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2018年5月18日金曜日

米国ウィスコンシン州の製油所で爆発、貯蔵タンクが被災して火災、20名負傷

 今回は、2018年4月26日(木)、米国ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアにあるハスキー・エナージー社の製油所で、流動接触分解装置が爆発し、金属片がアスファルトの貯蔵タンクに当たって穴が開き、火災となった事例を紹介します。
(写真はCbc.caから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のウィスコンシン州(Wisconsin)ダグラス郡(Douglas)スーペリア(Superior)にあるハスキー・エナージー社(Husky Energy)の製油所である。

■ 発災があったのは、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所である。スーペリア製油所の精製能力は50,000バレル/日である。製油所は、5年ごとの定期検査のため、4月30日(月)から運転停止して5週間の定期検査を準備しており、広範囲の開放工事を予定して多くの作業員が入構していた。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所付近  (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月26日(木)午前10時頃、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所で爆発が起こり、続いて、火災が発生した。現場からは有害な煙が大気中に放出された。

■ 最初の爆発が起きた後、金属片がアスファルトの貯蔵タンクの1基に当たって穴が開き、2度目の火災になった。タンク側板の穴の開いた箇所から真黒い液体が奔流となって落ち、数時間にわたって流れ出した。2回目の爆発が午後12時30分頃に起こった。その後、午後から複数回の爆発が発生した。
(写真はHuffingtonpost.comから引用)
■ 製油所から約1マイル(1.6km)離れたところにある店の主人は、「照明が3回ほど付いたり消えたりし、建物全体が揺れました」と語った。製油所から約2マイル(3.2km)離れたところに住んでいた夫婦は、爆発が起こったとき、家に車か何かがぶつかったと思ったという。犬が吠え始めた。犬と猫を抱きあげ、友人宅に避難し、最新のニュースを見ていたという。

■ この事故に伴い、少なくとも13名が負傷した。うち6名が病院へ搬送され、7名は現場で治療を受けたという。その後、5月1日(火)時点で負傷者は少なくとも20名いたことが分かった。

■ 事故が起こったのが午前中の休憩時間だったことは、不幸中の幸いだったといえよう。現場には、請負会社の多くの作業員が入構していた。

■ 製油所から半径5km圏内の住民に、また、煙が流れる南の方向では16kmの範囲に避難指示が出された。また、近隣の住宅、学校、病院に避難指示が出された。製油所は工業地区にあるが、北東側の2km以内に住宅地がある。このため、千人以上が避難し、3つの学校と1つの病院が予防措置として避難した。風下の南側は人があまり住んでいない地区だった。

■ 発災に伴い、消防署が出動した。消防署によると、火は午前11時頃に消えたと発表したが、現場ではなおも煙が出続け、火災が再び起こった。警察は避難した人のために、再点火したということをツイッターで公表した。警察は近くの道路の交通を遮断した。
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
■ 426日(木)の午後になると、火炎の勢いが増し、消火を試みることができなかった。消防隊は近隣のタンクに冷却水を掛け、火災が拡大するのを防ごうと試みた。消防隊員は火炎だけでなく、発火する恐れのある他のケミカル類や石油製品に関する危険性を考慮しなければならない。しかし、午後遅くなって約30名の消防隊員からは、十分な消火水と水圧が得られたと報告があった。その後、泡消火が試みられた。

■ 火災は、4月26日(木)午後6時45分頃、消された。しかし、熱い油が現場に残っており、別な火災の原因になったり、ほかの問題を生じる恐れがあるため、消防隊は27日(金)まで現場に残って監視を続けた。

避難指示解除で帰宅する住民
(写真はStartribune.comから引用)
■ 住民の避難指示は継続され、解除されたのは4月27日(金)午前6時だった。

■ 製油所でフッ化水素を使用しているために、住民を避難させることにつながった。このことはスペリオル市長が明らかにした。市長は以前からフッ化水素の代替物質を検討すべきという意見をもっていた。現場では、フッ化水素が爆発や火災に関係ないということを確認するのに、1時間ほどかかったという。
 米国の製油所では、ガソリンのオクタン価を上げるため、まだフッ化水素を使用しているところがある。フッ化水素は有毒ガスであり、長年警告が発せられてきた。公衆衛生センターの2011年報告書によれば、スーペリア製油所で使用されている量は、最悪の場合、180,000人が死や重大な人身傷害に至る恐れがあるという。

