の煙とフッ化水素の懸念のため、千人以上の住民が約20時間避難した。なお、製油所の再建に当たっては、フッ化水素の使用を継続するか、中止するかの検討を行うという。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所の火災から立ち昇る黒煙
(写真はCsb.govから引用)
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< 事故の原因 >
■ 発災の起点は、流動接触分解装置(FCC)の爆発によるものである。
爆発による破片のひとつが、約200フィート(60m)飛び、アスファル用の容量50,000バレル(7,950KL)の地上式タンクへ衝突した。このため、タンク側板に穴が開き、15,000バレル(2,400KL)以上の熱いアスファルトが構内に放出し、約2時間後、アスファルトが発火し、大きな火災となった。
■ 流動接触分解装置(FCC)の爆発の原因について、中間報告ではつぎのようにみられている。
● FCC装置では、触媒の流れを制御する重要なバルブがあり、バルブは再生塔の空気が反応塔の炭化水素に接触しないようにしている。このバルブのひとつの使用済触媒スライドバルブにダメージが見られた。
● 使用済触媒スライドバルブを分解して検査したところ、内部摩耗が見られた。バルブが閉位置でも、バルブを通じて触媒が流れるような状態だった。
● このため、空気がスライドバルブを通って入り込み、炭化水素と混合し、設備内で生成した硫化鉄デポジットと接触して発火した可能性が高いとみられる。
< 対 応 >
■ 米国化学物質安全性委員会(The
U.S. Chemical Safety Board ; CSB)は事故調査を行うことととした。また、4月27日(金)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The
U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、調査のため4人のメンバーを派遣することとした。
■ 5月1日(日)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会は、最初の爆発が流動接触分解装置(13,000バレル/日)で起こったことを明らかにした。
■ ハスキー・エナージー社は、5月4日(金)時点で、1,045通のクレームを受け取ったという。そのほとんどは、避難中に発生した経費や損失に関するものだった。ごくわずかであるが、傷害に関わるクレームもあるという。
■ 2018年8月2日(木)、米国化学物質安全性委員会(CSB)は、爆発・火災の調査について中間報告を公表した。その内容はつぎのとおりである。
● 最初の爆発は流動接触分解装置(FCC)で午前10時に発生した。
● FCC装置は定期保全のためシャットダウンの準備中だった。
● 事故は午前の休憩時間中に起こったが、多くの作業員は堅牢な建物に入る前やプロセス装置外に出る前に、爆発が起こってしまった。
● 爆発による破片のひとつが、約200フィート(60m)飛び、近くにあったアスファルト用の容量約50,000バレル(7,950KL)の地上式タンクへ衝突した。このため、タンク側板に穴が開き、15,000バレル(2,400KL)以上の熱いアスファルトが構内に放出した。
● 放出が約2時間続いた後、アスファルトが発火し、大きな火災となった。
● 爆発によって36人が医者の診察を受けた。うち、11名が製油所および請負会社の作業員だった。さらに、近隣の住民が避難した。
■ 流動接触分解装置(FCC)のスライドバルブについては、継続調査中であるが、つぎのような見解である。
● FCC装置では、触媒の流れを制御する重要な3つのバルブがあるが、このバルブは再生塔の空気が反応塔の炭化水素に接触しないようにしている。このバルブのひとつ、使用済触媒スライドバルブにダメージが見られた。
● 使用済触媒スライドバルブを分解して検査したところ、内部摩耗が見られた。バルブが閉位置でも、バルブを通じて触媒が流れるような状態だった。
● このため、空気がスライドバルブを通って入り込み、炭化水素と混合し、設備内で生成した硫化鉄デポジットと接触して発火した可能性が高いとみられる。FCC装置の計画的なシャットダウン時、装置内では重質の原料油が軽質な油へと分解が起きている中で、空気が再生塔から反応塔へ流れ込み、さらに下流の設備へと流れ続けたとみられている。
爆発で破壊した2基のベッセル(黄枠部)
(写真はCsb.govの動画から引用)
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■ CSBによる事故の状況をアニメーションにした動画がYouTube「CSB
Interim Animation on Husky Refinery Explosion and Fire」が出されている。
発災のアニメーション
(写真はCsb.govの動画から引用)
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■ ハスキー・エナジー社は、スーペリア製油所の再開には18~24か月かかり、2020年まで操業の見通しが立たないという。
補 足
■ 「ウィスコンシン州」は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。
「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。スーペリアには、ウィスコンシン州で唯一の製油所であるスーペリア製油所がある。
■ 「ハスキー・エナジー社」(Husky
Energy Inc.)は、1938年に設立し、カナダのアルバータ州カルガリーを本社とする石油と天然ガスのエネルギー会社である。カナダを始め、世界で原油と天然ガスの探査、開発、生産などの業務に従事している。
「スーペリア製油所」(Superior
Refinery)は、ハスキー・エナジー社が2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ(Calumet
Specialty Products Partners. LP)から買収して得た。精製能力は50,000バレル/日で、アルバータのオイルサンドと軽質のノースダコタのバッケン原油の両方を処理し、アスファルト、ガソリン、ディーゼル燃料、重油を製造している。従業員数は約180名である。
■ 「発災タンク」はアスファルト用で保温付き固定屋根式タンクで、容量は約50,000バレル(7,950KL)ある。グーグルマップによると、タンクの直径は約28mであるので、高さは約13mとみられる。
