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2018年4月2日月曜日

シンガポールの石油タンク・ターミナルで燃料油タンク火災

 今回は、2018年3月20日(火)、シンガポールのプーラウ・ブシングにあるタンクストア社のプーラウ・ブシング・ターミナルで発生した燃料油貯蔵タンクの火災事故について紹介します。
(写真はSafety4sea.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、シンガポール(Singapore)南西部に位置するプーラウ・ブシング(Pulau Busing)にあるタンクストア社(Tankstore Lmd)のプーラウ・ブシング・ターミナルである。タンク・ターミナルの貯蔵能力は200万KLで、容量300~60,000KLまでのタンク112基を保有し、石油製品および石油化学製品を貯蔵している。なお、タンク・ターミナルには12基の桟橋があり、最大236,000DWTまでの船舶に対応できる。

■ 発災があったのは、タンク・ターミナルにある容量40,000KLの燃料油(重油)の貯蔵タンク(タンクNo.454)である。燃料油は舶用燃料のバンカー重油や発電用燃料として使用されている。
シンガポール(Singapore)とプーラウ・ブシング(Pulau Busing)の位置
(図はChannelnewsasia.comから引用)
タンクストア社のプーラウ・ブシング・ターミナル
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年3月20日(火)午後5時50分頃、プーラウ・ブシング・ターミナルにある燃料油貯蔵タンクで火災が発生した。タンクからは激しい火炎が噴き出した。

■ シンガポール島の港付近のマンションの住民のひとりは、「雨が降っていて、雷鳴が聞こえました。空を見ると、沖合の島から黒煙が上っているのが見えました」と語った。
(写真はYoutube.comから引用)
消防車両や資機材のフェリーによる輸送
(写真はChannelnewsasia.comから引用)
■ 発災に伴い、シンガポール市民防衛庁(Singapore Civil Defence ForceSCDF)およびシンガポール企業緊急対応チーム(Company Emergency Response Team CERT の消防隊が出動した。シンガポール市民防衛庁(SCDF)は、車両・消防資機材をシンガポール島の南西部にあるパシール・パンジャン・フェリー・ターミナル(Pasir Panjang Ferry Terminal)から輸送した。

■ 発災タンクの火炎による放射熱が消防隊員に激しく浴びせられた。安全距離を保ちつつ、消防隊員はできるだけ前進して消火活動を実施した。隣接タンクには、5台の地上式無人の水モニターを使用してタンク壁面の冷却が実施された。厳しい放射熱の環境で活動する消防隊員は交代で短い休憩をとりあって対応した。 

■ 大規模火災となり、発災から約5時間後の午後11時過ぎには、シンガポール市民防衛庁(SCDF)からは128名の隊員と消防車や支援車両31台が消火活動に当たった。

■ 消防隊は、激しく燃えている燃料油タンク火災に対して大容量泡放射砲システムを使用することとした。配置されたのは、放射能力6,000gpm(22,700L/min)の大容量泡放射砲×2基である。

■ 消火活動から6時間後に制圧され、火災は3月21日(水)午前2時頃までに鎮火した。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はAsiaone.cpmから引用)
(写真はChannelnewsasia.comから引用)
(写真はChannelnewsasia.comから引用)
被 害 
■ 容量40,000KLの燃料油タンクの上部が焼損した。内部に入っていた燃料油(重油)が焼失したが、焼失量は分かっていない。
■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中で分かっていない。
 一部のメディアは、タンク火災が落雷によるものだと伝えている。

< 対 応 >
■ 事故対応は、シンガポール市民防衛庁(SCDF)の主導で行われたが、このほかに警察沿岸警備隊、シンガポール海上港湾局、シンガポール海軍、政府環境庁の各機関が支援した。

■ 政府環境庁によって大気状況が監視されているが、空気質の汚染物質のレベルは悪化していない。発災後、風は北東方向から吹いており、シンガポール島の空気質は良好な範囲にあるという。また、PM2.5、二酸化硫黄あるいはその他の大気汚染物質が増える傾向にはないと付け加えた。

■ 消火活動中、自治大臣兼法務大臣が島を訪れ、シンガポール市民防衛庁(SCDF)の緊急対応部隊を視察した。

■ タンクストア社のプーラウ・ブシング・ターミナルで予定されていたバンカー重油の積込みは、ジュロン島のユニバーサル・ターミナルなどの他のタンク・ターミナルに回され、事故の影響による支障は出ないと見込まれる。
(写真はAsiaone.cpmから引用)
(写真はChannelnewsasia.comから引用)
(写真はChannelnewsasia.comから引用)
(写真はFacebook.comから引用)
補 足
■ 「シンガポール」(Singapore)は、正式にはシンガポール共和国で、東南アジアの主権都市国家かつ島国で、人口は約540万人である。マレー半島南端に位置し、同国の領土は菱型の本島であるシンガポール島および60以上の島から構成される。
 シンガポールでは、つぎのような火災事故が起こっている。
 
■ 「タンクストア社」(Tankstore Lmd)は、1984年に設立され、石油製品および石油化学製品の貯蔵施設を所有して操業している石油会社である。シンガポールに本社を置き、プーラウ・ブシングに石油タンク・ターミナルを保有している。

■ 「シンガポール市民防衛庁」(Singapore Civil Defence Force: SCDF) は、シンガポール政府の内務省に属する機関で、火災や災害時の消防、救援・救助、緊急搬送などの業務を行なうほか、火災予防、市民保護に関する規制を策定し、実施する任務を担っており、職員数は約6,000人である。