被 害
■ 流動接触分解装置の一部が損壊し、火災で焼損した。
 アスファルト貯蔵タンク1基が破片で損傷し、内部の流体が流出して火災となった。

■ 事故に伴い、20名以上が負傷した。

■ 住民が、火災の煙とフッ化水素の懸念のため、千人以上が約20時間避難した。実際の避難者数は分かっていない。

< 事故の原因 >
■ 発災の起点は流動接触分解装置の爆発によるものである。爆発の原因は調査中である。
 アスファルト貯蔵タンクの損壊は、装置の爆発のよって飛散した破片が側板に当たって貫通したものである。
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
< 対 応 >
■ 米国環境保護庁は、現場まわりの大気(空気質)の状況の監視を行った。4月27日(金)朝の状況では、安全な状態であることを確認したという。

■ 米国化学物質安全性委員会(The U.S. Chemical Safety Board ; CSB)は事故調査を行うことととした。また、4月27日(金)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、調査のため4人のメンバーを派遣することとした。調査メンバーは、つぎのような点を焦点をおいて調査を行い、予備調査結果にもとづき、さらに調査を進める予定である。
 ● 物理的な証拠を収集して文書化。
 ●  製油所内と事故現場の撮影。
 ●  事故に関連する可能性あるのハスキー・エナジー社と請負会社の従業員への事情聴取。
 ●  事故当時に製油所内で実施される作業に関連する文書の入手。この中には、作業計画、安全計画、ハザード分析、安全分析を含む。
 ●  事故に関連していると疑われる機器の建設、保守、検査記録の入手。
 ●  事故時の緊急対応の有効性の検証。この中には、避難対応を含む。

■ 5月1日(日)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会は、最初の爆発が流動接触分解装置(13,000バレル/日)で起こったことを明らかにした。今後、なぜ流動接触分解装置が爆発を起こしたかを調べるため、金属分析を行う予定で、金属片について物理的性質と化学的性質が調べられる。

■ ハスキー・エナージー社は、5月4日(金)時点で、1,045通のクレームを受け取ったという。そのほとんどは、避難中に発生した経費や損失に関するものだった。ごくわずかであるが、傷害に関わるクレームもあるという。
(写真はFirehouse.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comから引用)
                       事故後の状況   (写真はStartribune.com から引用)
飛散した破片
(写真は、左と中: Csb.gov、右: Superiortelegrarmcomから引用)
補 足
■ 「ウィスコンシン州」は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。 
 「ダグラス郡」(Douglas County)は、ウィスコンシン州の北西部に位置し、五大湖地域にあり、人口は約44,000人の郡である。
 「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。スーペリアには、ウィスコンシン州で唯一の製油所であるスーペリア製油所がある。
ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアにあるスーペリア製油所付近
(写真はGoogleMapから引用)
■ 「ハスキー・エナジー社」(Husky Energy Inc.)は、1938年に設立し、カナダのアルバータ州カルガリーを本社とする石油と天然ガスのエネルギー会社である。カナダを始め、世界で原油と天然ガスの探査、開発、生産などの業務に従事している。香港を本社とする多国籍企業のハチソン・ワンポア(Hutchison Whampoa Ltd.)の子会社のひとつである。2008年に中国海洋石油がハスキー・エナジー社の子会社の株式の50%を取得した。2009年、ハスキー・エナジー社は南シナ海で大型ガス田を発見している。

■ 「スーペリア製油所」(Superior Refinery)は、ハスキー・エナジー社が2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ(Calumet Specialty Products Partners. LP)から買収して得た。精製能力は50,000バレル/日で、アスファルト、ガソリン、ディーゼル燃料、重油を製造する。当時の従業員数は180名である。製油所は、アルバータのオイルサンドと軽質のノースダコタのバッケン原油の両方を処理する。また、製油所には、2つのアスファルト・ターミナルと360万バレル(57万KL)の原油と石油製品の貯蔵タンクがある。
 なお、スーペリア製油所では、カルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ時代につぎのような事故を起こしている。

■ 「発災タンク」はアスファルト用で保温付き固定屋根式タンクであるが、仕様は分からない。グーグルマップによると、直径約28mであり、高さを10mと仮定すれば、容量は約5,800KLとなる。
               事故前の発災タンク(矢印)   (写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ この事故は流動接触分解装置の爆発に伴って、破片が隣接するアスファルトタンクの側板を貫通して火災になるという極めて珍しい事例である。プロセス装置が爆発して、貯蔵タンクが被災するという事例は、架空で想像したような筋書きであり、実際に起こりうるといことに驚く。少しでも破片の衝突がズレておれば、キズがつくにしても開口することはなかっただろう。