■ 「流動接触分解装置」(FCC)は、重質の原料油が反応塔の底部から供給され、ライザー管内部で流動化した触媒と接触することにより液化石油ガス(LPG)、ガソリン、軽油留分に分解するプロセス装置である。反応塔で分解された油のベーパーは塔頂から出て、蒸留塔に送られる。触媒は、重質の油を分解すると同時に、コーク(炭素)で覆われ、活性を失うので、コークが付着した触媒は再生塔に送られ、高温下でコークを燃焼させて、再生される。再生された触媒は再度ライザー底部に供給され、循環使用される。
流動接触分解装置(FCC)の例
(写真はPlibrico.co.jpから引用)
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■ 「スライドバルブ」は、反応塔から再生塔への配管部および再生塔からライザー管への配管部に付いている。触媒(シリカ、アルミナなどから成るゼオライト系)を取扱うため、エロージョン性が高く、スライドバルブの弁体には、耐摩耗の表面処理が施されている。
スライドバルブの例
(写真はTokyo-hardfacing.co.jpから引用)
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所 感
■ 前回、この事故の原因について所感でつぎのように述べた。
「流動接触分解装置のプロセスは、温度は高い(約430~540℃)が、圧力は低い(0.1~0.2MPa)装置であり、本体系装置の爆発ではないだろう。破片がタンク側板を貫通させるくらいの強烈な爆発力であり、2次装置の液化石油ガス(LPG)系などの異常によるものではないだろうか。それにしても、破片の写真を見ると、配管ではなく、何かの機器で結構な大きさのものであり、脆性的な割れの様相が見られる。あるいは、製油所は定期検査のためのシャットダウンに入っており、非定常運転による要因が関係しているのかもしれない」
やはり、原因は流動接触分解装置の下流設備のベッセルの爆発によるものだった。スライドバルブのダメージ(摩耗)によって再生塔の空気(酸素)が下流設備へ流れたことから爆発混合気が形成したとみられている。
■ 一方、スライドバルブはエロージョン環境にあり、ある程度の摩耗はありうる。反応塔から再生塔への触媒の流れは、スライドバルブより上に堆積した触媒レベルによって圧力バランスが取られており、シャットダウン時の非定常運転は、このことを考慮した対応がとられる。スライドバルブの摩耗の不具合だけで、下流設備に空気が流れたということには疑問が残る。シャットダウン時の非定常運転の管理にも問題があったのではないだろうか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Csb.gov, CSB Releases Factual Update on Explosion and
Fire at Husky Refinery Located in Superior, Wisconsin, August
2, 2018
・Csb.gov, Factual Investigative Update April 26, 2018
Husky Superior Refinery Explosion and Fire ,
August 2, 2018
・Kare11.com, Agency: Refinery Fire Caused by
Blast Debris Hitting Tank, August 2,
2018
・Superiortelegram.com,
Worn Valve, Iron Sulfide Possible Cause of Husky Explosion, August
3, 2018
・Wpr.org, Husky
Energy: Fires Caused $40M In Expenses, $20M In Damages, July
26, 2018
・Duluthnewstribune.com , Husky: Refinery Explosion Caused
$27 Million in Damage, July 26,
2018
・Fox9.com, Federal
Report: Worn Valve in Superior, Wisconsin Refinery Explosion, August
2, 2018
・Insurancejournal.com
, Agency Says Wisconsin Refinery Fire Caused by Blast Debris Hitting Tank, August
6, 2018
・Citopbroker.com , Agency: Husky Energy refinery fire
caused by blast debris hitting tank,
August 2, 2018
・Minnesota.cbslocal.com , Wis. Refinery Fire Caused By
Blast Debris Hitting Tank, Agency Says,
August 2, 2018
・Safetyandhealthmagazine.com , CSB Issues Investigation
Update, Animated Video on Wisconsin Refinery Explosion, Fire, August
15, 2018
後 記: 今回の事故原因は、公的機関である米国化学物質安全性委員会(CSB)による調査で、中間報告が出されましたが、投稿がやや遅れてしまいました。
CSBは、トランプ政権になって国家予算削減で解散の噂が立っていましたので、CSBのやる気が見えます。今回のような事故は、公的機関でなければ、原因調査の結果が出てきません。この点、日本では第三者調査委員会ができて、公表される仕組みは良いと感じています。(反面、公的機関の役割が弱いともいえますが)
ところで、ハスキー・エナジー社スーペリア製油所は、昨年、2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズから買収されたものです。従業員は継続雇用されているでしょうが、経営が代わったことによる要因が事故に関係していないか疑問が残ります。米国で今回のような事故が起こるとは思いませんでした。以前の米国や石油メジャーの時代と違って、今は余裕のない製油所経営だと感じています。
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