■ 「企業緊急対応チーム」(Company Emergency Response Team: CERT)は、シンガポールの企業で異常事態が発生した際に適切な対応が行なうことができるように設立されたもので、 これをまとめる団体がA-CERT(Association of Company Emergency Response Teams (Singapore):シンガポール企業緊急対応チーム協会である。A-CERTには企業会員のほか、個人会員も参画できるようになっている。2005年、石油および可燃性物質の防火に関する法律が制定されたことから設立されたものであるが、この背景には公設消防が来る前の企業による緊急対応能力を促進させようとするもので、SCDFが強力に推進し、CERTの訓練や教育を支援している。 A-CERTは、つぎのような教育(資料)を公表している。

■ 発災タンクは、多くの報道が燃料油のタンクということだけを報じていたが、断片的な情報をつなぎ合わせて、容量40,000KLの重油(バンカー重油)の貯蔵タンク(タンクNo.454)とした。しかし、発災写真などの情報とグーグルマップを突き合わせても、タンク施設内における場所の特定はできなかった。容量から推測すると、直径約50m×高さ約20mクラスと思われる。タンク型式は固定屋根式と見られるが、プーラウ・ブシング・ターミナルではアルミニウム式ドームを多く採用しているとみられるので、当該タンクもアルミニウム式ドームではないかと思われる。

■  A-CERTの「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」では、つぎのように述べている。
  ● 消火泡は、NFPA11によれば、火災面積当たり4.1 L/min/㎡、フォームダムでは12.2 L/min/㎡を基本とする。
  ● 移動型泡モニターでは、泡の自然消滅、火炎の上昇気流、風によって供給量の25%がロスするとみておく。
  ● 泡放射はフットプリント法による。
  ● 冷却水は、NFPAによれば6.5 L/min/㎡を基本とする。
 今回のタンク火災は浮き屋根式の全面火災ではないので、一概に比較できないが、あえて適用してみれば、直径50mのタンクでは、放射能力7,850L/min以上の泡モニターを要することになる。一方、日本の法令では、直径50mのタンクの場合、放射能力20,000L/minの大容量泡放射砲を必要とする。実際には、放射能力22,700L/minの大容量泡放射砲が2台使用されている。


所 感
■ 今回の事故原因は、調査中となっているが、落雷によるものと思われる。重油タンクにおいて落雷によるタンク火災の起こる可能性は低いが、これまでもアスファルトタンクやディーゼル燃料タンクにおいて軽質分が混入したことによるタンク爆発・火災の起った例があり、今回も類似事例ではないかと思われる。タンクの液位上下や気温の上下でタンク内の気相部に空気が入り、爆発混合気になっていたのではないだろうか。このため、ドーム式屋根の一部を破壊するような爆発的な燃焼が起こり、全面火災に近い状況になったものと思う。

■ シンガポール市民防衛庁(SCDF)や企業緊急対応チーム(CERT)は、石油貯蔵タンク火災の消火戦略を確立させているだけに、対応は基本どおり行われた思われる。しかし、タンク屋根が内部に落下して「障害物あり全面火災」になったとみられ、また、消防車両や消防資機材を本島からフェリーで輸送する必要があり、最初の体制づくりに時間がかかったものと思われる。初期活動では、防御的消火戦略がとられ、火災の拡大防止のために隣接タンクの冷却を主体とした消火戦術がとられたものと思う。

 予想を越える火災の激しさによって、通常の消防車両での積極的消火戦略(戦術)が難航し、大容量泡放射砲システムを使用するという判断が行われたものと思われる。しかし、大容量泡放射砲システムの資機材の輸送やすでに配備されている消防車両との配置変更など実際の配備までに時間がかかったと思われる。6時間の消火活動といわれているが、大容量泡放射砲による消火活動を開始してからは、一般に、泡消火剤投入後、火勢が急激に衰える時間である「ノックダウン時間」は30分以内ではなかっただろうか。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 
    ・Reuters.com,  Fire Extinguished at Fuel Oil Storage Tank in Singapore,  March  21,  2018
    ・Channelnewsasia.com, Pulau Busing Oil Storage Tank Fire Extinguished after ‘Massive Operation’,  March  21,  2018 
    ・Straitstimes.com,  SCDF Puts out Oil Storage Tank Fire on Pulau Busing after ‘Intense' 6-hour Battle,  March  21,  2018  
    ・Straitstimes.com,   Oil Storage Tank Fire Put out in 6 hours,  March  22,  2018
    ・Heavyliftnews.com , Raging Fire at Singapore’s Oil Storage Tank Put Out,  March  22,  2018
    ・Themalaysianinsight.com , Oil Storage Tank Fire on Singapore Island Extinguished,  March  21,  2018
    ・Mothership.sg,  Singaporeans Pay Tribute to SCDF Servicemen Who Battled Towering Inferno at Pulau Busing ,  March  21,  2018
    ・Platts.com, No Major Impact Expected on Singapore Fuel Oil Market after Tankstore fire,  March  21,  2018
    ・Firedirect.net,  Singapore – Pulau Busing Oil Storage Tank Fire Extinguished After ‘massive operation’: SCDF,  March  26,  2018 



後 記: シンガポールは情報公開に積極的な国だと思っています。今回の事故でも、シンガポール市民防衛庁(SCDF)による消防活動状況の写真が数多く公表されています。ただ、夜の火災だったためか、タンク所有者(タンクストア社)側からの発災タンクに関する情報が乏しいと感じました。
 今回の事例では、日本にとって参考にしたいことが多々あるように思います。重油用の固定屋根式タンクでの全面火災に至った背景(日本では、想定されていない)や大容量泡放射砲システムの資機材の輸送や現地での配備に関する問題の有無などです。所感では問題提起の観点から類推して書いてみました。これらはシンガポールでも課題だったと思っているでしょうから、情報が公開されることを期待したいですね。

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