■ 流動接触分解装置のプロセスは、温度は高い(約430~540℃)が、圧力は低い(0.1~0.2MPa)装置であり、本体系装置の爆発ではないだろう。破片がタンク側板を貫通させるくらいの強烈な爆発力であり、2次装置の液化石油ガス(LPG)系などの異常によるものではないかだろうか。それにしても、破片の写真を見ると、配管ではなく、何かの機器で結構な大きさのものであり、脆性的な割れの様相が見られる。あるいは、製油所は定期検査のためのシャットダウンに入っており、非定常運転による要因が関係しているのかもしれない。事故調査には公的機関が入っており、明らかにされるだろう。

■ 事故対応の消防活動についてはあまり言及されていない。2015年のカルメット社時代の「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」では、公的消防と製油所消防の連携が良かったことが伝えられているが、今回は流動接触分解装置の爆発、アスファルトタンクの火災、フッ化水素の問題など考慮すべきことの多い事故だったので、現場では大変だったように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Cbc.ca,  Fire Reignites at Husky Energy Oil Refinery in Wisconsin after Being Put Out,  April 27  2018
    ・Afpbb.com ,  米中西部の精油所で爆発・火災、6人負傷 住民に避難命令,  April  27,  2018
    ・Cbc.ca,  Officials Say 13 People Injured in Husky Refinery Fire in Wisconsin,  April 27  2018
    ・Reuters.com , Wisconsin Oil Refinery Fire Out, at Least 15 Hurt: Officials,  April 27,  2018
    ・Wdio.com,  Husky Receives 1,000 Claims After Refinery Fire,  May 04,  2018
    ・Mprnews.org,  Husky Energy Refinery Blast in Wisconsin: What We Know,  April 26  2018
    ・Theglobeandmail.com, Husky’s Wisconsin Refinery Fire Started in Gasoline Unit,  May 01,  2018
    ・Wpr.org,  Safety Board: Superior Refinery Explosion Happened In Fluid Catalytic Cracking Unit,  May 01,  2018
    ・Wbay.com ,  Fire is out at Superior oil refinery; evacuation order lifted ,  April 26,  2018
    ・Jsonline.com,  Fire Extinguished at Superior Oil Refinery after at Least 20 Were Injured in Explosions,  April  26, 2018
    ・Csb.gov,  Husky Energy Oil Refinery Investigation Update ,  May 02,  2018
    ・Csb.gov,  Husky Energy Oil Refinery Investigation Update ,  May 11,  2018
    ・Npr.org,  Emergency Evacuation Finally Lifted After Huge Oil Refinery Fire In Superior, Wis.,  April 27,  2018
    ・Superiortelegram.com,  CSB Issues update on Husky Energy Refinery Fire in Superior ,  May 15,  2018
    ・Denver.cbslocal.com , Explosion Rocks Wisconsin Oil Refinery; Entire City Could Be Evacuated,   April 26  2018
    ・Startribune.com, Wisconsin Gov. Scott Walker Inspects Damage at Refinery Blast Site,  April 30,  2018


後 記: 事故情報は多いのですが、はっきりしないことの多い事例です。米国では負傷者に敏感なはずですが、負傷者数は記事や日にちによって変わっています。20名としましたが、入構していた作業員のほかに住民がいるのかどうかがはっきりしません。また、事故の経過がはっきりしません。初めは原油またはアスファルトタンクが火災になったという情報でしたが、あとになって流動接触分解装置の爆発・火災が引き金になったことが報じられました。午前中に消火したという話や爆発が午後まで続いたという情報があり、事故の経過や消防活動がどうだったのかはっきりしません。
 ところで、ハスキー・エナジー社の経歴をみると、カナダの会社ですが、香港の多国籍企業ハチソン・ワンポアの子会社であり、米国のウィスコンシン州の製油所を買収したり、中国海洋石油がハスキー・エナジー社の子会社の株式の50%を取得し、ハスキー・エナジー社が南シナ海で大型ガス田を発見しているという話を聞くと、石油メジャーの姿が変わってきたなと感じますね。

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